弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1(1)被告P1株式会社は,原告に対し,19億1532万6670円及び別
紙債権目録1「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日
の翌日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告P2株式会社は,原告に対し,8億7554万7000円及び別紙債
権目録3「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告P3株式会社は,原告に対し,7億8124万7550円及び別紙債
権目録5「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告P4株式会社は,原告に対し,5億8130万5800円及び別紙債
権目録6「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告P5株式会社は,原告に対し,2737万3300円及び別紙債権目
録8「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日か
ら,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被告P6株式会社は,原告に対し,1億9349万3500円及び別紙債
権目録9「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)被告P7株式会社は,原告に対し,1695万円及び別紙債権目録10「返
還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日から,各支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)被告P8有限会社は,原告に対し,6億7631万3600円及び別紙債
権目録13「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の
翌日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)被告P9株式会社は,原告に対し,33億4806万6784円及び別紙
債権目録12「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日
の翌日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,
(1)原告に生じた費用の1000分の213と被告P1株式会社に生じた費
用の合計を被告P1株式会社の,
(2)原告に生じた費用の1000分の97と被告P2株式会社に生じた費用
の合計を被告P2株式会社の,
(3)原告に生じた1000分の87と被告P3株式会社に生じた費用の合計
を被告P3株式会社の,
(4)原告に生じた費用の1000分の65と被告P4株式会社に生じた費用
の合計を被告P4株式会社の,
(5)原告に生じた費用の1000分の3と被告P5株式会社に生じた費用の
合計を被告P5株式会社の,
(6)原告に生じた1000分の22と被告P6株式会社に生じた費用の合計
を被告P6株式会社の,
(7)原告に生じた費用の1000分の1と被告P7株式会社に生じた費用の
合計を被告P7株式会社の,
(8)原告に生じた費用の1000分の372と被告P9株式会社に生じた費
用の合計を被告P9株式会社の
各負担とし,
(9)原告に生じた費用の1000分の140と被告P8有限会社に生じた費
用の合計は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告P8有限会社の各
負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告P1株式会社は,原告に対し,19億1532万6670円及び別紙債
権目録1「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌
日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2被告P2株式会社は,原告に対し,8億7554万7000円及び別紙債権
目録3「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日
から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3被告P3株式会社は,原告に対し,7億8124万7550円及び別紙債権
目録5「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日
から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4被告P4株式会社は,原告に対し,5億8130万5800円及び別紙債権
目録6「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日
から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5被告P5株式会社は,原告に対し,2737万3300円及び別紙債権目録
8「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日から,
各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6被告P6株式会社は,原告に対し,1億9349万3500円及び別紙債権
目録9「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日
から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
7被告P7株式会社は,原告に対し,1695万円及び別紙債権目録10「返
還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の翌日から,各支
払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
8被告P8有限会社は,原告に対し,12億5568万6000円及び別紙債
権目録11「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の
翌日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
9被告P9株式会社は,原告に対し,33億4806万6784円及び別紙債
権目録12「返還請求額」欄記載の各金員に対する同「支払日」欄記載の日の
翌日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が平成7年度から平成10年度までの間に,陸上自衛隊,海上自衛
隊及び航空自衛隊の基地等で消費されるガソリン等の石油製品について,入札形式
によって,被告ら(あるいは,被告らに組織変更前の石油販売会社。以下,これら
も含めて「被告ら」という。)と売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締
結したものの,それらの売買契約は,いずれも被告らの談合行為に起因するもので
あるから,公序良俗に反し無効である旨などを主張し,不当利得返還請求権に基づ
き,売買代金相当額の金員及びこれに対する商事法定利率の年6分の割合による遅
延損害金の全部ないし一部の支払を求めている事案である。
1前提事実(当事者間に争いがないか,証拠等により容易に認められる事実。
以下「本件前提事実」という。)
(1)当事者等
ア調達実施本部について
防衛庁(ただし,平成19年に防衛省に移行前)調達実施本部(以下「調達実施
本部」という。)は,全国の自衛隊の基地等における任務遂行に必要な装備品等を
一元的に調達する機関であり,この中で石油燃料の入札については,同本部契約第
2課が入札事務を行い,入札における落札予定価格の算定は,同本部原価計算第2
課がすることとされていた(以下,同本部契約第2課を「契約2課」,同本部原価
計算第2課を「原計2課」という。)。
なお,調達実施本部は,平成13年1月6日に廃止され,契約部門は特別の機関
として新設された防衛庁契約本部に,原価計算部門は内部部局たる同庁管理局原価
計算部に引き継がれ,平成18年7月31日,これが改編されて新たな中央調達機
関として防衛庁装備本部が設置された。その後,平成19年1月9日,防衛庁設置
法等の一部を改正する法律(平成18年法律第118号)に基づき,防衛庁が防衛
省に移行したのに伴い,防衛庁装備本部は防衛省装備本部となり,同年9月1日,
さらに改組された結果,現在は,防衛省装備施設本部となっている。
イ被告らについて
被告らは,いずれも石油製品の製造又は販売を業とする会社であり,以下のとお
り,組織変更,商号変更等を行っている(別表1「被告らの会社変遷」参照。以下,
特に明記しない限り「株式会社」「有限会社」の表記は省略し,本件訴訟提起時の
被告には「旧被告」という表記を付するものとする。ただし,旧被告P10,同P
11及び同P12は,本件訴訟提起以降,後記のとおり,組織変更している。)。
(ア)被告P4関係
原告との間で本件売買契約を締結したP13株式会社は,平成12年7月1日,
P14株式会社を吸収合併し,同日,商号をP4株式会社に変更した。
(イ)被告P8関係
(a)原告との間で本件売買契約を締結したP15株式会社は,平成12年2月4
日,組織変更により,P15有限会社となった。
(b)原告との間で本件売買契約を締結したP16株式会社は,平成12年2月1
8日,組織変更により,P16有限会社となった。
(c)P16有限会社は,平成14年6月1日,P15有限会社及びP17を吸収
合併し,同日,商号をP8有限会社に変更した。
(ウ)被告P9関係
(a)原告との間で本件売買契約を締結したP18株式会社は,平成11年4
月1日,同じく原告との間で本件売買契約を締結したP19株式会社を吸収合
併し,同日,P20株式会社に商号を変更した。
(b)P20は,平成14年6月27日,P10株式会社(旧被告P10)に
商号を変更した。
(c)原告との間で本件売買契約を締結した株式会社P21(以下「旧P21」
という。)は,平成15年4月1日,商号をP22株式会社に変更した。
これと同時に,旧P21から石油部門が分離され,新「株式会社P12」(旧
被告P12)が新設分割によって設立された(以下「本件新設分割」という。)。
(d)旧被告P10は,平成20年10月1日には,原告との間で本件売買契
約を締結した旧被告P11株式会社を,平成22年7月1日には,旧被告P1
2をそれぞれ吸収合併した上,平成22年7月1日,商号をP9株式会社に変
更した。
(エ)その他の被告について
被告P1株式会社,同P2株式会社,同P3株式会社,同P5株式会社,同P6
株式会社及び同P7株式会社については,本件売買契約を締結した当時から現在に
至るまで,組織変更及び商号変更等を行っていない。
ウ本件石油製品について
調達実施本部は,自動車ガソリン,灯油,軽油(一般用と艦船用が存在した。),
A重油及び航空タービン燃料(JP-4,JP-5,JP-4Aの3つの油種が存
在した)についての発注を行っていた(以下,これらの石油燃料を併せて「本件石
油製品」という。)。
このうち,自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油については,一般の市場に流
通している製品と同様の製品であった(以下,この4つの油種を併せて「一般燃料」
という。)。
他方,航空タービン燃料については,灯油を基材とする点では,民間用の航空タ
ービン燃料(JET-A1)と共通しているが,JP-4は,灯油留分に重質ナフ
サ留分と軽質ナフサ留分を加え,さらに,酸化防止剤,腐食防止剤及び静電気防止
剤を添加して精製され,JP-5は,灯油留分中の軽質分と重質分を取り除いた上
で,酸化防止剤及び腐食防止剤を添加して精製される石油製品である。また,JP
-4Aは,JP-4に氷結防止剤を添加して精製される石油製品である。
これらの航空タービン燃料は,防衛庁が特別に発注していた石油製品であり,J
ET-A1とは異なり,一般の市場には流通していなかった(乙イ31)。
(2)入札制度についての概要
ア原告が締結する売買,賃貸借,請負その他私法上の契約については,適正な
処理を確保するために,会計法や予算決算及び会計令(昭和22年4月30日勅令
第165号。以下「予決令」という。)等の会計法令に手続が定められている。
イこれら会計法令の規定によれば,原告が契約を締結する場合には,原則とし
て公告して申込みをさせることにより一般競争に付さなければならず(会計法29
条の3第1項),契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争
に付する必要がない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては,
指名競争に付すべきものとされており,契約に係る予定価格が少額である場合その
他政令に定める場合においては,随意契約と選択的ではあるが,指名競争に付すべ
きものとされている(同法29条の3第3項,第5項,予決令94条)。
上記の一般競争及び指名競争は,原則として,入札の方法によるものとされ(同
法29条の5第1項。以下,それぞれ「一般競争入札」,「指名競争入札」という。),
契約の目的に応じ,予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格を持って申込み
をした者を契約の相手方としなければならないのが原則である(同法29条の6第
1項)。
そして,落札者を決定したときは,契約の目的,契約金額を記載した契約書を作
成し,契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印することにより,契
約内容が確定し,原告の締結する契約が成立する(同法29条の8)。なお,予定
価格の制限に達した価格の入札がないときは,直ちに再度の入札をすることができ
(予決令82条及び98条),さらに入札者若しくは落札者がない場合には,再度の
公告又は指名をした上,新たな予定価格を設定して,入札をすることができる(予
決令92条)。
ウもっとも,契約の性質または目的が競争を許さない場合や緊急の必要により
競争に付することができない場合などには,例外的に競争によらない随意契約が許
容される(会計法29条の3第4項,第5項)。この場合にも,入札の場合に準じ
て,予定価格を定めておかなければならない(予決令99条の5)。
また,予定価格の制限に達した価格の入札がないとき,又は,再度の入札をして
も落札者がない場合にも随意契約によることが許容されるが,この場合には,契約
保証金及び履行期限を除くほか,当初の競争入札時に定められた予定価格その他の
条件を変更することはできない(予決令99条の2)。
エなお,防衛庁長官は,調達すべき数量が多いときには,予算決算及び会計令
臨時特例(昭和21年11月22日勅令第558号。以下「予決令臨時特例」とい
う。)4条の2により,複数の指名業者に受注を希望する数量及び単価を入札させ,
調達数量に達するまで複数の指名業者による落札を認める複数落札入札制度を採用
することができる。
複数落札制度が採用された場合には,最も多い量の受注を希望した指名業者から
優先的に落札を認め,最後の順位の落札書の入札数量が他の落札者の数量と合算し
て需要数量を超えるときは,その超える数量については落札がなかったものとされ
る。さらに,各業者の希望数量を合算すると需要数量を超えてしまい,かつ,希望
数量が最も少ない業者が複数存在する場合には,くじによる抽選で,需要数量を超
える数量について落札がなかったものとされる業者を決定すると定められている
(予決令臨時特例4条の7)。
(3)本件石油製品の調達時期,調達方法及び指名業者等について
ア調達時期について
原告は,本件石油製品について,平成7年度は,6月から8月分までを第1期,
9月から11月分までを第2期,12月から2月分までを第3期,3月分を第4期
とし,このほか,4月から5月分を緊急分,年度末に保管分として合計6回の発注
を行った。
これに加えて,平成8年度は,第1期を暫定分と補正分に分けて発注したため,
合計7回の発注を行った(以下,各発注を特定するときは,年度と期,さらに必要
な場合は緊急分又は保管分という名称で特定する。)。
平成9年度は,平成7年度と同様合計6回の発注を行った。
平成10年度については,緊急分を廃止し,通常の会計年度の四半期単位で発注
することとしたが,第1期を暫定分と補正分に分けたため,年度末の保管分の発注
と合わせて,合計6回の発注を行った。
本件売買契約が締結されたのは,平成7年度第1期緊急分から平成10年度第3
期までの期間である(以下「本件期間」という。)。
イ調達方法及び指名業者等について
(ア)本件期間において,調達実施本部は,原則として,本件石油製品を指名競
争入札の方法で調達することとし,指名競争入札参加の要件を満たしている者とし
て登録されていた被告P1,P18,P19,旧P21,旧被告P11,被告P2,
被告P3,P13,被告P5,被告P6,被告P7,P15,P16の計13社の
中から発注案件ごとに指名業者を選定していた。
そして,被告P1,P18,P19,旧P21,旧被告P11,被告P2,被告
P3,P13,被告P6,P15,P16は,本件石油製品全てについて,被告P
5は,航空タービン燃料を除いた本件石油製品について,被告P7は,軽油につい
てそれぞれ指名を受けて入札に参加した(なお,被告P7については,平成9年度
第3期から平成10年度第2期までは製油施設の事情のために指名業者には選定さ
れていなかった(甲16の4)。)。
このうち,P15はP23に,被告P7はP24にそれぞれ入札手続について委
任をしており,実際に入札手続に参加したのはP23及びP24であった(以下,
P23及びP24を含め,実際に入札に参加した13社を「本件入札参加業者」と
いう。)。
(イ)調達実施本部は,各基地の油種ごとに指名競争入札の方式で本件石油製品
を調達していたことから,発注する案件の総数は,1つの期で400件から500
件に上ることもあった(各年度の石油製品の調達量は,概ね契約件数2000件前
後,契約数量140万KL前後,契約金額は430億円前後である。)。
(4)入札予定価格の算出方法
ア入札予定価格の算定
入札予定価格は,防衛庁長官が定めた「調達物品等の予定価格の算定基準に関す
る訓令」に従い,取引の実例価格として一般に公表されている価格その他の売買の
基準となる価格を基準として計算価格を計算するという市場価格方式によって計算
され,その具体的な算出方法については,調達実施本部長が定めた「予定価格算定
事務に関する達」及び原計2課が定めた「算定要領」に従い,①当該石油製品の裸
価格である基準価格と,②調達する石油製品が基準価格を決定する際に考慮した石
油製品の品質よりも高い場合のグレード差や税金等から構成される固定経費を算出
した上で,基準価格に固定経費を加算するものとされていた。
イ基準価格の算定方法について
(ア)一般燃料の基準価格については,本件当時の市況値を示す資料であった財
団法人P25の発刊する「P26」,財団法人P27の発刊する「P28」,
P29新聞,P30新聞及び財団法人P27の発刊する「P31」の5市況の
中の最低価格が採用されていた(なお,平成10年度第3期は,P31が廃止
されたため4市況となった。以下,平成10年度第3期については,5市況を
4市況と読み替えるものとする。)。
(イ)他方,航空タービン燃料の基準価格については,上記(1)ウのとおり,
同製品が一般の市場には流通していない製品であったため,市況値が存在しな
かったものの,航空タービン燃料が灯油類似の石油燃料であることから,灯油
の5市況(ないし4市況)の最低価格を採用し,さらに,①航空タービン燃料
については輸送費を別途加算することになっていたため,灯油の市況値に含ま
れている京浜地区の輸送費1500円と,②製造,保管等に手間暇がかかる反
面,大量に発注していることを考慮した結果算出された600円(乙5の1・
56頁)の合計2100円を灯油の市況最低値から控除した金額を基準価格と
していた。
ウ固定経費の算定について
固定経費は,①調達する石油製品と基準価格を決定する際に参考にした石油
製品の品質が違う場合の差額としての「グレード差」,②石油燃料を納入する
際の輸送費に相当する「地域差」,③ドラム納入にかかる梱包費に相当する「荷
姿経費」,④揮発油税等の「税金」及び⑤航空自衛隊春日基地に航空タービン
燃料を納入する際に業者が使用する民間タンクの使用料から構成されていた
(本件期間における固定経費については別表3参照)。
なお,後述のとおり,本件の入札手続においては,固定経費の金額,計算方
法が本件入札参加業者に対して開示されていた。
(5)P16を除く本件入札参加業者による受注調整行為の存在
P16を除く本件入札参加業者は,本件期間中,各期の入札が行われる前に,各
案件について受注予定会社を決定するとともに,受注予定会社以外の者は,当該受
注予定会社が予定どおりの案件を受注することができるように協力する旨の合意を
していた(以下「本件受注調整行為」といい,本件受注調整行為に参加していた被
告P1,P18,P19,旧P21,旧被告P11,被告P2,被告P3,P13,
被告P5,被告P6,P23及びP24を併せて「本件受注調整会社」という。)。
(6)本件期間における売買契約締結に至る経緯
ア入札開始前段階について
上述のとおり,本件期間中,調達実施本部は,発注案件ごとに本件入札参加業者
の中から業者を指名し,指名競争入札の方法によって本件石油製品を調達するとい
う方法を原則としていた。
そして,各期の入札実施前には,調達要求番号,品名,納期,納入先部隊,納入
場所,数量,納入条件に加え,各案件の指名業者を一覧表の形にした資料を本件入
札参加業者に配布の上,契約2課の担当者が入札説明会を実施し,入札日時や場所
を連絡していた。また,本件期間中,上記資料の配布等を含めた調達実施本部から
の連絡を本件入札参加業者に伝達するために,被告P1,P18,被告P2,被告
P3,旧P21,P19及び被告P6が毎月交代で調達実施本部から本件入札参加
業者への連絡を取りまとめて行うことになっていた(以下,これらの会社を「連絡
