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平成12年(ネ)第4392号不正競争防止法に基づく差止等請求控訴事件(原審・
和歌山地方裁判所平成4年(ワ)第459号)
判決
    控訴人(一審原告)        株式会社東洋精米機製作所
    上記訴訟代理人弁護士       藤  田  邦  彦
            破産者株式会社躍進機械製作所破産管財人
    被控訴人(一審被告)       辻     慶  典
    被控訴人(一審被告)       B
    上記訴訟代理人弁護士       鈴  木     博
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 控訴人と被控訴人破産者株式会社躍進機械製作所破産管財人辻慶典との間
で,控訴人が破産者株式会社躍進機械製作所に対し,損害賠償債権2900万円の
破産債権を有することを確定する。
  (3) 被控訴人Bは,控訴人に対し,2900万円及びこれに対する平成4年9
月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
   控訴人は,あらかじめ洗米し糠分等を除去して消費者が米を洗う必要がない
ように加工した無洗米に関する営業秘密を有しているところ,破産者株式会社躍進
機械製作所(以下「破産会社」という。)の代表取締役被控訴人B(以下「被控訴
人B」という。)が上記営業秘密を知得して破産会社に不正に開示し,破産会社が
不正開示行為であることを知りながら上記営業秘密を取得し使用して原判決添付別
紙(一)イ号目録一,二記載の無洗米製造装置(以下「イ号装置」という。)を製造
販売し,その結果,控訴人に対して逸失利益4000万円と名誉侵害・信用毀損に
よる損害1000万円以上合計5000万円の損害を与えたと主張して,不正競争
防止法4条,民法44条,709条,710条に基づき,被控訴人破産会社破産管
財人辻慶典(以下「被控訴人破産管財人」という。)に対し,破産債権として上記
損害のうち届出債権2900万円を有することの確定を求め,被控訴人Bに対し,
上記損害のうち2900万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成4
年9月20日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを
求めた。
 2 前提事実
   証拠(甲44の2,45,46,49~53,57~60,76,78~8
1,88,98,99,111,乙1,10の1~4,18,控訴人代表者本人,
破産による中断前の被控訴人破産会社代表者兼被控訴人B本人〔以下「被控訴人B
本人」という。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ
る。
  (1) 控訴人は,精米機器の製造販売等を業とする株式会社であり,昭和60年
2月ころからA(以下「A」という。)が代表取締役に就任した。
    Aは,昭和38年4月に財団法人A技術研究所(以下「A技研」とい
う。)を寄附行為により設立し,理事に就任し,無洗米の製造装置の開発に取り組
んだ。
  (2) 控訴人(乙)とA技研(甲)は,昭和53年10月4日,次のとおりの覚
書(甲44の2)を作成し,その旨を合意した。
    「第1条 瞬間洗米機及び無洗米(以下それらを両製品と云う)の完成
は,本日までの甲(A)の新技術の創造と,乙の実務的な実験研究の成果であるこ
とを確認し,将来,収得すべき両製品に関する特許権は甲乙の共有とする。また,
乙が実施権を占有する。第2条 両製品は一応完成しているものの,未だ開発を要
する部分や,改善を望まれるところが残されているが,甲の事情により,一応本日
以降は総て乙に於いて開発をすすめていくこととする。第3条 甲のこれまでの創
造開発に対する対価は,将来乙に於いて両製品を実施する時点で,甲乙間で協議の
上,取決めるものとし,その開発評価は本日以降乙がすすめた開発成果を勘案し乍
ら決定する。尚,その時,甲,乙それぞれの開発貢献の評価に誤りなきを期する
為,本日までに果した甲の創造開発事項を本覚書に添付する。第4条 両製品(今
