弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 本件各控訴及び本件各附帯控訴をいずれも棄却する。
 ただし,訴えの一部取下げにより,原判決主文1項を次のとおり変更する。
 控訴人世田谷区長が被控訴人兼附帯控訴人a,同b,同c,同d及び同eに対し
て平成12年12月21日付けでした住民票消除処分をいずれも取り消す。
2 控訴費用は控訴人世田谷区長及び控訴人兼附帯被控訴人世田谷区の,附帯控訴
費用は被控訴人兼附帯控訴人らの各負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人世田谷区長(以下「控訴人区長」という。)及び控訴人兼附帯被控訴人
世田谷区(以下「控訴人区」という。)の控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
(2) 被控訴人兼附帯控訴人ら(以下「被控訴人ら」という。)の請求をいずれ
も棄却する。
2 被控訴人らの附帯控訴の趣旨
 原判決中控訴人区に関する部分を次のとおり変更する。
 「控訴人区は,被控訴人ら各自に対し,それぞれ50万円及びこれに対する平成
12年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
3 被控訴人らの本訴請求の趣旨
(1) 控訴人区長が被控訴人兼附帯控訴人a,同b,同c,同d及び同eに対し
て平成12年12月21日付けでした住民票消除処分をいずれも取り消す。
(2) 控訴人区は,被控訴人ら各自に対し,それぞれ100万円及びこれに対す
る平成12年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 当審における審理,判断の範囲
 原判決は,上記3の被控訴人らの本訴請求のうち,控訴人区長に対する請求をい
ずれも認容し,控訴人区に対する請求については,被控訴人ら各自に対してそれぞ
れ30万円及びこれに対する平成12年12月22日から支払済みまで年5分の割
合による遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却し
た。この原判決中被控訴人らの請求を棄却した部分に対しては,上記2記載の限度
で被控訴人から附帯控訴の申立てがされた。なお,被控訴人f及び同gは,当審に
おいて,控訴人区長に対する訴えを取り下げた。
 したがって,当審における審理,判断の対象は,被控訴人f及び同gを除くその
余の被控訴人らの控訴人区長に対する各請求の当否並びにそれぞれ50万円及びこ
れに対する遅延損害金の支払を求める限度での被控訴人らの控訴人区に対する各請
求の当否である。
第2 本件事案の概要及び当事者双方の主張
1 原判決の引用
 本件事案の概要,前提となる事実及び当事者の主張等は,次のとおり原判決を訂
正し,次項に当審における双方の主張を補足するほかは,原判決の「事実及び理
由」欄の「第2 事案の概要」の項の記載のとおり(ただし,原判決3頁24行目
から5頁2行目までを除く。)であるから,この記載を引用する。
 すなわち,本件は,宗教団体・アレフの信者である被控訴人らが控訴人区長に対
して提出した転入届に基づき同区長が作成した被控訴人らの住民票を同区長が破棄
し,住民基本台帳の記録から抹消したこと(以下「本件抹消等」という。)につい
て,これが住民票の消除処分に当たり,この処分が住民基本台帳法に違反し,被控
訴人らの生存権や参政権などの基本的人権を侵害する違法なものであるとして,被
控訴人f及び同gを除くその余の被控訴人らが控訴人区長に対して上記消除処分の
各取消しを求めるとともに,被控訴人らが国家賠償法1条に基づき控訴人区に対し
て損害賠償を求めた事案である。
(1) 原判決6頁11行目から12行目の「調製,記録した(以下「本件調製行
為等」という。)。」を「作成し,控訴人区の住民基本台帳に記録した。」に改め
る。
(2) 原判決7頁12行目の「(乙5)」を「(乙2,5,6,弁論の全趣
旨)」に改める。
2 当事者の補足主張
(控訴人ら)
(1) 住民基本台帳制度は,住民の居住関係を公証するとともに,選挙人名簿の
登録その他の住民に関する各種の行政事務処理の基礎とすることを目的としている
のであるから,単に住民の居住に関する事実を正確に記録し証明するための制度で
はなく,住民基本台帳に記録して住民に関する事務の処理の基礎とする必要がある
と認められるもの,すなわち,そこに住民として記録し当該市町村の事務を管理,
執行する必要がある者を制度の対象にしていると考えられる。それゆえ,住民基本
台帳法施行令(以下「施行令」という。)7条1項において,「新たにその市町村
の住民基本台帳に記録されるべき者があるときは」住民票を作成しなければならな
いものと規定し,同8条において「その者についてその市町村の住民基本台帳の記
録から除くべき事由が生じたときは」住民票を消除しなければならないと規定して
