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平成19年(行ケ)第10184号審決取消請求事件
平成19年10月31日判決言渡,平成19年9月12日口頭弁論終結
判決
X原告
被告新光証券株式会社
訴訟代理人弁護士田中克郎,鳥海哲郎
訴訟代理人弁理士廣中健,阪田至彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−89089号事件について平成19年4月17日にした
審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,「新光みずほ証券」の文字を標準文字で書してなり,指定役務を別紙1
のとおりとする商標登録第4488190号商標(平成11年12月27日商標登
録出願,平成13年7月6日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者で
ある。
原告は,平成18年7月5日,被告を被請求人として,別紙1の指定役務のうち
別紙2の指定役務について,本件商標の商標登録を無効とすることについて審判を
請求した。特許庁は,同請求を無効2006−89089号事件として審理した結
果,平成19年4月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,
その謄本は,同月27日,原告に送達された。
2審決の理由
審決は,別紙審決のとおり,本件商標は,その指定役務中,原告(請求人)の主
張に係る指定役務について,商標法4条1項11号,同項15号,同法8条1項に
違反して登録されたものではないから,同法46条1項の規定によりその登録を無
効とすることはできないとした。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,本件商標が原告の有する商標に類似しないと誤って判断し(取消事由
1),商標法4条1項11号,同項15号,同法8条1項に該当しないと誤って判
断し(取消事由2ないし4),その結果,本件商標の登録を無効とすることができ
ないとしたものであり,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(類否判断の誤り)
()審決は,本件商標と,「みずほねっと」の文字を標準文字で書してなり,1
指定役務を別紙3のとおりとする商標登録第4246220号商標(平成9年5月
26日出願,平成11年3月5日設定登録。以下「引用商標」という。)は,称呼,
外観,観念のいずれも非類似の商標としたが,誤りである。
()本件商標の「新光みずほ証券」の「証券」の部分は証券業を表す語といえ,2
また,「新光」,「みずほ」,「証券」の各語を結合させた結合商標であって,
「新光みずほ」の5文字は常に一体の語として掌握すべき語でなく,「新光」と
「みずほ」の二つの部分に自他役務識別機能がある。他方,引用商標の「みずほね
っと」の「ねっと」の部分は,引用商標の指定役務の取引者,需要者からすると,
インターネット(電子計算機網)やインターネットプロバイダ(電気通信事業者)
を表す語といえ,「みずほ」の部分に自他役務識別機能がある。すなわち,「出所
について混同を生ずるおそれ」の対象とされる取引者,需要者は,インターネット
を楽しんで,電子メールをしたり,ホームページを利用する人であり,引用商標で
は,「(インターネット)プロバイダによるインターネットへの接続サービス」に
加え,「広告や商品の販売に関する情報の提供」をするのであり,取引者,需要者
は,「広告や商品の販売に関する情報の提供」をインターネットでするとか,電子
メールやホームページですると連想し,「みずほねっと」の「ねっと(Net)」
は,「インターネット」とか,インターネットの略称として一般に使われている
「ネット」のことであると普通に連想する。また,「みずほ」の語は,日本人にと
ってなじみのない語ではない。
したがって,「新光みずほ証券」と「みずほねっと」の両商標は,「みずほ」の
語を構成中に共に有する商標であって,その構成文字である「みずほ」の部分に自
他役務識別機能を有する商標であり,文字構成が異なっているからといって,非類
似とすることはできない。また,商標の称呼の類似に当たっても,常に商標全体の
称呼から商標の類否を判断すべきではなく,商標中の自他役務識別部分も考慮すべ
きである。そして,観念について,引用商標である「みずほねっと」に接した引用