後開発されるものも含む)は,それぞれ実施,又は公知にする直前に特許出願をす
るものとし,それまではそれらの技術内容が他に洩れぬよう,甲及び乙は厳重な注
意を払うものとする。尚,万一の場合を考慮して,乙は先使用権の主張が出来るよ
う,確定日付(公証人役場)を得ておくこととする。第5条 両製品は革命的であ
り,社会に極めて衝撃を与えるものだけに,乙に於いては周到な計画や体勢を整え
た上で実施するものとする。」
    A技研が創造開発した事項として覚書に添付された内容は,本判決添付別
紙(二)(一部秘匿)のとおりである。
  (3) 控訴人は,昭和53年10月11日,「瞬間洗米機について(以下本製品
と云う)」と題する書面(甲45)を作成し,同日,公証人による確定日付を受け
た。上記書面の1枚目の本文には,次のとおり記載されている。
    「本製品は0・1秒~2秒で精白米を連続的に水洗を行い,それを直ちに
脱水することにより,精白米の表面に亀裂を生むことのない無洗米(炊飯の際に水
洗の必要をなくすること)を得ることにある。尚,本製品の製作図面は別紙のとお
りである。本書面は,後日,特許法第79条に基く通常実施権の存在を主張しなけ
ればならぬことを考慮して確定日付を申請する(添付図面4通)」。
    なお,控訴人は,営業秘密を理由に上記添付図面4通を提出しない。
  (4) C(以下「C」という。)は,昭和56年4月A技研の理事に就任して技
術開発に従事し,Aの依頼により無洗米の製造装置の遠心分離の改良に携わった。
  (5) 被控訴人Bは,精米機,産業機械等の製造販売を業とする破産会社の代表
取締役であったが,昭和63年5月に控訴人の代表取締役社長にも就任し,代表取
締役会長のA,代表取締役専務のDと共に経営に携わり,毎週月曜日の午前中に破
産会社の仕事をした後,直ちに上京して金曜日まで控訴人の東京支社の社長室で勤
務し,月に1回和歌山本社での役員会と専務会に出席した。
  (6) 控訴人作成にかかる昭和63年7月20日付の「新発明の即飯ライス(洗
い米)及び装置の実施計画(昭和63年7月16日の役員会で承認)」と題する書
面(甲58)には,昭和63年9月9日の確定日付があるが,その記載内容は次の
とおりであり,被控訴人Bも出席した昭和63年7月16日の役員会で承認され
た。
    「この実施計画は,米業界の夢であった米の提供業者にて米を水洗いし
て,消費者が洗米しなくとも良い米の製法に関するもので,当社が永年の研究の
末,水で洗っていながら,亀裂がはいらない(食味が落ちない)米をやっと実現し
たものであり,以下の通りの方式により実施を行なう。1)玄米を15%~18%
に水分調質した後,精米機により精白する。又は,通常に精米及び研米した後,1
4・5%~17・5%になるよう水分調質を行なう。尚,いずれの場合でも長時間
をかけ(当社調質機によって行なう),且つ,夏期には発酵しないよう冷却しなが
ら行なう。2)1をした後,速やかに洗米し,脱水し(洗米に15秒,脱水乾燥に
約20秒),含水率が15%~19%になるよう洗い米として仕上げる。3)2を
した後,速やかに(表面がひび割れしない間に)包装を行なう。4)高水分タイプ
で長期保存ものは,3をした後,60℃~70℃の湯に数分間(後日カビが生えない
程度に)殺菌,殺カビをする。5)現在実験中の装置を長期運転に耐えるよう整備し
て,上記洗い米を本年末頃より製造販売を始める。6)5の次は,洗い米加工の装
置,及び,システムを作り,販売又はリースも始める。尚,6を実施するまでは,
重要な部分は特許出願をせず,ノウハウとする。」
  (7) 控訴人は,平成元年3月14日,無洗米の製造方法につき,発明者をAと
して特許出願をした(乙1。出願番号・特願平1ー62648,平成2年9月27
日出願公開。特許請求の範囲《請求項1》精白米を水洗し,且つ,含水率が16%
以下に除水処理した乾燥洗い米。《請求項2》精白米を,水中にて攪拌洗米する行
程と,該水洗行程の直後に設けた除水行程とを具備し,該水洗行程及び除水行程を
通過せしめた時の米粒の含水率が16%以下になるよう,短時間に水中洗米と除水
を行なうことを特徴とする乾燥洗い米の製造方法。以下「控訴人(一)出願」とい
