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平成15年(行ケ)第492号 商標登録取消決定取消請求事件
平成16年4月27日口頭弁論終結
            判       決
     原     告            A
     訴訟代理人弁理士           西島綾雄
  被     告            特許庁長官 今井康夫
指定代理人              宮下正之
同                  涌井幸一
  被告補助参加人            株式会社音楽専科社
訴訟代理人弁護士           矢野佳秀
同                  相澤愛
            主       文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が異議2001-90867号事件について平成15年9月25日
にした決定を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
  主文と同旨
第2 特許庁における手続の経緯等及び決定の理由
  以下は,当事者間に争いがなく,かつ,証拠(弁論の全趣旨を含む。)によ
って認定できる事実である。
1 特許庁における手続の経緯等
  原告は,登録第4499261号の商標(「ShockWave」の欧文字と「ショックウ
ェイブ」の片仮名文字を上下二段に横書きして成り,第41類「映画・演芸・演劇又
は音楽の演奏の興行の企画又は運営に関する情報の提供,その他の映画・演芸・演
劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演・音楽
の演奏に関する情報の提供,その他の演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演
奏,技芸・スポーツ又は知識の教授,研究用教材に関する情報の提供及びその仲
介,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,図書
及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,映画の上映・制作又は
配給,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送
番組・広告用のものを除く。),放送番組等の制作における演出,映像機器・音声
機器等の機器であって放送番組等の制作のために使用されるものの操作,ゴルフの
興行の企画・運営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシングの興行
の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・運営又は開催,サッカーの興行の企
画・運営又は開催,スポーツ以外の企画・運営又は開催,競馬の企画・運営又は開
催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競争の企
画・運営又は開催,当せん金付証票の発売,音響用又は映像用のスタジオの提供,
運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための
施設の提供,興行場の座席の手配,映写機及びその附属品の貸与,映写フィルムの
貸与,楽器の貸与,スキー用具の貸与,スキンダイビング用具の貸与,テレビジョ
ン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テ
ープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸
与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,絵画の貸与,
音声周波機械器具・映像周波機械器具・映写機及びその付属品の貸与,美術用モデ
ルの提供」を指定役務として,平成12年3月29日に登録出願され(以下「本件
出願」という。),同13年8月17日に登録された(本件商標を掲載した公報の
発行日は,同年9月18日である。)。以下,「本件商標」といい,その登録を
「本件登録」という。)の商標権者である。
2 被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)は,平成13年11月16
