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平成23年3月2日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第31965号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成22年12月6日
判決
台湾臺北縣新店市<以下略>
原告承鎂源數位科技股份有限公司
同訴訟代理人弁護士鈴木五十三
同山本晋平
同尾野恭史
東京都港区<以下略>
被告ソニー株式会社
同訴訟代理人弁護士内田晴康
同三好豊
同上村哲史
同佐々木奏
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,金20億円及びこれに対する平成20年2月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,台湾法人である原告が,小型USBフラッシュメモリを台湾の会社
に製造委託してこれを輸入・販売する被告に対し,①当該小型USBフラッシ
ュメモリは,原告が製造する商品の形態を模倣したものであって,被告による
当該小型USBフラッシュメモリの輸入・販売は,不正競争防止法(以下「不
競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当すること,②当該小型U
SBフラッシュメモリは,被告が原告から示された営業秘密を不正に使用して
製造されたものであり,不競法2条1項7号の不正競争行為に該当すること,
③被告による当該小型USBフラッシュメモリの製造は,台湾の著作権法上,
原告の著作物である小型USBフラッシュメモリの設計図の著作権(翻案権)
を侵害すること,④被告による当該小型USBフラッシュメモリの製造・販売
は,原告の技術情報を使用して行われたものであり,不法行為(民法709
条)に該当すること(①ないし④につき選択的併合)を理由として,原告に生
じた損害541億8000万円(逸失利益540億円及び弁護士費用1億80
00万円)の一部である20億円(逸失利益19億円及び弁護士費用1億円)
の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月2日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案
である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者
ア原告は,電子機器等の製造・販売を業務とする台湾法人である(甲1)。
イ被告は,電子・電気機械器具の製造・販売を目的とする株式会社である。
(2)積智科技股份有限公司らと被告との交渉
被告の社員であるP1及びP2並びに被告の台湾の現地法人の社員である
P3は,平成17年3月3日及び4日,積智科技股份有限公司(以下「積智
科技」という。)及び積智日通卡股份有限公司(以下「積智日通卡」といい,
積智科技と併せて「積智科技ら」という。)を訪問した。その際,被告は,
積智科技らに対し,通常サイズのUSBフラッシュメモリの製造委託及び小
型USBフラッシュメモリの製造委託(なお,この時点で,原告及び被告が,
それぞれ,小型USBフラッシュメモリについて,どの程度,開発を進めて
いたかについては,争いがある。)の可能性について打診した。その後,被
告と積智科技らとの間で,小型USBフラッシュメモリに搭載するフラッシ
ュメモリの規格寸法やそれに応じた本体寸法の策定,LEDの搭載等につい
て,メール等によって協議が進められたが,平成17年7月ころ,積智科技
らと被告との協議は,打ち切られた(その日付及び理由については,当事者
間に争いがある。以下,この間に行われた積智科技らと被告との協議を「本
件協議」という。)。
(3)被告による被告各商品の製造・販売
被告は,平成18年12月以降,別紙被告商品目録記載の商品(以下「被
告各商品」といい,同目録記載の各商品を同目録記載の番号に対応して「被
告商品1」等という。)を,台湾にある会社に製造委託して製造させ,これ
を輸入して,販売している。
2争点
(1)原告と積智科技との同一性
(2)被告各商品は原告の商品の形態を模倣したものか(不競法2条1項3号
該当性)。
ア原告の商品が本件協議前に存在していたか。
イ被告各商品が原告の商品の形態を模倣したものであるか。
ウ被告の故意又は過失
エ原告の営業上の利益の侵害の有無
オ原告の損害
(3)被告各商品は,原告から示された原告の営業秘密を不正に使用したもの
か(不競法2条1項7号該当性)。
ア原告から被告に対して提供された技術情報の内容及び営業秘密該当性
イ被告が原告から示された技術情報を不正に使用したか。
ウ原告の損害
(4)被告各商品を製造することは,原告の有する設計図の翻案権侵害に該当
するか。
ア著作権侵害を理由とする損害賠償請求権についての準拠法
イ原告が設計図につき著作権を有するか。
ウ被告による著作権侵害行為の有無
エ原告の損害
(5)不法行為の成否
第3争点についての当事者の主張
1争点(1)(原告と積智科技との同一性)について
(原告の主張)
「積智科技股份有限公司」は,原告の商号変更前の商号であり(甲20。商
号変更日は,平成17年11月16日。),原告と同一の法人である(英語表
記は,PowerDigitalCommunicationである。)。また,積智日通卡は,原告と
同一の事業グループにある会社であって,原告と密接に関連する会社である
(甲19)。実際に,OEM取引については,原告が注文を受けて積智日通卡
に製造委託し,同社が製造して原告が販売するという形態であった。
(被告の主張)
被告が本件協議を行った積智科技は,原告とは別会社である。①原告の設立
日は,登記簿謄本(甲1)には中華民国87年(平成10年)6月18日と記
載されているのに対し,積智科技の設立日は,著作権登録証(甲3)には「民
國86年7月25日」と記載されていること,②本訴提起前の平成19年4月
の時点において,当時の相手方の代理人らは,積智科技の代理人と称していた
こと(乙14の1,16ないし18),③著作権登録証(甲8)には,著作者
名として積智科技が,著作権者名として原告名が,それぞれ別個独立した法人
として記載されていることからすれば,積智科技は原告の旧商号であるとの原
告の主張は不自然である。
2争点⑵ア(不競法2条1項3号該当性①:原告商品が本件協議前に存在して
いたか)について
(原告の主張)
(1)原告商品が「他人の」商品であること
以下に述べるとおり,原告は,平成17年3月3日の時点で,原告商品
(原告が開発した小型USBフラッシュメモリをいう。以下同じ。)を既に
開発していた。したがって,原告商品は,被告からみて「他人の」商品であ
る。
ア原告商品が開発済みであったこと。
(ア)原告は,平成17年3月3日に被告の訪問を受けるより前から,原
告商品の開発を進めており,平成15年5月29日には,原告と同一の
事業体を構成する馨意科技股份有限公司(以下「馨意科技」という。)
が,USBフラッシュメモリの金属端子部分を露出する形状等の原告商
品の外観と類似した図面を記載した実用新案の出願を行い(甲24,2
5の1ないし4,69,70の1及び2),平成16年には,SDカー
ドとUSBフラッシュメモリの二つの規格の記憶媒体を兼用できる「P
SDメモリカード」(甲42)の開発・商品化を終えていた等,原告商
品の開発に必要な技術力を有していた。
(イ)原告における原告商品の開発
原告は,平成16年7月ないし8月の段階で,内部構成を含めて初版
製品の開発設計を終えていた。このことは,原告商品に対応するコント
ローラであるSM321の設計図が同時期に完成していること(甲6
6),後記イの原告商品の設計図を添付した著作権登録や商標登録を行
っていることに示されている。
そして,平成16年11月には,後記7のPDCアーキテクチャによ
って構成される小型USBフラッシュメモリについて,そのコントロー
ラ周り・回路構成が開発・確定された(甲60,66,72,73)。
また,この回路図(甲60)に対応した部品表(甲59の2)も存在す
る。このほか,原告において,コントローラとしてSM321を用いた
小型USBフラッシュメモリが開発済みであったことは,平成17年1
月19日の時点で,ガーバデータ(甲61,62),PCBサイズ(甲
63)などが設計選択の一つとして存在することからも明らかである。
また,同時期に原告において製品の量産に必要な準備がされていたこと
は,甲64及び65からもうかがうことができる。
さらに,前記(ア)のとおり,原告は,平成16年の時点でPSDカー
ドを商品化していたところ,その基本アーキテクチャは小型USBフラ
ッシュメモリと類似共通している(甲74)。
(ウ)原告は,平成17年3月10日までに原告商品のサンプル製品を完
成させ,同日ないし同月16日にドイツのハノーバーで開催された展示
会CeBITに,原告商品を出品していた(甲33,47,48)。CeBIT
に出品した原告商品は,本体サイズの奥行きが31.8㎜で,金属端子
部分は覆われておらず,メモリ実装部分はTSOP,コントローラはS
M321を用いるものであった。
(エ)原告は,被告が訪問した平成17年3月3日の時点で,原告商品の
モックアップ(外形模型)を有しており,これを被告に交付している
(甲7,16)。
被告は,原告商品が開発済みであれば,モックアップではなく原告商
品を提示すれば足りたと主張する。しかしながら,原告は,CeBITに間
に合わせるために商品サンプルを製造しており,被告が訪問した段階で
は,商品サンプルは製造中であって,被告の訪問の際に小型USBフラ
ッシュメモリの商品サンプルを求められることを想定した準備を行って
いなかったから,モックアップを交付したものである。
また,被告は,原告商品が開発済みであれば原告商品を供給すれば足
りたと主張する。しかしながら,原告は,CeBITに向けて,TSOPを
用いて設計製造を行っていたところ,被告の要請は,COBを用いたも
のであったことから,その要請に応えるために,被告との間で協議を行
ったものである。そして,その後,被告が他のメモリの選択も受け入れ
る可能性があったこと,部品配列や回路構成の提供という観点からはP
CBAサンプルが便利であることから,TSOPによるPCBAサンプ
ルを交付したのであって,このような原告の対応は,何ら不自然なもの
ではない。
イ原告が,平成16年8月時点で,設計図面を著作権登録書類に含めて著
作権登録申請をしていたこと。
(ア)原告は,平成16年8月4日,中國智慧財産協進會(以下「協進
会」という。)に対し,小型USB製品「QBOX」のロゴ文字のデザ
インにつき,著作物の名称を「QBOX」,種類を「美術著作」として,
別紙図面1(以下「原告設計図1」という。)を含む書類(協進会にお
いては,登録対象の著作物のほか,附帯文書を提出することができ
る。)も添附して,著作権登録の申請を行い,同月9日に,その登録を
受けた(甲3。登録番号智登字第8800459号。以下「459号登
録」といい,その登録証書を「459号登録証」という。)。
その後,図形著作の登録を認める著作権法の改正があったことに気付
いたことから,平成19年3月26日,著作物の名称を「Q−BOX數
位卡科技工程圖」,種類を「図形著作(科技工程設計圖)」として,原
告設計図1及び別紙図面2(以下「原告設計図2」という。)の著作権
登録の申請を行い,同月28日に登録を受けた(甲8。登録番号智登字
第8800572号。以下「572号登録」といい,その登録証書を
「572号登録証」という。)。
そして,著作権登録証書中の受理日の記載は,協進会が客観的に行う
ものであるから,原告が,遅くとも459号登録の申請を行った平成1
6年8月4日までに,原告設計図1を創作していたことは,明らかであ
る。
なお,459号登録証に原告設計図1が添付されているものと添付さ
れていないものが混在している(甲3,21,乙3)のは,原告が委託
した者が,協進会に登録書類の写しの交付申請をした際に,協進会の担
当者が572号登録の申請書類として扱おうとした文書の中に,「45
9」と鉛筆書きされた図面があることに気付き,協進会の担当者に対し,
当該記載は459号登録であることを示すものであると述べ,協進会の
担当者がその指摘が正しいと判断して処理したことによるものである。
これは,協進会が,同一企業を申請者とする申請資料について,異なる
申請であっても同一の書類フォルダに入れて管理して保管していたため
に生じたことであり,原告において,差替等を行ったものではない。
(イ)原告が平成16年8月時点で原告設計図1を作製していたことは,
原告が,同年7月時点で,原告商品の商品名であるQBOXにつき,商
標登録の出願をしていること(甲49),前記アの原告による小型US
Bフラッシュメモリの開発経過からも裏付けられる。
ウ原告はインベンテック設計図の送付を受けていないこと。
(ア)原告は,英保達股份有限公司(英語表記Inventec
Multimedia&TelecomCorporation。以下「インベンテック社」とい
う。)が作製したという設計図(乙8の2。以下「インベンテック設計
図」という。)の交付を受けていない。このことは,①被告の主張によ
れば,被告によるインベンテック設計図の送付は,ガーバーファイルの
送付要求に基づくものである(乙1)が,これから具体的なデザインや
仕様を検討しようとする段階で,ガーバーファイルが存在するはずがな
く,乙1は従来サイズのUSBメモリに関するものであること,②被告
が原告に送付したという図面(乙8の2)とインベンテック社が原告に
送付したという図面(乙6の2)が同一日付の図面であるにもかかわら
ず異なる図面であることから,乙8の2の図面が送付されたとみるのは
不自然であること,③被告が原告に対してインベンテック設計図を送付
したとする平成17年3月7日付けの電子メール(乙8)に対する返信
であると被告が主張する同日付けの電子メール(乙20)につき,送信
者とされているP4は,同日にドイツに出張しており(甲33),当該
電子メールを送信することができる状況ではなく,現にこれを送信して
いないこと,④原告と被告との間の本件協議において,インベンテック
設計図が存在することを前提とした内容の電子メールのやりとりはされ
ておらず,かえって,被告が原告に対しインベンテック設計図を送付し
ているのであれば,されるはずのない質問(原告の被告に対するラベル
の寸法についての質問(甲27の21)や,原告が検討した製品の寸法
についての被告の質問(甲27の8)等)や,送付する必要もない図面
(乙9の2,甲27の21等)が送付されていること(なお,乙9の2
の図面に記載された製品の形状は,インベンテック設計図に記載された
製品の形状とは異なっている。),⑤被告が秘密保持契約も締結せずに,
新製品である小型USBフラッシュメモリの開発設計データを送ること
など考えられないこと等から,明らかである。
(イ)被告は,インベンテック設計図がインベンテック社との打合せに基
づき作製された図面であると主張する。しかしながら,インベンテック
社から被告への電子メール本文(乙6の1)に書かれた「push–push
slot」のような機能はUSBフラッシュメモリにはなく,また,スリッ
ト又はギャップは,これに添付されたとする図面(乙6の2)には見当
たらないから,当該電子メールは,USBフラッシュメモリ以外の製品
についての電子メールであり,当該図面は,当該電子メールの添付ファ
イルではないと考えられる。
また,被告とインベンテック社との連絡内容(乙29(枝番を含
む。))によれば,平成17年3月の段階では,逆挿入や接続端子のス
ロット幅の問題等様々な問題点が未解決であり,被告は,小型USBフ
ラッシュメモリを開発済みであったとは,到底言えない状態であった。
さらに,被告は,被告とインベンテック社が共同で特許出願していた
旨主張するが,当該特許出願は,USBフラッシュメモリのコネクタ部
に関するものであって,USBフラッシュメモリ全体については概略図
しか添付がなく,具体的な方法,寸法,構成等の記載もないから,これ
によって商品化できていたことを示すものではない。
(2)「商品」があること。
ア不競法2条1項3号にいう「商品」とは,保護に値する労力,費用の投
下による商品化がされていれば,販売前であっても,これに該当すると解
すべきであり,試作品や設計図の完成段階や,見本市や展示会への出品が
されたものも,同号による保護の対象になるというべきである。
そして,原告は,前記(1)ア(ウ)のとおり,ハノーバーの展示会に原告商
品の完成品を出品している。また,原告は,日本を含む世界中にメモリ製
品を販売する会社であるLexarMedia社(以下「Lexar社」という。)に
対し,平成16年6月3日に,形状・デザインが原告商品と同一の図面デ
ータを送付しており(甲38の1ないし3),さらに,平成17年11月
以降,Lexar社に対し,OEM契約交渉のため原告商品を譲渡する(甲
4の1及び2)とともに,Vivanco社に対し,製品の紹介・販売をする
(甲51)等している。なお,Vivanco社のホームページ(乙23)に,
同社の注文書(甲51)に記載された品番と同一の品番の商品として,原
告商品とは全く異なる商品が掲載されていることについては,原告が関知
するところではないが,Vivanco社は,商品サンプル取得のための発注で
あったため,一般販売を前提とした品番を割り当てずに,従来型のフラッ
シュメモリの品番を便宜上代用したものと考えられる。
イそして,仮に,原告商品が日本で販売されていなかったとしても,外国
の商品も不競法2条1項3号の「商品」に該当する。そうでなければ,不
正競争行為を行った者の行為により日本国内で販売を実施できなかったた
めに保護されないことになり,不競法及び工業所有権の保護に関する18
83年3月20日のパリ条約(以下「パリ条約」という。)10条の2の
趣旨にもとることとなる。
(被告の主張)
(1)原告商品が「他人の」商品ではないこと。
原告商品は,市場において販売,流通しておらず,商品として存在しない。
仮に,原告商品が存在するとしても,被告が提供したインベンテック設計図
の複製物である原告設計図1及び2に基づいて製造されたものであり,「他
人の」商品ではない。
ア原告商品が開発済みであったことについて
(ア)原告が原告商品を開発する技術力を有していた根拠として挙げるP
SDカードやそれに関する実用新案等は,メモリカードの両側に異なる
接続端子部を設けたものであり,被告各商品とは外観上類似しておらず,
本件のような小型USBフラッシュメモリの開発技術とは無関係である。
また,PSDカードのパッケージには,原告又は積智科技の名称は記載
されておらず,これを開発したのが原告又は積智科技であることには疑
問があるとともに,それが平成16年中に商品化されていたとの証拠も
ない。さらに,USBフラッシュメモリの金属端子部分を露出する形状
は,原告の独自のアイデアではなく,他社製品においても,同様の形状
のものは存在していた(乙25)。
(イ)原告が,原告商品を開発済みであったとして挙げる根拠(甲59な
いし65)は,いずれも,本件協議前に,SM321を用いた小型US
Bフラッシュメモリの設計が存在したことを示すものではない。
a部品表(甲59の1ないし5)には,「小型USB設計」なるもの
の存在は示されていない。また,TSOPを用いる部品表(甲59の
2)に記載された部品は,いずれもフラッシュメモリ用の汎用部品で
あり,当業者が適宜に選択する設計的事項にすぎず,有用性を欠く。
また,同部品表は,TSOPを採用したフラッシュメモリを2枚用い
ているところ,小型USBフラッシュメモリでは,これを2枚用いる
ことはできないため,被告各商品とは無関係である。加えて,被告各
商品が,当該部品表(甲59の2)と同じ部品を使用しているわけで
はない。また,その他の部品表(甲59の3ないし5)は,COB技
術を用いるものであって,被告各商品とは無関係である。