う。)。
  (8) Cは,Aと対立し,平成元年4月にA技研の理事を辞任した後,破産会社
に入社して無洗米製造装置の開発に従事し,被控訴人Bは,平成元年10月控訴人
の代表取締役を辞任した。
  (9) Cは,平成4年1月17日,無洗米製造装置につき特許出願をし(乙1
8。出願番号・特願平4ー6363。特許請求の範囲《請求項1》加圧攪拌手段
と,すすぎ脱水手段と,蒸発手段とを具備する無洗米製造装置であって,前記加圧
攪拌手段は,精白米に洗浄水を添加する注水口を設けるとともに,一端に精白米の
受入口を他端に排出口を有する円筒形または多角筒形の攪拌筒に,周面に突条を有
する攪拌ロールを回転駆動可能に内装してなり,前記すすぎ脱水手段は,多孔状の
周壁を有する遠心脱水槽を回転駆動可能に設け,該遠心脱水槽の内部には,周面に
精白米を有する遠心脱水槽の周壁に沿って軸方向に移動させるスクリュー羽根を有
するスクリュー筒を遠心脱水槽と差動回転駆動可能に設け,かつ,該スクリュー筒
の内部に,前記加圧攪拌手段からの精白米および水を供給する米水供給管と,すす
ぎ水供給管とを挿通するとともに,該スクリュー筒に米水吐出口とすすぎ水吐出口
を設けてなり,前記蒸発手段は,前記すすぎ脱水手段からの精白米をその上面に展
開するようネットを回転駆動可能に設けるとともに,該ネットの下側から空気を吸
引する吸引ブロワを設けてなることを特徴とする無洗米製造装置。《請求項2》前
記スクリュー筒のすすぎ水吐出口より上側に通気口を設けるとともに,前記遠心脱
水槽の周囲を排気排水口を有するケーシングにより囲繞し,さらに,遠心脱水槽の
周壁の外側に,該遠心脱水槽と一体的に回転する起風羽根を設けてなる請求項1記
載の無洗米製造装置。《請求項3》前記スクリュー筒のすすぎ水吐出口より上側に
通気口を設けるとともに,前記遠心脱水槽の周囲を排気排水口を有するケーシング
により囲繞し,さらに,前記排気排水口に吸引ブロワを連通してなる請求項1記載
の無洗米製造装置。《請求項4》前記蒸発手段のネットの回転速度を調節自在とし
た請求項1記載の無洗米製造装置。《請求項5》前記各処理手段を,後工程側の処
理手段の精白米受入口が前工程側の処理手段の精白米排出口の下方に位置するよう
連設することにより,各処理手段の間に搬送手段を設けることなしに,精白米が各
処理手段を順次通過していくように構成した請求項1記載の無洗米製造装置。以下
「C出願」という。),破産会社は,平成4年1月27日,無洗米製造装置につ
き,発明者をCとして特許出願をした(甲51。出願番号・特願平4ー5305
3。特許請求の範囲《請求項1》ないし《請求項3》C出願と同じ。ただし,《請
求項1》中,「米水供給管と,すすぎ水供給管とを挿通する」とあるのは「米水供
給管を挿通する」と読み替える。《請求項4》前記遠心脱水槽およびスクリュー筒
の回転速度を調節自在とした請求項1記載の無洗米製造装置。《請求項5》及び
《請求項6》C出願と同じ。以下「破産会社出願」という。)が,C出願は出願審
査の請求がされないままであるし,破産会社出願は平成12年5月30日に拒絶査
定された。
  (10) 破産会社は,平成4年3月ころからイ号装置を製造販売し,平成4年7
月27日,サンエイ技研工業株式会社が平成元年11月9日に発明者をEとして特
許出願して平成3年7月2日出願公開を経た無洗米の製造方法及び製造装置につい
ての権利を上記会社から譲り受け,その後これにつき出願公告がなされた(乙10
の1。出願番号・特願平1ー291938。以下「本件出願」という。)が,先に
出願された控訴人(一)出願と同一であり特許異議に理由があるとの特許異議の決定
に伴い,出願拒絶の査定を受けた。
  (11) 控訴人は,平成9年1月29日,控訴人(一)出願につき,A技研と共
に,特許番号第2602090号,特許請求の範囲の請求項1「精白米を水に浸
け,洗滌,除糠を行い,吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得,更に除水
工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法であって,
水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了
