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平成18年(行ケ)第10446号審決取消請求事件
平成19年10月31日判決言渡,平成19年9月26日口頭弁論終結
判決
原告アルゼ株式会社
訴訟代理人弁護士津山齊,土居範行,菊地将人,池上慶
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人二宮千久,渡部葉子,大場義則,山本章裕
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2006−39072号事件について平成18年8月23日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「遊技機及びその制御装置」とする特許第3443024
号発明(平成11年1月22日出願,平成15年6月20日設定登録。以下,この
出願を「本件出願」,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である(甲1
0)。
その後,本件特許について特許異議の申立て(異議2003−73272号事件
として係属)がされ,原告は,上記審理の過程で,平成17年8月12日,本件出
願の願書に添付した明細書の訂正請求をしたが,平成18年1月10日,「訂正を
認める。特許第3443024号の請求項1,2,4に係る特許を取り消す。同請
求項3に係る特許を維持する。」との決定を受け,同年2月10日,当庁に上記特
許異議決定の取消しを求める訴えを提起し(平成18年(行ケ)10057号),
別件訴訟として係属中である。
原告は,同年5月10日,本件出願の願書に添付した明細書の訂正請求(訂正2
006−39072号事件として係属。以下,この訂正を「本件訂正」という。)
をし(甲11),特許庁は,同年8月23日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,同年9月4日原告にその謄本を送達した。
2発明の要旨
()登録時の明細書(甲10。以下「本件明細書」という。)による特許請求の1
範囲の請求項1ないし5の記載(以下,請求項1ないし5に係る各発明を,順に
「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)
【請求項1】複数の絵柄を移動表示させるとともに所定の有効ライン上に停止させ
ることができる可変表示装置と,
遊技者の操作により移動表示中の前記絵柄を前記有効ライン上に停止させる停止手
段と,
所定の開始信号に応じて乱数を抽出し,該乱数の抽出値と遊技状態に対応して設け
られた所定の確率テーブルとを照合することで,内部当たりか否かを決定する抽選
処理手段と,
前記有効ライン上に停止した前記絵柄が,予め決定された入賞の組合せであるか否
かを判定する入賞判定手段と,
前記抽選処理手段の抽選処理結果が特定の内部当たりとなった状態であって前記入
賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記特定の内部当た
り状態を持ち越す特定内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機において,
前記特定内部当たり記憶手段は,前記特定の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,
特定の内部当たりが持ち越された状態における前記抽選処理手段の抽選処理結果が
更に特定の内部当たりとなった場合には,前記持ち越し分の特定の内部当たりに加
え,前記抽選処理結果を記憶することを特徴とする遊技機。
【請求項2】前記入賞判定手段の判定結果が入賞となったとき,前記特定内部当た
り記憶手段に記憶された特定の内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行
するとともに,前記特定内部当たり記憶手段に記憶された特定の内部当たりの数を
1つ減少させ,前記特定内部当たり記憶手段に残りの特定の内部当たりがあるとき,
前記所定のボーナスゲームが終了した後の抽選処理結果を再度特定の内部当たりと
するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の遊技機。
【請求項3】所定の開始信号に応じて遊技機の表示部で複数の絵柄を移動表示させ
るとともに,遊技者の停止操作に応じて該絵柄の移動表示を停止させる表示制御手
段と,
一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態で,
前記開始信号を受けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当選確率を特定する所定
の確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し,特定の内部当たりか否かを決定する
抽選処理手段と,
前記絵柄の移動表示が停止したとき,該停止した絵柄が前記内部当たりに対応する
入賞絵柄の組合せになったか否を判定する入賞判定手段と,を備えた遊技機の制御
装置において,
前記抽選処理手段が,
前記一般遊技状態と同一の確率テーブルに基づいて,前記ボーナス役の内部当たり
状態における抽選処理を実行するとともに,
該内部当たり状態下における前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部
当たりとなったとき該抽選結果を記憶する特定内部当たり記憶手段を併有し,
該特定内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果に基づいて,前記ボーナスゲーム状
態が終了した後の抽選条件を変更するようにしたことを特徴とする遊技機の制御装
置。
【請求項4】所定の開始信号に応じて遊技機の表示部で複数の絵柄を移動表示させ
るとともに,遊技者の停止操作に応じて該絵柄の移動表示を停止させる表示制御手
段と,
一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態で前
記開始信号を受けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当選確率を特定する所定の
確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し,内部当たりか否かを決定する抽選処理
手段と,
該抽選処理手段の抽選結果が内部当たりである場合であって前記絵柄の移動表示が
停止したとき,該停止した絵柄が前記内部当たりに対応する入賞絵柄の組合せにな
ったか否を判定する入賞判定手段と,を備えた遊技機の制御装置において,
前記抽選処理手段が,
前記ボーナス役の内部当たり状態及び前記ボーナスゲーム状態のうち少なくとも一
つの利益状態における抽選処理を実行するとき,前記一般遊技状態における抽選処
理の確率テーブルよりボーナス抽選確率の低い確率テーブルを使用するとともに,
該利益状態における抽選結果が内部当たりであるとき,該抽選結果を記憶する特定
内部当たり記憶手段を併有し,
該特定内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果に基づいて,前記特定の内部当たり
に対応するボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を変更するようにしたこと
を特徴とする遊技機の制御装置。
【請求項5】前記一般遊技状態及び前記ボーナス役の内部当たり状態で使用する確
率テーブルが,小役,再遊技及び所定のボーナス抽選役を抽選可能で,
前記ボーナスゲーム状態で使用する確率テーブルが,前記所定のボーナス抽選役以
外の抽選役を抽選可能であることを特徴とする請求項3又は4に記載の遊技機の制
御装置。
()本件訂正後の明細書(甲11。以下「本件訂正明細書」という。)による特2
許請求の範囲の請求項1ないし3の記載(以下,請求項1ないし3に係る発明を,
順に「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」といい,これらを併せて「本件
訂正発明」という。)
【請求項1】複数の絵柄を移動表示させるとともに所定の有効ライン上に停止さ
せることができる可変表示装置と,
遊技者の操作により移動表示中の前記絵柄を前記有効ライン上に停止させる停止手
段と,
所定の開始信号に応じて乱数を抽出し,該乱数の抽出値と,一般遊技状態,ボーナ
ス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態に対応して設けられた複数
の抽選役および該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルと,を照合する
ことで,内部当たりか否かを決定する抽選処理手段と,
前記有効ライン上に停止した前記絵柄が,予め決定された入賞の組合せであるか否
かを判定する入賞判定手段と,
前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって
前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス
役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機
において,
前記ボーナス役内部当たり記憶手段は,前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記
憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態における前記抽選処理
手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりとなった場合には,前記持ち越
し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し
前記入賞判定手段の判定結果がボーナス役の入賞となったとき,前記ボーナス役内
部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりに基づいて所定のボーナス
役を実行するとともに,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス
役の内部当たりの数を1つ減少させ,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶し
た抽選結果として残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,前記
ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直
後のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更するようにな
っており,
かつ,ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に対
応して設けられた確率テーブルとでは,少なくともボーナス役の抽選確率が相違し,
ボーナス役の内部当たり状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に
対応して設けられた確率テーブルとでは,ボーナス役以外の抽選確率において相違
する(以下「訂正事項a」という。)ことを特徴とする遊技機。
【請求項2】所定の開始信号に応じて遊技機の表示部で複数の絵柄を移動表示さ
せるとともに,遊技者の停止操作に応じて該絵柄の移動表示を停止させる表示制御
手段と,
一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態で,
前記開始信号を受け付けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当選確率を特定する
所定の確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し,ボーナス役の内部当たりか否か
を決定する抽選処理手段と,
該抽選処理手段の抽選結果がボーナス役の内部当たりである場合であって前記絵柄
の移動表示が停止したとき,該停止した絵柄が前記ボーナス役の内部当たりに対応
する入賞絵柄の組合せになったか否かを判定する入賞判定手段と,を備えた遊技機
の制御装置において,
前記抽選処理手段が,
前記ボーナス役の内部当たり状態及び前記ボーナスゲーム状態のうち少なくとも一
つの利益状態における抽選処理を実行するとき,ボーナス抽選確率が0を超えると
ころの,前記一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルよりボーナス抽選確率
の低い確率テーブルを使用するとともに,該利益状態における抽選結果がボーナス
役の内部当たりであるとき,該抽選結果を記憶するボーナス役内部当たり記憶手段
を併有し,
該ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果として残りのボーナス役の内
部当たりが存在することに基づいて,前記ボーナス役の内部当たりに対応するボー
ナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の
ゲームからボーナス役内部当たり状態に移行させるように変更するようにしたこと
を特徴とする遊技機の制御装置。
【請求項3】前記一般遊技状態及び前記ボーナス役の内部当たり状態で使用する
