弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人北村晴男,同加藤信之,同越谷哲成,同佐野周造,同熊谷祐一郎,同
寒川智美,同高辻庸子の上告受理申立て理由について
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,上告人との間で,昭和53年8月1日,下記内容の集団扱定
期保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し,昭和63年8月1日,こ
れを更新した。
           記
  ア 保険の種類   集団扱定期保険契約
  イ 被保険者    乙
  ウ 保険金受取人  被上告人
  エ 保険期間    契約日から10年間
  オ 死亡保険金   普通死亡のとき7000万円,災害による死亡のとき1
億2000万円
  カ 免責条項    被保険者が,保険契約者又は保険金受取人の故意により
死亡した場合には,上告人は死亡保険金を支払わない(以下「本件免責条項」とい
う。)。
 (2) 乙の妻である丙は,乙の女性関係に悩んでいたが,平成9年9月16日深
夜から翌17日未明にかけて,自宅において,故意に乙の頭部を殴打し,乙は,頭
部打撲による脳挫傷で死亡した(以下「本件事故」という。)。なお,丙は,乙を
死亡させた直後に自殺した。
 (3) 被上告人は,昭和44年に設立され,乙が一代で築き上げた,公共工事を
中心とする土木建築業を行う会社であり,本件事故当時は有限会社であったが,そ
の後株式会社に組織変更した。被上告人の取締役は,本件事故当時,乙,丙,両名
の長男である丁及び乙の弟であるDの4名であった。被上告人は,設立から本件事
故当時まで順調に売上げを伸ばし,平成6年から8年の年間売上高は,3億300
0万円前後であり,従業員は,関連会社を含め,20名から30名程度であった。
 本件事故当時,乙は,被上告人の代表取締役であり,いわばワンマン経営者とし
て,業務のほとんどを支配していた。丙は,被上告人の請負工事の受注や工事の施
工には関与しなかったが,主として従業員の給与計算や社会保険関係の事務を担当
していた。丙は,事務所にある,手形帳,印鑑及び権利証等を保管する金庫の鍵を
乙と2人で所持し,毎日出勤して丙専用の机で上記の事務手続を行い,また,借入
れの切替えを行うために取引銀行と交渉し,手形を振り出したりして資金調達に関
与し,決算の際には乙と税理士事務所に同道するなどしていたが,その役割は,乙
が会社を運営していく上で必要な業務の補助的性質のものであり,経営者としての
立場で業務に関与してはいなかった。なお,丁は,本件事故当時,取締役でありな
がら被上告人の業務にはほとんどかかわらず,家庭電気製品を販売する会社を経営
していたが,乙の死亡に伴い,被上告人の代表取締役に就任した。Dは,被上告人
の現場責任者の地位にあったが,その経営には関与していなかった。
 被上告人における平成8年度の役員報酬の年額は,乙が1140万円,丙が66
0万円,Dが564万円,丁が266万円であった。本件事故当時の被上告人の資
本の総額は1500万円であり,各人の出資額は乙が820万円,丙及びDが各1
60万円,丁が100万円等であった。
 2 本件は,被上告人が本件保険契約に基づき災害死亡保険金の支払を請求する
事案である。上告人は,被上告人の取締役であった丙が乙を故意により死亡させた
ことをもって,本件免責条項に該当すると主張する。
 3 本件免責条項は,商法680条1項2号本文及び3号の規定と同旨のもので
あるところ,いずれもその趣旨は,生命保険契約において,保険契約者又は保険金
受取人が殺人という犯罪行為によって故意に保険事故を招致したときにも保険金を
入手できるとすることは,公益に反し,信義誠実の原則にも反するものであるから
,保険金の支払を制限すべきであるというところにある(最高裁昭和41年(オ)
第933号同42年1月31日第三小法廷判決・民集21巻1号77頁参照)。
 【要旨1】本件免責条項は,保険契約者又は保険金受取人そのものが故意により
保険事故を招致した場合のみならず,公益や信義誠実の原則という本件免責条項の
趣旨に照らして,第三者の故意による保険事故の招致をもって保険契約者又は保険
金受取人の行為と同一のものと評価することができる場合をも含むと解すべきであ
る。したがって,保険契約者又は保険金受取人が会社である場合において,取締役
の故意により被保険者が死亡したときには,会社の規模や構成,保険事故の発生時
における当該取締役の会社における地位や影響力,当該取締役と会社との経済的利
害の共通性ないし当該取締役が保険金を管理又は処分する権限の有無,行為の動機
等の諸事情を総合して,当該取締役が会社を実質的に支配し若しくは事故後直ちに
会社を実質的に支配し得る立場にあり,又は当該取締役が保険金の受領による利益
を直接享受し得る立場にあるなど,本件免責条項の趣旨に照らして,当該取締役の
故意による保険事故の招致をもって会社の行為と同一のものと評価することができ
る場合には,本件免責条項に該当するというべきである。
 これを本件についてみるに,【要旨2】被上告人が,年間売上高が3億3000
万円前後,従業員数が関連会社を含め20名から30名程度の有限会社であること
,乙が被上告人の業務のほとんどを支配しており,丙は,代表権のない取締役であ
り,主として従業員の給与計算や社会保険関係の事務を担当していたものの,その
役割は乙が被上告人を運営していく上で必要な業務の補助的性質のものであり,丙
