弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件異議申立を棄却する。
         理    由
 本件異議申立の趣意は、請求人の代理人弁護士古川祐士が提出した異議申立書に
記載されたとおりであるから、これを引用する。
 論旨は、要するに、原決定は、(1)無罪が確定した本件の勾留と別件の勾留と
が併存した期間及び本件につき形式的には勾留されていなかつたものの右別件の勾
留を利用して本件の取調がなされた期間を補償対象日数に算入しなかつた点におい
て、刑事補償法ひいては憲塗三一条三四条四〇条に違反している、(2)別件の勾
留の大半が本件の取調に利用されたり捜査側が被告人のアリバイ捜査を適正に行わ
なかつたりした本件の事情を無視して一日の補償割合を刑事補償法による最高額
四、八〇〇円を下廻る三、五〇〇円とした点において、憲法三一条三四条四〇条に
違反しているというのである。
 そこで、関係記録を調査し、まず(1)について検討すると、原決定記載のとお
り、請求人は、無罪が確定した本件の関係では、昭和四五年一一月一四日逮捕され
引き続き勾留されたが同年一二月六日一旦釈放されて、同月二一日起訴と同時に勾
留状の執行を受け、以後昭和五三年一〇月三〇日釈放されるまで拘束され、これと
は併合されず別個の手続によつて審理され、後に有罪が確定し服役した別件甲、
乙、丙の関係では、昭和四五年一〇月二七日逮捕されてから昭和四八年七月二三日
刑の執行を終了するまで合計一〇〇一日(このうち未決勾留の本刑算入分と労役場
留置分を含む刑の執行期間が九一六日ある)拘束されたものであるところ、原決定
は、本件による拘束日数のうち別件による拘束と競合しない別件の刑終了の翌日以
降の分につき刑事補償したが、それ以前の別件による拘束と競合する分のうち前記
九一六日(この分は請求人も請求から控除している)を除いた残りの五三日分と別
件のみにより拘束された三二日分については「本件とは別個の手続により、有罪の
判決を受けるに至つた場合においては、単にこれと本件の逮捕、勾留とが併存した
に過ぎないときは勿論、本件について、身柄を拘束することなく、その取調がなさ
れたときであつても、別件甲による逮捕、勾留は、適法に、当該事件の処理の必要
上なされたものであり、特段の事情のない本件においては、無罪の判決があつたか
らといつて、補償の対象として考慮することは、相当とは言えない」として補償を
しなかつたことが明らかである。
 <要旨>刑事補償法は、特定の事実を原由として抑留又は拘禁された者がその事実
について無罪の裁判を受けたことを補償の要件としたと解される憲法四〇条
に基づき、その補償に関する細則及び手続を定めた法律であるところ、刑事補償法
一条三条五条等の規定に照らすと、同法による補償は、損害を填補する点において
国家賠償とその本質を同じくし、ただ無罪の裁判があつた者については、これを受
けるまでに被つたすべての損害を補償の対象とすることなく、同法一条所定の身柄
の拘束自体による損害にこれを限定し、一日の補償金額をも法定することによつ
て、補償の内容を定型化したものであるということができる。そうしてみると、無
罪とされた事実により身柄を拘束された者であつても、これと競合して別個の原由
によつて重ねて身柄を拘束されていたときには、原則として、刑事補償法が補償の
対象としている損害はなく、したがつて、同法一条に基づく補償を受けることはで
きないものと解すべきである。厳密にいえば拘束の原由いかんによつて損害の多寡
に相違はあり得るが、身柄の拘束そのものは一個であり、その期間中別の原由によ
つても拘束されていた以上、通常、無罪事実に基づき身柄を拘束されたこと自体に
よる別異の損害は生じなかつたと考えられるからである。刑の執行と競合する日数
について補償されないことについては、ほとんどこれまで疑問とされず、本刑に算
入された未決勾留の日数と競合する無罪事件の勾留期間についても補償の対象とな
らないとされている(昭和三四年一〇月二九日第一小法廷決定・刑集一三巻一一号
三〇七六頁、昭和五五年一二月九日第二小法廷決定・刑集三四巻七号五三五頁)の
も、まさにこのためである。ただし、本件のように無罪事件につき逮捕勾留される
と同時に有罪事件についても逮捕勾留され両者が併合されることなく別個の手続に
おいて審判されている場合に、右の有罪事件につき保釈許可決定を得たものの競合
する無罪事件の勾留があつたため現実に身柄を釈放されないことを考慮して保釈保
証金を納付せず有罪事件の勾留が継続したときとか、別の事件が不起訴となつたと
きのように、問題となる身柄の拘束が実質上無罪事件のみに基づくものと認められ
る特別の事情があるときには、例外として、刑事補償の対象になるものと解すべき
である。前掲原決定の判示も結局はこの趣旨を表わしたものと思われる。なお、類
似の場合として、刑事補償法三条二号は「一個の裁判によつて併合罪の一部につい
て無罪の裁判を受けても、他の部分について有罪の裁判を受けた場合」には「裁判
所の健全な裁量により、補償の一部又は全部をしないことができる」と規定してい
るが、これは、右の場合には無罪事実の審理のみに要したと認められる拘束日数と
有罪事実の審理のみに要したと認められる拘束日数とが形式上明確に区分されてお
らず不可分一体をなしているところから、双方の利用関係の実質的日数を裁判所の
健全な裁量によつて区分し、これに応じて補償するのが相当であるとの判断による
ものと解される。そうしてみると、この規定自体、形式上無罪事実のみについて拘
束がなされていた場合であつても、これを利用して有罪事実が併合審理されていた
ときは、これに要した実質的日数を補償の対象から除外することを定めたものにほ
かならず、併合されていない別事件の拘束が競合していたときには、当然補償の対
象から除外する趣旨であると解するのが合理的である。併合して審理するかどうか
は公判裁判所の裁量にかかり、その意味で偶然に左右されることがあるにしても、
別個に逮捕勾留の理由と必要性につき明示的な判断を経ている以上、前記のような
特別の事情が認められない限り、併合されていない別事件による拘束が実質上無罪
事件による拘束になることはあり得ず、その全部又は一部を刑事補償の対象とする
ことは同法三条二号の趣旨に反すると解されるからである。なお、このように解し
たからといつて、所論のように別件逮捕、勾留を奨励する結果につながるものでな
いことは明らかであり、もとより憲法三一条三四条四〇条に違反するものではな
い。
 そうすると、原決定が、別件甲について逮捕された日から本件について逮捕され
た日の前日までの一八日と本件につき一旦釈放された日の翌日から本件起訴の前日
までの一四日はもとより、別件の拘束期間と重複する本件の拘束期間五三日合計八
五日につき補償をしなかつたのは正当であり、所論のような違法はない。
 次に(2)について検討すると、請求人の定職もなかつた生活状況、請求人が肉
親などに自己を真犯人と思わせるような言辞を吐いたことが本件の発端となつたこ
とや本件捜査の状況その他刑事補償法四条二項所定の一切の事情を考慮すると、請
求人に対する補償の割合を一日三、五〇〇円とした原決定に裁量権の範囲を逸脱し
た違法はもとより憲法三一条三四条四〇条に違反する点はないと認められるから、
この点の所論も採用できない。論旨は理由がない。
 よつて、刑事補償法二三条、刑訴法四二八条二項三項四二六条一項により主文の
とおり決定する。
 (裁判長裁判官 桑田連平 裁判官 香城敏麿 裁判官 植村立郎)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