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判決 平成13年5月29日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第1258号約束
手形金請求事件
主     文
  1 原告と被告間の神戸地方裁判所平成12年(手ワ)第13号約束手形金請求
事件について同裁判所が平成12年6月12日に言い渡した手形判決はこれを取り
消す。
  2 原告の請求を棄却する。
  3 訴訟費用は,原告の負担とする。
     事実
 第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告に対し,金300万円及びこれに対する平成12年1月1
7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
  2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 1 請求原因
(1) 原告(平成12年1月18日に「有限会社さつま建設」を組織変更して
設立)は,別紙約束手形目録記載の約束手形2通(以下,「本件各手形」とい
う。)を所持している。
(2) 被告は,本件各手形を振り出した。
(3) 原告は,本件各手形を支払呈示期間内の平成12年1月17日に支払場
所に呈示したが,その支払を拒絶された。
(4) よって,原告は被告に対し,本件各手形金合計300万円及びこれに対
する呈示の日である平成12年1月17日から支払済みまで手形法所定年6分の割
合による利息の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
  請求原因(2),(3)の事実は認め,その余は知らない。
3 抗弁(権利承継の断絶及び善意取得の不存在)
 (1) 本件各手形の受取人A株式会社は,平成11年9月17日から同月18
日にかけての間に本件各手形を盗取され,その後,何者かによって,同会社の第1
裏書が偽造された。
 (2) 前記偽造以後,原告に至る本件各手形取得者は,原告を含めその全員が
前記事実を知りながらあるいは重過失でこれを知らずに本件各手形を取得した。
すなわち,
ア 本件各手形の第1被裏書人兼第2裏書人のB株式会社は,商業登記も
されていない存在しない会社であるから,善意取得することはあり得ない。
イ 第2被裏書人兼第3裏書人の株式会社Cは,存在しないB株式会社か
ら本件各手形の譲渡を受けており,株式会社C自体が本件各手形の盗取者ではない
かと推認されるし,そうでないとしても盗取者から事情を知って本件各手形を譲り
受けたものと推認される。
ウ 第3被裏書人兼第4裏書人の株式会社Dは,商業登記簿上は存在する
が,その登記簿上の住所に実在しておらず,実体上は存在しない会社である。ま
た,株式会社Dは,本件各手形とは別の所で盗取された被告振出の約束手形につ
き,存在しないB株式会社から裏書を受けていること,株式会社Dの代表取締役d
は,株式会社Cの取締役でもあり,両会社は密接な関係があると思われることにも
照らすと,株式会社Dは,株式会社Cと同様に本件各手形の盗取者と同一人である
か密接な関係があるものと推認でき,本件各手形を悪意で取得したものと推認でき
る。
エ 第4被裏書人の原告は,株式会社Dから大阪市城東区a丁目b-c所
在の分譲地への4棟の家屋の木造骨組み納入の受注を受け,その代金の支払として
本件各手形の譲渡を受けたものと主張する。しかし,前記のとおり,株式会社D
は,実体上は存在しない会社であり,原告が株式会社Dからその主張のような受注
を受けることはあり得ない。
  原告は,本件各手形の善意取得を装うため,株式会社Dから4棟の家
屋の木造骨組みの受注を受けたとの主張をするに過ぎず,実際は,本件各手形が盗
取された手形であることの事情を知ってこれを取得したものである。
  のみならず,原告は,本件各手形が上場企業である被告振出の手形で
あり,銀行等に直接割引ないし取立に出されるのが通常で,いわゆる廻り手形とし
て転々流通することはあり得ず,しかも取引先と考えられないような複数の裏書が
あり,それら裏書記載自体からも流通過程の不自然さが推認されたのであるから,
これを取得するについては,振出人の被告に問い合わせる等したうえで,これを取
得すべき義務があったし,これをしていれば,容易に本件各手形が盗取手形である
ことを知り得たものであるから,これをせずして漫然本件各手形の譲渡を受けた原
告には,本件各手形が盗取手形であることを知らなかったことにつき,少なくとも
重過失がある。
4 抗弁に対する認否
 (1) 抗弁(1)の事実は知らない。
 (2) 同(2)の事実のうち,原告に関する部分は,否認し,その余の事実は知
らない。
   原告は,大工の訴外Fを介し,株式会社Dから,大阪市城東区a丁目b
-c所在の分譲地に4棟の家屋の木造骨組みを納入することを受注し,その代金合
計637万2471円の支払の一部として,本件各手形の裏書譲渡を受けたもので
ある。
理     由
1 請求原因について
 請求原因(2),(3)の事実は当事者間に争いがなく,同(1)の事実は,証拠(甲1
の1・2)及び弁論の全趣旨によってこれが認められる。
2 抗弁について
(1) 証拠(甲1の1・2,乙1,2の1ないし6,3ないし5)及び弁論の全趣
旨によれば,抗弁(1)の事実が認められる。
(2) そこで,抗弁(2)の事実につき以下検討する。
 ア 本件各手形の第1被裏書人兼第2裏書人であるB株式会社は,証拠(乙6
の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,商業登記もなされておらず,実在しない会
社といわざるを得ないことが認められ,他にこれを覆すに足る証拠はない。
