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平成21年3月3日判決言渡
平成20年(行ケ)第10195号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年2月24日
判決
原告ガンブロアンデュストゥリ
(GAMBROINDUSTRIES)
訴訟代理人弁理士慶田晴彦
同松田真
被告特許庁長官
指定代理人八木誠
同川本眞裕
同中田とし子
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−19518号事件について平成20年1月4日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,オスパルアンデュストリエス.アー.(以下「オスパルアンデュ
ストリ社」という。)が名称を「血液処理のための多機能装置」とする発明に
つき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請
求をし,平成17年10月7日付けでも手続補正をしたが,特許庁が上記補正
を却下の上,請求不成立の審決をしたことから,合併によりオスパルアンデ
ュストリ社から特許を受ける権利を承継した原告がその取消しを求めた事案で
ある。
2争点は,上記補正に係る発明(本願補正発明)が下記引用発明との関係で進
歩性を有するか(独立特許要件,特許法29条2項),である。

MANUELPASCUALandJÜRGASCHIFFERLIAdsorptionofcomplement.“
”(ポリアクリロニトリル透factorDbypolyacrylonitriledialysismembranes
析膜による,相補因子Dの吸着),.43903頁∼KidneyInternationalVol
911頁,1993年(平成5年)発行(以下「引用例」といい,これに
記載された発明を「引用発明」という。甲1)
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
オスパルアンデュストリ社は,1994年(平成6年)6月20日の優
先権(フランス)を主張して,平成7年6月19日,名称を「血液処理のた
めの多機能装置」とする発明について特許出願(特願平7−173935
号,請求項の数23,甲4。公開公報は特開平8−52209号〔甲7〕)
をし,平成17年2月22日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする補正
(第1次補正,請求項の数22。甲5)をしたが,拒絶査定を受けたので,
これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2005−19518号事件として審理し,そ
の中でオスパルアンデュストリ社は平成17年10月7日付けで特許請求
の範囲の変更を内容とする補正(第2次補正,請求項の数21。以下「本件
補正」という。甲6)をし,またオスパルアンデュストリ社を吸収合併し
た原告は平成19年1月26日付けで出願人名義変更届(甲10)を提出し
たが,特許庁は,平成20年1月4日,本件補正を却下した上,「本件審判
の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),
その謄本は同年1月28日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1∼21から成る
が,このうち請求項1の内容(下線部分が補正による変更部分。以下これに
記載の発明を「本願補正発明」という。)は,以下のとおりである。
「半透過性分離器構成部品を含む,血液の体外循環による腎外浄化のた
めの多機能装置であって,
a)分離器構成部品に吸着活性があり,下記の吸着能力の少なくとも1
つをそなえている:
a1:およそ600ng以上の大きさのTNF−αの吸着
a2:およそ150mg以上の大きさの相補因子Dの吸着
a3:およそ300ng以上の大きさのインターロイキン1−βの吸

b)およそ毎分100ml,毎分33mlと毎分0mlにそれぞれ等し
い血流量,透析液流量,限外濾過量についておよそ毎分20ml以上の尿
素クリアランスがある,
c)およそ5ml/(h・mmHg)より大きい血液の存在下での限界
濾過係数を有する,
d)血液循環のための装置内の室容積がおよそ150ml以下である,
ことを特徴とする装置。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,①本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたから独立して特許を受けること
ができず,本件補正は却下されるべきである,②本件補正前の発明は,引
用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか
ら特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとお
り認定した上,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点を,次のと
