弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決の中、被告人Aに関する部分を破棄する。
     原告人Aを罰金一〇、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、二〇〇円を一日に換算した期
間、同被告人を労役場に留置する。
     同被告人に対し、公職選挙法第二五二条第一項の五年間を二年間に短縮
する。
     被告人Bの控訴を棄却する。
         理    由
 被告人両名の弁護人富山薫の控訴理由は、末尾に添付する控訴趣意書と題する書
面に記載するとおりである。
 ところで、原判決は被告人Aを罰金一〇、〇〇〇円に被告人Bを罰金一二、〇〇
〇円に夫々処し、被告人両名に対し、公職選挙法第二五二条第一項の定める選挙権
及び被選挙権の停止期間たる五年を夫々二年に短縮する旨を言渡したのであるが、
記録にもとずいて諸般の情状を考量するに、原判決の右の措置は、けだし、相当で
あつたということができ、これをもつて不当に重きものであつたというべき筋合で
はない。公職の選挙に関し利益を供与し、或いはこれを受けるというがごときこと
は、最も忌むべき所為であつて、公職選挙法違反罪として悪質な事犯たることは、
国民一般の常識とする所である。この種事犯を不注意によつて犯したというような
弁解は、却つて合理性を欠くものであつて、何人も肯認し得ざる所である。しか
り、而して、原判決が被告人両名に対し、右にいうような量刑に出でたのは、被告
人Aから被告人Bに供与した三、〇〇〇円と同額の金員が、事後において供与者に
返戻された事実を考慮に入れた上の措置であつたと見ることができ、まことに妥当
なものであつたというべきである。そうして、原判決の言渡にかかる罰金刑につ
き、執行猶予の恩典を与えられたいと求めるがごとき主張は、事犯の性質並びに態
様を不当に過小評価した見解にもとずく所論と認めるの外なく、とうてい採用する
に由ない所である。また、選挙権及び被選挙権の不停止を求める所論も、諸般の情
状から見て、とうてい、採用するに由ないものとして、排斥するの外はない。それ
で、論旨第一点並びに同第三点はいずれも理由ないものといわなくてはならない。
それ故に、被告人Bの控訴は、理由ないものとして刑訴法第三九六条に則つて、こ
れを棄却しなければならない。
 しかし、被告人Aに対し、一、一五〇円の追徴を言渡した原判決の措置につき按
ずるに、被告人Bは被告人Aから三、〇〇〇円を選挙運動の報酬等として供与を受
けた翌日に、Cと共謀してD外一〇名に酒食の饗応をして合計約一、八五〇円を費
消し残金は小銭にしてしまつたがそのまた翌々日に到り、母から借りた千円札と自
分手持の千円札とを合わせ右三、〇〇〇円相当額の金員を被告人Aに返戻したこと
が証拠上明らかであつて右三千円は供与をうけた金員とは全く別個のものであるこ
とが認められ<要旨>る。公職選挙法第二二四条前段によつて没収の対象となるの
は、収受し又は交付を受けた利益そのものであり、また、同条後段によつて
追徴すべき価額は、その没収さるべき利益の価額なのである所からいつて、被告人
Bが先きに自己の選挙運動の報酬等として供与された金員と同額のものを供与者た
る被告人Aに返戻したとしても、その返戻された金貝たるや、被告人Bが収受した
利益そのものではない。
 だから、その返戻された金員の全部または一部を没収する理あることなく、従つ
て、没収に代わる価額の追徴を被告人Aに対して言渡すわけにはいかないのであ
る。しかるに、原判決は右のごとく被告人Aに返戻された三、〇〇〇円の中から、
被告人Bが費消した一、八五〇円を控除した残額たる一、一五〇円を被告人Aから
追徴する旨の言渡をしたのであつて、これは追徴すべきものではないのに、これを
した違法を敢てしたものといわなくてはならない。従つて、この点に関する論旨第
二点は理由あるに帰し、原判決中被告人Aに関する部分は、とうてい破棄を免れな
い。それで、刑訴法第三九七条第一項に則つて、これを破棄し、同法第四〇〇条但
書に従つて更に判決する。
 すなわち、被告人Aに対して原判決の認定した事実を法律に照らすと、同被告人
の所為は公職選挙法第二二一条第一項第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選
択し、その所定額の範囲内において同被告人を罰金一〇、〇〇〇円に処すべく、右
罰金を完納することができないときは刑法第一八条第一項に従い、二〇〇円を一日
に換算した期間、同被告人を労役場に留置すべく、なお、公職選挙法第二五二条第
三項を適用し、情状に因り同条第一項の五年の期間を二年に短縮する言渡をすべき
ものとする。
 よつて主文のごとく判決する。
 (裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道)

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