いるところである。また,法8条の規定によれば,住民票の記載等は届出を基礎と
して行われるが,その記載等をすること自体はあくまで市町村長の職権により行わ
れるものであって,施行令11条及び12条もこれと同趣旨のものと解される。し
たがって,その住所が区域内にある者の届出であればおよそ例外なく市町村長は住
民登録をすべく羈束されているとは解し難く,住民基本台帳に記録して当該住民と
して事務を管理,執行する必要を肯定できないような特別の事情がある場合の転入
者については,住民基本台帳に記録しないこと,その届出を受け付けないことなど
住民登録を拒否することが許容される場合もあり得るものというべきである。すな
わち,その市町村の区域内に住所を定めたとの事実,形態を取りさえすれば,その
ことだけで当然に住民登録がされて,その結果,その住民としての事務の管理,執
行を通じて各種の行政サービス等を受けることができるとの権利,利益が,住民基
本台帳法令上の規定のみによって明確にされており,確定するものとは解されず,
当該地方公共団体としての住民登録ないし行政サービス等の提供を否定する例外が
実定法上当然に存在し得るはずである。アレフの信者の多数が過去において数々の
犯行を繰り返し,その危険性が失われておらず,アレフ及びその信者が社会や地域
住民の信頼をいまだ全く得られていないという特殊な事情がある本件において,住
民基本台帳法令の明文規定を機械的に適用し,法令の明文規定が見当たらないから
住民登録の拒否,届出の不受理,住民票の消除が許されないと解すべきではない。
(2) 控訴人区長のとった措置は,当然に違法の評価を受けるような状況下で行
われたものではなく,少なくとも本件最高裁決定が下される前の時点においては,
本件抹消等が違法であるとの予見可能性は存在せず,控訴人区長には過失がなかっ
たというべきである。
(被控訴人ら)
原判決は,被控訴人らの慰謝料請求について各30万円の限度で認容したが,控訴
人区長から同様の処分を受けた者について,東京地裁において50万円の慰謝料を
認められているものがあることからすると,上記慰謝料の額は低すぎる。
第3 当裁判所の判断
1 本件抹消等が行政事件訴訟法3条2項に規定する「処分」に当たるかどうか等
について
 当裁判所も,本件抹消等は,住民基本台帳法(以下「法」という。)8条に基づ
く職権による消除処分であって行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その
他公権力の行使に当たる行為」に該当し(以下「本件消除処分」という。),本件
消除処分の取消しを求める訴えは適法であると判断する。その理由は原判決の理由
説示(原判決23頁末行から27頁8行目まで)と同一であるから,これを引用す
る。
2 本件消除処分が違法であるかどうかについて
(1) 住民基本台帳制度は,市町村において,住民の居住関係の公証,選挙人名
簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関す
る届出等の簡素化を図り,併せて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民
に関する記録を正確かつ統一的に行うものとして設けられた制度であって,これに
より住民の利便を増進するとともに,国及び地方公共団体の行政の合理化に資する
ことを目的とするものである(法1条)。
 そして,市町村長は,常に住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行
われるように努めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必
要な措置を講ずるよう努めなければならず(法3条1項,14条1項),その住民
につき,氏名,出生の年月日,男女の別等法7条所定の事項を記録する住民票を世
帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成する義務を負っている(法5条,6条1
項)。
 他方,住民は,常に住民としての地位の変更に関する届出を正確に行うように努
めなければならず,虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為
をしてはならないとされ(法3条3項),出生以外の事由で新たに市町村の区域内
に住所を定めて転入をした者は,転入をした日から14日以内に,氏名,住所,転
入をした年月日等所定の事項を市町村長に届け出ることが義務付けられており(法
22条1項),正当な理由がなくこれに違反した場合には,5万円以下の過料に処
せられることとされている(法51条2項)。
 そして,住民票の記載,消除又は記載の修正(以下「記載等」という。)は,政
令で定めるところにより,法の規定による届出に基づき,又は職権で行うこととさ
れ(法8条),これを受けて施行令では,市町村長に対し,①転入をした者その他
新たにその市町村の住民基本台帳に記録されるべき者があるときは,その者の住民
