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平成24年6月20日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10441号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年6月6日
判決
原告X
同訴訟代理人弁理士正林真之
八木澤史彦
髙野芳徳
被告日本電信電話株式会社
被告補助参加人株式会社
エヌ・ティ・ティ・データ
同代表者代表取締役山下徹
上記両名訴訟代理人弁護士水谷直樹
曽我部高志
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2010-300779号事件について平成23年9月29日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告の下記1の本件商標に係る商標登録の取消しを求める原告
の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決
書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおり
の取消事由があると主張して,原告が本件審決の取消しを求める事案である。
1本件商標
本件商標(登録第4657563号)は,「NTTデータ」の文字を標準文字で表
してなるものであり,平成14年3月18日に登録出願され,第42類「コンピュ
ータネットワークを介して行うオンラインショッピングによる購買履歴・帳票等の
データ処理を行う電子計算機用プログラムの提供及びこれらに関する情報の提供」
(以下「本件役務」という。)を含む第35類ないし第45類に属する商標登録原簿
に記載の役務を指定役務として,平成15年3月28日に設定登録されたものであ
る(乙1,2,6)。
2特許庁における手続の経緯
原告は,平成22年7月13日,本件商標の指定役務のうち,本件役務について,
継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のい
ずれもが使用した事実がないことをもって,不使用による取消審判を請求し,当該
請求は,同年8月2日に登録された(甲15,乙1)。
特許庁は,これを取消2010-300779号事件として審理し,被告補助参
加人の補助参加を受けた上で,平成23年9月29日,「本件審判の請求は,成り立
たない。」との本件審決をし,その審決書謄本は,同年11月28日,原告に送達さ
れた(甲18~20,弁論の全趣旨)。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,本件商標の通常使用権者である被告補助参加人が本件審判の
請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認めら
れる商標を本件役務について使用していた(商標法2条3項8号)から,本件商標
の登録を取り消すことはできない,というものである。
4取消事由
通常使用権者による本件商標の使用の有無についての認定判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)通常使用権の許諾について
ア本件審決は,被告補助参加人が本件商標に係る通常使用権者である旨を認定
している。
イしかしながら,被告及び被告補助参加人は,本件商標の使用許諾に関して,
許諾が口頭によるものか黙示によるものか,口頭による場合の合意の主体,黙示に
よる場合の評価根拠事実,許諾の時期並びに許諾に関する被告及び被告補助参加人
の機関の意思決定という各要件事実を主張していないから主張自体失当であり,本
件審決による認定は,主張に基づかない違法なものである。さらに,被告の子会社
の商号と一致する商標について被告が商標権者となっている事例は,23件はある
(甲25)ところ,被告及び被告補助参加人は,これらと本件商標の扱いの異同に
ついて主張していない。
被告及び被告補助参加人は,被告補助参加人が将来の使用許諾を前提として被告
に本件商標の登録出願を依頼するなどした旨を主張するが,その証拠とされる乙4
の余白手書き部分(2箇所)及び黄色の下線らしきものの部分(4箇所)の作成者
が不明である以上,乙4及び当該手書き部分等が反映された乙5に基づいて,当該
主張を裏付けることはできないし,乙6は,被告補助参加人にそれが交付されたこ