会社」という。)。
イ指名競争入札の実施
本件期間においては,入札説明会の翌週に入札が行われることが多かったが,全
ての案件について,3回の入札(以下,この3回の入札をまとめて「当初入札」と
いう。)を経ても,3回目の入札までには,当該案件の指名業者が受注予定会社1
社を残して辞退してしまい,残った1社も入札予定価格を上回る価格での受注を希
望したため,結局当初入札は全件不調になってしまっていた。
ウ随意契約に向けた交渉の実施
そこで,契約2課の担当官は,予決令99条の2に基づく随意契約を締結するた
め,当初入札で残った1社との間で価格交渉(以下「商議」といい,当初入札で残
った1社を「商議権者」という。)に入った。なお,本件入札参加業者は,少なく
とも1つ以上の案件で商議権者となっていたことから,結局,契約2課の担当官は
全ての本件入札参加業者との間で商議を行った。
商議は,案件ごとに行われるのではなく,油種ごとに行われ,また,専ら各油種
の基準価格について交渉が行われた。そして,商議権者は,調達実施本部に対し,
受注を希望する価格を記載した見積書を提出することになっていた(以下,この見
積書を「商議札」という。)。
しかし,上記のとおり,予決令99条の2は,随意契約において入札予定価格の
変更を禁止していたところ,商議権者は,2回にわたる商議においても,ほとんど
の案件について入札予定価格を上回る価格を記載した商議札を提出したため,結局,
契約2課の担当官は,ほとんどの案件について,商議権者と随意契約を締結するこ
ともできないという事態に陥っていた(以下,1回目に提出する商議札を「商1札」,
2回目に提出する商議札を「商2札」のようにいう。)。
エ調達実施本部による価格の提示
調達実施本部長が定めていた「契約事務に関する達」には,随意契約を締結する
ための商議も不調になった場合の規定として,契約2課課長が商議の不調の原因が
原計2課の当初入札予定価格にあると認めるときには,原計2課課長に対し,予定
価格の再検討を求めることができ,原計2課課長は,不調の原因が当初入札予定価
格にあると認めたときには,入札予定価格の再算定を行い,契約2課は,再算定さ
れた価格を予定価格として,再度指名競争入札を開催することができる旨の規定が
存在した(以下,再度行われる指名競争入札を「新たな入札」という。)。
そして,原計2課の担当官は,予定価格の再算定にあたり最大限許容できる基準
価格(以下「計算価格等」という。)を算定した上,契約2課の担当者の求めに応
じて,これを教示していた。
契約2課の担当官(主に契約2課課長)は,本件入札参加業者が商2札を提出し
た時点で,各油種の基準価格について,入札予定価格の基準価格を上回り,かつ,
原計2課の算出した計算価格等を下回る範囲で,これまでの商議を踏まえて本件入
札参加業者が受け入れると予想される最低基準の価格(以下「最低商議価格」とい
う。)を決定し,これを原計2課及び契約原価計算第2担当副本部長に対し伝えて
内諾を得た上で,本件入札参加業者の担当者を一斉に集めて最低商議価格を本件入
札参加業者に対し提示した。本件入札参加業者は,最低商議価格のことを「指値」
と呼び,調達実施本部の側にも最低商議価格のことを「指値」と呼ぶ者がいた。
このようにして,契約2課の担当官による最低商議価格の提示が行われると,本
件入札参加業者は,最低商議価格に事前に公表されていた固定経費を加算した金額
で受注を希望する旨の商3札と商3札の価格を下回る価格での契約を辞退する旨の
商4札を提出したが,商3札に記載されている価格は入札予定価格を上回るもので
あったため,結局,商議についてもほとんどの案件で不調ということになった。
オ新たな入札の実施
ほとんどの案件について,商議が不調に終わると,調達実施本部は「契約事務に
関する達」に従い,新たな入札を行うこととし,原計2課は,固定経費については
従前どおりとする一方で,基準価格を入札予定価格における基準価格から最低商議
価格に変更した上で入札予定価格を算出した。
そして,新たな入札においては,商議権者が新たな入札における入札予定価格で
入札し,それ以外の本件入札参加業者が入札予定価格を上回る価格で入札したこと
から,結局,当該案件の当初入札で残った1社(商議権者)が当該案件を受注して
いた。
カなお,昭和50年代後半から平成7年度第2期までは,全調達案件のうち調
達に緊急を要する全体の2割程度の案件について,先行して第1グループとして入
札手続に付した上で,上記アないしオと同様の経緯で調達し,残りの8割程度の第
2グループについては,第1グループの落札価格と同額の基準価格に基づき予定価
格を設定して入札を実施するという方法を採用していた。
(7)本件売買契約の内訳について
本件期間において,原告と被告らの本件売買契約は,上記のような経緯で締結さ
れたところ,契約が成立した時期に応じて,①指名競争入札による契約(以下「本
件各競争契約」という。)②指名競争入札を経た随意契約(以下「本件各入札後随
意契約」という。)③指名競争入札を経ない随意契約(以下「本件随意契約」とい
う。)の3つに区分することができる。
ア①本件各競争契約について
別表2の「NO欄」の「2637」ないし「2657」,「3373」ないし「3
412」,「6322」及び「6425」以外の案件については,いずれも調達実
施本部が指名競争入札に付した上,同表「応札者」欄記載の本件入札参加業者のう
ち,「落札区分」欄に○印を付した本件入札参加業者と,同表「契約日」欄記載の
各日に,同表「落札価格」欄記載の金額で,指名競争入札による売買契約を締結し
たものである。そして,本件各競争契約のうちほとんどが新たな入札の段階で成立
したものである。
イ②本件各入札後随意契約について
別表2の「NO欄」の「2637」ないし「2657」,「3373」ないし「3
412」の案件については,いずれも調達実施本部が指名競争入札に付した上,同
表「応札者」欄記載の本件入札参加業者のうち,「落札区分」欄に○印を付した本
件入札参加業者と,同表「契約日」欄記載の各日に,同表「落札価格」欄記載の金
額で,随意契約をしたものである。
ウ③本件随意契約について
別表2の「NO欄」の「6322」及び「6425」については,調達要領指定
書において,納入条件として「500mフローティングホースを使用」と指定され
ており,納入形態に合致した納入が可能なのは,被告P2のみであった。
そこで,調達実施本部は,会計法29条の3第4項の規定に基づき,これらの案
件については,当初から入札を行わず,被告P2との間で,同表「契約日」欄記載
の各日に,同表「落札価格」欄記載の金額で,随意契約による売買契約を締結した。
(8)本件売買契約の履行状況
被告らは,原告に対し,本件売買契約により発注を受けた本件石油製品をそれぞ
れ納入し,その後,原告は被告らに対し,各契約の内容に従ってその代金を支払っ
た(支払年月日,支払金額については別表4参照)。
(9)公正取引委員会による排除勧告等
ア排除勧告について
公正取引委員会は,平成11年11月17日,本件受注調整会社に対し,遅くと
も平成7年度4月以降,本件石油製品について,本件受注調整行為を行ったとして,
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)48
条2項(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下,この項において同じ。)
に基づき排除勧告を行い,同年12月20日,別表1「公正取引委員会からの排除
勧告・課徴金対象企業」欄に示す「排除勧告応諾」と記載のある排除勧告を応諾し
た下記8社(以下「応諾8社」という。)に対し,同条4項に基づき排除勧告と同
趣旨の審決をした。

・訴外P32株式会社(P22株式会社が同社に吸収合併されたものである。)
・被告P3
・被告P4
・旧被告P11
・被告P5
・被告P6
・P24
・P23
また,同表同欄に示す「排除勧告不応諾」と記載のある排除勧告不応諾の下記3
社については,同日,独禁法49条1項に基づき審判開始決定が行われ,平成19
年2月14日に違反行為の排除等を命ずる審決を受けた。

・被告P1
・旧被告P10
・被告P2
上記3社は,上記審決を不服として,同審決の取消を求めて東京高等裁判所に審
決取消訴訟を提起したが,平成21年4月24日,上記3社の請求はいずれも棄却
された(乙イ32)。このうち,旧被告P10については,上記棄却判決が確定し
たが,被告P1及び被告P2については,最高裁判所に上告した。
イ課徴金納付命令について
公正取引委員会は,平成12年11月27日,応諾8社に対し,独禁法48条の
2第1項に基づき,平成13年1月29日を納期限とする合計20億0912万円
の課徴金納付命令を発し,別表1「公正取引委員会からの排除勧告・課徴金対象企
業」欄に示す「課徴金確定」と記載のある下記2社については,同納付命令に基づ
き課徴金を納付した(甲5)。

・P24
・P23
また,同表同欄に「課徴金不服→確定」と記載のある下記6社については,納付
命令を不服としたため,公正取引委員会が,平成13年2月5日,審判開始決定を
行い,平成17年2月22日,下記6社に対して,当初の納付命令とほぼ同額の納
付を命じる審決が出され,被告P4を除く5社については,同審決が確定した(甲
6)。

・訴外P32株式会社
・被告P3
・被告P4
・旧被告P11
・被告P5
・被告P6
そして,被告P4については,同審決を不服として,同審決の取消を求めて東京
高等裁判所に審決取消訴訟を提起したが,平成18年2月24日,請求が棄却され,
棄却判決が確定した。
なお,同表同欄に「課徴金不服」とある下記3社については,本件口頭弁論終結
時点で,公正取引委員会において,課徴金納付命令についての審判が行われている。

・被告P1
・旧被告P10
・被告P2
ウ刑事事件について
公正取引委員会は,平成11年10月13日,独禁法73条1項に基づき,被告
P1,旧被告P10,被告P2,被告P3,被告P4,旧被告P11,被告P5,
被告P6,旧P21(平成15年4月1日に訴外P22株式会社に組織変更),P
24及びP23を検事総長に刑事告発した。これを受け,東京高等検察庁は,上記
会社らを独禁法3条違反の罪で東京高等裁判所に対し公訴提起し,同裁判所は,平
成16年3月24日,合併により解散したため平成15年11月28日に公訴棄却
になった訴外P22株式会社(旧P21)を除く上記会社に対し,それぞれ罰金刑
に処する旨の判決を言い渡した(甲7,乙イ1)。
これに対し,被告P1,旧被告P10,被告P2は上告したものの,いずれの上
告も平成17年11月21日に棄却され,その他の会社については上告することな
く確定した(なお,被告P1については,最高裁判所の棄却決定に対し,異議申立
を行ったが,平成17年12月19日に棄却され確定している。)(甲28,乙イ
2)。
(10)受注調整行為発覚後の経過
本件受注調整会社の受注調整行為の発覚を受け,原告は,P16を除く指名業者
を平成11年第4期から平成12年第2期まで指名停止とする措置をとった。も
っとも,当該期間中においても,一部基地において調達が困難であることから,当
該基地に関する石油製品については指名停止が解除されるなどの措置が取られてい
た。
また,本件石油製品のうち,航空タービン燃料を除く油種については,それまで
の指名競争入札から一般入札制度へと制度を変更し,被告ら石油元売会社以外の会
社についても,入札に参加することが可能になった。
航空タービン燃料については指名競争入札制度が維持され,指名停止期間後は,
被告P6及び被告P4を除く被告らが入札に参加していたが,平成18年度第2期
以降,航空タービン燃料についても他の油種と同様,一般競争入札制度が導入され
た(弁論の全趣旨)。
(11)本件訴訟に至る経緯
ア原告は,平成17年1月11日,被告らの担当者に対する説明会を開催し,
原告が支払った金額から,原告が適正として算出した本件石油製品相当額の金額を
控除した金額に,支払日の翌日からの利息を付して被告らが返還するという取り扱
いをしたい旨を説明した上で,同月1月14日付で,上記差額について,国の債権
の管理等に関する法律13条1項に基づき,納入の告知をし,原告が支払った代金
額の返還請求権を自働債権,各支払に対応する本件石油製品の価格相当額の返還請
求権を受働債権として,対当額により相殺する旨の意思表示をした(甲9(書証に
ついては枝番含む。以下同じ。))。
被告P3,同P4,同P5,同P6,同P8,旧被告P12及び同P11は,上
記納入告知書を同日受領し,被告P7には同月15日,被告P1,同P2及び旧被
告P10には同月17日にそれぞれ上記納入告知書が到達した(甲14,15)。
イその後,原告が改めて本件石油製品の価格を算定したところ,上記納入の告
知をした金額が減額となったため,原告は被告らに対し,同年10月27日,歳入
徴収官事務規定13条1項に基づき,変更後の額で納付書を送付した(甲10)。
ウ原告が本件売買契約に基づき各被告らに対して支払った売買代金は,各被告
らに対応する別紙債権目録の支払金額欄記載のとおりとなる。また,原告は,本件
売買契約に基づいて被告らに支払った売買代金額から原告が算出した本件石油製品
の客観的価格の合計金額を控除した金額を被告らに対して請求している(各被告ら
に対応する別紙債権目録の客観的価格欄及び返還請求額欄記載の金額参照)。
他方,被告らは,本件訴訟において,原告に対する不当利得返還請求権ないし国
家賠償請求権を自働債権とし,原告の被告らに対する不当利得返還請求権を受働債
権とする相殺の意思表示を行った。
2争点
①本件受注調整会社の受注調整行為は独禁法3条1項の不当な取引制限に該当
するか(争点1)
②原告と本件受注調整会社との間の本件売買契約は無効であるか(争点2)
③原告とP16との間の本件売買契約は無効であるか(争点3)
④被告P7及び被告P8は,本件売買契約の当事者であるか(争点4)
⑤被告P9は旧P21の不当利得返還債務を承継しているか(争点5)
⑥原告の不当利得返還請求権が時効により消滅しているか(争点6)
⑦原告の売買代金の支払は不法原因給付にあたるか(争点7)
⑧原告の売買代金の支払は非債弁済にあたるか(争点8)
⑨原告が本件売買契約の無効を主張することないし不当利得返還請求権を行使
することは信義則に反しないか(争点9)
⑩被告らは本件石油製品が返還されるまで,同時履行の抗弁権により原告に対
し代金相当額の返還を拒むことができるか(争点10)
⑪被告らの原告に対する不当利得返還請求権としての本件石油製品返還請求権
に代わる価格賠償請求権の金額(本件石油製品の価格の算定方法)(争点11)
⑫被告らの原告に対する本件石油製品の引渡が不法原因給付にあたるか(争点
12)
⑬国家賠償請求権との相殺の可否(争点13)
⑭信義則ないし過失相殺の類推適用によって原告の請求が減額されるか(争点
14)
⑮原告の不当利得返還請求権の法定利息は年6分か(争点15)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件受注調整会社の本件受注調整行為は独禁法の不当な取引制限
に該当するか)
(原告)
本件受注調整会社は,本件売買契約に先立ち,本件石油製品について各社の
安定した受注量及び利益を確保するため,各社の本件石油製品の油種ごとの受
注量の割合が,前年度の各社の本件石油製品の油種ごとの受注実績の割合に見
合うものになるように案件ごとに受注すべき者を決定し,受注予定者以外の者
は,受注予定者が落札できるよう協力する旨の本件受注調整行為を行っていた
ところ,このような本件受注調整会社の行為は,独禁法2条6項の定める不当
な取引制限に該当するものである。
(被告ら)
被告らは,一物一価で石油製品を調達し,かつ,調達不能や遅滞といった事
態を起こさないようにするという意向を有していた調達実施本部の担当官の指
示,要請を受けて受注調整行為に及んでいたのであり,実際にも本件各入札及
びその後に行われる商議の手続は完全に形骸化していた。
このように,本件では,発注者である調達実施本部自身により競争が排除さ
れていたのだから,被告らの行為は独禁法2条6項の定める不当な取引制限に
は該当しない。
(2)争点2(原告と本件受注調整会社との間の本件売買契約が無効であるか)
(原告)
ア本件各競争契約の無効原因について
(ア)本件各競争契約が公序良俗に反すること
上記のとおり,本件各競争入札に先立ち本件受注調整会社が行っていた本件
受注調整行為は,独禁法2条6項及び3条1項の不当な取引制限に該当する。
そして,不当な取引制限は本件各競争契約当時から独禁法により刑事罰の対
象とされていたこと,談合が反社会的な行為であるとの認識は本件各競争契約
締結当時から著しく高まっていたこと,本件各競争契約は,本件受注調整行為
の目的を達成するために必要不可欠なものであり,本件受注調整行為と本件各
競争契約は密接不可分の関係にあることにかんがみると,本件各競争契約は,
独禁法上違法な本件受注調整行為に起因するという事実だけで公序良俗に反し
無効となる。
(イ)会計法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる
こと
(a)会計法及び予決令の規定やその趣旨に反した契約も,私法上当然に無効
となるわけではないが,入札制度の趣旨に反することや随意契約等によること
ができる場合として会計法及び予決令の規定の掲げる事由のいずれにも当たら
ないことが何人の目にも明らかである場合,契約の相手方において入札制度の
趣旨に反することや随意契約等の方法による当該契約の締結が許されないこと
を知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ会
計法及び予決令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場
合には,私法上無効になるというべきである(最高裁判所昭和62年5月19
日第三小法廷判決・民集41巻4号687頁参照)。
(b)そして,談合によってあらかじめ決められた受注予定者が実体のない競
争入札により国との間で契約を締結することを会計法令はおよそ許容していな
い。
このことは,何人の目にも明らかであり,少なくとも,契約の相手方である
受注予定者において知り又は知ることができたというべきであるから,当該契
約の効力を無効としなければ,入札制度や随意契約の制限について定めた会計
法及び予決令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められること
は当然である。
したがって,本件受注調整行為が行われたことにより締結された本件各競争
契約は会計法令の規定の趣旨を没却するものとして無効である。
イ本件各入札後随意契約の無効原因について
(ア)本件各入札後随意契約が公序良俗に反すること
本件受注調整会社は,前記ア(ア)のとおり本件各入札後随意契約に先立ち,
本件受注調整行為を行っており,このような本件受注調整会社の行為は,独禁
法3条1項の定める不当な取引制限に該当するものである。
そして,不当な取引制限が独禁法上刑事罰の対象となること,談合が反社会
的な行為であるとの認識は本件当時から著しく高まっていたことは前述のとお
りであるところ,本件各入札後随意契約も,本件各競争契約と同様,本件受注
調整行為の目的を達成するために必要不可欠な行為であり,本件受注調整行為
と本件各入札後随意契約は密接不可分の関係にあることから,本件各入札後随
意契約は公序良俗に反し無効となる。
(イ)会計法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる
こと
上述のとおり,契約の効力を認めることが会計法令の規定の趣旨を没却する
結果となる特段の事情が認められる場合には,当該契約の効力を無効と解すべ
きところ,実体のない競争入札において入札参加者が予定した当初予定価格を
上回る価格で入札し,あえて当初入札を不調とした上,当該受注予定者が国と
の間で随意契約を締結してしまうことを会計法が許容していないことは,受注
予定者において知り又は知ることができたというべきであるから,このような
場合に当該契約の効力を無効としなければ,入札制度や随意契約の制限につい
て定めた会計法及び予決令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認
められることは当然である。
したがって,本件各入札後随意契約も会計法令の規定の趣旨を没却するもの
として無効である。
ウ本件各随意契約の無効原因について
本件随意契約における売買代金の価格は,同年度同期同油種案件についての
最終の商議価格を参考に設定したものであるところ,参考となった商議におけ
る価格も被告らの談合の結果形成された不当に高い価格であった。
そして,被告P2は,自ら本件受注調整行為に関与していたのだから,この
ような不当に高い価格が形成された経緯を十分に認識していたにもかかわらず,
これを利用し,本件各随意契約の予定価格の前提となった同年度同期同油種案
件の価格が適正な競争を経て形成された価格であると原告に誤信させて締結さ
せたものであり,本件各随意契約は,同一期に並行して行われた各入札の際の
本件受注調整行為と密接不可分な関係にあるというべきであるから,このよう
な随意契約も公序良俗に反し無効というべきである。
(被告ら)
ア本件各競争契約の無効原因について
(ア)本件各競争契約が公序良俗に反するとの主張について
(a)本件において,本件受注調整会社が行った受注調整行為が独禁法2条6
項の不当な取引制限には当たるという点は否認し,本件各競争契約が公序良俗
に反することは争う。
(b)仮に,本件受注調整会社が行った本件受注調整行為が独禁法2条6項の
不当な取引制限にあたるとしても,本件各競争契約が締結された平成7年から
平成10年にかけて,談合行為に起因するという事実だけで,談合行為に起因
する契約が無効となるという公序は存在していないから,その事実のみをもっ
て,本件各競争契約が公序良俗に反し無効となる旨の原告の主張は失当である。
また,本件受注調整会社は,上記のとおり,調達実施本部の意向に沿い,国
防上の観点から全件不調を出さないように石油製品を納入するために,あらか
じめ各基地に石油製品を納入する業者を決定していたのであり,原告の主張す
るような不当な目的を有していたわけではないこと,入札の方法についても調
達実施本部が指示した方法にしたがっていたに過ぎず,本件受注調整会社の行
為態様が悪質なものではなかったこと,本件受注調整会社は本件各契約期間中,
本件石油製品をその客観的な価格よりも低い価格で原告に売却しており,その