b回路図(甲60)は,日付が2009年(平成21年)5月23日
となっていること,同回路図の右下には,ファイル名として「H-
SONY/SONY/SM321-LGA-SONYV1」と記載されていることから,本
件協議前に同回路図が作製されていたとみるのは不自然である。
cガーバデータやPCBサイズについても,甲61の各ファイルの内
容は明らかではなく,甲62及び63は,それが平成17年3月時点
で作製済みであったことはどこにも示されていない。
d甲64及び65も,平成17年4月時点で作製されていたとする証
拠はないから,甲64及び65は,原告が平成17年4月ころに原告
商品の量産に必要な準備をしていたことを立証するものではない。
e原告は,PSDカードの基本アーキテクチャは小型USBフラッシ
ュメモリと同一であると主張するが,原告商品とPSDカードとは全
く別の商品である。また,PSDカードの実装図(甲74)からも,
原告商品との共通点があることは読み取れない。
(ウ)原告がCeBITに原告商品を出品したことは,否認する。原告が提出
した証拠(甲33,47等)をみても,原告商品が出品されていたと
の記載はない。
(エ)原告は,積智科技らからUSBフラッシュメモリの外形模型(モッ
クアップ)を受領していない。そもそも,モックアップは,製品の形
状・寸法を決めた後に実際の大きさや外観を視覚的に確認するために
作製されるものであり,被告から製造委託の可否を打診された時点で,
打診された製品と同一の形状・寸法のモックアップが完成していたと
いうことはあり得ない。
また,仮に,原告が,既に原告商品を開発・商品化していたのであ
れば,①モックアップではなく,原告商品を被告に提示すれば足りた
こと,②開発済みの原告商品を被告に対して供給するという話をすれ
ば足りたはずであるにもかかわらず,約4か月にわたり,電子メール
等で本件協議を行ったことからも,原告商品が開発・商品化済みであ
ったといえないことは明らかである。なお,原告は,原告商品を渡さ
なかった理由として,原告商品がTSOPであったことを挙げるが,
原告の主張によれば,被告に交付したPCBAサンプルもTSOPで
あり,極めて不自然である。
イ原告の著作権登録について
(ア)そもそも,台湾における著作権登録制度は,登録によって何らかの
法的効果を生じさせるものではない。また,協進会においては,登録証
の裏面の完成日等の日付は,登録申請者が申請書類に記載した日付をそ
のまま記載するものであるから,これらの記載事項は,信用することが
できない(乙3)。
(イ)原告が提出する著作権登録証書を信用することができないこと。
a被告が協進会から459号登録証と572号登録証を入手したとこ
ろ,459号登録証の添付図面は,「QBOX」というロゴの図面の
みであり,他方で,572号登録証に,原告設計図1及び2が添付さ
れていた(乙3,4)。したがって,原告が459号登録証の添付図
面として当初提出したもの(甲3)は,572号登録の添付図面とし
て平成19年3月28日に著作権登録されたものであり,同16年8
月9日に著作権登録がされたものではない。
そもそも,台湾の著作権法上,設計図は図形著作物である(乙1
2)ところ,459号登録証には美術著作と記載されており,同登録
が設計図を登録したものではないことは,その記載から明らかである。
また,原告設計図1は,積智科技の被告に対する平成17年4月1
8日付け電子メール(甲10の1)に添付された図面と同一であるが,
これは,被告の同日付け電子メールにおける指示を踏まえて作製され
たものであるから,これが平成16年4月1日の時点で作製されてい
たというのは,不自然である。
さらに,572号登録証に添付された図面のうち,原告設計図2と
同一のものは,製品の奥行きを1㎜短くするようにとの被告の指示に
従い,積智科技が奥行きを修正して被告に送信したものであり(乙1
1の1ないし3),同登録証に著作完成日として記載されている平成
16年4月1日の時点で作製されていたということはあり得ない。
b原告が著作権登録証として改めて提出したもの(甲21,22)に
ついて,被告が協進会に問い合わせたところ,協進会から,459号
登録証(甲21)の最終頁の設計図(原告設計図1と同一の図面)は,
459号登録に関するものではなく,572号登録に関する資料であ
り,原告の代理人が協進会から書類を受領するに当たり,当該設計図
は459号登録証の最終頁になるべきであると告げたため,これに基
づき,これを459号登録のファイルに移して,協進会の印章を押印
したものであるとの回答を得た(乙22)。
仮に,原告が主張するとおり,協進会が,同一人を申請者とする著
作権登録申請資料については,複数の登録の関係書類を同一のファイ
ルに保存しているとすると,そのこと自体,協進会の登録に信用がな
いことを示している。
(ウ)原告がQBOXの商標を登録していることは,原告商品の商品化と
は関係ない。なお,QBOXは,原告又は積智科技の日本支社である
PDCジャパンが販売するMP3プレイヤーの商品名であり(乙2
8),そのために商標出願したと推測される。そして,同じ製品名称
を異なる製品の名称として使用することは考え難いから,原告商品は
存在しない。
ウ被告が積智科技らに対しインベンテック設計図を送付していること。
(ア)被告がインベンテック設計図を送付したこと。
a被告は,小型のUSBフラッシュメモリの製造が可能か否かを打診
した積智科技に対し,平成17年3月4日に,インベンテック社が製
作した被告各商品のワーキング・サンプルを提示し(乙7),さらに,
同月7日に,その製造の可否を判断するための資料として,インベン
テック設計図等を送付している(乙8の1ないし3)。被告が原告に
対しインベンテック設計図を送付したことは,同日付けの積智日通卡
(担当者P4)からの返信の電子メール(乙20)の存在,同月24
日付けの積智科技(担当者P5)からの電子メール(乙27の2)に
おいて,「貴社の機械設計図(yourmechanicaldrawing)に図示され
た「メモ用のラベル貼付場所」("thelabelareaformemo")の上部に
あるものは何か」との質問がされていることからも明らかである。
b原告の主張について
原告は,インベンテック設計図と乙6の2の図面の日付が同一であ
ることを指摘するが,インベンテック設計図と乙6の2の図面とは,
バージョンが異なる同一の図面であり,日付を修正しないままバージ
ョンアップがされたにすぎない。
また,積智科技の被告に対するラベルの寸法についての質問(甲2
7の21)は,インベンテック設計図にはラベル(乙8の2の
「Labelareaformemo」と記載されている部分)の寸法が記載されて
いなかったことから,その質問がされたにすぎない。
さらに,原告は,原告がインベンテック設計図を受領しているので
あれば,乙9の2の図面から議論する必要はないと主張するが,同図
面は,COB技術で小型USBフラッシュメモリを作製する場合のイ
メージ図であり,ULGA等を前提とするインベンテック設計図とは
内容が異なり,何ら不自然ではない。
同様に,被告が積智科技に対して寸法を質問した(甲27の8)の
も,COB技術で作製する場合の寸法を確認したものであって,何ら
不自然ではない。
(イ)インベンテック設計図が本件協議の段階で存在したこと。
インベンテック設計図は,被告がインベンテック社に平成16年8月
26日に小型USBフラッシュメモリの開発を打診し,被告とインベン
テック社との間で協議を重ねた結果,作製されたものであり(乙29
(枝番を含む。)),原告又は積智科技らのいかなる情報又は資料も使
用していない(乙19)。なお,被告は,インベンテック社から,同時
期に,設計図に基づき作製されたワーキング・サンプルも受領している
(乙7,29の6の1,29の8,29の9の1ないし3)。
また,被告とインベンテック社は,平成16年11月19日,台湾に
おいて,小型USBフラッシュメモリに関する特許発明の共同出願を行
っている(乙5)。当該出願に係る明細書に具体的な寸法等の記載がな
いのは,特許明細書にこれを示す必要がないからにすぎず,USBポー
トとの接続端子部分の大きさは,USB規格で決まっている以上,全体
の形状が記載された本件明細書の実施図を見れば,接続端子部分の大き
さとの比較から,本体部分の大きさも自ずと明らかである。したがって,
被告各商品の基本的形状は,特許出願した平成16年11月19日の時
点で,既に決まっていたということができる。
なお,原告は,インベンテック社から被告に対する平成16年10月
18日付け電子メール(乙6の1)の記載内容から,これに添付された
ものとして被告が提出する図面(乙6の2)は,当該電子メールの添付
ファイルではないと主張する。しかしながら,メールの件名と添付ファ
イルの名称との整合性から,添付ファイルであることは明らかである。
また,「push–pushslot」の記載は,当時,被告が,小型USBフラッ
シュメモリを使用する機器に関して,これを採用することを検討してい
たことによるものであり,スリット又はギャップは,乙6の2の図面上,
存在している。
さらに,原告は,平成17年3月の段階では,被告において様々な問
題点が未解決であったと主張するが,原告が指摘する問題点は,すべて
解決済みであり,前記のとおり,ワーキング・サンプルが完成していた。
また,原告が指摘する問題点は,いずれも基本的な設計内容に影響を及
ぼすものではない。
(2)原告商品が存在したことについて
原告商品は,市場において販売・流通していない。
Lexar社が原告商品と同一の形態のUSBフラッシュメモリを日本又は
海外で販売しているという事実はなく,原告が提出する証拠(甲4)にお
いても,原告が同社に対し原告商品を送付したことを推測させる記載はな
い。また,原告がVivanco社に原告商品を出荷した証拠として提出する注
文書(甲51)に記載された品番につき,同社のホームページでは,原告
商品とは全く異なる形状の商品が掲載されている(乙23)。
したがって,原告商品は,商品として存在していないので,不競法2条
1項3号にいう「商品」に該当しない。
また,原告は,日本で原告商品を販売しておらず,その予定もない以上,
不競法違反の請求権者になり得ない。
3争点⑵イ(不競法2条1項3号該当性②:被告各商品が原告商品の形態を模
倣したものであるか)について
(原告の主張)
(1)原告商品の形態と被告各商品の形態との実質的同一性
ア原告商品の形態は,別紙原告商品目録中の商品写真記載のとおりであり,
その特徴は,①接続端子部及び本体部から成り,②接続端子部は,一般的
なUSBフラッシュメモリが備える金属製の端子用外殻カバーを有さず,
端子全体が外部に剥出した状態であり,③本体部は,その幅が接続端子部
の幅より若干広く,その厚みが接続端子部の厚みとほぼ同じサイズであり,
その長さはその幅よりも長いこと(幅14.4㎜,奥行き31.7㎜,高
さ2.9㎜)を特徴としている。
イ被告各商品は,①接続端子部及び本体部から成り,②接続端子部は,一
般的なUSBフラッシュメモリが備える金属製の端子用外殻カバーを有さ
ず,端子全体が外部に剥出した状態であり,③本体部は,その幅が接続端
子部の幅より若干広く,その厚みが接続端子部の厚みとほぼ同じであり,
その長さはその幅よりも長いこと(例えば,被告商品1につき,幅14.
5㎜,奥行き32.0㎜,高さ2.7㎜)を特徴としている。
ウしたがって,原告商品の形状と被告各商品の形状は,全く同じであると
いえる。
なお,USBフラッシュメモリのデザインは様々であって,原告商品の
形態は,他社の商品のいずれとも異なり,コンパクト,薄型の独自のデザ
インであるから,原告商品の形態は,当該商品の機能を確保するために不
可欠な形態ではない。
⑵被告各商品が原告商品の形態に依拠したこと。
被告は,原告から開示を受けた営業秘密である技術情報を基に,原告商品
と実質的に同一の形態の商品を製造・販売しており,被告各商品が,原告商
品の形態に依拠したものであることは明らかである。
(被告の主張)
(1)原告商品の形態と被告各商品の形態との実質的同一性について
被告各商品の形状は認めるが,その余は否認する。仮に,原告商品が存在
するとしても,その形状は,原告商品の特徴ではない。
⑵依拠性について
否認する。被告は,原告商品の技術情報の開示を受けたこともないし,ま
た,原告商品は,市場において販売されていないから,被告がこれを入手し,
模倣するという事実もない。
4争点⑵ウ(不競法2条1項3号該当性③:被告の故意又は過失)について
(原告の主張)
原告と被告とは,平成17年3月から7月にかけて被告各商品の基となる
TinyUSBなる商品の開発に関するやりとりをしており,原告は,被告に対し,
同年3月4日付けで外形模型(モックアップ。幅14.4㎜,奥行き31.7
㎜,高さ2.9㎜。)を送付し,同月30日から同年7月1日まで,搭載する
フラッシュメモリの規格寸法等について電子メールでの応答が行われたが,同
日以降,被告からの連絡は途絶えた。ところが,被告は,平成18年12月こ
ろから,被告各商品の販売を開始した。
以上の経緯に照らして,被告の模倣行為は,被告の故意又は重大な過失によ
るものである。
(被告の主張)
すべて否認する。前記1及び2のとおり,被告が平成17年3月から7月に
かけて小型USBフラッシュメモリに関するやりとりを行っていたのは,積智
科技らであって,原告とは別法人であり,原告と提携開発を行う関係にあった
ことはない。また,被告各商品は積智科技らと被告とのやりとりを基にしたも
のではなく,原告はもとより,積智科技らからもモックアップは受領していな
い。
なお,被告が電子メールのやりとりをしたのも積智科技らであり,その日付
は平成17年3月7日から同年7月22日までである。
5争点⑵エ(不競法2条1項3号該当性④:原告の営業上の利益の侵害の有
無)について
(原告の主張)
被告による被告各商品の製造・販売は,原告の営業上の利益を侵害するもの
である。
(被告の主張)
QBOXなる商品は日本国内で販売されておらず,また,その予定もない。
さらに,前記1のとおり,原告と積智科技とは別法人であり,原告は,QBO
Xなる商品を商品化した主体でもない。
したがって,原告は,被告各商品の販売により,「営業上の利益を侵害」さ
れておらず,不競法に基づく損害賠償請求権を有しない。
仮に,原告商品が存在するとしても,原告設計図1及び2は積智科技が作製
したものとされているところ(乙4),前記1のとおり,原告と積智科技とは
別法人である。また,Lexar社にサンプルを送付したのも,積智日通卡であっ
て,原告ではない。したがって,原告は,原告商品の開発主体ではないから,
「営業上の利益を侵害」されたとはいえない。
6争点⑵オ(不競法2条1項3号該当性⑤:原告の損害)について
(原告の主張)
(1)逸失利益540億円
被告各商品の販売が開始された平成18年12月1日から同19年11月
30日までの1年間の被告各商品の日本向け製造枚数は,およそ3000万
枚であると推定され,単価平均を3000円とし,粗利率を60%とすると,
被告が被告各商品によって得た日本における利益額は,540億円となる。
そして,この被告の利益額は,原告の受けた損害額と推定される(不競法
5条2項)から,同額が原告の損害となる。
(2)弁護士費用1億8000万円
本件における弁護士費用としては,1億8000万円が相当である。
(3)小括
したがって,原告は,被告に対し,不競法4条により541億8000万
円の損害賠償請求権を有するところ,このうち,逸失利益19億円,弁護士
費用1億円の合計20億円を請求する。
(被告の主張)
否認又は争う。
7争点(3)ア(不競法2条1項7号該当性①:原告から被告に対して提供され
た技術情報の内容及び営業秘密該当性)について
(原告の主張)
(1)原告から被告に対する技術情報の提供
ア原告は,平成17年3月の時点で,小型USBフラッシュメモリに関す
る技術情報をハード及び電子データの形で保有していた。
そして,CeBITに出品した原告商品は,フラッシュメモリとしてTSO
Pを,コントローラとしてSiliconMotion,Inc.(以下「SMI社」とい
う。)製のSM321を用いたものであり,原告がSM321を用いた小
型USBフラッシュメモリ(以下「SM321系小型USB」という。)
を開発済みであったことは,前記2のとおりである。
イそして,原告は,被告に対し,本件協議の過程において,小型USBフ
ラッシュメモリについて,モックアップ(平成17年3月4日に交付),
TSOPを使用したPCBA(プリント基板ユニット)サンプル(同年4
月20日に交付)及び別紙データ目録1ないし10(図面7−1を除
く。)に対応する電子データ並びにこれに付随する情報・補足説明情報
(例えば,COB,ULGA,TSOP等の各メモリパッケージにおける
容量の増大の可否,実装に関する諸問題やコストとの関連性に関する情報,
製品の筐体の材質に関する情報,LEDに関する情報)(以下,これらの
情報をまとめて「本件技術情報」という。)を提供した。
(2)本件技術情報の具体的内容とその有用性
ア通常サイズのUSBフラッシュメモリに比べて格段に小さいUSBフラ
ッシュメモリは,平成16年以前は商品化されておらず,小型化及び新奇
性を求める消費者のニーズに応えるものである。そして,本件技術情報は,
有機的に集約された技術情報として,小型USBフラッシュメモリの形状,
寸法,部品とその内部配列,構造,材質等の各種情報が含まれており,一
定の保存容量を有し,商品化が可能なレベル及び不良品率で,このような
小型USBフラッシュメモリの量産を可能にするための技術的な工夫,ノ
ウハウが含まれている。
そして,USBフラッシュメモリを可能な限り小さく,性能・動作環境
に問題がなく,最も不良品率が少なく,コスト的に実用化に耐え得るとい
う条件を満たす設計は,必ずしも容易にたどりつけるものではなく,相当
の時間・費用・ノウハウ・技術力を要するものであるから,その成果は,
有用な技術上の情報に該当する。
特に,コントローラとして何を用いるか,その場合にどこまで全長を短
くすることができるか,コントローラ周りの構成・配置という情報は,試
行錯誤を重ねることにより判明するものである。現に,原告は,コントロ
ーラにSM321を使用するに当たり,平成16年春以降,SMI社と打
合せを重ねることによって,SM321・44ピンの開発過程と並行して,
これを使用したUSBフラッシュメモリを開発した。そして,当該コント
ローラによってUSBフラッシュメモリが安定して動作することが分かれ
ば,開発期間を飛躍的に短くすることが可能となるものあって,重要な情
報である。
以下,これらの情報について個別に述べる。
イPCBAサンプル
原告が被告に交付したPCBAサンプルは,SM321系小型USBで
あり,下記オのPDCアーキテクチャを含むものである。
このPCBAサンプルは,●(省略)●という条件で設計・製造され,
筐体がないことを除けば,動作の状況を含めて,ほぼ完成した製品といえ
るものであり,それが示す回路構成や部品配列という情報に加えて,本件
技術情報が有機的に一体となって構成されたまとまりのある技術情報が,
製品として機能している事実を示す重要な資料として有用である。
ウ付随情報・補足説明情報
平成17年3月3日から同年7月1日までの間に原告から被告に提供さ
れた情報であって,被告の質問・要望等に対応して,主に電子メールで提
供された情報をいう。
(ア)COB,ULGA,TSOP等に関する情報
原告から被告への情報の提供は,平成17年4月20日ころから,C
OBに関するものからそれ以外のものを前提とした情報を含むものへと
変わっている。そしてCOBに関する情報も,これを使用して不必要な
研究開発費用の投資を回避・節約できる等の意味で,有用性が認められ
るものである。
(イ)LEDに関する情報
小型USBフラッシュメモリへのLEDの搭載の可否,搭載の位置,
光線の方向,LEDの実装に関する情報をいう。そして,これらの情報
について,本件のようなサイズが制約された小型USBフラッシュメモ