日,本件登録に対し登録異議の申立てをした(以下「本件異議申立て」とい
う。)。特許庁は,これを異議2001-90867号事件として審理し,その結
果,平成15年9月25日,「登録第4499261号商標の商標登録を取り消
す。」との決定をし,その謄本を,同年10月14日原告に送達した。
(甲第1号証ないし甲第5号証)
3 決定の理由
  決定の理由は,別紙決定書の写しのとおりである。
  要するに,補助参加人が,平成8年から主催し,ロック音楽の愛好家等の間
で知られていた「SHOCKWAVE」という名称(以下「引用標章」という。)の音楽イ
ベントの開催等について,補助参加人は,原告(補助参加人の元従業員である。)
が代表者を務める株式会社スターチャイルド(以下「スターチャイルド」とい
う。)と,業務提携をする契約を締結し,この契約(以下「本件契約」という。)
において,スターチャイルドは,補助参加人に対し,引用標章に係る権利を含む補
助参加人の権利を侵害しないと約したにもかかわらず,スターチャイルドの代表者
である原告は,スターチャイルドの業務を有利に遂行し,あるいは補助参加人が,
引用標章を冠する音楽イベント事業を遂行することを抑止するため,補助参加人に
無断で,引用標章と略同一の構成から成り,それが付される業務と同一の業務を指
定役務として含む本件商標の登録をしたものであるから,本件登録は,公序良俗に
反し商標法4条1項7号に該当する,というものである。
第3 原告主張の決定取消事由の要点  
1 引用標章に係る権利の帰属の認定の誤りについて
(1)決定は,
 「・・・音楽専科社(甲)とスターチャイルド(乙)との間における「業
務提携基本契約書」の写しである乙第2号証(判決注・本訴乙第11号証。以下
「本件契約書」という。)によると,乙は甲が出版販売するビジュアル系音楽雑
誌,月刊「SHOXX」並びに同誌に関連する臨時増刊の全ての有形財産,無形財
産の全権利を侵害しないことを約束すること(第1条),そして,甲が所有する権
利を乙が使用するにあたっては事前に文書により,甲の許諾を得るものとすること
(第3条)等が規定されていることが認められる。
  しかして,この契約書(乙第2号証)によると,引用商標に係る商標権
は,同契約で規定する「SHOXX」に関連する無体財産に該当し,その権利の取
得については,事前に文書により乙は甲の承諾を得ることが合意されているものと
解されるところであるが,商標権者は,「SHOCK WAVE」のタイトル(引
用商標)の使用について申立人の許諾があったと主張しているに止まり,「SHO
XX」に関連する無体財産権となる本件商標権の取得についてまで,音楽専科社
(甲)の許諾を得ていたと認めることはできないものであり,その許諾があったこ
とを証明する書面の提出はない。」(甲第1号証7頁9行目~23行目)
 と判断している。
  しかし,引用標章に係る本件契約にいう「無形財産」の「権利」が,補助
参加人に属するとした決定の認定は,誤っている。
(2)補助参加人に対して,引用標章についての本件契約にいう「無形財産」の
「権利」の主体であるとの評価を与えることが許されるためには,これが,補助参
加人の業務に係る役務を表示するものとして,周知ないし著名である,という事実
が必要がある。しかし,そのような事実はない。
  この点について,決定は,「申立人は,新進グループに演奏の機会を与
え,これを育成する等のために,「SHOCK WAVE」(引用商標)の名称を
用いて演奏の興行を継続的に行っており,1996年から2001年まで,23回
にわたってイベントを開催し,雑誌「SHOXX」においてその紹介を行ってきた
ことを認めることができる。」(甲第1号証4頁13行目~17行目),としてい
る。
  新進グループ等の育成等を目的とし,彼らに演奏の機会を与え,音楽活動
を支援する場として,平成8年から,「SHOCK WAVE」という名称が付さ
れた演奏の興行が継続的に行われてきた。この「SHOCK WAVE」という名
称の興行(以下「本件音楽イベント」という。)を主催し,運営してきたのは,株
式会社クラブチッタ(以下「クラブチッタ」という。)を始めとする,複数の会社
である。総合問い合わせ先も,クラブチッタとなっていた。
  本件音楽イベントにつき,補助参加人は,企画を行っていたにすぎない。
一般に,音楽のイベントの企画者は,企画についてだけしか責任を負わない。これ
に対し,主催者は,事故に対する対応を含め,運営に係る法的及び経済的責任をす
