弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人窪田雅信、同松下良成の上告理由について
 一 所論にかんがみ、本件訴えの適否を検討するのに、まず、請求の趣旨につい
てみれば、本件訴えは、上告人が中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協
同組合である被上告人の組合員たる地位に基づき、昭和五八年六月九日に開催され
たとする通常総会(以下「甲総会」という。)及び昭和六〇年七月三〇日に開催さ
れたとする臨時総会(以下「乙総会」という。)における各役員選任決議の不存在
確認を求めるものであるが、同法の規定によれば、事業協同組合の役員は、定款の
定めるところに従い、組合員の総会における選挙によって選出すべきものとされて
いる(三五条三項)。もっとも、定款に定めがあるときは、選挙によらないで、総
会における選任決議によって役員を選出することもできるとされているが(同条一
二項)、記録によれば、被上告人の定款には、総会における選任決議で役員を選出
する旨の定めがないことが明らかである。したがって、被上告人の役員の選出は、
総会における選挙によるしかなく、選任決議による余地はないことになる。
  しかし、本件訴訟の経緯及び原判決挙示の証拠関係に照らせば、上告人の本件
訴えは、被上告人の役員が選出されたとする甲総会及び乙総会の意思決定がいずれ
も存在しないことを理由に、当該各役員選出の効力を争うものであって、右の甲総
会及び乙総会における各役員選挙の不存在確認を求める趣旨に解することができる。
  そして、事業協同組合の組合員は、本件のように訴えをもって役員選挙の不存
在確認を求めることができると解するのが相当であるから、これらの点において、
本件訴えを不適法とすることはできない。
 二 そこで、所論について検討するのに、原審の確定した事実関係の概要は、次
のとおりである。
 1 被上告人においては、その代表理事(理事長)であったDの理事の任期が満
了した昭和四八年六月八日以降、後任の代表理事が選出されていなかった。
 2 甲総会は、被上告人の専務理事(当時)のEが招集したものであるが、被上
告人の定款には「専務理事は…理事長が欠員のときはその職務を行う。」旨の定め
(以下「代行規定」という。)がある。
 3 甲総会が招集された当時、Fが被上告人の代表理事に就任している旨の登記
はあるが、同登記は、EがDの指示を受け、昭和五六年九月二八日、Dの任期満了
の翌日である昭和四八年六月九日にさかのぼってFが理事に選出されて代表理事に
就任し、以後、理事の任期の二年ごとに重任されたように装って申請した一連の登
記の一つで、Fが代表理事に就任したことはなく、Fを理事に選出するための総会
も開催されたことがなかった。
 三 原審は、右の事実関係の下において、Dの任期満了による退任後、被上告人
の代表理事は欠員であったから、Eには代行規定に基づく甲総会の招集権限があり、
したがって、甲総会において理事に選出されて代表理事に就任したGには乙総会の
招集権限が、次いで、乙総会において理事に選出されて代表理事に就任したHには
昭和六一年三月二日に開催された臨時総会(以下「丙総会」という。)の招集権限
があったから、丙総会においてされた上告人の除名決議は有効で、上告人は、被上
告人の組合員たる資格を喪失しているので、甲総会及び乙総会における各役員選任
決議(なお、これが選挙をいうことは前記一のとおりである。以下同じ。)の不存
在確認を求める当事者適格がないとして、本件訴えを却下している。
 四 しかしながら、原審の右判断は首肯することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 被上告人の定款の定めによれば、被上告人の役員の定数は、理事四人、監事
一人で、理事のうち一名を代表理事、一名を専務理事とし、理事会で選任すること、
役員の任期はいずれも二年で、理事又は監事の全員が任期満了前に退任した場合に
新たに選挙された役員の任期も二年であること、補欠のため選挙された役員の任期
は現任者の残任期間であることが明らかであるから(なお、理事の任期とは別に代
表理事又は専務理事の任期は定められていない。)、被上告人においては、代表理
事も、専務理事も、他の理事も、その全員につき同時に任期が満了することが予定
されているものということができる。そして、原審の確定した前記の事実関係によ