商標の指定役務の取引者,需要者は,「みずほねっと」の「ねっと」の部分からは,
インターネット(電子計算機網)やインターネットプロバイダ(電気通信事業者)
の観念が生じ,前半部分から「瑞穂(瑞々しい稲の穂)」の観念が生じ得る。引用
商標の「みずほねっと」は,「みずほ(瑞穂)」と「ネット(NET」)の二つの
語を結合させた造語であり,これを「みずほねっと(MizuhoNet)」と
することによって,「瑞穂(瑞々しい稲の穂)」の観念も「ネットワーク,インタ
ーネット」の観念も喪失するということはない。他方,被告が関係を有するであろ
う企業グループが統一して使用している「金融業」における著名商標である,「M
IZUHO」,「みずほ」は,企業グループを表象するものであり,その旨の観念
が生じ,また,その構成文字に相応して「瑞穂(瑞々しい稲の穂)」の観念も生じ
る。
商標の類否の判断に当たっては,商標を構成する文字等の全体を観察対象にする
とともに,その構成中の自他役務識別部分をも観察対象とすべきであり,常に商標
を構成する文字等の全体のみを観察対象とすることは誤りである。「みずほねっ
と」を構成する後半の「ねっと(ネット,Net)」の部分は,自他役務の識別標
識としての機能がないか,あっても希薄な語であり,また,役務提供場所表示・役
務提供方法表示として形容詞的に事業者で広くつかわれている語であるから,「み
ずほねっと」との商標の類否の判断に際しては,常に一連一体のものととらえるこ
とにこだわるべきではなく,本件商標の「みずほねっと」は,後半の「ねっと(ネ
ット,Net)」の部分ではなく,前半の「みずほ(Mizuho)」の部分に自
他役務識別機能がある。
金融の役務で著名な商標では,「MIZUHO(みずほ)」の登録商標を株式会
社みずほフィナンシャルグループが有し,株式会社みずほ銀行が商標「みずほ銀行
(MIZUHOBANK)」を使用し,株式会社みずほ証券が商標「みずほ証券
(MIZUHOSECURITIES)」を使用しているが,これらの商標の自
他役務識別部分は,構成文字の前半部分である「みずほ(MIZUHO)」の部分
にある。電気通信事業やインターネットで広告や商品の販売情報提供を行う役務に
おいて,「みずほねっと(MIZUHONET)」との商標の自他役務識別部分
が「みずほ(MIZUHO)」の部分にあるとの主張が否定されることはない。
()審決は,引用商標を「みずほねっと」の平仮名文字を同書,同大,同間隔3
に一連に書してなるものであるとして,引用商標を平仮名に限定してとらえている。
しかし,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更することは,日
本では社会通念・文化といえる。「みずほねっと」の使用に際し,「MIZUHO
NET」,「MizuhoNet」というローマ字表示をした商標で使用する
ことは,商標法50条における「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互
に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」といえるものであり,
平仮名表示のみならず,片仮名,ローマ字の文字での表示についても,商標の類否
の判断において,考慮されるべきである。
特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編の解説(乙1)においては,商
標法50条1項につき,「第1項の括弧書きの改正は,不使用による商標登録の取
消審判についての規定の適用にあっては,登録商標の使用の範囲を拡大して社会通
念上同一と認められるものを含ませることを明確にしたものである。この括弧書き
は第50条についての解釈規定であり,他の規定における『登録商標』の範囲につ
いても一律に拡大させる一般規定ではない。」とされていて,社会通念の存在を認
めつつも,法50条を除いて,その社会通念を考慮しないという不思議な運用をし
ている。しかし,この条項は,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に
変更することがあるという日本の社会通念,文化を考慮して,これを明示したもの
であるから,商標の類否の判断に際しても,このような社会通念の存在を否定すべ
きではない。
そして,本件商標の出願時及び査定時において,引用商標が未使用商標であると
特許庁及び被告は認めていて,未使用商標についての商標法50条1項の商標の表