おりとした。
<引用発明の内容>
「PAN膜を含む,血液の体外循環による腎外浄化のための2つの機
能を持つPAN透析装置であって,
PAN膜に吸着特性があり,下記の吸着能力の少なくとも1つをそな
えているPAN透析装置。
補体因子Dの吸着
インターロイキン1の吸着」
<一致点>
いずれも,
「半透過性分離器構成部品を含む,血液の体外循環による腎外浄化の
ための多機能装置であって,
分離器構成部品に吸着活性があり,下記の吸着能力の少なくとも1つ
をそなえている装置。
相補因子Dの吸着
インターロイキン1の吸着」
である点。
<相違点1>
分離器構成部品の吸着能力について,本願補正発明は,およそ600
ng以上の大きさのTNF−αの吸着,およそ150mg以上の大きさ
の相補因子Dの吸着,およそ300ng以上の大きさのインターロイキ
ン1−βの吸着のうちの少なくとも1つをそなえているのに対し,引用
発明は,相補因子Dの吸着,インターロイキン1の吸着をそなえている
点。
<相違点2>
本願補正発明は,およそ毎分100ml,毎分33mlと毎分0ml
にそれぞれ等しい血流量,透析液流量,限外濾過量についておよそ毎分
20ml以上の尿素クリアランスがあり,およそ5ml/(h・mmH
g)より大きい血液の存在下での限界濾過係数を有するのに対し,引用
発明は,そのような構成であるか不明である点。
<相違点3>
血液循環のための装置内の室容積について,本願補正発明は,およそ
150ml以下であるのに対し,引用発明は,どの程度か不明である
点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおり相違点1∼3についての判
断に誤りがあるので,本件補正を却下した審決は違法として取り消されるべ
きである。
ア審決は,本願補正発明と引用発明との相違点1につき「…一般に,数値
範囲を好適化又は最適化することは,当業者の通常の創作能力の発揮に過
ぎず,相補因子Dの吸着量やインターロイキン1の主成分であるインター
ロイキン1−βの吸着量は,透析膜の充填量,繊維の内径,膜厚等を変え
ることによって適宜設定し得るものに過ぎない」(5頁13行∼16行)
とし,相違点2につき「血液等の透析を行う装置において,ある程度以上
の尿素クリアランスを持たせることは,例えば,特開平4−327857
号公報(【従来の技術】の欄参照)に示されるように,当然の課題であ
り,尿素クリアランスをどの程度にするかは適宜設定し得るものに過ぎ
ず,また,血液の存在下での限外濾過係数をどの程度にするかも,適宜設
定し得るものに過ぎない」(5頁25行∼29行)とした。
しかし,以下に述べるとおり本願補正発明の特徴は,TNF−α・相補
因子D・インターロイキン1−βの吸着能力を示すパラメータa,尿素ク
リアランスを示すパラメータb,限外濾過係数を示すパラメータc,血液
循環のための装置内の室容積を示すパラメータdを組み合わせたことにあ
り,各パラメータのバランスを考慮して,急性患者の治療に適した血液処
理のための多機能装置を提供するものである。
(ア)すなわち,一般に,TNF−α等の吸着能力(パラメータa)は透過
膜の厚みが増大すれば増大するのに対し,尿素クリアランス・限外濾過
係数・室容積(パラメータb∼d)は,透過膜の厚みが増大すれば減少
する。
従来,慢性腎不全の患者を血液透析等で治療するための装置として
は,分離器(平坦膜/中空繊維壁)の厚さを減少し,分離器をできる限
り薄くすることで,分離器の平坦膜や中空繊維壁を通しての拡散による
移動に関する分離器の抵抗を小さくし,尿素クリアランスを向上させる
ことが最良であると考えられてきた。そこで,TNF−α等の吸着につ
いては必要最低限の吸着量を確保しつつ,膜厚をいかに薄くするかとい
うことが研究されてきた。
(イ)これに対し本願補正発明は,急性患者の血液処理の問題を解決するこ
とを課題として,分離器(平坦膜/中空繊維壁)の厚さを増大させると
いう従来とは全く逆の発想によりTNF−α等の吸着について十分な吸
着性能を確保する(パラメータa)と共に,血液循環のための装置内の
室容積をおよそ150ml以下とする(パラメータd)ことによって,
患者の体外に存在する血液量を少なくし,急性患者に医療的ダメージが
発生することを防止できるようにしたものである。
一方,尿素クリアランス(パラメータb)及び限外濾過係数(パラメ
ータc)については,上記のとおり分離器(平坦膜/中空繊維壁)の
厚みを増大させたにもかかわらず,尿素クリアランスと限外濾過係
数の値を高水準に維持した。
このように,パラメータa∼dを備えた本願補正発明の構成
は,当業者が容易に想到し得ないものである。
(ウ)ちなみに,引用例(甲1)で紹介されているPAN膜(HOSPAL
社からAN69という商標で市販されている,ポリアクリロニトリルと
メタリルスルホン酸塩の共重合体により製造されたもの)を用いた従来
HostDefense型の血液透析器における吸着性能の値を各文献(
,613頁∼623頁〔甲8〕及DysfunctioninTraumaShockandSepsis
びカタログ「69」〔甲9〕)に基FILTRALSERIESANHFMEMBRANE
づき計算すると,いずれも本願補正発明の値に及ばない。