し,水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにし,かつ米粒の含水率が除水し
た時点でほぼ16%を超えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない洗い米の製
造方法。」として特許権設定の登録を受け(以下「(一)特許権」という。),平成
9年3月11日,控訴人(一)出願から分割出願された出願番号・特願平4ー179
248,特許請求の範囲の請求項1「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部に
とどまっているうちに強制的に除水して得られる,米肌に亀裂がなく,米肌面にあ
る陥没部の糠分がほとんど除去された,平均含水率が約13%以上16%を超えな
いことを特徴とする洗い米。」の特許出願につき特許権設定の登録を受けた(以下
「(二)特許権」という。)。
  (12) 控訴人は,平成9年9月9日,破産宣告を受ける前の破産会社及び被控
訴人Bを被控訴人として,本件訴えを提起し,同会社は,静岡地方裁判所浜松支部
から,平成10年1月29日午前10時,破産宣告を受け,被控訴人破産管財人が
破産管財人に選任され,控訴人は,上記支部に,破産会社に対する破産債権として
損害賠償債権2900万円を届け出たが,被控訴人破産管財人は,平成11年5月
19日の債権調査期日において,控訴人の届出債権に異議を述べた。
 3 争点及び争点に関する当事者の主張
  (1) 破産会社及び被控訴人Bは,破産会社がイ号装置を製造販売することによ
り控訴人主張の後記本件営業秘密を侵害したか。
   (控訴人の主張)
   ア Aは,昭和53年ころ,次の無洗米(乾燥洗い米)の製法及び装置に関
する事項を開発,発明した。
    (ア) 無洗米の製法は,次の3事項が必須要件である。
     ① 精白米を水で洗滌する。
     ② 洗滌で濡れた米を元の水分近くまで乾燥する。
     ③ 上記の工程を数秒または数十秒の短時間で行う。
    (イ) 上記無洗米を得るための機械装置の構造における重要な点は,次の
とおりである。
      ①については,容器内を,ほぼ定量の水と米が攪拌しながら,短時間
に通過させるための連続洗米装置にする。
      ②については,洗浄で濡れた米を早く乾燥するために,遠心分離装置
と通風乾燥装置を併用する。
      上記通風乾燥は,即効的に行う必要があるため,米粒を通過させない
網を用い,その網面に片面に米粒群を拡げ,その面より裏面に常温又は温かい空気
が貫通するよう送風又は吸風する装置とする。
      上記により米粒の含水率が元の含水率より1%以下のアップとなる程
度に乾燥させる。
    (ウ) (ア)は乙1にて公開されているので,(イ)の部分が営業秘密となる
(以下「本件営業秘密」という。)。
   イ 控訴人は,立入禁止の掲示をした工場内の施錠した一室で試作し,Aが
自宅で設計図等の資料を保管して,本件営業秘密を管理していた。
   ウ Cは,A技研の理事に就任中の昭和56年4月から平成元年10月3日
までの間に,Aを手伝って無洗米の製造方法及び製造装置の開発に従事し,その過
程で本件営業秘密を知得した。
     被控訴人Bは,Cから本件営業秘密を開示され,また自らも,控訴人の
代表取締役に就任中に昭和63年7月16日の役員会で本件営業秘密を知得した。
   エ 被控訴人Bは,平成元年10月3日に控訴人代表取締役を辞任した後,
本件営業秘密を破産会社に不正に開示し,破産会社は不正開示であることを知りな
がら本件営業秘密を使用してイ号装置を製造販売した。
   (被控訴人Bの主張)
   ア 控訴人は,原審で,原判決添付別紙(三)計画書(甲61に添付されてい
るもの。甲47は上記のうちの一部が秘匿されているもの。以下「本件計画書」と
いう。)に記載されたとおりの無洗米の製造方法及び製造装置を発明し,上記発明
を特許出願せずに営業秘密としていたとし,これを本件営業秘密といい,その内容
を原判決添付別紙(四)記載のとおりと主張し,これにつき審理がされてきたとこ
ろ,当審で,本件営業秘密を前記のとおり変更する主張をしたのであって,かかる