とを証明していない。また,本件商標については,出願手続において指定商品等の
削除等がされている(甲26の1・2)が,その経緯は,不明であって,乙6に記
載の登録内容が被告補助参加人の依頼に基づくものであるとは認められない。よっ
て,被告及び被告補助参加人による上記証拠に基づく使用許諾の主張は,採用でき
ない。
なお,被告補助参加人の希望だけで被告が高額にのぼる商標登録出願費用を負担
するということは,それ自体,不自然である。
ウむしろ,被告及び被告補助参加人は,許諾が有償か無償か,独占的な許諾か
否か,ライセンス期間が何年かといった,当然合意されるべき事項について主張し
ていないこと,被告補助参加人従業員の報告書(甲14)は,本件審判のために裏
付けをとることもなく,結論ありきで使用許諾が存在する旨を記載したものであっ
て,その作成者と他の証拠(乙4)の作成者との関係が不明であり信用できないこ
と,被告による許諾には書面が存在せず,被告及び被告補助参加人の主張も,前記
のとおり不明確であること,被告による被告補助参加人関連の各登録商標の出願日
(平成4年ないし平成18年。本件商標の出願日は,平成14年3月18日である。)
がいずれも昭和63年5月設立の被告補助参加人の事業活動時期と関連がないこと,
日本電信電話株式会社等に関する法律(以下「法」という。)8条,25条1項によ
り,被告以外の者は,その商号中に「日本電信電話株式会社」という文字を用いる
ことが刑事罰をもって禁じられているから,被告の商号を英語表記したものの略称
である本件商標のうち「NTT」を含む本件商標を他者に対して使用許諾すること
が想定し難いため,被告と被告補助参加人との間には特殊な関係が存在すること,
被告補助参加人が本件商標の出願当時,本件商標と称呼等を同じくする商標登録を
得ていたのにその後権利放棄しているから,本件商標について被告に登録出願を依
頼するのが不自然であること(甲26の1),被告補助参加人が現在登録している多
数の商標がいずれも「NTT」を含まないものに限られること(甲27),旧郵政省
及び総務省に対して,かねてより被告のグループ全体に「NTT」ブランドを使用
させるべきではないとの意見が重ねて示されており(甲28,29),被告がこれに
逆行する形で「NTT」ブランドを被告補助参加人に使用許諾するとは考え難いこ
とから,被告は,これらの登録商標について被告補助参加人に使用許諾をすること
を意図していなかったと推認されることに照らすと,被告による本件商標の使用許
諾は,存在しなかったとみるのが自然である。
エ前記のとおり,被告以外の者は,その商号中に「日本電信電話株式会社」と
いう文字を用いることが刑事罰をもって禁じられており,被告の商号を英語表記し
たものの略称である本件商標のうち「NTT」の部分は,「データ」の部分と明確に
区別できるから,被告による本件商標の使用許諾は,法8条に違反し,公序良俗に
反して無効である。
上記法の規定によれば,「NTT」という文字標章は,工業所有権の保護に関する
パリ条約6条の3(1)(a)にいう「同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号」に
含まれるか,あるいはそれに準じた扱いがされて当然であり,権限のある官庁の許
可を受けずに「NTT」を商標の構成部分として使用し,あるいはその許諾をする
ことは,公序良俗に反して無効である。
仮に,本件商標の使用許諾が法8条又はパリ条約6条の3(1)(a)に違反しないとし
ても,同法及び同条約の趣旨のほか,商標法50条1項の「通常使用権者」が商標
法32条の「商標の使用をする権利」を含まず,商標法53条1項が商標権者の監
督責任を問題としていることに鑑みると,被告及び被告補助参加人は,使用許諾の
事実を主張するのであれば,被告が通常使用権者(被告補助参加人)に対して権利
行使をしていないという事実を主張するだけではなく,本件商標の使用に関する高
度なレベルでの監督を行った事実を主張する必要があるのに,これを裏付けるよう
な主張はない。公序良俗,パリ条約あるいは「通常使用権者」と「商標の使用をす
る権利」の違いに配慮せずに使用許諾を認定した本件審決は,違法である。
オ以上のとおり,被告補助参加人は,本件商標の通常使用権者ではなく,被告,
他の専用使用権者又は他の通常使用権者が本件商標を本件役務に使用した事実はな
いから,本件商標の本件役務についての使用には証明がなく,この認定を誤る本件
審決は,取り消されるべきである。