価格は争点11で主張するとおり,むしろ原告に有利な価格であったことから
すれば,本件各競争契約は公序良俗には反しないというべきである。
(イ)会計法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる
という主張について
(a)本件受注調整会社は,本件石油製品の調達に係る入札の発注者である調
達実施本部の決めた手続・ルールに従い,その意向に沿って本件石油製品を納
入し,その代金を受領したに過ぎない。そして,本件受注調整会社は,調達実
施本部の決めた手続・ルールが会計法令に違反するかどうかを判断する権限も
能力も有していなかったのであるから,本件受注調整会社が会計法令に違反す
ることはあり得ず,発注者である調達実施本部が会計法令に違反したことによ
る結果について本件受注調整会社が責任を負う理由はない。
(b)会計法令には,これらに反する契約の効力に関する規定はなく,また,
会計法令は,国の内部の行為について規定し,国の内部機関を名宛人とするも
のであるから,会計法令違反があったとしても,かかる不利益を契約相手方に
負わせることについては慎重に検討すべきであり,原告の主張する特段の事情
の有無の検討に際しては,相手方の利益ひいては取引の安全に十分に配慮すべ
きである。
しかし,本件では,調達実施本部の積極的関与により各入札が形骸化してい
たのであり,本来であれば随意契約によるべきところを,形式的に競争入札に
付して締結されたに過ぎないのであって,その手続経緯は,当初から,契約価
格については調達実施本部が提示する指値とし,受注者については調達不能を
来さないように本件受注調整会社が事前に決定するという方式がとられ,実質
的には随意契約と同様の調達方法であったのだから,本件受注調整会社として
は,本件売買契約が無効とされることは全く想定外であった。
したがって,調達実施本部が自らの判断により会計法令に違反したことをも
って,本件各契約を無効とすることは,調達実施本部の意思に反するものであ
るのみならず,契約相手方である本件受注調整会社の利益を著しく害し,ひい
ては取引の安全を害することは明白であり,特に,本件各契約に係る本件石油
製品の納入及び代金の支払が完了している状況においてはなおさらである。
(c)独禁法違反の契約の効力については,民法90条によって公序良俗に反
するかどうかで判断するのが我が国の判例・通説の立場であり,原告が主張す
る会計法令違反による無効という特殊な法理を,独禁法違反の契約の効力の判
断に拡張適用することは,判例学説の積み重ねを無視するものであって相当で
はない。
仮に,このような特殊な無効原因の法理が独禁法違反の契約の効力の有無を
判断する際に適用される余地があるとしても,会計法令の趣旨は財源の効率的
使用,自由競争価格による支出の確保であるところ,本件では争点11で主張
するとおり,原告は本件受注調整会社から本件石油製品をその価格より大幅に
安い価格で取得することができていたのだから,本件では,会計法令の趣旨に
反することはない。
(3)争点3(原告とP16との間の本件売買契約は無効であるか)
(原告)
P16は,本件受注調整行為には直接参加していないものの,P16以外の指名
業者が受注調整行為を行い,受注すべき案件を割当てて,自由競争を回避している
ことを知りながら,これを妨害する動きをすることなく,自社で落札を希望しない
案件についてはほとんど2回目で辞退し,落札希望案件は辞退しないという方法に
より落札希望案件を他の被告らに伝えるなどしていた。
また,他の指名業者らも,P16のこのような態度を容認し,P16の入札動向
からP16が受注を希望していると判断した案件については,P16との価格競争
による落札価格の下落を避けるため,受注希望の対象から外していた。
このように,P16は自社以外の指名業者の本件受注調整行為を積極的に利用し
て,本件売買契約を締結し,競争が排除され不当に高額に形成された代金により,
本件受注調整行為に参加していた本件受注調整会社と同じように不当な利益を得て
いたのであるから,P16の行為は,黙示のうちに談合に参加していた者と評価す
ることができ,本件売買契約のうちP16を当事者とする契約も,本件受注調整行
為に密接不可分なものといえ,公序良俗に反するなどして無効である。
(被告P8)
ア司法手続による刑事責任はもとより,公正取引委員会による独禁法違反
の責任も問われていないP16を本件受注調整行為に参加していたものと同視
することはできないし,本件受注調整行為に参加していたものと評価できるな
どという原告の主張には何らの法的根拠もない。
また,自社で落札を希望しない案件について入札を辞退するというのは,入
札者として当たり前の行為であり,他社が入札しなかったのはP16の落札希
望案件を予測していたに過ぎず,P16は他社との叩き合いに備えて入札価格
の下限について社内決済を得るなどしていたのだから,P16の入札方法が非
難されるべき理由はない。
そして,仮に他の被告らの行為が不適切なものであったとしても,P16が
他社の本件受注調整行為を阻止すべき法的義務はなく,発注者である原告自身
がこれを是正すべきところ,これを長年にわたって認識しながら,容認しかつ
積極的にこれに関与していたものであるから,原告の主張は失当である。
イなお,上記被告P8の主張に対する反論に当たる上記原告の主張は,こ
れまで行う機会が十分にあったにもかかわらず,実質的にされたことはなく,
最終準備書面によりされたものであるから,このような訴訟の経過にかんがみ
れば,時機に後れた攻撃防御方法にあたり,却下されるべきである。
(4)争点4(被告P7及び被告P8が本件売買契約の当事者であるか)
(原告)
本件売買契約に際し,被告P7はP24に,P15はP23にそれぞれ代理
権を授与し,P24及びP23は,それぞれ被告P7及びP15のために,本
件入札手続に参加し,原告との間で本件売買契約を締結したものであるから,
P24及びP23が原告との間で締結した売買契約の効果は,その瑕疵も含め
て,被告P7及びP15に帰属する(民法101条1項)。
したがって,本件売買契約が無効である以上,売買契約の効果が帰属する被
告P7及びP15(現被告P8)は,原告に対し,売買代金を返還する義務を
負う。
(被告P7及び被告P8)
否認ないし争う。
本件売買契約は,P24及びP23が,それぞれ独立の当事者として原告と
の間で締結したものであり,その効果が被告P7及び被告P8に帰属すること
はない。
また,仮にP24及びP23が被告P7及びP15の代理人であったとして
も,P24及びP23は自己又は第三者の利益を図ることを意図していたので
あり,このようなP24及びP23の行為は代理権の濫用にあたる。
そして,P24及びP23が代理権を濫用していることについて,原告は悪
意であったか,少なくとも過失があったことから,いずれにしてもP24及び
P23の行為の効果が被告P7及び被告P8に帰属することはない。
(5)争点5(被告P9は旧P21の不当利得返還債務を承継しているか)
(原告)
本件では,原告が旧P21に対して,本件売買契約が無効であることに起因
する不当利得返還請求権を有していたところ,石油事業を中心とする部門の本
件新設分割に先立ち,臨時株主総会で承認された分割計画書(以下「本件分割
計画書」という。)中に,本件営業に係る一切の資産,負債及び契約上の地位
その他の権利義務を承継する旨が定められていることからすれば,旧被告P1
2は,平成17年法律第87号による改正前の商法374条1項及び同条の1
0第1項に基づき,P22会社(旧P21)の有していた本件石油製品に係る
本件売買契約の契約上の地位を承継した。
したがって,旧被告P12を吸収合併した被告P9は,P22会社(旧P2
1)の不当利得返還請求債務を承継している。
(被告P9)
ア売買契約上の地位を承継していないこと
本件で原告が主張する不当利得返還請求権は,本件売買契約が無効であるこ
とにより,民法703条及び704条という法律の規定によって発生する債権
であり,売買契約等の法律行為から生じたもの又はこれに準ずるもののいずれ
にも当たらないから,本件売買契約上の地位の承継に伴って承継されるもので
はない。
また,本件新設分割の効力が発生した時点では,既に本件売買契約の履行は
終了していたから,その契約上の地位を移転することはできないし,仮に原告
の主張するように本件売買契約が無効であるとすれば,無効な売買契約の地位
を承継するということもできないのだから,原告の主張は失当である。
イ原告が主張する不当利得返還債務を承継していないこと
(ア)本件分割計画書には,原告が主張する不当利得返還債務を旧P21か
ら旧被告P12に承継させる旨の規定はない。
また,上記のとおり,原告が主張する不当利得返還債務は,旧P21の営業
活動とは無関係に生じたものであることから,旧被告P12が承継する「本件
営業に係る負債」ではない。
(イ)さらに,本件分割計画書には,旧被告P12が承継する負債が「平成
14年9月30日現在の貸借対照表その他同日現在の計算を基礎とし,これに
分割期日前日までの増減を加減した上で確定する」とされているのに対し,旧
P21が承継する負債は,旧P21の計算において負債または義務として認識
されなかったものが列挙されていることにかんがみれば,本件分割計画書は,
会社の計算において負債または義務として認識されるものは旧被告P12に承
継する一方で,会社の計算において負債または義務として認識されないものに
ついては,本件営業以外にかかる義務として旧P21に承継させるという趣旨
で定められたものと解される。
そして,本件分割計画書が作成された時点及び分割期日の時点で,原告が主
張する不当利得返還債務は,旧P21の計算において同社の負債または義務と
して認識されていなかったのだから,原告が主張する不当利得返還債務は,本
件営業以外に係る義務として,P22会社(旧P21)に承継され,旧被告P
12には承継されない。
(ウ)旧P21の負債または債務が本件新設分割によって旧被告P12に承
継されるためには,「本件営業に係る負債」に当たることに加えて,上記のと
おり,平成14年9月30日現在の貸借対照表その他同日現在の計算を基礎と
し,これに分割期日前日までの増減を加減した上で確定される必要があるとこ
ろ,このような作業を経て分割対象として確定したという事実は存在しないこ
とから,仮に,原告主張の不当利得返還債務が「本件営業に係る負債」に該当
するとしても,同債務は旧被告P12には承継されない。
(6)争点6(原告の不当利得返還請求権が時効により消滅しているか)
(被告ら)
ア原告の不当利得返還請求権の表見的法律関係は,商行為たる本件売買契
約であるから,仮に本件売買契約が無効であるとした場合には,その巻き戻し
である不当利得返還請求権についても,商行為に属する法律関係から生じたも
の又はこれに準ずるものとして,商法上の消滅時効の規定が適用されるべきで
ある。
そして,本件では,本件売買契約が締結された時点から既に5年が経過して
いることから,原告の不当利得返還請求は時効によって消滅している。
イまた,仮に,商法上の短期消滅時効の適用がないと解した場合であって
も,被告らが準備書面で時効援用の意思表示をした時点で,契約締結から10
年間経過している本件売買契約に関する不当利得返還請求権は,民法上の時効
によって既に消滅している。
(原告)
ア商法上の消滅時効の規定が適用されるべきであるという点は争う。
本件で原告が被告らに対して請求している債権は,法律によって生じる不当
利得返還請求権であり,商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準
ずるものに当たらない。
イ民法上の消滅時効が成立しているという点も争う。
原告は,平成17年1月14日付けで被告らに対し,国の債権の管理等に関
する法律13条1項の規定による納入告知書を交付ないし送達し,同日ないし
同月17日までの間に被告らに到達している。
そして,会計法32条では,法令の規定により,国がなす納入の告知は,民
法第153条の規定にかかわらず,時効中断の効力を有すると規定されている
ことから,原告の被告らに対する不当利得返還請求権の消滅時効は,被告らの
下に納入告知書が到達した時点で中断している。
したがって,被告らの民法上の消滅時効は成立していない。
(7)争点7(原告の売買代金の支払が不法原因給付にあたるか)
(被告ら)
本件では,歴代の調達実施本部の契約担当官が,本件受注調整行為の存在を
知悉していただけでなく,むしろ本件受注調整行為を積極的に利用ないし助長
していたのだから,本件受注調整行為における調達実施本部の契約担当官の寄
与度は極めて大きく,原告が本件売買契約に基づき,被告らに支払った売買代
金は不法原因給付にあたる。したがって,原告が被告らに支払った売買代金を
不当利得として請求することは許されない。
(原告)
否認ないし争う。
ア不法原因給付は,その給付を保護すべき利益がない場合に,返還請求を
認めないという趣旨から設けられた規定であるところ,原告の財政基盤は国民
の税金にあり,国民のために利用されるべきものであることから,本件におけ
る不当利得返還請求権の保護利益は国民全体の利益であるといえる。
このように,本件における不当利得返還請求権の保護利益が国民全体の利益
である以上,原告の給付を保護すべき利益がないとはいえないから,本件にお
いては不法原因給付の規定は適用されず,被告らの主張は失当である。
イまた,不法原因給付にあたるというためには,不法の構成要件事実の認
識及び不法を弁識する能力が必要であると解されているところ,国の場合につ
いては,支出権限を有する各省庁の長を基準として不法の構成要件事実の認識
及び不法を弁識する能力について判断すべきであるが,各省庁の長は,契約行
為の結果生じた国の債務についての支出の意思決定,当該債務履行のための小
切手振出し,又は国庫金振替書発行について支出官を設置してこれを行わせる
ことができるとされており(会計法24条1項),調達実施本部においては,
会計課長がその官職に指定されていたことから,本件においても,不法の構成
要件事実の認識及び不法を弁識する能力の有無については,会計課長を基準と
して決すべきである。
これに対し,被告らは,契約担当官の認識をもって原告の認識であると主張
するが,会計法は,同法13条1項において,各省各庁の長は,支出負担行為
担当官に支出負担行為に関する事務を委任することができると定める一方で,
上記のとおり,同法24条1項で支出官に支出行為を委任することができると
定めており,このことからすると,同法は,国の支出負担行為については,支
出負担行為担当官が自己の固有事務として行うことを認める一方で,支出行為
については支出官が自己の固有権限として行い得ることを定めたものであると
いえる。
したがって,支出負担行為担当官は支出については何らの決定をすることも
でないのであって,支出についての国の認識は,支出官の認識をもって判断す
るほかない。
そして,本件において,会計課長は,被告らの談合行為の存在を認識してい
なかったし,仮に,支出負担行為担当官である契約担当官の認識を基準として,
原告の認識とすることができるとしても,上記のとおり,本件では契約担当官
が被告らの談合を積極的に利用・助長していたという事実はないのだから,い
ずれにせよ,原告の被告らに対する売買代金の支払が不法原因給付にあたると
いう被告らの主張に理由はない。
ウさらに,原告の被告らに対する売買代金の支払が不法原因給付にあたる
としても,本件では,被告らが調達実施本部発注の石油製品の入札に際し,昭
和30年代から受注調整会議を開き談合を繰り返してきたこと,オイルショッ
クが終了したのを契機に,そのような談合の手法を今回用いられたのとほぼ同
様の手法に変更して競争を回避し,予定価格をつり上げていたこと,これら長
年の談合行為により,被告らは莫大な利益を得ていた一方,契約担当官の行為
は,被告らの本件談合によって長年にわたって当初入札が前件不調となり,商
議も難航する中で,自衛隊が担う国防という重大任務に支障を生じさせないた
めの早期調達・安定調達の要請に応えるためのやむを得ない措置であったこと,
石油製品の調達原資が国民の税金であることから,少しでも安く調達しなけれ
ばならないという財政・会計法令上の要請に応えるという面もあったことから
すれば,原告の違法性は被告に比して極めて微弱であり,被告らが不法原因給
付を主張することはできない。
(8)争点8(原告の売買代金の支払が非債弁済にあたるか)
(被告ら)
調達実施本部の契約2課担当官,原計2課担当官及び契約原価計算副部長ら
は,本件売買契約に基づいて,被告らに売買代金を支払う際に,代金支払債務
が存在しないことを知っていた。
したがって,本件売買契約に基づき原告が被告らに各石油製品の代金を支払
った行為は非債弁済となり,原告は被告らに対し,その返還を求めることがで
きない。
(原告)
ア708条の趣旨は,公序良俗に反する行為は無効であるが,これに関与
した者は自らの不当不法な行為を言い立てて法の保護を受け得ないという高い
法の理念に基づくものであり,非債弁済よりも遙かに高位に位置するというべ
きであるから,不法原因給付が問題となりうる事例においては,非債弁済の規
定は適用されないと解すべきである。
イまた,争点7で主張したとおり,当時の調達実施本部においては,会計
課長が支出負担行為担当官に指定されているのだから,契約担当官の認識をも
って,原告の認識とする被告の主張は失当である。
ウ仮に,契約担当官が「債務の弁済として給付をした者」にあたり,契約
担当官の認識をもって,原告の認識とすることができると解しても,契約担当
官は業者間で何らかの調整行為が行われているのではないかという程度の認識
しか有しておらず,また,これを判断するための証拠もないような状態であっ
たのだから,被告らの行為が独占禁止法のどの条項に反するのかを判断するこ
とが困難であった。
したがって,契約担当官が談合に基づく入札として,契約が無効であると認
識することも困難であり,契約担当官が債務の不存在を知っていたとはいえず,
原告の被告らに対する代金の支払は,非債弁済に当たらない。
(9)争点9(原告の請求が信義則に反するか)
(被告ら)
被告らの談合行為については,現場の契約担当官のみならず,防衛庁の上層
部も認識していたにもかかわらず,本件石油製品を滞りなく調達することがで
きたこと,会計検査院に対する説明もしやすくなったことなど原告にとっても
有利な事情があったことから,被告らの談合を黙認し,さらには助長すること
によって,被告らの談合行為を利用していた。さらに,原告は被告らが納入し
た石油製品を既に使用している。
このような事情があるにもかかわらず,本件談合の発覚を理由として,本件
売買契約が無効である旨主張して,不当利得として売買代金の返還を求める原
告の行為は,信義則に反し許されない。
(原告)
いずれの事実も否認し,信義則に反するという点は争う。
ア本件のように,談合が行われていた契約の無効を主張することが信義則
に反するかどうかについては,原告との関係だけではなく,国民との関係で判
断すべきであるから,調達実施本部の契約担当官等に不適切な行為があったと
しても,そのことから直ちに原告の請求が信義則に違反すると解すべきではな
い。
イそして,本件では,上記のとおり,調達実施本部の行う石油製品の調達
手続において,被告らが長年にわたって談合を繰り返し,競争を回避すること
によって,予定価格をつり上げ,その結果,莫大な利益を得ていたのであり,
他方,調達実施本部の担当官は,国防上の観点から石油製品を安定的に確保す
るために,やむを得ず今回のような不適切な行為に及んでしまったものである
から,原告が不当利得返還請求権に基づいて,売買代金の返還を求める行為が
信義則に反するとは到底認められない。
(10)争点10(本件石油製品現物との引換給付が認められるか)
(被告ら)
本件売買契約が無効である場合には,不当利得返還請求権に基づき,被告ら
は,原告に対し,被告らが納品した本件石油製品と同種同等同量の現物の返還
を請求することができ,原告の請求権と被告らの本件石油製品返還請求権は同
時履行の関係に立つ。
そして,原告は,被告らに対し,本件石油製品を現物で返還していないこと
から,原告の請求が認められる場合には,本件石油製品との引換給付が認めら
れることになる。
(原告)
争う。
本件石油製品は既に全て費消されており,現物が存在しない。したがって,
原告が被告らに対し,不当利得返還義務を負っているとしても,その内容は,
本件石油製品の現物を返還する義務を負うものではなく,石油製品相当額を返
還する義務を負うものであるから,被告らの主張は失当である。
(11)争点11(本件石油製品の価格の算定方法)
ア当事者双方の主張の概要
(被告ら)
(ア)不当利得返還請求における原物返還に代わる価格の返還は,市場価格
(時価)をもって行われるべきであるところ,本件石油製品は,被告らを供給
者,原告を需要者とする市場で取引が行われたものであり,当該市場における
市場価格が原告の利得,すなわち,被告らの原告に対する不当利得返還請求権
の具体的な金額となる。
したがって,原告の利得として被告らが立証すべき「価格」とは,当該市場
において自由競争がなされていた場合に形成されたであろう取引価格,すなわ
ち,想定落札価格を指すと解すべきである。
しかし,本件当時と本件以後の本件石油製品の契約価格を単純に比較するだ
けでは,経済的要因等の変動がある場合には,本件石油製品の想定落札価格を
適切に算出できない。
そこで,そのような経済的要因等の変動部分を排除するために,各時点にお
ける市況値が当該時点までに生じた経済的要因を反映したものであることに着
目し,本件当時から現在まで継続して存在する市況資料に基づく市況値と自由
競争期間における実際の契約価格中の基準価格(裸の金額であり,契約価格(単
価)から固定経費を控除した金額。以下「基準価格」という。)の1KLあた
りの差額を加重平均によって算出した上,本件期間における契約価格に当該差
額を加算あるいは減算する方法によって,本件当時の想定落札価格を算定する
のが最も適切である(以下,この算定方式を「スプレッド方式」という。)。
(イ)また,①当時の市況平均値は,当時の石油製品の一般的な価値を示し
ているものであること,②一般的な市場に比べ,本件市場は防衛庁向けのため
に特殊な納入条件等が設けられていることから,本件市場で形成される石油製
品の価格は最低でも当時の市況平均値を下回るものではないことは明らかであ
り,その意味で,当時の市況平均値が本件市場における本件石油製品の価格で
あるという考え方もできる。したがって,被告らは,スプレッド方式に加え,