確率テーブルが,小役,再遊技及び所定のボーナス抽選役を抽選可能で,
前記ボーナスゲーム状態で使用する確率テーブルが,前記所定のボーナス抽選役以
外の抽選役を抽選可能であることを特徴とする請求項2に記載の遊技機の制御装置。
(下線部は本件訂正に係る箇所である。)
3審決の理由
()審決は,別紙審決のとおり,①本件訂正に係る訂正事項には新規事項が含ま1
れ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるので,上記訂正は,平
成15年法律47号による改正前の特許法126条(以下「旧126条」とい
う。)2項及び3項の規定に適合しないから,これを認めることはできず,②本件
訂正発明1ないし3は,いずれも,本件出願前の下記()の各刊行物に記載の発明2
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件訂正は,
独立特許要件に係る旧126条4項の規定により認められないとした。
()刊行物2
ア特開平6−335560号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)
イ平成5年6月1日株式会社白夜書房発行「月刊パチスロ必勝ガイド」平成5
年6月号8頁ないし11頁(甲3。以下「刊行物3」という。)
ウ平成3年10月28日株式会社双葉社発行「パチンコ攻略マガジン増刊10
月28日号,パチスロ攻略マガジンNo.5」第3巻第14号通巻第38号の70
頁ないし71頁(甲4。以下「刊行物4」という。)
エ平成3年8月19日株式会社双葉社発行「パチンコ攻略マガジン増刊8月1
9日号,パチスロ攻略マガジンNo.4」第3巻第11号通巻第36号の88頁な
いし89頁(甲5。以下「刊行物5」という。)
オ平成5年5月1日株式会社白夜書房発行「パチスロ必勝ガイド1993年5
月号」第4巻第7号通巻第30号の6頁ないし9頁(甲6。以下「刊行物6」とい
う。)
カ平成元年12月15日株式会社キャッツ・タイムス社発行「パチンコパチス
ロ攻略情報2」(初版)60頁ないし61頁(甲7。以下「刊行物7」という。)
キ特開昭59−186580号公報(甲8。以下「刊行物8」という。)
ク特開平9−173530号公報(甲9。以下「刊行物9」という。)
()訂正の適否について3
訂正事項aのうち
ア「ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に
対応して設けられた確率テーブルとでは,少なくともボーナス役の抽選確率が相
違」する構成(以下「訂正事項a1」という。)は,「本件特許明細書に記載され
ていない新規事項を含むものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変
更するものである。」
イ「ボーナス役の内部当たり状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊
技状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,ボーナス役以外の抽選確率にお
いて相違する」構成(以下「訂正事項a2」という。)は,「本件特許明細書に記
載されていない新規事項を含むものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し
又は変更するものである。」
ので,上記訂正は,旧126条2項及び3項の規定に適合しない。
()独立特許要件について4
ア本件訂正発明1と刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)との対

(ア)一致点
「複数の絵柄を移動表示させるとともに所定の有効ライン上に停止させることが
できる可変表示装置と,遊技者の操作により移動表示中の前記絵柄を前記有効ライ
ン上に停止させる停止手段と,所定の開始信号に応じて乱数を抽出し,該乱数の抽
出値と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各
状態に対応して設けられた,複数の抽選役および該抽選役の当選確率を特定する所
定の確率テーブルとを照合することで,内部当たりか否かを決定する抽選処理手段
と,前記有効ライン上に停止した前記絵柄が,予め決定された入賞の組合せである
か否かを判定する入賞判定手段と,前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役
の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となった
とき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部
当たり記憶手段と,を備えた遊技機において,前記入賞判定手段の判定結果がボー
ナス役の入賞となったとき,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボー
ナス役の内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボ
ーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を更新させ
るようになっている,遊技機。」
(イ)相違点
「ボーナス役内部当たり記憶手段が,本件訂正発明1は,ボーナス役の内部当た
りを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態におけ
る抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりとなった場合には,
前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し,ボ
ーナスゲームを実行すると前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナ
ス役の内部当たりの数を1つ減少させる構成を備えているのに対し,引用発明は,
ボーナス役の内部当たりを1つのみ記憶可能であり,ボーナスゲームを実行すると,
前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりをクリア
させるものであって,本件訂正発明1に係る前記構成を備えていない点。」(以下
「相違点A」という。)
「本件訂正発明1は,ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部当
たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,
ボーナスゲーム状態が終了した直後のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移
行させるように変更する構成を備えているのに対し,引用発明は,ボーナスゲーム
状態が終了した直後のゲームから一般遊技状態に移行させるものであって,本件訂
正発明1に係る前記構成を備えていない点。」(以下「相違点B」という。)
イ相違点についての検討
(ア)相違点Aについて
「引用発明に示される,ボーナス役の内部当たりを1つのみ記憶可能な構成に代
えて,前記刊行物3,刊行物4,刊行物5,刊行物6,刊行物8,刊行物9に示さ
れる技術(判決注:「ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たり
を2つ以上記憶可能である」との技術)・・・を採用して,前記相違点Aに係る本
件訂正発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」
(イ)相違点Bについて
「引用発明における,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態におい
て,前記刊行物3,刊行物4,刊行物5,刊行物6,刊行物8に示される技術(判
決注:「ボーナスゲーム終了後の1ゲーム目からボーナス役の内部当たり状態に移
行させる構成である」との技術)・・・に基づいて,前記相違点Bに係る本件訂正
発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」
ウ本件訂正発明2及び3については,省略する。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,①訂正事項a1及びa2が新規事項を含み,実質上特許請求の範囲を
拡張し又は変更するとして,訂正の適法性についての判断を誤り(取消事由1),
また,②訂正事項a1及びa2が相違点であることを看過するとともに,本件訂正
発明1と引用発明との相違点A及びBに係る構成がいずれも周知であると誤認し
(取消事由2),その結果,本件発明1が容易想到であるとして独立特許要件につ
いての判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)
()訂正事項a1について1
ア審決は,訂正事項a1について,「当該実施例,及び,これが導出される課
題あるいは作用効果を含む技術思想について,本件特許明細書に何らの記載も示唆
も認められないから,該発明は,本件特許明細書に記載されていない新規事項を含
むものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものである」
(6頁1行∼4行)と認定判断したが,誤りである。
イ本件明細書には,「このビッグボーナス状態における一般遊技中,抽選処理
部54bは,一般遊技状態で使用する抽選テーブルAとは異なる抽選確率テーブル
部分(各テーブルの『BB中一般』の部分)を使用するようになっており」(段落
【0037】)との記載があり,また,本件発明の願書に添付された図面(以下
「本件図面」という。)の【図6】ないし【図8】には,それぞれ一般遊技状態に
対応する確率テーブルとボーナスゲーム状態(各図の「BB中一般」の欄)に対応
する確率テーブルとのボーナス役の抽選確率とがいずれも相違していることが示さ
れているから,訂正事項a1は,本件明細書に明記された事項に基づくものである
ことが明白である。
ウ審決は,ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルにおけるボ
ーナス役の抽選確率と,一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルにおける
ボーナス役の抽選確率が相違するという構成を,①ボーナスゲーム状態に対応し
て設けられた確率テーブルにおけるボーナス役の抽選確率が0%である場合,②
ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルにおけるボーナス役の抽選
確率が,一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルにおけるボーナス役の抽
選確率よりも低い値をとるように設定された場合,③ボーナスゲーム状態に対応
して設けられた確率テーブルにおけるボーナス役の抽選確率が,一般遊技状態に対
応して設けられた確率テーブルにおけるボーナス役の抽選確率よりも高い値をとる
ように設定された場合,に場合分けして,訂正要件判断を行っているところ,②と
③とを区別して論じる箇所は多数見られるが,②と③とを分けて議論する箇所は見
当たらないから,審決の上記場合分けは,不自然かつ恣意的なものであるといわざ
るを得ない。
エ「AがBより低い」という下位概念が,これと異なる「AがBより高い」と
いう下位概念を含まれないことは異論がない。しかし,「AとBが異なる」という
上位概念は,「AがBより低い」という下位概念及び「AがBより高い」という下
位概念を内包するものである。ところで,明細書中に,「AとBが異なる」という
上位概念と「AがBより低い」という下位概念とが記載されている場合,そのいず
れも,「願書に添付された明細書に記載された事項」であって,訂正の基礎となし
得ることが明らかである。
本件訂正発明1の特許請求の範囲において,「ボーナスゲーム状態に対応して設
けられた確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,
少なくともボーナス役の抽選確率が相違」する構成という上位概念で記述すれば,
当該上位概念に包含される下位概念である「一般遊技状態に対応して設けられた確
率テーブルのボーナス抽選確率よりも,ボーナスゲーム状態に対応して設けられた
確率テーブルのボーナス抽選確率を高い確率とすること」を包含することになるの
は当然であるが,それをもって特許請求の範囲の拡張であるとする余地はない。
()訂正事項a2について2
審決は,訂正事項a2(ボーナス役以外の抽選確率に関するもの)について,
「訂正後の特許請求の範囲の請求項1の発明は,ボーナス役の内部当たり状態と一
般遊技状態とではボーナス役以外の抽選役の抽選確率が相違する確率テーブルを使
用する発明として規定されているところ,このような技術思想については本件特許
明細書に何らの記載も示唆も認められないから,該発明は,本件特許明細書に記載
されていない新規事項を含むものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又
は変更するものである。」(8頁末行∼9頁5行)と認定判断したが,誤りである。
本件明細書には,「本実施形態の遊技機では,一般遊技中の当選の確率を高くす
る高期待値の遊技状態と,一般遊技中の当選の確率を低くする低期待値の遊技状態
とに適宜切り替えられるようになっている」(段落【0033】),「抽選処理部