示に関する規定の存在にもかからわらず,商標の類否の判断について,平仮名表現
に限定するのは失当である。
()被告は,引用商標は,「みずほねっと」の平仮名文字を標準文字にて同書,4
同大,同間隔に書してなり,まとまりよく一体不可分に構成されていて,引用商標
から生じる「ミズホネット」の称呼は,無理なく一気に称呼し得る短いものである
旨主張する。
しかし,引用商標は,仮名で構成される商標であるから,スペース等による分離
箇所を設けないことは普通であり,また,標準文字からなる商標について,使用に
当たって,その構成される文字すべてを「同じ書体」,「同じ大きさ」,「同じ
色」で統一しなくてよいのなら,引用商標の前半の「みずほ」の部分と後半の「ね
っと」の部分で書体,大きさ,色に変化をつけることができ,「同書同大」だから,
外観上一体的に表現されているということにはならない。また,引用商標は,3文
字と3文字の語を合わせて6文字の語としたものであるから,外観(視覚)上もま
とまりよく,称呼上も短いから,一気一連に称呼され得るのは,当然である。
(5)平成9年4月,原告は,ドメイン名として「mizuho.net」を取
得した。そして,この称呼「ミズホネット」を平仮名表示した「みずほねっと」を
平成9年5月に商標登録出願した。
インターネットではドメイン名が使用され,広告や商品の販売に関する情報の提
供を行うホームページや電子メールも,ほとんどがドメイン名に依存しているから,
インターネットで用いられる商標の類否の判断に当たっては,ドメイン名のことを
考慮すべきである。
「みずほねっと」はドメイン名でなく,「mizuho.net」が引用商標
「みずほねっと」に最も類似するドメイン名に当たる。この「mizuho.ne
t」を使用するに当たって,本件商標を含む5つの登録商標との関係で,「miz
uho.net」の商標登録出願について拒絶の理由となり得る危惧や「mizu
ho.net」の使用が商標法や不正競争防止法違反となり得る危惧があった。そ
して,引用商標の指定役務がインターネットでされることは推測でき,インターネ
ットにおいてはドメイン名の使用が当たり前であるから,5つの登録商標の少なく
とも一つと,ドメイン名商標が出所について混同を生ずるおそれがあるのであれば,
引用商標の使用に際して大きな制約となる。
登録商標とドメイン名標章の関係が,商標法4条1項11号の範疇ではないとし
ても,同項15号において考慮されるべきである。
2取消事由2(商標法4条1項11号の該当性判断の誤り)
()審決は,本件商標が,商標法4条1項11号に該当しないと判断したが,1
誤りである。
()本件商標の指定役務には,「広告」,「商品の販売に関する情報の提供」2
の役務に類似する役務が含まれており,その部分が商標法4条1項11号の「類似
役務」に該当する。そして,本件商標と引用商標は,「みずほ」の部分に自他役務
識別機能を有する商標であり,本件商標は,「類似の商標」,「商品・役務の出所
について混同を生じるおそれのある商標」に該当するので,本件商標の指定役務の
うち引用商標の類似役務に当たるものについて,商標法4条1項11号に該当する。
なお,引用商標の指定役務は,第35類では,広告・商品の販売に関する情報の
提供となっていて,いわゆる類似群では35A01・35B01となっている。審
決では,類似の役務の範囲をどこまでととらえたのか,いわゆる投資銀行の役務も
含めて判断したのかが不明である。商標を構成する一部の文字に役務の内容(役務
の名称)が表記されているかにより,商標の類否の判断結果が変わることもある。
3取消事由3(商標法4条1項15号の該当性判断の誤り)
()審決は,本件商標が,商標法4条1項15号に該当しないと判断したが,1
誤りである。
()被告は,同号は,原告が引用商標を何らかの業務について使用しているこ2
とが前提である旨主張するが,原告による使用は必ずしも必要ではなく,被告の主
張は失当である。
原告は引用商標の使用をしていないし,引用商標は著名・周知ではないから,取
引者,需要者にとっては,順番として,まず被告の本件商標に接し,次いで原告の
引用商標に接する可能性があり,そうすると,引用商標は著名・周知ではないので,
引用商標の出所について,被告又は被告が関係を有するであろう企業グループのと
経済的・組織的に何らかの関係を有する者であると誤認されるおそれが生じてしま
う。
また,取引の実情にかんがみ,本規定は,ドメイン名が重要な役割を果たしてい