市況平均値を基準とする算出方法についても主張する(以下,この算定方式を
「市況平均方式」という。)。
(原告)
(ア)本件では,被告らが予備的主張として,原告に対し,談合行為を理由
に本件売買契約が無効であることを前提とする不当利得返還請求権を本訴請求
債権に対する相殺の自働債権として行使しているところ,本件の場合は,原告
が既に本件石油製品を費消してしまい,現物返還が不可能であるから価格返還
をすべき場合であり,その場合の返還価格とは,原告が本件石油製品を取得し
た時(引渡時)の時価(客観的価格)を意味する。したがって,談合行為によ
る契約の存在を前提として,仮に談合行為がなければ原告が当該契約で支払っ
たであろう代金額である想定落札価格を指すものではない。
そうすると,被告らは相殺の抗弁において,想定落札価格を立証しただけで
は足りず,①一義的に定まる価格(時価相当額)か,②当該一義的に定まる価
格が最低でもそれを下回ることがない最低値を主張立証する必要がある。
しかし,被告らの主張するスプレッド方式及び市況平均方式は,いずれも被
告らが相殺の抗弁において主張立証責任を負っている上記のような価格を立証
しうる算定方法ではない。
(イ)また,仮にスプレッド方式ないし市況平均方式を適用して本件石油製
品の価格を立証しうるとしても,本件事案においては,被告らは,いずれの方
式を用いても,本件石油製品の客観的価格を立証することができない。
したがって,被告らの主張するスプレッド方式及び市況平均方式によって,
本件石油製品の客観的価格は検証できない。
(ウ)本件石油製品の客観的価格は,当時の市況最低値を基準として算定す
べきである。そして,原告は,当時の各石油製品の市況最低値に別表3のとお
り定められた一定の固定費を合計した金額を控除した上で,本件請求を行って
いるものであるから,市況最低値を基準とした場合,被告らは原告が自認する
以上の金額の返還請求権を有しておらず,被告らの相殺の主張には理由がない。
イスプレッド方式に関する当事者の主張
(被告ら)
(ア)スプレッド方式を適用するための前提条件について
(a)スプレッド方式によって価格を算出する石油製品の種類
航空タービン燃料以外の石油製品(以下「一般燃料」という。)については,
平成12年度第3期以降において,調達方法が指名競争入札から一般競争入札
へと変更され,また,輸入品等でも納品が可能となるなど,競争の前提となる
入札資格及び製品の条件に大きな変更が加えられており,スプレッド方式を適
用する前提を欠いている。また,一般競争入札への変更等に伴い,被告らの大
半が自由競争期間においては一般燃料を納入しておらず,自由競争期間におけ
る基準価格と市況値の乖離値を求めることができない。
そこで,被告らは,以上の理由から,本件石油製品のうち航空タービン燃料
(JP-4)についてのみ,その価格を明らかにする(以下,スプレッド方式
における「航空タービン燃料」とは,JP-4を指すものとする。)。
(b)対象とする自由競争期間の設定
本件では,①被告らの大半は,平成11年10月から平成12年第2期まで
指名停止措置を受けていたため,この期間については,市況値と比較対照すべ
き被告らの基準価格が存在しないこと,②平成10年度第4期から指名停止措
置が行われるまで,被告らの一部が依然として調達実施本部担当者からの依頼
によって,落札業者のいない案件の納入を引き受けていたことから,平成10
年度第4期から平成11年10月までに行われた契約における航空タービン燃
料の価格は自由競争市場における価格ではなく,この期間中の市況値との比較
も参考にはできないこと,③平成18年度第2期以降は,航空タービン燃料の
調達方法が指名競争入札から一般競争入札へと変更され,市場の構成が変化し
たことから,対象とする自由競争期間は,平成12年度第3期から平成18年
度第1期まで(以下,この期間を「第1次的自由競争期間」という。)とすべ
きである。
なお,被告P4については,平成12年度第3期以降,原告と取引を行って
いないものの,本件期間において被告P4が納入していた基地については,本
件期間後,被告P8が概ね納入を行っていたことから,同被告の基準価格を基
礎とすることとする。
(c)実際の基準価格と比較する市況値
航空タービン燃料は,防衛庁のためにのみ生産される特殊な燃料であること
から一般的な市況価格は存在しない。
しかし,航空タービン燃料は,灯油を基材として生産される燃料であること,
調達実施本部自体も航空タービン燃料の落札価格を決定する基準として灯油の
市況値を参考にしていたことから,航空タービン燃料の基準価格と比較する市
況値としては灯油の市況値を用いるべきである。
そこで,契約日(認証日)に最も近い時点における灯油の市況値のうち,統計
的に見て当時の灯油の市況値として合理的であると考えられるP29新聞,P
30新聞,P26及びP28に掲載された灯油市況値のうち最低値と最高値を
除いた残り2つの市況値の平均値(以下「2市況平均値」という。)を基準と
する。
(イ)スプレッド方式による航空タービン燃料の価格の検証
(a)被告らの各基準価格を基準とした場合
以上の前提条件の下に,第1次的自由競争期間内に被告らがそれぞれ販売し
た航空タービン燃料の基準価格と2市況平均値との差額の合計を数量加重平均
すると(以下「各社個別計算」という。),別表5-1の①欄記載の金額とな
り,これに被告らが本件期間中に原告に販売した航空タービン燃料の数量を乗
じると,被告らが本件期間中に販売した航空タービン燃料の価格の合計額は,
同表の②欄記載の金額になる。
(b)被告らの加重平均値を基準とした場合
また,第1次的自由競争期間において被告らが販売した航空タービン燃料の
基準価格と2市況平均値との差額の合計を数量加重平均すると(以下「全社統
一計算」という。),乖離値は,別表5-1の③欄のとおり1KLあたり32
89円となり,これに被告らが本件期間中に原告に販売した航空タービン燃料
の数量を乗じると,被告らが本件期間中に販売した航空タービン燃料の価格の
合計額は,同表の④欄記載の金額になる。
(c)平成10年度第3期から平成18年度第1期を自由競争期間とした場
合(以下,この期間を「第2次的自由競争期間」という。)
上述のとおり,スプレッド方式を適用する前提条件としての自由競争期間は,
第1次的自由競争期間とすべきであるが,原告の主張にかんがみて,第2次的
自由競争期間を自由競争期間とした上でスプレッド方式を適用して,各社個別
計算すると,数量加重平均は別表5-2の①欄記載の金額となり,これに被告
らが本件期間中に原告に販売した航空タービン燃料の数量を乗じると,被告ら
が本件期間中に販売した航空タービン燃料の価格の合計額は,同表の②欄記載
の金額になる。
(原告)
(ア)スプレッド方式が失当であること
(a)上記イで主張したように,被告らが相殺の抗弁において立証すべき本件
石油製品の「価格」とは,本件石油製品の納入時の時価相当額を意味すると解
すべきところ,被告らの主張しているスプレッド方式は,「想定落札価格」を
前提とするものにすぎないから,本件石油製品の価格を主張立証したことには
ならない。
(b)また,本件石油製品の納入時の時価相当額については,①一義的に定ま
る価格(時価相当額)か,②当該一義的に定まる価格が最低でもそれを下回る
ことがない最低値を主張立証する必要がある。
しかし,スプレッド方式は,実際に存在する取引価格ではない2市況平均値
を基礎として用いており,本件石油製品の価格は一義的に定まる価格の基礎に
はならないし,市況平均値というものは,対象とする市況値の中にその数値を
下回る取引か価格が存在することを当然の前提とすることから,一義的に定ま
る価格が最低でもそれを下回ることがない最低値の基礎になることもない。
(c)したがって,被告らの主張するスプレッド方式では,被告らが主張立証
すべき本件石油製品の「価格」を立証したことにはならず,被告らの主張は失
当である。
(イ)スプレッド方式を適用するための前提条件を十分に立証できていない
こと
(a)被告らの主張するスプレッド方式は,価格の絶対値で比較する従来の前
後理論ではないものの,相対的な差をもって比較する前後理論の一種であると
いうべきであることから,その適用に当たっては前提条件の共通性があるかど
うかを検討しなくてはならない。そして,航空タービン燃料の客観的価格につ
いては,相殺の抗弁を主張する被告らが立証責任を負うのだから,その前提条
件についても被告らが立証責任を負うというべきである。しかし,被告らは本
件対象期間の前後において価格に影響を及ぼす経済的要因にさしたる変更がな
いことを立証していない。
(b)また,この点についての立証がなされているとしても,被告らの主張す
るスプレッド方式においては,灯油の基準価格と航空タービン燃料の価格形成
要因等に本件期間中と自由競争期間において相違がないことを立証しなければ
ならない。
しかし,被告らは,①航空タービン燃料の基準価格には影響を与えないが,
灯油の基準価格には影響を与える要因の存否,②その逆の要因の存否,③影響
の程度に差がある要因の存否,④変動した要因が存在したとして,その影響が
実際に等しく及んだのか否か,といった前提条件について何ら立証していない
のであり,この点においても被告らのスプレッド方式を本件で採用することは
できない。
(ウ)本件では,スプレッド方式を用いても,航空タービン燃料の客観的価
格を検証できないこと
本件においては,以下に述べるとおり,①市場構造等の変化により,本件期
間前後において,石油製品の価格形成要因そのものが大きく変動していること,
②航空タービン燃料の価格にのみ影響する要因が存在していること,③灯油の
市況価格にのみ影響する要因が存在していることから,被告らのスプレッド方
式によって算定された航空タービン燃料の価格は同燃料の客観的価格とは言え
ない。
(a)市場構造等の変化により石油製品の価格形成要因そのものが大きく変
動していること
本件期間の前後においては,下記のとおり,石油製品の価格形成要因に大き
な変動が生じている。
①石油製品の輸入を実質的に制限していた特定石油製品輸入暫定措置法廃
止の検討が開始された平成6年当初以降,自由化を先取りした競争の激化等の
影響が生じ,ガソリンを中心に石油製品の価格が大幅に下落し,こうした事態
を受けて,平成9年度ないし平成15年度にかけて市場に大きな変化が起きて
いることから,本件期間の前後において,石油製品の価格形成要因には大きな
変動が生じているといえる。
②また,平成11年7月以降,ガソリン及び灯油の先物取引市場が開設さ
れ,元売業者と特約店などとの間の販売価格について,参考価格が参考にされ
るようになった。
③規制緩和に伴う採算の悪化に伴い,石油精製・元売業者において,供給
能力の削減や事業者間の再編等による合理化・効率化を図った結果,石油製品
の需給関係やコストといった価格形成要因に大きな変動が生じた。
④原油価格の向上に加え,上記③の精製・流通部門での合理化や合併・提
携によって石油製品の販売価格に含まれる石油元売各社のマージンが回復した
ことにより,本件期間前後における石油製品の価格形成における要因は大きく
変化した。
(b)航空タービン燃料の価格にのみ影響する要因が存在していること
次に,本件期間の前後においては,航空タービン燃料の価格にのみ影響を及
ぼす要因として,以下の事由が存在する。
①自由競争期間において,被告らは本件談合についての責任をめぐって公
正取引委員会から排除勧告を受け,刑事訴追もされていただけでなく,本件で
は不当利得返還義務をめぐり,原告らと係争状態を続けてきており,このよう
な係争状態における原告と被告らとの間の取引が全くの自由競争状態にあると
はいえず,被告らが自由競争期間中に国に販売した航空タービン燃料について
は,その価格を上昇させる特別な事情が存在していた。
②平成12年度第3期からは,入札前に応札意向調査を実施した上で,応
札意思を示した応札予定者が一社しかいなかった場合には,当該会社と随意契
約を締結し,指名競争の結果落札されなかった案件については随意契約を締結
するという方式に変更した結果,随意契約による契約が多数にのぼっている。
③平成11年度第4期以降,仕様書の変更によって認定工場を有していな
い企業も入札に参加することが可能になった。
④平成14年度第4期から平成15年度末までの間にはイラク戦争発生の
見込みに伴う原油上昇を避けるための特約(航空タービン燃料に係る参照単価
の変動に伴う契約金額の変更に関する特約条項)を設けた。
(c)灯油の価格のみに影響する事情が存在していること
そして,本件期間の前後には,灯油の価格のみに影響を与える下記の事情も
存在する。
①ジョイント・バーター取引の拡大
ジョイント・バーター取引とは,被告ら元売企業が,石油製品の流通におい
て,自社の製油所よりも納入地に近い他社の製油所から石油製品の出荷を融通
してもらう取引であり,これによって油槽所までの輸送距離を短縮し,輸送コ
ストが削減されるという効果が生じる。
そして,灯油の取引においては,平成9年度からジョイント・バーター取引
が拡大したのに対し,航空タービン燃料の納入形態については,本件期間中も
平成12年度第3期から平成18年度第1期までの間においても変化していな
いことからすれば,ジョイント・バーター取引の拡大によるコスト削減効果は,
灯油市況にのみ影響を及ぼす要因となる。
②灯油需要の減少傾向
灯油の需要は平成7年から平成12年の間にピークを過ぎて徐々に減少傾向
を示している。これに対し,航空タービン燃料の需要については昭和35年か
ら平成18年にかけてほぼ上昇し続けていることは認められるから,この事実
からも航空タービン燃料の価格形成要因に織り込まれない事情が存在すること
は明らかであり,灯油の市況値との比較により航空タービン燃料の価格を推認
するという被告らの主張は認められない。
(d)以上のとおり,仮に,スプレッド方式による価格の算定が認められると
しても,上記事実からすれば,航空タービン燃料の価格は,灯油の市況値の変
動を受けるものであるというスプレッド方式を適用するための前提条件が失わ
れていることは明らかであり,この点でも被告ら主張のスプレッド方式を本件
において用いるのは適切ではない。
(エ)自由競争期間を平成10年度第4期から平成11年度第3期とすべき
こと
(a)平成10年度第4期から平成11年度第3期以外の期間は比較対象期
間として相当でないこと
上述のとおり,平成11年度第4期に認定工場を有しない企業であっても入
札が可能になったことをはじめとし,応札意向調査の実施(平成12年度第3
期以降),航空タービン燃料にかかる参照単価の変動に伴う契約金額の変更に
関する特約が付されていたこと(平成14年度第4期ないし平成15年度末),
原油価格の高騰(平成16年度以降)など,航空タービン燃料の調達に関する
諸条件について変化があったことに加え,特に平成11年度第4期から平成1
2年度第2期までの期間は,被告らに対する指名停止処分が行われた結果,被
告ら元売業者以外の商社や特約店が航空タービン燃料を納入していたところ,
これらの商社等は,通常中間マージンを上乗せしており,価格の上昇要因が存
在していたことにかんがみれば,平成11年度第4期から平成18年度第1期
までを自由競争期間とすべきではない。
(b)平成10年度第4期から平成11年度第3期を比較対象期間とすべき
こと
これに対し,本件談合が発覚した直後の平成10年度第4期から被告らの大
半が指名停止になる平成11年度第3期までは,本件期間と同じ条件で入札が
行われた期間であり,かつ,自由競争が行われていた期間であるといえること,
旧被告P12も同期間においては自由競争が行われていたことを自認している
ことから,仮に被告ら主張のスプレッド方式を適用するとしても,本件では,
平成10年度第4期から平成11年度第3期までを比較対象期間とすべきであ
る。
そして,同期間における航空タービン燃料の契約価格は,灯油の市況最低値
より約2000円程度安いことから,被告らは航空タービン燃料相当額の不当
利得返還請求権を有しない。
(オ)小括
以上のとおり,被告らの主張するスプレッド方式は,想定落札価格を前提と
する点及び市況平均値を基礎とする点で,そもそも価格を算定するための方法
論たり得ない上,スプレッド方式の適用に必要な前提条件の主張立証を欠いて
いる点でも失当である。
また,仮に被告らの主張するスプレッド方式が,航空タービン燃料の価格を
算定しうるとしても,本件では,本件期間の前後において価格に影響を及ぼす
と思料される価格形成要因と灯油の価格のみに影響を及ぼすと思料される価格
形成要因のいずれにも変動が認められるから,本件ではスプレッド方式を適用
して,航空タービン燃料の価格を算定することはできない。
さらに,本件でスプレッド方式によって航空タービン燃料の価格を算定する
ことができるとしても,その比較対象期間となる自由競争期間は,被告らが主
張するような平成11年度第4期から平成18年度第1期とすべきではなく,
本件期間と同様の条件で,かつ,自由競争が行われていた平成10年度第4期
から平成11年度第3期までとすべきであり,そうであるとすれば,被告らに
不当利得返還請求権は発生していないから,被告らの相殺の抗弁は認められな
い。
ウ市況平均方式に関する当事者の主張
(被告ら)
(ア)市況平均方式を適用するための前提条件について
(a)基準となる市況値の選定方法
本件前提事実(1)ウ記載のとおり,本件石油製品のうち,航空タービン燃料を
除く一般燃料については,一般の市場に流通している石油製品であり,当該製
品の取引価格を示す資料としては,本件前提事実(4)イ記載のとおり,財団法人
P25の発刊する「P26」,財団法人P27の発刊する「P28」,P29
新聞,P30新聞,財団法人P27の発刊する「P31」の5つの市況資料が
存在した(平成10年度第3期以降は,P31が廃止されたため4つになった。)。
そこで,航空タービン燃料を除く一般燃料の市況平均値としては,①上記5
つ(平成10年度第3期については4つ)の資料の平均値を算定する方法と,
②上記5つの資料の中から最高値と最低値を除いた3つ(平成10年度第3期
については2つ)の資料の平均値を算定する方法がある(以下,①の方法によ
って算出された平均値を「5市況平均」,②の方法によって算出された平均値
を「3シグマ」という。)
そして,市況値の基準時点及び固定経費の金額については,原告と同じく,
契約日(認証日)に最も近い日の市況値を基準とし,固定経費についても,別
表3のとおり,防衛庁が本件売買契約当時に定めていた額を基準とするものと
する(なお,被告らは争点を明確化するために原告の主張する固定経費を採用
しただけで,原告主張の固定経費が合理的であると認めるものではない。)。
(b)航空タービン燃料の市況値について
航空タービン燃料については,上述のとおり防衛庁向けの特殊な商品である
ことから,一般的な市況値は存在しないものの,上記のように航空タービン燃
料は灯油を主原料としていること,原告も航空タービン燃料の価格を決定する
に当たっては灯油の市況値を参考にしていたことから,航空タービン燃料の価
格については灯油の市況平均値を用いるものとする。
そして,灯油の市況値には,京浜地区にタンクローリーで納入する際の輸送
費として1KLあたり1500円が含まれているので,市況平均方式において
航空タービン燃料の価格を算定するに当たってはこれを控除した金額とする。
なお,原告は,後述のとおり,灯油市況最低値からさらに600円/KLを
控除すべきと主張するが,このような原告の主張には理由がないので,市況平
均方式を用いて航空タービン燃料の価格を算出するにあたっても,上記輸送費
(1500円/KL)は控除するが,これに加えて600円/KLの控除は行
わないものとする(被告らが600円/KLを控除しないとする理由も後述の
とおり)。
(イ)市況平均方式による本件石油製品の価格の検証
以上のようにして算出された差額は,別表6のとおりであり,被告らは原告
に対し,不当利得返還請求権に基づき,同表①欄(5市況平均を用いた場合)
または②欄(3シグマを用いた場合)記載の金銭の支払を請求できる。
(原告)
(ア)市況平均方式が失当であること
上述のとおり,本件で被告らが主張立証すべき本件石油製品の「価格」は,
①当該一義的に定まる価格か,②当該一義的に定まる価格が最低でもそれを下
回ることがない最低値であるところ,①そもそも市況平均値は,複数の市況値
を平均して得られた観念的な計算結果にすぎず,実際に存在する取引価格では
ない上,どの市況値を平均するかによって計算結果が種々に異なることから一
義的に定まる価格になり得ず,また,②市況平均値というものは,対象とする
市況値の中にその数値を下回る取引価格が存在することを当然の前提とするこ
とから,一義的に定まる価格が最低でもそれを下回ることがない最低値にもな
り得ないものである。
したがって,被告らの主張する市況平均方式も,スプレッド方式同様,石油
製品の価格を算定しうるものではない。
(イ)本件では,市況平均方式を用いても,本件石油製品の価格を検証でき
ないこと
本件では以下に述べるとおり,一般燃料の価格が市況最低値を超えるもので
はなかった蓋然性が極めて高いこと及び5市況平均値は被告らにとって極めて
有利な価格であることから,市況平均値が本件石油製品の価格を反映している
とは認められない。
(a)一般燃料の価格が市況最低値を超えるものではなかった蓋然性が極め
て高いこと
本件では,①本件期間中においても,一般燃料については,後述のとおり,
現実に市況最低値で落札された事例(国立病院向け燃料油の事例)が存在し,
また,②平成12年度第3期から平成18年度第1期までの間においても,調
達実施本部が発注した一般燃料について市況最低値で落札された事例が存在す
る。
したがって,他の市況値と比較しても,一般燃料の価格は,市況最低値を超
えるものではなかった蓋然性が極めて高く,これを上回る市況平均値が価格を
反映しているとすべき合理的な理由は見当たらない。
(b)5市況平均値は被告らにとって極めて有利な価格であったこと
5市況のなかでも,P30新聞の市況は他の市況よりも高めの価格であり,
最低価格をつけていたP29新聞の市況を含めた5市況の方が,P30新聞と
P29新聞を除いて算定される3シグマによって求められる市況値よりも高く,
被告ら元売業者側に有利な価格であったことから,これが本件石油製品の価格
を正確に反映しているとは認められない。
(ウ)小括
以上のとおり,被告らの主張する市況平均方式も,市況値の平均値を用いて
いる点で,そもそも価格を算定するための方法論たり得ない。
仮に,被告らの主張する市況平均方式が,本件石油製品の価格を算定しうる
としても,本件では,市況平均値(特に5市況平均値)が本件石油製品の価格