すなわち,TNF−αの吸着力について本願補正発明ではおよそ60
0ng以上であるのに対し上記従来型では100ngであり,相補因子
Dの吸着力について本願補正発明ではおよそ150mg以上であるのに
対し上記従来型では100mgであり,インターロイキン1−βの吸着
力について本願補正発明ではおよそ300ng以上であるのに対し上記
従来型では78ngである。
このように,従来型の血液透析器においては,相補因子D等の吸着性
能よりも尿素クリアランスを向上させることに重点が置かれていたもの
である。
(エ)なお被告は,本願補正発明の実施例において採用されている膜
の厚さ(50μm)は本願優先日(1994年〔平成6年〕6月20
日)前に周知であったと主張するが,そのような厚さの膜が採用されて
いた当時,当業者は,膜厚を薄くしようと考えていたのであるから,上
記のような厚さの膜が本願優先日前に存在していたことをもって本願補
正発明の構成を容易想到とすることはできず,被告の上記主張は失当で
ある。
イまた審決は,相違点3について,「血液透析等を行う装置におい
て,プライミングボリューム(血液循環のための装置内の室)の容積を1
50ml以下とすることは,例えば,阿岸鉄三他,血液浄化,金原出版株
式会社,1990年11月30日,第24−26ページ(表2,3等参照
〔判決注,甲3〕)に示されるように,本願の優先日前の周知技術に過ぎ
ない」(6頁2行∼6行)とした。
しかし,前記アで述べたとおり,本願補正発明は,急性患者に使用さ
れることを課題として,高い吸着能力を備え(パラメータa),高水
準の尿素クリアランス及び限外濾過係数を有しつつ(パラメータb
・c),血液循環のための装置内の室容積がおよそ150ml以下で
ある(パラメータd)という特徴を備えているものであり,パラメータa
∼dは一体不可分に考慮されるべきものである。
ところが,審決が周知技術として示した上記文献(甲3)は,膜厚が薄
い「一般的に使用されるダイアライザー」や小児用に小型化された
「小児用ダイアライザー」の性能について記載したものであり,本願
補正発明のような急性患者に使用されるダイアライザーに関して記載
されたものではない。
したがって,本願補正発明のように患者の体外に存在する血液量を少な
くして患者の負担を軽減するため,急性の患者に対応できる容積として1
50ml以下の室容積とすることは,当業者が容易になしうることではな
い。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)原告は,急性患者に用いるという課題を解決するため,従来とは逆の発想
により,分離器(平坦膜/中空繊維壁)の厚みを増大させ,充分な吸着能力
を確保したと主張する。
しかし,本件補正後の請求項1には分離器(平坦膜/中空繊維壁)の厚み
については何ら記載されておらず,原告の上記主張は特許請求の範囲の記載
に基づかないものである。
(2)ところで,インターロイキン1−βや相補因子Dは透析患者にとって除去
すべきものであることは,乙1(特開平6−107702号公報)の請求項
18及び21,段落【0006】の記載や,引用例(甲1)においてIL−
1(インターロイキン1)や補体因子D(相補因子D)が吸着の対象とされ
ていることから明らかである。
そして,引用例(甲1)には,PAN膜という透析膜を用いて相補因子D
又はインターロイキン1の吸着を行うことが記載されており,その吸着量は
透析膜の充填量,繊維の内径,膜厚等を調整することによって設定しうるも
のである。
そうすると,患者の状態に応じて要求される吸着量を考慮して透析膜の膜
厚等を調整し,相補因子D,インターロイキン1−βの吸着量をその患者に
とって適切な量となるようにすることは,当業者であれば容易になしうるこ
とである。
(3)アまた,血液透析を行う目的の一つは,腎疾患の患者から尿素等の老廃物
を除去することであり,尿素クリアランスを向上させることは,乙2(特
開平3−280965号公報)の1頁右欄6行∼20行に記載されている
ように,透析装置における技術的課題として周知の事項である。
そして,血液透析では,血液を浄化すると共に余剰の水分を除去する必
要もあり,患者の負担や透析の効率を考慮すると,限外濾過係数をある程
度大きくして透析時間を短くすることが好ましく,逆に限外濾過係数が著
しく大きくなると患者の血圧低下を惹起しやすいことから,患者の状態に
応じて限外濾過係数を適切に設定することは,乙3(特開平3−2929
61号公報)の2頁右上欄10行∼16行に記載されているように当業者
にとって周知の技術的課題といえる。
そうすると,尿素や水分を除去するという課題のもと,尿素クリアラン
スや限外濾過係数をどの程度にするかは,患者の状態を考慮しながら当業
者が適宜設定しうるものである。
イそして,本願補正発明において「およそ毎分100ml,毎分33ml
と毎分0mlにそれぞれ等しい血流量,透析液流量,限外濾過量について
およそ毎分20ml以上の尿素クリアランスがある」(パラメータb)と
した点については,尿素クリアランスの条件を単に設定したに過ぎない。
また,「およそ5ml/(h・mmHg)より大きい血液の存在下での限
外濾過係数を有する」(パラメータc)とした点についても,限外濾過係