るインターネットでの取引の実態を考慮した商標法の運用をするために用いるべき
規定である。
4取消事由4(商標法8条1項該当性判断の誤り)
()審決は,本件商標が,商標法8条1項に該当しないと判断したが,誤りで1
ある。
()本件商標の指定役務の一部は引用商標の指定役務と類似するものであり,2
引用商標は本件商標より先に出願されたものなので,本件商標は,商標法8条1項
の該当性がある。そして,本件商標は引用商標と類似するといえるものであるから,
本件商標は商標法8条1項に該当するのであり,引用商標の指定役務と類似である
役務について無効とされるべきである。
第4被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(類否判断の誤り)に対して
()原告は,本件商標と引用商標が類似する旨主張するが,失当である。1
本件商標の構成及び本件商標から生じる称呼並びに観念について,本件商標は,
「新光みずほ証券」の文字を標準文字にて同書,同大,同間隔で書してなるから,
外観上まとまりよく一体として看取され,また,その構成文字に照応して「シンコ
ウミズホショウケン」の称呼が自然に生じるほか,被告の証券会社の名称としての
観念が生じる。これに対し,引用商標は,その構成上一体不可分であり,その構成
文字に照応して「ミズホネット」の称呼を生じるが,引用商標から「ミズホ」の称
呼や「瑞々しい稲の穂」の観念が生じることはない。
この点,原告は,引用商標を「みずほ」と「ねっと」に分離し,「ねっと」の部
分の自他役務識別機能を否定して,「みずほ」が自他役務識別機能を発揮する部分
であるとし,「みずほ」の部分が共通することを理由に,本件商標は,外観,称呼,
観念のいずれの判断要素においても,引用商標に類似する旨主張する。
しかし,商標の類否を考察するに際しては,原則として,商標の全体を一体のも
のとして観察することが前提であり,合理的な理由なくその一部を切り離し,抽出
して観察することは誤りである。また,一個の商標から二つ以上の称呼,観念が生
ずることが許されるかどうかは,当該商標の各構成部分がそれを分離して観察する
ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているか否かによって
決せられるべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻
12号1621頁)。引用商標は,「みずほねっと」の平仮名文字を標準文字にて
同書,同大,同間隔に書してなり,まとまりよく一体不可分に構成されているので
あるから,これをことさら「みずほ」の文字部分と「ねっと」の文字部分に分離し
て観察すべき理由はない。そして,引用商標から生じる「ミズホネット」の称呼は,
無理なく一気に称呼し得る短いものである。また,引用商標「みずほねっと」は,
「ミズホネット」の称呼のみを生ずる造語よりなるものであり,本件商標と比較す
べき観念は生じない。そして,引用商標はその構成から一体不可分で,全体として
一つの造語よりなり,引用商標に接した取引者,需要者が,引用商標から「瑞々し
い稲の穂」と「インターネット」や「(電子計算機や通信機器の)ネットワーク」
という二つの独立した観念を知覚することはなく,引用商標から本件商標と比較す
べき特定の観念が生じることはない。引用商標は,まとまりよく一体不可分に構成
されているものであり,外観上,取引者,需要者が「みずほ」の部分のみに着目す
るという理由もない。
()原告は,引用商標の後半部分の「ねっと」の文字からネットワーク,イン2
ターネット(電子計算機網)及びインターネットプロバイダ(電気通信事業者)の
観念が生じ得る旨主張するが,失当である。
日本の国民の大部分は,一般に,外来語は片仮名文字で表記されると認識して
いて,平仮名で記載された「ねっと」の文字に接したとき,外来語であるインター
ネットの「ネット」やネットワークの「ネット」の意義を把握することがないこと
は経験則として明らかである。まして,引用商標にあっては,外観及び称呼上の強
い一体性と相まって,「みずほねっと」の6文字が一体不可分に結合して全体とし
て一つの造語を構成するものであると認識されるのであり,「みずほ」と「ねっ
と」が分離され,後半部分の「ねっと」からネットワーク,インターネット,イン
ターネットプロバイダ等の観念が生じるものではない。引用商標のうち,「ねっ
と」の文字は特定の意義を有さず,単に「みずほねっと」という造語の一部を形成