(2)被告補助参加人による本件商標の使用態様について
ア本件審決は,原告による「被告補助参加人による本件商標の使用は,商標的
使用態様による使用ではない。」との主張を採用しなかった。
イしかしながら,被告及び被告補助参加人が主張する被告補助参加人による本
件商標の使用は,パンフレット(甲9)等における「NTTデータが,ITでお手
伝いします」あるいは「NTTデータの販促ソリューション」等の記載であるとこ
ろ,これらの記載は,いずれも役務を示すものではなく,単に役務を提供する主体
を示すものにすぎないから,商標的使用態様において使用されているものではない。
また,被告は,「NTT/DaTa」を二段書きにした文字と10個の白点を三角
形条に配した図形からなる商標(以下「別件商標」という。甲2参照)を役務の表
示とともに使用した別件事件において,商標としての使用ではない旨を主張してい
る(甲3)ほか,本件審判の答弁書においても,本件商標が「統一ブランド名」す
なわちグループの一員であることを示しているものであると主張している(甲17)。
したがって,甲9等における「NTTデータ」との記載は,なおさらグループの一
員であることを示しているにすぎないものであるというべきである。そして,この
ような主張に反する本件商標の使用に関する主張は,訴訟法上の信義則に違反する
ものとして却下されるべきである。
ウ以上のように,被告の主張に係る被告補助参加人による本件商標の本件役務
に対する使用は,商標的使用態様での使用ではないものというべきであるから,本
件商標の本件役務についての使用については証明がなく,この認定を誤る本件審決
は,取り消されるべきである。
(3)本件審判請求と権利の濫用について
ア被告及び被告補助参加人は,本件審判請求が審判請求制度の濫用であるかの
ように主張する(甲21)。
イしかしながら,登録商標の不使用による取消審判の請求は,専ら被請求人を
害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情がない限り,権利
の濫用となることはない。
そして,原告は,一連の取消審判請求において上記特段の事情に該当するような
矛盾した主張をしていないし,商標法50条は,個別の指定商品又は指定役務ごと
に不使用取消審判請求がされることを当然に予定しているから,同一の商標に対す
る,類似群コードが同一の指定役務を対象にした複数の不使用取消審判請求は,審
判請求制度の濫用には当たらないばかりか,一連の取消審判請求は,いずれも取消
対象となる指定商品又は指定役務を異にしている。
ウ以上によれば,本件審決取消訴訟は,審判請求制度の濫用の延長に位置づけ
られるべきものではない。
〔被告及び被告補助参加人の主張〕
(1)通常使用権の許諾について
ア被告と被告補助参加人とは,親子会社の関係にあり(甲4),グループ企業と
して緊密な関係にあるところ,本件商標は,被告補助参加人の商号(株式会社エヌ・
ティ・ティ・データ)から「株式会社」の文字部分を除いた上で,「エヌ・ティ・テ
ィ」の文字部分をアルファベットの「NTT」で表記してなるものであり,被告補
助参加人の略称そのものであるから,その親会社である被告が登録商標として取得
した上で,子会社である被告補助参加人に対して使用を許諾することは,極めて当
然のことである。
そして,被告補助参加人は,自社商号の略称である「NTTデータ」を登録商標
として確保し,これを自ら使用することを希望していたため,将来の使用許諾を前
提として,平成14年3月1日,親会社である被告に対し,本件商標の登録出願を
依頼し(乙4),被告も,将来の使用許諾を前提として,登録出願手続を行い,同月
20日,被告補助参加人に対し,当該手続を了した旨を報告し(乙5),本件商標の
登録後,当該登録証を送付したものである(乙6)。
なお,乙4の手書き部分は,被告知的財産センタ権利化担当が被告補助参加人と
協議の上で修正のために記入したものであり,指定商品及び指定役務に関する手続
補正(甲26の2)も,被告及び被告補助参加人の協議に基づくものであって,何
ら不明な点はない。
したがって,被告は,被告補助参加人に対し,本件商標について通常使用権を黙
示に許諾しているものである(甲14)。
なお,被告と被告補助参加人とは,グループ企業として緊密な関係にあるから,
通常使用権の許諾について文書を作成していなくても,何ら不自然ではない。
イ原告は,通常使用権の許諾についての被告及び被告補助参加人の主張が足り
ず,あるいは被告補助参加人の従業員の報告書が信用できないばかりか,「エヌ・テ