主張は,信義則に反するもので,民訴法157条により却下を申し立てる。
   イ 本件計画書は,その体裁,公証人の確定日付の位置,内容及び控訴人の
製造販売製品及び本件係属当初は本件計画書を提出していなかったこと等からし
て,成立は極めて疑わしく,信用性がない。したがって,本件計画書による本件営
業秘密は存在していない。
  (2) 損害
   (控訴人の主張)
    破産会社は,平成4年2月1日から平成7年12月13日までの間に,4
台以上のイ号装置を製造販売し,8000万円以上の売上金を取得したから,少な
くともその5割に当たる4000万円の利益を得たものであり,控訴人は同額の得
べかりし利益を喪失した。
    控訴人は,破産会社及び被控訴人Bの前記行為により,我が国の無洗米の
開拓者としての名誉を侵害され,営業上の信用も毀損され,これにより1000万
円相当の損害を被った。
    控訴人は,以上合計5000万円の損害を被った。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)について
  (1) 民訴法157条による却下の申立てについて
    原審及び当審記録によれば,次のとおりいうことができる。
    控訴人は,原審で,本件計画書に記載されたとおりの無洗米の製造方法及
び製造装置を営業秘密とし,その内容を原判決添付別紙(四)記載のとおりと主張し
ていたごとくでもあるが,前記摘示した内容を営業秘密として主張していたこと
も,訴状・別紙に「控訴人は,昭和53年10月4日以降,無洗米の製造方法および
装置について,別紙内容の要旨の営業秘密を保有していた。1)無洗米の製法は,
次の3事項が必須要件である。①精白米を水で洗滌する。②洗滌で濡れた米を元の
水分近くまで乾燥する。③上記①②の工程を数秒または数十秒の短時間で行う。
2)上記無洗米を得る機械装置の構造における重要な点は次のとおりである。①に
ついては,容器内を,ほぼ定量の水と米が攪拌しながら,短時間に通過させる為の
連続洗米装置にする。②については,洗浄で濡れた米を早く乾燥する為に,遠心分
離装置と通風乾燥装置を併用する。上記通風乾燥は,即効的に行う必要がある為,
米粒を通過させない網を用い,その網面に片面に米粒群を拡げ,その面より裏面に
常温又は温かい空気が貫通するよう送風又は吸風する装置とする。上記により米粒
の含水率が元の含水率より1%以下のアップとなる程度に乾燥させる。」として以
降,平成5年3月17日付控訴人準備書面3頁13行ないし4頁1行,同年9月2
2日付控訴人準備書面2頁1行ないし5行,平成6年2月16日付控訴人準備書面
2頁2行ないし3頁7行,同年3月30日付控訴人準備書面2頁2行ないし3行,
同年11月21日付控訴人準備書面2頁2行ないし4行,平成7年2月1日付控訴
人準備書面2頁2行ないし4頁1行,平成8年5月10日付控訴人準備書面2頁4
行ないし7行,平成12年10月16日付控訴人準備書面2頁7行ないし12行の
とおり,明らかである。そうすると,控訴人が当審でした主張にかんがみれば,原
判決の摘示した「本件計画書に記載されたとおりの無洗米の製造方法及び製造装置
を営業秘密とし,その内容を原判決添付別紙(四)記載のとおりとして,これを本件
営業秘密とする」旨の主張をせず,本件営業秘密を前記のとおりと主張したという
べきであるから,従前主張していたごとくでもあった営業秘密の主張を主張しない
ことを明確にし,本件営業秘密を前記のとおりと確定したにすぎないといえる。
    したがって,新たな主張が追加されたわけでないから,被控訴人Bの民訴
法157条による却下の申立ては理由がない。
  (2) 控訴人の主張アについて
    前提事実並びに証拠(甲44の2,45,控訴人代表者本人)によれば,
控訴人の主張ア(ア),(イ)の事実を認めることができる。
    控訴人の主張ア(ウ)の事実を認めるに足りる十分な証拠はない。
    すなわち,上記認定の控訴人の主張ア(ア),(イ)の事実及び前提事実並び
に証拠(甲44の2,45,控訴人代表者本人)によれば,昭和53年の段階で
は,上記認定の控訴人の主張ア(ア),(イ)の事実は,公然と知られていないもの