を反映しているとは認められないことから,本件では市況平均方式を適用して,
本件石油製品の価格を算定することはできない。
エ市況最低値を基準価格とする算定方法について
(原告)
以下に述べるとおり,本件石油製品の価格は市況最低値を基準とすべきであ
り,スプレッド方式ないし市況平均方式に基づいて本件石油製品の価格を算定
するという被告らの主張には合理的な理由がない。
(ア)一般燃料について市況最低値を基準価格とすることの合理性
(a)①市況最低値といえども実際に市場で契約が成立した価格であること,
②むしろ,本件石油製品の調達が毎年度市況資料の基準となる取引数量に比し
て膨大な量を調達しているため,被告らにとってはより利益率のよい条件であ
ること,③原告は,本件石油製品を特約店を通すことなく,石油製品の製造販
売会社である被告らから直接調達していたのであり,特約店のマージンがない
分,割安な購入が可能であること,④現金決済をしているため,支払条件が一
般取引よりもよく,市況最低値でも十分に取引可能な額であることに照らして
も,本件石油製品の価格について,市況最低値を基準とするという原告の計算
方法には合理性がある。
(b)また,実際にも,国立病院等向け燃料油の入札結果について,①落札価
格を受注数量で除した落札単価と②市況資料掲載の油種ごとの市況最低値とを
比較すると,市況最低値以下の価格で落札される案件が多数存在し,①には固
定経費が含まれていることを考慮すると,①②ともに基準価格のみで比較した
場合には,落札単価のうちの基準価格相当額が市況最低値を下回る案件は更に
増えることが予想され,このような点からしても,市況最低値をもって価格を
算定したことについて合理性が認められる。
(c)さらに,被告らの主張する第1次的自由競争期間である平成12年度第
3期から平成18年度第1期においても,灯油は概ね市況最低値あるいはそれ
以下で落札されており,灯油以外の一般燃料についてもその傾向が同様である
ことからも,原告が市況最低値を採用した上で,価格を計算していることに合
理性が認められる。
(イ)航空タービン燃料について
(a)概要
被告らも主張するとおり,航空タービン燃料については,市況資料に掲載が
ないものの,①灯油が類似品ととらえられ,訓令14条が定める「類似計算に
より市場価格が推定できる」場合に当たることから,市況資料による灯油の価
格を基準価格とした上,②そこから灯油の基準価格には京浜地区内にタンクロ
ーリー車で納入する場合の標準的な輸送費である1500円/KLが含まれて
いるから,これを控除し,さらに,下記(ウ)の理由から600円/KLを控除
して(すなわち,灯油の市況最低値から合計2100円/KLを控除して)算
定すべきである。
(b)灯油の市況最低値から600円/KLを控除することの合理性
①航空タービン燃料についてはスケールメリットがあること
本件各期について,灯油の調達量は683KLないし1万6095KLであ
るのに対し,航空タービン燃料の調達量は2208KLないし23万3939
KLと発注量が極めて大きいことから,航空タービン燃料については,いわゆ
るスケールメリットがあるといえ,600円/KLを差し引くべきである。
②タービン燃料油の出荷価格と灯油の出荷価格の比較に基づく検証
工業統計表上,タービン燃料油(灯油から精製されるJetA-1(民間機
用タービン燃料油)とJP-5のみならず,灯油とナフサを約半々の割合で精
製するJP-4を含む。)の本件期間中の出荷価格は,灯油の出荷価格を常に
下回っており,本件期間中の航空タービン燃料(JP-4)の価格は,灯油の
出荷価格と比べ600円を大幅に下回る安さであることは明らかである。
③JP-4に含まれるナフサの出荷価格に基づく検証
JP-4は,灯油とナフサのそれぞれ約半々から精製されているところ,工
業統計表上,ナフサの出荷価格は,灯油の出荷価格の約4分の3程度であるこ
とから,航空タービン燃料(JP-4)の価格は,灯油の市況最低値よりも6
00円以上安いものと推測することもでき,JP-4の価格が灯油の市況最低
値より下回るものであるといえる。
④平成10年度第4期ないし平成11年度第3期における実績に基づく検

上述のとおり,平成10年度第4期ないし平成11年度第3期におけるJP
-4の契約単価は,灯油の市況最低値よりも概ね2000円以上安くなってい
ることが認められ,本件期間中におけるJP-4の価格が灯油の市況最低値を
下回るという原告の主張が正当であることが明らかになっている。
(ウ)小括
以上のとおり,本件では,一般燃料及び航空タービン燃料のいずれにおいて
も,原告が主張する算定方法が合理的であり,被告らの主張するスプレッド方
式及び市況平均方式によって算出された本件石油製品の価格はいずれも適切で
はない。
(被告ら)
本件石油製品の価格を決めるに当たって,市況値を基準とするとしても,被
告ら主張のように市況平均値を基準とすべきであって,原告のように市況最低
値を基準とすることは不合理である。
(ア)一般燃料について市況最低値を基準価格とする合理性がないこと
(a)①市況最低値といえども実際に市場で契約が成立した価格であるとの
点については,そもそも本件で問題となっているのは,本件期間における防衛
庁向けの本件石油製品市場における価格であるところ,原告の主張する市況最
低値が成立した市場と,上記市場は供給者・需要者が異なる別の市場であり,
そのような別の市場において,市況最低値で契約が成立した例があったとして
も,そのことを根拠に,本件石油製品全ての価格を市況最低値であるとする根
拠にはなり得ない。
②の本件石油製品の調達量が膨大であるという主張については否認する。
防衛庁と被告らの取引は,各期に案件ごとに個別の売買契約を締結するもの
であり,1つ1つの取引は市況資料の基準となる取引数量に比して膨大な量に
なっていたわけではないし,継続的な取引を前提としていないことから,安定
的・計画的な生産販売ができるものでもなかったことから,原告主張のような
スケールメリットは存在しなかった。
③の原告は被告らから直接本件石油製品を調達しており,特約店のマージン
がない分,割安な購入が可能であるとの主張についても否認する。
本来,特約店を介して最終需要家へ石油製品を販売する場合には,営業活動
や配送業務等の全部又は一部を特約店が代行し,その費用という趣旨を含めて
特約店にマージンを支払っているが,本件のように被告らが直接販売すること
によって,上記の業務に伴うコスト(被告らが普段行わない業務を行うことに
より非効率的であり,高コストになる。)を被告らが負担することになり,結
果としてそれが販売価格に転嫁されるため,被告らが直接原告に販売していた
ことが割安な購入につながることはない。
④の支払条件が一般取引よりもよいという点も否認する。
この点について,一般取引よりも支払条件が有利であるという証拠は何ら提
出されておらず,むしろ,原告の取引条件は,納入してから支払が行われるま
での期間が一般取引よりも長いこと,契約書等の書類が多く事務が繁雑である
等の事由によって一般取引よりも支払条件が有利であるとはいえない状況であ
った。
(b)国立病院向け燃料油について,市況最低値を下回る価格で落札されたと
いう実績があったとしても,そこから本件石油製品についても市況最低値をも
って価格を算定するという点については争う。
国立病院向け燃料油と本件石油製品とでは,入札参加業者,油種,納入場所,
納入方法の前提条件が全く異なる以上,これを本件石油製品の価格の算出方法
の算定方法が妥当であることの根拠として用いることはできないというべきで
あり,実際にも,防衛庁の関係者らは,国立病院向けの燃料油と防衛庁向けの
本件石油製品とを同一基準では比較できないことを供述していた。
(c)平成12年度第3期から平成18年度第1期に,一般燃料について市況
最低値以下での落札があったことをもって,原告の算出方法が合理的であると
の主張は争う。
平成12年度第3期から平成18年度第1期に行われた一般燃料の調達につ
いては,一般競争入札へと入札方法が変更され,納入業者が被告ら元売業者で
はなく,商社等の販売業者に変化するなど,前提となる市場ないし取引条件が
異なるため,上記期間に行われた一般燃料の落札結果をもって,本件期間にお
ける本件石油製品の価格を算定することはできない。
(イ)航空タービン燃料について
(a)灯油の市況最低値を基準とすべきではないこと
上記のとおり,石油製品の価格を算定するに当たって基準価格を市況最低値
とする原告の主張には合理的な理由がなく,航空タービン燃料についても灯油
の市況最低値を基準とすべきではない。
(b)灯油の市況最低値から600円/KLを控除すべきではないこと
①防衛庁向けの航空タービン燃料についてはスケールメリットがないこと
調達実施本部向けの航空タービン燃料については,契約の数量で見れば調達
量が多いとしても,案件毎の納入量については,被告らの企業規模からすると
決して多いものではない。
また,上記のとおり,防衛庁の調達は,年間を通して行われるものではなく,
案件毎の入札によって行われること,また,受入基地の都合により月間納入量
が変化することから,将来の納入数量の予測が困難であり,計画的に大量生産
を行うことも困難である。
さらに,納入先としても,山間地,離島等の僻地も存在し,納入に際しても
コストがかかる。
これらの事実からすれば,防衛庁向けの航空タービン燃料についてスケール
メリットがあるから1KL当たり600円を控除すべきという原告の主張には
理由がない。
②他の石油製品の出荷価格に基づいた検証について
原告の主張するタービン燃料油の出荷価格には民間機用タービン燃料である
JetA-1が含まれ,かつ,工業統計表におけるタービン燃料油の出荷価格
についてはJetA-1の出荷価格が大部分を占めている。
また,JP-4,JP-5に使用されている重質ナフサは,脱硫されている
ものでなければならず,工業統計表上の出荷価格の基準となっているナフサと
同一の製品ではない。
したがって,これらの出荷価格に基づいて,航空タービン燃料の価格が灯油
の市況値から1KL当たり600円を控除するという原告の主張が裏付けられ
ることにはならない。
③平成10年度第4期ないし平成11年度第3期における実績に基づく検
証について
この点については,前述のとおり,上記期間においては,①いまだ自由競争
が完全に回復していなかったこと,②P1の担当者が落札価格を誤って記載し
たため,落札価格が異常に下落したこと等の事情から,参考とすべき期間では
ない。
④航空タービン燃料が生産,輸送,保管の各段階で高いコストがかかる製
品であること
ⅰ生産段階におけるコスト
本件前提事実(1)ウ記載のとおり,JP-4,JP-5は,JetA-1とも
異なる防衛庁独自の仕様が定められた製品であって,その生産には手間暇がか
かる。また,JetA-1の製品規格項目は11項目であるのに対し,JP-
4,JP-5については16項目とされており,出荷の際にも財団法人P33
の調査担当者による立会検査が行われ,そこに被告らの担当者も立ち会う必要
があるなど,厳しい検査が要求されている。
さらに,入札が案件毎に行われることによって,防衛庁の調達に合わせてス
ポットで生産しなくてはならず,工場の運転効率は明らかに悪い。
ⅱ輸送段階におけるコスト
JetA-1については,当該空港を利用する航空会社が共同して保有する
タンク等にタンカー等を用いて,一度に大量の数量を納入することができる。
他方,防衛庁向けの航空タービン燃料については,納入先が山間地や離島等の
僻地となっている案件が存在しているだけでなく,その納入方法についても,
防衛庁が定める納入条件において納入する必要があり,多頻度の分割納入を求
められるため,効率が悪くコストがかかってしまう。
ⅲ保管段階におけるコスト
JP-4,JP-5については,他の油種が混ざらないようにするために,
専用のタンクを確保することや油槽所タンクに注ぎ足しが禁止されるなど厳格
な保管が求められている。そして,上記のとおり,案件毎に入札が行われるこ
とから,納入がない時期や納入量が安定しない時期が発生してしまうが,その
ような時期においても専用タンクのランニングコストが等しく発生するため,
設備の稼働率も悪い。
このように,専用設備を確保する必要性に加え,設備の稼働率が悪いことか
ら,結果的に保管段階におけるコストも割高となる。
(ウ)小括
以上のとおり,本件石油製品の市況最低値を基準として価格を算定すること
及び航空タービン燃料について灯油の市況値から1KL当たり600円を控除
することにはいずれも合理的な理由がなく,原告主張の算定方法が適切でない
ことは明らかである。
(12)争点12(被告らの原告に対する本件石油製品の引渡が不法原因給付にあ
たるか)
(原告)
本件売買契約が公序良俗に反することは争点2において原告が主張したとお
りである。また,今日,談合が反社会的な行為であるとの社会的認識は著しく
高まっている。
したがって,被告らの本件石油製品の納入は,独禁法上違法とされている不
当な取引制限に起因する各売買契約に基づくものである以上,被告らの原告に
対する本件石油製品の引渡しは不法原因給付にあたり,本件各石油製品原物な
いし本件各石油製品相当額の金銭を不当利得返還請求権に基づいて請求するこ
とはできない。
(被告ら)
アそもそも談合行為が独禁法上禁止されているのは,競争政策を実施する
に当たっての1つの手段であって専ら技術的・政策的観点からの規制に過ぎず,
それが倫理,道徳に反する醜悪な行為としてひんしゅくすべき程の反社会性を
有していたり,人格的非難に値する悪であったりするという理由に基づくもの
ではないことからすると,被告らの原告に対する談合行為に基づく本件各石油
製品の納入は民法708条の「不法の原因」にはあたり得ない。
また,本件各石油製品の納入は,給付の内容自体が不法ではないこと,不法
な行為の対価でもないこと,給付の動機に不法性があるわけでもないことに照
らすと,不法な原因の「ために」なされた給付ではない。
イさらに,上記争点1及び2における被告らの主張のとおり,本件受注調
整行為は原告が主導したものであること,そうでなかったとしても,原告の入
札担当者によって被告らの行為が黙認あるいは助長されていたこと,争点11
で述べたように原告は結果として有利な価格で本件各石油製品を調達していた
ことからすれば,被告らの本件各石油製品の納入が社会の倫理,道徳に反する
醜悪な行為に当たらないことは明らかである。
(13)争点13(国家賠償請求権との相殺の可否)
(被告ら)
契約2課担当官は被告らの受注調整行為を積極的に容認・助長していたのだ
から,仮に,本件売買契約が無効であり,原告が被告らに対し不当利得返還請
求権を有するとした場合,被告らは上記担当官の違法行為によって,当該不当
利得返還債務と同額の損害を被ったことになるから,被告らは,国家賠償法(以
下「国賠法」という。)1条1項に基づき,原告に対し,損害賠償請求権を有
する。
したがって,被告らは,原告に対する損害賠償請求権と,原告が被告らに対
して有する不当利得返還請求権を対当額において相殺し,その結果,原告の被
告らに対する不当利得返還請求権は全て消滅する。
(原告)
争う。
これまで主張してきたとおり,調達実施本部の契約担当官は本件談合を容認
ないし助長したものではないから,被告らの主張は前提を欠くものである。
また,専ら公益目的のものや行政の内部的な義務等,個別の国民に対して負
担する義務でないものは,国賠法上の違法の前提たる職務上の法的義務とはな
らないところ,被告らが職務上の法的義務の根拠法令として挙げる独禁法や会
計法令は,公益目的のものや行政の内部的義務を規定するものであり,個別の
国民としての被告らに対して負担する職務上の法的義務の根拠になるものでは
ない。
さらに,契約担当官の不適切な行為があったとしても,それによって妨げら
れたのは入札の公正さであり,国民一般が損害を受けたとしても,被告らが損
害を受けたとはいえない。
以上のとおり,被告らは原告に対し,国賠法に基づく損害賠償請求権を有す
るものではなく,同債権を自働債権とする被告らの相殺の主張は失当である。
(14)争点14(信義則ないし過失相殺の規定によって原告の請求が減額さ
れるべきか)
(被告ら)
本件では,調達実施本部の契約担当官らが,被告らの談合行為を認識しながら,
原告にとっての利益を享受するために,被告らの談合行為を容認し,それを助長す
るような行為を行っていたのであり,このような契約担当官らの行為が,被告らの
談合行為に大きく寄与している。
したがって,本件においては,公平の観点から,信義則ないし過失相殺の規定が
類推適用されることによって,原告の請求が制限,減額されるべきである。
(原告)
争う。
不当利得は,法律上の原因がないのに,利得を受益した者に対し,取得した利益
を損失者に対し返還させるための制度である。他方,過失相殺は,損害の填補を目
的とする損害賠償制度の中において,損害の公平な分担を図るために設けられてい
る制度であり,利得の返還を直接の目的とする不当利得の制度においては,このよ
うな過失相殺の趣旨は妥当しないというべきである。
したがって,不当利得において,過失相殺の規定を類推適用することはできず,
被告らの主張は失当である。
(15)争点15(原告の不当利得返還請求権の法定利息)
(原告)
不当利得制度の基礎にある公平の理念から,受益者が目的物を営業用に使用して
収益を上げた場合などは商事法定利率を適用すべきところ,被告らはいずれも商行
為をすることを業とする目的で設立された会社であるから,原告から受領した金員
をその営業に使用して収益を上げたものとみるべきである。
したがって,本件で原告の不当利得返還請求権に対する利息は,商事法定利率で
ある年6分の割合によるものとするのが相当である。
(被告ら)
争う。
仮に原告が不当利得返還請求権を有しているとしても,当該請求権は,公序良俗
違反,入札制度の趣旨違反,入札条件違反または会計法令違反に基づき,本件売買
契約が無効であることから発生するものである。
したがって,そのような事由を原因として発生した原告の不当利得返還請求権は,
営利性を考慮すべき債権とはいえず,その利息については,商事法定利率が適用さ
れるべきではなく,民事法定利率の年5分が適用されると解すべきである。
第3当裁判所の判断
1本件前提事実に加えて,証拠(甲16ないし27(書証については枝番含む。
以下同じ。),乙イ3ないし8,14及び17,乙ロ1ないし5,26,31,乙
ハ1ないし8,32ないし35,乙ホ1,乙チ1,証人P34,証人P35(後記
採用できない部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定する
ことができる。
(1)本件期間における受注調整行為の態様
ア受注調整行為のための会合の開催
被告P1の担当者であったP36は,入札説明会(概ね入札の1週間前に調達実
施本部により実施される。)が終わると,その場で契約2課の担当官に対し,部屋
を貸して欲しい旨を告げ,担当官が部屋から退出すると,その場で,出席意思のな
いP13及びP16を除いた本件入札参加業者の担当者に対して,入札日の概ね2
日前に各案件について受注予定者を決定するための会議を開催するから,出席する
よう呼びかけ(以下,この会議を「受注調整会議」という。),その開催場所,開
始時間等を告げた。
受注調整会議は,平成9年ころまでの間は,主に株式会社P37の会議室で,そ
れ以降は,P38株式会社の会議室で,大抵,当初入札の行われる2日前の午前9
時30分に開催されていた。
受注調整会議には,本件受注調整会社のうち,被告P1,P18,P19,旧P
21,旧被告P11,被告P2,被告P3,被告P5,被告P6,P23及びP2
4の各担当者が出席していた(なお,上述のとおり,被告P7が平成9年度第3期
から平成10年度第2期の間,指名業者には選定されていなかったため,P24の
担当者も同期間の受注調整会議には参加していなかった。以下,同期間について「本
件受注調整会社」という場合には,P24を除くものとする。)。
P13の担当者は,受注調整会議には出席しないものの,P36らに受注を希望
する案件を記載したリストを事前に交付し,受注調整会議が終了すると,会議の結
果,P13に割り当てられた案件等について連絡を受け,実際の入札においても,
受注調整会議に参加している業者と同様に行動していた。
さらに,平成10年度第3期については,P19の担当者もP13と同様の方法
をとっていた。
なお,平成10年度第3期当時,調達実施本部では調達実施本部幹部による背任
事件の存在が浮上し,東京地方検察庁による捜査が行われているなどと報道されて
いた。
イ受注調整会議の内容
(ア)受注予定者の決定
(a)一般燃料の受注予定者の決定
本件受注調整会社は,受注調整会議において,まず一般燃料について,自動車ガ
ソリン,灯油,軽油,A重油の順番で受注予定者を決定していった。具体的には,
P36が①前年度のシェアを基準として事前に計算していた各社が受注を希望でき
る数量と②P16が受注を希望すると予想した案件及びP13(平成10年度第3
期についてはP19も含む。)が受注調整会議前に,P36に対して受注を希望し
た案件を本件受注調整会社に示し,その上で,受注調整会議に出席していた各会社
の担当者(ただし,旧被告P11,被告P5及びP24を除く。)が順番に受注を
希望する案件(複数落札制度が適用される案件については受注を希望する数量を含
む。)を述べていき,各会社の担当者の希望が概ね明らかになった段階で,P36
が旧被告P11,被告P5及びP24の受注予定案件をそれぞれの会社の希望や前
年度のシェアを勘案した上で割り当てていた。
このように各案件についての各社の希望が出揃った段階で,当該案件を希望する
会社が1社の場合は当該会社が受注することとし,当該案件を希望する会社が複数
の場合は,落札を希望する会社間の話し合いやP36の仲介等によって受注予定者
を調整していた。
そして,各案件についての受注予定者が決まった後で,受注希望者が出なかった
発注数量の少ない案件や離島・山間僻地へ納入する案件についての配分を決定して
いたが,最後まで受注希望者が出なかった場合には,主にシェアが多い被告P1と
P18がそのような案件を引き受けて受注予定者となっていた。
(b)航空タービン燃料の受注予定者の決定
次に,航空タービン燃料については,一般燃料と異なり,各基地ごとに受注可能
な業者が限定されていたり,各社の希望を聞いていたのでは手間がかかる等の事情
から,P36が前年度のシェア等を勘案して各案件をどの業者に配分するか(各社
ごとの受注案件や受注量の指定)というところまで事前に案を用意していた。その
ため,その案に基づいて,各業者間で案件の交換等を行った上で受注予定者を決定