ィ・ティ・データ」との称呼を生じさせる複数の商標登録出願日と被告補助参加人
との事業活動との時期が一致しないことなどから,当該許諾が存在しないかのよう
に主張する。
しかしながら,原告主張に係る事項を列挙しなければ通常使用権の許諾を認定で
きないというものではないし,被告補助参加人の従業員の報告書についても,原告
は,その信用性を疑わせるに足りる具体的な主張をしていない。さらに,被告によ
る商標登録の出願日,被告補助参加人の事業活動時期及び被告の被告補助参加人に
対する商標の使用許諾の意思の有無の間には,原告が主張するような関係はない。
ウ原告は,法,パリ条約及び商標法に関連した主張をしているが,これは,い
ずれも商標「NTT」に関するものであって,商標「NTTデータ」に関するもの
ではない。そして,商標「NTT」と商標「NTTデータ」とは,相互に非類似の
関係にある(甲23)から,商標「NTT」に関する主張は,本件の結論に結びつ
くものではない。
また,原告は,商標権者が通常使用権者に対して商標使用に関する監督を行って
いたことを主張する必要がある旨を主張するが,独自の見解にすぎない。
エよって,被告補助参加人を本件商標の通常使用権者であると認定した本件審
決の判断には,何らの誤りもない。
(2)被告補助参加人による本件商標の使用態様について
ア甲6のパンフレット2頁上部には,「NTTデータのBlueGate」と大
きく目立つ態様で表示されており,甲9のパンフレットには,「SmarP」の文字
を図案化したロゴマークの直下に,「NTTデータの販促ソリューション」と表示さ
れており,さらに,甲10の販促資料には,その表紙に「NTTデータの販促ソリ
ューション」と大きく目立つ態様で表示されている。これらは,上記パンフレット
又は販促資料で広告されているBlueGateサービスやSmarPサービス
(いずれも本件役務)が,「NTTデータ」ブランドのものであることを示しており,
「NTTデータ」の表示が出所識別機能,品質保証機能及び広告機能を有している
ことは,明らかである。
したがって,被告補助参加人は,本件商標を,本件役務について商標として使用
している。
イ被告が別件商標を商標的使用ではない旨を主張するなどしたのは,使用標章,
使用態様及び使用者がいずれも異なる別件の事案においてであるから,これらを関
連させようとする原告の主張には,それ自体無理がある。また,被告は,甲6及び
9における「NTTデータ」との表示が,被告補助参加人の統一ブランド名の表示
であり,かつ,商標としての表示である旨を一貫して主張している(甲17)。
よって,原告の主張は,いずれも失当である。
ウよって,被告補助参加人による本件商標の使用を認定した本件審決の判断に
誤りはない。
(3)本件審判請求と権利の濫用について
原告の代理人である正林真之弁理士は,株式会社プロリンクの代表者でもあると
ころ,同社と被告補助参加人の子会社である株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・
セキスイシステムズとの間のプログラムの開発委託契約に関して紛争が発生したこ
とから,プロリンク等を請求人として,本件を含めて8件の取消審判請求をしてい
る。すなわち,原告らの行動は,エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ
に対する主観的不満を一連の取消審判請求で解消しようという不当な目的によるも
のであって,公益維持を目的とする同審判制度を濫用するものであり,本件訴訟も,
その延長上に位置付けられるというべきである。
第4当裁判所の判断
1取消事由(本件商標の使用の有無についての認定判断の誤り)について
(1)通常使用権の許諾について
ア証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(ア)被告は,東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の発行株式
の総数を保有し,これらの株式会社(地域会社)による適切かつ安定的な電気通信
役務の提供の確保を図ること並びに電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研
究を行うことを目的として(法1条,5条),昭和60年4月1日に発足した株式会
社であり,政府が,常時,その発行済み株式の総数の3分の1以上に当たる株式を