54bは,図9に示すように,一般遊技状態で使用する高期待値及び低期待値の抽
選確率テーブル部分Aを内部当たり状態でも使用する」(段落【0034】)との
記載があるから,一般遊技状態用の「High」と内部当たり状態用の「Low」,
あるいは一般遊技状態用の「Low」と内部当たり用の「High」を適宜切り替
えて使用し得ることも明確に示唆されている。その結果,一般遊技用とボーナス内
部当たり用のテーブルは,ボーナス役以外の抽選確率において高期待値及び低期待
値という異なるものとなる。
一方,本件図面の【図6】ないし【図8】には,「一般/内部中(High)」,
「一般/内部中(Low)」の各抽選データ(抽選確率領域)が,ボーナス役の内
部当たり状態に対応する確率テーブルと一般遊技状態に対応する確率テーブルとで
は,ボーナス役の抽選確率は同一であるが,ボーナス役以外の抽選確率においては
相違している記載事項が存在する。例えば,【図8】をみると,その確率テーブル
における「BB」及び「RB」即ち「ボーナス役」の抽選確率が全く同じであるこ
とからすると,段落【0033】,【0034】に記載された「高期待値」と「低
期待値」という異なる期待値(異なる当選確率)とは,「スイカ,オレンジ,再遊
技,4枚チェリー,2枚チェリー」という「ボーナス役以外の部分」における,異
なる当選確率のことを意味していることは自明であって,ボーナス役の内部当たり
状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられたテー
ブルとでは,ボーナス役以外の抽選確率において相違するものが開示されていると
いうことができる。
3取消事由2(独立特許要件についての判断の誤り)
()取消事由2()(訂正事項a1及びa2が相違点であることの看過)11
審決は,本件訂正発明1と引用発明との対比において,刊行物1には開示されて
いない訂正事項a1及びa2を相違点として摘示していないが,これは,本件訂正
発明1に訂正事項a1及びa2を含めないというケアレスミスを犯し,いわゆる発
明の要旨認定を誤ったものであって,違法である。
()取消事由2()(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成の誤認)22
ア審決は,前記第2の3()イ(ア)のとおり,相違点Aに係る本件訂正発明1の4
構成について,その技術的意義が「ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役
の内部当たりを2つ以上記憶可能であること」とし,この事実が刊行物3ないし6,
8,9に記載された周知技術であるとしたが,誤りである。
イ本件訂正発明1は,相違点Aにおいて,ボーナス役の内部当たりの持ち越し
中にボーナス役の内部当たりが当選した場合に,「ボ−ナス役の内部当たり状態」
を維持したまま,「ボーナス役の内部当たり」の蓄積をするというものであり,こ
のように,「ボ−ナス役の内部当たり状態」を継続しながら,同時に,「ボーナス
役の内部当たり」の蓄積がされるという構成は,従来,全く存在しなかったもので
ある。
被告は,ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上
記憶可能であることを要件とするのみであって,初回のボーナス役内部当たりを格
納する記憶手段が,次回(2回目)以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納
手段として用いられることを要件とするものではないと主張するが,ボーナス役の
内部当たりを2つ以上記憶可能であることのみに着目し,「ボーナス役の内部当た
り」の蓄積がされることを無視するものである。
したがって,相違点Aに係る本件訂正発明1の構成の技術的意義を「ボーナス役
内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であること」
とする審決の認定は,相違点Aに係る本件訂正発明1の構成の技術的意義を誤って
おり,失当である。
ウ刊行物3には,「スタートして最初に通常設定値にしたがった各役の抽選を
行い,ビッグの抽選に合格すると,貯金か否かの判定に進み,貯金が選択されると
貯金カウンターを+1し,目標貯金数に到達していなければ,貯金が決定され,再
び最初に戻り,通常設定値にしたがった各役の抽選を行い,設定された目標貯金数
に到達すると貯金の放出が始まり,連チャンビッグフラグが成立し,連チャン残り
回数を−1する」との「トライアンフ」というパチスロ機(以下「甲3パチスロ
機」という。)について記載がある。そして,「これが裏トライアンフの連チャン
の仕組みだ」との見出しのフローチャート(8,9頁)には,「貯金か?」という
条件分岐において「YES」と判断されると,単発ビッグフラグは成立しないこと
が示されているが,これは,ボーナスフラグが貯金されると,当該ボーナスフラグ
の払い出しが制限されて,一般遊技状態にまで戻ってしまうことを意味している。
つまり,ボーナスフラグの貯金が選択される場合に,当該ボーナス役内部当たりの
持ち越し処理はされないのである。
したがって,刊行物3には,ボーナス役の内部当たり状態が持ち越された状態に
おいて,ボーナス役内部当たりの抽選が行われることが開示されているとはいえな
い。
エ刊行物8記載のパチスロ機(以下「甲8パチスロ機」という。)のリクエス
トカウンタは,ボーナス役内部当たり状態を持ち越すための技術的実現方法として,
ボーナス役内部当たり状態となると「+1」とし,入賞した場合に「0」にするこ
とにし,これによりボーナス役内部当たり状態の持ち越しを可能としたのである。
ここでいう「1」は内部当たり状態であることの目印にすぎず,「1」という数字
に意味があるわけではない。刊行物8に示されている「0」と「1」は,内部当た
り状態かどうかを表す信号であり,それ以外の「2」とか「3」という数字を観念
orする余地はない。それゆえ,刊行物8において,「ボーナスフラグの有無(0
1)がストアされ」(7頁左下欄下から4行)というように,「0または1」とい
う表現になっているのである。
甲8パチスロ機は,いわゆる前段判定方式に関する発明である。これは,端的に
いうと,スタートレバーを操作した時点でそのゲームの入賞役又は外れを内部的に
決定し,その入賞役又は外れに対応する図柄が揃うようにリールが停止するタイミ
ングを機械内部で制御する,というものである。ただ,リールが停止するタイミン
グを機械内部で制御するといっても,遊技者がストップボタンを押すタイミングと
リールの回転が停止するタイミングとがあまりにずれていると,当選図柄は揃わな
い。初心者にはリールを狙った位置にストップさせる技術がないので,入賞できな
いことが十分考えられ,そうすると,せっかくのボーナス役内部当たりが無駄にな
ってしまい,ゲームの興趣がなくなる。そこで,甲8パチスロ機は,ボーナス役内
部当たりを得たにもかかわらず入賞できなかった場合に,そのボーナス役内部当た
り状態を次回以降のゲームにも持ち越すことにし,入賞するまでボーナス役内部当
たり状態を維持することで,初心者でもボーナス役が入賞しやすいようにしたので
ある。つまり,甲8パチスロ機においては,ボーナスが非入賞となった場合にのみ,
ボーナス役内部当たり状態の持ち越し処理を行い,その際,ボーナス役内部当たり
状態が記憶されて次回ゲームに引き継がれることがあるだけであって,「ボーナス
役の内部当たりを2つ以上記憶可能としたパチスロ機」に関する技術を含んでいな
い。
オ審決は,刊行物4ないし6についても,相違点Aに係る本件訂正発明1の構
成が開示されていると認定するが,前記のとおり,相違点Aに係る本件訂正発明1
の構成の技術的意義を誤っているから,そもそも,失当である。
また,刊行物ないし6は,刊行物3と同様,ボーナス役内部当たりを貯金する4
と同時に,当該ボーナス役内部当たりによるボーナス役当選要求をクリアして,一
般遊技状態に復帰する構成が記載されているにすぎず,相違点に係る構成につA
いては全く開示されていない。さらに,刊行物9は,そもそもボーナス役内部当た
り中にボーナス役の内部抽選を行うこと自体について記載がないのであるから,相
違点Aと刊行物9とが無関係であることは明らかである。
()取消事由2()(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成の誤認)33
ア審決は,前記第2の3()ウ(イ)のとおり,相違点Bに係る本件訂正発明1の4
構成について,その技術的意義が「ボーナスゲーム終了後の1ゲーム目からボーナ
ス役の内部当たり状態に移行させる構成である」とし,この事実が刊行物3ないし
6,刊行物8に記載された周知技術であるとしたが,誤りである。
イ刊行物3には,「連チャンビッグフラグ成立後は,よくあるお決まりのパタ
ーンだ。高確率でビッグのフラグを再抽選(確率は放出確率設定値による)。当選
すれば,ビッグのフラグが成立。そして連チャン残り回数を−1。この数値が0
になるまで高確率抽選を続ける」との記載がある(10頁上段23行∼37行)。
審決は,このような放出抽選あるいは再抽選処理における当選確率の値が,技術的
な困難もなく,0%∼100%の範囲内で自由に設定できる事項であるから,これ
を100%に設定すれば,相違点にかかる本件訂正発明の構成と一致すると考B
えたものと推測される。しかし,放出抽選あるいは再抽選処理における当選確率の
値を100%に設定すると,常にボーナスフラグを立てることなり,貯金放出モー
ドにあるか否かを容易に見分けることができることになり,これでは,複数のボー
ナス役が一まとめにして払い出されたのと変わらず,興趣に欠けるから,非現実的
であって,およそあり得ないことである。そもそも,当選確率の値を100%に設
定するというのでは,抽選処理を行わないのと異ならないから,抽選処理が何らの
意味も持たないことになる。
したがって,当選確率の値を100%に設定するという機械的・形式的な空論
を前提とする,刊行物3に係る審決の認定判断は,前提において誤りである。
また,このことは,刊行物4及び5についても,同様である。
ウ刊行物8に代表される前段判定方式のパチスロ機では,ボーナス役の内部当
たり状態にさえあれば,遊技者の停止ボタン操作のタイミングは,直ちに,ボーナ
スの払い出しに直結する。ボーナス役の内部当たり状態において,ボーナスフラグ
を立てていることは,内部当たりによって成立したボーナスフラグを,ボーナス入
賞しない場合にも次のゲームに持ち越すにすぎないのである。
一方,ストック方式のパチスロ機では,通常,大当たりの役をあらわす「特定遊
技作動図柄」なる図柄がそろって,はじめて,ボーナスが払い出されるという構成
が採用されている。一方,このような特定遊技作動図柄は,払い出し能力のある固
有のフラグを持っていない。そこで,「特定遊技作動図柄」がそろったときに,払
い出し能力のあるフラグをいつでも供給できるためには,常にボーナスフラグを立
てた状態を維持することが必要となるのである。すなわち,ストック方式のパチス
ロ機において常にボーナスフラグが立っていることは,何らかの手段によりボーナ
ス入賞が抑制されていることを意味するのであって,ボーナスの払い出しに直結す
るものではない。
そうすると,甲8パチスロ機においては,ボーナス役が入賞してボーナスゲーム
状態が終了した直後,ボーナス役内部当たり状態の持ち越し処理はされておらず,
ボーナスフラグに関する何らの記憶も存在し得ないのであって,ボーナスゲーム終
了後の1ゲーム目からボーナス役の内部当たり状態に移行させるための前提を欠く
ものである。
()取消事由2()(本件訂正発明1についての容易想到性の判断の誤り)44
審決は,上記()及び()のとおり,相違点A及びBに係る本件訂正発明1の構成23
が刊行物3ないし6,刊行物8,9に記載されていると誤認したものであり,これ
が相違点A及びBについての認定判断に重大な影響を及ぼすことは明らかである。
第4被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)に対して
()訂正事項a1について1
ア原告は,本件明細書の段落【0037】の記載及び本件図面の【図6】ない
し【図8】の図示を根拠にして,訂正事項a1が,本件明細書に明記された事項に
基づくものである旨主張する。
しかし,本件明細書の段落【0037】の前段及び本件図面の【図6】ないし
【図8】は,段落【0005】に記載の,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり
状態,ボーナスゲーム状態の各状態に対応する複数の異なる確率テーブルを使用し
ていた従来技術を受けて,当該従来技術と同様に一般遊技状態で使用する抽選確率
テーブル部分Aとボーナスゲーム状態で使用する抽選確率テーブル部分Bとがそれ
ぞれの遊技状態に対応して別個に存在し,それぞれを異なる確率テーブルとして使
用することを示すにとどまり,それぞれの確率テーブルにおける,抽選確率が相違
する抽選役の種類を特定するものではなく,ましてボーナス役の抽選確率が相違す
ることを特定するものではない。
また,本件明細書及び本件図面の上記記載は,ボーナスゲーム状態では一般遊技
状態とは異なる確率テーブルを使用することが記載されるとともに,ボーナスゲー
ム状態で使用する確率テーブルにおいてはボーナス役を抽選しないことが実施例と
して記載され,ついで,段落【0037】の後段には,前段に記載の実施例を否定
する別の実施例として,ボーナスゲーム状態においてボーナス役を抽選可能として
もよいことが記載されている。また,本件明細書の段落【0065】,【006
6】及び本件図面の【図13】には,ボーナスゲーム状態では一般遊技状態よりも
