判決 平成13年5月23日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第1206号損害
賠償請求事件
主文
1 被告は,原告に対し,109万5750円及びこれに対する平成11年10
月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告に対し,金316万8560円及びこれに対する平成11年
10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は,被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は,「Aクリーニング」の名称でクリーニング店を経営する被告との
間で,平成11年10月15日ころ,人工皮革スラックス(以下「本件スラックス」
という。)をクリーニングするとの契約をした。
(2) 被告が同月19日にクリーニングをした本件スラックスを届けたので,原
告は同日午後7時ころ本件スラックスを履いて出勤した。ところが,帰宅間近の同
月20日午前4時ころ両足に違和感を覚えたので,翌21日に被告に対し同事実を
告げた後にB医院で受診したところ,右大腿部薬物性皮膚炎及び左下腿部薬物性皮
膚炎(以下「本件傷害」という。)と診断された。
原告は,その後,B医院に8日間,C皮膚科に42日間通院し,両下肢裏
側(右足は2カ所)に醜状障害の後遺障害が残った。
(3) 原告の本件傷害は,被告がスラックスをクリーニングする際,十分乾燥さ
せるなどして使用した溶剤がその表面に残らないようにしなければならない注意義
務を負っているのに,これを怠り,溶剤をスラックス表面に残したことに起因す
る。
(4) 原告は,本件傷害により,以下の通り,合計金316万8560円の損害
を被った。
ア 治療費 2万4850円
(内訳) B医院分 8260円
C皮膚科分 1万6590円
イ 薬剤費 3960円
(内訳) 有限会社水木調剤薬局 1780円
D薬品 2180円
ウ 休業損害 33万9750円
原告は,クラブEで日給3万円,Fで日給7750円で働いていたが,
本件傷害により9日間欠勤せざるを得なくなったため,次のとおり休業損害が発生
した。
クラブE 27万0000円(30,000×9)
F 6万9750円(7,750×9)
エ 慰謝料 250万0000円
原告は,上記(2)の通院経過及び後遺障害に照らし慰謝料は250万円を
下らない。
オ 弁護士費用 30万0000円
原告は,被告が損害賠償をしないため本件訴訟を提起せざるを得なくな
ったものであり,弁護士費用としては30万円が相当である。
(5) よって,原告は,被告に対し,債務不履行に基づき,金316万8560
円及びこれに対する平成11年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は認める(ただし,本件スラックスはポリウレタンコーティ
ングの合成皮革である。)。
(2) 請求原因(2)のうち,被告が平成11年10月19日に本件スラックスを
原告に返却したこと,原告の通院の事実は認めるが,その余は否認ないし不知。
(3) 請求原因(3)は否認する。
被告は,本件スラックスを染抜剤(カミナガ販売株式会社のエネロ酵素)
で汚れを落とし,消臭剤(花王株式会社のベガ)で臭いを消し,裏返して4日間吊
したもので,石油系溶剤でドライクリーニングしたことはない。
(4) 請求原因(4)は否認する。
3 抗弁(一部弁済)
被告は,平成11年12月6日,同年10月21日以降の治療費等として金
2万9154円を原告に対し支払った。
4 抗弁に対する認否
抗弁は否認する。
理由
1 請求原因について
(1) 請求原因(1)は当事者間に争いがない。なお,証拠(甲20の1,2)に
よれば,本件スラックスはポリエステルとレーヨンの混紡生地にポリウレタンコー
ティングがなされた素材でできている。
(2) 請求原因(2)について検討するに,証拠(甲1,2,4,6ないし8,1
9,乙1,12,原告本人,被告本人)によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,平成11年10月15日,本件スラックス,白のスラックス,
ブラウス,スーツの上下のクリーニングを被告に依頼した。また,本件スラックス
はドライクリーニング及び低温でのアイロン表示がなされており原告は以前にもク
リーニングした本件スラックスを着用したが,なんともなかった。
イ 被告は,10月19日(以下,平成11年を省略),クリーニング済み
の本件スラックス等を原告の自宅へ届けた。原告は,同日,本件スラックスを直ち
に着用して「クラブE」に出掛けたが,勤務中は着替えていた。勤務終了後,原告
は本件スラックスを着用して「F」に行き,本件スラックスを着用したまま勤務し
た。
ウ 原告は,10月20日早朝,勤務を終えて帰宅し,本件スラックスを脱
いだ際に両足に静電気が走っているような違和感を感じ,本件スラックス裏側から
石油の臭いがした。そこで,原告は,被告に対し,「ズボンを履いて足がおかしく
なった。裏地に石油の臭いがする。被告に見に来て欲しい」旨の電話をした。
エ 原告は,10月21日,原告宅を訪れた被告に対し,両足の傷害を見
せ,本件スラックスに石油の臭いがしたことを告げた。すると,被告は原告に対し
「ドライクリーニングが乾燥しきっていなかったのでこうなった。市販の薬を塗っ
ておいて欲しい。治療が終わるまで責任を持つ。」と答えた。原告は本件スラック