していった。
そして,受注調整会議に出席していないP13(平成10年度第3期については
P19も含む。)は,上記アのとおり,受注調整会議に先立ち,P36らに受注を
希望する案件を伝達し,P36もP13の希望する案件を他の本件受注調整会社に
対して示していたことから,P13の希望する案件についても,受注調整会議に参
加している各社の担当者に伝達され,それを踏まえて受注予定者が決定されていた。
(イ)入札時における本件受注調整会社の行動についての合意
本件受注調整会社は,以上のようにして受注予定者を決定すると,実際の入札時
における各社の行動について,以下のとおりの合意をしていた。なお,P13(平
成10年度第3期についてはP19も含む。)に対しては,受注調整会議終了後,
P36から当該調達期における次の合意事項が伝達されていた。
(a)入札価格について
P36は,受注調整会議に先立ち,市況値を分析して当該調達期における最低商
議価格(指値)を推測していたため,当初入札における3回の入札及び商議におけ
る2回の商議札の提出に際して入札すべき価格について,前期の基準価格に一定の
幅をもった金額を加算・減算する形で示した(以下「価格レンジ」という。)。
その上で,当該調達期において,連絡会社として指定された業者から,各業者に
対して,調達要求番号,納入先,固定費,前期の基準価格等が記載されたリストが
配布され,各業者は,このリストとP36が示した価格レンジを用いて,応札価格
等を決定していた。
(b)受注予定業者以外の入札業者の決定
次に,本件受注調整会社は,受注予定業者以外の業者の行動について,以下のと
おり合意した。
①当初入札の1回目の入札においては,受注予定業者も含め,当該案件につい
て指名を受けている全ての業者が入札を行う。
②当初入札1回目の入札が不調となる結果,2回目の入札が行われるが,その
際には受注予定者を含めた2,3社(「追っかけ」などと呼ばれていた。)が当初
予定価格を上回る価格で入札し,残りの業者は入札を辞退する旨の入札をする(以
下,辞退する時に入札する入札書を「辞退札」という。)。
「追っかけ」の業者については,当該案件について指名を受けている業者の中か
ら,当該案件を納入することが可能かどうか,当該案件の発注数量,当該案件の人
気等を勘案して,P36が受注調整会議において決定していた。
また,平成10年度第1期補正分からは,P13が「追っかけ」への指定を拒否
する旨をP36に告げ,P36もこれを了承したため,P13が「追っかけ」に指
定されることはなくなった。
③2回目の入札も不調となる結果,3回目の入札が行われるが,その際には2
回目の入札に参加した「追っかけ」の業者は辞退札を入札し,受注予定者のみが当
初予定価格を上回る価格で入札する。
④商議権者となった受注予定者は,商議においても,受注予定会議で示された
価格レンジの幅の中で商議札を提出する。
⑤契約2課の担当官から最低商議価格(指値)が公表された後,当該最低商議
価格(指値)に固定経費を加算した金額を商議札として提出するとともに,辞退札
を提出することによって,商議を不調にして,落札予定価格を算定しなおした上で
行われる新たな入札に持ち込む。
⑥新たな入札において,受注予定者は調達実施本部が提示した最低商議価格(指
値)で入札し,その他の受注調整会社は上記最低商議価格を上回る価格で入札する
ことで,受注調整会議で決定したとおり,受注予定者に各案件を受注させる。
(c)複数落札入札制度が適用される案件について
複数落札入札制度が適用される案件についても,本件受注調整会社は,上記(a)・
(b)と同様の合意をしていたが,複数落札入札制度が適用される案件については,価
格だけでなく,どの受注予定者がどれだけの数量を受注するのかという点について
も,受注予定者間で合意をしていた。
ウ上記のような本件受注調整行為は,第1次オイルショックを契機に開始され,
昭和50年ころから本件当時に至るまで行われていたものであった。
(2)受注調整行為に基づく受注調整会社の行動
ア当初入札における受注調整会社の行動
本件受注調整会社は,本件期間において,本件受注調整会議で決定された上
記(1)の手順に従って行動し,P16が受注した案件を除いて,受注予定者に各
案件を受注させていた。
すなわち,当初入札1回目では全ての本件受注調整会社が,当初入札2回目
では受注予定者及び「追っかけ」に指定された業者が,当初入札3回目では受
注予定者のみが,それぞれの入札に応じて定められた価格レンジの範囲内で入
札し,その他の本件受注調整会社は辞退札を入札することによって,当初入札
を不調にするとともに,受注調整会議で定められた受注予定会社を商議権者と
していた。
ただし,後述のとおり,P16が当初入札2回目以降も辞退札を入札せず,
継続して受注を希望してきた場合には,当該案件の受注予定者も辞退札を入札
していた。
イ商議における受注調整会社の行動
商議において,各指名業者の担当者は,契約2課の担当官が当該期の5市況
や3シグマ等の市況平均値と前期の基準価格の差額を参考にして,できるだけ
低い価格での契約締結を目指して交渉してくるのに対抗するため,市況資料な
どを事前に準備し,できるだけ高い最低商議価格(指値)を引き出せるように
商議に臨んでいた。
もっとも,本件受注調整会社は,受注調整会議における合意に従って,P3
6の示した価格レンジの範囲を下回る価格で契約締結をしようとすることはな
く,結果として,本件前提事実記載のとおり,商議において契約が成立するこ
とはほとんどなかった。
ウ新たな入札における受注調整会社の行動
本件受注調整会社は,受注調整会議における合意に従い,受注予定者は,契
約2課の担当官が発表した最低商議価格(指値)に当該案件の発注数量を乗じ
た金額にあらかじめ開示されていた固定経費を加算した価格で入札し,その他
の指名業者は当該金額を上回る価格で入札することによって,当該案件の受注
予定者が予定どおり当該案件を受注することができるように行動していた。
(3)本件における調達実施本部担当官の行動について
ア入札開始前段階における調達実施本部担当官の行為
契約2課の担当官は,入札説明会において,指名業者に対し,①本件石油製品の
基準価格を決定する際に用いる市況値がどの時点での市況値であるか,②グレード
差,地域差,荷姿経費等の固定経費についての具体的な金額を本件入札参加業者に
開示していた。また,平成9年度第2期までは,受注調整会社が作成した案件ご
との固定経費の金額が記載された一覧表を原計2課の担当者が事前にチェック
していた。
さらに,契約2課の担当官は,入札説明会で,当初入札の実施日だけでなく,
商議の日程や新しい入札の日程についても本件入札参加業者に告知していた。
イ当初入札の段階における調達実施本部担当官の行為
(ア)調達実施本部担当官は,P16,P13,P11,P5,P24を除
く,入札参加業者の担当者に,入札札の整理を手伝ってもらっていた。
そして,入札札の整理をしている際に,契約2課の担当官や入札札の整理を
している上記業者の担当者が入札札の金額や数量等に誤記があるのを発見した
場合には,契約2課の担当官は,指名業者に確認した上で,指名業者が誤記で
あり訂正したい旨を申し出た際には,入札札の書き換えを認めていた。
(イ)当初入札における入札は,本件前提事実のとおり合計で3回行われた
ところ,契約2課の担当官は,ほとんど間隔を空けずに連続して各回の入札手
続を行っていた。
ウ商議における行為
本件前提事実記載のとおり,商議では案件ごとに価格交渉を行うのではなく,
油種ごとに価格交渉を行うこととされており,かつ,交渉は基準価格について
のみ行われ,固定経費については交渉が行われていなかった。また,最低商議
価格(指値)のとおりに記載していない商議札については,指名業者に確認の
上,訂正を認めていた。
さらに,平成10年度に行われた入札手続の際には,商議が1回しか行われ
ていなかったが,それにもかかわらず,商議札を2回提出させていたこともあ
った。
エ新しい入札における行為
(ア)契約2課の担当官は,新しい入札において,最低商議価格に固定経費
を加算した金額よりも低い金額(すなわち,新しい入札におけ落札予定価格)
を下回る価格での入札を行った指名業者が存在した場合には,当該業者に対し
て,確認をした上で,入札札の訂正を認めていた。
(イ)複数落札制度が適用される案件については,本件前提事実記載のとお
り,各指名業者の受注希望数量が需要数量を超え,かつ,希望数量が最も少な
い指名業者が複数いる場合には,くじによる抽選で,受注数量を減らされてし
まう業者を決定するとされていたところ,契約2課の担当官は,P36から,
くじによる抽選によって受注数量を減らされてしまう業者を事前に指定するメ
モを渡され,これに従って,くじによる抽選を行っていた。
(ウ)落札業者が決定すると,当該業者は契約書を作成する作業に入るが,
契約書には調達要領指定書を添付することが必要とされていたところ,迅速な
納入が必要とされている案件については,新たな入札が行われて落札業者が決
定する前に,調達要領指定書を交付していた。
オ昭和63年から平成2年まで原計2課で勤務していたP39の作成した
書簡(乙イ11の41。以下「P39書簡」という。)には「各社が入札前に
談合をしようとやるまいと入札の結果,調本と各社と個別に商議で詰める価格
は同一価格とならざるを得ません。つまり,調本と石油元売り各社の合同商議
によって価格が決まります。この最低商議価格は調本で指示します。従って石
油元売り会社が自前(原文ママ)に談合したとしても同じ結果となります。」
との記載が存在する。
また,防衛庁内部部局武器需要課所属のP40作成の「特定石油製品輸入暫
定措置法」廃止後の石油製品の調達について」という表題の文書(乙イ11の
41。以下「P40ペーパー」という。)には「当初示達は,市況最低値をベ
ースにして示達している。これは,市況自体が日々変動することから,あえて
不調にして,その後の商議による価格交渉をねらったものである。」との記載
が存在する。
2争点1(不当な取引制限に該当するか)
(1)本件前提事実(6)及び上記認定事実(1)及び(2)によれば,本件受注調整
会社は,本件期間中,各案件の受注予定者を事前に決定した上,その他の指名
業者は当該案件について受注しないようにする旨合意し,実際の入札において
も,当該合意に従って行動して,各案件について受注予定者が受注できるよう
に行動していたことが認められる。
そうすると,本件受注調整会社は,調達実施本部が指名競争入札の方法によ
って発注する本件石油製品について,共同して,案件ごとに受注予定者を決定
し,受注予定者が当該案件を受注することができるようにすることにより,公
共の利益に反して,調達実施本部発注に係る本件石油製品の油種ごとの取引分
野における競争を実質的に制限したものと認めるのが相当である(以下,調達
実施本部発注に係る本件石油製品の油種ごとの取引分野のことを「本件取引分
野」という。)。
したがって,本件受注調整行為は,独禁法3条,2条6項所定の不当な取引
制限に当たる。
(2)これに対し,被告らは,本件においては,調達実施本部が本件石油製品
の調達不能や納入が遅滞するといった事態を防ぐとともに,会計検査院に対し
て説明がしやすいように,油種ごとの落札価格を統一するという一物一価の考
え方に基づき,被告らに対して,最低商議価格(指値)を落札価格とすること
や「当初入札3回,商議2回,最低商議価格の公表,商議の不調,新たな入札
1回で落札」という手続の流れを遵守するように指示,要請していたのだから,
本件取引分野における競争は原告によって排除されており,不当な取引制限が
成立する余地はない旨を主張し,証人P34及び証人P35の供述,同人らの
陳述書を始めとする指名業者の各担当者の陳述書の中にもこれに沿う部分があ
るので,以下検討する。
確かに,本件前提事実(6)及び上記認定事実(3)によれば,①ほとんど全ての
案件について,同じパターンで受注予定者及び落札価格が決定されていたこと
や複数落札案件についてはあらかじめ数量減となる業者が指定されたくじが用
意されていたことなどから,調達実施本部の担当官の中には,本件受注調整会
社による受注調整行為の存在を認識していた者が存在していたこと,②それに
もかかわらず,長年にわたってそのような手続を是正したり,指名業者に対し
て受注調整行為の存在を追及したりすることなく,かえって,基準価格を決定す
る際に用いる市況値を採用する時期や固定経費についての情報を事前に開示した
り,入札札及び商議札の差し替えを許容したりするほか,新たな入札での基準
価格となる最低商議価格(指値)を指名業者の前で発表するなど本来の入札手
続では想定しがたい行為に及んでいたこと,③この結果,P36が当初入札予
定価格や最低商議価格(指値)を推測して価格レンジを示すことが可能になる
だけでなく,指名業者が開示された最低商議価格と固定経費から新たな入札に
おける落札予定価格を把握することができたことが認められ,結果として,調
達実施本部担当官のこれらの行為が本件受注調整会社の受注調整行為を助長す
ることになっていたと認められる。
しかし,本件では,それまで「当初入札3回,商議2回,最低商議価格の公
表,商議の不調,新たな入札1回」という入札手続の流れが定着していたこと
(本件前提事実(6))や,本件のような経緯を経て石油製品を調達することは,
調達実施本部担当官の側にも本件石油製品の調達不能や納入遅滞といった事態
を防ぐとともに,400から500件に上ることもある発注の入札,開札等の
事務を簡略化し,さらに会計検査院や調達実施本部内部に対して競争が行われ
たという外見を整えることができるという利点が存在していたこと(甲27,
乙イ7,8,乙ロ4,5)が認められる。
そうすると,調達実施本部担当官の上記各行為は,調達実施本部担当官が当
初入札及び商議では落札業者が現れず,最終的には最低商議価格(指値)を発
表した後に行われる新たな入札を経なければならないという長年にわたる本件
石油製品の調達の実態を前提に,上記のような利点を享受するため,換言すれ
ば,上記一連の手続を経なければ発生すると予想された調達不能や事務の煩雑
化等の担当官にとって都合の悪い事態を回避するために行われたものであると
認めるのが相当であり,上記各行為をもって,調達実施本部の担当官が本件受
注調整会社に対して,上記のような入札手続で落札することを指示,要請して
いたとはいえない。
次に,P39書簡について検討すると,同書簡は,本件石油製品の調達手続
における上記のような実態を記載したものであって,それ以上に,調達実施本
部が入札参加業者に対して当初入札での落札を禁止していたとか,最低商議価
格での落札を指示していた等の事実を同書簡から認めることはできない。
また,P40ペーパーの記載についても,上記のとおり,当初入札3回では
落札予定価格で入札する指名業者が現れることがないという事態が全案件で常
態化しており,当初入札での落札の見込みがないことを前提にして,商議での
価格交渉を行っていることを記載したものであり,このような状況で長期間に
わたって当初入札での予定価格の設定を見直すことなく硬直化した調達手続を
継続して行っていた調達実施本部の担当官の行為が適当であったかという問題
はあるにせよ,当該記載をもって,調達実施本部が当初入札での落札を禁止し
ていたことや最低商議価格(指値)での落札を指示,要請ないし強制していた
等の事実を認めることはできない。
また,本件では,平成10年度第1期補正分からそれまで他の本件受注調整
会社と同様に「追っかけ」に指定されていたP13が「追っかけ」への指定を
拒否したこと及び平成10年度第3期からそれまで受注調整会議に参加してい
たP19が同会議への出席を取りやめたことが認められるところ(上記認定事
実(1)ア,イ(イ)),仮に,原告から被告らに対して,当初入札での落札を禁止
し,最低商議価格(指値)での落札を指示,要請していたのであれば,指定さ
れていた「追っかけ」への指定を拒否したり,出席していた受注調整会議への
出席を取りやめたりする必要性はないはずである。特に,P19が受注調整会
議への出席を取りやめたのが当時調達実施本部における背任問題が浮上してい
た時期と一致すること(上記認定事実(1)ア)からすると,P19の上記措置が
採られたのはこれに関連する捜査が行われる過程で,本件受注調整会社による
受注調整行為が発覚することを恐れたために採られた行動であると考えるのが
合理的であり,これらの事実からしても,調達実施本部の担当官が被告らに対
して,当初入札での落札を禁止し,最低商議価格(指値)での落札を指示,要
請していたとは認めがたい。
以上によれば,本件では,調達実施本部担当官の行為は,これまでの調達の
実態から当初入札及び商議では受注業者が決まらず,最低商議価格(指値)を
公表し,当該価格を基準とする新たな入札で受注業者が決定されてきたことを
前提にして,調達不能や調達遅滞といった事態を避け,調達事務を簡略化・省
略化するとともに,会計検査院に対して合理的な競争を行っているという説明
を行うために行っていたものであって,本件受注調整会社の行為を是正するこ
となく長年に渡って行われたこれらの担当官の行為が会計法上あるいは指名競
争入札によって石油製品の調達を行う公務員の職務倫理に照らして重大な問題
があったことは否定できないものの,同担当官が本件受注調整会社に対して,
明示的又は黙示的に,当初入札での落札を禁止していたとか,最低商議価格で
の落札を禁止していたというものでは決してなく,本件受注調整会社側の受注
調整行為が先行して行われてきた事態を受けてこれに対応してされたものに他
ならない。
そうすると,本件では,指名業者間に自由競争の可能性が存在しており,本
件受注調整会社の受注調整行為によってこの自由競争の機会が奪われてしまっ
たことは明らかである。
したがって,上記P34らの供述部分及び陳述書記載部分をたやすく信用す
ることはできず,他に本件受注調整行為が不当な取引制限に当たるとの当裁判
所の認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると,調達実施本部の担当官が,
指名業者に対し,当初入札での落札や商議での随意契約の締結を禁止し,新た
な入札において最低商議価格(指値)を基準とする価格で落札するように指示,
要請していたため,本件取引分野における競争が排除されており,本件受注調
整行為が独禁法3条,2条6項の不当な取引制限に該当しない旨の被告らの主
張は理由がなく,採用することはできない。
争点1に関する原告の主張には理由がある。
3争点2(本件売買契約は無効であるか)
独禁法に違反した行為に起因した私法上の法律行為の効力については,その
法律行為が独禁法に違反したことに起因することをもって直ちに無効となるこ
とはないが,当該法律行為が公序良俗に違反する場合には無効になると解すべ
きである(最高裁判所第二小法廷昭和52年6月20日判決・民集31巻4号
449頁参照)。
そこで,本件受注調整行為が選考した本件売買契約が公序良俗違反といえる
かどうかについて検討する。
この点,被告らは,本件期間である平成7年から平成10年当時には,独禁
法に違反するというだけで契約が無効になるという公序は存在していなかった
旨主張する。
しかし,独禁法上,不当な取引制限に対しては,同法制定当時から本件当時
に至るまで,排除措置命令や課徴金等の行政処分だけでなく,刑事罰まで設け
られていたところ,その趣旨は,不当な取引制限によって同法の目的である公
正かつ自由な競争による一般消費者の利益を確保し,国民経済の民主的で健全
な発展を促進するという点が阻害される事態を防止するためであると解される
から,本件期間当時においても,不当な取引制限が経済秩序において許容され
ない反社会性の強い行為であるとの認識が存在していたものと認められる。
しかして,本件受注調整行為は談合行為であって,不当な取引制限の中でも
明らかにその性質上自由競争秩序を阻害する行為であるのみならず,一般消費
者の利益を害する行為として社会通念上容認することはできない。
そして,本件売買契約は本件受注調整行為によって競争を消滅させた後に,
本件受注調整会社が当該行為から具体的な利益を得るための手段として行われ
たことからすると,本件売買契約と本件受注調整行為は密接不可分な関係にあ
り,本件売買契約を無効にしなければ,上記独禁法の趣旨は没却されると言わ
ざるを得ない。したがって,本件売買契約は公序良俗に反し無効であると解す
るのが相当である。
これに対し,被告らは,①調達実施本部担当官の意向に従って納入業者を決
定していたこと,②調達実施本部担当官に不適切な行為があり,被告らはそれ
に従ったに過ぎないこと,③被告らは,原告に対して,本件石油製品を有利な
価格で売却していたなどとして,本件売買契約の締結は,公序良俗に反しない
旨を主張する。
しかし,上記認定のとおり,本件で受注予定者を決定していたのは,あくま
でも被告らであったのだから,上記①の主張に理由がないことは明らかである。
また,調達実施本部担当官に会計法の趣旨等に照らして,不適切な行為があ
ったこと自体は否定できないものの,被告らが本件受注調整行為によって競争
秩序を害していたという点は変わらない。さらに,本件売買契約によって,調
達実施本部にも一定のメリットが存在したことは事実であるにせよ,他方で,
被告らも長年にわたり競争を行うことなく本件取引分野におけるシェアを維持
し続け,利益を獲得してきたことは明らかである。
したがって,本件における上記事情を考慮したとしても,被告らの受注調整
行為に起因する本件売買契約の締結が公序良俗に反しないことにはならないと
いうべきである。
争点2に関する原告の主張には理由がある。
4争点3(原告とP16との間の本件売買契約の効力)
(1)証拠(甲16ないし26)及び弁論の全趣旨によれば,本件におけるP
16の行動等については,以下のとおり認定できる。
アP16は,本件受注調整会議には参加していなかったものの,本件受注
調整会社が受注調整行為を行っていることは認識していた。
イP16は,当初入札を不調に終わらせるために,当初入札1回目におい
ては全件について当初予定落札価格を上回る価格で入札し,自社が受注を希望
しない案件については当初入札2回目の入札で辞退札を入れ,受注を希望する
案件については2回目以降も入札を続けた。これによって,他の指名業者は,
P16が2回目以降も入札を続けた案件については,P16が受注を希望する
案件であるということを認識した。
ウP16が受注を希望する案件については,毎回ほぼ同じ案件であったこ
とから,他の指名業者は受注調整会議において,P16が受注を希望すると予
想される案件については,受注予定者を決める案件から除外し,当該案件につ