べて負う。現実に,補助参加人は,事故に対する法的責任を回避するため,イベン
トの主催は行わない方針であった。
  需要者は,本件音楽イベントに付された引用標章が,主催者であるクラブ
チッタの業務を示すものであると認識することはあっても,補助参加人の業務を示
すものと認識することはない。
(3)本件契約にいう「無形財産」の「権利」には排他性のないものは含まれな
い,と解するのが合理的である。
(4)以上のとおりであるから,引用標章に関し,補助参加人が本件契約にいう
「無形財産」の「権利」を有していた,とすることはできない。
(5)イベントの企画は,個別的に行われ,企画の需要者は企画者の履歴を知っ
た上で企画を依頼する。
  したがって,補助参加人以外の者が,引用標章を用いてイベントの企画を
行ったとしても,混同のおそれはない。
2 公序良俗違反とした認定の誤りについて
(1)前記のとおり,引用標章について,補助参加人は何ら権利を有していな
い。補助参加人が引用標章についての権利を有していることを前提として,本件登
録が公序良俗に反するとした決定の結論は,誤りである。
(2)原告は,補助参加人の従業員として,補助参加人が主催者となって本件音
楽イベントを開催するよう,強く提案し,受け入れられなかったことから,法的及
び経済的責任を原告がすべて負うと約束し,企画者という形で補助参加人を関与さ
せた,という事情がある。
(3)もともと,本件契約成立時,引用標章は何人も商標登録の出願ができるも
のであった。そして,前記のとおり,補助参加人は,もともとイベントの主催者に
はならないとの方針を堅持しており,引用標章につき商標登録を行う意思も全くな
かった。
  そのため,原告は,他者に登録されるなどして引用標章を使用することが
できなくなる事態を防止するため,自己の費用で本件登録を行ったものである。
  本件登録は,公序良俗に反するものではない。
第4 被告及び補助参加人の主張の要点
1 原告の主張1(引用標章に係る権利の帰属の認定の誤り)に対して
(1)補助参加人は,当初から,本件音楽イベントの企画を担当しており,企画
者として主体的に関与してきている。
  企画者であるからといって,その役割が付随的なものにとどまる,という
ことはない。現実に,補助参加人は,その発行する音楽雑誌「SHOXX」(以下
「本件音楽雑誌」という。)の誌上で,本件音楽イベントについて広く告知し,こ
れにより本件音楽イベントが広く認知されるようになった。補助参加人は,アーテ
ィスト(バンド)との出演交渉等を主体的に行っており,その結果,アーティスト
やその所属事務所も,本件音楽イベントを,補助参加人のものとして認識するに至
っている。
(2)補助参加人は,本件音楽イベントにつき,当初から,具体的な実行をクラ
ブチッタに依頼した。平成12年9月以降は,スターチャイルドも実行に参加する
ようになった。しかし,本件音楽イベントは,あくまで,補助参加人が主体となっ
て開催してきたものである。
  補助参加人が,本件契約により,本件音楽イベントの事業をスターチャイ
ルドに承継させた,という事実はない。
(3)本件音楽イベントは,多数回開催され,その観客数も,多い年(平成11
年)は年間1万名を超えるなど,有名なものであった。
  本件音楽雑誌は,本件音楽イベントの開催並びにその日時・場所の告知等
を内容とする広告を掲載してきた。その広告では,「企画:SHOXX/音楽専科
社」と表示している。そして,本件音楽雑誌は,14年以上の歴史を持ち,発行部
数も6万部に及ぶ,ビジュアル・ハードロック系の音楽雑誌としては国内最大手の
ものであり,著名である。
  本件音楽イベントに係るCDの制作・販売も,補助参加人が手掛けてい
る。
  以上の事実の下では,本件音楽イベント及びこれに付された引用標章は,
ビジュアル・ハードロック系の音楽の演奏者や愛好家等の中で周知であり,かつ,
補助参加人が主体的に興行しているものとして周知であった,というべきである。
  この点について,原告は,イベント企画の需要者の中に,イベントの観客
者は含まれないことを前提として,イベントの主催者と企画者との取引は個別的に
行われるから,混同のおそれはない,との主張をする。しかし,その前提自体が誤
りである。いずれにしろ,引用標章が補助参加人の業務を示すものとして周知であ
ることと,取引が個別に行われることとの間には,何の関連性もないのである。
(4)原告は,本件契約にいう「無形財産」の「権利」には,排他性のないもの