リの場合には,技術的に検討が必要な事項であって,容易に設計できる
事項ではない。また,LEDに関する被告からの連絡は,単に質問であ
って,アイデアと呼べるものではなかった。
エ電子データ
紙媒体ではなく,電子データで情報提供されることによって,紙媒体上
表示された寸法ではない,それ以外の寸法等の情報も提供されている。
オこれらに示された具体的な営業秘密の内容
前記の各情報には,原告が開発したSM321系小型USBの基本アー
キテクチャ(以下「PDCアーキテクチャ」という。)を含めて,以下の
情報が含まれている。
(ア)本件技術情報1(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
●(省略)●
このうち,ノイズ回避のために,アナロググランドとデジタルグラン
ドを別の層に分離することが現時点で技術常識であることは確かである。
しかしながら,具体的に,どこにアナロググランド,デジタルグランド,
電源回路,シグナル回路を配置するかは,設計担当者によって異なると
ころ,被告各商品のグランド層の配置は,原告が被告に提供したPCB
Aサンプルと合致するものである。
(イ)本件技術情報2(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
●(省略)●
なお,被告が指摘するとおり,SM321は汎用品ではあるが,原告
商品以前には,これをコントローラとして採用した製品は存在しなかっ
た。また,原告は,SM321の開発途中で,SMI社に意見を述べ,
多くの参考のアイデアを提供しており,SM321は,開発当初段階で
は,原告商品における使用を想定したコントローラとして開発設計され
ていた。
●(省略)●
(ウ)本件技術情報3(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
●(省略)●
(エ)本件技術情報4(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
aクリスタル,コントローラ,フラッシュメモリ,LEDの配列及び
動作については,
●(省略)●
b被告は,クリスタルとコントローラの間隔を狭めるのは公知である
と主張するが,その配置を決定するためには,クリスタルとコントロ
ーラとの間の距離に加えて,コンデンサ,抵抗の配列の距離・方向,
左右・前後のいずれも設計に影響するため,実験をしなければならず,
その結果得られた配置が公知ということはあり得ない。
(オ)本件技術情報5(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
●(省略)●
baの前半部分について
狭い空間内において部品をどのように配置するかについては,複数
の配列があり得るのであるから,異なるエンジニアによる選択の結果
が偶然に同一となることは,通常,生じない。また,各チップの配置
箇所は,実験結果がなければ確認することができないから,こうした
確認を経た配列情報は,小型USBフラッシュメモリの設計上,極め
て有用な情報である。
caの後半部分について
被告は,LEDの配置について,被告が提案したものであると主張
するが,LEDの搭載が可能であることや,その搭載位置を示したの
は,原告である。
(カ)本件技術情報6(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
●(省略)●
(キ)本件技術情報7(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
以上について,使用部品は,部品表(甲59の2)記載の部品である
こと●(省略)●
(ク)本件技術情報8(この項に記載された技術情報をいう。以下同
じ。)
a寸法・形状は,原告が被告に送信した図面等に記載されたもので
(甲27の45等),このうち,●(省略)●
b被告は,金属端子部分を覆わない形状は公知であったと主張する。
しかしながら,平成16年当時に存在した商品は,PCBに金属端子
が付け加えられた形状であり,寸法や厚みも大きいものであったのに
対し,原告は,PCB自体に金属端子部分を含めて構成し,寸法・薄
さの小型化を実現したのであり,他社が採用していない新規なもので
あった。
カ被告は,これらの配置を設計事項にすぎないと主張するが,本件技術情
報は,有機的に一体となった情報として意味を持つものである。
そして,個別の情報が既知であったとしても,その組合せ方は既知では
なく,本件技術情報は,有機的に一体になり,USBフラッシュメモリを
実用レベルで小型化した成果物を提示するものであって,極めて有用な情
報である。
(3)秘密管理性
ア原告においては,情報の厳格な管理を定める就業規則を有し(甲52),
技術者は,各人が情報の管理等に関する誓約書を提出している(甲53)。
そして,原告においては,開発研究部門と工場部門とが区別されており,
情報管理も峻別され,量産化以前の情報は,開発研究部門が管理している。
この開発研究部内においても,製品プロジェクトごとに,技術者チームを
区別し,データを管理するサーバーも別のものを用いており,開発研究部
門の技術者といえども,他のプロジェクトに属する者は,これにアクセス
することができない。また,技術者は,パスワードを使用しなければ,自
らの担当プロジェクトの技術情報にもアクセスできず,同一プロジェクト
チーム内でも,担当が違えば,他の技術者の技術情報にはアクセスができ
なかった。
本件技術情報についていえば,原告においても,技術者3人,P5及び
P4の5人しか知らなかったものであり,秘密として管理されていた。
イ本件においては,原告と被告との間で秘密保持契約は締結されていない。
これは,原告が秘密保持契約の締結を求めたのに対して,被告が,秘密保
持契約の締結には内部手続に時間を要し,他方で,製品化を急ぐ必要があ
ると説明したことによるものである。
(4)非公知性について
本件技術情報には,小型USBフラッシュメモリの形状,寸法,内部配列
等の技術情報が集約されており,公刊物にも記載されておらず,公然と知ら
れていない。なお,著作権登録の申請書類中の設計図には,外形等の限られ
た情報しか記載されていない。
そして,形状及び寸法も,そのような寸法及び形状を実現し,実用的に商
品として製造することを可能とする情報と一体となって,極めて重要な意味
を有する。また,形状,寸法,内部配列,回路構成等の情報は,完成品を見
ても,直ちに分かるものでもない。
したがって,これらの情報は,非公知性を有するものである。
(被告の主張)
(1)原告から被告に対する技術情報の提供について
原告が営業秘密であると主張する情報は,いずれも,被告がインベンテッ
ク設計図等を通じて,積智科技らに提供したものである。そして,原告が営
業秘密として主張するもののうち,モックアップ,PCBAサンプル,別紙
データ目録記載の図面・データ等に対応する電子データに関しては,そこに
含まれるいかなる情報が営業秘密に該当するのか,特定されていない。また,
「これに付随する情報・補足説明情報」が何を指すかも不明であるし,「例
えば,COB,ULGA,TSOP等の各メモリパッケージにおける容量の
増大の可否,実装に関する諸問題やコストとの関連性に関する情報,製品筐
体の材質に関する情報」についても,詳細は不明であるから,特定が不十分
である。
(2)個別の技術情報及びその有用性について
原告は,メモリ,コントローラ,LED,ICチップその他の原告商品の
内部の配列について,具体的な配列を示しておらず,特定性を欠く。また,
部品メーカーが供給する所定の形状の部品を用いて最小化を実現するために,
部品同士をできるだけ近くに配置せざるを得ないことは,当業者の技術常識
である。具体的には,メモリを本体部分に設置し,その他の部品を接続端子
部分に配置せざるを得ず,その他の部品を接続端子の裏面という限られた部
分のどこに配置するかは,当業者において適宜選択される設計的事項であっ
て,有用性を欠く。
なお,原告は,コントローラとしてSM321を用いたことが重要な情報
であると主張するが,SM321はSMI社が販売する汎用品であり(乙3
3),また,被告は,本件協議以前から,インベンテック社との間で,SM
321を採用することを決定しており,被告各商品にSM321が搭載され
たことは,原告とは無関係である。
そして,原告が営業秘密であると主張する個々の事項に対する反論は,以
下のとおりである。
アPCBAサンプルについて
被告は,PCBAサンプルを受領してない。原告は,同サンプルの設計
図や回路図を提出していないことからも,原告及び積智科技らが小型US
BフラッシュメモリのPCBAサンプルを被告に交付していないことは明
らかである。
イ付随情報・補足説明情報について
(ア)COB,ULGA,TSOP等に関する情報
「COB,ULGA,TSOP等の各メモリパッケージにおける容量
の増大の可否,実装に関する諸問題やコストとの関連性に関する情報,
製品筐体の材質に関する情報」についても,当業者において適宜選択さ
れる設計事項であり,特段の作用効果もないから,有用性がない。また,
●(省略)●フラッシュメモリ製造メーカーに問い合わせれば容易に確
認できることであり,また,●(省略)●も,フラッシュメモリ製造メ
ーカーにフラッシュメモリのサイズを聞けば容易に分かることであるか
ら,公知であるか,又は有用性を欠く。
(イ)LEDに関する情報
LEDを設置するとのアイデアを提案したのは,被告であって(甲2
7の54),被告の指示に基づき,原告又は積智科技らがLEDの搭載
の可否等を検討したのであるから,これらの情報は,原告から被告に示
されたものではない。また,LEDの位置に関しては,当業者であれば
同様の配置を採用せざるを得ないものであるから,原告の「有用な技術
上又は営業上の情報」ということはできない。
ウ本件技術情報1ないし8について
そもそも,被告は,PDCアーキテクチャの提供を受けていないし,
これを使用してもいない。
(ア)本件技術情報1について
●(省略)●当業者の技術常識であり(乙37),公知の情報であ
る。実際に,平成16年2月の時点で,被告がインベンテック社に開発
を委託した別のフラッシュメモリ製品でも,同様の回路構成が採用され
ている(乙38)。
●(省略)●ことは,SM321の仕様書(甲66,68)に記載
されていることであって,SM321を採用している当業者には公知の
情報であるとともに,SMI社が提供する情報であって,原告又は積智
科技らの営業秘密ではない。
●(省略)●は,一般論としてのクロックの役割を述べたにすぎず
(乙39),当業者の技術常識であって公知であるか,又は,当業者で
あれば通常採用し得る方法であって,有用性を欠く。
●(省略)●は,当業者の技術常識の範囲に属する事項であり,公
知である(乙40)。なお,被告各商品は,アナログ系回路とデジタル
系回路が甲67の1の図5の層で合流して接続されている(乙41)か
ら,アナロググランド層とデジタルグランド層を切り分けているわけで
はない。
(イ)本件技術情報2について
aSM321・44ピンは,SMI社が製造・販売する汎用部品で
あり,これを小型USBフラッシュメモリに搭載することは,原告
の営業秘密ではない(乙33,42)。また,被告各商品にSM3
21・44ピンを搭載することは,被告が,積智科技らと接触する
以前から,インベンテック社との間で決めていたことである(乙2
9の10の1及び2,29の20の4及び5,43)。したがって,
コンローラとしてSM321・44ピンを採用することは,公知の
情報であるか,又は,設計的事項にすぎないものであって,有用性
を欠くものである。
原告は,SM321・44ピンは,事実上PDCアーキテクチャ
を前提とした原告商品専用の特注コントローラとして開発されたと
主張するが,そのようなものではなく,実際に,多数の電気機器又
は記録メディアメーカーからの購入申込みに応じて販売されている
ものである(乙33,42)。
bそして,コントローラとフラッシュメモリとの間のデータの入出力
に関して特定の接続線を使用することは,SMI社がSM321の販
売先に開示している製品情報であり(甲66),原告のみに開示され
た営業秘密ではない。原告が自己の営業秘密として主張するものは,
SM321データブックに記載されたピンの役割を,ピンに接続され
る接続線の側から説明しているにすぎない。●(省略)●(乙44),
当業者であれば,誰でも知っている情報である。
(ウ)本件技術情報3について
a被告各商品は,レギュレータを使用していない。また,入力電圧が
5VであることはUSB規格によるものであり(乙45),これをS
M321の動作電圧である3.3V(甲66)に降圧することは,S
M321を採用する以上,必須の対応であって,SM321をコント
ローラとして採用する当業者は誰でも知っている情報であるから,公
知である。また,SM321を採用すること自体,公知であるか,又
は有用性を欠くから,その採用に伴い,電圧を3.3Vに降圧するこ
とも,公知であるか,又は有用性を欠く。
bノイズの除去に関する点については,降圧の際にノイズが生じるこ
とは一般的な事象であり,ノイズによる動作不安定等を避けるために,
●(省略)●は当業者にとって技術常識であって(乙46),公知で
あるか,又は,当業者であれば通常採用し得る方法であって,有用性
を欠く。
(エ)本件技術情報4について
原告の部品の配列に関する主張は,「できるだけ近付けて配置した」
等というものであるが,具体的にいかなる配列を問題とするのか,不明
であり,特定として不十分である。そして,●(省略)●は,当業者の
技術常識の範囲に属する事項であって,原告の営業秘密ではない。
また,被告各商品における接続端子部分のクリスタル,コントローラ
等の各部材の内部配列は,原告が本件技術情報として主張する,別紙デ
ータ目録1−1ないし3,3−1ないし4及び7−2からうかがわれる
内部配列とは,全く異なっている。
以下,原告が主張する①ないし⑥につき,個別に,反論する。
a①について
クロックラインの配線が長くなると遅延が大きくなるという点につ
いては,配線が長くなれば,その配線を伝わる時間も長くなり,長さ
が短い場合に比べて遅延が大きくなるのは,一般常識である。
また,遅延が大きくなると,動作が不安定になり誤作動の原因とな
る点についても,クロックはタイミングの基準となるものである(乙
39)から,クロックに遅延が生じる場合に,動作が不安定になり誤
作動の原因となることは,技術的な常識の範囲に含まれる。
●(省略)●公知であるか,又は,当業者が通常採用し得る方法を
述べるだけで,有用性を欠く。
b②について
●(省略)●
したがって,これも公知であるか,又は当業者であれば通常採用し
得る方法であって,有用性を欠くものである。
c③について
●(省略)●あるから,公知であるか,又は当業者であれば通常採
用し得る方法であって,有用性を欠く。
d④について
●(省略)●
したがって,これも公知であるか,又は,当業者であれば通常採用
し得る方法を述べるもので,有用性を欠く。
e⑤について
原告が何の動作速度について主張するものかは不明であるが,動作
速度を決定する上で,様々な関係要素を考慮することは当然の対応で
あって,技術常識であるから,公知であるか,又は有用性を欠く。仮
に,原告の主張が動作速度が重要であるとの趣旨であれば,動作速度
の具体的数値が示されておらず,原告の主張は,失当である。
f⑥について
●(省略)●が容易に実施している対応であり,技術常識であるか
ら,公知であるか,又は,当業者が通常採用し得る方法であって,有
用性を欠く。
(オ)本件技術情報5について
●(省略)●本件技術情報4の内容と同じであると考えられ,これが
営業秘密とはいえないことは,前記(エ)のとおりである。なお,原告は,
異なるエンジニアによる配列の選択が偶然に一致することは通常生じな
いと主張する。●(省略)●容易に思い付くものであって(乙49),
公知であるか,又は有用性を欠く。
また,その主張の後半部分中,LEDの配置位置については,被告が
積智科技らに提案したものであり(甲27の65),原告から示された
営業秘密ではない。また,LEDの発光方向を柔軟に変えることができ
ることについては,LEDのタイプを変更することで発光方向を変える
ことは,技術常識であり,公知であるか,又は有用性を欠く。
(カ)本件技術情報6について
●(省略)●業者が適宜選択する設計的事項にすぎない。
したがって,これらの情報は,公知であるか,又は,当業者が通常採
用し得る方法若しくは設計的事項であって,有用性を欠く。
(キ)本件技術情報7について
原告が営業秘密と主張する部品表(甲59の2)記載の部品は,いず
れもフラッシュメモリ用の汎用部品であり,これを採用することによっ
て特別の効果が得られるわけでもないから,当業者が適宜選択する設計
的事項にすぎない。したがって,当該情報は,有用性を欠く。
また,被告各商品が当該部品表に記載された部品と同じ部品を使用し
ているわけでもない。
(ク)本件技術情報8について
被告は,遅くとも平成17年3月には,インベンテック社に依頼して,
被告各商品の外形・寸法,内部配列の基本的な部分を独自に開発済みで
あった。積智科技らが被告に送信した図面等に記載したものは,それ以
前に被告が積智科技らに提供したインベンテック設計図が基になったも
のである。
また,金属端子部分が覆われていない形状は,他社でも採用されてお
り,遅くとも平成15年12月25日時点で公知となっていた(乙2
5)。被告は,PCB自体に端子部分を含めて構成したことが新規の外
形設計であると主張するが,金属端子が外殻カバーで覆われていないと
いう点では同じである。
さらに,原告の主張によれば,原告商品が平成17年3月7日の時点
でドイツ・ハノーバーの展示会に出品され,原告設計図1も平成16年
8月4日の時点で著作権登録がされたというのであるから,寸法・形状
は,既に公知になっているはずである。
したがって,本件技術情報8は,非公知ではなく,また,原告の営業
秘密ではない。
エ原告は,PDCアーキテクチャに関する各情報が一体となった情報と
して検討すべきであると主張するが,いずれの情報も非公知性又は有用
性を欠き,これらを一体としてみても,特別の作用効果を生じるもので
はないから,いずれにせよ,有用性があるとはいえない。
(3)秘密管理性
積智科技らは,秘密保持契約を締結せずに,被告に対し,本件技術情報を
提供しており,また,積智科技らから被告に対する情報開示に当たって,秘
密として取り扱ってほしいとの要請を受けたことはない。このことは,本件
技術情報が秘密として管理されていないことを示している。なお,被告が,
積智科技らに対し,秘密保持契約の締結は不要であると述べたことはない。
また,就業規則(甲52)や誓約書(甲53)は,一般的な秘密保持義務
を定めるにすぎず,本件技術情報の秘密管理性を裏付けるものではない。さ
らに,原告が主張する,原告における製品のプロジェクトの情報管理の方法
について,これを裏付ける客観的証拠はない。
(4)非公知性について
否認又は争う。本件技術情報として原告が具体的に主張する情報の非公知
性については,前記(2)のとおりである。
8争点(3)イ(不競法2条1項7号該当性②:被告が原告から示された技術情
報を不正に使用したか)について
(原告の主張)
(1)被告による本件技術情報の取得
前記7(原告の主張)(1)のとおり,原告は,被告に対し,本件技術情報
について,モックアップの送付,電子メールのやりとり等によって開示した
ものであるから,「営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された
場合」に該当する。
⑵被告による本件技術情報を使用した被告各商品の製造・販売
ア被告は,原告から開示を受けた本件技術情報を製造委託先に不正に漏洩
し,これを使用した被告各商品を製造・販売している(甲35)。被告各
商品が本件技術情報を使用して製造されたことは,次のことから明らかで
ある。
●(省略)●これに対して,被告各商品は,サイズ(奥行き)が約32.
