弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
     当審における未決勾留日数中九十日を本刑に算入する。
     当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人渡辺七郎、矢吹幸太郎、同塩谷栄一の各控訴趣意は右渡辺七郎矢吹幸太郎
の連名にて提出及塩谷栄一提出の各控訴趣意書記載の通りであるから之を引用す
る。
 弁護人渡辺七郎、矢吹幸太郎の控訴趣意第一点について。
 本件窃盗は被告人Aと原審相被告人B外三名の共犯に係るものとして起訴され同
一公判手続の下に審理され第一回公判期日(昭和二十六年八月三十一日)に検察官
より証拠調請求のあつた書類中(イ)Cの司法警察員に対する第一回乃至第三回供
述調書及び検察官に対する供述調書(ロ)Dの司法警察員に対する第一、二回供述
調書及び検察官に対する供述調書(ハ)Eの司法警察員に対する第一、二回供述調
書及び検察官に対する供述調書(ニ)Fの検察官に対する供述調書に対しては相被
告人B及其弁護人Gは同意したが被告人A及其弁護人塩谷栄一は同意しなかつたと
ころ裁判官は之に対し相被告人Bの為めに留保する旨宣し第二回公判期日(昭和二
十六年九月二十一日)に至つて右各供述調書をB<要旨>Bの関係に於て取調べてお
ることは所論の通りである。同弁護人等は本件の如き共犯関係にある共同被告人 要旨>については検察官及被告人が同意することによつて証拠能力を有するに至る書
類は全被告人の同意がなければ証拠能力がない旨主張するけれども当事者主義を重
んずる刑事訴訟法第三百二十六条の精神よりすれば相被告人の一人が証拠とするこ
とに同意した書類は其同意者の関係に於ては証拠能力を有するものと解するのが相
当である。従つて右同意者たる相被告人の関係に於てのみ証拠調をした原審の手続
には何等違法の点がない。仮に右証拠調の結果被告人の関係に於ても裁判官の心証
形成に何等かの影響があつたとしてもかくのごときは公共の福祉と基本的人権を調
和せしめつつ可及的迅速に真実を発見すべく要請する刑事訴訟法第一条所定の趣旨
に照らし必ずしも被告人の正当な利益の保護に欠ける結果になるとは云えない。論
旨は理由がない。
 同控訴趣意第一点の(二)について。
 原審第二回公判期日に於て検察官は相被告人Bの司法警察員に対する第一回乃至
第三回供述調書及検察官に対する第一、二回供述調書の証拠調を請求したところ右
B及び其弁護人Gは之に同意し被告人A及其弁護人塩谷栄一は同意しなかつたが裁
判官は右各供述調書の取調べをしていることは所論の通りである。
 しかして相被告人Bの右各供述調書は被告人Aに対する関係に於ては刑事訴訟法
第三百二十一条第一項第二、三号所定の各条件を欠くため同号の書面ではなく又同
法第三百二十二条に該当する書面でないと解するのが相当であるから被告人Aの同
意がない限り同人に対する関係に於ては証拠能力を有しないことは所論の通りであ
る。然るに原審第二回公判調書には右各書類を相被告人Bに対する関係に於てのみ
取調べる旨の記載がなく其後之に対し被告人Aに対する関係に於て証拠排除の決定
をした形跡がないから右各供述調書を被告人Aの関係に於ても取調べたものと云わ
ざるを得ない。然らば原審に於ては被告人Aに対し証拠能力のない右各書類を同人
に対する関係に於て証拠として取調べた手続上の違法があることは所論の通りであ
るしかし原判決には右各書類を証拠として採用しなかつたから右手続の違法は結局
原判決には影響を及ぼさなかつたことになり原判決破棄の理由とはならない。論旨
は理由がない。
 同控訴趣意第一点の(三)について。
 原審第二回公判期日に於て検察官は証人H同Iの証言の証明力を争う為め在廷証
人としてJとKの尋問を請求し之に対し被告人Aの弁護人の塩谷栄一は反対の意見
を述べたが裁判官は検察官の請求を容れ右各証人の尋問を為した事実及前記証人H
同Iは弁護人塩谷栄一の請求に基き第一回公判期日後である昭和二十六年九月八日
公判期日外に於て尋問されたが其者尋問調書の証拠調べは未だ為されていなかつた
ことは所論の通りである。証人H同Iの証言の証明力を争うということは右各証人
の供述調書の証拠調べが為された後に於て起り得る問題であるのに未だ之が為され
ない前に其証明力を争う為めの証人を尋問した原審の措置は手続の順序を誤つた違
法のものと云わなければならないが之を以つて原審裁判官が或予断を抱いていた結
果であるとか又は裁判官に次に取調べるべき証拠について予断をいだかせる方法と
は必ずしも断定し得ない。しかして証人J同Kに対しては刑事訴訟法第三百二十八
条所定の場合と異り被告人並びに弁護人が十分反対尋問を為して利益を護る機会が
与えられていたのであるから必ずしも被告人の利益を害する結果にはならない。従
つて右の違法は判決に影響を及ぼすものがあつたとも云われない。論旨は理由がな
い。
 同控訴趣意第二点及弁護人塩谷栄一の控訴趣意について。
 原判決挙示の各証拠を綜合すれば原判示事実は優に認めることが出来、記録を精
査したが原判決には何等事実の誤認と目すべきものがない。所論は原審の裁量に属
する証拠の取捨と其価値判断を攻撃しひいては原判決の事実認定を批難するもので
あるから採用し難い。論旨は理由がない。
 渡辺、矢吹弁護人の控訴趣意第三点について。
 本件記録並びに原審の取調べた証拠に現われた本件犯罪の態様其他諸般の事情を
綜合すれば原審が被告人を懲役一年に処したのは所論を考慮に入れても必ずしも不
当とは云えない。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し刑法第二十一条により
当審の未決勾留日数中九十日を原審の刑に算入し刑事訴訟法第百八十一条第一項に
より当審の訴訟費用は全部被告人に負担させることとし主文の通り判決する。
 (裁判長判事 黒田俊一 判事 佐藤竹三郎 判事 東徹)

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