保有している(法4条1項)など,我が国の電気通信事業分野において特殊な地位
を占めている会社であって,被告以外の者は,その商号中に「日本電信電話株式会
社」という文字を用いることが刑事罰をもって禁じられている(法8条,25条1
項)。
そして,被告の商号を英語表記したもの(NipponTelegraphandTelephone
Corporation)の略称である「NTT(エヌ・ティ・ティ)」が被告を表示するもの
として我が国で一般に広く認識されていることは,当裁判所に顕著である。
(イ)被告補助参加人は,昭和63年5月23日,当初の商号を「エヌ・ティ・
ティ・データ通信株式会社」として設立され,同年7月1日,被告のデータ通信事
業本部に属する営業を譲り受けた株式会社であり,平成10年8月1日,商号を現
在のもの(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ)に変更した(甲4,乙8)。
被告は,平成22年3月31日当時において,被告補助参加人の発行済み株式総
数のうち54.18%を有している(乙9)。
なお,被告補助参加人は,我が国のITサービス業界において,最多の従業員を
擁する会社であり,平成21年度において我が国で最高の売上高を記録したもので
ある。そして,本件商標は,被告補助参加人の商号から「株式会社」との部分を除
いた部分と称呼(エヌ・ティ・ティ・データ)が一致するものであって,遅くとも
平成17年3月頃から,被告補助参加人のウェブページ,新聞等の広告及びパンフ
レットにおいて被告補助参加人を表示するものとして広く使用されており,取引先
も,被告補助参加人を「株式会社NTTデータ」を表示していること(甲4~11,
13,乙7~9,12,13)に照らすと,本件商標は,「NTT」部分に対し,「デ
ータ」部分が付加されていることにより,ITサービス業に特化した被告の関連会
社である被告補助参加人を表示するものとして,需要者及び取引者に周知著名であ
ったものと認められる。
(ウ)被告補助参加人開発本部知的財産室長A(以下「A」という。)は,平成1
4年3月1日,被告知的財産センタ所長に対し,「当社商号商標の商標登録出願につ
いて(ご依頼)」と題する書面(乙4)を送付し,具体的な指定商品及び指定役務を
特定した上で,本件商標の商標登録出願の手続のほか,併せて,本件商標の登録時
には登録証の写しの送付を依頼した。これに対して,被告は,同月18日,本件商
標について登録出願し,被告知的財産センタ所長は,同月20日,Aに対し,「商標
登録出願について」と題する書面を商標出願控えとともに送付し(乙5),本件商標
の出願手続を完了した旨を通知した。
被告は,平成15年2月3日,指定商品及び指定役務の一部を削除又は変更する
手続補正をした上で,同年3月28日,本件役務を含む多数の役務を指定役務とし
て,設定登録を得た(甲26の1・2,乙1,2,6)。
なお,被告は,本件商標の設定登録以来,被告補助参加人に対して本件商標の使
用について異議を申し立てるなどしたことがない(弁論の全趣旨)。
イ被告及び被告補助参加人は,被告が被告補助参加人に対して本件商標につい
て通常使用権を許諾した旨を主張し,被告補助参加人技術開発本部知的財産室部長
Bは,その作成に係る報告書(甲14)において,本件商標について,文書は作成
されていないものの,商標権者である被告から被告補助参加人に対し,使用許諾が
されている旨を記述している。
そこで検討すると,前記ア(ウ)に記載の本件商標について登録出願を依頼したA
作成の書面(乙4)及び当該登録出願手続を完了した旨を通知する被告知的財産セ
ンタ所長作成の書面(乙5)は,いずれも真正に成立したものと認められること,
前記ア(イ)に認定のとおり,被告は,被告補助参加人の発行済み株式総数のうち5
4.18%を有する親会社であり,被告補助参加人は,被告の事業の一部を譲り受
けた会社であることから,被告と被告補助参加人との間には,被告補助参加人の設
立当初から緊密な関係が存在するといえること,前記ア(イ)に認定のとおり,本件
商標は,被告補助参加人の商号から「株式会社」との部分を除いた部分と称呼が一
致するものであって,被告補助参加人は,遅くとも平成17年3月頃から,新聞等
の広告及びパンフレットにおいて被告補助参加人を表示するものとして本件商標を
広く使用しているにもかかわらず,被告は,本件商標の設定登録以来,被告補助参
加人に対して本件商標の使用について異議を申し立てるなどしたことがないことと