ボーナス抽選確率の低い確率テーブルを使用することにより遊技者と店との利益の
バランスが計れることが記載されている。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
イ原告は,「AとBが異なる」という上位概念は,「AがBより低い」という
下位概念及び「AがBより高い」という下位概念を内包するものであると主張する。
しかし,「AとBが異なる」とは,「確率テーブルが異なる」ことであり,内容
的に「確率テーブルの抽選役の抽選確率が相違する」ことであるとしても,抽選役
の種類及び相違内容を特定するものではなく,当該確率テーブルの構成として,
「ボーナスゲーム状態におけるボーナス役の抽選確率が一般遊技状態におけるボー
ナス役の抽選確率よりも高い」実施例を含む「ボーナス役の抽選確率が異なる」こ
とまでを一義的に導くことはできず,実施例については,遊技者の有利を図る別の
動機あるいは新たな課題の下に採用される手法として,例えば,本件明細書の段落
【0065】及び【0066】に示されるような具体的な記載を要するものという
べきである。
()訂正事項a2について2
原告は,訂正事項a2が本件明細書に明記された事項に基づくものである旨主張
するが失当である。
なお,審決は訂正事項a1及びa2を併せた訂正事項aについて判断しているの
であり,「訂正事項aにおける『ボーナス役の内部当たり状態に対応して設けられ
た確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,ボーナ
ス役以外の抽選確率において相違する』構成は,本件特許明細書に記載されていな
い新規事項であることのみならず,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するも
の」(9頁第2段落)であるとした審決の認定判断に誤りはない。
2取消事由2(独立特許要件についての判断の誤り)に対して
()取消事由2()(訂正事項a1及びa2が相違点であることの看過)に対し11

審決は,訂正事項a1について,「引用発明における『ビッグボーナスゲーム中
あるいはボーナスゲーム中における当選処理においては,ビッグボーナスゲームの
当選許容値が存在しない(S66,S69,S71,S72)』ことは,本件訂正
発明1における『ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊
技状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,少なくともボーナス役の抽選確
率が相違し』ていることに相当する」(20頁24行∼29行)と,訂正事項a②
について,「引用発明における『ビッグボーナスあるいはレギュラーボーナスの当
選フラグのセット状態で使用するテーブルが,再ゲーム及び小役の2種類の当選役
を当選処理可能であり』ということ及び『通常ゲーム状態で使用するテーブルが,
ビッグボーナスゲーム,レギュラーボーナスゲーム,再ゲーム及び4種類の小役の
当選役を当選処理可能であるとともに通常時と高確率時とでは少なくとも小役の当
選許容値が異なり』ということは,本件訂正発明1における『ボーナス役の内部当
たり状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられた
確率テーブルとでは,ボーナス役以外の抽選確率において相違する』ことに相当す
る」(20頁29行∼38行)と認定しているから,訂正事項a1及びa2を一致
点であると認定しているものである。
なお,本件訂正発明1と引用発明の一致点を示す審決の記載において,本来記載
すべき訂正事項a1及びa2に係る構成の記載が欠落しており,誤記であるが,審
決の結論に影響を及ぼす誤りではない。
()取消事由2()(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成の誤認)に対して22
ア本件訂正発明1は,その特許請求の範囲に「前記抽選処理手段の抽選処理結
果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が
非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越す
ボーナス役内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機において,前記ボーナス役内部
当たり記憶手段は,前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボー
ナス役の内部当たりが持ち越された状態における前記抽選処理手段の抽選処理結果
が更にボーナス役の内部当たりとなった場合には,前記持ち越し分のボーナス役の
内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し,」と記載されているように,その
ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能で
あることを要件とするのみであって,初回のボーナス役内部当たりを格納する記憶
手段が,次回(2回目)以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段として
用いられることを要件とするものではない。
イ甲3パチスロ機では,ボーナス役の内部当たりを個別に記憶するものとして
の単発BIGフラグの格納領域と,ボーナス役の内部当たりを貯金する貯金カウン
ターの格納領域とが別個のものとして設定されていることは,原告主張のとおりで
あるが,上記2つの格納領域を含めてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能
であることにおいて,本件訂正発明1のボーナス役内部当たり記憶手段の構成と何
ら相違するものではない。
また,甲3パチスロ機の貯金確率が0%となるように貯金設定した状況において,
ゲームを継続的に行うことでボーナス役の内部当たりが複数回発生したときの遊技
機の動作をみると,まず,現在のゲームにおいて「通常設定値にしたがった各役の
抽選を行う」ことで「BIGフラグは成立したか」がYESのときには,貯金が行
われない設定の下で第1番目の「単発BIGフラグ成立」となり,これによりボー
ナス役の内部当たりの数が1つ記憶された状態が発生し,当該状態下の絵柄の停止
操作において非入賞となったときには前記ボーナス役の内部当たりを持ち越して次
回のゲームに移行することになる。そして,続く次回のゲームにおいて「通常設定
値にしたがった各役の抽選を行う」ことで「BIGフラグは成立したか」がNOの
ときには,前回からの持ち越し分のボーナス役の内部当たりの状態下で絵柄の停止
操作がされることになり,また,前記「通常設定値にしたがった各役の抽選を行
う」ことで,「BIGフラグは成立したか」がYESのときに「貯金設定に応じた
貯金抽選を行う」ことにより「貯金か?」が必ずNOとなって「単発BIGフラグ
成立」となり,ボーナス役の内部当たりの数が2つ記憶された状態下で絵柄の停止
操作がされることになるところ,非入賞となったときには第1番目のボーナス役の
内部当たりに加え第2番目のボーナス役の内部当たりをも次々回以降のゲームに持
ち越すことになる。
そうすると,甲3パチスロ機において,貯金確率の設定を0%にした場合に成立
するBIGフラグは,いずれも単発BIGフラグとして処理されるため,ゲームを
継続的に行うことで複数発生したときのボーナス役の内部当たりは,すべて単発B
IGフラグの集合により形成されることになるから,前記単発BIGフラグの集合
をボーナス役の内部当たりとして記憶する記憶手段において,ボーナス役の内部当
たりを2つ以上記憶可能な構成となることは明らかである。
ウ刊行物8には,「すなわち,前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒ
ットリクエストをカウントするリクエストカウンタが+1され,RAM上にストア
される。そして,ヒットした際に,そのリクエストカウンタは−1の減算処理が行
われる。また,ヒットしない場合にはそのまま保存され,最終的にリクエストカウ
ンタが零になるまでヒットリクエストが発生し,このためにペイアウト率は一定に
保たれる。」(17頁左上欄8行∼15行)との記載があり,特に,「リクエスト
カウンタが+1され・・・−1の減算処理が行われ・・・最終的にリクエストカウ
ンタが零になるまでヒットリクエストが発生し」という記載からみて,刊行物8に
ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能な構成が開示されていることは明らか
である。つまり,刊行物8に記載の前記事項は,大ヒットリクエストの2つ以上の
持ち越しなど特に必要がないとした当時の常識にとらわれない新規な発明として当
該刊行物に開示されているとみるべきである。
原告は,刊行物8に「ボーナスフラグの有無(0or1)がストアされ」(7頁
左下欄下から4行)という記載があることを根拠に,単一のボーナス役の内部当た
り状態を持ち越すための技術である旨主張しているが,該記載は当該ゲーム結果に
おいてボーナスゲームが発生したか否かを示すフラグとして「0または1」の値しか
とらないものであり,フラグという表現をとらずにわざわざ多数の値を計数可能な
リクエストカウンタという表現になっているものの機能について,フラグと同列に
解釈すべき理由がないものである。しかも,刊行物8における上記「すなわち,前
述したヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエ
ストカウンタが+1され,RAM上にストアされる。そして,ヒットした際に,そ
のリクエストカウンタは−1の減算処理が行われる。また,ヒットしない場合には
そのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエスト
が発生し,このためにペイアウト率は一定に保たれる。」との記載は,5頁左下欄
18行∼右下欄6行の記載を補正したものであるところ,補正前の後者段落に記載
されるリクエストカウンタは,第11図に示されるように,大ヒット,中ヒット,
小ヒットの各ヒットリクエストが発生する毎に該当するリクエストカウンタに対し
て−1の減算処理を繰り返し行うものであるから,多数の値を計数可能なカウンタ
であることが明らかである。
エその他,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能とする相違点Aに係る
本件訂正発明1の構成は,刊行物4ないし6,8,9にも開示されている。
したがって,「引用発明に示される,ボーナス役の内部当たりを1つのみ記憶可
能な構成に代えて,前記周知技術Aを採用して,前記相違点Aに係る本件訂正発明
1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」とした審決
の判断に誤りはない。
()取消事由2()(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成の誤認)に対して33
ア甲3パチスロ機の貯金確率を0に設定した場合には,実行中のボーナスゲー
ム状態が終了したことを条件に,記憶されている残りの単発BIGフラグによるボ
ーナス役をもって1ゲーム目から内部当たり状態に移行させるものとなるから,刊
行物3に相違点Bに係る本件訂正発明1の構成が開示されていることは明らかであ
る。そして,パチスロ機において連チャンを実現するときに,どの程度の間隔でボ
ーナスゲーム状態を発生させるかは,当業者が適宜に設定すべき事項というべきで
ある。
イ刊行物3ないし6に記載の各種パチスロ機の作動原理として,ボーナス役の
内部当たりを2つ以上記憶可能であることを前提に,実行中のボーナスゲーム状態
が終了した直後のゲームから,記憶されている残りのボーナス役をもって内部当た
り状態に移行させるように構成することは,当業者が容易に想到できると判断した
ものである
ウ刊行物8に「ボーナス役の内部当たりを2以上記憶可能としたスロットマシ
ン」が開示されていると認定したことに誤りがないことは,前記のとおりであると
ころ,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としている構成を前提に,ボー
ナスゲーム状態が終了した直後のゲームにおけるボーナス役の内部当たり状態の処
理を理解しようとすれば,ボーナスゲーム終了後の1ゲーム目からボーナス役の内
部当たり状態に移行させる構成が最も単純明快なものとして当業者が理解するもの
といえる。
()取消事由2()(本件訂正発明1についての容易想到性の判断の誤り)に対44
して
審決の相違点A及びBに係る本件訂正発明1の構成についての認定に誤りはなく,
また,相違点A及びBに係る本件訂正発明1の構成を引用発明に適用することにつ
いて,当業者が容易に想到し得ることは,審決において説示したとおりである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
()訂正事項a1について1
ア審決は,訂正事項a1について,「当該実施例,及び,これが導出される課
題あるいは作用効果を含む技術思想について,本件特許明細書に何らの記載も示唆
も認められないから,該発明は,本件特許明細書に記載されていない新規事項を含
むものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものである」と
認定判断したのに対し,原告は,本件明細書の段落【0037】及び本件図面の