れば、Dの後任理事を選出するための総会は開催されていないというのであるから、
Eについても、他の理事についても、その後任理事を選出するための総会は開催さ
れていないことになる。したがって、代表理事のDの理事の任期が満了したのと同
時に、専務理事のEも、他の理事も、いずれもその任期が満了していたものといわ
なければならない。
 2 他方、中小企業等協同組合法の規定によれば、事業協同組合の理事は、任期
満了又は辞任によって退任した場合には、後任の理事が選出されるまでの間、なお
理事としての権利義務を有し、代表理事についても、後任の代表理事が選出される
までの間、なお代表理事としての権利義務を有するとされているところ(四二条、
商法二五八条一項、二六一条三項)、被上告人においては、任期満了又は辞任によ
って役員の員数が定款所定の前記定数を欠くことになるため、右の規定を受けて、
被上告人の定款には、任期満了又は辞任によって退任した役員は、新たに選挙され
た役員が就任するまで、なお役員の職務を行うと定められている。
 3 被上告人の定款に代行規定があることは原審の判示するとおりであるが、代
行規定は、代表理事が欠員の場合のほか、代表理事及び専務理事がいずれも欠員の
場合も予定し、この場合には、「理事会で、理事のうちからその…代行者一人を定
める。」と定められているのであって、被上告人の理事の員数及び任期に関する前
記定款の定め及び任期満了又は辞任によって退任した理事の権利義務に関する前記
法の規定を併せ考えると、右の代行規定にいう代表理事あるいは専務理事の欠員に
は、当該理事が任期満了によって退任したにすぎない場合は含まないと解するのが
相当である。けだし、代行規定の適用上、代表理事の欠員と専務理事の欠員とを別
異に解すべき理由はなく、任期満了による退任を欠員に当たるとすれば、被上告人
においては、代表理事も、専務理事も、他の理事も、いずれも欠員となるので、代
行規定を適用する前提を欠き、定款に代行規定を設けた意味が失われる上、この場
合には、そもそも退任した理事がなお理事としての職務を行うことが予定されてい
ると解されるからである。したがって、代表理事が任期満了によって退任した後、
専務理事が代行規定に基づき代表理事の職務を行い得るのは、代表理事が退任後に
死亡その他の事由によって代表理事としての職務を行い得ない特段の事情がある場
合に限られるというべきである。
 五 そうすると、Dは、理事としての任期が満了した後も、後任の理事が選出さ
れて代表理事に就任するまでの間、なお被上告人の代表理事としての権利義務を有
していたところ、何ら右特段の事情のうかがわれない本件においては、専務理事の
Eが代行規定に基づき代表理事の職務を行い得る余地はなく、Eに甲総会の招集権
限はなかったものといわなければならない。そして、Eに甲総会の招集権限がない
以上、甲総会の決議は法律上不存在というほかなく、したがって、甲総会において
理事に選出されて代表理事に就任したというGが招集した乙総会の決議も、次いで、
乙総会で理事に選出されて代表理事に就任したというHが招集した丙総会の決議も、
いずれも法律上存在しないことになるから(最高裁昭和六〇年(オ)第一五二九号
平成二年四月一七日第三小法廷判決・民集四四巻三号五二六頁参照。なお、本件に
おいては、乙総会も、丙総会も、いわゆる全員出席総会に当たらないことが明らか
である。)、丙総会においてされたとする上告人の除名決議も、その効力を生ずる
に由ないものというべきである。
 六 以上と異なる原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右
違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理
由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そ
して、さきに説示したところによれば、上告人が甲総会及び乙総会の各役員選任決
議の不存在確認を求める本件請求はいずれも理由があることが明らかであるから、
これと結論を同じくする第一審判決は相当であり、被上告人の控訴は棄却すべきも
のである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    可   部   恒   雄

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