弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,長崎市a丁目b番所在のA所有のdアパートe棟(鉄筋コンクリート
6階建て,延べ床面積約2375平方メートル)の6階601号室に居住していた
ものであるが,自分の将来を悲観して,この棟に放火して自殺しようと考え,平成
21年7月2日午後5時10分ころ,Bほか67名が現に住居に使用するこの棟の
,,601号室居間においてポリタンクに入れた灯油約6リットルを床面にまいた上
ライターで広告紙に点火し,これを上記床面に落として火を放ち,その火を601
号室の壁,天井等に燃え移らせ,よって,この棟の601号室部分(床面積約54
平方メートル)を全焼させ,もって現に人が住居に使用する建造物を焼損したもの
である。
(法令の適用)
罰条刑法108条
刑種の選択有期懲役刑
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,自分の将来を悲観して,焼身自殺をしようと,6階建てア
パートの6階にある自室に灯油をまいた上,ライターで広告紙に点火し,これを
床面に落として,このアパートに放火し,その結果,自室を全焼させた現住建造
物等放火の事案である。
検察官は,本件犯行の危険性,損害の大きさ,被害感情の厳しさ,身勝手な犯
行動機などを理由に懲役6年の刑を求めた。これに対し,弁護人は,死傷者が出
ず延焼がなかったこと,動機に同情の余地があること,再犯のおそれがないこと
などを被告人に有利に考慮すべきであると指摘して,執行猶予を求めた。
2(1)まず,被告人の本件犯行のやり方,結果,動機について検討する。
被告人が放火したのは6階建てのアパートであり,このアパートは被告人の
所有ではなく,Aの所有物である。このアパートには被告人を除くと本件犯行
当時29世帯計68人もの多数の人が居住しており,現に犯行時刻には,この
アパートの中には35人の人がいた。さらに,本件アパートには渡り廊下でつ
ながった別棟のアパートがあった。被告人は,大量の灯油を自室の床面にまい
た上で放火しており,このような大量の灯油をまくことで火の勢いが格段に増
すことは常識的に明らかである。実際にも本件火災の鎮火には1時間半がかか
った。そうすると,本件アパートへの放火という被告人の行為は,多くの人の
生命身体に害が及ぶおそれや隣の建物への延焼のおそれを伴う非常に危険性の
高いものであったと評価される。たまたま,このような危険が現実化しなかっ
たにすぎない。被告人も,本件犯行前,市役所の職員に自制を求められたり,
階下の住民に危険を感じたら避難するように言っており,本件犯行の危険性の
大きさを十分認識していた。
本件犯行の結果,被告人の自室は全焼し,隣室の雨どいや網戸が焼けた他,
6階の廊下や外壁には多量の黒い煤が付き,階下の2部屋及びエレベーターは
消火活動のため水損した。本件火災による損害の見積額は約1400万円と高
額である。本件犯行による財産的被害は大きい。また,本件火災により,本件
アパートにいた住民の大部分が避難しており,同人らの感じた恐怖は大きいも
のであったと推察できる。階下の住民は,被告人の厳重処罰を求めているとこ
ろ,かねて同人が被告人に良い感情を抱いていなかったことを踏まえても,受
けた被害からすれば当然のことというべきである。
被告人が母を亡くした喪失感や将来への不安感等から焼身自殺をしようとし
たことについては同情の余地はあるが,周囲の危険や迷惑を顧みず放火という
危険性の高い行為によりこれを実行しようとしたことについては,身勝手であ
り,正当化されるものではない。
(2)次に,被告人の刑を決めるに当たり考慮すべきその他の事情について検
討する。
法廷の態度からして深まりには疑問があるが,反省はしていると認められる
こと,期待できることには自ずと限界があるとはいえ,友人が被告人のために
出廷してその立ち直りへの協力を申し出てくれたこと,前科がないことは,被
告人の更生に役立つ事情である。なお,確かに,被告人について,社会復帰の
環境が整備されているとはいえないが,そのことが,被告人の再犯に結びつく
とは認められない。
(3)以上によれば,被告人の刑事責任は重大であり,犯した罪の内容を考え
ると(2)で指摘した事情を考慮しても,本件は刑の執行を猶予すべき事案,
ではない。これまでの量刑傾向をも参考にした結果,被告人を主文の実刑に処
するのが相当である。
3よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役6年)
平成21年12月18日
長崎地方裁判所刑事部
裁判長裁判官松尾嘉倫
裁判官内藤恵美子
裁判官佐伯良子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