する文字として認識される。
()原告は,商標法50条1項の「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示3
を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」との規定を挙げ
るなどして,商標の類否の判断においては,平仮名表示のみならず,片仮名,ロー
マ字での表示についても考慮すべきである旨主張するが,失当である。
商標法50条1項括弧書きが同条同項の「登録商標」に「平仮名,片仮名及びロ
ーマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生じる商
標」を含めると規定している趣旨は,平成8年の法改正において連合商標制度を廃
止したことに伴って,過剰な防衛出願が増加することを抑制し,同法改正の眼目の
一つであった審理の迅速化と早期権利付与を実現するため,不使用取消審判におい
て,現実に使用されている商標が登録商標の使用であると認識できるか否かを判断
する局面においては,登録商標の使用と認める範囲を社会通念上同一と認識し得る
範囲に拡大することにある。同条同項括弧書きにおいて,「以下この条において同
じ。」と規定されているとおり,商標法50条1項の括弧書きは同条のみについて
の解釈規定であり,他の規定における登録商標の範囲について一律に拡大させる一
般規定ではないことは,法文上明らかである。
原告は,商標法50条1項の誤った解釈に基づいて文字種の転換を正当化し,
「ねっと」,「ネット」及び「Net」の文字を同列に論じているものであり,前
提において誤っている。
()特許庁における商標登録例(甲5ないし19〔各枝番を含む。〕)は,平4
仮名文字の「ねっと」が,商品の品質や役務の提供場所,提供方法等を表示したり,
形容詞的文字として認識されてはおらず,「ねっと」を含む商標全体が一体不可分
の造語として認識され,上記の「ねっと」の平仮名文字を除いた部分から生じる称
呼が同一である他の商標とは,識別可能なものとして認識されることを示している。
また,裁判例(甲4)において,「Xライン」という商標からは「エックスライ
ン」の称呼のみが生じて「ライン」の称呼は独立して生じないとされたが,「みず
ほねっと」は,「Xライン」と同等又はそれ以上に,全体として一種の造語的な性
格をもっているものと認識されるので,「みずほねっと」からは「みずほねっと」
の称呼のみが生じ,「みずほ」あるいは「ねっと」単独の称呼が生じることはない。
また,特許庁における異議決定及び審決(乙2ないし6)において,「ネット」,
「Net」又は「ねっと」を末尾に含む商標と,これら「ネット」等を除いた部分
から生じる称呼が同一である他の商標との類否について,(a)商標が外観上まと
まりよく一体に表示されており,(b)全体から生じる称呼が冗長でなく,よどみ
なく一連に称呼し得るものである場合には,たとえ構成中に「Net」,「NE
T」または「ネット」の文字が含まれているとしても,構成全体をもって特定の観
念を生じない一体不可分の造語として認識し,把握されるとみるのが自然であると
されていて,「ネット」,「Net」及び「ねっと」は,造語的な性格の強い語で
あり,他の語と結合した場合に別意の新たな語を形成しやすい性格が強い。そして,
上記の異議決定例及び審決例に係る商標が,いずれも「ネット」,「Net」又は
「NET」と片仮名又は欧文字で表記されているのとは異なり,引用商標は,その
構成文字のすべてが平仮名をもって構成されていることから,上記の異議決定例及
び審決例の対象とされた商標と比較すると,外来語である「ネット(Net)」の
語をより想起させ難いものであり,かつ,文字種が統一されていることによって一
層強い一体感を認識させる構成である。また,これらの異議決定(乙2,4,5)
は,いずれも「NET」,「.NET」及び「ネット」の部分から,ネットワーク
の観念,ドメイン名としての意味合いやインターネット等の観念は生じないと判断
している。
()原告は,引用商標の採択の背景について,引用商標の出願に先立ちドメイ5
ン名として「mizuho.net」を取得した旨やその称呼を平仮名表示したも
のを登録出願した旨述べるが,そのような主観的な事情は取引者,需要者が引用商
標に接した際に客観的に看取,感得する印象や観念を左右するものではなく,商標
の類否判断において参酌されるべきではない。また,原告は,ドメイン名の存在