いて,P16との競争を回避した。また,受注調整会議においてP16が受注
を希望しないと予想し,受注予定者を決めた案件について,P16が当初入札
2回目以降も入札を続けてきた場合には,当該案件の受注予定者が辞退札を入
れて,P16との競争を回避した。
エ上記ウのとおり,P16以外の指名業者がP16との競争を回避すると
いう行動に出ていたのは,P16との間で価格競争になった場合に,P16は
低い価格での競争を厭わない会社であるという認識が存在しており,万が一,
P16が低い価格で受注をしてしまうと,商議においてP16の落札価格を材
料として,価格を引き下げられてしまうおそれが存在したためであった。
そして,実際にも,P16は,自社が受注を希望する案件について,他の指
名業者が当初入札2回目以降も入札を続けてきた場合に備えて,いつでも価格
競争に応じられるように準備をしていた。
オ以上の点を除く,P16の入札手続及び商議における行動は,他の指名
業者と同様であった。すなわち,自社が受注を希望する案件については,当初
入札3回,商議2回のいずれにおいても当初予定入札価格を上回る価格で入札
してこれを不調とさせた上,調達実施本部の担当官から最低商議価格(指値)
の提示を受け,最低商議価格(指値)に固定経費を加算した金額を記載した商
3札と,辞退札である商4札を提出し,その後行われる新たな入札において最
低商議価格(指値)に固定経費を加算した金額で当該案件を受注していた。
(2)以上の認定事実及び本件前提事実によれば,P16は,他の指名業者が
受注調整行為に及んでいることを認識しながら,これを利用することによって,
競争を経ることなく自己が入札を希望する案件を受注していたことが認められ,
このようなP16の行為は,他の指名業者によって本件取引分野における競争
が制限されていたことに便乗して利益を得ていたと指摘されても無理からぬ点
もある。
しかし,本件受注調整会社の本件売買契約の締結が公序良俗に反するのは,
本件受注調整会社が受注調整行為を行い,他の業者と共同して,積極的に自由
競争を停止することによって,競争秩序を害していた点に求められるところ,
P16が自らの経営判断のみによって,受注を希望しない案件について辞退す
ることや他社と競争してまでシェアを拡大する必要がないと判断すること自体
は,仮に本件取引分野において自由競争が行われていたとしてもあり得る事態
であるのだから,自らの判断のみによって受注を希望する案件について入札を
し,そうでない案件については受注をしないという行為自体は,何ら競争秩序
を害するものではない。
そして,受注を希望する案件については2回目も入札をし,受注を希望しな
い案件については当初入札2回目で辞退札を入札するという行動を取ることに
よって,本件受注調整会社に対し,P16が落札を希望する案件を暗示してい
たという点についても,上記のとおり,どの案件について受注を希望するかは
P16が自ら判断していたものであり,希望しない案件についてまで当初入札
2回目以降あるいは新たな入札において入札しなければならないわけではない
のだから,P16の当該行動自体が直ちに競争秩序を害するものと評価するこ
とはできず,当該行動の結果,本件受注調整会社にP16が受注を希望する案
件が伝わり,本件受注調整会社が競争を回避した結果,原告とP16との間に
本件売買契約が締結されたとしても,そのことが直ちに同売買契約が公序良俗
に反することを基礎づけるものとはいえない。
また,確かに,P16が受注を希望する案件について,本件受注調整会社が
共同して辞退札を入札する行為は,P16との価格競争を回避し,受注調整行
為によって作り出す競争制限状態を維持するために行われるものであり,本件
受注調整会社にとっては不当な取引制限に当たりうるが,それだからといって,
このような他社(本件受注調整会社)の行為を理由にP16が競争秩序を害し
ていると評価することができないことは明らかである。
この点について,P16は自由競争が排除された結果,不当に高額に形成さ
れた代金により受注調整会議に参加していた本件受注調整会社と同様に不当な
利益を得ていた旨原告は主張する。
しかし,ある取引分野において行われている競争制限行為に参加していない
事業者が,他の事業者により競争制限行為が行われていることを認識した場合
に,自らも利益を拡大しようとこれに追随することを法的に非難することはで
きず,このような場合に他の事業者の本件受注調整行為を阻止すべき法的義務
がP16にあるとはいえない。
また,当該競争制限行為によって形成された価格に追随していくことが公序
良俗に反するとすると,競争制限行為に参加していない事業者は従来どおりの
価格での販売を強いられることになり,競争制限行為に参加している事業者に
比べて少ない利益しか得ることができず,いずれは市場からの退場を余儀なく
されてしまうおそれが高いところ,このような結論はかえって当該取引分野の
一部の事業者による競争制限行為による競争制限効果を高めることになりかね
ない。むしろ,このような場合には,公正取引委員会による速やかな競争秩序
の回復が期待されるのであって,そのような措置が執られないリスク又は不利
益を競争制限行為に参加していない事業者に負担させる事態は,当該事業者に
対し,過大な負担を課すことになり,適切ではないというべきである。
したがって,P16が他の指名業者により競争制限行為が行われていること
を認識しながら,当該行為によって形成された価格に追随して本件石油製品の
価格を引き上げた上で,本件売買契約を締結したからといって,直ちに当該行
為が競争秩序を害したとはいえず,原告とP16の間の本件売買契約が公序良
俗に反するとまでは認められない。
さらに,原告は,原告とP16との間の本件売買契約の効力を無効としなけ
れば,会計法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が存在する旨主
張し,その根拠として,受注調整行為によってあらかじめ決められた受注予定
者が実体のない競争入札により国との間で契約を締結することを会計法令がお
よそ許容してないことを挙げる。
しかし,上記のとおり,本件において,そもそもP16は本件受注調整行為
には参加しておらず,自社の判断によって,受注を希望する案件については入
札し,そうでない案件については辞退札を入れたのであるところ,そのこと自
体は自由競争が行われていたとしても同様に生じうる事態なのだから,このよ
うなP16の行為が結果的に本件受注調整会社の競争回避意図と合致すること
になったとしても,会計法令の規定の趣旨を没却するものであるとは認められ
ない。
そして,本件受注調整会社が競争を回避した結果,P16が希望した案件に
ついて落札することができたとしても,それは自社とは関係のない第三者の行
為に起因する以上,そのような事由を原因に原告とP16との間の本件売買契
約を無効にすることはできないというべきである。したがって,この点につい
ての原告の主張は採用できない。
そうすると,本件では,原告とP16との間の本件売買契約は有効であり,
被告P8に対する請求のうち,P16との間の本件売買契約に基づいて支払っ
た売買代金の返還を求める原告の請求は,その余の点について判断するまでも
なく理由がない。
5争点4(被告P7及び被告P8が本件売買契約の当事者であるか)
本件前提事実によれば,本件受注調整行為に参加し,①原告との間で本件売
買契約を締結したのは,P24及びP23であったこと,②P24は,被告P
7の代理人として,P23は,被告P8の代理人として,本件売買契約を締結
したことが認められる。
また,P24及びP23が原告との間で締結した本件売買契約が公序良俗に
反し無効であることは,上記争点1において述べたとおりである。
そして,代理人の法律行為の瑕疵は本人にも及ぶところ(民法101条1項),
本件ではP24は被告P7の代理人として,P23は被告P8の代理人として,
それぞれ原告との間で本件売買契約を締結したのだから,P24及びP23が
行った公序良俗違反行為の効力もそれぞれ本人である被告P7,被告P8に及
ぶと認められる。
これに対し,被告P7及び被告P8(以下,この項において「被告ら」とい
う。)は,代理人であるP24,P23との間の契約では,売り切り・買い切
りの契約になっていた旨主張するが,両者の間でどのような取り決めがされて
いたとしても,それはあくまでもP24,P23と被告らの内部関係の問題で
あり,上記のとおり,P24,P23が被告らの代理人として本件売買契約を
締結した以上,その瑕疵も本人である被告らに及ぶという結論を左右するもの
ではない。なお,被告らは,代理権の濫用について原告が悪意であり,したが
って,代理人の法律行為の効果は本人である被告らに及ばない旨も主張するが,
その点はさて措き,そもそも原告は,本件売買契約が無効であることを前提と
して,不当利得返還請求権に基づき代金相当額の返還を求めているのだから,
被告らの代理権の濫用という主張は,原告の主張との関係では意味を持たない。
したがって,被告P7及び被告P8は,本件売買契約の当事者であると認め
られ,争点4に関する原告の主張には理由があり,被告らの主張は採用できな
い。
6争点5(被告P9は旧被告P12の不当利得返還債務を承継しているか)
(1)本件では証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,本件分割計画書に
は,本件新設分割について,旧P21が旧被告P12に対し,旧P21の石油
部門,事業開発部門及び不動産部門に係る営業(以下「本件営業」という。)
を分割し,本件営業に係る一切の資産,負債,契約上の地位その他の権利義務
を承継させる旨が定められていたことが認められる。
(2)原告は,旧被告P12が旧P21から本件会社分割によって,不当利得
返還債務を承継した旨主張するものと解されるところ,原告の旧P21に対す
る不当利得返還請求権は,原告が旧P21との間で締結した本件売買契約から
直接生じる権利義務ではないものの,旧P21の石油部門に関する営業に含ま
れる本件売買契約に起因して生じる権利義務であることから,本件新設分割に
よって,旧P21から旧被告P12に承継された「本件営業に係る…権利義務」
に含まれると解される。
そして,本件前提事実(1)イ(ウ)によれば,旧被告P10は,平成22年7月
1日,旧被告P12をそれぞれ吸収合併した上,同日,商号をP9に変更した
ことが認められることから,本件では,被告P9が旧P21の不当利得返還債
務を承継しており,この点に関する原告の主張には理由があり,被告P9の主
張は採用できない。
7争点6(原告の不当利得返還請求権の消滅時効の成否)について
(1)被告らは,原告の不当利得返還請求権は,商事消滅時効によって,全て
消滅している旨を主張する。
しかし,商事消滅時効を定めた商法522条の適用又は類推適用されるべき
債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなけれ
ばならないと解されるところ,売買契約が公序良俗に反し無効である場合の代金
相当額についての不当利得返還請求権は法律の規定によって生じる債権であり,迅
速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて,商行為によって生じた債
権に準ずるものと解することもできないから,その消滅時効の期間は民事上の一般
債権として民法167条1項により10年と解するのが相当であり(最高裁判所第
一小法廷昭和55年1月24日・民集34巻1号61頁参照),被告らの主張を採
用することはできない。
(2)また,被告らは,本件売買契約が締結されてから10年間が経過した契約に
ついては,民法上の消滅時効が成立している旨も主張する。
しかし,会計法32条は「法令の規定により,国がなす納入の告知は,民法第1
53条の規定にかかわらず,時効中断の効力を有する」旨規定しているところ。原
告は,被告らに対し,国の債権の管理等に関する法律13条1項に基づき,納入の
告知をし,それぞれの被告に到達している(本件前提事実(10))ことから,原告の
被告らに対する不当利得返還請求権の消滅時効は,それぞれの被告に対する納入告
知の到達時に中断したと認められる。
これに対し,被告らは,原告の納入通知はどのような事実をもって不当利得返還
請求権が存在するのかという点について何らの説明もなく,また,請求原因につい
て内訳が添付されているものの具体的な算定根拠が明らかにされていないのだから,
原告の納入告知に時効中断の効力は認められない旨主張する。しかし,会計法32
条が民法153条の特則として,納入告知だけで時効中断を認めた趣旨は,納入告
知が一般の催告とは異なり,関係法令の定めに基づく形式と手続に従ってされるも
のであり,権利行使についての国の意図が常に明確に表示されている点にあるので
あって,債権の成立や内容の認定が正確に行われた点にあるのではないから,納入
告知が関係法令の定めに基づく形式と手続に従って行われたものであれば,納入告
知による時効中断の効力が発生すると解すべきである。
そして,本件では,原告の被告らに対する納入告知(甲9,10)は,国の債権
の管理等に関する法律13条,会計法6条,予決令29条,国の債権の管理等に関
する法律施行令13条などの関係法令の定めに基づく形式と手続に従ってされたも
のと認められるから,原告の被告らに対する不当利得返還請求権の消滅時効は,上
記のとおり,被告らに対して納入告知が到達した時点で中断していると認められ,
被告らの主張には理由がない。
8争点7(本件売買代金の支払が不法原因給付に該当するか)及び争点12(本
件石油製品の引渡しが不法原因給付に該当するか)
まず,原告は,国の財政基盤が国民の税金であることから,原告には国民全体の
利益という保護すべき利益が存在しているため,原告に対しては,不法原因給付の
規定の適用が排除する旨主張する。しかし,不法原因給付制度の趣旨は,法の是認
しない行為に及んだ者については,法による保護を求めることが許されないという
点に求められるところ,このような趣旨は,給付を行ったのが私人であるか,国で
あるかという違いによって左右されるものではないのだから,この点において原告
の主張には理由がない。
しかしながら,民法708条にいう不法の原因のための給付とは,その原因とな
る行為が公序良俗に違反する場合の全てを意味するものではなく,その行為の実質
に即し,当時の社会生活及び社会感情に照らし,真に倫理,道徳に反する醜悪なも
のによると認められるか否かによって決せられるべきである(最高裁判所昭和37
年3月8日第一小法廷・民集16巻3号500頁参照)。
これを本件についてみるに,上記争点2についての判示のとおり,本件売買契約
は本件受注調整行為たる談合行為に起因するものであって,これを容認すれば,独
禁法の趣旨を没却することになるものとして,社会経済秩序維持の観点から無効と
せざるを得ないところではあるが,社会倫理,道徳に反する醜悪な行為によるから
無効とされるものではないことが明らかである。
したがって,談合の結果を反映した本件売買契約による不法な利益を収受させな
いとする必要性はあるものの,同契約により交換された財貨の全ての返還を拒否す
る必要があるとはいえず,したがって返還範囲の調整は民法708条によるべきで
はなく,同法703条又は704条の規定の適用により行うべきである。
そうすると,本件において,本件売買契約に基づく売買代金の支払及び本件石油
製品の引渡しいずれについても民法708条所定の不法原因給付には当たらないと
解するのが相当である。
争点7に関する被告らの主張及び争点12に関する原告の主張にはいずれも理由
がない。
9争点8(非債弁済の成否)
被告らは,原告が被告らに本件売買契約に基づき代金を支払ったことは,民法7
05条の非債弁済にあたることから,原告が被告らに対し売買代金相当額の金員の
返還を不当利得として求めることはできない旨主張する。
しかし,①民法705条から708条の規定は,いずれも債務の弁済ないし給付
の原因が欠けている場合に,当該弁済の返還を求めることができないという効果を
定めた規定であるところ,その中でも民法708条の不法原因給付は,法は不法な
目的の給付行為に助力しないとの観点から,特に不法な原因を目的として給付を行
った場合についての効果を定めるものであること,②民法708条の不法原因給付
が適用される場面において,同法705条の非債弁済の規定が適用されるとすると,
同法708条ただし書が用いられる場面が極めて限定的になってしまい,受益者に
不法な原因がある場合にもなお当事者間の利益を調整するために設けられた同法7
08条ただし書の規定が実質的に空文化してしまうこと,③他方で,同法708条
の不法原因給付が適用される場合においても,同法705条の反対解釈によって,
債務の存在することを知らなかった場合には,給付者が受益者に対し,返還請求を
することができる余地が生じかねず,妥当とは言えないことなどに照らして考える
と,本件のように,不法な原因があることを認識しながら給付を行った者の返還請
求が認められるか否かが問題となる場面においては,専ら同法708条の不法原因
給付に当たるか否かを問題とすべきであり,同法705条の非債弁済の規定は適用
されないと解すべきである。
これに対し,被告らは,最高裁判所昭和32年11月15日第二小法廷判決・民
集11巻12号1962頁及び同昭和35年4月14日第一小法廷判決・最高裁判
所民集14巻5号849頁を引用し,本件においても非債弁済の規定が適用される
旨主張するが,被告らの引用する判例は,事案を異にし,本件に適切でない。
10争点9(原告の請求が信義則に違反するか)
被告らは,調達実施本部の担当官が被告らの本件受注調整行為を認識してい
たこと,原告にも石油製品の安定的かつ迅速な調達が可能になる等の利点があ
ったこと,それにもかかわらず,被告らが納入した石油製品を既に全て費消し
た段階で,本件売買契約の無効を主張し,被告らに対し,売買代金相当額の返
還を求めることは信義則に反する旨主張する。
しかし,本件では,上述のとおり,直接的に競争秩序を侵害したのは被告ら
であって,調達実施本部の担当官が受注調整行為を指示,強制したわけではな
いこと,被告らも長年にわたって競争を経ることなくシェアを維持することが
できていたこと,公序良俗に反し無効である法律行為について,無効であると
主張すること自体は,法秩序を維持する責務を負っている原告の役割に照らせ
ば当然であること等の事情に照らせば,本件における原告の被告らに対する不
当利得返還請求が信義則に反するとまではいえず,被告らの主張を採用するこ
とはできない。
11争点10(同時履行の抗弁権の行使の可否)
被告らは,本件売買契約が無効であるとした場合,原告に対して引き渡し済
みの本件各石油製品の原物返還を請求することができる旨主張し,原物返還が
履行されない限り,代金相当額の金員の返還を同時履行の抗弁によって拒むこ
とができる旨主張する。
しかし,利得者が代替性のある目的物を費消してしまった場合に,損失者が
不当利得返還請求権に基づき,目的物の原物返還を請求することができるとす
ると,費消後の目的物の価格の変動によって,利得者が必要以上の返還義務を
負ってしまい(上昇した場合),あるいは,利得した全部又は一部の価値の返
還を免れる(下落又は無価値になった場合)というように,不当利得制度の趣
旨である公平の観念に反する結果が生じかねない。
したがって,利得者が代替性のある目的物を費消してしまった場合には,損
失者は当該目的物の原物返還を請求することはできず,当該目的物の価格相当
額の金員の返還を請求することができるに止まると解すべきである(第三者に
売却処分した事案につき,最高裁判所平成19年3月8日第一小法廷判決・民
集61巻2号479頁参照)。そして,本件石油製品は既に費消されているこ
とは弁論の全趣旨から明らかである。
そうすると,石油製品の現物返還を請求することができることを前提に,石
油製品の現物との引換給付を求める争点10に関する被告らの主張は採用でき
ない。
12争点11(本件石油製品の価格の算定方法)
(1)立証対象の価格の内容について
争点1及び2の判示によれば,本件売買契約は公序良俗に反して無効である結果,
原告は,被告らに対し,本件売買契約に基づき,被告らに支払った売買代金相当額
について不当利得返還請求権を行使することができ,他方,被告らは,原告に対し,
不当利得返還請求権に基づき,同契約上の債務の履行として原告に引き渡した本件
石油製品の引渡しを求めることができることになる。
しかし,争点10の判示によれば,本件においては,原告は,既に上記引渡しに
係る石油製品をすべて費消しており(もっとも,上記引渡しの際,当時の防衛庁の
認定タンク等に納入されたような場合は,そこに残存している燃料との区別がつか
なくなり,混和状態を生じるから,費消前に原物返還不能となる。),被告らは,
原告に対し,本件石油製品の原物返還を請求することができないから,それに代わ
るものとして,上記引渡しに係る本件石油製品の価格相当額の支払を請求するほか
はないことになる。被告らは,この不当利得返還請求権を自働債権として,原告の
本訴請求債権である不当利得返還請求権を受働債権とする対当額での相殺を主張す
るところ,上記石油製品の価格について,当該市場において自由競争がされていた
場合に形成されたであろう取引価格,すなわち,想定落札価格であると主張してい
るのに対し,原告は,上記引渡時における本件石油製品の客観的価格であると主張
している。しかしながら,被告らは,原告から上記引渡しに係る本件石油製品の返
還を求めることができたところ,これが混和又は費消により不能となったものであ
るから,公平の観念に照らせば,原物返還不能時における当該石油製品の客観的価
格が返還対象価格になると解するのが相当である。
そうすると,被告らは,上記引渡しに係る本件石油製品の原物返還不能時(混和
又は費消時)における同製品の客観的価格について主張,立証責任を負うことにな
る。しかしながら,本件売買契約は,本件期間内の各期ごとに多数締結されている
上に,同契約に基づく本件石油製品の引渡しも数回にわたって納入されることもあ
り(弁論の全趣旨),さらにその引渡しに係る同製品の混和又は費消が当該物品ご
とにいつ生じたものであるのかについては,被告らとしては通常関知し得ない事項
である。したがって,被告らに上記の主張,立証責任を課することは著しく酷に過
ぎる結果をもたらす反面,原告が被告らに対する不当利得返還請求権を行使するた
めに,本件売買契約の金額を主張,立証することは極めて容易であって,両者の間
に明らかに不均衡をもたらしかねない。もっとも,この点については,被告らによ