票を作成すること(施行令7条),②その市町村の住民基本台帳に記録されている
者が転出をし、又は死亡したときその他その者についてその市町村の住民基本台帳
の記録から除くべき事由が生じたときは、その者の住民票を消除すること(同8
条),③転居をし,又はその市町村の区域内においてその属する世帯を変更した者
がある場合において,必要があるときは,その者の住民票を作成し,又はその属す
ることとなった世帯の住民票にその者に関する記載をするとともに,その者の住民
票を消除すること(同10条),④住民票に記載されている事項に変更があったと
きは、その住民票の記載の修正をすること(同9条)を義務付け,法の規定による
届出があったときには,当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して,住民票
の記載等を行い(同11条),届出がないときには,当該記載等をすべき事実を確
認して,職権で,住民票の記載等をしなければならない(同12条)と定めてい
る。
(2) 一方,公職選挙法によれば,選挙人名簿に登録されるためには,その者に
係る住民票が作成された日から引き続き3か月以上当該市町村の住民基本台帳に記
録されていることを要し(同法21条1項),選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登
録されていない者は原則として投票することができないこととされている(同法4
2条1項)。
 また,国民健康保険法は,市町村の区域内に住所を有する者を当該市町村が行う
国民健康保険の被保険者とすると定め(同法5条),国民健康保険の被保険者の属
する世帯の世帯主に対し,その世帯に属する被保険者の資格の取得及び喪失に関す
る事項等を市町村に届け出ることを義務付けているが(同法9条1項),法22条
から25条までの規定による届出(転入届,転居届,転出届又は世帯変更届)に国
民健康保険の被保険者であることを証する事項で施行令27条1号に定める事項を
付記すれば,国民健康保険法9条1項に規定する市町村に対する届出があったもの
とみなされる(同法9条10項,法28条)。
(3) 以上の法の目的及び関係法令の規定からすれば,転入をした者について市
町村長が住民票を作成し,住民基本台帳に記録する行為は,あくまでその者が新た
に市町村の区域内に住所を定めたという事実が存在する場合に,その居住関係を公
証するとともに,選挙人名簿への登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とし
各種行政事務の結合を強化すること,併せて住民に関する記録の適正な管理を図る
という目的から行われるものであって,転入者についての住民票の作成や住民基本
台帳への記録自体によって,当該市町村への転入,居住が許容されるなどの権利義
務が形成され,又はその範囲が確定されるという法的効果を生じるものでないこと
は明らかである。そして,転入をした者が届け出なければならない事項は,氏名の
ほかは住所,転入年月日及び従前の住所等の居住関係に関するものに限られ(法2
2条1項),市町村長は当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して住民票の
記載を行うものとされていて(施行令11条),それ以外の事項を住民票の作成及
び住民基本台帳に記録するための要件とすることを定めた規定がないこと等を考え
合わせると,転入の届出があった場合に市町村長が住民票の作成及び住民基本台帳
に記録するに当たって審査すべき事項は,転入届に係る居住関係が事実であるかど
うかに限られ,当該届出に係る居住関係が事実である限り,市町村長は,その内容
に従ってその者の住民票を作成し,住民基本台帳に記録しなければならない義務を
負っているものというべきである。
 そして,施行令8条は,住民票を消除すべき場合として,住民基本台帳に記録さ
れている者が転出をし,又は死亡したときのほかに,「その他その者についてその
市町村の住民基本台帳の記録から除くべき事由が生じたとき」と規定しているが,
ここにいう除くべき事由についても,上記転入の届出があった場合の市町村長の審
査事項に対応して,実際の居住関係が住民票の記載内容と符合しない場合あるいは
これに準ずる場合に限られると解すべきである。したがって,同条に明示されてい
る転出,死亡のように居住関係に変動が生じた場合のほか,住民票が作成されたが
転入の事実がなかったことが判明した場合や,国籍を喪失しあるいは皇族の身分を
取得して住民基本台帳法の適用を受けなくなった場合(法39条,施行令33条)
等に基づくものに限られると解される。
(4) そして,関係証拠(甲24,34ないし36の各1ないし7)によれば,
被控訴人らは,いずれも転入届を控訴人区長に提出した平成12年12月19日当
時,転入届に係る住所地(以下「本件住所地」という。)に転入し,本件消除処分
をした同月21日時点において本件住所地に居住していたことが認められ,施行令