   したがって,実在しないB株式会社が,本件各手形を善意取得する余地は
ない。
 イ 本件各手形の第2被裏書人兼第3裏書人である株式会社Cが実在する会社
であることは証拠(乙11)によって認められる。しかし,そうすると,株式会社
Cは,実在しない会社であるB株式会社から本件各手形の裏書譲渡を受けたものと
いう不自然な結果をきたすことになることからすれば,株式会社Cは,本件各手形
の盗取者ないしはその関係者から,その事情を知ったうえで,裏書譲渡を受けたも
のと推認するのが相当である。
   したがって,株式会社Cによる本件各手形の善意取得も否定せざるを得な
い。
 ウ 本件各手形の第3被裏書人兼第4裏書人の株式会社Dは,証拠(甲3,乙
7の1・2,9の1・2,10ないし13,15ないし17)及び弁論の全趣旨に
よれば,商業登記簿上は存在し,また,電話帳には記載はあるものの,実際には事
務所は存在しておらず,いわゆるペーパーカンパニーであって,実体のある会社と
は認められないこと,株式会社Dの代表取締役dは,株式会社Cの取締役でもあ
り,また,株式会社Cの代表取締役cの住民票上の住所「神戸市須磨区a台b丁目
c番地のd e号」は,dが以前に居住していた住所と一致する等,両者には密接
な関係のあることが窺われるばかりか,本件各手形と同じ頃に他所で盗難被害にあ
った被告振出の約束手形について,株式会社Dは,前記存在しない会社であるB株
式会社から裏書譲渡を
受けていることが認めらること等を総合すると,株式会社Dは,本件各手形が盗取
手形であることの事情を知ったうえで,株式会社Cからその裏書譲渡を受けたもの
と推認するのが相当である。
   したがって,株式会社Cによる本件各手形の善意取得も否定せざるを得な
い。
 エ 本件各手形の第4被裏書人である原告は,本件各手形の取得の経緯につ
き,大工の訴外Fを介し,株式会社Dから,大阪市城東区a丁目b-c所在の分譲
地に4棟の家屋の木造骨組みを納入することを受注し,その代金合計637万24
71円の支払の一部として,本件各手形の裏書譲渡を受けたものである旨を主張
し,それを裏付けるかのような書証(甲2の1ないし3,4ないし12)を提出
し,原告代表者E本人尋問の結果及びその作成の陳述書(甲13)中にも,これに
沿うかのような部分がある。
   しかし,前記書証のうち,株式会社Dに対する原告の請求書(甲2の1・
2)及び売掛帳(甲2の3)については,原告代表者E自身,その代表者本人尋問
の結果中において,後日になって作成したものであることを認めており,それら書
証をもって,木造骨組みの発注が株式会社Dからあったことを裏付けるものとする
ことはできないし,その他の書証(甲4ないし12)も,木造骨組みの発注に関す
る文書であることは認められるものの,その発注に株式会社Dが関与していること
を窺わせる部分はまったく存在せず,木造骨組みの発注が株式会社Dからあったこ
とを裏付けるものではない。しかも,前記のとおり,株式会社Dは,事務所の存在
しないいわゆるペーパーカンパニーであって,実体のない会社であることからし
て,原告が主張するような発注があったとは考えにくく,また,仮にそのような発
注があったとしても,そのような実体のない会社からの発注を何らの確認や調査も
せずにたやすく受注するとは通常では考えられないところであるにもかかわらず,
原告は,その発注を受けたという時点のみならず,現在に至るも株式会社Dがどう
のような会社であるのかにつき,何らの確認も調査を行っていないこと(原告代表
者E本人尋問の結果)等をも総合すると,前記原告代表者E本人尋問の結果及びそ
の作成の陳述書(甲13)記載中,前記原告主張に沿うかのような部分はたやすく
措信できないというべきであるし,かえって,前記したところからすれば,原告
は,本件各手形が盗取手形であることの事情を知りながらこれを取得し,そのうえ
でこれを正当に取得したものと装うため,株式会社Dとは無関係に受注した木造骨
組みにつき,株式会社Dから発注を受け,その代金の支払の一部として本件各手形
の裏書譲渡を受けたものとの主張をしているにほかならないものと推認するのが相
当である。
   そうすると,原告もまた本件各手形が盗取手形であること知ってこれを取
得したものにほかならず,これを善意取得したものとは認めることができない。
(3) 以上によれば,被告の抗弁は理由があり,原告は,裏書の連続した本件各手
形を所持するものの,無権利者であるから,原告の被告に対する本件請求は理由が
ない。
3 よって,原告の被告に対する請求を認容した手形判決を取り消し,原告の被告
に対する請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
   神戸地方裁判所第4民事部
      裁 判 官 上  田  昭  典
         約 束 手 形 目 録
 1 金額    200万円
   支払期日    平成12年1月15日
   支払地    東京都中央区
   支払場所    A銀行B支店
   振出日    平成11年9月16日
   振出地    東京都新宿区
   振出人    株式会社熊谷組
   受取人    A株式会社
   第1裏書人    A株式会社
   第1被裏書人    B株式会社
   第2裏書人    B株式会社
   第2被裏書人    株式会社C
   第3裏書人    株式会社C
   第3被裏書人    株式会社D
   第4裏書人    株式会社D
   第4被裏書人    有限会社さつま建設
 2 金額    100万円
   その他の記載は,1の約束手形と同じ
                           以     上

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