いった事情に照らすと,上記報告書の使用許諾に関する上記記述は,自然なものと
してこれを信用することができる。
よって,被告は,被告補助参加人の依頼に基づき,本件商標について設定登録が
された平成15年3月28日には,被告補助参加人に対して,本件商標について通
常使用権を許諾したものと認められる。
ウ以上に対して,原告は,被告及び被告補助参加人が,本件商標の使用許諾の
成立に関する具体的な事実を主張していないから主張自体失当であり,本件審決に
よる認定が,主張に基づかない違法なものである旨を主張する。
しかしながら,本件においては,「SmarPNTTデータの販促ソリューショ
ン」と題する文書(甲9)が作成・頒布されたとされる平成21年3月頃に被告補
助参加人が本件商標の通常使用権者であったか否かが問題とされているところ,弁
論の全趣旨に照らせば,被告及び被告補助参加人は,本件訴訟において,本件商標
の商標登録出願に関する経緯を含めて,被告がその頃までに被告補助参加人に対し
て本件商標について通常使用権を許諾した旨を主張しており,当該許諾がされたと
の評価を根拠付ける事実についても主張をしていることが明らかである。したがっ
て,被告及び被告補助参加人による本件商標の通常使用権の許諾に関する主張は,
それ自体失当とはいえないし,原告は,本件訴訟に至って初めて当該許諾の事実を
争うようになったのであるから,それにより翻って本件審決による認定が違法にな
るものでもない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
エ原告は,乙4の一部について真正な成立を争い,本件商標の出願手続中にさ
れた補正の経緯が不明であって被告補助参加人の関与が認め難いと主張して,本件
商標についての通常使用権の使用許諾の存在を争っている。
しかしながら,乙4は,前記のとおり,Aが作成した文書であるから,そのうち,
原告主張に係る黄色の下線らしきものが記載されている部分(4箇所)については,
乙4の信用性の判断に当たってその記載者を詮索するまでの必要性がないばかりか,
余白手書き部分(2箇所)については,その体裁及び真正な成立に争いのない乙5
の記載と一致することからして,乙4の作成者であるA又はAから権限を委ねられ
た者が出願に係る指定商品及び指定役務の記載を一部訂正したものであることが明
らかであって,当該部分の記載者が具体的に特定されないからといって,乙4の信
用性の判断に影響を及ぼすものではないといわなければならない。また,出願手続
中に指定商品等を削除等した上記手続補正についても,被告補助参加人が何らかの
異議を申し出るなどした形跡が窺われないことに照らすと,被告補助参加人の承諾
の下にされたことを優に推認することができる。
したがって,原告の上記主張は,いずれも被告による通常使用権の使用許諾とい
う前記イに記載の認定を左右するに足りず,採用できない。
オ原告は,被告及び被告補助参加人の主張が不明確で,前記報告書(甲14)
が信用できず,使用許諾について書面が存在せず,また,本件商標を含む関連商標
の出願日と被告補助参加人の事業活動時期に関連がないことや,商号中に「日本電
信電話株式会社」という文字を用いることを禁じる法8条,被告補助参加人が本件
商標と称呼等を同じくする商標について登録を得ていながら後に権利放棄したこと,
さらに被告補助参加人が現在登録している商標が「NTT」を含まないばかりか,
旧郵政省及び総務省に対して,重ねて「NTT」ブランドの共有に反対の意見が示
されていることに照らして「NTT」の部分を含む本件商標に関する通常使用権の
許諾が存在しなかった旨を主張する。
しかしながら,被告及び被告補助参加人の主張は,前記ウに認定のとおり不明確
とはいえず,上記報告書(甲14)も,前記イに認定のとおり信用できる。また,
前記イにも認定の被告と被告補助参加人との緊密な関係に照らすと,本件商標につ
いての通常使用権の許諾について書面が存在しないことは,それ自体不自然とはい
えないし,被告補助参加人の設立時期が本件商標を含む関連商標の出願日に先立つ
ことも,それ自体,本件商標についての通常使用権の許諾の不存在をうかがわせる
には足りない。
次に,原告の法8条に関する上記主張は,本件商標のうち「NTT」の部分が「デ
ータ」の部分と明確に区別できることを前提としているところ,本件商標は,英文
字「NTT」との外観を有する部分を含み,「エヌ・ティ・ティ・データ」との称呼
を有しているが,前記イに認定のとおり,遅くとも平成17年3月頃から,新聞等