を商標の類否判断において考慮すべき理由を種々主張するが,審決の取消事由
との関連性を欠くものであって,失当である
2取消事由2(商標法4条1項11号の該当性判断の誤り)
原告は,本件商標と引用商標は,「みずほ」の部分に自他役務識別機能を有する
商標であり,商標法第4条1項11号の「類似の商標」に該当するから,本件商標
の指定役務のうち引用商標の類似役務に当たるものについて,商標法4条1項11
号に該当する旨主張するが,失当である。
本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標は,商標法4条1項
11号の規定に違反して登録されたものではない。
3取消事由3(商標法4条1項15号の該当性判断の誤り)に対して
原告は,商標法4条1項15号に該当するためには,引用商標の使用は必ずしも
必要ない旨主張するが,失当である。
商標法4条1項15号は,具体的出所の混同,すなわち,「商標等(氏名,商号,
表装等を含む)(A)を使用した商品(サービス)(X)が現実に市場に流通し又
は提供されている場合において,商標(B)を使用する商品(サービス)(Y)が
市場に流通し提供されるものとすれば,商標等(A)や商品(サービス)(X)又
は(Y)等の市場における具体的な事情に基づいて判断した場合に,それらの商品
の取引者,需要者又はサービスの提供を受ける者が商品(サービス)(X)も
(Y)も同じ業者により生産販売され提供されたものであると認識するおそれがあ
るような場合を生じさせる商標の登録を排除するものである。商標法4条1項15
号の適用に当たっては,「具体的出所の混同」,すなわち,商標が現実に使用され
た場合に出所の混同が生じるか否かが問われるのであるから,同号にいう「他人の
業務」とは,文理上,出願商標について登録の可否を判断する際に現存するものか,
少なくとも過去において存在したものでなければならないことは明らかである。
本件においては,被告が本件商標を使用した場合に,「他人の業務にかかる商品
又は役務と混同を生ずるおそれ」があるか否かが問題となり,ここで,「他人」と
は,原告のことであるところ,原告の業務が存在しないということは,出所混同の
対象が存在しないのであるから,原告の業務との間で現実に出所の混同が生じるこ
ともあり得ない。
4取消事由4(商標法8条1項の該当性判断の誤り)に対して
原告は,本件商標が商標法8条1項に該当する旨主張するが,前記1のとおり,
本件商標と引用商標は非類似の商標であるから,本件商標が商標法8条1項に該当
することはあり得ない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(商標の類否判断の誤り)について
()審決は,「本件商標と引用商標とは,その指定役務において抵触するとこ1
ろがあるとしても,その称呼,外観及び観念のいずれかの点からみても,非類似の
商標といわなければならない。」(審決謄本9頁第5段落)と判断したのに対し,
原告は,審決の判断が誤りである旨主張する。
()本件商標は,「新光みずほ証券」の文字を標準文字で表してなるものであ2
る。本件商標は,証券会社を表すことが明らかである「証券」の部分を有すること
からも,「新光みずほ」との名称の証券会社を表すものとの観念が生じ,また,
「シンコウミズホショウケン」との称呼を生じるものである。
他方,引用商標は,「みずほねっと」の文字を標準文字で表してなるものであり,
平仮名からなる造語である。
もっとも,引用商標の構成文字中,「みずほ」には,「みずみずしい稲の穂」
(広辞苑第5版)との意味がある。そして,引用商標は,第35類の「広告,商品
の販売に関する情報の提供」や第38類の「電気計算機端末による通信ネットワー
クへの接続の提供」を指定役務とするものであって,引用商標がそれらの指定役務
に使用される場合には,広告,商品の販売に関する情報の提供が,通信ネットワー
クを通じてされることもあったり,人などのつながり(ネットワーク)を通じてさ
れることもあったりすること,通信ネットワークや通信ネットワークをネットと略
称したり,インターネットを特にネットと略称することがあることなどから,引用
商標の「ねっと」の部分については,ネットワークやインターネットの略称との観
念を生じることが全くないとはいえない。
しかしながら,引用商標の「ねっと」の部分について,上記のような観念が生じ
ることが全くないとはいえないとしても,そのことにより,直ちに,原告主張のよ