(非公知)であって秘密であったことが認められるが,不正競争防止法2条4項7
号(附則2条ないし4条)の営業秘密に関する規定が適用される平成3年6月15
日(平成2年法律第66号不正競争防止法の一部を改正する法律の施行期日)の時
点や破産会社がイ号装置の製造販売を開始した平成4年3月の時点において,控訴
人の主張ア(ア),(イ)の事実が非公知であって秘密であったとは認められない。
    けだし,控訴人平成元年3月14日出願・控訴人代表者A発明・平成2年
9月27日公開の公開特許公報(乙1。特許請求の範囲《請求項1》精白米を水洗
し,且つ,含水率が16%以下に除水処理した乾燥洗い米。《請求項2》精白米
を,水中にて攪拌洗米する行程と,該水洗行程の直後に設けた除水行程とを具備
し,該水洗行程及び除水行程を通過せしめた時の米粒の含水率が16%以下になる
よう,短時間に水中洗米と除水を行なうことを特徴とする乾燥洗い米の製造方法。
傍線部分は重要部分。以下同じ。)により,控訴人の主張ア(ア)の事実が公知であ
ることは控訴人の自認するところである。
    また,昭和44年6月23日出願・昭和45年11月30日公告の実用新
案公報(乙6)の洗米兼乾燥装置は,実用新案登録請求の範囲を「洗米桶1に適当
の間隙イを設けて網2を張設すると共に注水管3を装置し,桶1の先方に米拡流板
4を設けその下方に線体コンベア5を数段に設置し,コンベア群の上部に圧力空気
噴出管6下方に熱風噴出タンク7を配置した洗米兼乾燥装置。」とし,「ホツパー
9から投入した米は網2上を流下すると同時に,注水管3より注水が行われて洗米
されつつ桶1の先方に至り,茲に於て米拡流板4により,洗米を広く拡げて線体コ
ンベア5上に流下し,運行される途中上方の圧力空気噴出管6から圧力空気の噴射
を受けて水分を吹飛ばすと共に,下方の熱風噴出タンク7から噴出する熱気によ
り,洗米はコンベア群を連行される間に完全に内部まで乾燥されるものである,而
して空気抜窓9が設けてあるから,水蒸気はこの窓9から排出され内部の湿度を低
下させ乾燥を促進するものである,尚洗米を米拡流板4を流すことにより,洗米を
平均に拡げて乾燥斑なく且急速乾燥の作用を営む効果があり,洗米と乾燥を一挙に
能率的に遂行し得るものであって有用な考案である。」(公報2欄2ないし16
行)というものである。
    さらに,昭和60年1月19日出願・昭和61年8月1日公開の公開実用
新案公報(乙7の1・2)の自動洗米処理装置は,実用新案登録請求の範囲を「水
平に張架されて循環駆動される仕切を有する網状のベルトコンベアの上に,ベルト
コンベアの移動方向に沿って上流側より,定量ずつ米を供給する米供給ホツパと,
米に含まれているゴミを吹き飛ばすエアーを供給するゴミ吹きノズルと,洗米用の
圧力水を噴射するシャワーノズルと,水切用のエアーを供給する水切ノズルと,乾
燥用の熱風を供給する熱風ノズルと,冷却用のエアーを供給する冷却ノズルを順次
配設したことを特徴とする自動洗米処理装置。」とし,「本考案の自動洗米処理装
置は上記のように構成されているので,循環駆動されているベルトコンベア1の上
に米供給ホツパ8より米を供給すると,供給された米はベルトコンベア1上の仕切
4に挾まれた仕切空間7に収容されて移動し,ゴミ吹きノズル10の下部に達すると
エアーにより米に含まれているゴミが吹き飛ばされることになる。なお,吹き飛ば
されたゴミはダスストボックス11により回収されることになる。次にゴミを吹き
飛ばされた米はシヤワーノズル12の下部に達すると圧力水を噴射されて洗米さ
れ,洗米によって生じたとぎ汁は,廃水ダクト14により回収されることになる。
次に洗米された米は水切ノズル13の下部に達すると,水切用エアーを供給されて
米に付着している余分の水が吹き飛ばされて水切がなされ,吹き飛ばされた余分の
水は廃水ダクト14により回収され,バルブ16を開げることによつてとぎ汁と共
に廃水処理設備へ導かれて処理される。次に水切された熱風ノズル17の下部に達
すると熱風が供給されて乾燥される。次に乾燥された米は冷却ノズル19の下部に
達するとエアーが供給されて冷却される。次に冷却された米はベルトコンベア1の
後端から受け皿23上に落下して乾燥機22内に収容され,所定の含水率になるまで