0㎜であり,金属端子部分は覆われておらず,ULGAのメモリパッケ
ージを使用し,コントローラにSM321を用いており,筐体の材質は
PC+ABSであって,LEDを備えている。したがって,被告各商品
が,本件技術情報を使用して設計・製造されたことは,明らかである。
なお,被告各商品では,TSOPではなくULGAを使用しているが,
TSOPで対応可能な技術成果を被告が得た以上,これをULGAに切
り替えるのは極めて容易であるから,最終的に,被告がULGAを選択
していたとしても,被告各商品が本件技術情報を使用していることに変
わりはない。
(イ)また,被告各商品は,PDCアーキテクチャと同一の構成を有して
いる。平成17年3月及び4月における原告商品の部品等との差異は,
本件技術情報3につき,●(省略)●そして,部品の配置には,無数の
選択肢・組合せ方があり得るから,それが偶然に一致するということは
あり得ず,被告各商品は,原告が提供したPCBAサンプル等から知り
得た回路図レイアウトをそのまま使用したものと考えられる。
イ被告の主張について
(ア)被告は,SM321が汎用品であるから,営業秘密ではないと主張
する。しかしながら,汎用品であっても,それが動作するかどうか,ま
た,動作するとして安定して動作するかどうかは,購入者側でテスト・
調整することが必要である。これは,インベンテック社のみならず,S
MI社にも,十分なノウハウはなかったものである。
したがって,被告は,SM321を使用した技術情報の提供を受けた
ために,これを採用することができたのであるから,汎用品であるとの
主張は,理由がない。
加えて,●(省略)●であった。
(イ)被告は,外形,内部配列の基本的部分において既に開発済みであっ
たと主張するが,前記2(原告の主張)(1)ウ(イ)のとおり,平成17年
3月の段階では,様々な問題点が未解決であり,被告は,小型USBフ
ラッシュメモリを開発済みであったとは,到底言えない状態であった。
(ウ)被告は,甲62及び63は,被告各商品とは無関係であると主張す
るが,これらの図面では,PDCアーキテクチャに含まれる情報である
アナロググランド層とデジタルグランド層を切り分ける構造が示されて
おり,被告各商品においても同様の配置となっていることから,被告が
PCBAサンプルを受領し,また,原告が提供した本件技術情報を使用
したことを裏付けるものである。
(エ)甲64及び65の基板のスルーホールの位置と被告各商品のスルー
ホールの位置(甲67)とが異なるのは,前記ア(ア)のとおり,原告商
品と被告各商品のメモリが異なることに伴う必然的なものである。
(3)被告に不正の利益を得る目的があること。
被告は,自らの利益を得るために被告各商品の製造・販売を実施したので
あるから,「不正の競業その他の不正の利益を得る目的」で本件技術情報を
使用している。
(被告の主張)
被告各商品は,原告及び積智科技から得た情報を基に作製されたものではな
く,被告とインベンテック社との協議に基づき作製されたものであって,原告
又は積智科技から示された情報を使用したわけではない。
被告が原告の営業秘密を使用した根拠として原告が挙げるものについては,
以下のとおり,いずれも原告の営業秘密を使用したものではない。
(1)被告各商品の奥行きが32.0㎜であることについては,被告と積智科
技との間でやりとりされた設計図では,奥行きは29.8㎜又は28.8㎜
であったから,原告の営業秘密ではない。また,原告が営業秘密として主張
するのは,●(省略)●被告各商品の奥行きは,当初は29.8㎜であった
ものの,端子部分の長さを規格に合わせて変更したことから,32.0㎜と
なったものであり,端子部分を除く長さには変更がないから,原告の情報を
使用していない。
(2)被告各商品の金属端子部分が覆われていないことは認める。しかしなが
ら,前記7(被告の主張)(2)ウ(ク)のとおり,このような形状は,他社のU
SBフラッシュメモリでも採用されており(乙25,32の1ないし4),
インベンテック設計図にも記載されていた情報であるから,原告の営業秘密
ではなく,また,被告が原告から得た情報を使用したものでもない。
(3)原告が主張するとおり,被告各商品はULGAのメモリパッケージを搭
載しており,TSOPのメモリパッケージを搭載した原告商品とは異なる。
そして,ULGAを搭載したUSBフラッシュメモリ製品は多数存在するか
ら,当業者に広く知られた情報である。加えて,原告と積智科技らとの間の
本件協議においては,積智科技らは,ULGAのメモリパッケージを用いる
ことはできないと主張していた(甲27の37,27の38)。したがって,
ULGAのメモリパッケージを使用することは,原告の営業秘密ではなく,
また,原告から得た情報を使用したものでもない。
(4)被告各商品のコントローラは,当初はSM321であったが,現在はS
M321CCである。そして,SMI社製のコントローラを用いたUSBフ
ラッシュメモリ製品は多数存在するから,これを用いることは,当業者に広
く知られた情報であり,原告の営業秘密ではなく,また,原告から得た情報
を使用したものでもない。
(5)被告各商品の筐体は,PCであるから,原告から得た情報を使用したも
のではない。また,USBフラッシュメモリの筐体にPCやPC+ABSを
使用することは,一般的であり,原告の営業秘密ではない。
(6)被告各商品がLEDを備えていることは認めるが,これはUSBフラッ
シュメモリにおいて一般的なことであり,原告の営業秘密ではなく,また,
原告から得た情報を使用したものでもない。
⑺原告が本件技術情報を示すものとして挙げる甲62及び63は,本体部
分と端子部分の幅が同一のストレート形状の物であるから,被告各商品と
は無関係である。
⑻また,甲64及び65の基板のスルーホールの位置は,被告各商品のスル
ーホールの位置(甲67)とは異なっており,甲64及び65と被告各商品
とは,無関係である。
原告は,スルーホールの位置の違いはメモリの選択に伴う必然的なもので
あると主張するが,接続端子部分のスルーホールの有無の違いは,メモリ選
択に伴うものではない。また,甲64及び65では,接続端子がすべて先端
部分から同じ距離に置かれているのに対し,甲67では,内側2本は外側2
本に比べて先端部分から離れた位置に置かれている等の差異も存在する。
9争点(3)ウ(不競法2条1項7号該当性③:原告の損害)について
(原告の主張)
前記6のとおり,被告各商品の販売によって被告が受けた利益額は,540
億円であり,これが原告の受けた損害と推定され(不競法5条2項),また,
弁護士費用としては,1億8000万円が相当である。
したがって,原告は,被告に対し,不競法4条により541億8000万円
の損害賠償請求権を有するところ,このうち,逸失利益19億円,弁護士費用
1億円の合計20億円を請求する。
(被告の主張)
否認又は争う。
10争点(4)ア(著作権侵害①:著作権侵害を理由とする損害賠償請求権につ
いての準拠法)
(原告の主張)
(1)ベルヌ条約の適用
日本及び台湾は,世界貿易機関(WTO)加盟国であり,知的所有権の貿
易関連の側面に関する協定(以下「TRIPS協定」という。)の加盟国で
あるから,同協定9条1項により,日本は,台湾との関係で,文学的及び美
術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)上の
義務を負うことになる。
⑵著作権侵害に基づく損害賠償請求権の準拠法
アベルヌ条約5条(2)にいう「著作者の権利を保全するため著作者に保障
される救済の方法」には,著作権侵害に基づく損害賠償請求が含まれると
解すべきである。そして,同項の「保護が要求される同盟国」とは,著作
物の利用行為地,すなわち,当該著作物に対する侵害行為が行われている
国と解すべきである。
本件において,被告は,台湾において被告各商品の製造行為を行ってい
るから,台湾が侵害行為が行われている国に該当し,台湾法が損害賠償請
求権の準拠法となると解すべきである。
イ仮に,著作権侵害に基づく損害賠償請求権についてベルヌ条約5条(2)
が適用されないと解する場合,我が国の国際私法(法例(平成18年法律
第78号による改正前の法例をいう。以下同じ。)又は法の適用に関する
通則法(以下「通則法」という。))上,著作権の準拠法に関する明文の
規定はないから,条理によって準拠法を決定すべきである。そして,条理
によって準拠法を決定するに当たっては,著作権侵害による損害賠償請求
の性質が不法行為による損害賠償請求であるとされることからすれば,法
例11条又は通則法17条等を参考にしながら,本件が台湾法上の著作権
の問題であること,被告の台湾著作権法の違反行為の態様,ベルヌ条約の
保護国法主義等にかんがみれば,法例11条2項又は通則法22条1項に
よる日本法の重畳適用は問題にならず,不法行為地法である台湾法が適用
されると解すべきである。
ウ仮に,法例11条又は通則法17条が適用されるとしても,法例11条
2項又は通則法22条1項にいう「不法」とは,同種の権利侵害が日本法
上違法であって不法行為と評価されれば足り,本件についていえば,翻案
権の侵害が,日本法上,違法と評価されれば足りると解すべきであるとこ
ろ,日本法上,翻案権侵害は,不法行為とされている。
また,後記14のとおり,被告の行為は,不法行為を構成し,不法であ
るから,当該要件を満たす。
(被告の主張)
(1)著作権侵害に基づく損害賠償請求権の準拠法は,財産権侵害に対する民
事上の救済の一環であるから,法律関係の性質は不法行為であり,法例1
1条又は通則法17条及び22条により,決定されるべきである。
そして,原因事実発生地(法例11条1項)又は加害行為の結果発生地
(通則法17条)は,原告が主張する「被告の台湾著作権法違反行為」に関
する事実関係を前提とする限り,台湾であり,台湾法が準拠法となるが,法
例11条2項又は通則法22条1項により,日本法上も不法であることが必
要である。
⑵原告は,著作権侵害に基づく損害賠償請求につきベルヌ条約が適用される
と主張するが,損害賠償請求は,財産権侵害に対する民事上の救済の一環で
あって,著作権の直接の効果ではなく,著作権を保全するための救済方法と
はいえないから,ベルヌ条約5条(2)にいう「救済の方法」には,含まれな
い。
11争点(4)イ(著作権侵害②:原告が設計図につき著作権を有するか)につ
いて
(原告の主張)
前記2(原告の主張)(1)のとおり,原告は,平成16年4月1日ころ,台
湾において,小型USBフラッシュメモリに関するデザインをし,同デザイン
に関する原告設計図1及び2を創作した。
したがって,原告は,原告設計図1及び2につき,著作権を有する。
(被告の主張)
原告が原告設計図1及び2を創作したことは,否認する。前記2(被告の主
張)(1)のとおり,原告設計図1及び2は,平成17年3月7日に被告が積智
科技らに提供したインベンテック設計図に基づいて作製されたものであり,イ
ンベンテック設計図の複製物であるから,原告にその著作権が発生することは
ない。原告設計図1は,公差の点を除外すれば,全長,端子の部分の長さ,本
体部分の幅,端子部分の幅,高さ,逆挿入防止の溝及び高さの各寸法はインベ
ンテック設計図と一致しており,各平面図の配置もこれとほぼ一致している。
また,原告設計図2は,裏面の平面図等が省略されているが,寸法は,全長が
修正されているだけである。
そして,著作権登録を行った積智科技らと原告とは別法人であることは,前
記1(被告の主張)のとおりである。
したがって,原告は,原告設計図1及び2について,著作権を有しない。
12争点(4)ウ(著作権侵害③:被告による著作権侵害行為の有無)
(原告の主張)
(1)前記10(原告の主張)のとおり,本件における著作権侵害に基づく損
害賠償請求権の準拠法は,台湾法である。そして,被告は,台湾法人である
原告から取得した原告設計図1及び2を利用して,台湾の製造委託先工場に
おいて,被告各商品の製造を行っており,これは台湾法上,翻案権の侵害と
解されている(甲36,37)。
したがって,被告は,故意によって,原告の著作権を侵害しており,これ
は,台湾法上,損害賠償請求の理由となる。
⑵仮に,法例11条2項又は通則法22条1項により日本法上も不法である
ことが必要であるとしても,日本法上,翻案権の侵害は不法行為であるとさ
れていることから,被告の台湾著作権法違反行為は,日本法上も不法である
ことは,前記10(原告の主張)のとおりである。
(被告の主張)
(1)被告が原告設計図1及び2を利用していないこと。
被告各商品は,インベンテック設計図を更に修正した図面に基づいて製造
されたものであって,被告は,原告及び積智科技らから提供を受けた設計図
を利用して,被告各商品を製造していない。
⑵台湾法上の著作権侵害行為の不存在
台湾の著作権法上,設計図から製品を製造する行為は,「複製」又は「改
作」に該当せず,著作権の侵害とはならない(乙12,24)。
(3)日本法上「不法」でないこと。
ア前記10(被告の主張)のとおり,損害賠償請求が認められるためには,
日本法上も不法とされることが必要であるところ,日本の著作権法上,設
計図から製造した商品には,設計図の著作権は及ばないから,設計図から
製品を製造する行為は,著作権侵害を構成せず,また,これについて一般
不法行為が成立することもない。
したがって,設計図から製品を製造する行為は,日本法上,不法ではな
い。
イ原告は「同種の権利の侵害が日本法上違法」であればよいと主張するが,
原告がその根拠とする文献の記載も,同種の具体的な権利侵害行為が日本
法上も違法であることを意味していることは明らかであって,検討すべき
は,設計図から製品を製造する行為が不法行為の成立要件を具備するか否
かである。
したがって,原告の主張は失当である。
13争点(4)エ(著作権侵害④:原告の損害)について
(原告の主張)
(1)原告は,台湾の著作権法88条に基づき,権利侵害者が不法行為により
得た利益の額を請求することができる。
⑵被告が受けた利益
前記6(原告の主張)のとおり,被告各商品の販売により被告が受けた利
益額は,540億円であり,これを損害賠償として請求することができ,ま
た,弁護士費用としては,1億8000万円が相当である。
したがって,原告は,被告に対し,541億8000万円の損害賠償請求
権を有するところ,このうち,逸失利益19億円,弁護士費用1億円の合計
20億円を請求する。
(被告の主張)
否認又は争う。
14争点(5)(不法行為の成否)について
(原告の主張)
(1)不法行為の成立について
ア本件における被告の行為は,公正かつ自由な競争の機能を阻害する行為
又は「工業上又は商業上の公正な慣習に反する…競争行為」(パリ条約1
0条の2(2))に該当し,当該行為によって保護すべき営業上の利益が侵
害された場合には,不法行為の成立における「違法行為」の要件は満たさ
れると解すべきである。
そして,日本及び台湾ともに,TRIPS協定の加盟国であって,同協
定2条1項により,パリ条約10条の2が定める不正競争行為の禁止規定
を遵守することが条約上の義務とされているところ,仮に,不競法に列挙
された行為以外の同条に該当する行為について不法行為と認めなければ,
条約違反になることから,これを不法行為と認めるべきである。
イ本件は,原告の技術力,開発に要した時間・費用・労力の結晶である技
術情報を,被告が,その社会的地位・信用を不当に利用して,何らの対価
もなく取得し,取得した技術情報等を使用して同様の製品を製造・販売し,
ただ乗り的にその販売利益を得ているものであるから,前記要件のいずれ
をも満たすものであって,不法行為に該当する。
また,本件の事実経過に照らして,被告には,故意過失があるというこ
とができる。
⑵損害額
前記(1)のとおり,被告は,不法行為に基づく損害賠償義務を負うところ,