が経営者としての立場で被上告人の業務に関与してはいなかったこと,丙が乙の女
性関係について悩んでおり,乙を死亡させた直後に自殺していることなど上記事実
関係の下においては,丙が被上告人を実質的に支配し又は事故後直ちに被上告人を
実質的に支配し得る立場にあったということはできず,また,丙が保険金の受領に
よる利益を直接享受し得る立場にあったということもできず,公益や信義誠実の原
則という本件免責条項の趣旨に照らして,丙が個人的動機によって故意に乙を死亡
させた行為をもって被上告人の行為と同一のものと評価することができる場合には
当たらないというべきである。なお,丙が資金調達面の事務に関与するため,金庫
の鍵を所持し,取引銀行と交渉するなどの役割を果たしていたことや,役員報酬の
年額が乙に次ぐものであったことなどの事実を考慮しても,丙の行為をもって被上
告人の行為と同一のものと評価することができる場合に当たるということはできな
い。そうすると,本件免責条項に該当しないとして,被上告人の保険金請求を認容
すべきものとした原審の認定判断は,正当として是認することができる。
 論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独
自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。
 よって,裁判官深澤武久の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文
のとおり判決する。
 裁判官深澤武久の反対意見は,次のとおりである。
 私は,取締役が故意に保険事故を招致した場合に,取締役の当該行為をもって会
社の行為と同一のものと評価することができるときは,本件免責条項に該当すると
の法廷意見の基準に賛成するが,本件事案においては,公益や信義誠実の原則とい
う本件免責条項の趣旨に照らして,丙が故意に乙を死亡させた場合をもって被上告
人の行為と同一のものと評価することができる場合には当たらないとする法廷意見
に賛同することはできない。
 その理由は次のとおりである。
 1 本件免責条項の趣旨は,保険契約者,保険金受取人が被保険者を故意に死亡
させた場合に,保険金の請求を認めることは,公益及び信義誠実の原則に反し,保
険事故の偶然性の要求にも合わないところにある。同族会社の取締役が被保険者で
ある代表者を故意に死亡させた場合の免責条項該当性については,公益,信義誠実
の原則及び保険事故の偶然性の要求を重視して判断されなければならない。
 2 法廷意見の示す基準を公益,信義誠実の原則に照らし,保険事故の偶然性の
要求を考慮して本件にあてはめた場合,丙が乙を故意に死亡させた行為を被上告人
の行為と同一のものと評価することができ,本件免責条項に該当するというべきで
ある。
 (1) 法廷意見が摘示する原審の確定した事実関係によれば,被上告人は,出資
金1500万円(本件事故当時),年間売上金3億3000万円程度の,乙が一代
で築いたワンマン経営の有限会社で,丙は代表権のない取締役であった。このよう
な規模の被上告人において,丙の平成8年度の役員報酬の年額は,乙に次ぐもので
,他の取締役の報酬を超えるものであったこと,丙が被上告人の金庫の鍵を所持し
,借入れについて取引銀行と交渉し,手形を振り出すなど資金調達面を担当し,決
算の際には乙と税理士事務所に同道していた。このようなことからすれば,丙の立
場,役割は,被上告人の業務の補助的性質にとどまるものではなく,丙と被上告人
は,経済的利益の共通性があり,丙が保険金を管理する権限を有しており,また,
保険金受領による利益を直接享受し得る立場にあったものというべきものである。
 (2) さらに,丙は,被上告人の業務に関して,法廷意見の指摘するところに加
えて,従業員等に歳暮を送ったり,自宅でもてなしをしたり,飲食費を肩代わりし
たほか,従業員が乙に叱責された時に間をとりもつなど気配りが行き届き,明朗な
性格とあいまって,従業員からの信頼が厚かったことが,原審において確定されて
いる。取締役である長男丁は,他の会社の代表者をしており,被上告人の業務に関
与していなかった。また,乙死亡により,被上告人の資本の総額における丙の持分
は,仮に法定相続分に従って相続したとすると,570万円となり,38%と社員
の中で最も多い出資割合になることなどに照らすと,丙は,事故後直ちに会社を実
質的に支配し得る立場にあったものと評価することができる(丙は,乙殺害後,自
殺しているが,保険金受取人が被保険者を殺害し,その直後に自殺を遂げ,殺害当
時保険金取得の意図を有しなかったときでも,保険者は,保険金支払の責を免れる
ことは,当審判例の示すところである。前掲最高裁昭和41年(オ)第933号同
42年1月31日第三小法廷判決参照)。
 3 上記のとおり,保険金受取人である被上告人の取締役である丙が代表者であ
る乙を死亡させた本件において,丙が乙の女性関係について悩み,乙を死亡させた
直後に自殺しており,その行為が個人的動機によるものであることを考慮しても,
丙の行為は被上告人の行為と同一のものと評価することができる。被上告人の保険
金請求権を認めることは,公益及び信義誠実の原則に反し,保険事故の偶然性の要
求に適合しないものである。したがって,これを認容した原判決を破棄して被上告
人の請求を棄却すべきである。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田
 顯 裁判官 横尾和子)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