は含まれないと解するのが合理的である,と主張する。しかし,本件契約のような
業務提携契約において,その1条のような条項を入れるのは,提携先が,各種権利
の使用許諾を与えられたことを奇貨として,当該権利を剽窃的に取得する等の事態
を防止するためである。原告主張のように,限定的に解すべき理由はない。
(5)以上のとおりであるから,引用標章が,補助参加人の業務を示すものとし
て周知であること,引用商標に係る権利を補助参加人が有していること,それが本
件契約にいう「無形財産」の「権利」に含まれることは,いずれも明らかである。
2 原告の主張2(公序良俗違反とした認定の誤り)に対して
(1)補助参加人が,原告に対し,引用標章を商標として登録することを許可し
た事実はない。なお,補助参加人は,平成13年5月20日付けで,原告を解雇
し,本件契約も,同月末日付けで解約した。
  本件登録の事実を知った補助参加人は,登録異議の申立て(本件異議申立
て)をすると同時に,本件商標につき移転登録の手続をするよう求めた。しかし,
原告は,これに応じず,かえって,本件商標を補助参加人が音楽イベントに使用す
ることを禁止する,と述べている。このため,補助参加人は,別の名称を用いて本
件音楽イベントと同じ内容の音楽イベントを開催することを,余儀なくされてい
る。
  以上の事実から,原告が本件登録を得たのは,スターチャイルドの業務を
有利に展開し,あるいは補助参加人の業務を妨害するためであることが明らかであ
る。
(2)原告は,他者により引用標章が登録されることを防止するため,本件登録
を行った,と主張する。
  もともと,引用標章は補助参加人の業務を示すものとしては周知であった
から,他者による登録が許されるようなものではない(商標法4条1項10号,1
5号)。
  他者による登録のおそれがあるとしても,補助参加人に対して,商標出願
をするよう働きかければ済む話である。
  前記のとおり,補助参加人が本件商標につき移転登録の手続をするよう求
めたのに対し,原告がこれに応じていないことからみて,原告に上記のような動機
があったこと自体,大いに疑問である。
第5 当裁判所の判断
1 原告の主張1(引用標章に係る権利の帰属の認定の誤り)について
(1)本件音楽イベント(新進グループ等の育成等を目的とし,彼らに演奏の機
会を与え,音楽活動を支援する場として,平成8年から,「SHOCK WAV
E」という名称が付されて継続的に行われてきた演奏の興行)は,平成8年3月に
その第1回が開催され,平成13年まで,札幌,仙台,東京,川崎,新潟,名古
屋,大阪,福岡等日本全国で,多数回開催されてきた。その観客動員数は,年間4
000人強から,多いとき(平成11年)には1万人を超えることもあった。
  本件音楽イベントは,地方のテレビ局で放映されたこともあり,さらに,
これに関するCDも販売されている。
(甲第5号証,乙第1号証ないし第7号証,第9号証,第14号証)
  以上の事実から,本件音楽イベントは,ビジュアル・ハードロック系の音
楽の愛好家や,この種音楽に関するイベントの興行を業とする者,楽器の製造・販
売を業とする者等の取引者・需要者の間で,周知であったと認めることができる。
(2)本件音楽雑誌は,13年以上の歴史を持ち,ビジュアル・ハードロック系
の音楽専門雑誌としては国内で最多規模の発行部数も達成し,この種音楽の愛好家
等の間で,周知の雑誌であると認められる。
  本件音楽イベントは,本件音楽雑誌に,「企画:SHOXX/音楽専科
社」あるいは単に「企画:SHOXX」として宣伝され,また,本件音楽イベント
に関するCDも「制作・販売:(株)音楽専科社」として宣伝され,販売されてき
た。
  以上の事実から,「SHOCK WAVE」の名称を付された本件音楽イ
ベントは,補助参加人の業務,とりわけ本件音楽雑誌と密接に関わるものとして,
ビジュアル・ハードロック系の音楽の愛好家等の間で周知であった,と優に認める
ことができる。
(甲第5号証,乙第2号証ないし第7号証,第9号証,弁論の全趣旨)
(3)(1)及び(2)で認定した事実から,①補助参加人が,引用標章を名称とする
本件音楽イベントの企画という業務を行っていることを,ビジュアル・ハードロッ
ク系の音楽の愛好家等の取引者・需要者が認識すること,②これにより,引用標章
と結び付いた,本件音楽イベントに関する一定の評価(少なくとも5年程度の期間
にわたり,多数回開催され,多数の観客を動員している。)が,補助参加人の企画
力に対する一定の評価となり,補助参加人に対し一定の顧客吸引力をもたらすこと