その損害額は,前記6(原告の主張)と同様,逸失利益540億円及び弁護
士費用1億8000万円であって,原告は,そのうち,逸失利益19億円及
び弁護士費用1億円の合計20億円を請求する。
(被告の主張)
否認又は争う。
被告が,被告各商品の製造のため,原告から提供を受けた技術情報を使用し
た事実はない以上,一般不法行為が成立しないことは明らかである。
そして,「公正かつ自由な競争の機能を阻害する行為」及び「工業上又は商
業上の公正な慣習に反する…競争行為」が,具体的にいかなる行為を指すのか
が明らかではなく,主張自体失当である。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(原告と積智科技との同一性)について
証拠(甲1,20ないし22)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,積智科
技が登記認可日を平成17年11月16日として会社名を変更したものであっ
て,積智科技と原告とは,同一の会社であると認められる。
被告が指摘するように,著作権登録証に記載された積智科技の設立年月日の
記載(平成9年7月25日。甲3,21。)と原告の設立年月日(平成10年
6月18日。甲1。)とが異なっていること,本訴提起前の事前交渉の際に,
原告の当時の代理人は,既に商号変更がされていたにもかかわらず,旧商号で
ある積智科技の代理人と称していたこと(乙14の1,16ないし18)等の
事情が認められるものの,これらの事情は前記の会社名の登記変更届(甲2
0)の信用性を疑わせるものとはいえず,他に前記登記変更届の信用性を疑わ
せる事情もないことから,積智科技と原告とは,同一の会社であると認めるの
が相当である。
2争点⑵ア(不競法2条1項3号該当性①:原告商品が本件協議前に存在して
いたか)について
原告は,形態模倣,営業秘密の不正使用,著作権侵害及び不法行為を主張し
ているところ,いずれも,原告が,被告との間で,本件協議を行う前に,原告
商品を開発済みであり,また,本件技術情報を保有していたことを前提として
いる。
そこで,以下では,これらの原告の法的な請求原因を検討する前提として,
原告商品及びその技術情報である本件技術情報が開発済みであったか否かにつ
いて,検討する。
(1)本件協議前に原告商品が開発済みであったとは認められないこと
原告が,真実,本件協議前に原告商品を開発して,商品化していたのであ
れば,これを本訴において提出するのは極めて容易であるにもかかわらず,
訴状添付の原告商品の写真や,本訴を提起することを報じる報道における写
真(甲14)のほかは,原告商品の実物はもちろん,その写真すら提出して
いない。そして,前記の各写真も,それが本件協議前に原告商品として商品
化されたものの写真であることを裏付ける証拠はない。
したがって,そのことのみをもって,原告商品が本件協議前はもちろん,
現在においても存在すると認めることはできないが,以下では,事案の性質
にかんがみ,原告が,原告商品を開発済みであった根拠として主張する点に
ついて,個別に検討する。
ア原告の技術力について
原告は,実用新案の出願やPSDカードの開発等,原告商品を開発する
ために必要な技術を有していたと主張する。
原告が,本件協議が始まった平成17年3月当時,原告商品を開発する
技術を有していたかどうかはともかく,開発に必要な技術を有しているこ
とと,現実に開発をしていたこととは別の問題である(同じ製品を製造す
る技術があっても,当該製品を製造するアイデアがなければ,商品化する
ことができないことは当然である。)。
そして,PSDカードの開発・販売時期を示す客観的な証拠はなく,か
えって,証拠(甲74)によれば,PSDカードの実装図(原告が同一の
事業グループにある会社であると主張する積智日通卡作成のもの)の第1
回の制定日は本件協議終了後である平成17年11月28日と記載されて
いることからすれば,PSDカードが本件協議前に開発・商品化されてい
たと認めることはできない。
また,証拠(甲24,25の1ないし4,69,70の1,2)によれ
ば,原告がその根拠とする実用新案の出願(甲24及び70の1,2はい
ずれも原告が原告と同一の事業体であると主張する馨意科技による我が国
における出願,甲25の1及び69はいずれも積智日通卡による台湾にお
ける出願,甲25の2は馨意科技による中華人民共和国における出願,甲
25の3はパワー・データ・コミュニケーションズ・カンパニー・リミテ
ッド(原告の主張によれば,馨意科技の英語表記名である。)による大韓
民国における出願,甲25の4はパワー・データ・コミュニケーションズ
・カンパニー・リミテッド(前記に同じ。)によるドイツ連邦共和国にお
ける出願)は,いずれも平成15年に行われたものであるところ,これら
の実用新案に係る考案は,多伝送パネルメモリカードに関するものであっ
て,本件のような小型USBフラッシュメモリに関するものではなく,ま
た,その公報等に記載された図面における多伝送パネルメモリカードの形
態も,SDカードその他のメモリカードにUSB接続端子部分を付加した
ような形態(例えば,甲24の図4及び5)であって,本体部分の横幅は
USB接続端子部分よりわずかに広く,その厚さは接続端子部分とほぼ同
一であるという原告商品及び被告各商品の形態とは類似していないもので
ある。
イ原告商品の開発について
(ア)原告は,平成16年7月ないし8月の段階で,内部構成を含めて,
初版製品の開発設計を終えていたと主張し,その根拠として,SM32
1の設計図が同時期に完成していること(甲66)や,著作権登録及び
商標登録を行っていることを挙げる。しかしながら,SM321は,S
MI社が製造・販売する商品であって(乙33),原告が,原告商品の
開発に当たって,SMI社の商品開発に関与したということは直ちには
認め難く,また,これと並行して原告商品を開発したと認めるに足る客
観的な証拠はなく,かえって,SMI社は,原告担当者の陳述書(甲7
2)とは異なり,原告の関与を否定していること(乙42)からすれば,
SM321の設計図(甲66)が平成16年8月に完成していることや,
原告担当者らの陳述書(甲72,73)の記載から,原告商品が開発済
みであったということはできない。
また,原告が平成16年8月に原告設計図1の著作権登録を行ってい
たとは認められないこと及び原告が原告商品の商品名として商標登録を
行ったとは認められないことは,後記(2)のとおりである。
(イ)原告は,平成16年11月には,PDCアーキテクチャによって構
成される小型USBフラッシュメモリのコントローラ周り・回路構成が
開発・確定されていたとして,その根拠として,その配線図と主張する
図面(甲60)の更新日や,SM321のデータブック(甲66)の更
新日を挙げる。
しかしながら,原告商品の配線図と主張する図面(甲60)は,その
右下部に,「Date」として,本件協議が終了した後であり,かつ,本訴
提起後である「23−May−2009」との日付が記載され,また,
「File」として,「H:/SONY/SONY/SM321-LGA-SONYV1」という,本
来,本件協議前に作製されていたのであれば記載されるはずのない被告
の名称を含む名称が記載されていることに照らして,平成16年11月
の時点で,この図面が存在していたと認めることはできない。なお,原
告は,これらの記載につき,専用ソフトからPDFファイルにスキャン
する際に,原告担当者が本件訴訟資料を保管するファイルに保存したか
らにすぎないと主張するが,その主張自体,図面上に記載された日付や
図面の名称が変更されたことの合理的な理由とは認められず,採用する
ことはできない。そして,当該図面に対応する部品表として提出する書
面(甲59の2)も,これが小型USBフラッシュメモリに関するもの
であることを裏付けるに足る客観的な証拠はない。
また,SM321のデータブック(甲66)の記載が,原告が原告
商品の回路構成を開発していたことの証拠とはならないことは,前記
(ア)と同様である。
このほか,原告は,原告商品を開発済みであった証拠として,ガーバ
データ(甲61,62)やPCBデータ(甲63)の存在を挙げる。し
かしながら,甲61については,そのフォルダ内に保存されたファイル
内容は不明であり,ガーバデータ(甲62)やPCBデータ(甲63)
も,その作製時期を示す客観的な証拠はない。
さらに,原告は,平成17年3月時点で製品の量産に必要な準備がさ
れていたとして提出する証拠(甲64,65)についても,その作製時
期は明らかではなく,かえって,いずれの文書とも,図面上部の文書の
ファイル名の記載と推認される箇所に「SM321-LGA-SONY_V1」と被
告の名称を含む記載があることからすれば,これらの図面が本件協議開
始前に作製されていたと認めることはできず,これをもって,原告が平
成17年3月ころに製品の量産に必要な準備を行っていたということは
できない。
ウCeBITへの出品について
原告は,平成17年3月10日からドイツで開催されたCeBITに小型
USBフラッシュメモリを出品していたと主張する。しかしながら,原告
がCeBITに参加していたことは認められるものの(甲47,48),出
品した原告商品の実物又は写真その他原告がCeBITに原告商品を出品し
ていたことを示す客観的証拠はない。
したがって,被告が,CeBITに原告商品を出品していたと認めることは
できない。
エモックアップの交付について
原告は,原告商品のモックアップを被告に交付したと主張するが,これ
を認めるに足る客観的証拠はない。原告は,モックアップを被告に送付し
た証拠として受領証兼配達票(甲7の1)を提出するが,これには送付さ
れた物が何であるかは記載されておらず,また,原告商品のモックアップ
の写真として提出されたもの(甲16)もその撮影時期等は明らかでなく,
これらをもって原告商品のモックアップが被告に対して送付されたと認め
ることはできない。
なお,被告が主張するように,本件協議開始前に原告商品が存在してい
たとすれば,モックアップではなく,原告商品それ自体を交付すれば足り,
また,原告商品を前提として本件協議を行えば足りるところ,原告自身,
原告商品を被告に交付したとは主張しておらず,また,本件協議において,
原告商品の存在を前提に協議がされたことをうかがわせる証拠もないこと
からも,原告商品が存在したこと,ひいてはモックアップが存在し,これ
を交付したということ自体,疑問といわざるを得ない。
オこのほか,原告は,平成17年11月ころに,Lexar社やVivanco社に
対して原告商品の紹介・販売をした証拠として,請求書(甲4の1),国
際航空貨物運送状(甲4の2),注文書(甲51)を提出するが,これら
の書類には,商品の形態は記載されておらず,それに記載された商品が,
どのような形態であったかは,明らかではない。かえって,証拠(甲51,
乙23)によれば,Vivanco社のホームページには,原告が原告商品であ
ると主張する商品の品番と同一の品番の商品(VDU2P512,VDU2P1GB)
が掲載されているが,その形態は,原告が原告商品の形態と主張するもの
とは全く異なったものであることが認められる。原告は,これについて,
品番はVivanco社が決定するものであって,原告は関知するところではな
いことや,同社が一般販売を前提とした品番とは異なる品番を割り当てて
いたことなどと主張するが,同一の品番を異なる商品に付すとは考え難く,
採用し難いものであって,Vivanco社の注文書(甲51)が,原告が同社
に送付した商品が原告商品であることを認めるに足る証拠であるというこ
とはできない。
なお,原告は,原告からLexar社に対して2004年(平成16年)6
月3日付けで送付した電子メールに添付した図面として,被告各商品の形
態に類似した形態ともみることができる製品が記載された図面を提出する
(甲38の3の右端の2枚の図面)。しかしながら,他に,原告商品が存
在することを認めるに足る証拠はなく,また,前記のとおり,平成17年
3月の時点で原告商品が開発されていたとは認められないこと及び本訴に
おける原告の証拠提出における態度に照らして,当該図面が当該電子メー
ルに添付されていたとは,直ちに認めることはできない。
カ以上のことからすれば,原告が平成17年3月時点で原告商品及びその
回路構成を開発済みであったと認めることはできず,また,本件協議終了
後においても,原告が原告商品を製造・販売したと認めることはできない。
⑵本件協議前に原告設計図1及び2が存在したとは認められないこと。
ア証拠(甲3,8,21,22,乙3,4)によれば,459号登録は,
平成16年8月4日に協進会に対して登録の申請がされ,同月9日に登録
されたこと,572号登録は,平成19年3月26日に協進会に対して登
録の申請がされ,同月28日に登録されたことが認められる。
そして,原告は,甲3及び21として提出した459号登録証に,原告
設計図1が添付されていることをもって,少なくとも,459号登録の申
請がされた平成16年8月4日の時点で,原告設計図1が存在していたと
主張する。
しかしながら,459号登録証として,添付書類に原告設計図1が含ま
れるもの(甲3,21)とこれが含まれないもの(乙3,4)が提出され
ており,また,原告が,本件訴訟において,当初,本来459号登録証に
添付されるべきものであるQBOXのロゴの図面(甲21,乙3,4)を
添付せず,原告設計図1のみを添付したものを459号登録証として提出
していること(甲3)からすれば,原告が提出する原告設計図1が添付さ
れた459号登録証(甲3,21)は,459号登録の申請に当たって,
原告設計図1が添付されていたことを示す証拠として,信用性が乏しいと
いうことができる。
そして,協進会自身,被告からの照会に対して,甲3や甲21に添付さ
れた原告設計図1は,459号登録の書類ファイルではなく,572号登
録の書類ファイルとして保存されていたと回答している(乙22)ことか
らすれば,原告設計図1が,459号登録の申請に当たって提出された書
類であったと認めることはできない。なお,原告は,協進会の回答(乙2
2)の真正な成立及び内容の信用性について疑問を呈するが,証拠(乙2
1,22)及び弁論の全趣旨によれば,当該回答(乙22)が,被告の依
頼を受けた者から協進会に対する回答依頼に基づいて協進会から回答され
たものであると認められ,その真正な成立及び内容の信用性を疑わせるに
足る具体的な事情も認められないことから,その成立の真正及び内容の信
用性ともに,認めることができる。
また,仮に,原告が主張するとおり,協進会においては,同一人からの
著作権登録の申請書類は,別の申請であっても,すべて同一のファイルで
保存していたというのであれば,原告設計図1が,459号登録と572
号登録のいずれの申請の際に提出されていたかということも,確定するこ
とができないこととなり,いずれにせよ,459号登録の申請の際に,原
告設計図1が提出されていたと認めることはできない。
イまた,572号登録に添付された図面(原告設計図2)は,孔(スリッ
ト又はギャップ)部分及びラベル部分の記載はないものの,その他の製品
のサイズ,形状,各図面の配置は,原告の被告に対する平成17年4月2
6日午後8時32分付け電子メール(甲27の31,乙11の1ないし
3)に添付された図面と同一であると認められるところ,当該図面,特に
奥行きが28.8㎜となっている点については,被告から,小型USBフ
ラッシュメモリの奥行きを1㎜短くしてほしいとの要望に従い,積智科技
(原告)が,奥行きを29.8㎜から28.8㎜に修正して,被告に対し,
前記電子メールに添付して送信したものであると認められ(甲27の30,
31,乙11の1ないし3),それ以前に,原告において,奥行きを28.