8条に定める住民票を消除すべき事由は認められないから,控訴人区長が行った本
件消除処分は,法に反する違法なものであるというべきである。
(5) 控訴人らは,アレフが危険性を有する団体であり,その構成員が集団で転
入することによって地域住民が恐怖,不安を感じており,住民の安全と地方公共の
秩序を維持するため,アレフの構成員の大量転入とアレフの拠点化を防ぐという特
別の事情が認められたため,控訴人区長は本件消除処分を行ったのであって,違法
性はないと主張する。
 しかし,前記のとおり,住民基本台帳制度は,住民の居住関係の公証や住民に関
する記録の適正な管理を目的とする制度であって,地域の秩序維持や住民の安全確
保を目的とするものではなく,しかも,市町村長が転入届を受理せずに住民票の作
成及び住民基本台帳への記録を拒否したり,住民票を消除して住民基本台帳の記録
から抹消したからといって,その者の当該市町村における居住が禁止される等の法
的効果が生じるものでもなく,その者が当該市町村の区域内に居住すること自体は
可能であるから,当該転入届を不受理としたり,住民票を消除することによって住
民の安全を確保するという目的を達することができるというものでもない。そうす
ると,住民基本台帳法が,控訴人らの主張するような事情を考慮して,適法に行わ
れた転入届を不受理として住民票の作成を拒否したり,いったん作成された住民票
を消除する権限を与えていると解する余地はないといわざるを得ず,控訴人らが主
張するような事情が施行令8条の「その他その者についてその市町村の住民基本台
帳の記録から除くべき事由」に該当するものと解することは到底できない。
 また,地域の秩序を維持し,住民の安全,健康及び福祉を保持することが地方公
共団体及びその長の基本的かつ重要な責務であるからといって,そのための行政の
作用が,法律又は条例を基礎とする何らかの立法の定めもなしに,国民の権利利益
を侵害することは,現行法上許容されるものではない。
 ところで,上記の法令の定めのように,選挙人名簿に登録されていない限り原則
として投票することができず,選挙人名簿に登録されるためには住民基本台帳に記
録されていることが必須とされていて,最も重要な基本的人権の一つである選挙権
の行使は住民票の作成及び住民基本台帳への記録にかからしめられていることが明
白であるところ,居住の事実があるにもかかわらず法の規定しない事由で住民票を
消除することは,選挙権の行使を妨げる結果となるので,法律上の根拠なくしては
許されないというべきである。
 控訴人らは,被控訴人らの住民票を作成するに当たって実質的審査権を行使すべ
き事実が存在したにもかかわらず,控訴人区長はその審査義務を尽くすことができ
ず,また,被控訴人らの居住の事実を確認しないで被控訴人らの住民票を作成し,
住民基本台帳に記録したものであるから,本件消除処分は適法であるとも主張す
る。
 しかし,転入の届出があった場合に市町村長が住民票の作成及び住民基本台帳に
記録するに当たって審査すべき事項は,転入届に係る居住関係が事実であるかどう
かに限られると解すべきことは前記のとおりであるし,被控訴人らが現に本件住所
地に転入し,同所に居住していた以上,控訴人区長において届出に基づいて住民票
を作成すべきものと判断していったん住民票を作成しておきながら,転入及び居住
の事実を確認できなかったとの理由のみでこれを消除することが許されるとは到底
解することができない。そのような場合には,まず居住関係の調査をし,その要件
が充たされていない場合に初めて,これを理由とする消除処分をすることで十分対
応可能である。現に,関係証拠(乙1ないし3)によれば,世田谷区役所α総合支
所α出張所の職員3名が平成12年12月19日に本件住所地の2棟のマンション
(東京都世田谷区β33番14号所在のγマンション及びこれと至近距離にある同
区β30番19号所在のδ)を訪れ,郵便ポストや表札には被控訴人らの氏名はな
かったものの,本件住所地に係る上記2棟のマンションの賃貸人であるhから,ア
レフに,8部屋を賃貸し,すでに数名が居住していること,翌日にも引っ越してく
ることを聞き,同月22日には,世田谷区役所世田谷総合支所のi地域行政担当部
長及びj区民部長ほか4名が本件住所地を訪れ,γマンシヨン303号室に3名の
女性がいることを確認し,そのうちkと名乗る女性と面談し,同マンションの1階
でeと名乗る女性にも会い,同月23日にはi部長がhと面会したことが認められ
るから,控訴人区長は被控訴人らが本件住所地に転入し,居住している事実を確認
し得たものと認められる。
 したがって,控訴人らが主張するような事情をもって本件消除処分を正当化する
ことは是認できない。
3 本件消除処分が国家賠償法上違法であるかどうかについて
 前記のとおり,本件消除処分は,法に違反するものである上,被控訴人らをして
選挙権の行使ができない状態及び国民健康保険の受給も事実上受けられない状態に