数の条件を単に設定したものに過ぎず,格別なことではない。
すなわち,PAN膜からなる透析膜を用いた従来のダイアライザーにお
ける尿素クリアランスについてみると,例えば,甲3(阿岸鉄三ほか編
「血液浄化<医工学治療機器マニュアル①>」金原出版株式会社平成4年
9月30日第2刷発行)26頁の表4には,尿素クリアランス(C)urea
が158ml/minであることが示されている。また,限外濾過係数が
5ml/(h・mmHg)より大きいダイアライザーについても,PAN
膜を使用したものも含め周知である(例えば,乙4の1〔川崎忠行「透析
器」臨牀透析第10巻第8号,平成6年6月18日発行〕の21頁表2,
乙4の2〔中村藤夫「血液濾過器」臨牀透析第10巻第8号〕の31頁9
行∼10行,35頁表2参照)。
したがって,本願補正発明のような数値限定をしたことに格別の困難性
はない。
(4)また,血液循環のための装置内の室容積についても,急性患者に使用され
るダイアライザーについて,身体への負担を少なくするために容量を小さく
し,体外循環量を少なくすることは,当業者であれば通常考えることであ
る。また,急性の患者に対してICU(集中治療室)で用いられる治療機器
は,性能が優れていることはもとより,可能な限り小型であることが要求さ
れることが知られている(例えば,乙6〔特開平2−185260号公報〕
1頁右欄10行∼17行))。
したがって,原告が主張するように「一般的に使用されるダイアライザ
ー」においてプライミングボリュームを150ml以下とするのであれば,
急性患者に対しては,それより小型とすることは容易になしうることであ
る。
そして,一般的に多機能な装置において,それぞれの機能を高水準に維持
することは通常行われることであるから,引用発明の透析装置においても,
室容積を150ml以下とし,かつ尿素クリアランスと限外濾過係数を高水
準で維持することは,当業者であれば容易に想到し得たことといえる。
(5)以上に対し原告は,本願補正発明におけるパラメータa∼dは一体不可分
に考慮されるべきであると主張する。
しかし,本願補正発明はそれぞれのパラメータのような性能を備えるため
に装置の構成を特定したものとはいえず,装置内の室容積以外は,吸着・尿
素浄化値・限外濾過係数などについての望ましい数値範囲を単に規定してい
るにすぎない。そして,それぞれのパラメータは,上記において述べたとお
り,当業者であれば適宜選択しうる程度の数値であり,その組合せに格別な
困難性を有しない。
また,本願補正発明において,これらのパラメータを組み合わせたことに
より当業者が予測できなかったような格別顕著な効果を奏するとはいえない
こと,及び,それぞれのパラメータが臨界的な意義を特段有していないこと
によれば,従来から周知である技術的課題のもとに従来周知のパラメータを
適宜選択し組み合わせたものに過ぎないというべきである。
(6)なお,念のため原告の主張する透過膜の厚さについて反論すると,本願明
細書(甲4)には「…HOSPAL社からAN69という商標で市販されて
いるアクリロニトリルとメタリルスルホン酸塩の共重合体から誘導したヒド
ロゲル(以下『AN69ヒドロゲル』と称す)を用いる特定の場合,…」
(段落【0049】),「それらがAN69ヒドロゲルから成る場合,その
厚みはおよそ50μmとおよそ250μmの間である」(段落【0052
】)と記載されていることから,原告が主張する膜の厚さとは,HOSPA
L社のAN69膜においては「およそ50μmとおよそ250μmの間」を
示すものと思われる。
そこで,従来のダイアライザーに用いられているAN69膜についてみる
と,例えば,乙5(特開平3−293023号公報)には,「…好ましくは
20マイクロメートル∼80マイクロメートルである肉厚を有する」(段落
【0050】),「最良の性能特性が得られるホスパール(Hospal)
製の商品名AN69の共重合体のようなアクリロニトリルおよびメタリルス
ルホン酸ナトリウムをベースとする共重合体が有利に用いられる」(段落【
0062】)と記載されている。また,乙4の1(川崎忠行「透析器」)2
1頁,乙4の2(中村藤夫「血液濾過器」)35頁には,HOSPAL社の
製品としてPAN膜の膜厚が45μmである構成のものが記載されている。
これらのことから,およそ50μmであるAN69の膜は本願優先日前に
周知であり,膜厚を本願補正発明の実施例で採用されている厚さと同程度と
することは,当業者が適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由の有無
原告は,本願補正発明は,吸着能力に関するパラメータa,尿素クリアラン
スに関するパラメータb,限外濾過係数に関するパラメータc,血液循環のた
めの装置内の室容積に関するパラメータdを組み合わせたところに進歩性を有
すると主張するので,この点について検討する。
(1)本願明細書(甲4,7)には,次の記載がある。
ア産業上の利用分野
・「本発明は血液処理のための,より具体的には血液の体外循環による腎外浄化
のための多機能装置に関するものである。」(段落【0002】)
イ従来の技術及び発明が解決しようとする課題
・「患者の血液中に含まれる不純物の除去には様々な方法を用いることができ