る談合という違法行為がされた以上,その結果を被告らが甘受すべきであるとの議
論もあり得ようが,そもそも,談合に基づくもの故に本件売買契約を公序良俗に反
して無効とする所以は,それを容認することが公正な競争秩序を維持し,一般消費
者や国民全体の利益を図るという独禁法の趣旨・目的に反することになるからであ
って,その目的を達成するために本件売買契約を無効にする以上に,その結果,被
告らの原告に対する不当利得返還請求権の行使を困難にさせることまでをも合理化
ならしめるものではないはずである。
そうすると,本件売買契約に基づく原物が返還不能な場合における返還対象価格
については,上記のとおり,原物返還不能時における物の客観的価格であるとしつ
つも,その立証責任については,本件事案における実態に照らして,相当な軽減を
図る必要がある。
そこで,この点について検討するに,上記認定事実によれば,本件石油製品は,
一般燃料と航空タービン燃料とに分かれ,調達実施本部が全国の自衛隊の基地等に
おける任務遂行に必要な物品として,製造又は販売を業とする被告らから定期的に
調達していたことや,本件期間中における本件石油製品の調達は,1年度に6回又
は7回行われており,各回の間はせいぜい2,3箇月程度の期間しかなく,各回に
おいては,当該基地等における油種ごとに原則として指名競争入札が行われ,その
結果,売買契約が締結されていたことが明らかである。そうすると,原告が本件石
油製品を本件売買契約に基づき被告らから引渡しを受けてから同製品の大半を費消
するまでは,概ねせいぜい3箇月程度の期間に過ぎない蓋然性が高かったと認めら
れ,また,混和となると引渡直後にその状態が生じている蓋然性が高かったと認め
るのが相当である。したがって,本件売買契約締結時と原物返還不能時との間には
さほどの間隙はなかったものと推認できる。
また,原物返還不能時における物の客観的価格についてみても,本件前提事実(4)
イ(イ)によれば,航空タービン燃料は一般の市場には流通していない当時の防衛施
設庁独自の仕様を定めた製品であるという特殊性があって,一般市場における時価
というものを想定することは困難であり,一般燃料についても,いかなる市場を予
定したものであるかによって,仕入れ条件,仕入れ価格及び販売価格等に大きな影
響があり,単純に客観的価格を市況から算出することは容易ではない。他方,本件
においては,不当利得構成であっても,原物返還不能の場合であるから,結局は実
質的に売買代金額から返還不能時の客観的価格の差額の返還を認めることにほかな
らないのであり,不法行為構成を採った場合に実際の売買代金額から想定落札価格
を控除した差額を損害としてその賠償請求を認める状況に類似することになる。そ
して,上記のとおり,本件売買契約を公序良俗違反を理由に無効とする趣旨からす
れば,損害賠償請求額が上記不当利得返還請求額と一致したとしても,独禁法の目
的を一応達成することはできるものといえる。
以上の点を総合勘案すれば,被告らにおいて,本件売買契約締結時における本件
石油製品の想定落札価格(その時点で自由な競争がされていたとすれば,少なくと
もその金額で落札され,それに基づき本件売買契約に係る売買代金の基礎とされて
いたであろう金額)を主張,立証すれば足り,原告において,同契約締結時から原
物返還不能時までの間における有意的な経済事情による変動があり,その変動を反
映しなければ適正な価格の算定が困難であるとか,想定落札価格は客観的価格を明
らかに上回るとみられる確かな根拠がある等の特段の事情を主張,立証できない限
り,上記想定落札価格をもって,原物返還不能時における本件石油製品の客観的価
格であると事実上推定するのが相当である。そして,本件の場合は,上記特段の事
情についての主張,立証がされているとはいえない。
そこで,かかる観点に立って,本件売買契約締結時における想定落札価格につい
て次に検討する。
アスプレッド方式について
被告らは,スプレッド方式によって,本件取引分野における本件石油製品の
想定落札価格を算定すべきであると主張し,原告は,その算定方式の合理性を
争うので,この点について検討する。
被告らの主張するスプレッド方式は,自由競争期間における基準となる商品(以
下「基準商品」という。)の市況値と,問題となっている製品(以下「対象商品」と
いう。)の落札価格との乖離値を求め,当該乖離値を競争制限期間における基準商品
の市況値に加算ないし減算することによって,当該市場における想定落札価格を求
めるという方法である。
この方式は,自由競争期間における基準商品の市況値と対象商品の落札価格との
乖離値をもって対象商品の想定落札価格を求める方式であることから,基準商品と
対象商品の価格形成要因が同一であり,基準商品の価格変動が対象商品の想定落札
価格の変動に反映される場合であれば,対象商品の想定落札価格の形成に影響を及
ぼす経済的要因に変動があった場合でも,同一の価格形成要因を有する基準商品の
市況値にその変動が反映され,基準商品の市況値に自由競争期間における対象商品
の落札価格との乖離値を加算・減算する形で,当該変動が対象商品の想定落札価格
にも反映されることになる。
したがって,被告らの主張するスプレッド方式は,経済的要因の変動を排除して
想定落札価格を求めうる方法であり,ある商品の想定落札価格を推認する方法とし
ては一定の合理性が認められるといえる。
しかし,仮に,基準商品とは異なる経済要因によって対象商品の価格が変動する
可能性がある場合には,この算定方式を用いても,対象商品の想定落札価格の形成
に影響を及ぼす経済的要因を排除することができず,基準商品の市況値に乖離値を
加算ないし減算しただけでは対象商品の想定落札価格を推認することはできない。
そこで,この算定方式を用いるためには,前提として,対象商品の価格が基準商品
の価格に連動して形成されること,換言すれば,基準商品と対象商品の間に独自の
価格変動要因のないこと,あるいは,独自の価格変動要因が存在していたとしても
想定落札価格に及ぼす影響が小さいことが必要となると解すべきである。
そこで,本件について検討すると,被告らは,調達実施本部が発注する航空ター
ビン燃料が灯油を基材とすることや,調達実施本部自身も航空タービン燃料の価格
を決定する際に灯油の市況値を参考としていること等を根拠とし,灯油を基準商品
として,対象商品である航空タービン燃料の想定落札価格を推認することができる
旨主張する。
しかし,航空タービン燃料は,灯油を基材とするとはいえ,その他にもナフサや
添加剤等を加工して生産される商品であること(本件前提事実(1))からすると,例
えば,灯油の市況値の上昇とナフサの価格の上昇が相まって灯油の市況値の上昇以
上に航空タービン燃料の落札価格が上昇する可能性や,灯油の市況値が下落したと
しても,添加剤等の価格が下落しなかったために,灯油の市況値の下落に比べて航
空タービン燃料の落札価格の下落幅が小さくなる可能性が存在し,また,これら灯
油には存在しない精製過程に伴う費用の増減などが生じる可能性も存在することに
なる。
したがって,例えば,基準商品と対象商品が同一の石油製品である場合には,両
者の間に独自の価格変動要因が存在しないことを事実上推認でき,その結果,上記
スプレッド方式によって,本件取引分野における石油製品の想定落札価格を推認す
ることができるとしても,灯油と航空タービン燃料とは,あくまでも異なる精製方
法によって製産される別個の石油燃料であることにかんがみれば,灯油の価格と航
空タービン燃料の価格の間に独自の価格変動要因が存在していないとか,両者の間
に存在する価格変動要因は想定落札価格に及ぼす影響が小さいものであるといった
事実を直ちに推認することはできないといわざるをえない。そして,被告らは,こ
の点について,灯油と航空タービン燃料の原料及び製造方法が類似していることを
主張するにとどまり,それ以外に両者の間に独自の価格変動要因が存在していない
ことや価格変動要因が存在したとしても想定落札価格に及ぼす影響が小さいという
事実について,具体的な立証をしておらず,本件ではそのような事実を認めるに足
りる証拠はない。
のみならず,スプレッド方式が機能する前提として,本件期間と自由競争期間に
おける調達実施本部の調達諸条件,すなわち,入札資格や製品に関する条件等が同
一又はほとんど変わらないこと等の事情が必要であるところ,この点については,
平成11年度第4期に認定工場を有しない企業でも入札が可能になり(甲35,弁
論の全趣旨),平成12年度第3期以降応札意向調査が行われるようになったり(甲
34,37),平成14年度第4期ないし平成15年度末には航空タービン燃料にか
かる参照単価の変動に伴う契約金額の変更に関する特約が付せられていたものであ
る(甲36)。
そうすると,被告ら主張の第1次自由競争期間又は第2次自由競争期間と本件期
間とを比較して,上記調達諸条件を同一にしていたとか,その条件にほとんど差異
がなかったとまではいえず(その点を認めるに足りる証拠は無い。),スプレッド方
式による相対評価として,経済的要因の変動は無視することが仮にできたとしても,
本件においてスプレッド方式が適応するとはいえない。
したがって,本件においては,航空タービン燃料の想定落札価格を灯油の市況値
と航空タービン燃料の落札価格の乖離値を求めた上で,競争制限期間中の灯油の市
況値に加算ないし減算するというスプレッド方法を用いるための前提条件を満たし
ておらず,スプレッド方式に基づき算出された航空タービン燃料の価格が想定落札
価格である旨の被告らの主張は採用できない。
イ市況平均方式について
(ア)上記のとおり,不当利得返還制度が公平の観念に基づく制度であることに
かんがみれば,被告らが原告に対し請求することができる石油製品の客観的価格と
は,本件市場における本件石油製品の価格であり,その算出にあたっては,同一の
市場における実際の取引価格を参考にするのが最も適切な方法である。
これに対し,被告らの主張する市況平均方式は,競争制限期間中の競争が制限さ
れていた市場における製品の客観的価格(以下「対象市場価格」という。)を同期間
中の異なる市場での取引価格(以下「比較市場価格」という。)から推認する方法で
ある。
この点について,原告は,市況平均方式について,被告らが立証すべき本件
石油製品の「価格」は,①一義的に定まる価格か,②一義的に定まる価格が最
低でもそれを下回ることがない最低値を意味するところ,市況平均方式は,平
均値を基準とすることから,一義的に定まる価格や一義的に定まる価格が最低
でもそれを下回ることがないことを立証したことにはならない旨主張する。
しかし,上述のとおり,ある製品の価格は様々な要因によって形成されうる
ものであり,競争制限期間中の製品価格について,事後的に1つの数値を確定
できるとは必ずしも限らず,一定の推認をもって算定せざるを得ないところ,
同製品についての別の市場での実際の価格の平均値を基準として,競争制限期
間中の製品価格を推認するという方法にも一応の合理性が認められないとはい
えない。
もっとも,市況平均方式による場合には,価格を比較する市場が異なるので,比
較市場価格から直ちに対象市場価格を推認することはできず,前提として,対象市
場価格が比較市場価格を最低でも下回らないことが立証されなければならないと解
される。
そこで,かかる観点に立って,本件につき検討する。
(イ)一般燃料について
被告らは,一般燃料について,本件市場と一般の市場を比較した場合,①供給者
が指名業者に限定されていたこと,②事務経費が割高であること,③決済条件が不
利であることなどの要因が存在するので,本件市場における一般燃料の価格は,最
低でも一般燃料の5市況平均ないし3シグマを下回ることはない旨主張する。
しかし,他方で,本件では,比較市場価格の基準となる市況値における取引量は,
油種によっても異なるもののおよそ10KLから50KLであるのに対し,本件石
油製品の調達量は,少なくとも200KLから300KLで,多いときには数万リ
ットルにも上っていたこと(弁論の全趣旨,訴状別表2参照)が認められるところ,
一般に需要量が多い場合には価格が下落することに照らして考えると,上記事実だ
けでは,本件市場における一般燃料の価格が市況平均値を下回ることを推認するに
は足りず,他にこれを認めるに足りる事実はない。
したがって,本件では,5市況平均ないし3シグマから本件市場における一般燃
料の価格を推認することはできず,その他に一般燃料が被告ら主張の金額であるこ
とを認めるに足りる事実もない。
(ウ)航空タービン燃料について
被告らは,航空タービン燃料の比較市場価格は灯油の市況平均値から1KL当た
り1500円の輸送費を控除した金額であるとして,この価格により,対象市場価
格を推認すべきであると主張し,原告が同燃料の客観的価格を灯油の市況最低値か
ら1KL当たり2100円(上記輸送費を控除することについては争いがないから,
さらに1KL当たり600円を控除すべきかどうか及び基準となる価格は市況平均
値か市況最低値であるかが問題となる。)を控除した金額であると主張しているこ
とを論難する。
しかしながら,被告らの上記主張によれば,本件石油製品のうち,航空タービン
燃料について,その比較市場価格が少なくとも1KL当たり1500円の輸送費を
控除する前の金額ベースで,灯油の市況平均値を下回ることがないことが主張,立
証される必要があるところ,弁論の全趣旨によれば,工業統計表上,ジェット燃料
油(灯油から精製されるJetA-1(民間機用ジェット燃料油)とJP-5のみ
ならず,灯油とナフサを約半々の割合で精製されるJP-4を含む。)の本件期間
中の出荷価格は,灯油の出荷価格を常に下回っており,その差額は,それぞれ1K
L当たりで,平成7年は2303円,平成8年は1952円,平成9年は3888
円,平成10年は2498円であること,航空タービン燃料(JP-4)は,灯油
とナフサがそれぞれ約半々の割合で精製されているところ,ナフサの出荷価格は,
灯油の出荷価格の約4分の3程度であること,本件期間直後の平成10年度第4期
ないし平成11年度第3期における航空タービン燃料(JP-4)の市況価格は,
灯油の市況最低値よりも下回っており,概ね2000円以上安くなっていることが
認められる。
これらの事実に照らしてみれば,被告らの上記価格の主張に合理性があるとはい
えず,1KL当たり1500円を控除する前の金額ベースを基準にしても,航空タ
ービン燃料の価格が灯油の市況最低値を下回ることがないとの点についてすら裏付
けられているとはいえない。
もっとも,被告らは,これに対し,①防衛庁向けの航空タービン燃料について案
件ごとの納入量は,被告らの企業規模からすると決して多いとはいえないし,将来
の納入数量の予測が困難であったり,山間地,離島等の僻地も存在するから,コス
トがかかること,②工業統計表におけるタービン燃料油の出荷価格については,民
間航空機用のジェット燃料油であるJetA-1の出荷価格が大部分なところ,そ
の燃料の精製に使用されるナフサは市況に出てくる石油化学会社向けのナフサであ
るところ,防衛庁向けの航空タービン燃料であるJP-4及びJP-5は,脱硫さ
れている重質ナフサが使用されており,同一製品とはいえないから,上記工業統計
表を参考にすることはできないこと,③平成10年度第4期ないし平成11年度第
3期の期間は,未だ自由競争が完全に回復しておらず,被告P1の担当者が落札価
格を誤って記載したため,落札価格が異常に下落したことから,同期間の実績は参
考にならないこと,④第1次自由競争期間における全指名業者の航空タービン燃料
の落札価格と灯油の2市況平均値との乖離値を見ると,平均で1KLあたり328
9円航空タービン燃料の落札価格が灯油の2市況平均値を上回っていること,さら
に,第2次自由競争期間でみても,最高で3091円,最低でも1321円航空タ
ービン燃料の落札価格が灯油の2市況平均値を上回っていること,⑤航空タービン
燃料は,生産,輸送,保管の各段階で高いコストがかかる製品であること等の事情
を掲げて,仮に灯油の市況最低値から輸送費である1KL当たり1500円を控除
することが認められるとしても,さらに1KL当たり600円を控除すべきである
とする原告の主張についての合理性はない旨主張する。
しかしながら,被告らは,上記①ないし⑤の事情が航空タービン燃料の価格に具
体的にどの程度影響を及ぼし,その結果,被告らが主張する灯油の市況平均値(た
だし,1KL当たり1500円を控除した後の価格をベースにしたもの)を下回る
ことがないことになるのかについて,その価格形成過程を明らかにしておらず,そ
の点の立証がされているとはいえないから,仮にこれらの事実があるとしても,被
告ら主張の価格を裏付けることにはならない。
のみならず,上記②の事情については,航空タービン燃料の精製に使用されるナ
フサが重質ナフサであるとしても,その価格が市況に出される通常のナフサの価格
と比較した場合,どのような価格になるのかについての立証はされておらず,上記
③の事情については,該当期間において自由競争が回復してはいなかった等とする
具体的根拠の立証がされていないばかりでなく,何故同期間航空タービン燃料の落
札価格が灯油の最低値よりも1KL当たり概ね2000円以上安くなったのかにつ
いての原因の解明がされているとはいえないから,この期間の航空タービン燃料の
落札価格と灯油の市況価格との比較を本件において無視又は軽視してよいとする合
理的根拠があるとはいえない。
また,④の事情については,被告らの主張する第1次自由競争期間又は第2次自
由競争期間では,上記アのとおり,航空タービン燃料の調達についての諸条件を同
一にしているとか,その条件にほとんど差異がなかったとまではいえないことに加
え,売買契約成立時から時間が経過すればするほど,価格に影響を与える様々な経
済的要因が生じうることからすると,本件売買契約期間における航空タービン燃料
の契約価格が灯油の市況平均値を上回っていることをもって,直ちに本件期間中に
おいても航空タービン燃料の客観的価格が灯油の市況平均値を直ちに下回ることが
なかったとは認められず,その他の事情についてみても,一概に航空タービン燃料
の価格が高コストになると断定するに足りる的確な証明がされているとはいえな
い。
以上によれば,航空タービン燃料について,本件売買契約時の想定落札価格(本
件の対象市場価格)が,被告ら主張の灯油の市況平均値から1KL当たり1500
円を控除した額を下回ることがないとの点を認めるに足りる証拠はない。
ウ以上によれば,想定落札価格についての被告ら主張額を認めるに足りる証拠
はなく,したがって原物返還不能時における本件石油製品の客観的価格が被告ら主
張の価格であると推認するに足らず,これを認めるに足りる証拠もない以上,本件
石油製品の価格については,原告が自認している以上の価格を認めることはできな
い。
したがって,本件石油製品の価格相当の不当利得返還請求権を自働債権とする被
告らの相殺の抗弁には理由がない。
13争点13(国賠法に基づく損害賠償請求権との相殺の可否)
国賠法1条1項の「公権力の行使」とは,国又は公共団体の作用のうち純粋
な私経済作用と同法2条によって救済される営造物の設置又は管理作用を除く
全ての作用を意味すると解されるところ,本件で被告らが主張する調達実施本
部担当官の行為は,契約締結という純粋な私経済作用の行使の場面で行われた
ものであることから,調達実施本部担当官は「公権力の行使に当る」公務員に
は該当しないと解すべきであり,国賠法に基づく損害賠償請求権との相殺とい
う被告らの主張は失当である。
14争点14(原告の請求の制限又は減額の可否)
上記のとおり,本件では,直接的に競争秩序を侵害したのは被告らであって,
調達実施本部の担当官が受注調整行為を指示,要請したわけではないこと,被
告らも長年にわたって競争を経ることなくシェアを維持することができたこと,
公序良俗に反し無効である法律行為について,無効であると主張すること自体
は,法秩序を維持する責務を負っている原告の役割に照らせば当然であること
等の事情に照らすと,原告が本件売買契約の無効を主張し,本件売買契約に基
づいて被告らに支払った代金について不当利得返還請求権を行使すること自体
が信義則に反するとまでは認められない。
また,不当利得制度は,公平の観点から,法律上の原因がなくして受益した
者から損失者に対して受益者が取得した利益を返還させることを目的とする制
度であるのに対し,不法行為制度は被害者に生じた損害の填補を目的とした制
度であることからすると,不当利得制度と不法行為制度とは目的を異にする制
度であるといえる。
そして,不法行為制度において,過失相殺が設けられているのは,上記のと
おり,損害の填補を目的とした不法行為制度において,公平な損害の填補を図
るためであるのだから,取得した利益の返還をさせることを目的とした不当利
得制度においては,過失相殺によって不当利得返還請求権の行使が制限される
ことはないと解すべきである。
なお,この場合においても,個別具体的な事案において,信義則の適用によ
って,不当利得返還請求権の行使が制限される余地を認めることはできると解
されるが,本件では,上記のとおり,原告の不当利得返還請求権の行使が信義
則に反すると認めるに足りる事情は存在しない以上,信義則の適用によって,
原告が不当利得返還請求権に基づき,被告らに返還請求できる金銭が減額され
るべきという被告らの主張には理由がない。
15争点15(不当利得返還請求権の法定利息)
商事法定利率を年6分と定めた商法514条の適用又は類推適用されるべき債権
は,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,
不当利得返還請求権は,法律の規定によって生じる債権であり,直接商行為によっ
て生じたものではないし,また,商行為に準じて生じたものともいえないから,そ
の利息の利率については年5分と解するのが相当であり,商事法定利率年6分の割
合によるべきとする原告の主張は採用できない。
第4結論
以上によれば,原告の請求は,被告らに対する請求中,附帯請求の遅延損害
金割合を年6分とする部分は,年5分を超える部分についての理由がなく,ま
た,被告P8に対する請求中,原告とP16との取引により生じた不当利得返
還請求部分は理由がない。本件前提事実(10)ウによれば,原告のその余の請求
部分は理由がある。
よって,主文第1項掲記の限度でこれを認容し,その余については理由がな
いことからこれをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官堀内明
裁判官森山由孝
裁判官遠藤真澄は,転勤のため署名押印できない。
裁判長裁判官堀内明

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