【図6】ないし【図8】に,「ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テー
ブルと一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,少なくともボーナ
ス役の抽選確率が相違」する構成が記載されている旨主張する。
ところで,「ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルと一般遊技
状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,少なくともボーナス役の抽選確率
が相違」する構成は,「一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルのボーナ
ス抽選確率よりも,ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルのボー
ナス抽選確率を高い確率とすること」を含むものと解釈し得ることが明らかである
ので,本件明細書に,「一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルのボーナ
ス抽選確率よりも,ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルのボー
ナス抽選確率を高い確率とすること」が開示されているか否かについて検討する。
イ本件明細書の発明の詳細な説明には,ボーナスゲーム状態と確率テーブルと
の関係について,次の記載がある。
(ア)「ここで,抽選処理について説明すると,前記制御装置は,遊技者の開始操
作がなされたとき,一般遊技状態,ボーナス内部当たり状態,ボーナスゲーム状態
の各状態に対応する複数の異なる確率テーブルをメモリに記憶しており,これらの
確率テーブルにより抽選可能な複数の抽選役とその当選確率を特定するようになっ
ている。そして,現在の遊技状態に対応する確率テーブルに基づき,所定の抽選処
理を実行して内部当たりか否かを決定し,内部当たりになった場合,各リールにつ
いて内部当たりに該当する絵柄が停止可能な回転範囲で前記遊技者の停止操作がな
されれば,その絵柄を入賞ライン上に引き込むようにリールの回転制御が実行され
る。」(段落【0005】)
(イ)「遊技者に対して比較的多くの利益を与える特定の入賞,例えばビッグボー
ナス,レギュラーボーナスといった入賞役(以下,ボーナス役という)の場合,払
出しが多い分だけ内部当選確率は低く抑えられている。」(段落【0007】)
(ウ)「本発明は・・・一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナス
ゲーム状態の各状態で前記開始信号を受けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当
選確率を特定する所定の確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し・・・前記抽選
処理手段が,前記ボーナス役の内部当たり状態及び前記ボーナスゲーム状態のうち
少なくとも一つの利益状態における抽選処理を実行するとき,前記一般遊技状態に
おける抽選処理の確率テーブルよりボーナス抽選確率の低い確率テーブルを使用す
る」(段落【0017】)
(エ)「前記一般遊技状態及び前記ボーナス役の内部当たり状態で使用する確率テ
ーブルが,小役,再遊技及び所定のボーナス抽選役を抽選可能で,前記ボーナスゲ
ーム状態で使用する確率テーブルが,前記所定のボーナス抽選役以外の抽選役を抽
選可能であるようにすれば,ボーナス入賞した場合に内部当たりが過度に重複する
ような複雑な抽選結果となるのを防止することができる。」(段落【0019】)
(オ)「抽選処理部54bは,図6∼図8に示すような複数の抽選確率テーブル1
11,112,113を有し,これらにより複数の抽選役及びそれら抽選役の当選
確率を特定するようになっている。また,抽選確率テーブル111は投入メダル数
が1枚のときに使用され,抽選確率テーブル112は投入メダル数が2枚のときに
使用され,抽選確率テーブル113は投入メダル数が3枚のときに使用されるよう
になっている。これらのテーブル111∼113は,ビッグボーナス(BB),レ
ギュラーボーナス(RB),スイカ,オレンジ,再遊技,4枚チェリー,2枚チェ
リー等の抽選役毎に,出玉率の各設定レベル(例えば1∼6までの6段階)につい
て,遊技状態に応じた抽選データを設定したデータテーブルである。なお,抽選に
使用する乱数の変動幅(例えば16384)で各抽選データを除したものが抽選確
率となる。また,各図の表中における「一般」は一般遊技状態を,「内部中」はB
B,RBの内部当たり状態を意味する。」(段落【0032】)
(カ)「ビッグボーナスゲーム状態においては,例えば全部で30ゲームの一般遊
技が可能であるが,このビッグボーナスゲーム状態における一般遊技中,抽選処理
部54bは,一般遊技状態で使用する抽選確率テーブル部分Aとは異なる抽選確率
テーブル部分B(各テーブル中の「BB中一般」の部分)を使用するようになって
おり,ビッグボーナス入賞した後(内部当たり後に特定の絵柄(例えば「7」,
「7」,「7」)が入賞ライン上に並んだ後)の一般遊技中にBB,RBが再抽選
されないようになっている。」(段落【0037】)
(キ)「上述の実施形態においては,抽選処理手段が,ボーナス役の内部当たり状
態及びボーナスゲーム状態のうち少なくとも一つの利益状態における抽選処理を実
行するとき,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルよりボーナス抽選確率
の低い確率テーブルを使用し,前記利益状態における抽選結果が内部当たりである
とき,その抽選結果を記憶し,記憶した抽選結果に基づいて,特定の内部当たりに
対応するボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を変更するようにすることも
考えられる。」(段落【0065】)
(ク)「そして,ビッグボーナスやレギュラーボーナスの内部当たり状態における
抽選結果が他のボーナス役の内部当たりであるとき・・・その記憶した抽選結果に
基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件が変更される。これにより,
現在ボーナス内部当たり中であった場合に,確かにボーナス抽選は行うが一般遊技
中の抽選データより低確率に設定されていることから,むやみにボーナスフラグを
当選させず,遊技者と店との利益のバランスが計れる。」(段落【0066】)
(ケ)「抽選処理手段が,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の
うち少なくとも一つの利益状態における抽選処理を実行するとき,一般遊技状態に
おける抽選処理の確率テーブルよりボーナス抽選確率の低い確率テーブルを使用す
るようにしても,ボーナス役の内部当たり状態で特定の入賞絵柄が揃ったとき,そ
の結果を以降の遊技に反映させることができる。」(段落【0071】)
(コ)【図6】ないし【図8】には,1ないし3メダル遊技時の抽選確率テーブル
が示されており,いずれも,各設定値についてのBB,RBの抽選確率が,一般・
内部中(high),一般・内部中(Low)で同じ値であり,BB中一般では,
当選確率がゼロに設定されているものが示されている。また,【図13】には,3
メダル遊技時の抽選確率テーブルが示されており,各設定値についてのBB,RB
の抽選確率が,一般(High)=一般(Low)>内部中(High)=内部中
(Low)であって,BB中一般では,確率ゼロに設定されている。
ウ上記イ(ク)の「現在ボーナス内部当たり中であった場合に,確かにボーナス
抽選は行うが一般遊技中の抽選データより低確率に設定されていることから,むや
みにボーナスフラグを当選させず,遊技者と店との利益のバランスが計れる。」と
の記載によると,「ボーナスゲーム状態」において用いる「確率テーブル」の「ボ
ーナス抽選確率」は,「一般遊技状態」で用いる「確率テーブル」の「ボーナス抽
選確率」よりも低くしていることが認められ,本件発明の態様として,「ボーナス
役の内部当たり状態」及び「ボーナスゲーム状態」のうち少なくとも一つの利益状
態に用いる「確率テーブル」が,「一般遊技状態の確率テーブル」より,「ボーナ
ス抽選確率の低い」もの,及び,「ボーナスゲーム状態」で用いる「確率テーブ
ル」のボーナス役の抽選確率がゼロのものが記載されている一方,「一般遊技状
態」で用いる「確率テーブル」の「ボーナス抽選確率」よりも,「ボーナスゲーム
状態」において用いる「確率テーブル」の「ボーナス抽選確率」を高い確率に設定
することについて,何らの記載も示唆もない。本件明細書のその余の部分を検討し
ても同様である。
そうすると,本件明細書においては,「ボーナスゲーム状態」において用いる
「確率テーブル」の「ボーナス抽選確率」は,「一般遊技状態」で用いる「確率テ
ーブル」の「ボーナス抽選確率」よりも高い確率となる技術は,記載されていない
のみならず,そのような構成を想定してもいないものというべきである。
エ原告は,「AとBが異なる」という上位概念は,「AがBより低い」という
下位概念及び「AがBより高い」という下位概念を内包するものであり,明細書中
に,「AとBが異なる」という上位概念と「AがBより低い」という下位概念とが
記載されている場合,そのいずれも,「願書に添付された明細書に記載された事
項」であって,訂正の基礎となし得ることが明らかであるとし,上位概念に包含さ
れる下位概念である「一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルのボーナス
抽選確率よりも,ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブルのボーナ
ス抽選確率を高い確率とすること」を包含することをもって特許請求の範囲の拡張
であるとする余地はない旨主張する。
しかし,明細書中に,「AとBが異なる」という上位概念と「AがBより低い」
という下位概念とが記載されている場合に,さらに,「AがBより高い」という下
位概念が記載されているのと同視できるというのであれば,原告の論理は正しいと
いえる。しかし,本件においては,「AがBより高い」という下位概念が記載され
ているのと同視できるとはいえないのであるから,「AとBが異なる」という上位
概念を持ち出すことによって,記載のない「AがBより高い」を記載があることに
することができないことは明らかであり,原告の上記主張は,失当である。
()そうすると,訂正事項a2について判断するまでもなく,本件訂正は,不適2
法である。しかし,事案にかんがみ,訂正事項a1及びa2が適法であったと仮定
して,独立特許要件があるか否かについて検討することとする。
2取消事由2(独立特許要件についての判断の誤り)について
()取消事由2()(訂正事項a1及びa2が相違点であることの看過)につい11

ア審決は,本件訂正発明1と引用発明との対比において,刊行物1には開示さ
れていない訂正事項a1及びa2を相違点として摘示していないところ,原告は,
これは,本件訂正発明1に訂正事項a1及びa2を含めないというケアレスミスを
犯し,いわゆる発明の要旨認定を誤ったものである旨主張するのに対し,被告は,
本件訂正発明1と引用発明の一致点を示す審決の記載において,本来記載すべき訂
正事項a1及びa2に係る構成の記載が欠落しており,誤記であるが,審決の結論
に影響を及ぼす誤りではないと主張する。
イ引用発明に,「ビッグボーナスあるいはレギュラーボーナスの当選フラグの
セット中における当選処理においては,ビッグボーナスゲームとレギュラーボーナ
スゲームの当選許容値が存在しない(S75Y)とともに,ビッグボーナスゲーム
中あるいはボーナスゲーム中における当選処理においては,ビッグボーナスゲーム
の当選許容値が存在しない(S66,S69,S71,S72)ように,通常ゲー
ム状態における当選処理のテーブルとは異なるテーブルを使用すること」(審決1
4頁9行∼15行)が開示されていることは,当事者間に争いがないところ,上記
事実が,訂正事項a1の「ボーナスゲーム状態に対応して設けられた確率テーブル
と一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブルとでは,少なくともボーナス役
の抽選確率が相違する」ものに該当することは,明らかである。
ウ弁論の全趣旨によれば,訂正事項a2の「ボーナス役の内部当たり状態に対
応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブル
とでは,ボーナス役以外の抽選確率において相違する」との構成は,例えば,本件
図面の【図8】に記載の「抽選確率テーブル」が,ボーナス役の内部当たり状態に
対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられたテーブルと
ではボーナス役以外の抽選確率において相違していることを意味するものと認めら
れ,このことは,原告自身が認めるところでもある。
一方,引用発明に,「通常ゲーム状態で使用するテーブルが,ビッグボーナスゲ
ーム,レギュラーボーナスゲーム,再ゲーム及び4種類の小役の当選役を当選処理
可能であるとともに通常時と高確率時とでは少なくとも小役の当選許容値が異な」
(審決14頁16行∼18行)ることが開示されていることは,当事者間に争いが
ない。
エところで,刊行物1には,「この小役判定モードは,スロットマシン1によ