る。」(段落【0004】)
・「血液潅流:この方法によれば,処理される血液は活性炭などの吸着剤を通っ
て流れ,活性炭は吸収または吸着によって不純物を保持する。血液の損傷を防
止するための通常の慣行として,血液と化学反応を起こさない不純物透過層で
吸着剤をおおって,直接接触しないようにする。」(段落【0005】)
・「血液濾過と血液透析:これら2つの機能は伝統的に人工腎臓に備えられてい
る。」(段落【0006】)
・「透析の場合,膜が血液の流れを透析物の流れから分離し,処理する血液中に
ふくまれる不純物は膜を通って透析物中に拡散し,それによって除去される。
血液濾過の場合,膜の両側の圧力に差を設けることによって血液の一部がそれ
を通過する。浸透物または限外濾過液と呼ばれる,濾過器を通過した画分は所
与の最大の大きさ(膜の透過性限度)の分子を含むが,そのどれもが血液中に
は存在しない要素である。つぎに濾液は浄化し(たとえば活性炭に通して),
その後患者の体内に再導入することができる。また代替溶液によって患者の体
外液体損失と電解質損失を補償することも可能であり,そのほうが一般的であ
る。」(段落【0007】)
・「これら様々な方法は,その有効性が確立しており,病院環境内でさまざまな
種類の装置を備えることで具体化されている。」(段落【0008】)
・「審査前に公開されたドイツ特許出願第号には,『膜』型の血液処理2,758,679
のための装置が提案され,その作用要素は2つの半透過性膜に挟まれた少なく
とも1つの吸着剤の層から成る。」(段落【0009】)
・「したがって,血液潅流と血液濾過の2つの血液処理方法を単一の装置の中に
統合することができる。血液の一部は圧力勾配をかけることによって,血液側
の膜,吸着剤層,濾液側膜の3つの物質の層を通って濾液として押し出され
る。濾液は中間層を通過することによって浄化され,不純物は前記層によって
吸収される。濾液側膜も不純物を引き留める。」(段落【0010】)
・「英国特許出願第号には直列に取り付けられた,少なくとも1つの血2,083,761
液透析ユニットと少なくとも1つの血液潅流ユニットを含む装置を提案してい
る。」(段落【0011】)
・「透析ユニットは中空繊維を含むことができる;血液潅流ユニットは吸収剤が
充填されている。直列に連結された2つのユニットが問題の装置の別個の機器
品目を構成する。」(段落【0012】)
・「米国特許第号は血液透析要素と直列に取り付けられた血液濾過要素5,194,157
と,補償器と再生器とから成る血液浄化設備を提案している。」(段落【00
13】)
・「これら様々な種類の装置は全て下記の欠点の少なくとも1つをもっている:1つ
以上の機能を実行させようとするといくつかの別個の基材の助けが必要になり,ま
たほとんどの場合,相互連結したとしても物理的に別個のいくつかの要素またはユ
ニットの助けが必要である。」(段落【0014】)
・「さらに,例えば,事故,外科手術,または敗血症性ショック,エンドキシン
ショックなどで特に腎機能を初めとする生理機能の全部または一部を一時的に
喪失したいわゆる『急性』患者の治療を可能にするために,比較的単純なデザ
インで,比較的に使用が簡単な多機能装置を病院環境に備える必要が切実に実
感されている。」(段落【0015】)
・「この装置は特につぎの治療の実行を可能にするものでなければならない:初
期段階で,敗血症性ショックを受けた患者の予防治療(過剰な水,TNF−α
[腫瘍壊死因子]とインターロイキン1−βの除去);腎臓移植を受け,OK
T3型の免疫抑制剤の投与を受けている患者の治療(過剰な水とTNF−αの
除去);血液加熱相で心臓外科を受けた患者の治療(TNF−αとインターロ
イキン1−βの除去)。」(段落【0016】)
・「全身が衰弱状態にあることを考えると,『急性』患者は慢性腎不全をわずら
っている患者が受けるような集中的治療を受けさせることができない。体内の
液体の均衡に急速な変化を生じるので,週3回,1回4時間の通常の血液透析
または血液濾過コースは現実に心臓血管系に強いストレスを与えるという副作
用があり,手術室を出たばかりの患者は原則的に耐えることができないだろ
う。」(段落【0017】)
・「これらの患者の血液を浄化し,患者の組織内に溜まった水の一部を取り除く
ために,したがって,系にショックを与えないので身体の耐性がよいと同時
に,身動きできない患者が耐えることのできる集中性は低いが継続的な治療が
援用される。」(段落【0018】)
ウ課題を解決するための手段
・「したがって,本発明の目的は半透過性分離器構成部品を含む,血液の体外循
環による腎外浄化のための多機能装置であって,
a)分離器構成部品に吸着活性があり,下記の吸着特性の少なくとも1つを備
えている:
a1:およそ600ng以上の大きさのTNF−αの吸着
a2:およそ30mg以上の大きさの相補因子Dの吸着
a3:およそ300ng以上の大きさのインターロイキン1−βの吸着
b)およそ毎分100ml,毎分33mlと毎分0mlにそれぞれ等しい血流
量,透析液流量と限外濾過量についておよそ毎分20ml以上の尿素浄化値が
ある,
c)およそ5ml/(hmmHg)より大きい血液存在下での限界濾過係数を.