おいたものであり,また,関係証拠(乙1,4)及び弁論の全趣旨によれば,本件
消除処分は,アレフの信者からの転入届は拒否するとの控訴人区の方針に基づき,
被控訴人らを含むアレフの信者13名が同時期に至近距離にあるマンション2棟に
転入したことを理由とした法律上の根拠のない差別的な取扱いであることが認めら
れるから,国家賠償法上も被控訴人らに対する関係で違法な行為であるというべき
である。
 控訴人区は,本件消除処分は,アレフの危険性が払拭できない状況の下,地方公
共の秩序を維持し,住民らの安全を保持するという地方公共団体の長としての責務
として行ったものであるから,法の規定に違反するものであるとしても国家賠償法
上の違法性はないと主張するが,前記のとおり,本件消除処分は,被控訴人らの選
挙権の行使を妨げ,国民健康保険の受給に支障を来すこととなる一方で,本件消除
処分によっても住民の安全を確保するという目的を達することができるものでもな
いことからすれば,上記主張は採用できない。
4 本件消除処分について控訴人区長に故意・過失があるかどうかについて
 控訴人区は,控訴人区長において本件消除処分が適法なものと解釈したことに故
意・過失はないと主張する。
 しかし,関係証拠(甲44)によれば,本件不受理処分に先立つ平成12年12
月15日,当時の森喜朗内閣総理大臣は,信者の転入届の不受理等に関する国会議
員の質問主意書に対し,「市町村長は,転入届があったときは,当該届出の内容が
事実であるかどうかを審査して,住民票の記載を行わなければならないこととされ
ており,自治省においては,その趣旨について地方公共団体へ助言を行ってきたと
ころである。」旨の答弁書を衆議院議長に送付していることが認められ,控訴人区
長が本件消除処分を行った際に,控訴人らが主張する解釈の根拠となる裁判例や学
説等の見解が存在していたことも認められず,法が定める住民基本台帳制度の目
的,転入届に関する規定の各文言に照らしても,控訴人区長がそのような解釈を採
ったことについて相当の根拠があったということはできない。したがって,違法な
本件消除処分を行ったことについて,控訴人区長には少なくとも過失があるという
べきである。
5 被控訴人らが被った損害について
 以上によれば,控訴人区は,国家賠償法1条に基づき,控訴人区長による公権力
の行使たる本件消除処分により被控訴人らが被った損害を賠償すべき義務があると
ころ,上記のとおり,本件消除処分により,被控訴人らは,選挙権を行使できない
状態におかれ,また,国民健康保険の被保険者として事実上取り扱われない状態に
もおかれたほか,関係証拠(甲36の1ないし7)によれば,印鑑登録証明書の交
付を受けられないなど,日常生活にも支障を来したことが認められ,これらの事実
によれば,被控訴人らが少なからざる精神的苦痛を受け,心理的不安を抱いたもの
と推認される。
 もっとも,関係証拠(甲36の1ないし7,甲37,乙30)及び弁論の全趣旨
によれば,本件最高裁決定により本件消除処分の効力を停止する旨の裁判が確定し
たことを受けて,世田谷区選挙管理委員会は,平成13年6月14日,被控訴人ら
が転入届を提出した平成12年12月19日から3か月を経過した時点をもって被
控訴人らを選挙人名簿に登録する旨の措置を遡及して行い,被控訴人らはその後に
行われた東京都議会議員選挙において選挙権を行使することができ,被控訴人らが
現実に選挙権を行使することができなかったという事情はなかったこと,本件地裁
決定の後,被控訴人らはいったんは国民健康保険の被保険者として取り扱われたも
のの,本件高裁決定が出されてから本件最高裁決定までの間,被控訴人らは再びそ
の被保険者として取り扱われないこととなったが,被控訴人らが国民健康保険の被
保険者として取り扱われなかった期間中も,そのことによって被控訴人らが高額の
医療費の支出を余儀なくされたという事情も見受けられない。
 以上の諸事情を総合考慮すれば,被控訴人らが被った精神的苦痛等に対する慰謝
料としては,被控訴人ら各自についてそれぞれ30万円の支払を命ずることで足り
るものというべきである。
第4 結論
 したがって,被控訴人f及び同gを除くその余の被控訴人らの控訴人区長に対す
る本件消除処分の取消しを求める請求は理由があり,被控訴人らの控訴人区に対す
る損害賠償請求は,それぞれ30万円及びこれに対する不法行為の後である平成1
2年12月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める限度で理由があり,以上と同旨の原判決は相当であるから,本件各控訴
及び本件各附帯控訴をいずれも棄却することとし,なお,当審において訴えの一部
取下げがあったので,その旨を明らかにすることとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官 赤塚信雄
裁判官 宇田川基
裁判官 加藤正男

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