の広告及びパンフレットにおいてITサービス業を営む被告補助参加人を表示する
ものとして広く使用されており,「NTT」部分に対して,「データ」が付加されて
いることにより,ITサービス業に特化した被告の関連会社である被告補助参加人
を表示するものとして,需要者及び取引者に周知著名であったものと認められるか
ら,そこから「NTT」の部分又は「データ」の部分を分離して観察することが取
引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しており,本件商標の全体から出
所識別標識としての称呼及び観念が生じているものと認められる。したがって,本
件商標のうち「NTT」の部分を「データ」の部分と明確に区別することはできず,
原告の上記主張は,その前提に誤りがあるというべきである。
さらに,被告補助参加人が本件商標と称呼等を同じくする商標について登録を得
ていながら後に権利放棄をしたことや,被告補助参加人が現在登録している商標に
「NTT」との部分が含まれないことは,いずれも本件商標について使用許諾がさ
れていないことを裏付けるものではなく,旧郵政省及び総務省に対して重ねて「N
TT」ブランドの共有に反対の意見が示されているとしても,旧郵政省は,NTT
ブランド等の使用については一般的な商取引の問題であると考えており(甲28),
被告側も,当該意見に反論をしているところである(甲29)から,当該意見の存
在によって,被告及び被告補助参加人が本件商標の使用許諾に消極的になるとまで
は認め難い。
よって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。
カ原告は,本件商標のうち「NTT」の部分が「データ」の部分と明確に区別
できることを前提として,「NTT」の部分を含む本件商標の使用許諾が,商号中に
「日本電信電話株式会社」という文字を用いることを禁じる法8条及び公序良俗に
反して無効であり,あるいは「NTT」の部分が工業所有権の保護に関するパリ条
約6条の3(1)(a)にいう「同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号」に含まれ
るか,あるいはそれに準じた扱いがされるべきであるから,同条約及び公序良俗に
反してやはり無効であり,仮にそうでないとしても,法及びパリ条約の趣旨のほか,
商標法32条,50条1項及び53条1項の趣旨に照らして必要とされる本件商標
の使用に関する高度なレベルでの監督を行った事実の主張がない旨を主張する。
しかしながら,前記オに記載のとおり,本件商標のうち「NTT」の部分を「デ
ータ」の部分と明確に区別することはできず,原告の上記主張は,その前提に誤り
があるというべきであるから,その余の部分について判断するまでもなく,これを
採用することはできない。
(2)被告補助参加人による本件商標の使用態様について
ア甲9は,被告補助参加人が作成した「SmarPNTTデータの販促ソリ
ューション」と題する文書であり,その表紙,2丁及び4丁ないし6丁には,当該
表題の文字をロゴ化したもの(標準文字での「NTTデータ」との記載を含む。)が
合計8箇所に記載されているほか,表紙,2丁及び6丁には,当該文書の作成主体
である被告補助参加人を示すものとして,標準文字で「NTTデータ」との記載が
合計7箇所にあるが,甲9におけるこれらの「NTTデータ」との記載は,いずれ
も,本件商標と社会通念上同一のものといえる。
イそして,前記甲9は,被告補助参加人が提供する「SmarP(エスマープ)」
という名称の役務について記載したものであるが,例えばその2丁には,「SaaS
型による「SmarP」は,集客・ポイントサービス・データ解析などを支援し,
貴社のFSP環境を拡大するNTTデータの販促ソリューションです。」との記載の
ほか,「1告知機能メルマガ・クーポンの配信,集客」として,「お客さま向け
に来店をうながすメールやマイページ機能を提供します。クーポンや特典などの発
行・管理を一元化し,多彩な集客施設を提供します。」,「2管理機能クレジット
決済・ポイント付与・還元」として,「お客さまの購買意欲を引き出すためのポイン
トの付与,還元処理,管理機能を提供します。NTTデータが提供する多機能決済
端末ネットワーク「INFOX」を活用したポイントサービスにより,別途端末が
不要となります。」,「3分析機能統計データ分析,各種管理・精算処理」として,