有する,
d)血液循環のための装置内の室容積がおよそ150ml以下である,
ことを特徴とする装置である。」(段落【0020】)
・「『多機能装置』という用語は吸収装置機能,血液透析器機能と血液濾過器機
能の少なくとも1つを同時に実行することのできる装置を意味するものとす
る。」(段落【0021】)
・「『吸着』または『吸着する』という用語は,タンパクと分離器構成部品の材
料内の重合体鎖の間の相互反応が物質の表面でも中でも同じように起きる拡散
吸着を意味するものとする。」(段落【0022】)
・「先に定義した3つの吸着能力は分離器構成部品が飽和するまでに吸着したT
NF−α,相補因子Dおよび/またはインターロイキン1−βの合計量に対応
する。」(段落【0023】)
・「本発明の1つの特徴によれば,装置の半透過性構成部品は上記の吸着能力の
少なくとも2つを,好適にはa1,a2とa3の3つ全ての吸着能力をもって
いる。」(段落【0024】)
・「本発明の他の特徴によれば,分離器構成部品は,効率向上のために,下記の
限界値以上の大きさの1つ以上の吸着能力をもっている:
a1:およそ3000ng以上の大きさのTNF−αの吸着
a2:およそ90mg以上,さらに好適にはおよそ150mg以上の大きさの
因子Dの吸着
a3:およそ1500ng以上の大きさのインターロイキン1−βの吸着。」
(段落【0025】)
・「つぎに,本発明による装置およびその分離器構成部品を構成することのでき
る中空繊維の種類について説明する。」(段落【0028】)
・「本発明による装置は平坦な薄板の半透過性膜または半透過性中空繊維の束か
ら成る分離器構成部品によって分離された2つの室を含む。この装置は,特定
物質の吸着能力によって定義される吸着機能と,尿素浄化値によって定義され
る透析機能と,血液が存在するときの限外濾過係数によって定義される限外濾
過を同時に実施できる点で多機能装置である。」(段落【0029】)
・「装置はさらに,およそ毎分100ml,毎分33mlと毎分0mlにそれぞ
れ等しい血流量,透析液流量と限外濾過量についておよそ毎分20ml以上の
尿素浄化値をもつ。」(段落【0033】)
・「この浄化値はいわゆる『急性』患者の治療のための連続血液透析,連続動静
脈血液透析(通常CAVHDと称す)または連続静脈静脈血液透析(通常CV
VHDと称す)の実施という背景での装置の使用に指定される。これは血液か
ら膜をとおって透析物に向かう溶質の拡散による装置の浄化効率を示し,装置
入口の溶質濃度に対する溶質流れの比として定義される。それは,血液が透析
物内の尿素溶液によって代替され,流体の循環が流れに逆らって実施され,温
度が37℃に安定された試験管内測定手順の脈絡において測定される。その値
はCAVHDまたはCVVHDにおいて見い出される条件を表す運転条件につ
いて,すなわち毎分100mlの血液流量Qb,毎時2リットルの透析流量Q
dおよび毎分0mlの限外濾過流量Qfについて規定される。」(段落【00
34】)
・「装置の限外濾過係数はおよそ5ml/(hmmHg)より大きいものであ.
る。」(段落【0035】)
・「限外濾過係数は膠質浸透圧を引いた装置内の平均経膜圧力に対する濾過流量
Qfの比として定義される。規定された値は毎分50ml以上の流量で37℃
で循環している血液で測定される。」(段落【0036】)
・「この限外濾過係数は200mmHgの経膜圧力でおよそ毎時1リットルの血
液濾液を抽出することを可能にする。」(段落【0037】)
・「血液循環のための装置の室の容積はおよそ150ml以下とするのが有利で
ある。この値は,一般的に総体外量は250mlを越えるべきではないという
事実に照らして許容できると評価された限界である。」(段落【0038】)
・「本発明による装置の1つの実施態様によれば,吸着活性のある分離器構成部
品は,平坦な薄板膜または中空繊維束の形の均質かつ対称な高分子電解質ヒド
ロゲルである単一の種類の材料から製造される。」(段落【0040】)
・「およそ3.3%(モル比)のメタリルスルホン酸塩を含む,HOSPAL社
からAN69という商標で市販されているアクリロニトリルとメタリルスルホ
ン酸塩の共重合体から誘導したヒドロゲル(以下『AN69ヒドロゲル』と称
す)を用いる特定の場合,吸着されるタンパクの量は主として存在するヒドロ
ゲルの質量に依存することが証明されている。この量が少なくともおよそ50
g(乾燥重合体で表した)であるべきであることは決定できた。」(段落【0
049】)
・「吸着活性のある分離器構成部品は,それ自体既知の仕方で,平坦薄板膜の
形,または中空繊維束の形で製造することができる。」(段落【0050】)
・「中空繊維の内径はおよそ180μmとおよそ260μmの間である。」(段
落【0051】)
・「それらがAN69ヒドロゲルから成る場合,その厚みはおよそ50μmとお
よそ250μmの間である。」(段落【0052】)
・「一般的に,均質で対称な高分子電解質ヒドロゲルから成る中空繊維の厚みは
およそ50μmとおよそ250μmの間である。好適には50μmより大き
い,なぜならこのような条件の下で,一般的にTNF−αおよび/または相補
因子Dおよび/またはインターロイキン1−βの吸着能力の増加を得ることが
できるからである。…」(段落【0053】)
エ発明の効果
・「本発明の装置によれば,別個の基材やユニット等によらなくても複数の機能
を実行することができ,治療段階に応じて異なる機能の適切な処置を患者に施
すことができ,特に,動かすことさえ危険な衰弱状態にある急性患者に対して
有効な治療を行うことができる。」(段落【0118】)
(2)ア以上の記載によれば,本願補正発明は,血液の体外循環による腎外浄化