る遊技者への価値付与状況が予め定められた標準値と比較して,その標準値よりも
高い場合は「通常時」に設定され,標準値よりも低い場合は「高確率時」に設定さ
れるものであり,標準値に従って小役発生確率をフィードバック制御するために用
いられるものである。」(段落【0053】),「図10(b)の一番上の行に示
された1,2,3はコインの投入枚数すなわち賭数を示し,その下の行に示された
「通常」,「高確率」,「BB」は,小役判定モードが通常時か高確率かビッグボ
ーナス時かを示している。」(段落【0055】),「図11(b)は,3枚賭で,
小役判定モードが「高確率時」で,確率変動カウンタの値が「0」以外の場合で,
確率設定値が「4」の場合が示されており,図10(a),(b)の表に従って,
図11(b)に示すように,各当選許容値が定められている。・・・以上のように
構成することにより,小役判定モードが「通常時」よりも「高確率時」の方が,小
役発生確率が高くなり,さらに,小役判定モードが「ビッグボーナス時」の場合に
はさらに小役発生確率が高くなるとともにボーナスゲーム発生確率も高くなる。」
(段落【0059】∼【0060】)との記載があり,図10(b)には,1ない
し3メダル投入時の小役発生確率テーブルが示されており,いずれも,「通常」,
「高確率」,「BB」における小役発生確率が示されている。
オしたがって,引用発明は,訂正事項a2の「ボーナス役の内部当たり状態に
対応して設けられた確率テーブルと一般遊技状態に対応して設けられた確率テーブ
ルとでは,ボーナス役以外の抽選確率において相違する」の構成を有するものであ
るから,審決が,訂正事項a1及びa2について,刊行物1に記載されており,本
件訂正発明1と引用発明との一致点となると認定したことには誤りはない。
()取消事由2()(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成の誤認)について22
ア相違点Aに係る本件訂正発明1の構成について,審決は,その技術的意義が
「ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能
であること」とし,この事実が刊行物3ないし6,8,9に記載された周知技術で
あるとしたのに対し,原告は,これを争い,審決が「ボーナス役の内部当たり」の
蓄積がされることを無視している旨主張するので,検討する。
イ本件訂正発明1の特許請求の範囲中,「ボーナス役内部当たり記憶手段が,
本件訂正発明1は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス
役の内部当たりが持ち越された状態における抽選処理手段の抽選処理結果が更にボ
ーナス役の内部当たりとなった場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当た
りに加え,前記抽選処理結果を記憶し,ボーナスゲームを実行すると前記ボーナス
役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ
る」との構成(相違点Aに係る構成),及び,「前記抽選処理手段の抽選処理結果
がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非
入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボ
ーナス役内部当たり記憶手段」との構成によると,本件訂正発明1の「ボーナス役
内部当たり記憶手段」は,①「抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当
たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次
回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越す」もの,②「ボーナス役
の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された
状態における前記抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場
合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記
憶」するもの,③「所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役内
部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ」るも
のであると認められる。
ウまた,本件訂正発明1の特許請求の範囲中,「所定の開始信号に応じて乱数
を抽出し,該乱数の抽出値と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボ
ーナスゲーム状態の各状態に対応して設けられた複数の抽選役および該抽選役の当
選確率を特定する所定の確率テーブルと,を照合することで,内部当たりか否かを
決定する抽選処理手段と,・・・前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の
内部当たりとなった状態であって」との構成によれば,「ボーナス役内部当たり」
とは,抽選処理手段による抽選処理結果がボーナス役の当選となったことを,「ボ
ーナス役の内部当たり状態」とは,「前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス
役の内部当たりとなった状態」のことを意味するものと解される。
そして,「ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態」とは,「ボーナス役の
内部当たり」がボーナス役内部当たり記憶手段に記憶された状態であるから,「前
記ボーナス役の内部当たり状態」でもあり,この状態において,「抽選処理手段の
抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合」に,「前記持ち越し分のボー
ナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するというのであるから,
「前記ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに「ボーナス役の内部当た
り」となり得るものである。
したがって,本件訂正発明1は,「ボーナス役内部当たり記憶手段」が「前記入
賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内
部当たり状態を持ち越す」のみならず,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶す
ることが可能とされて,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処
理手段による抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し
分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するというもので
あり,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」
は,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いられると
解される。
エ念のため,本件訂正明細書の発明の詳細な説明についてみると,「この発明
(判決注:本件訂正発明)では,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であ
るとともに,今回のゲームにてボーナス役の内部当たり状態で非入賞となったとき,
ボーナス役の内部当たり状態が次回のゲームに持ち越されるのみならず,次回のゲ
ームでの抽選においてもボーナス役の内部当たりとなる抽選が可能であり,この抽
選処理結果が更にボーナス役の内部当たりとなった場合には,持ち越し分のボーナ
ス役の内部当たりに加え,抽選処理結果を記憶する。したがって,初心者がボーナ
ス役内部当たり状態で不利なゲームを繰り返すという問題が解消され,十分に遊技
を楽しむことができる。本発明においては,また,前記入賞判定手段の判定結果が
入賞となったとき,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の
内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役
内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ,前
記ボーナス役内部当たり記憶手段に残りのボーナス役の内部当たりがあるとき(ク
レーム対応部分の文言は「前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果
として残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて」),前記所定の
ボーナスゲームが終了した後の抽選結果をボーナスゲームが終了した直後のゲーム
から再度ボーナス役の内部当たりとするようにすると,ボーナス役の内部当たり状
態で他のボーナス当選に該当するような特定の入賞絵柄が揃ったとき,その結果を
以降の遊技に反映させることができる。」(段落【0013】∼【0014】),
「本発明によれば,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能にするとともに,
ボーナス役の内部当たりとなった状態であって非入賞となったとき,ボーナス役の
内部当たり状態が次回のゲームに持ち越されるのみならず,次回のゲームでの抽選
においてもボーナス役の内部当たりとなる抽選を可能とし,この抽選処理結果が更
にボーナス役の内部当たりとなった場合には,持ち越し分のボーナス役の内部当た
りに加え,抽選処理結果を記憶するようにしたので,初心者がボーナス役内部当た
り状態で不利なゲームを繰り返すといた問題を解消し,十分に遊技を楽しむことが
できる遊技機を提供することができる。」(段落【0069】)との記載がある。
オ本件訂正明細書の上記記載によれば,本件訂正発明1は,ボーナス役の内部
当たり記憶手段に,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能にするとともに,
ボーナス役の内部当たりとなった状態であって非入賞となったとき,ボーナス役の
内部当たり状態が次回のゲームに持ち越されるのみならず,次回のゲームでの抽選
においてもボーナス役の内部当たりとなる抽選を可能とするというものであって,
「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手段による抽選処理を
行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分のボーナス役の内部当
たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」し,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち
越すボーナス役内部当たり記憶手段」は,次回以降に抽選されるボーナス役内部当
たりの格納手段としても用いられるという,上記()ウの認定を裏付けるものであ2
る。
そうすると,ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ
以上記憶可能であることを要件とするのみであって,初回のボーナス役内部当たり
を格納する記憶手段が,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段と
して用いられることを要件とするものではないとの被告の主張は,誤りである。
上記見解を前提として,刊行物3ないし9は,いずれも,2つの格納領域を含め
てボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることにおいて,本件訂正発明
1のボーナス役内部当たり記憶手段の構成と何ら相違するものではないとする審決
及び被告の主張は,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手
段による抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分の
ボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するという相違点Aに
係る本件訂正発明1の構成の技術的意義を看過したものである。
カなお,本件発明1においては,「内部当たり状態」が発生しない場合につい
て特定していないが,「内部当たり状態」になって初めて入賞可能となるという構
成である以上,「内部当たり状態」にならずに絵柄がそろって入賞するということ
は予定していないというべきであり,本件発明1は,「内部当たり」が発生しない
場合には,入賞絵柄が揃わないように制御されることを前提にしているものと解さ
れる。
この点につき,本件訂正明細書の発明の詳細な説明をみると,「現在の遊技状態
に対応する確率テーブルに基づき,所定の抽選処理を実行して内部当たりか否かを
決定し,内部当たりになった場合,各リールについて内部当たりに該当する絵柄が
停止可能な回転範囲で前記遊技者の停止操作がなされれば,その絵柄を入賞ライン