になることを,認めることができる。
(4)本件契約は,
 「株式会社音楽専科社(以下「甲」という。)と株式会社スターチャイル
ド(以下「乙」という。)とは,甲乙間の業務提携の内容を明確にし,協力関係の
維持促進をはかるため,基本的事項に関し,業務提携基本契約書(以下「本契約」
という。)を締結する。」(前文),
 「第1条(基本原則) 乙は甲が出版販売するビジュアル系音楽雑誌,月
刊「SHOXX」並びに同誌に関連する臨時増刊誌(雑誌,書籍,通信販売)の全
ての有形財産,無形財産の全権利(以下「権利」という。)を侵害しないことを約
束する。
  第2条(相互協力) 甲および乙は相互に協力して,関係法令を遵守し
つつ共同の利益の増進を図るため協力して努力するものとする。
  第3条(個別契約) ①甲が所有する権利を乙が使用するにあたっては
事前に文書により,甲の許諾を得るものとする。
  ②甲は乙より①項の権利の使用申し入れを受諾する場合には使用する権
利の内容,事業内容,期間等々を明示した個別契約を締結する。」
 と定めている。
  本件契約の上記の文言からみて,同契約にいう「無形財産」の「権利」に
当たるものとなるためには,基本的に,本件音楽雑誌に関するものである必要があ
ることが明らかである。引用標章についてこれをみる。
  前記認定のとおり,本件音楽イベントは,補助参加人が企画するものとし
て,本件音楽雑誌で宣伝されているばかりでなく,「企画:SHOXX」として,
すなわち本件音楽雑誌が企画しているものとして宣伝され,あるいは出場するバン
ドが本件音楽雑誌で紹介されるなど,本件音楽雑誌と極めて密接なかかわりを持つ
ものとして開催されている。そして,補助参加人は,これにより,本件音楽イベン
トと本件音楽雑誌とが,後者において前者を宣伝するなどして,前者が成功し,人
気を博する有名なものとなり,そのような人気を博する本件音楽イベントに関する
広告や記事を掲載する後者もまた,人気を得て発行部数を増やす,という形で,相
乗効果を上げることを期待したものであり(甲第5号証中の商標登録異議申立書4
頁参照),現実に,それらは相乗効果を上げ得る関係に立つ,と認められる。
  以上の状況の下では,上記のとおり,補助参加人の業務に係るものとして
周知となっていた引用標章につき,補助参加人は,本件音楽雑誌の顧客吸引力に係
るものとして,本件契約にいう「無形財産」の「権利」を有する,ということがで
きる。
(5)原告は,補助参加人は企画者にすぎず,法的ないし経済的責任を負わない
から,本件音楽イベントを補助参加人の業務に係るものとすることはできず,取引
者・需要者が,そのように認識することもない,と主張する。
  そもそも,企画者が,イベントの実行に関し法的ないし経済的責任を一切
負わないということ自体,相当に問題である。一概にそのようにいうことはできな
い。その点はおくとしても,顧客(ビジュアル・ハードロック系の音楽の愛好家
等)は,専ら,本件音楽イベントに関する表示を基に,企画者として,補助参加人
を本件音楽イベントに結び付けて理解するものであるから,本件音楽イベントに対
する補助参加人の実際の関与の態様(法的ないし経済的責任を負うか否か等)が,
本件音楽イベントに関し補助参加人が顧客吸引力を獲得するか否かに,直接関係す
るとは認められない。
(6)原告は,自己が全責任を負うと約束して,本件音楽イベントを開催したと
主張する。これは,原告が,自己の事業として本件音楽イベントを開催した,とい
う趣旨であろう。しかし,これを認めるに足りる証拠はない。
  たとい,本件音楽イベントが,補助参加人の従業員(本件音楽雑誌の編集
長)であった原告が,その開催を提案して,実現に至ったものであるとしても,原
告が携わったのは,補助参加人の従業員としての資格においてであった以上,特段
の事情がない限り,それを原告自身の事業ということはできない。ところが,その
ような特段の事情は,本件全証拠によっても認めることができない。
  かえって,本件音楽イベントは,その開始当初から,原告の名前を企画な
いし制作等と結び付けてすることなどない形で,開催されていたのである(甲第5
号証,乙第1号証ないし第7号証,第9号証,第14号証)。
(7)本件音楽イベントの宣伝において,例えば「総合制作・問い合わせ先●ク
ラブチッタ」(乙第3号証),「制作:STAR CHILD LIFE,CLU
B CITTA’」(乙第4号証),として,補助参加人以外の者も掲載されてい
