弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
     2 被上告人は,上告人に対し,801万円及びこれに
       対する平成12年3月18日から支払済みまで年6
       分の割合による金員を支払え。
     3 訴訟の総費用は,被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中村佐和子,同高橋博美の上告受理申立て理由第2について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,平成10年10月16日,被上告人のD支店において,貯蓄預
金口座を開設して貯蓄預金契約を締結し,同契約に係る通帳(以下「本件通帳」と
いう。)の交付を受け,その際,キャッシュカードの利用を申し込み,その暗証番
号(以下「本件暗証番号」という。)を上告人所有に係る車両(以下「本件車両」
という。)の自動車登録番号の4桁の数字と同じ数字として届出をし,そのころ,
キャッシュカードの交付を受けた。
 (2) 被上告人は,暗証番号を登録した預金者が通帳又はキャッシュカードを使
用し暗証番号を入力すれば預金の払戻しを受けることができるという現金自動入出
機を設置していた(以下,この方法による払戻しを「機械払」といい,このうち通
帳によるものを「通帳機械払」,キャッシュカードによるものを「カード機械払」
という。)。
 被上告人における機械払の手続の流れは,次のとおりである。
 ① 預金者が通帳又はキャッシュカードを現金自動入出機に挿入し,暗証番号及
び金額を入力すると,現金自動入出機は通帳又はキャッシュカードの磁気ストライ
プを読み取って口座の特定その他の正当性をチェックし,暗証番号を暗号化してホ
ストコンピューターに送信する。なお,通帳又はキャッシュカードの磁気ストライ
プに暗証番号は書き込まれていない。
 ② ホストコンピューターは,暗証番号,支払可能残高,諸届情報(キャッシュ
カード・通帳の紛失,支払停止等)をチェックした上,現金自動入出機に対して支
払の可否の指示を送信する。支払可能の指示があれば,現金自動入出機は支払処理
を行う。
 (3) 上告人は,平成11年11月22日午後9時30分ころ,本件通帳をダッ
シュボードに入れたまま本件車両を自宅近くの月ぎめ駐車場に駐車したところ,翌
23日午前10時40分ころまでの間に,本件通帳を本件車両ごと盗まれた。
 そして,何者かが,同月24日午前8時52分から午前9時56分までの間に,
被上告人のE支店,F支店及びG支店の各現金自動入出機で,合計17回にわたり
,本件通帳を使用し,本件暗証番号を入力して,通帳機械払の方法により前記預金
口座からの払戻手続を行い,上記各現金自動入出機から合計801万円を引き出し
た(以下,これを「本件払戻し」という。)。
 (4) 上告人は,同月23日,警察署に本件車両の盗難届出をしたが,その際に
は本件通帳の紛失に気付かず,同日夜になって本件車両内に本件通帳と弟から預か
った郵便貯金通帳を保管していたことを思い出した。
 そこで,上告人は,同月24日午前9時ころ,郵便局に電話で弟名義の通帳を盗
まれた旨の届出をし,その後来客に応じた後,被上告人のD支店に本件通帳の喪失
届出をした。しかし,これは本件払戻しの終了後のことであり,コンピューターに
コード入力されたのは同日午前10時53分であった。
 (5) 被上告人のカード規定(Hカード規定)には,カード機械払の方法により
預金の払戻しが受けられる旨の規定があり,また,使用されたキャッシュカードの
電磁的記録によってカードの真正を確認し,入力された暗証番号と届出暗証番号と
の一致を確認して預金の払戻しをした場合には原則として被上告人は責任を負わな
い旨の免責規定があるが,通帳機械払の方法により預金の払戻しが受けられる旨の
規定は,被上告人の貯蓄預金規定,カード規定のいずれにもなく,また,同払戻し
についての免責規定もない。なお,上告人は,現金自動入出機でキャッシュカード
を使用して預金の預入れをしたことはあったが,同機で通帳又はキャッシュカード
を使用して預金の払戻しを受けたことはなく,通帳機械払の方法により払戻しが受
けられることを知らなかった。
 (6) 上告人は,被上告人に対して本件払戻しに係る預金801万円の返還を求
める訴えを提起し,その訴状は,平成12年3月17日,被上告人に送達された。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件払戻しが無効であり,そうでない
としても債務の本旨に従った履行とはいえないなどと主張して,本件払戻しに係る
預金801万円の返還又は債務不履行に基づく損害賠償として同額の金員の支払及
びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率による遅延損
害金の支払を求める事案である(預金返還請求と損害賠償請求は選択的併合)。
 3 原審は,上記事実関係の下において,本件払戻しは民法478条により弁済
