弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人川本赳夫の上告理由について
 一 記録によれば、本件訴訟の経緯は、次のとおりである。
 1 すなわち、亡D(以下「D」という。後記のとおり、原審の口頭弁論終結前
の昭和五四年七月一五日に死亡した。)は、本件不動産につき上告人のためにされ
た本件各登記がいずれも登記原因を欠き、実体上の権利関係に適合しないものと主
張し、上告人を相手どつてその抹消登記手続を求める本件訴を弁護士を訴訟代理人
として提起した。これに対し、上告人は、(1) D又はDより一切の権限を与えら
れていた被上告人(Dの養子として当審における訴訟承継人の地位にある。)から
代理権を授与されたE(以下「E」という。)が、昭和四九年九月二七日、上告人
との間で、本件不動産につき譲渡担保設定契約、抵当権設定契約、代物弁済の予約
を締結した、(2) 仮に、Eが右代理権を有しなかつたとしても、D又はDの代理
人である被上告人は、EにDの実印及び本件不動産の権利証を交付することにより、
Eに右代理権を与えた旨を表示した、(3) 仮に、(1)(2)の事実が認められない
としても、Dの代理人である被上告人は、Eに対し、D所有の土地をF資材株式会
社に売り渡す契約の締結及びその所有権移転登記手続を委任していたところ、Eが
その権限を超えて前記(1)の各契約を締結したものであるが、上告人にはEに権限
があると信ずる正当な理由があつた、として本件各登記が実体関係に符合する有効
なものである旨主張した。
 2 Dは、本件訴訟が原審に係属中の昭和五四年七月一五日に死亡したが、訴訟
代理人がいたため訴訟手続は中断せず、かつ、訴訟承継の手続もとられないまま、
訴訟はDを当事者として進められ、原審は、同年一〇月三〇日の口頭弁論期日にお
いて弁論を終結し、判決言渡期日を同年一二月二五日と指定した。ところが、上告
人は、原審に対し、同年一一月七日、Dが同年七月一五日に死亡したことを知つた
から後日口頭弁論再開申立理由書を持参する旨を記載した口頭弁論再開申請書と題
する書面を提出し、同月一四日、Dが死亡したことを証する戸籍謄本を添付した口
頭弁論再開申立書及び被上告人はDの死亡により同人の権利義務一切を承継したか
ら自己ないしEの行為につき責任を負うべきである旨を記載した準備書面を提出し
た。
 3 しかるに、原審は、口頭弁論を再開せず、証拠に基づいて、(1) 被上告人
は、Dとの養子縁組前に、Dに無断で、本件不動産のうち本件、(一二)、(一四)、
(一六)の各土地を擅にDの名でEを代理人としてF資材株式会社に売り渡し、かつ、
その登記手続履行のため、Eに対し、Dの実印、印鑑登録証明書、本件(一二)ない
し(一七)の各土地の権利証を交付した、(2) ところが、Eは、D及び被上告人に
無断で、Dの代理人と称してGから五〇〇万円を借り受け、当時Dの先代Hの所有
名義となつていた本件(一)ないし(二)の各土地につきD名義の相続登記手続を経由
してその権利証を入手するとともに、本件(一)ないし(四)及び(一二)の各土地につ
きGのために抵当権設定登記手続を了した、(3) そして、右借入れの事実をDに
知られることをおそれたEは、Dの代理人と称して上告人から一〇〇〇万円を借り
受け、そのうち五〇〇万円をGに支払つて前記抵当権設定登記の抹消登記手続を経
たうえ、Dの実印及び本件不動産の権利証を冒用して上告人のために本件各登記を
経由した、との事実を確定し、右事実関係のもとにおいては、Dは被上告人に対し
本件不動産に担保権を設定することを含む一切の権限を委任したことはなく、また、
Eに対しても直接代理権を付与したこともなかつたものであり、EがDの実印及び
本件不動産の権利証を所持していた事実をもつて授権の表示とみることはできない
旨判示し、上告人の前記抗弁をすべて排斥して、本訴請求を認容した。
 二 ところで、いつたん終結した弁論を再開すると否とは当該裁判所の専権事項
に属し、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができない
ことは当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和二三年(オ)第七号同年四
月一七日第二小法廷判決・民集二巻四号一〇四頁、同昭和二三年(オ)第五八号同
年一一月二五日第一小法廷判決・民集二巻一二号四二二頁、同昭和三七年(オ)第
三二八号同三八年八月三〇日第二小法廷判決・裁判集民事六七号三六一頁、同昭和
四五年(オ)第六六号同年五月二一日第一小法廷判決・裁判集民事九九号一八七頁)。
しかしながら、裁判所の右裁量権も絶対無制限のものではなく、弁論を再開して当
事者に更に攻撃防禦の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟におけ
る手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合に
は、裁判所は弁論を再開すべきものであり、これをしないでそのまま判決をするの
は違法であることを免れないというべきである。
 これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、上告人はDが原審の口頭
弁論終結前に死亡したことを知らず、かつ、知らなかつたことにつき責に帰すべき
事由がないことが窺われるところ、本件弁論再開申請の理由は、帰するところ、被
上告人がDを相続したことにより、被上告人がDの授権に基づかないでEをDの代
理人として本件不動産のうちの一部をF資材株式会社に売却する契約を締結せしめ、
その履行のために同人の実印をEに交付した行為については、Dがみずからした場
合と同様の法律関係を生じ、ひいてEは右の範囲内においてDを代理する権限を付
与されていたのと等しい地位に立つことになるので、上告人が原審において主張し
た前記一(2)の表見代理における少なくとも一部についての授権の表示及び前記一
(3)の表見代理における基本代理権が存在することになるというべきであるから、
上告人は、原審に対し、右事実に基づいてEの前記無権代理行為に関する民法一〇
九条ないし一一〇条の表見代理の成否について更に審理判断を求める必要がある、
というにあるものと解されるのである。右の主張は、本件において判決の結果に影
響を及ぼす可能性のある重要な攻撃防禦方法ということができ、上告人においてこ
れを提出する機会を与えられないまま上告人敗訴の判決がされ、それが確定して本
件各登記が抹消された場合には、たとえ右主張どおりの事実が存したとしても、上
告人は、該判決の既判力により、後訴において右事実を主張してその判断を争い、
本件各登記の回復をはかることができないことにもなる関係にあるのであるから、こ
のような事実関係のもとにおいては、自己の責に帰することのできない事由により
右主張をすることができなかつた上告人に対して右主張提出の機会を与えないまま
上告人敗訴の判決をすることは、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反
するものというべきであり、したがつて、原審としては、いつたん弁論を終結した
場合であつても、弁論を再開して上告人に対し右事実を主張する機会を与え、これ
について審理を遂げる義務があるものと解するのが相当である。しかるに、原審が
右の措置をとらず、上告人の前記一(2)の抗弁は授権の表示を欠くとし、また、同
一(3)の抗弁はその前提となる基本代理権を欠くとしていずれもこれを排斥し、上
告人敗訴の判決を言い渡した点には、弁論再開についての訴訟手続に違反した違法
があるものというべく、右違法は前記のように判決の結果に影響を及ぼすことが明
らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、右の点につき更に審
理を尽くさせるのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    谷   口   正   孝

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