スの再仕上げを依頼し,被告は本件スラックスを持ち帰った。
オ 原告は,10月21日,B医院を受診し,右大腿部薬物性皮膚炎及び左
下腿部薬物性皮膚炎と診断され,その際に石油性の薬品でやけどをしたときと同様
の症状であるとの説明を受けた。また,同月29日,C皮膚科を受診した際もB医
院と同じような説明を受け,両下肢全体に薬傷があるとの診断を受けた。結局,原
告の通院期間等は以下のとおりであった。
B医院 11年10月21日~11年10月29日 9日(実日数8日)
C皮膚科 11年10月29日~12年1月7日 71日(実日数36日)
カ 原被告は10月27日に話し合いをし,その際に被告は原告に依頼され
て「私長手は,クリーニング仕上げによって溶剤事故をおこし(原告)様の右足に
ケガを負わせた事の責任を負わせてもらいます」と書いた書面を原告に差し入れ
た。
キ 被告は,12月6日,B医院及びC皮膚科の治療費等2万9154円を
原告に支払った。
ク 原告は,本件傷害により,両下腿部の痒み,左下肢の裏側上部のカフェ
オーレ状の淡い色素沈着(10㎝×20㎝),右下肢裏側の上部には幅はほぼ下肢いっ
ぱいで長さ20㎝の,下部には8㎝×1.5㎝のカフェオーレ状の色素沈着が残るという
後遺傷害を受けた。現在では,色素沈着は完全に消えてはいないが薄くなってい
る。
(3) 請求原因(3)(被告の債務不履行)について
ア 綿等の生地にポリウレタン樹脂でコーティングした合成皮革の素材の衣
類は,石油系溶剤を用いてドライクリーニングされることが多いが,一般繊維製品
よりも乾燥しにくい。また,合成皮革は熱に弱く,乾燥機にかけると劣化するので
自然乾燥が望ましいが,吊り干しの自然乾燥では完全に乾燥するまで3日間が必要
である。なお,ズボンやスラックスでは大腿部から膝部にかけて最も乾燥しにくく,
溶剤はコーティング加工面(表面)よりも基布面(裏面)に残留しやすい。ドライクリ
ーニング溶剤としては様々なものが使用されているが,いずれにしても溶剤が残留
していれば,一次刺激性皮膚炎ないし化学熱傷が生じる可能性がある。(甲3,乙
20,22ないし24)
イ (2)に認定の事実及び前記アの一般的事情を総合すると,本件傷害が被告
のクリーニング後の本件スラックスを履いた直後に生じていること,本件傷害の発生
部位が大腿部であり,溶剤の最も残留しやすいとされている部分と一致すること,
本件傷害は薬物性皮膚炎であり,ドライクリーニングに使用される石油系溶剤によ
っても生じるものであること,当初は被告自身も本件スラックスをドライクリーニ
ングし,乾燥が十分でなかったことを認めていたこと,原告は以前にも本件スラッ
クスをクリーニング後に履いたがなんともなかったことが認められ,同事実からす
ると,被告が本件スラックスを石油系溶剤を使用してドライクリーニングしたこと,
クリーニング後の乾燥が不十分であったため本件スラックスに石油系溶剤が残り,
残留した溶剤のために原告
が本件傷害を負ったことが強く推認される。
ウ 被告には,クリーニング業者として石油系溶剤でドライクリーニングを
した場合には洗濯物に溶剤が残らないように十分乾燥しなければならず,本件スラ
ックスのようなポリウレタンコーティングされた合成皮革を用いた洗濯物について
は特に十分乾燥させて溶剤が残留しないよう注意すべき義務があるのに,被告がこ
れを怠ったことは明らかであり,被告には債務不履行があるといえる。
なお,被告は,本件スラックスを石油系溶剤でドライクリーニングした
ことはなく,染抜剤で汚れを落とし消臭剤で臭いを消した等と主張し,本人尋問に
おいてこれに沿う供述をするが,前記認定事実に照らし,被告の供述は採用できず,
また他に同事実を認めるに足りる証拠もない。
(4) 請求原因(4)(損害)について
原告の損害額は,以下のおり,合計111万8560円であると認められ
る。
ア 治療費 2万4850円
証拠(甲5の1ないし8,10の1ないし10)により認められる。
イ 薬剤費 3960円
証拠(甲11の1ないし3,12)により認められる。
ウ 休業損害 33万9750円
証拠(甲13ないし16,18,原告本人)によれば,原告は,クラブ
Eでは日給3万円,Fでは日給7750円(時給3500円×2.5時間-交通費1000円)
で働いており,本件傷害により平成11年10月25日から9日間欠勤したことが
認められる。
エ 慰謝料 65万円
前記認定の通院状況及び後遺傷害の程度に照らすと,原告の精神的苦痛
を慰謝するには,65万円が相当である。
オ 弁護士費用 10万円
本件事案の内容に鑑み,弁護士費用は10万円が相当である。
2 抗弁について
証拠(乙4ないし12,被告本人)によれば,被告が平成11年12月6日
に原告に対し治療費として2万9154円の支払をしたこと,その中には原告が本
訴請求をしていない交通費や写真代の6344円が含まれていることが認められ
る。そうすると,弁済は6344円を除いた2万2810円の限度で認めるのが相
当である。
3 以上によれば,原告の請求は109万5750円の限度で理由があるからこ
れを認容し,その余を棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条を,仮
執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文の通り判決する。
神戸地方裁判所第5民事部
裁判官永田 眞理
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