弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由は別紙のとおりである。
 上告理由第一点について
 <要旨>民事訴訟法第三二六条により私文書の成立の真正を推定するには、文書の
作成名義人が署名し、または押印したことにつき争いがないか、あるいはそ
の署名または押印が右作成名義人の意思に基いてなされた真正なものであるという
事実が証明されたばあいであることを要するのは所論のとおりであるが、当該文書
の印影が作成名義人の印章によつて顕出されたものであるという事実より右押印が
真正であるとの推定を許されないのではなく、右推定の結果、前記法条により右文
書は作成名義人の押印あるものとしてその成立の真正を推定しうるものというべき
である。したがつて、所論の甲第九号証の印影が上告人の印章によるものであるこ
とが争いないのであるから、各その反証なきかぎり、右争いなき事実から、右押印
の真正である事実の推定と、右推定された事実による文書の成立の真正を推定しう
る理である原審の、その印影が上告人の印章による事実からただちに、右文書の成
立の真正が推定されるとの判示は説明が十分ではないけれども、原審は、右の印影
が上告人の印章による事実から、反証のないことをあげて、右書証の成立を認定し
たのであるから、右は結果において、前述の押印の真正である事実の推定と、右推
定された事実による文書の成立の真正の推定とを、反証なしとして採用したことに
帰し、その反証なしとの証拠判断も首肯しえないではないから、いまだ理由不備の
違法ありとなしがたい。したがつて、右書証が偽造であるとの論旨も、以上の説明
で明らかなように、原審の認定しない事実を前提として原判決を非難するものにす
ぎないから採用に価しない。
 上告理由第二点について。
 原審のなした上告人が本件売買当時その一切の財産を負債整理のための処分する
意図であつた旨の認定は、原判決挙示の証拠により首肯しえないわけではないし、
他人の物の売買契約を認定するには、第三者からの所有権移転が不能のばあいにそ
なえて、その措置につき予め当事者間に合意がある事実を確定しなければならない
ものではない。論旨は、原審の裁量に属する証拠の取捨、判断、事実の認定を非難
しまたは原審の認定にそわない事実を前提として原判決を非難するに帰しとるをえ
ない。 よつて、本件上告は理由がないから、これを棄却すべく民事訴訟法第四〇
一条、第九五条第八九条にしたがい主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 胡田勲 裁判官 長谷川茂治)

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