うに,引用商標において,「ねっと」の部分が自他識別力がないとか希薄な部分と
なり,「みずほ」の部分が自他識別力がある部分になるとは認められない。引用商
標は,「みずほねっと」という6文字の平仮名を同書,同大,同間隔に書してなる
という構成である。「ねっと」の語が一義的に何らかの役務の性質等を示すものと
はいえないこと,引用商標において,「ねっと」の部分は他の構成部分と構成上も
区別がなく,「ねっと」の部分につき,何らかの役務の性質等を示す部分であると
直ちには区別できるものではないこと,引用商標は,6文字という文字数や上記の
構成から一体のものとしてとらえ得ることからも,引用商標が自他役務の識別機能
を果たす際には,構成全体が,一体のものとして結合して自他識別機能を果たして
いると認めることが相当である。
そうすると,引用商標は,「みずほねっと」との引用商標の構成全体が,一体の
ものとして結合して,自他識別機能を果たしているものであり,その称呼は,「ミ
ズホネット」というものであり,取引者,需要者は,これを一体の造語としてとら
えるものである。
したがって,本件商標と引用商標は,外観,称呼,観念が異なることは明らかで
あり,その自他識別機能を果たす部分も異なるものであって,その役務の主体につ
き誤認混同を生ずるおそれはないといえるのであるから,本件商標と引用商標は,
類似しない商標である。
()原告は,引用商標の「みずほねっと」の「ねっと」の部分は,引用商標の3
指定役務の取引者,需要者の視点からすると,インターネット(電子計算機網)や
インターネットプロバイダ(電気通信事業者)を表す語といえ,引用商標は,「み
ずほ」の部分に自他役務識別機能がある旨主張し,審決の商標の類否判断が誤りで
ある旨主張する。
しかし,引用商標の構成に照らせば,引用商標は,「みずほねっと」との引用商
標の構成全体が,一体のものとして結合して,自他識別機能を果たしているもので
あり,引用商標の指定役務,その取引者,需要者の視点を考慮しても,原告の主張
を採用できないことは,上記()のとおりである。原告の主張中には,株式会社み2
ずほ銀行や株式会社みずほ証券が有する商標を挙げて,「みずほ」の部分が自他役
務識別部分であるとする部分もあるが,引用商標とは異なる構成等を有する商標を
挙げるものであり,原告主張は採用の限りではない。
また,原告は,引用商標について,平仮名表示のみならず,片仮名,ローマ字の
での表示についても,商標の類否の判断において,考慮されるべきであると主張し,
社会通念,文化や,商標法50条1項の規定を挙げる。
しかし,商標法4条1項11号にいう「他人の登録商標」の範囲は,願書に記載
した商標(同法27条1項)に基づくものである。また,同法8条の「商標」は,
願書に記載した商標(同法5条1項)をいい,これらの商標について,商標の不使
用に基づく取消審判請求についての同法50条1項括弧書きは適用されない。原告
は,社会通念等の存在をいうが,上記の明文に反するものであり,また,社会通念
上,引用商標につき,「ねっと」の部分について,「ネット」,「net」などか
ら想起される観念を生じさせることがないとはいえないとしても,そのことにより
本件商標と引用商標が類似するとはいえないことは,上記()のとおりである。2
さらに,原告は,「mizuho.net」というドメインを取得しているとし
て,商標法の類否判断において,ドメイン名のことを考慮すべきであるとか,ドメ
イン名標章は商標法4条1項11号でなくとも,同項15号において問題となる旨
主張する。
しかし,原告が何らかのドメインを取得したとしても,本件商標と引用商標の類
否判断において,引用商標とは別個の,上記ドメインの取得は,無関係というほか
ない。原告が「mizuho.net」という商標を問題とするのであれば,引用
商標とは別個の上記構成を有する商標が本件とは別に問題となるにすぎない。また,
ドメイン名標章について,商標法4条1項15号において考慮されるべきであると
する原告の主張が,何らかの取引の実情をいうものとしても,本件においては,後
記3のとおり,本件商標は,引用商標を使用していない原告の業務に係る役務と混
同を生ずるおそれはないのであるから,本件商標が商標法4条1項15号に該当す
ることはなく,同号該当性に係る原告の主張はその余を判断するまでもなく理由が
ない。
その他,本件商標と引用商標が類似する旨の原告主張は,上記説示に照らし採用
できない。
()以上によれば,本件商標と引用商標は類似する商標ではなく,これと同旨4