8㎜とする図面を作成したと認めるに足る証拠はない。したがって,原告
設計図2は,前記平成17年4月26日午後8時32分付け電子メールに
添付された図面を基に作成されたものであって,その作成日は,同電子メ
ールの日付以降であると認められるから,572号登録証に記載された著
作物の完成日付(この記載は,原告の申請どおりに記載されるものである
(甲23)。)である「民國93年4月1日」(平成16年4月1日)の
時点で作製されていたとは認め難い。このような原告の著作権登録申請に
おける態度からしても,459号登録証に著作物が完成した日付として記
載された「93年4月1日」(平成16年4月1日)との記載も信用する
ことができない。
ウこのほか,原告は,平成16年7月に原告商品の商品名であるQBOX
を商標登録している事実(甲49)も,原告設計図1を作製していたこと
を裏付ける旨主張する。しかしながら,原告商品の商品名がQBOXであ
ると認めるに足る証拠はなく,かえって,原告の関連会社であるPDCジ
ャパン株式会社は,「Q−Box」の名称でMP3プレーヤーを販売して
いること(乙28)からすれば,原告が,原告商品の名称として「QBO
X」の商標登録をしたと認めることはできない。
エ以上のことからすれば,原告が,本件協議前に,原告設計図1及び2を
作製していたと認めることはできない。
(3)被告の原告に対するインベンテック設計図の送信について
アインベンテック設計図が平成17年3月時点で存在していたこと。
(ア)証拠(乙5,53の1及び2)によれば,被告とインベンテック社
は,平成16年11月19日に,台湾において,薄型USBフラッシュ
メモリに関する実用新案の出願を行っているところ,当該出願の申請書
においては,実施例の図(第四A圖)として,USBの接続端子部分は
覆われておらず,本体部分の幅は,接続端子部分の幅よりわずかに大き
く,その厚さは接続端子部分とほぼ同一であるという,インベンテック
設計図に記載されたUSBフラッシュメモリの形態の特徴と類似したU
SBフラッシュメモリが記載されていること(なお,同図には,インベ
ンテック設計図と同様に,孔(ギャップ又はスリット)の記載もされて
いる。),第四B圖及び第四C圖には,本体部分にフラッシュメモリを,
接続端子の下側にコントローラを設置することが記載されていることが
認められる。なお,原告は,実用新案の出願に記載された図面には具体
的な寸法の記載がないこと等を主張するが,寸法は,USBの接続端子
部分の大きさとの対比によって,大まかながら把握することができ,寸
法の記載がないことをもって,当該図面に記載されたUSBフラッシュ
メモリの形態とインベンテック設計図に記載されたUSBフラッシュメ
モリの形態とが類似しないということはできない。
そして,証拠(乙6,29(いずれも枝番を含む。))によれば,①
インベンテック社と被告との間で,平成16年8月26日から,小型U
SBフラッシュメモリの開発に向けた協議・検討が開始され,当初は,
奥行きを26.8㎜とすることが検討されたが(乙29の2),平成1
6年9月22日の段階で,長さが3∼4㎜足りないことが判明したこと,
②同年10月15日ころには,被告各商品の形態の基本的特徴と類似す
る形態が記載された図面が作成されていること(乙6の2,29の6の
2),③遅くとも,同年12月6日には,インベンテック社から被告に
対し,ワーキング・サンプルが送付されていること(乙29の9の1な
いし3),④このワーキング・サンプルにおいてはコントローラとして
SMI321が用いられている(乙29の10の2)等,当該小型US
Bフラッシュメモリは,コントローラとしてSMI321を搭載するこ
とが検討されていたこと(このほか,乙29の20の1ないし5。なお,
これらの証拠によれば,SMI321とSM321とは,同じものと認
められる。),⑤遅くとも,平成17年1月24日には,インベンテッ
ク社から被告に対し,奥行きを29.8㎜とする小型USBフラッシュ
メモリの寸法図が送付されていること(乙29の20の1及び2),⑥
被告のインベンテック社に対する平成17年3月7日午前10時3分付
け電子メールにおいて,「貴殿から以前頂いた設計図を添付しますので,
赤で丸く囲った部分にご記入頂けますでしょうか。」との記載がされる
とともに,インベンテック設計図と同一の図面が添付されて送付されて
いること(乙29の26の1及び2)が認められる。
以上のことからすれば,被告が原告にインベンテック設計図を送付し
たと主張する平成17年3月7日午後7時6分付け電子メール(乙8の
1)より前の段階で,インベンテック社が作製した図面に被告が修正を
加えたものとして,被告の手元にインベンテック設計図が存在しており,
また,小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法と基本的な回
路構成は,被告及びインベンテック社において検討済みであったと認め
られる。
(イ)原告の主張について
a原告は,インベンテック設計図(乙8の2)に記載された日付が,
乙6の2の図面の日付と同一であると指摘する。
確かに,いずれの図面においても,日付として「18-Oct-04」と記
載されている。しかしながら,被告とインベンテック社との協議にお
いては,乙6の2の図面と類似した図面であるが,それよりも開発が
進んだ段階のものであって,インベンテック設計図よりも前の段階の
他の図面においても,乙6の2の図面と同一の日付のまま,送付され
ていること(乙29の21の2,29の23の2,29の24の2)
からすれば,日付を変更しないまま,協議・検討を行っていたものと
認められ,日付の変更がないことをもって,インベンテック設計図が
存在していなかったということはできない。
bまた,原告は,インベンテック社の被告に対する平成16年10月
18日付け電子メール(乙6の1)中の「push-pushslot」との記載か
ら,当該電子メールはUSBフラッシュメモリ以外の製品についての
ものであって,乙6の2の図面は当該電子メールに添付されていたも
のではないと主張する。
しかしながら,小型USBフラッシュメモリの開発に当たっての被
告とインベンテック社との間の電子メールのやりとり(乙29の6の
1,29の21の1,29の23の1,29の29の1及び2),被
告の原告に対する平成17年5月12日午後4時32分付け電子メー
ル(甲27の46)によれば,被告が製品化を検討していた小型US
Bフラッシュメモリは「push-pushslot」を採用することを検討してい
たことが認められる。
したがって,前記の平成16年10月18日付け電子メールに
「push-pushslot」との記載があることをもって,当該電子メールは,
小型USBフラッシュメモリに関するものではないということはでき
ない。
なお,このほか,原告は,乙6の2の図面に,スリット又はギャッ
プの記載がないと指摘するが,当該図面にスリット又はギャップが記
載されていることは明らかであるから,原告の指摘は,およそ失当で
ある。
cさらに,原告は,インベンテック社の検討においては,逆挿入や接
続端子のスロット幅の問題等が解決していなかったと主張する。
しかしながら,逆挿入の問題については,本体部分の縁に1.0㎜
×0.6㎜の段差を設けることで解決していると認められる(乙29
の15ないし29の18。なお,このことは,原告設計図1及び2に
おいても,同様の構成が記載されており,また,本件協議においても,
同様の構成を採用することを前提に議論されていること(甲27の2
1,27の23,27の28,27の31,27の45,27の46,
27の51)からも,裏付けられる。)。そして,原告が問題点とし
て指摘するその他の点についても,仮に,これらの点について最終的
な結論が出ていなかったとしても,いずれも,小型USBフラッシュ
メモリの基本的形態や回路構成に影響するものとは認められないから,
被告及びインベンテック社においてインベンテック設計図が作製済み
であり,また,小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法及
び回路構成については開発済みであったとの認定を妨げるものではな
い。
イ被告から原告に対してインベンテック設計図が送付されていたと認めら
れること。
証拠(乙8の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に
対し,平成17年3月7日午後7時6分付け電子メールに添付して,イン
ベンテック設計図を送付したと認められる。
原告は,インベンテック設計図を受領してないとして,縷々主張するが,
以下に述べるとおり,いずれも理由がない。
(ア)原告が被告に送付した平成17年3月7日午後2時39分(訳文に
は,「38分」とあるが,「39分」の誤記と認められる。)付け電子
メール(乙1)では,ガーバーファイルの送付があれば,詳細を検討し
て見積もりを出す旨,連絡しているところ,原告は,当該電子メールは,
通常のUSBフラッシュメモリについてのものであって,検討を開始す
る段階で小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルが存在するの
は不自然であると主張する。
しかしながら,同電子メール中の「ご興味をお持ちのUSBフラッシ
ュカード」,「ご心配されている規格の全部を強調するか,もしくは,
我々より通常の規格とするように致します。」との記載からすれば,こ
れは,「通常の規格」とは異なるUSBフラッシュメモリを話題にして
いるものとみるのが自然である。そして,原告が被告に対し平成17年
3月24日午前10時39分付けの電子メールで通常のUSBフラッシ
ュメモリの見積もりを送付した(甲27の1)のに対し,被告担当者で
あるP2は,原告に対し,「混乱しています」,「2日目に話し合った
COB版の見積書はどうなっていますか」旨,連絡していること(甲2
7の2)からすれば,P2が原告から送付を受けることを期待していた
見積書は,通常のUSBフラッシュメモリに関するものではなく,小型
USBフラッシュメモリに関するものであったと認められる。また,前
記アの被告とインベンテック社との間の小型USBフラッシュメモリの
開発経過及び平成17年3月7日の時点でインベンテック設計図が存在
していることに照らして,前記の同日午後2時39分付け電子メールの
送付の時点で,ガーバーファイルが存在し,かつ,その交付を求めるこ
とも,何ら不自然ではない。
(イ)また,原告は,インベンテック設計図が添付された前記電子メール
が送付された際に,宛先である原告担当者P4はドイツに出張しており,
同電子メールに対する返事の電子メール(乙20)を送信することがで
きなかったと主張する。しかしながら,出張先であっても,電子メール
を閲読し,それに対して返信することは可能であるから,出張中である
ことのみをもって,電子メールの送受信ができなかったということはで
きない。
(ウ)さらに,原告は,原告と被告との間で,インベンテック設計図が存
在することを前提としたやりとりがされていないこと等を主張するが,
原告と被告との間では,以下のとおり,インベンテック設計図を前提と
したやりとりが行われているものと認められる。
a本件各証拠上,原告が被告に対して最初に送付した小型USBフラ
ッシュメモリの図面であると認められる平成17年3月30日午後9
時2分付け電子メール(甲27の4)に添付された図面には,
「Labelarea」及び「Depressarea」の記載があることから,当該電子
メールが送付された時点では,小型USBフラッシュメモリに
「Labelarea」及び「Depressarea」を設けることとされていたと認め
られる。そして,これらの「area」を設けることが,原告と被告のい
ずれの発案に基づくかについては,以下のとおりと認められる。
⒜まず,ラベル部分については,原告の被告に対する平成17年4
月13日午後6時19分付け電子メール(甲27の21)には,
「ラベル部分の寸法がなかったため,図面上でステッカーはありま
せん。ラベル部分の寸法を教えていただければ,図面を修正いたし
ます。」との記載がされていることからすれば,ラベル部分を設け
ることは,被告の発案によるものであって,また,被告から原告に
対しラベル部分を設けることが記載された図面が送付され,当該図
面にはラベル部分の寸法が記載されていなかったと認められる。そ
うすると,遅くとも,前記の同年3月30日午後9時2分付け電子
メールの送付より前に,被告から原告に対し,ラベル部分を設ける
ことが記載された図面が送付されていたと認められる。
そして,同日以前に送られた図面としては,インベンテック設計
図以外に,小型USBフラッシュメモリにラベル部分を設けること
が予定されたことを示す図面は証拠として提出されておらず,他に
小型USBフラッシュメモリにラベル部分を設けることを予定して
いることが原告に伝えられていたことを示す証拠もない。また,イ
ンベンテック設計図には,ラベル部分を設けることは記載されてい
るが,その寸法は記載されていない(乙8の2)から,原告が,被
告に対し,ラベル部分の寸法を質問することは,インベンテック設
計図が送付されていたことと整合するものである。
⒝次に,「Depressarea」とは,その設置位置に照らして,インベ
ンテック設計図における孔(スリット又はギャップ)を意味するも
のと認められる(乙6の1及び2,乙8の2)。そして,これにつ
いては,原告の被告(担当者はP3)に対する平成17年3月24
日午後9時1分付け電子メール(乙27の2)において,「貴社の
機械設計図の「メモ用のラベル貼付場所(thelabelareafor
memo)」の上部にあるのは何ですか?」との質問をしていること
からすれば,「Depressarea」を設けることも,被告の発案による
ものであって,また,被告から原告に対し「機械設計図」が送付さ
れており,それには,「メモ用のラベル貼付場所(thelabelareafor
memo)」の上部にある」もの,すなわち,孔(スリット又はギャ
ップ)が記載されていたものと認められる。
そして,同日以前に送られた図面としては,インベンテック設計
図以外に,小型USBフラッシュメモリに「Depressarea」を設け
ることが予定されたことを示す図面は証拠として提出されておらず,
また,それ以外に「Depressarea」を設けることを予定しているこ
とが原告に伝えられていたことを示す証拠はないことは,ラベル部
分と同様である。
加えて,前記平成17年3月24日午後9時1分付け電子メール
(乙27の2)には,前記のとおり,「貴社の機械設計図の「メモ
用のラベル貼付場所(thelabelareaformemo)」」との記載がある
ところ,インベンテック設計図にも「Labelareaformemo」との記
載があること(乙8の2)からすれば,原告の被告に対する当該電
子メール中の「貴社の機械設計図」とは,インベンテック設計図を
いうものと認めるのが相当である。
なお,原告は,当該電子メールを送信したことを争っているが,
原告の被告に対する平成17年3月29日午前11時38分付け電
子メール(甲27の3)では,原告が,「先週木曜日」(同月24
日と認められる。なお,訳文には火曜日とあるが,英文には
「Thursday」とあることから,誤訳であることは明らかである。)
に,被告の現地法人の社員であるP3に対し,小型USBフラッシ
ュメモリについていくつか質問した旨の記載があることからすれば,
原告の被告(担当者はP3)に対する前記同月24日午後9時1分
付け電子メール(乙27の2)は送信されていると認められる。
⒞以上のとおり,「Labelarea」及び「Depressarea」のいずれにつ
いても,被告の発案によって設けることとされたものであって,か
つ,これらを設けることは,被告が原告に対しインベンテック設計
図を送付することによって伝えられたものと認められる。
bまた,被告の原告に対する平成17年3月31日午後6時57分付
け電子メール(甲27の8)には,「他の寸法も教えてください。こ
れらの寸法はこちらのリクエストと同様かと思います。」との記載が
あることからすれば,当該電子メールより前に,被告から,原告に対
し,寸法の「リクエスト」がされていたことがうかがえる。そして,
インベンテック設計図以外に,寸法についての被告の「リクエスト」
がされたことをうかがわせる証拠はない。
cなお,原告は,インベンテック設計図を送付しているのであれば,
被告が,原告に対し,製品の寸法の質問をすること(甲27の8)や,
甲27の21や乙9の2のような図面を送付することはないと主張す
る。しかしながら,証拠(甲27の2,27の13,27の14,2
7の32,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,被告の原告に対する依
頼の主眼は,COB技術を用いて小型USBフラッシュメモリを製造
することができるか否かであったと認められることから,被告が原告
に対しCOB技術を用いた場合の小型USBフラッシュメモリの寸法
を質問したり,COB技術を用いた場合の図面を送付することは,不
自然なものとは認められない。
d以上のとおり,原告と被告との間では,インベンテック設計図を交
付したことを前提としたやりとりが行われていると認められる。
(エ)以上のことからすれば,インベンテック設計図は,被告から原告に
対し送付されていると認めるのが相当である。
なお,原告は,前記(ア)ないし(ウ)で検討した点以外についても,イン
ベンテック設計図の送付を受けていない理由を縷々主張するが,いずれ
も,前記認定を覆すに足りるものではない。
(4)小括
以上のとおり,本件協議前に原告商品が開発済みであったとして原告が主
張する根拠は,いずれも理由がなく,かえって,本件協議が開始されるに当
たって,被告から原告に対し小型USBフラッシュメモリの形態及び寸法を
記載したインベンテック設計図が送付されていたと認められるから,本件協
議前に,原告商品が,その回路構成等を含めて開発済みであったと認めるこ
とはできない。
したがって,不競法2条1項3号の「他人の商品」の要件を満たさないか
ら,その余の点を判断するまでもなく,被告各商品の販売が同号に該当する
ことを理由とする原告の損害賠償請求は理由がない。
3争点(3)ア(不競法2条1項7号該当性①:原告から被告に対して提供され
た技術情報の内容及び営業秘密該当性)について
原告の主張は,本件協議前に,小型USBフラッシュメモリに関する技術情
報を有していたことを前提としているところ,前記2のとおり,原告が,本件
協議前に,原告商品及びその回路構成等を開発していたとは認められないから,
原告の被告による営業秘密の不正使用の主張は,その前提を欠き,失当である。
もっとも,本件協議においては,原告と被告との間で,様々な技術的事項に
ついての協議・検討がされていることにかんがみ,以下では,原告が営業秘密
であると主張する本件技術情報の特定の有無及びその営業秘密該当性について,
検討する。なお,検討に当たっては,原告が本件技術情報として主張する技術
情報の内容と本件技術情報1ないし8として主張する技術情報との関係が明ら
かではないことから,以下では,それぞれについて,個別に検討する。
(1)モックアップ及びPCBAサンプルについて
モックアップ及びPCBAサンプルに示された技術情報が具体的にどのよ
うなものをいうのか,必ずしも明らかではないが,モックアップ及びPCB
Aサンプルの性質上,小型USBフラッシュメモリの外形・寸法及びその回
路の構成等をいうものと理解される。そして,これらの情報が営業秘密に該
当するか否かについては,後記(4)のとおりである。
なお,原告は,被告に対し,モックアップを交付したと主張するが,これ
が交付されたと認められないことは,前記2エのとおりである。
また,原告は,被告に対し,平成17年4月20日にメモリとしてTSO
Pを使用したPCBAサンプルを交付したと主張する。確かに,本件協議に
