弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人海藤寿夫作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、
これを引用する。
 控訴趣意第一点について
 論旨は、要するに、原判示第一事実について、時速約二〇キロメートルの低速で
進行していた先行車両の運転者が窓から手を出し「前に進め」と指示して同車を道
路左端に寄せたので、これを追越すため被告人車は道路右側部分に出て進行したも
のであつて、このような先行車両は道路交通法一七条四項三号にいう「その他の障
害」に当たるから、道路の右側部分にはみ出して通行したとしても同法一七条三項
の違反とならないのに、同条項に違反するとした原判決には、判決に影響を及ぼす
ことが明らかな法令解釈適用の誤りがある、というのである。
 <要旨第一>しかしながら、道路交通法一七条四項三号にいう「障害」とは、法文
上から明らかなように「当該道路の左側部分を通行することができな
い」こととなるような障害をいうと解するのが相当であるから、進行中の先行車両
はこれに含まれず、たとい後続車両に追いつかれた低速の先行車両であつて、その
運転者が後続車両に対し「前に進め」と指示した場合であつても、同様というべき
である。したがつて、所論はこの点においてすでに失当である。のみならず、原判
決挙示の関係証拠、特に原審証人A、同Bの各証言、司法巡査作成の実況見分調書
(検甲第一四号証)によれば、被告人車は、時速約四〇キロメートルで先行する軽
四輪自動車を追越すべく、これに追いついたのち約一五〇メートルにわたつて道路
右側部分にはみ出して進行したものであることが認められるほか、被告人の原審公
判廷における供述をみても、先行車両は、低速で、運転者が窓から手を出し「前に
進め」と指示して自車を道路左側に寄せたと述べる一方、時速三〇キロメートル位
で、左の方に避けるように寄つたのでその横をすり抜けたと述べるなど、供述に一
貫性が欠けており、信用することができないので、先行車両が低速で進行してお
り、その運転者が「前に進め」と指示した旨の所論の前提事実もまたこれを認める
ことができない。なお、付言するに、本件の右側通行は、左側部分の幅員が六メー
トルに満たない道路(本件道路全体の幅員は六・八メートルであるから、その左側
部分の幅員が六メートルに満たないことは証拠上明らかである。)において、先行
車両を追越そうとするときに行つたものであるから、道路交通法一七条四項四号の
除外事由の有無が一応問題にされなければならないけれども、原判示のとおり、右
道路においては、道路標識等によつて追越しのため右側部分にはみ出して通行する
ことが禁止されていたのであるから、右同号もまた適用がないことはもちろんであ
る。してみると、原判決が被告人の所為に対し同法一七条三項を適用したのは、正
当てあつて、何ら所論のような法令解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。
 控訴趣意第二点について
 論旨は、要するに、原判示第一事実について、被告人車は低速の先行車両が先に
行くように指示して道を譲つてくれたため同車を追越すため道路右側部分に進出し
て進行したものであつて、その進出部分も僅かであり、何ら危険を伴うものではな
く、かつ、巷間多く見られる通行方法に従つたものであるから、可罰的違法性がな
いのに、原判決が道路交通法一七条三項に違反するとして同法一一九条一項二号の
二を適用し、被告人を処断したことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
解釈適用を誤つたものである、というのである。
 しかしながら、道路交通法一七条三項、四項三号は、右側通行によつて具体的に
交通の危険又は妨害が生じたか否かを問うことなく、所定の事由が存在する場合に
限り右側通行を許容し、その他の場合の右側通行はこれを禁止し、もつて道路交通
の安全と秩序を全体として確保しようとする趣旨の規定であると解されるから、右
の禁止に違反する行為は、そのことだけで法の予定する違法性を具備するものとい
うべきである。また、同法一七条四項四号は、左側部分の幅員が六メートルに満た
ない道路において、他の車両を追越そうとする場合について、反対の方向からの交
通を妨げるおそれがないなどの一定の要件のもとに特に右側部分の通行を許容して
いるけれども、同時に、道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行
することが禁止されている本件のような道路については、右の通行は一律にこれを
禁止する旨を明文で定めているのであるから、交通を妨げるおそれがないという理
由で右側通行の違法性がないとの所論は、法に明示された趣旨に反するものという
ほかはない。したがつて、被告人車の追越しのための右側通行は違法というべきで
あるから、原判決が被告人の行為を同法一七条三項違反とし、同法一一九条一項二
号の二を適用して処断したことは、正当であつて、所論のような法令解釈適用の誤
りはない。論旨は理由がない。
 控訴趣意第三点について
 論旨は、要するに、原判決が判示第二事実の認定資料とした原審証人A、同Bの
各証言は、いわゆるパトカーを被告人車の後方約二〇メートルに接近させ、そのま
ま等間隔を保持して約二〇〇メートル追尾し、速度計の指針で約八〇キロメートル
毎時を測定したというものであるところ、時速約八〇キロメートルで進行中の車両
の安全な車間距離は制動距離に相当する約五〇メートルであつて、僅か二〇メート
ルの車間距離を保持して追尾した本件パトカーには道路交通法二六条の違反がある
から、このような違法行為によつて得られた現認結果を内容とする右各証言を採用
し、これを有罪認定に用いた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟
手続の法令違反がある、というのである。
 そこで検討するのに、原判決挙示の関係証拠、殊に原審証人A、同Bの各証言に
よれば、警察官であるA、同Bの両名は、原判示の日時場所でパトカーに乗務して
交通の取締りに従事中、法定制限速度を超えて進行している疑いの濃い被告人車を
認め、所論のように被告人車との間に約二〇メートルの間隔を保持しつつ約二〇〇
メートルにわたつてこれを追尾したうえ、その速度を時速八二キロメートルと測定
したことが認められる。したがつて、パトカーが被告人車を追尾した際の速度から
みて、その間の右車間距離は道路交通法において必要とされる距離を保つたものと
はいえず、その意味において、パトカーには道路交通法二六条所定の義務に違反す
るところがあるといえよう。
 ところで、道路交通法三九条、四一条、四一条の二は、緊急自動車及び消防用車
両(以下、これらを緊急自動車等という。)に対し、同法上の特定の義務規定を列
挙してその適用を除外しているところ、所論は、このことを根拠として、適用を除
外されていない規定については、緊急自動車等に対してもその適用があることはも
<要旨第二>とより、それらの規定に違反する場合に、その違法性は常に阻却されな
いものと主張する。しかしながら、右各規定が緊急自動車等について特
定の義務規定の適用を除外しているのは、それら自動車に課せられた特殊な任務に
かんがみ、運転時の具体的事情のいかんを問わず、常に、又は「第二二条の規定に
違反する車両等を取締る場合」(四一条二項参照)などの類型的な付加要件のもと
に、特定の義務を免除する必要があるとの判断に出た趣旨とみるのが相当であり、
所論のように、適用を除外されていない規定に違反する運転については、当然に職
務行為としての正当性が失われ、運転時の具体的事情のもとにおける正当な職務行
為として刑法三五条による違法性の阻却を認めることをも排除する趣旨を含むもの
と解すべきではない。すなわち、刑法三五条に基づく違法性阻却の有無の判断は、
あくまでも具体的事情のもとでの個別的、具体的な判断であるから、前記道路交通
法の適用排除の規定によつて、その外に置かれた行為の違法性阻却が一般的に否定
されたものとみるのは妥当でないばかりでなく、道路交通の秩序維持を目的とした
道路交通法が、刑事訴訟法その他各般の法令に基づく職務行為についてまで正当性
を有する範囲を全面的に画しているものと解するのは相当でないのである。したが
つて、車間距離の保持を義務づけた道路交通法二六条に違反する行為についても、
刑法三五条の見地から、その違法性阻却の有無をあらためて検討する必要がある。
 これを本件についてみると、前記パトカーは、道路交通法三九条一項、四一条一
項、二項にいう「緊急自動車」にあたり(同法施行令一三条一項一号)、かつ、同
条三項にいう「もつぱら交通の取締りに従事する自動車で総理府令で定めたもの」
(道路交通法施行規則六条参照)にあたり、当時交通の取締りに従事中であつて、
被告人車の法定速度違反を現認し、違反事実を確認するとともに被告人を検挙すべ
く追尾したものである。このように高速で進行する車両を追尾してその速度を測定
するには、パトカーもこれと等速度で走行するほかないことはもちろんであり、ま
た、その速度に見合う車間距離を保持しようとすれば、車間距離を一定に保つこと
自体が困難となり、ひいては違反車の速度を正確に測定することも不可能となつ
て、取締りの目的を達し得ないことになるのである。しかも、本件の場合、パトカ
ーの警察官らは、道路及び交通の状況に注意を払い、具体的な交通の危険を生じさ
せないように留意しながら被告人車に追尾し、その速度を測定したのであるから、
その行為は正当な職務行為であつて、刑法三五条により、道路交通法二六条違反の
違法性は阻却されるものというべきである。
 したがつて、本件パトカーには所論のような捜査手続上の違法はなく、右の違法
のあることを前提とする論旨は理由がない。
 控訴趣意第四点について
 論旨は、要するに、原判示第二事実について、被告人は法定最高速度を超え八二
キロメートル毎時で走行した事実はないといつて、原判決の事実誤認を主張するの
である。
 しかしながら、原判決挙示の関係証拠、特に原審証人A、同Bの各証言によれ
ば、被告人が原判示のように法定の最高速度六〇キロメートル毎時を超える八二キ
ロメートル毎時の速度で自動車を運転した事実は十分これを肯認することができ
る。所論は、原審証人A、同Bがパトカーの前照灯の照点を被告人車の後部バンバ
ーに当てながら等間隔を保つて被告人車の速度を測定したと証言している点をとら
え、測定中の本件道路部分には三個所にわたりコンクリート製の橋が架けられてい
るばかりでなく、橋と橋との間の道路には撓みがあつて、高速で進行すれば橋と携
みの部分で車両が大きく動揺する状態となつていたのであるから、本件パトカーは
右の動揺で等間隔による追尾が不可能であつたはずであり、したがつて等間隔を保
つたとする右各証言も、その測定結果も信用できないと主張する。ところが、前掲
証人A、同Bの各証言及び原審の検証結果によれば、原判示道路には約四六〇メー
トルの間に所論のように三個所で橋が架けられているが、被告人車の速度を測定し
た区間である第一の橋を通過後第二の橋を経て第三の橋の手前までにおいて、検証
の際には時速約六〇キロメートルで進行してみたところ、車両に特に動揺がなかつ
たことが認められるから、右の動揺のあることを前提とする所論は採用できず、ま
た、法定最高速度を超えていないとする被告人の原審公判廷における供述は単に自
己の平常時における運転速度を根拠とするものであつて措信できない。論旨は理由
がない。
 よつて、刑事訴訟法三九六条によつて本件控訴を棄却することとし、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 山田敬二郎 裁判官 香城敏麿)

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