のための装置に関するものであって,特に,事故・外科手術・敗血症性シ
ョック等によって腎臓機能を始めとする生理機能を一時的に喪失した急性
患者の治療に用いることを目的としたものである。
すなわち,例えば敗血症性ショックを受けた患者については,過剰な水
分を排出するほか,TNF−α(腫瘍壊死因子)やインターロイキン1−
βのような物質を除去する必要があり,このような物質を除去する方法と
して従来から活性炭などの吸着剤に血液を潅流させる方法(血液潅流)が
用いられてきたが,これを血液透析や血液濾過の機能と併用しようとする
と,血液透析ユニットと血液潅流ユニットを直列に取り付ける(英国特許
出願第2083761号)などの方法によることになり,急性患者の治療
には不向きであった。
そこで,一つの装置をもって,吸着機能・透析機能・血液濾過機能を有
する多機能装置とし,TNF−α等に対する十分な吸着能力と使用の簡便
性の双方を備えたものとしたのが本願補正発明である。
イそして本件補正後の請求項1によれば,本願補正発明の基本的構成は,
半透過性分離器構成部品(平坦な薄板の半透過性膜又は半透過性中空繊維
の束から成る)を含み,透析膜に圧力をかけていない状態では透析により
尿素を浄化する機能(尿素クリアランス)を,透析膜の両側の圧力に差を
設けた状態では血液を濾過する機能を有すると共に,分離器構成部品が吸
着活性を有することによって,TNF−α・相補因子D・インターロイキ
ン1−βを吸着する機能をも併せ有するものである。
その上で本願補正発明においては,上記吸着・透析・血液濾過の各機能
についてパラメータa∼cを規定した。すなわち,吸着機能についてはT
NF−αにつき600ng以上,相補因子Dにつき150mg以上,イン
ターロイキン1−βにつき300ng以上の吸着能力の少なくとも一つを
備えることとし(パラメータa),尿素浄化機能については毎分100m
lの血流量,毎分33mlの透析液流量,毎分0mlの限外濾過量(すな
わち圧力をかけていない状態)という条件下において毎分20ml以上の
尿素クリアランスがあることとし(パラメータb),血液濾過機能につい
ては5ml/(h・mmHg)により大きい限外濾過係数を有することと
した(パラメータc。なお請求項に「限界濾過係数」とあるのは「限外濾
過係数」の誤記と認める)ものである。
さらに,急性患者は全身が衰弱状態にあるため,体外循環血液量を少な
くして患者の負担を軽減できるように,血液循環のための装置内の室容積
を150ml以下とした(パラメータd)。
(3)ア他方,引用例(甲1)には,次の記載がある。
・「ポリアクリロニトリル透析膜による,相補因子Dの吸着。…最近の研究で因
子DがPANに吸着するかどうかを調べた。」(訳文5行∼8行)
・「ポリアクリロニトリルとメタリルスルホン酸塩の共重合体より製造されたP
AN膜は,重要な吸着特性を有する。」(訳文10行∼12行)
・「IL−1もPANに吸着されることが示された。」(訳文13行∼14行)
・「1つのPAN透析装置から38.4mgの溶血性の因子Dが回収されたか
ら,因子Dは溶出液の主要成分であることを定量分析が示した。」(訳文23
行∼25行)
・「計算により,PANの透析は,透析セッションあたり少なくとも48mgの
因子Dを除去すると算定された。」(訳文27行∼28行)
イ以上によれば,引用例1(甲1)には,血液透析用の透析膜として使用
されるPAN膜(ポリアクリロニトリル〔〕とメタリルスpolyacrylonitrile
ルホン酸塩〔〕との共重合体により製造されるsodiummethallylsulfonate
膜)が重要な吸着特性を有し,相補因子D()及びインcomplementfactorD
ターロイキン−1(1)を吸着することが記載されている。IL-
したがって,PAN膜を使用した透析器は,血液透析による尿素浄化機
能を有すると同時にPAN膜の吸着特性によって相補因子D等の吸着機能
を有するという点で,本願補正発明と同様の基本的構成を有するものであ
る。そして,血液濾過については透析膜の両側の圧力に差を設けることに
よって限外濾過を行うことが従来技術として知られていた(本願明細書
〔甲4,7〕段落【0007】参照)ことからすると,本願補正発明にお
いて血液濾過機能を有することは有意な差異ではなく,結局のところ,本
願補正発明と引用発明とは,本願補正発明のようなパラメータa∼dを有
しているかという点においてのみ構成を異にするものである。
(4)アところで,インターロイキン−1は人体の様々な組織と器官に悪影響を
及ぼす炎症性サイトカインの1種であって,TNF(腫瘍壊死因子)も大
量になると敗血症ショック等を引き起こすことが知られ(乙1〔特開平6
−107702号公報〕段落【0006】【0007】参照),また相補
因子Dも最終ステージの腎不全で蓄積することが知られている(引用例
〔甲1〕,訳文6行∼7行)から,これらの物質を血液中から除去すべき
ことは本願優先日(1994年〔平成6年〕6月20日)前から周知の課
題とされていたものと認められる。
そして,PAN膜が相補因子D,インターロイキン−1に関する吸着特
性を有することは引用発明において既に知られていたのであるから,当業
者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)におい
て透析膜の充填量,繊維の内径,膜厚等を調整して一定以上の吸着能力を
備えるものとすることは容易になしうるものというべきである。
イまた,小児を含む低体重患者,高齢者,心循環器合併症患者については
体外循環血液量を抑えるために小さめの透析器を用いることが知られてお
り(乙4の1〔川崎忠行「透析器」〕13頁8行∼18行参照),プライ