上に引き込むようにリールの回転制御が実行される。」(段落【0005】),
「通常,チェリーやベルといった所謂小役と称される入賞役に関しては,ゲームの
開始時に抽選処理を行い,内部当たりした場合であっても,遊技者の停止操作が有
効ライン上に入賞絵柄を引き込めないタイミングで行われた場合,原則その回のゲ
ーム終了と同時に内部当たりも消滅してしまう。つまり,今回のゲームで成立した
内部当たりは,今回のゲームで入賞しないと消えてしまうような構成になっている。
ところが,遊技者に対して比較的多くの利益を与える特定の入賞,例えばビッグボ
ーナス,レギュラーボーナスといった入賞役(以下,ボーナス役という)の場合,
払出しが多い分だけ内部当選確率は低く抑えられている。そのため,小役の場合と
同様に内部当選が消滅してしまうというのでは,多大な投資をして内部当たりを引
き当てた遊技者にあまりにも酷である。」(段落【0006】,【0007】)と
の記載があり,上記記載によれば,小役と称される入賞役に関しては,そのゲーム
で入賞しなければ,原則として,その回のゲーム終了と同時に内部当たりも消滅す
るところ,ボーナス役の場合にも,小役の場合と同様に内部当たりが消滅すると,
遊技者にとってあまりにも酷であるとされているのであるから,「内部当たり」が
消滅した場合には,次回のゲームにおいて,当該消滅した内部当たりに対応する入
賞を得ることができないものと理解されるのである。そして,その「回転制御」に
ついて,「ここで,停止ボタン41a∼41cは,遊技者によって特定種のシンボ
ルマークmをメダル投入枚数に対応する有効本数の入賞ライン上(定位置)に停止
させるべく操作され,制御装置50により所定の停止指令信号を発生させる停止手
段となっている。」(段落【0025】),「制御装置50は,そのマイコン54
により,ROM52に格納された所定の制御プログラムに従って,同ROM52に
格納されている所定の抽選確率テーブル(後述する),シンボルマークテーブル,
及び,入賞絵柄(入賞に該当するシンボルマークmの組合せ)テーブル等の記憶デ
ータと,上記スイッチ類からの遊技者の操作情報や上記センサ類からの動作状態検
知情報とに基づいて,ステップモータ35A∼35Cをはじめとするアクチュエー
タ類や表示器23等の動作を制御するようになっている。」(段落【0028】)
との記載があるから,リールの回転制御は,内部当たりになった場合には,遊技者
の停止操作に対応して,所定の絵柄を入賞ライン上に引き込む制御をするというの
であって,逆に,内部当たりにならない場合には,そのような制御をしないという
ことであり,かつ,制御をする以上,当然に入賞絵柄がそろわないようにリールの
回転制御をするものと理解し得るものである。
キ次に,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手段によ
る抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分のボーナ
ス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するという相違点Aに係る本
件訂正発明1の構成の技術的意義を前提として,相違点Aに係る本件訂正発明1の
構成が本件出願時には既に刊行物1ないし9に開示されていたといえるか否かにつ
いて,更に検討する。
ク刊行物3について
(ア)刊行物3には。以下の記載がある。
a「トライアンフ裏ROM解析報告」との見出しの下に,「裏ROMプログ
ラムの流れを解説していこう。裏プログラムが起動するのは,ビッグのフラグが成
立してからである。他の役には,何ら加工は加えられていない。判定の合否がその
ままフラグの成立,不成立になる。出現率の低さから,今までいろんな推測がなさ
れていたレギュラーについても,これは同じだ。ビッグの抽選に合格すると,貯金
か否かの判定に進む。この確率は前述のように貯金設定値で変わる。ここで貯金で
なければ,ビッグのフラグが成立。当たり前だがこのビッグは連チャンしない。」
(9頁第3段)
b「貯金が選択されると貯金カウンター(貯金の数を記憶)を+1。そしてこ
の数値が,あらかじめ決められていた目標貯金数に到達しているかを参照する。到
達していなければ,貯金決定。設定された数が貯まるまで,前記の方式で貯金し続
ける。つまり言い返すと,目標貯金数に到達していれば,貯金の放出が始まるので
ある。なお,ここで貯金カウンターは“連チャンの残り回数”に加算され,これを
新しい連チャン残り回数とする。紛らわしい処理だが,貯金カウンターと連チャン
残りの回数は,要するに機能的には同じ意味。混乱しないように。あくまでもプロ
グラムがそうなっているという話である。連チャンビッグフラグ成立後は,よくあ
るお決まりのパターンだ。高確率でビッグのフラグを再抽選(確率は放出確率設定
値による)。当選すれば,ビッグのフラグが成立。そして連チャン残り回数を−1。
この数値が0になるまで高確率抽選を続ける。」(10頁第1段)
c8頁及び9頁には,「これが裏トライアンフの連チャンの仕組みだ」と題す
るフローチャートが記載されており,当該フローチャートからは,「START」
→「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」→「BIGフラグが成立した
か?」→YES→「貯金設定に応じた貯金抽選を行う」→「貯金か?」→YES→
「貯金カウンタ+1」→「貯金目標数に達したか?」→YES→「貯金カウンター
+連チャン残り回数を連チャン残り回数とする」→「貯金カウンター=0」→「貯
金目標設定にしたがい次貯金目標の抽選を行う」→「放出確率設定にしたがい放出
確率の抽選を行う」→「選択された確率にしたがい貯金放出の抽選を行う」→「当
選か?」→YES→「連チャンBIGフラグ成立」→「連チャン残り回数−1」→
「連チャン残り回数は0か?」とのフローに合わせ,上記の各手順のYESがNO
である場合に分岐する「BIGフラグが成立したか?」→NO→「通常設定値にし
たがった各役の抽選を行う」,「貯金か?」→NO→「単発BIGフラグ成立」→
「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」,「貯金目標数に達したか?」→N
O→「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」,「当選か?」→NO→「選択
された確率にしたがい貯金放出の抽選を行う」,「連チャン残り回数は0か?」→
NO→「選択された確率にしたがい貯金放出の抽選を行う」というフローが示され
ている。
(イ)上記記載によれば,刊行物3には,甲3パチスロ機について,ゲームを開始
して,「通常設定値にしたがった各役の抽選」を行った結果,BIGフラグが成立
すると,貯金設定に応じた貯金抽選を行い,貯金が選択されなければ,「単発BI
Gフラグ」を成立させた後に,再び,「通常設定値にしたがった各役の抽選」に戻
って貯金抽選までの処理が繰り返され,貯金が選択された場合には,貯金カウンタ
を+1にし,貯金目標数に達しなければ,再び,「通常設定値にしたがった各役の
抽選」に戻って貯金抽選までの処理が繰り返され,貯金目標数に達した場合に,貯
金カウンタの数字を連チャン残り回数とし,連チャン残り回数がゼロになるまで,
選択された確率にしたがって貯金放出の抽選を行い,抽選結果が当選であるときに,
「連チャンBIGフラグ」を成立させるとともに,連チャン残り回数を−1するパ
チスロ機が記載されているものと認められる。
甲3パチスロ機の「貯金カウンタ」は,BIGフラグを貯金するから,次回以降
のゲームにBIGフラグを持ち越すものということができるが,貯金したBIGフ
ラグを放出する場合においても,「連チャンBIGフラグ成立」を条件として,す
なわち,「連チャンBIGフラグ」を記憶する領域にBIGフラグが記憶されるこ
とを条件として,ボーナス絵柄をそろえられる状態,すなわち「ボーナス役内部当
たり状態」となるものであるから,貯金カウンタにBIGフラグを貯金していたと
しても,BIGフラグが所定の条件により放出されて「連チャンBIGフラグ」が
成立するか,あるいは,「単発BIGフラグ」が成立するかしない限り,ビッグボ
ーナス絵柄がそろえられる状態とはならない。したがって,貯金カウンタにBIG
フラグを貯金されていることは,「ボーナス役の内部当たり状態」ではなく,「貯
金カウンタ」は,次回ゲームに「ボーナス役の内部当たり状態」を持ち越すための
ものではないから,本件訂正発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」に相当す
るものはない。
(ウ)なお,甲3パチスロ機において,貯金確率が0%となるように貯金設定して
動作させた場合には,「BIGフラグは成立したか」がYESのときに「貯金
か?」が必ずNOとなって「単発BIGフラグ成立」となり,ボーナス役の内部当
たりの数が2つ記憶された状態下で絵柄の停止操作がされることになるとの被告の
主張は,貯金確率設定別貯金確率の表に,設定が「0%」との記載があることを根
拠とするものである。しかし,刊行物3の8頁及び9頁には,「貯金か?」→NO
→「単発BIGフラグ成立」とのフローが記載されており,この「単発BIGフラ
グ」の格納領域が複数の「BIGフラグ」を記憶するとの記載も示唆もされていな
いから,甲3パチスロ機がBIGフラグを持ち越すことを予定しているとはいい難
く,「0%」との記載のみを根拠とする被告の上記主張は,失当である。
ケ刊行物8について
(ア)刊行物8には,次の記載がある。
a「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと,これらのリ
ールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて,前記リ
ールの回転駆動後に,順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサンプリン
グ手段と,前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを比較照
合する手段と,前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として出力す
るリクエスト発生手段と,前記リクエスト信号を評価し,前記リールのストップ位
置を設定すると共に,前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段
とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(1頁左下欄5行∼18行)
b「第9図は発生,更新される乱数値のサンプリング,ヒットリクエストチェ
ック処理のフローチャートである。このフローチャートは,第4図に示したフロー
チャートにおける“ヒットリクエスト”処理に該当するもので,ゲーム開始後例え
ばスタートレバーの操作後の所定のタイミング信号・・・により,その時点で乱数
値RAM80(第8図)に存在する乱数値をそのゲームの乱数値として決定する。
こうして決定された乱数値は第9図のフローチャートに従い,後述する入賞確率テ
ーブルと照合され,大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発
生,また中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というよ
うに小ヒットまでの判断,処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生される
かあるいはヒットリクエストなしかがチェックされることになる。」(5頁左上欄
12行∼右上欄9行)
c「これまでに述べてきた大,中,小の各ヒットの例としては,大ヒットが1
5枚のメダル支払いの後ボーナスゲームができるようになるもの,中ヒットが10
∼15枚のメダル支払い,小ヒットが2∼5枚程度のメダル支払など適宜設定され
る。ボーナスゲームとしては,例えばメダル1枚の投入毎に1個のリールのみでゲ
ームを実行し,その1個のリールについてある種のシンボルマークが出ればそのま
ま15枚のメダル支払いがなされ,このような手順で数回のゲームができるように
することなどが考えられる。」(5頁右下欄8行∼18行)
d「さらにRAM5には得られたヒットに応じたエリア,すなわち大ヒットエ
リア5a,中ヒットエリア5b,小ヒットエリア5c,ヒットなしのエリア5dに
フラグがセットされる。」(7頁左下欄18行∼右下欄2行)
e「第3リールの処理以上のようにして第2リールストツプ処理が終了した
後,第3リールの停止処理は,大ヒツトリクエストが発生されている場合第23図
のフローチャートにより行われる。」(9頁左上欄12行∼16行)
f「また,リールの処理は4コマずれを想定して説明してきたが,このためヒ
ットリクエストに対応したシンボルがその4コマずれの範囲内に存在しないことも
あり得る。(特に大ヒットシンボルは少ないため,充分あり得る。)このような場
合にはヒットリクエストを満足しない結果となってしまい,設定された入賞確率が
低下することになり,特に大ヒットでその影響が大きくなる。これを適正化するた
めには,ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合にはそのヒッ
トリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい。」(9頁右下欄10
行∼10頁左上欄1行)
g「すなわち,前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエスト
をカウントするリクエストカウンタが+1され,RAM上にストアされる。そして,
ヒットした際に,そのリクエストカウンタは−1の減算処理が行われる。また,ヒ
ットしない場合には,そのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが零になる
までヒットリクエストが発生し,このためペイアウト率は一定に保たれる。」(1
7頁左上欄8行∼15行)
h第23図には,第3リールのストップ制御のフローチャートが記載されてお
り,大ヒットリクエスト発生中においては,大ヒットシンボルを出すように制御さ
れることが記載されている。
(イ)上記記載によれば,刊行物8には,スロットマシンにおいて,ボーナスゲー
ムである大ヒットを含む入賞ランク別のヒットリクエストが発生すると,各ヒット
リクエストをカウントするリクエストカウンタを+1し,実際にヒットした際にそ
のリクエストカウンタを−1し,また,実際にヒットしない場合にはそのまま保存
され,最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生するも
のが記載されていると認められる。
そして,上記(ア)e及びhによれば,刊行物8のスロットマシンは,大ヒットリ
クエストが発生すれば,大ヒットに対応したシンボルをそろえるようリールが制御
されるものであって,適切な操作を行えば大ヒットシンボルをそろえることができ
る状態となっているから,「大ヒットリクエストが発生している状態」は,本件訂
正発明1の「ボーナス役の内部当たり状態」に相当する。
さらに,上記(ア)gによれば,大ヒットリクエストが発生し,大ヒットリクエス
トカウンタが+1された後,大ヒットが,ヒットしない間に,再度大ヒットリクエ
ストが発生すれば,ヒットリクエストカウンタがさらに+1されるものであるから,
大ヒットリクエストカウンタは,大ヒットリクエストを2以上記憶することが可能
なものであると認められる。
加えて,上記(ア)fによれば,大ヒットリクエストカウンタは,そのヒットリク
エストを次回のゲームまで持ち越すものであるといえるから,大ヒットリクエスト
カウンタは,本件訂正発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」が「前記入賞判
定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当
たり状態を持ち越す」という構成に相当するのみならず,「ボーナス役の内部当た
り状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」が,次回以降に抽選されるボー
ナス役内部当たりの格納手段としても用いられる構成にも相当するものということ
ができる。
(ウ)原告は,刊行物8に,「ボーナスフラグの有無(0or1)がストアさ
れ」との記載があることを理由に,刊行物8に示される「0」と「1」は,内部当
たり状態かどうかを表す信号であり,それ以外の「2」とか「3」という数字を観
念する余地はない旨主張する。
確かに,刊行物8には,「RAM4の4aのエリアにはボーナスゲームが発生し
たか否か,すなわボーナスフラグの有無(0or1)がストアされ」(7頁左下
欄下から6行∼4行)との記載があるが,ここにいう「0or1」は,ボーナス
ゲームが発生したか否かを意味するものであって,リクエストカウンタについての
記載ではないことが記載自体から明らかである。
また,原告は,刊行物8に開示されたスロットマシンは前段判定方式であり,ボ
ーナスが非入賞となった場合にのみ,ボーナス役内部当たり状態の持ち越し処理を
おこない,その際,ボーナス役内部当たり状態が記憶されて次回ゲームに引き継が
れることがあるだけであって,「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能とし
たパチスロ機」に関する技術を含んでいない旨主張する。
しかし,刊行物8に開示されたスロットマシンが前段判定方式であるかどうかは
ともかく,刊行物8には,補正により,上記のとおり,「前述したヒットリクエス
トが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが+1さ
れ,RAM上にストアされる。そして,ヒットした際に,そのリクエストカウンタ
は−1の減算処理が行われる。また,ヒットしない場合には,そのまま保存され,
最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生し」と記載さ
れているのであって,ボーナス役の内部当たり記憶手段においてボーナス役の内部
当たりを2つ以上記憶する技術事項が開示されていることは,明らかである。
したがって,原告の上記各主張は,いずれも採用の限りでない。
コ刊行物4ないし6記載の「ワイルドキャッツ」等が甲3パチスロ機と同様の
構成であることは,当事者間に争いがないところ,被告主張のとおり,ボーナス役
の内部当たりを2つ以上記憶可能であることが開示されているとしても,甲3パチ
スロ機と同様に,本件訂正発明1のような,次回ゲームに「ボーナス役の内部当た
り状態」を持ち越すためのものではないから,本件訂正発明1の「ボーナス役内部
当たり記憶手段」に相当するものはない。
また,刊行物9についてみると,仮に,被告が主張するとおり,スロットマシン
について,ビッグボーナスの遊技中も,次回のビッグボーナスに移行させるか否か
の抽選を行い,抽選結果がビッグボーナスに移行させることが開示されているとし
ても,そもそも,ビッグボーナスの遊技に移行するための権利の記憶をどのように
行うかについては,同刊行物を検討しても,何らの記載を見いだすこともできない
から,「前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であ」(構成要件F)る
という構成が記載されているとはいえない。
コそうすると,刊行物8においては,「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記
憶可能」とする技術事項が開示されているのみならず,「ボーナス役の内部当たり
状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」は,次回以降に抽選されるボーナ
ス役内部当たりの格納手段としても用いられる構成が開示されているから,刊行物
8は,相違点Aに係る本件訂正発明1の構成を開示しているものである。
()取消事由2()(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成の誤認)について23
ア審決は,相違点Bの「ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態」
について,「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部当たりが存在
することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲ
ーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス
役の内部当たり状態に移行させるように変更する」という構成は周知(周知技術
B)であるとするのに対して,原告は,審決が指摘する刊行物(刊行物3∼6,8
等)には,「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能」である記憶手段はもと
より,ボーナス役の内部当たり状態(適切な操作が行われればボーナス入賞できる
状態)を持ち越すことすら明記されていないから,2つ以上記憶されたボーナス役
内部当たりの連続放出に関する技術事項が開示されているとはいえない旨主張する。
イ確かに,刊行物3ないし6には,貯金したボーナスフラグを,ボーナスゲー
ムの終了直後の1ゲームから放出するようにする,すなわち,本件訂正発明1の相
違点Bに係る構成である「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部
当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,
ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームか
らボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する」構成は記載も示唆も
されていない。しかし,刊行物8には,前記2()ケ(ア)c及びgのとおり,「これ2
までに述べてきた大,中,小の各ヒットの例としては,大ヒットが15枚のメダル
支払いの後ボーナスゲームができるようになるもの,中ヒットが10∼15枚のメ
ダル支払い,小ヒットが2∼5枚程度のメダル支払など適宜設定される。ボーナス
ゲームとしては,例えばメダル1枚の投入毎に1個のリールのみでゲームを実行し,
その1個のリールについてある種のシンボルマークが出ればそのまま15枚のメダ
ル支払いがなされ,このような手順で数回のゲームができるようにすることなどが
考えられる。」,「すなわち,前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒット
リクエストをカウントするリクエストカウンタが+1され,RAM上にストアされ
る。そして,ヒットした際に,そのリクエストカウンタは−1の減算処理が行われ
る。また,ヒットしない場合には,そのまま保存され,最終的にリクエストカウン
タが零になるまでヒットリクエストが発生し,このためペイアウト率は一定に保た
れる。」との記載があるほか,「まず,大ヒットリクエストが発生されている場合
には第16図のフローチャートに従つて,ストツプボタンが操作された時点でのR
AM1のエリアR1(第14図)のデータに基づき,シンボルマークの4コマずれ
の範囲でシンボルマークをチェツクし,その範囲内に大ヒツトを構成するシンボル
マーク要素が存在すれば,それがリール窓に現れるようにモータに送り出されるパ
ルス数を調整する。」(7頁右下欄13行∼8頁左上欄1行)との記載もある。
大ヒットリクエストを記憶して持ち越すことは,ペイアウト率を一定とするため
のものであるところ,大ヒットリクエストが2つ以上記憶されている場合であって,
大ヒットとなったときには,そのボーナスゲームを消化した後に再度大ヒットを発
生させるようにしなければ,当該大ヒットの時のボーナスゲームによる払い出し枚
数が所定の枚数以下となってしまい,ペイアウト率が一定とならないことは明らか
であることから,刊行物8のスロットマシンにおいても,大ヒットが発生してボー
ナスゲームに移行中には,大ヒットリクエストが発生しないようにされているもの
と理解するのが自然かつ合理的である。
そして,上記記載によると,リクエストカウンタは,ヒットすれば−1の減算処
理され,ヒットしなければそのまま保存され,当該リクエストカウンタが0になる
まで,ヒットリクエストが発生し続けるというものであるから,ヒットした状態か
らヒットしていない状態に移行した場合,リクエストカウンタが0になっていない
限り,ヒットしていない状態の冒頭で,すなわち,ボーナスゲーム終了直後の通常
ゲームから,ヒットリクエストが発生するものというべきである。
ウそうすると,審決が,相違点Bに係る構成が周知技術Bであることを根拠付
けるものとして刊行物3ないし8を例示したことは,必ずしも正確であるとはいえ
ないものの,相違点Bについて,「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス
役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽
選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目
のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する」という構
成が本件出願時には刊行物8に既に用いられていたことは,上記のとおりである。
()取消事由2()(本件訂正発明1についての容易想到性の判断の誤り)につ34
いて
原告は,審決は,上記()及び()のとおり,相違点A及びBに係る本件訂正発明12
1の構成が刊行物3ないし6,8,9に記載されていると誤認したものであり,こ
れが相違点A及びBについての認定判断に重大な影響を及ぼすことは明らかである
旨主張する。
しかし,前記のとおり,刊行物8には,相違点A及びBに係る本件訂正発明1の
構成が開示されているところ,引用発明及び刊行物8は,いずれもスロットマシン
という同一技術分野において,「ボーナス役の内部当たり」に関する技術事項を対
象としていて課題となる技術をも共通にしており,一方,遊技者の技量に関係なく,
初心者でも十分に遊技を楽しむことができる遊技機を提供するという技術課題は,
当業者が当然に持っているものであるから,刊行物8に接した当業者が,同刊行物
を引用発明に適用して,相違点A及びBに係る本件訂正発明1の構成とすることは,
容易に想到し得たものというべきである。
3結論
以上のとおり,審決の認定判断は正当であって,原告主張の取消事由はいずれも
理由がなく,原告の請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官塚原朋一
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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