の効力を有するから,上告人の預金返還請求は理由がなく,また,本件払戻しは債
務の本旨に従った履行であるから,上告人の債務不履行に基づく損害賠償請求も理
由がない旨を判示し,上告人の請求を棄却すべきものと判断した。
 4 しかしながら,本件払戻しが民法478条により弁済の効力を有するものと
した原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 【要旨1】無権限者のした機械払の方法による預金の払戻しについても,
民法478条の適用があるものと解すべきであり,これが非対面のものであること
をもって同条の適用を否定すべきではない。
 債権の準占有者に対する弁済が民法478条により有効とされるのは弁済者が善
意かつ無過失の場合に限られるところ,【要旨2】債権の準占有者に対する機械払
の方法による預金の払戻しにつき銀行が無過失であるというためには,払戻しの際
に機械が正しく作動したことだけでなく,銀行において,預金者による暗証番号等
の管理に遺漏がないようにさせるため当該機械払の方法により預金の払戻しが受け
られる旨を預金者に明示すること等を含め,機械払システムの設置管理の全体につ
いて,可能な限度で無権限者による払戻しを排除し得るよう注意義務を尽くしてい
たことを要するというべきである。その理由は,次のとおりである。
 機械払の方法による払戻しは,窓口における払戻しの場合と異なり,銀行の係員
が預金の払戻請求をする者の挙措,応答等を観察してその者の権限の有無を判断し
たり,必要に応じて確認措置を加えたりするということがなく,専ら使用された通
帳等が真正なものであり,入力された暗証番号が届出暗証番号と一致するものであ
ることを機械的に確認することをもって払戻請求をする者が正当な権限を有するも
のと判定するものであって,真正な通帳等が使用され,正しい暗証番号が入力され
さえすれば,当該行為をする者が誰であるのかは全く問われないものである。この
ように機械払においては弁済受領者の権限の判定が銀行側の組み立てたシステムに
より機械的,形式的にされるものであることに照らすと,無権限者に払戻しがされ
たことについて銀行が無過失であるというためには,払戻しの時点において通帳等
と暗証番号の確認が機械的に正しく行われたというだけでなく,機械払システムの
利用者の過誤を減らし,預金者に暗証番号等の重要性を認識させることを含め,同
システムが全体として,可能な限度で無権限者による払戻しを排除し得るよう組み
立てられ,運営されるものであることを要するというべきである。
 (2) 前記事実関係によれば,被上告人は,通帳機械払のシステムを採用してい
たにもかかわらず,その旨をカード規定等に規定せず,預金者に対する明示を怠り
(なお,記録によれば,被上告人においては,現金自動入出機の設置場所に「AT
Mご利用のお客様へ」と題する書面を掲示し,「当行の通帳・カードをご利用のお
客様」の払戻手数料を表示していたことがうかがわれるが,これでは預金者に対す
る明示として十分とはいえない。),上告人は,通帳機械払の方法により預金の払
戻しを受けられることを知らなかったというのである。【要旨3】無権限者による
払戻しを排除するためには,預金者に対し暗証番号,通帳等が機械払に用いられる
ものであることを認識させ,その管理を十分に行わせる必要があることにかんがみ
ると,通帳機械払のシステムを採用する銀行がシステムの設置管理について注意義
務を尽くしたというためには,通帳機械払の方法により払戻しが受けられる旨を預
金規定等に規定して預金者に明示することを要するというべきであるから,被上告
人は,通帳機械払のシステムについて無権限者による払戻しを排除し得るよう注意
義務を尽くしていたということはできず,本件払戻しについて過失があったという
べきである。もっとも,前記事実関係によれば,上告人は,本件暗証番号を本件車
両の自動車登録番号の4桁の数字と同じ数字とし,かつ,本件通帳をダッシュボー
ドに入れたまま本件車両を自宅近くの駐車場に駐車していたために,何者かにより
本件通帳を本件車両ごと盗まれ,本件暗証番号を推知されて本件払戻しがされたも
のと認められるから,本件払戻しがされたことについては上告人にも帰責事由が存
するというべきであるが,この程度の帰責事由をもって被上告人に過失があるとの
前記判断を覆すには足りない。
 したがって,本件払戻しについて,民法478条により弁済の効力を認めること
はできない。
 5 以上によれば,原審の前記判断には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令
違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れ
ない。そして,前記説示によれば,上告人の本件預金返還請求は理由があるから,
これを棄却した第1審判決を取り消し,同請求を認容すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田
宙靖)

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