の審決に誤りはない。
2取消事由2(商標法4条1項11号の該当性判断の誤り)及び取消事由4
(同法8条1項該当性判断の誤り)について
原告は,本件商標が商標法4条1項11号に該当し,また,同法8条1項に該当
する旨主張する。
しかし,前記1のとおり,本件商標と引用商標は類似しないのであるから,その
余を判断するまでもなく,本件商標は,商標法4条1項11号に該当することもな
いし,同法8条1項に該当することもないから,審決の判断は正当であり,原告の
主張は採用できない。
3取消事由3(商標法4条1項15号の該当性判断の誤り)について
原告は,本件商標が商標法4条1項15号に該当する旨主張する。
ここで,原告は,引用商標を使用していないと認めているところ,同商標を使用
して業務を行っていないのであるし,引用商標が著名であるとは認められず,本件
商標の使用によって,原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれはなく,本件商
標が商標法4条1項15号に該当することはない。
原告は,本件商標の商標権者である被告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれ
があれば,商標法4条1項15号に該当する旨主張するが,同号の「他人」は,同
号の該当性が問題となる商標の出願人(本件の被告)を指すものでないことは明ら
かで,独自の見解であり採用できない。
したがって,審決の判断は正当であり,原告の取消事由は理由がない。
4よって,原告の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官塚原朋一
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明
(別紙1)
第35類経営の診断及び指導,企業経営に関するコンサルティング,その他経
営に関するコンサルティング,企業経営に関する情報の提供,企業の経営に関する
調査及び研究,企業の合併及び企業の技術・販売・製造・資本などの提携に関する
斡旋,企業の買収・合併及び提携に関する情報の提供,企業の動向に関する調査・
分析,経済に関する調査・分析,市場調査,市場調査の結果の分析,事業開発・事
業戦略に関する助言,市場及び販売戦略に関する助言,商品の販売に関する情報の
提供,経済情報の提供,一般事務処理の代行,企業情報の提供,経済予測,経済・
経営に関する情報の提供,経済動向に関する調査研究,広告,トレーディングスタ
ンプの発行,ホテル事業の管理,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事
務の代理又は代行,新聞の予約講読の取次ぎ,書類の複製,速記,筆耕,電子計算
機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,文書又は
磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸
与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与,商品展示会及び商品見
本市の企画・運営又は開催,商品の販売促進・役務の提供促進のための展示会及び
見本市の企画・運営又は開催
(別紙2)
経営の診断及び指導,企業経営に関するコンサルティング,その他経営に関する
コンサルティング,企業経営に関する情報の提供,企業の経営に関する調査及び研
究,企業の合併及び企業の技術・販売・製造・資本などの提携に関する斡旋,企業
の買収・合併及び提携に関する情報の提供,企業の動向に関する調査・分析,経済
に関する調査・分析,市場調査,市場調査の結果の分析,事業開発・事業戦略に関
する助言,商品の販売に関する情報の提供,経済情報の提供,企業情報の提供,経
済予測,経済・経営に関する情報の提供,経済動向に関する情報の提供,広告,ホ
テルの事業の管理,広告用具の貸与,商品展示会及び商品見本市の企画・運営又は
開催,商品の販売促進のための展示会及び見本市の企画・運営又は開催,トレーデ
ィングスタンプの発行,競売の運営
(別紙3)
第35類広告,商品の販売に関する情報の提供
第38類電気計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供

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