おいてやりとりされた原告と被告との間の電子メールの中には,これに触れ
たものとも解し得る記載があるものがある(甲27の36,27の43)。
しかしながら,原告と被告との間の電子メールのやりとりにおいては,当該
PCBAサンプルを検討・評価したことをうかがわせる記載はないこと,前
記2(3)イ(ウ)cのとおり,被告の原告に対する依頼は,COB技術を使用し
た小型USBフラッシュメモリの製造であったと認められるところ,同月2
8日付け電子メール(甲27の32,27の33)までCOB以外の他のメ
モリも検討対象に加えることをうかがわせる電子メールの記載はなく,それ
以前にメモリとしてTSOPを使用したPCBAサンプルを交付するという
ことは不自然であること,他に,PCBAサンプルの存在を示す証拠もない
ことからすれば,当該電子メールの記載のみをもって,原告から被告に対し
PCBAサンプルが交付されたと認めることはできない。なお,原告は,P
CBAサンプルにつき,検証物提示命令の申立てをするが,その前提として,
PCBAサンプルがどのようなものであって,どのような回路構成とされて
いたかについて,PCBAサンプルの基となった図面を提出する等して,自
らその内容・存在を明らかにすることができるにもかかわらず,何らこれを
示す証拠を提出していないこと(別紙データ目録1−1ないし3,3−1な
いし4及び7−2の図面に示された情報とPCBAサンプルの部品配列が異
なることは,原告自身が認めるところであり,また,甲59ないし65の各
図面等の作製時期について,原告の主張を採用することができないことは,
前記2のとおりである。)から,検証物提示命令の必要性を欠くものと認め
られる。
(2)別紙データ目録1−1ないし10(7−1を除く。)について
原告が,これらの図面に含まれた技術情報のうち,具体的にどのような技
術内容をもって営業秘密と主張するのか,明らかではない。
もっとも,各図面の上部に記載された各証拠及び各図面の記載内容によれ
ば,別紙データ目録2,4ないし6(枝番を含む。),7−2ないし4につ
いては小型USBフラッシュメモリの外形・寸法を営業秘密として主張する
趣旨と,別紙データ目録8ないし10はLEDに関する情報を営業秘密とし
て主張する趣旨と解されるところ,これらの情報が営業秘密に該当するか否
かについては,後記(4)のとおりである。
また,別紙データ目録1−1ないし3,3−1ないし4については,この
設計図自体及びそれに示された回路の構成等を営業秘密と主張する趣旨と解
されるが,原告がPDCアーキテクチャとして具体的に主張する回路構成の
営業秘密該当性については,後記(4)のとおりである(なお,原告が主張す
る具体的な回路構成の内容であるPDCアーキテクチャには,これらの図面
に含まれていないものがあることは,原告も認めているところであるが,こ
れらの図面から推認される主要な部品の配置とPDCアーキテクチャとして
具体的に主張する部品の配置とは,大きく異なっていると認められる。)。
また,その余の点については,これに示されたどのような技術情報が営業秘
密であると主張し,また,それを被告がこれをどのように使用しているのか
について,何ら具体的に主張していないから,その部分に関する原告の主張
は,失当である。
なお,別紙データ目録7−1につき,原告は,当初,これを営業秘密とし
て主張していたが,当該図面は,USB2.0の規格を記載した公知のもの
(甲27の47,乙29の29)ではないかとの裁判所の指摘を受けて,当
該主張を撤回した(当裁判所に顕著な事実)。このことや,営業秘密の不正
使用の主張が,訴訟提起後,約1年半を経過して主張され,かつ,以後,原
告において営業秘密を特定することに相当の審理期間を要したという本件訴
訟の経過にかんがみると,原告の営業秘密に関する主張は十分な検討を経る
ことなくされたことがうかがわれる。
(3)付随情報及び補足情報について
原告は,これらの具体例として,各メモリパッケージにおける容量の増大
の可否,実装に関する諸問題,製品の筐体の材質に関する情報,LEDに関
する情報を挙げており,以下,その例示されたものについて,検討する。
なお,原告は,これらの例示された情報以外にも,本件協議において主と
して電子メールで提供された情報も営業秘密であると主張する。しかしなが
ら,本件協議においては,多数の電子メールのやりとりが行われている(甲
27(枝番を含む。))ところ,これらの電子メールに記載されたいかなる
情報をもって営業秘密と主張するのか,何ら具体的に内容を特定していない
とともに,それがいかなる理由で営業秘密であると主張するのかも明らかに
していないから,例示された部分以外に係る原告の主張は,営業秘密の特定
を欠き,失当である。
ア各メモリパッケージにおける容量増大の可否について
(ア)COB,ULGA,TSOP等の各メモリパッケージの容量及びサ
イズについては,メモリパッケージの製造メーカーに確認すれば容易に
確認することができる情報であって,公知であると認められる(弁論の
全趣旨)から,営業秘密であるとは認められない。
(イ)なお,原告の主張が,小型USBフラッシュメモリの寸法を前提と
した上でのメモリパッケージの容量の増大の可否をいう趣旨であるとす
れば,具体的に,小型USBフラッシュメモリの寸法と容量とのどのよ
うな関係をもって営業秘密として主張するのか,明らかではなく,また,
いかなる趣旨で被告が当該情報を使用していると主張するのかも明らか
ではないから,原告の主張は,失当である。
また,本件においては,前記2(3)のとおり,被告から原告に対し,
インベンテック設計図を交付することによって,小型USBフラッシュ
メモリの寸法情報が提供されていると認められるところ,このような被
告が提供した寸法情報に基づき,公知であるメモリパッケージの寸法も
考慮して容量の増大が可能か否かを検討するのは,その製造の委託を受
けた者であれば,通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎ
ないというべきであるから,有用性を欠くというべきである。
●(省略)●原告が提供した情報に基づき,被告各商品においてUL
GAを使用していると認めることはできない。
(ウ)さらに,原告は,COBに関する情報を被告が使用していないこと
を前提として,原告が提供した情報により,不必要な研究開発費の投資
を回避することができたという意味で有用性があると主張する。
しかしながら,COBを用いた場合の容量と寸法との関係について,
当業者であれば通常の創意工夫の範囲内で検討することができる設計的
事項であって,有用性を欠くというべきであることは,前記(イ)と同様
である。また,そもそも,前記2(3)イ(ウ)cのとおり,被告が原告に委
託したのは,COB(これ自体は,公知の事項であると認められる。)
を用いた小型USBフラッシュメモリの製造の可否であることからすれ
ば,COBを使用して被告が希望するサイズ・容量の小型USBフラッ
シュメモリを製造することができるか否かということは,そもそも,被
告にこれを開示し,被告がこれを使用することを前提に検討されたもの
であるから,仮に,被告が,原告が提供したCOBによっては被告が希
望するサイズ・容量の小型USBフラッシュメモリを製造することがで
きないという情報に基づき,被告各商品ではCOBを使用しなかったと
しても,それは,被告の原告に対する委託の趣旨に反するものではなく,
技術情報の不正な使用に該当するものでもない(詳細は,後記4参照)。
イ実装に関する諸問題について
実装に関する諸問題とは,具体的にいかなる情報をいうのか,明らかで
はなく,営業秘密の特定を欠くから,原告の主張は,失当である。
ウコストとの関連性に係る情報について
コストとの関連性に係る情報とは,具体的にいかなる情報をいうのか,
明らかではなく,営業秘密の特定を欠くから,原告の主張は,失当である。
なお,本件協議の過程においては,各メモリパッケージの価格(甲27
の45)や,小型USBフラッシュメモリの組立価格の見積もり(甲27
の48)が示されている。しかしながら,各メモリパッケージの価格は,
当業者であれば容易に知ることができる情報であって,非公知の情報であ
るとは認められない。また,小型USBフラッシュメモリの組立価格につ
いては,被告の原告に対する依頼が,小型USBフラッシュメモリの製造
である以上,当然に示されるべき情報であって,被告が,これを取得し,
原告に製造を委託するメリットがあるかどうかを検討するのは,当然のこ
とであって,何ら,営業秘密の不正使用には該当しない。そして,他に,
原告が,被告がこれらの情報をどのように使用したことをもって営業秘密
の不正使用と主張するのかは,明らかではないから,原告の主張は,理由
がない。
エ製品の筐体の材質に関する情報
原告は,原告商品の筐体の材質は,PC+ABSであると主張するとこ
ろ,原告商品の筐体の材質がPC+ABSであると認めるに足る証拠はな
い。また,被告各商品の筐体の材質が,PC+ABSと認めるに足る証拠
もないから,被告が,原告が保有する営業秘密を使用したと認めることは
できない。
なお,本件協議の過程において,筐体の材質に関して,被告から原告に
対して,「2種類の樹脂を同時に使ってSimpletoolingを実行すること」
の可否を尋ねた(甲27の66)のに対し,原告が「素材がPCとABS
であることは分かって」いると回答し(甲27の67),さらに,被告が
「PCと合成ゴムを同時に1モールドの射出成形機で射出可能か」と質問
した(甲27の68)のに対し,原告が「PC+人工ゴムは,実は私たち
はすでにトライ済みです。これは今のトレンドとなっているようで」と回
答していること(甲27の71)に照らして,筐体の材質については,被
告の提案に基づき,原告においてその可否を検討したにすぎず,原告が開
発した原告が保有する技術情報を提供したものということはできないとと
もに,技術常識及び原告の回答内容に照らして,素材としてPC+ABS
又はPC+合成ゴム(人工ゴム)を用いるということ自体,公知の情報で
あると認められる。
オLEDに関する情報
これについては,後記(4)のとおりである。
(4)原告が本件技術情報の内容として具体的に主張する各情報について
以下に個別に挙げる各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下に述べるとお
り,本件技術情報1ないし8は,いずれも原告が保有する営業秘密であると
認めることはできない。
ア本件技術情報1について
原告は,本件技術情報1は,配線図(甲60)に示されていると主張す
る。しかしながら,前記2(1)イのとおり,配線図(甲60)の作製時期
についての原告の主張は採用することができず,他に,本件技術情報1が,
原告が保有する技術情報と認めるに足る証拠はない。そして,本件技術情
報1は,以下のとおり,営業秘密ということもできない。
●(省略)●
(オ)したがって,本件技術情報1は,原告が保有する営業秘密とは認め
られない。
イ本件技術情報2について
(ア)SM321・44ピンは,SMI社が一般に販売するUSBフラッ
シュ・ディスク・コントローラであり(甲66,68,乙33),これ
を使用することは,公知の情報であって,また,原告が保有する情報で
もないから,これが原告の保有する営業秘密であるとは認められない。
なお,前記2(3)のとおり,被告が小型USBフラッシュメモリのコ
ントローラとしてSM321を採用することは,本件協議以前のインベ
ンテック社との協議において検討されていた事項であり,原告が提供し
た情報に基づき,被告がこれを採用したとも認められない。
●(省略)●事項は,フラッシュメモリの仕様書に定められているものと
認められる(乙44)から,公知の情報である。
(ウ)なお,原告は,SM321は,原告がSMI社にアイデアを提供し
て開発されたものであると主張するが,前記2(1)イ(ア)のとおり,これ
を裏付けるに足る客観的な証拠はなく,かえって,SMI社はこれを否
定している(乙42)。そして,仮に,SM321の開発に当たり,原
告がSMI社にアイデアの提供をしていたとしても,SMI社がSM3
21を採用するUSBフラッシュメモリの製造業者にSM321に関す
る情報を提供し,当該製造業者がこれを使用することを妨げる事情があ
る(すなわち,これらの行為が原告の営業秘密を不正に開示・使用した
ことになる)とは認められず,いずれにせよ,本件技術事項2が,原告
の保有する営業秘密ということはできない。
(エ)したがって,本件技術情報2も,原告が保有する営業秘密であると
は認められない。
ウ本件技術情報3について
(ア)被告各商品がレギュレータを使用していないことは,当事者間に争
いがないから,被告が,本件技術情報3を使用していないことは,明ら
かである。
また,原告が,本件技術情報3を保有していたと認めるに足る証拠も
ない。
●(省略)●って,これらの情報は,公知であるか,仮に,SMI社
がSM321の動作電圧を秘密情報として扱っていたとしても,それは
原告の保有する営業秘密ではない。
●(省略)●あり(乙46),公知のノイズ・フィルタと本件技術情報3
におけるノイズ・フィルタとの構成の差異については,原告において何
ら主張していない。
(ウ)したがって,本件技術情報3も,原告の保有する営業秘密であると
は認められない。
エ本件技術情報4について
本件技術情報4が,原告から被告に対して提供されたと認めるに足る証
拠はない。そして,また,以下のとおり,本件技術情報4は,いずれも営
業秘密の特定を欠くか,又は,技術常識に属するものであって,営業秘密
とは認められないものである。
(ア)本件技術情報4①のクリスタルとUSBコントローラの距離をでき
るだけ近付けて配置したということについては,具体的に,どのような
距離・配置をいうのか,明らかではなく,営業秘密の特定を欠く。
●(省略)●
(オ)本件技術情報4⑤につき,特定の「動作速度」とすることが営業秘
密であるとの趣旨であれば,「動作速度」の特定を欠くから,営業秘密
の特定を欠く。また,動作速度が,原告が本件技術情報4⑤に挙げる各
事項を考慮して決定されることは,技術常識であると認められるから,
公知の情報である。
(カ)本件技術情報4⑥につき,コントローラとフラッシュメモリとを近
接して配置したとするが,具体的に,どのような配置・距離をいうのか,
明らかではなく,営業秘密の特定を欠く。また,●(省略)●情報であ
る。
オ本件技術情報5について
(ア)クリスタル,USBコントローラ及びフラッシュメモリを相互に近
接して配置したことについては,本件技術情報4と同一のことをいうも
のと解されるから,本件技術情報4と同様,営業秘密であると認めるこ
とはできない。
(イ)LEDの配置について
原告は,LEDの搭載の可否,搭載の位置,光線の方向,実装に関す
る情報が営業秘密であると主張する。
しかしながら,USBフラッシュメモリには,LEDを搭載するのが
一般的である(公知の事実)。なお,原告は,SDカードやメモリステ
ィック等にはLEDは搭載されていないことを指摘するが,SDカード
及びメモリスティックは,その使用態様に照らして,LEDを搭載しな
いのは当然であるから,原告の指摘は意味がないことは明らかである。
また,証拠(甲27の54ないし27の65,27の69)及び弁論
の全趣旨によれば,本件協議において,LEDの搭載の可否,LEDの
搭載の位置,光線の方向については,①被告から,原告に対し,LED
を搭載することは必須であるとして,その搭載位置の案としてAないし
Gの7つの案(いずれの案も,小型USBフラッシュメモリの本体部分
の末端部分に設置することを提案している。)を示して,搭載の位置を
検討するように指示したのを受けて,原告がその搭載位置(前記の被告
が提示した案のいずれを採用したのかは,必ずしも明らかではない。)
や●(省略)●て搭載位置等を再検討したこと,③被告からのLEDの
光線の方向の確認がされたのに対して,原告がこれに回答していること
等が認められる。
以上の経過に照らして,LEDの搭載の可否,搭載位置,光線の方向
は,被告から提案された選択肢及び条件を満たすために,適宜,原告に
おいて部品や搭載位置を選択したものであって,原告が被告に対して提
供した情報の内容は,当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計
的事項にすぎないものと認められる。また,LEDの実装に関する情報
についても,同様である。
したがって,これらの情報は,いずれも有用性があるとは認められず,
原告の保有する営業秘密であると認めることはできない。
なお,原告は,LEDの位置に関する情報は,回路の変更を行わずに
LEDのタイプを変更することで,LEDの発光方向を柔軟に変えるこ
とができる情報を含むと主張するが,原告は,これが,具体的にどのよ
うな情報を意味し,かつ,被告がこれを使用していることについて,何
ら具体的に明らかにしていないことから,営業秘密の特定を欠くととも
に,被告がこれを使用していると認めることもできない。
カ本件技術情報6について
小型USBフラッシュメモリを製造するためには,限られたスペース内
に各部品を近接させて配置する必要があるのは当然であって,コントロー
ラ,フラッシュメモリ,LEDを近接させて配置することは,技術常識で
あると認められる。
また,これらの部品の配列の順序につき,小型USBフラッシュメモリ
●(省略)●とは,当業者が通常行う工夫にすぎず,また,前記2(3)ア
のとおり,被告及びインベンテック社は,平成16年11月19日に行っ
た台湾における実用新案の出願の段階で,このような配置にすることを検
討し,これを申請書に記載していたことが認められるから,公知であるか,
又は有用性を欠くと認められるとともに,原告の保有する営業秘密である
と認めることもできない。
さらに,USBインターフェイスを上部とした場合に,LEDをフラッ
シュメモリの下,すなわち,本体部分の末端部分に設置することも,LE
DがUSBフラッシュメモリに通電中であることをユーザーに示すもので
ある以上,当業者が通常の工夫によって選択する設計的事項にすぎず,有
用性を欠くと認められるとともに,前記オのとおり,LEDを本体部分の
末端部分に配置することは,被告の提案・指示に係るものであるから,そ
のこと自体は,原告の保有する営業秘密と認めることはできない。
したがって,本件技術情報6は,いずれも原告が保有する営業秘密であ
るとは認められない。
キ本件技術情報7について
原告が営業秘密であると主張する部品表(甲59の2)が小型USBフ
ラッシュメモリに関するものであると認めることができないことは,前記
2(1)のとおりであるから,原告の保有する営業秘密であるとは認められ
ない。
ク本件技術情報8について
(ア)被告から原告に対しインベンテック設計図が送付されており,それ
以前に,原告が原告商品を開発済みであったとは認められないことは,
前記2のとおりである。そして,インベンテック設計図には,小型US
Bフラッシュメモリの寸法(奥行きは29.8㎜)が公差を含めて記載
されている(乙8の2)。また,インベンテック設計図に記載された小
型USBフラッシュメモリの形状も,USBの接続端子部分は覆われて
おらず,本体部分の幅は,接続端子部分の幅よりわずかに大きく,その
厚さは接続端子部分とほぼ同一であって,別紙データ目録2,4ないし
6(枝番を含む。),7−2ないし4に記載された,原告が自己の営業
秘密であると主張する小型USBフラッシュメモリの形状と酷似してい
る。さらに,前記2(3)のとおり,インベンテック設計図に記載された
商品の形態と酷似したUSBフラッシュメモリの形態は,被告とインベ
ンテック社が平成16年11月19日に台湾において出願した実用新案
の申請書中の図面(第四A圖,第四B圖)にも記載されている(乙53
の2)。
したがって,原告が自己の営業秘密として主張する商品の形状及び寸
法は,被告から原告に対して提供された情報を基にしたものであり,別
紙データ目録2,4ないし6(枝番を含む。),7−2ないし4の各図