ミングボリューム(血液循環のための装置内の室容積)が150ml以下
である成人用透析器も製造されている(甲3〔阿岸鉄三ほか編「血液浄化
<医工学治療機器マニュアル①>」〕24頁・表2)ことからすると,血
液循環のための装置内の室容積を150ml以下とすることは設計的事項
にすぎないものというべきである。
(5)以上に対し原告は,半透過性分離器における透過膜の吸着能力を増大する
には膜厚を増大させ,尿素クリアランスや限外濾過係数を増大するには膜厚
を減少させるという相反する調整が必要となるところ,本願補正発明は尿素
クリアランスと限外濾過係数の値を高水準に維持しながら吸着能力を増大さ
せたものであると主張する。
ア(ア)しかし,本件補正後の請求項1に記載されたパラメータbは,毎分
100mlの血流量,毎分33mlの透析液流量,毎分0mlの限外濾
過量という条件下において毎分20ml以上の尿素クリアランスがある
というものであるところ,引用発明と同様にPAN膜を用いた透析器の
1例においては尿素クリアランス(C)が毎分158mlでありurea
(甲3〔阿岸鉄三ほか編「血液浄化<医工学治療機器マニュアル①
>」〕26頁・表4),また,標準的な血液透析器における尿素クリア
ランスの機能基準は毎分125ml以上(血流量毎分150∼250
ml,透析液流量毎分400∼500mlの条件下において)とされ
ている(乙4の2〔中村藤夫「血液濾過器」〕34頁・表1)。
したがって,毎分当たりの尿素クリアランスの値として,本願補正発
明のパラメータbにおける数値は,血流量等の条件の違いを考慮すると
しても相当に低い値であるということができる。
(イ)そして,本願明細書(甲4,7)の記載をみると,慢性腎不全の患者
が通常受けるような集中的処理(1回当たり4時間)は心臓血管系に強
いストレスを与えることから,急性患者については集中性は低いが継続
的な処理が行われること(段落【0017】【0018】),パラメー
タbの尿素浄化値(尿素クリアランス)は急性患者の治療のための連続
血液透析の実施において指定されるものであること(段落【0033】
【0034】)が記載されている。また,【図1】∼【図3】に示され
たTNF−αやインターロイキン1−βの濃度の経時変化も,1440
分(24時間)の計測結果を示すものである。
intensiveこのように,本願補正発明は,急性患者についてはICU(
,集中治療室)等で長時間にわたり連続的な血液処理が行われるcareunit
ことを前提として毎分当たりの尿素クリアランスを定めているものであ
り,毎分当たりの尿素クリアランスの値は低くても長時間にわたり処理
を継続することにより,総体的には十分な尿素浄化を行うことが可能と
なるものと考えられる。
(ウ)ところで,持続(透析)濾過器における尿素クリアランスの機能基準
については毎分20mlとされており(乙4の2〔中村藤夫「血液濾過
器」〕34頁・表1),本願補正発明におけるパラメータbは連続血液
透析においては格別な値を定めたものではなく,むしろ標準的な数値と
いうことができる。
(エ)そうすると,本願補正発明のパラメータbは,急性患者について長時
間にわたり連続的な血液処理が行われることを前提として,連続血液透
析において標準的な尿素クリアランスの値を定めたものであって,その
数値が慢性腎不全の患者等に用いる場合に比べて相当に低い値であるこ
とから,透析膜の膜厚を増大させるなどしてもこれと矛盾抵触すること
がないというだけのことであり,従来の常識に反して吸着能力と尿素ク
リアランスをいずれも高水準にしたと評価できるものではないというべ
きである。
ウまた,限外濾過係数の値についても,血液透析濾過器における限外濾過
係数の性能基準は20ml/hr/mmHgとされていること(乙4の2
〔中村藤夫「血液濾過器」〕34頁・表1)に照らせば,本願補正発明の
パラメータcにおける5ml/(h・mmHg)はそれほど高い数値では
ない。
そして,限外濾過係数が大きくなると患者の血圧低下を惹起する危険が
高くなること(乙3〔特開平3−292961号公報〕2頁右上欄10行
∼16行によれば,「しかるに,上述のような透析器の大面積化によって
限外濾過係数〔UFR〕も著しく高くなることから,透析中の除水速度が
速まり過ぎて患者の血圧低下を惹起し易く,特に透析経験の長い多くの患
者にあっては上記血圧低下の危険性が高いために大面積の透析器を使用で
きないのが現状である」とされている。)に照らせば,本願補正発明にお
けるパラメータcは,急性患者の血液処理において血圧低下の危険を防ぐ
ために限外濾過係数を比較的小さな値に設定したものと考えられ,かかる
数値は当業者であれば適宜設定しうるものである。
エそうすると,本願補正発明におけるパラメータa∼dは,急性患者の血
液処理を行うという目的の下に,TNF−α等について十分な吸着能力を
有するように膜厚等を調整し,体外循環血液量を抑えるように血液循環の
ための装置内の室容積を小さく設定し,尿素クリアランスと限外濾過係数
についてはこれらと矛盾しない範囲内で適宜設定することにより当業者に
おいて容易になしうるものであるから,これらのパラメータを組み合わせ
た数値限定とすることに格別の困難性があるということはできない。
オしたがって,本願補正発明は前記引用発明及び周知技術から当業者が容
易に発明をすることができたから特許出願の際独立して特許を受けること
ができないとして本件補正を却下した審決に誤りはない。
3結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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