る。また,本件音楽イベントに関するCDについて,「制作・販売:STAR C
HILD」(乙第4号証)として宣伝されたものもある。
  しかし,このことは,本件音楽イベントの実行等について,補助参加人以
外の者の関与もあり,それらも,本件音楽イベントの一定の評価に起因する顧客吸
引力を享受すると認められる,ということを意味するにとどまり,前記のとおりの
意味で,補助参加人が,引用標章について,本件契約にいう「無形財産」の「権
利」を有することを否定するものではない。
(8)本件音楽イベントに関する宣伝を本件音楽雑誌に掲載することについて,
補助参加人は,スターチャイルドに対し,広告料金を請求している(乙第4号証な
いし第6号証,第17号証ないし第20号証)。
  しかし,本件契約には,本件音楽イベントに係る補助参加人の業務を完全
にスターチャイルドに引き継ぐとは定められていない。現に,本件音楽イベントの
宣伝においては,一貫して補助参加人の名称が掲載されている。
  補助参加人が,スターチャイルドに対し広告料を請求したのは,本件音楽
イベントを共同して開催する者同士の間のこととして,前者が後者に,宣伝につい
ての相応の費用負担を求めたものと解することが可能である。これにより,補助参
加人が,本件音楽イベントから撤退したと解することはできない。
(9)以上のとおりであるから,引用標章について,補助参加人は,本件契約に
いう「無形財産」の「権利」を有していると認められる。
  これに反する原告の主張は,採用できない。
2 原告の主張2(公序良俗違反とした認定の誤り)について
(1)本件登録に関し,時期を問わず,原告が,補助参加人の承諾を得たと認め
るに足りる証拠はない。
  本件出願は平成12年3月29日である。当時,原告は補助参加人の従業
員であったと認められるから,補助参加人の有する財産権を侵害しないようにすべ
きは当然であった。また,補助参加人が,本件音楽イベントの企画を通して獲得し
た,引用標章に係る財産権(顧客吸引力)は,原告が,その退職後も,尊重すべき
ものであると認められる。しかも,平成12年9月1日に本件契約が締結され,こ
れにより,原告が代表者を務めるスターチャイルドも,引用標章に係る権利を含
む,補助参加人の財産権を侵害しないことを約した上で,補助参加人と業務提携を
している。
  引用標章に係る補助参加人の財産権を尊重すべき原告が,補助参加人に無
断でした本件登録が,公序良俗に反することは明らかである。
(2)本件音楽イベントを実現まで漕ぎ着けたことが,原告の尽力に負うところ
大であったとしても,それは,補助参加人の従業員として当然のことである。本件
音楽イベントが,原告個人の事業としてなされたものと認められない以上,原告の
上記尽力は,本件登録が公序良俗に反すると認定することの阻害事由にはならな
い。
(3)原告は,本件商標が他者により登録されることを防止するために,本件登
録を行った,と主張する。
  仮に,本件出願時ないし本件登録時,何人も本件商標を登録することがで
きたとしても(前記のとおり,引用標章は既に周知であると認められるので,他者
による登録が可能であるとは必ずしも認められない。商標法4条1項10号参
照),そして,補助参加人に自ら本件商標を登録する意図がなかったとしても,原
告が,補助参加人に対し,上記のような事態が起こり得ることを説明し,それを防
止するために登録が必要であることの理解を求め,許可を得る程度のことが,困難
であったと認めることはできない。ところが,原告が,このような許可を得たこと
はもちろん,原告が,補助参加人に対し,そのような説明等を行ったと認めること
もできない。
  原告の主張は,採用できない。
3 結論
  以上のとおりであるから,原告の主張の取消事由には理由がないことが明ら
かであり,その他,決定には取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこ
で,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第3部
          裁判長裁判官    山  下  和  明
             裁判官     設  樂  隆  一
 
             裁判官    高  瀬  順  久

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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