面も,被告が提供したインベンテック設計図及び本件協議における原告
と被告との間の協議内容に基づいて,これを修正したものにすぎないも
のと認められる(甲27の31,乙11の1)から,原告が保有する営
業秘密と認めることはできない。
(イ)さらに,原告の主張によれば,原告は,原告商品を展示会に出品し
ており,また,外形及び寸法が記載された原告設計図1を平成16年8
月4日に著作権の登録申請をしたというのである(もっとも,いずれの
事実も認められないことは,前記2のとおりである。)から,原告の主
張を前提とすれば,原告商品の形状,寸法それ自体は,公知であって,
それが営業秘密となり得ないことは,明らかである。
なお,原告は,製品自体からは,製造誤差,寸法誤差その他から,元
の設計図上の数値を正確に導くことはできないとして,外形・寸法が営
業秘密であると主張するが,原告は,公差が記載された原告設計図1を
協進会に著作権登録しているのであるから,原告の主張は理由がないこ
とは,明らかである。
また,原告は,公表されたのは,一部の寸法及び形状にすぎず,その
ような形状及び寸法を実現し,実用的に商品として製造可能にする情報
を提供した場合には,それらの情報と一体となった形状及び寸法は,重
要な意味を持ち,非公知性は,否定されないと主張する。このうち,公
表された寸法及び形状は一部にすぎないとは,何をもって一部とする趣
旨か明らかではないが,前記のとおり,原告設計図1には外形及び寸法
が記載されているから,これが公知であるのであれば,寸法及び形状の
一部ではなく,全部が公知であると認められる。また,そのような形状
及び寸法を実現するための情報として非公知性を有するとの主張は,そ
のような形状及び寸法を実現するための具体的な回路配置等の構成と形
状及び寸法それ自体とを混同した主張であって,形状及び寸法自体が非
公知であることの理由とはならないことは明らかである。
ケこのほか,原告は,個別の情報が既知であったとしても,組合せ方が既
知ではなく,また,有機的に一体となり実用レベルで小型化した成果物と
して,有用性を有すると主張する。しかしながら,本件においては,小型
USBフラッシュメモリの寸法は,被告において決められていたのであり,
その寸法に応じて,公知の技術をどのように組み合わせて各部品を配置す
るかは,当業者であれば,通常の工夫の範囲内において適宜選択・決定す
る設計的事項であるということができ,当該組合せによって,予測外の格
別の作用効果を奏するものとも認められない。
したがって,これらの情報を一体とみたとしても,有用性があるとは認
められず,営業秘密であると認めることはできない。
(5)小括
以上のとおり,原告が営業秘密であると主張する技術情報は,いずれも
原告が保有する営業秘密であると認めることはできない。
4争点(3)イ(不競法2条1項7号該当性②:被告が原告から示された技術情
報を不正に使用したか)について
前記3のとおり,本件技術情報は,いずれも原告が保有する営業秘密である
とは認められないが,事案の性質にかんがみ,原告が本件技術情報を使用する
ことが「不正の競業その他の不正の利益を得る目的」又は「保有者に損害を加
える目的」による使用ということができるか否かについても,検討する。
(1)原告と被告が本件協議を開始するに当たって,秘密保持契約を締結しな
かったことは,当事者間に争いがない。
そして,前記第2の1の争いのない事実等及び2のとおり,①本件協議は,
被告が原告に対して,小型USBフラッシュメモリの製造を委託するもので
あり,②原告が,本件協議前に,原告商品及びその回路構成を開発していた
とは認められず,③被告は,本件協議の開始以前からインベンテック社との
間で小型USBフラッシュメモリの開発を行っており,本件協議を開始した
段階では,インベンテック設計図を有し,小型USBフラッシュメモリの形
状・寸法の検討及び基本的な回路設計等を行っており,④本件協議の開始当
初に,被告から原告に対し,インベンテック設計図が送付されていることに
加えて,前記3のとおり,本件技術情報は,その内容も公知であるか,又は,
有用性を欠くものであって,本件各情報を一体としてみても,公知のものを
組み合わせたものにすぎないものである。
以上のことからすれば,本件技術情報は,被告の委託を受け,被告が提供
した情報・条件を基礎として検討されたもので,本件協議以前に,原告が,
その固有の情報として有していたものとは認められない情報であって,かつ,
被告の商品として販売することが検討されていた小型USBフラッシュメモ
リの製造をするために提供され,提供に当たっては,被告がこれを使用して
小型USBフラッシュメモリを製造することが予定されていた情報であると
認められる。
(2)このような本件技術情報の性格からすれば,仮に,本件技術情報に原告
の保有する営業秘密が含まれており,被告が営業秘密に該当する技術情報を
使用していたとしても,被告が,これを使用することは,本件技術情報が被
告に対して提供された趣旨に合致こそすれ,これに反するものではなく,被
告が,「不正の競業その他の不正の利益を得る目的」又は「保有者に損害を
加える目的」で本件技術情報を使用したものと認めることはできないという
べきである。また,被告が,被告各商品を製造するために製造業者に製造を
委託するに際して,本件技術情報を開示することについても,同様である。
したがって,被告が本件技術情報を不正に使用・開示したものとは認めら
れない。
5不競法2条1項7号該当性についての小括
前記3及び4で述べたとおり,本件技術情報は原告が保有する営業秘密であ
るとは認められず,また,被告がこれを使用し,又は製造委託先に開示してい
たとしても,被告が「不正の競業その他の不正の利益を得る目的」又は「保有
者に損害を加える目的」でこれを使用又は開示したとは認められないから,被
告の行為が不競法2条1項7号の不正競争行為に該当することに基づく原告の
損害賠償請求は理由がない。
6争点(4)ア(著作権侵害①:著作権侵害を理由とする損害賠償請求権につい
ての準拠法)について
(1)著作物としての保護について
台湾及び日本は,WTOの加盟国であって,TRIPS協定9条1項によ
り,その加盟国は,ベルヌ条約の規定を遵守する義務を負うことから,日本
は,台湾に対し,ベルヌ条約に基づく義務を負う。
そして,台湾法人である原告が著作者である著作物は,ベルヌ条約3条
(1)a及び著作権法6条3号により,我が国の著作権法の保護を受けることに
なる。
(2)著作権侵害に基づく損害賠償請求権についての準拠法
ア著作権侵害に基づく損害賠償請求の性質は,不法行為であると解される
から,通則法附則3条4項により,同法の施行日(平成19年1月1日)
前に加害行為の結果が発生した不法行為によって生ずる債権については法
例11条1項により「原因タル事実ノ発生シタル地」の法律が,通則法の
施行日以後に加害行為の結果が発生した不法行為によって生ずる債権につ
いては通則法17条により「加害行為の結果が発生した地」の法律が,そ
れぞれ準拠法となる。
そして,本件において,原告が著作権侵害であると主張する行為は,原
告設計図1及び2から被告各商品を製造する行為であるところ,前記第2
の1の争いのない事実等のとおり,当該行為は台湾で行われていることか
らすれば,「原因タル事実ノ発生シタル地」(法例11条1項)及び「加
害行為の結果が発生した地」(通則法17条)ともに台湾であると認めら
れ,台湾法が準拠法となると解される。
なお,原告は,ベルヌ条約5条(2)により,台湾法が準拠法となると主
張する。しかしながら,前記のとおり,著作権侵害に基づく損害賠償請求
は,その被侵害利益が著作権であるというほかは,不法行為一般の問題で
あって,同規定にいう「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作
者に保障される救済の方法」とは認められないから,法例11条又は通則
法17条によるのが相当である。
このほか,原告は,法例又は通則法には著作権の準拠法に関する明文の
規定がないから,条理によって準拠法を決定すべきであると主張するが,
前記のとおり,著作権侵害に基づく損害賠償請求の性質は,不法行為であ
ると解され,法例及び通則法には,不法行為によって生ずる債権の準拠法
につき明文の規定(法例11条,通則法17条)があるから,原告の主張
は,失当である。
イ以上のとおり,法例11条1項又は通則法17条により,台湾法が準拠
法となるところ,損害賠償請求が認められるためには,法例11条2項又
は通則法22条1項により,「外国ニ於テ発生シタル事実」又は「外国法
を適用すべき事実」が日本法によっても不法となることが必要である。
なお,原告は,これらの各条項の意味につき,日本において,翻案権侵
害が違法とされていればよいという意味であると主張するが,条文の文言
自体,「発生シタル事実」又は「外国法を適用すべき事実」として,「事
実」それ自体を問題としていること,公序に基づき日本法を重畳適用する
というこれらの規定の趣旨に照らして,単に翻案権侵害が違法とされれば
よいというものではなく,事実それ自体,すなわち,本件においては,原
告設計図1及び2から被告各商品を製造する行為が,日本法上,不法であ
ることを要すると解すべきである。
7争点(4)イ(著作権侵害②:原告が原告設計図1及び2につき著作権を有す
るか)について
(1)インベンテック設計図と被告設計図1及び2との実質的同一性
アインベンテック設計図と原告設計図1とは,それらに記載された小型U
SBフラッシュメモリの形状は,原告設計図1には孔(スリット又はギャ
ップ)部分及びラベル部分の記載がない点が異なるほかは,いずれも,U
SBの接続端子部分は覆われておらず,本体部分の幅は,接続端子部分の
幅よりわずかに大きく,その厚さは接続端子部分とほぼ同一であるという
同一の形状を有しており,それぞれに記載された寸法も,いずれも奥行き
が29.8㎜,幅が14.5㎜,厚さが2.4㎜である等,ほぼ一致して
おり,これらに記載された各図も,原告設計図1においては小型USBフ
ラッシュメモリの斜視図が加えられているほかは,いずれも平面図,側面
図等の各図が記載され,その配置も一致していることからすれば,原告設
計図1は,インベンテック設計図の内容及び形式を覚知させるものであっ
て,インベンテック設計図と実質的に同一のものであると認められる。
イまた,原告設計図2は,原告設計図1とは,その奥行きの寸法を29.
9㎜から28.9㎜に1㎜短くされ,寸法の一部の記載がない点,左側面
図及び裏面からの平面図は記載されていない点において異なるものの,他
の記載されている寸法及び製品の形状,各図の配置は,同一であることか
らすれば,原告設計図1と同様の理由により,原告設計図2も,インベン
テック設計図の内容及び形式を覚知させるものであって,インベンテック
設計図と実質的に同一であると認められる。
(2)原告設計図1及び2がインベンテック設計図に依拠したものであること。
前記2のとおり,原告は,平成17年3月以前に,原告設計図1及び2を
作製していたと認めることはできず,かえって,被告から,原告に対し,同
月7日に,インベンテック設計図が送付されていたと認められる。
そして,原告設計図1及び2は,いずれも,孔(スリット又はギャップ)
部分及びラベル部分の記載はないものの,その他の製品のサイズ,形状,各
図面の配置は,それぞれ,原告の被告に対する平成17年4月18日午後1
1時17分付け電子メール(甲10の1,27の28)及び同月26日午後
8時32分付け電子メール(甲27の31,乙11の1ないし3)に添付さ
れた図面と同一であると認められるから,いずれも,被告から原告に対しイ
ンベンテック設計図が送付された後に作製されたものと認められる。
したがって,原告設計図1及び2は,インベンテック設計図に依拠して作
製されたものと認められる。
(3)小括
以上のことからすれば,原告設計図1及び2は,インベンテック設計図を
複製したものであると認められるから,そのいずれも「原告の」著作物と認
めることはできない。
よって,原告設計図1及び2について,原告が著作権を有すると認めるこ
とはできない。
8争点(4)ウ(著作権侵害③:被告による著作権侵害行為の有無)について
(1)台湾法上の著作権侵害の有無
ア前記6のとおり,著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の
準拠法は,台湾法であるところ,原告は,被告による被告各商品の製造が,
台湾法上,翻案権侵害になると主張する。
台湾の著作権法上,翻案とは,翻訳,編曲,脚色,映画化その他の方法
を用いて,既存の著作物を元にして別の著作物を創作することをいう(3
条1項11号)と規定されており(甲11),翻案の結果,創作されるも
のは,著作物であることが要件となる。そして,著作物とは,文学,科学,
芸術又はその他の学術分野に属する創作物をいうとされている(同項1
号)ところ,被告各商品のような工業製品を設計図に基づき製造すること
は,設計図の「実施」であって,創作的要素を含むものと認めることはで
きないから,製造された工業製品が著作物であると認めることはできない。
したがって,台湾法上,設計図から工業製品を製造する行為が,翻案に該
当すると認めることはできない。
そして,台湾法上の複製権侵害の有無について検討してみても,台湾の
著作権法上,複製とは,印刷,複写,録音,録画,写真,筆写その他の方
法を用いて,直接的又は間接的,永久的又は一時的に複製(再製)するこ
とをいう(3条1項5号)と規定されており(甲11),設計図から工業
製品を製造することは,著作物を複製(再製)するものとは認められない
から,これが,台湾法上,複製に該当すると認めることもできない。
また,台湾法上,「実施」は,著作権の権利の内容として認められてお
らず(甲11,乙12,24),これが,著作権を侵害するものとは認め
ることはできない。現に,台湾の裁判例等においても,設計図から工業製
品を製造することは「実施」であって,著作権の侵害にはならないと解釈
されている(以上につき,甲11,乙12,24)。
なお,原告がその主張の根拠として挙げる台湾の裁判例(甲37)は,
平面の美術著作から立体のぬいぐるみを作製した事案に関するものであっ
て,平面の美術著作を立体形式で新たに表現した著作内容であり,新しい
創意表現があるため翻案に属すると判断されたものであって,設計図から
工業製品を製造したという本件とは,事案を異にする。
イしたがって,台湾法上,設計図から工業製品を製造する行為が,翻案権
その他の著作権侵害になると認めることはできない。
(2)重畳適用される日本法上,不法といえるか。
前記6のとおり,不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには,
設計図から工業製品を製造する行為が日本法上不法であることが必要である。
そして,日本の著作権法上,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画そ
の他の方法により有形的に再製することをいう(2条1項15号)ところ,
設計図から製品を製造することが,既存の著作物を有形的に再製するものと
いうことはできないから,複製に該当すると認めることはできない。
また,日本の著作権法上,翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その
表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変
更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに
接する者が既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができる
別の著作物を創作する行為(最高裁平成11年(受)第922号同13年6
月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)をいうところ,被
告各商品のような工業製品は,著作物として保護されるものではないから,
設計図に従って工業製品を製造することは,翻案権侵害に該当するというこ
とはできない。
そして,設計図から工業製品を製造することが,他の著作権の支分権を侵
害するものとも認められない。
このほか,原告は,被告の行為は,一般不法行為を構成するから,日本法
上,不法であると主張するが,後記9のとおり,被告の行為が一般不法行為
を構成すると認めることはできない。
(3)小括
以上のとおり,仮に,原告設計図1及び2に原告の著作権が認められると
しても,被告各商品の製造は,台湾法上の翻案権その他の著作権の侵害行為
に該当せず,また,日本法上も不法であるとは認められないから,原告の著
作権侵害に基づく損害賠償請求は,理由がない。
9争点(5)(不法行為の成否)について
(1)原告は,本件における被告の行為が「原告の技術力,開発に要した時間
・費用・労力の結晶である技術情報を,被告が,その社会的地位・信用を不
当に利用して,何らの対価なく取得し,取得した技術情報等を使用して同様
の商品を製造・販売し,ただ乗り的にその販売利益を得ている」ことが不法
行為であると抽象的に主張するのみで,具体的に,被告のどのような行為を
もって,不法行為と主張する趣旨か明らかではないが,以下では,原告の主
張を合理的に解釈して,検討する。
ア原告の主張が,被告が本件技術情報(本件技術情報1ないし8を含
む。)を使用して被告各商品を製造したことをもって,不法行為であると
主張する趣旨であるとすれば,前記3及び4で被告の行為が不競法2条1
項7号の営業秘密の不正使用には該当しないと判断したとおり,本件技術
情報は,原告が保有するものではないか,又は,公知であるか,若しくは
有用性を欠くものであって,かつ,仮に,被告がこれを使用していたとし
ても,そのことは,本件技術情報が提供された趣旨に反するものではなく,
本件技術情報の不正な使用ということはできないから,これが社会的相当
性を逸脱した違法な行為ということはできない。
なお,対価の支払がないとの原告の指摘は,被告から小型USBフラッ
シュメモリの製造の委託を受けた原告に対価請求権が認められるか否かの
問題であって,委託の過程によって提供された情報を使用することの違法
性の有無とは,無関係の問題である。
イまた,原告の主張が,被告が,原告商品と同様の製品を製造しているこ
とをもって不法行為であると主張する趣旨であれば,そもそも原告商品が
存在しないことは,前記2のとおりであるから,原告の主張は,理由がな
い。
ウさらに,原告の主張が,原告設計図1及び2を利用して被告各商品を製
造したことをもって不法行為であると主張する趣旨であるとすれば,前記
7のとおり,原告設計図1及び2は原告の著作物ではないから,原告の主
張は,理由がない。
エそして,本件各証拠に照らしても,他に,被告の被告各商品の製造に係
る何らかの行為が,原告がいう「公正かつ自由な競争の機能を阻害する行
為」又は「工業上又は商業上の公正な慣習に反する…競争行為」(パリ条
約10条の2(2)参照)に該当して違法であると認める足る事情があると
は認められない。
(2)したがって,原告の一般不法行為に基づく損害賠償請求は,理由がない。
なお,原告は不競法に列挙された行為以外のパリ条約10条の2に該当す
る行為について不法行為と認めなければ,同条約違反になると主張する。し
かしながら,そもそも,被告の行為が,同条(2)の「工業上又は商業上の公
正な慣習に反する」ものとは認められないから,同条約10条の2に該当す
る行為につき不法行為と認めないことが同条約違反となるか否かを論ずるま
でもなく,原告の主張は,失当である。
10結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官岩慎
裁判官坂本三郎は,転官のため署名押印できない。
裁判長裁判官大須賀滋

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