時間をかけてゆっくりと乾燥された後,タンク24に貯蔵され,パッカー25で袋
詰めされて配達されることになる。なお,配達された米は洗米済で含水率も適当で
あり,そのまま水をたすだけで直ちに炊くことができ,炊き上がった飯の味は炊く
直前に手で洗米したのと区別できないくらい良いものとなる。…なお,実験による
テストの結果,洗水処理を終えて袋詰めされた米は,洗米前よりも若干含水率が高
い乾燥状態を維持し,袋詰めのまま数ケ月保存しても変質せず,炊き上がった飯の
味も美味で,本装置が十分に実用に供し得ることを確認することができた。…本考
案の自動洗米処理装置によれば,…米は,ゴミ吹きが行われた後,シャワー状に噴
射される圧力水によって洗米されるので,米の表面にヒビ割れが生じたり,割れ目
にヌカが目詰まりしたり,米の表面に米油の膜ができたりする恐れはなく,炊き上
げた飯の味は良好である。又,洗米後の米は,熱風により,乾燥される前にエアー
により十分に水切がなされるので効率良く乾燥させることができる。又,熱風によ
る乾燥後の米はエアーにより冷却されるが,この部分は単に米を冷却するだけでな
く,米の含水率を調整する機能を果すことができる」(明細書6頁13行ないし9
頁13行)というものである。
    加えて,控訴人代表者A平成元年3月20日記述・その頃刊行の「トーヨ
ーの洗い米(無洗米)説明書」(乙14の3)の内容は,「本当に間違いなく,無
洗米が完成したのです。…この革命的な無洗米の製法を開示することと致しましょ
う。…精米装置から排出された精白米を水中で従来の数倍の速さで高速撹絆をして
水洗(すすぎも含む)をし,直ちに遠心脱水と通風乾燥により除水を行なうのです
が,問題はその除水度(乾燥度)は元の水分(通常14%~15%)とほとんど変
わらぬ14~16%程にまで除水することと,一粒当りの米が水洗の開始から,除
水完了までの時間を約1分(水温が低い場合は数分でもよい)と云う極めて短時間
にしていることが特徴なのです。」というものであり,昭和49年6月15日初
版・昭和60年1月5日増補発行の文献「増補 遠心分離№12」(乙16)は,
遠心分離の機能を説明するものである。
    そうすると,従前,水で洗滌するための連続洗米装置や洗滌で濡れた米を
元の水分近くまで乾燥するための遠心分離装置・通風乾燥装置が存することは公知
であり,このような連続洗米装置や遠心分離装置・通風乾燥装置を使用して本件営
業秘密の核心的部分を成す上記洗滌・乾燥の工程を数秒又は数十秒の短時間で行う
との点は,控訴人平成元年3月14日出願・控訴人代表者A発明・平成2年9月2
7日公開にかかる公開特許公報(乙1)や控訴人代表者A平成元年3月20日記
述・その頃刊行の「トーヨーの洗い米(無洗米)説明書」(乙14の3)により,
控訴人自身が体系的に説明して公然と知らしめたといえる。
    そして,以上によれば,容器内をほぼ定量の水と米が攪拌しながら短時間
に通過させるための連続洗米装置にすること及び洗浄で濡れた米を早く,即効的に
乾燥させるために遠心分離装置と通風乾燥装置を併用し,米粒を通過させない網を
用いてその網面に片面に米粒群を拡げて裏面に常温又は温かい空気が貫通するよう
送風又は吸風する装置とすることは,上記公開特許公報や実用新案公報等を見た当
業者にとって容易に理解,実施し得る内容であるということができ,非公知であっ
たということはできない。
    したがって,控訴人の主張ア(ア),(イ)の事実は,平成3年6月15日の
時点や平成4年3月の時点において,非公知・秘密であったとは認められず,不法
行為とならない。
 2 結 論
   よって,控訴人の本件請求は,不正競争防止法4条,民法44条,709
条,710条のいずれのものとしても理由がなく,棄却すべきであり,原判決は結
論において相当であるから,本件控訴をいずれも棄却し,主文のとおり判決する。
 口頭弁論終結日 平成13年5月28日
 大阪高等裁判所第8民事部
          裁判長裁判官  竹  原  俊  一
    裁判官若  林     諒
             裁判官  西  井  和  徒
別紙(二) 省略

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