「お客さまの購買金額・来店頻度などの情報から購買動向を把握し分析。プロモー
ション戦略の立案を支援します。」との記載があり,3丁以下では,図解等を利用し
て,当該サービスについて更に詳細な説明を施している。
以上に加えて,その販促資料(甲10),操作マニュアル(甲11),実施例(甲
12)及び被告補助参加人技術開発本部知的財産室部長の報告書(甲14)の記載
を併せ参照すると,甲9に記載の役務(「SmarP」)は,コンピュータネットワ
ークを介して行うオンラインショッピングにおいて,被告補助参加人が管理するコ
ンピュータサーバにおいて顧客の購買金額・来店頻度などの情報やこれに伴うポイ
ントの付与等に関する情報を管理し,当該管理された情報に基づき,顧客に来店を
促すほか,その購買動向を把握・分析し,さらなる販売促進戦略の立案を支援する
役務であって,本件役務(第42類「コンピュータネットワークを介して行うオン
ラインショッピングによる購買履歴・帳票等のデータ処理を行う電子計算機用プロ
グラムの提供及びこれらに関する情報の提供」)に該当するものと認められる。よっ
て,甲9は,いわゆるパンフレットであって,被告補助参加人による当該役務を需
要者に対して広告するものである。
ウさらに,甲9の体裁に加えて,甲9の6丁には「このパンフレットの内容は,
2009年3月現在のものです。」との記載及び平成21年3月を意味する「200
9.3」との記載があり,甲9は,同月19日に業者により被告補助参加人に対し
て納品されている(甲13,14)ことから,被告補助参加人は,その頃,本件役
務に関する広告(甲9)に本件商標と社会通念上同一と認められる「NTTデータ」
との記載を付して日本国内において頒布したものと認められる。
エ以上によれば,本件商標の通常使用権者である被告補助参加人は,本件審判
の請求登録日(平成22年8月2日)の前3年以内である平成21年3月19日頃
に,本件役務について本件商標の使用をしていること(商標法2条3項8号)につ
いて証明があったものというべきであり,この点についての本件審決の認定判断に
誤りはない。
オ以上に対して,原告は,甲9における「NTTデータ」との記載がいずれも
役務を示すものではなく,単に役務を提供する主体を示すものにすぎないから,商
標的使用態様において使用されているものではない旨を主張する。
しかしながら,甲9は,本件役務の提供に関して,その主体である被告補助参加
人の商号を一部英文字で表示しているものであるが,当該表示が本件商標と社会通
念上同一のものである以上,いずれも本件役務の提供に当たり本件商標を使用した
ものとみることができるというべきである。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
カ原告は,被告が「NTT/DaTa」を2段書きにした文字と10個の白点
を三角形状に配した図形からなる商標(別件商標)を役務の表示とともに使用した
別件事件において,商標としての使用ではない旨を主張しているほか,本件審判の
答弁書においても,本件商標が「統一ブランド名」すなわちグループの一員である
ことを示しているものであると主張しているから,甲9における「NTTデータ」
との記載は,なおさらグループの一員であることを示しているにすぎず,このよう
な主張に反する本件商標の使用に関する主張が訴訟法上の信義則に違反するものと
して却下されるべきである旨を主張する。
しかしながら,別件事件は,本件とは事案を異にすることが明らかであり,当該
事件において別件商標が商標としての使用ではないとの主張がされたからといって,
そのことが甲9における本件商標と社会通念上同一のものの使用についての当裁判
所の認定判断を左右するものではない。また,被告は,本件審判の答弁書において,
甲9に記載の本件商標がNTTデータ(被告補助参加人)という「統一ブランド名」
を示している旨を主張しているのであって,そのことから,本件商標を商標的に使
用していない旨を自認しているとまでは認めることはできない。
よって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。
2結論
以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取
消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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