弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人加藤礼敏作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書と
各題する二通の書面に記載してあるとおりであるから、これらをここに引用し、こ
れに対して次のとおり判断する。
 控訴趣意第一点について。
 原判決が、その理由において、判示第一、(一)の別紙第一犯罪一覧表中番号一
一、ないし一三、及び二三、の事実につき、既遂として日本国とアメリカ合衆国と
の間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関す
る法律(以下単に関税法等の臨時特例に関する法律と略称する。)第一二条第一
項、第四項、関税法第一一〇条第一項第一号を適用していることは、所論のとおり
であつて、これに対して所論は、右の各事実は、いずれも、被告人の依頼を受けた
各米兵が、甲飛行場内の米軍管理の敷地内のPXで、右犯罪一覧表掲記の物品を買
つたが、未だ同敷地の門内にいるうちに検挙されたため、同敷地の門外で待つてい
た被告人に右物品を渡さないうちに逮捕されて、該物品を没収されたものであつて
未だ関税ほ脱行為を完了したといい難く、従つて、障がい未遂の法条を適用すべき
ものであるから、原判決には、この点につき、法令の適用に誤があつてその誤が判
決に影響を及ぼすこと明らかである旨を主張する。よつて考察するに、税関の許可
を受けないで、日本国内において、駐日米国軍人用販売機関から外国製物品を購入
して関税を免れる行為が、関税法等の臨時特例に関する法律第一二条、関税法第一
一〇条第一項に該当することについては、所論<要旨>もこれを争わないところであ
るが、原判決書によれば、原判決がその判示第一の(一)の事実として認定判示す
ところは、「被告人は、駐日米国軍人らが有する日米行政行定に基く関税
及び物品税等の免税特権を利用して、駐日米国軍人用販売機関から外国製品を購入
し、この不正行為により、これに対する関税及び物品税を免れようと企て、単独
で、別紙第一犯罪一覧表記載のとおり米軍物品販売所において、駐日米国軍人を介
し外国製物品を購入し、もつて右不正行為により右物品に対する関税及び物品税を
免れたものである。」というのであつて、右の「駐日米国軍人を介し外国製物品を
購入し」との趣旨は、最初、右米国軍人自身が適法に前示米軍物品販売所から買い
受けた免税物品を、更に被告人が右米国軍人から買い受けたという意味ではなく
て、被告人自身が直接右米軍物品販売所から免税物品を買い受けるにつき、免税特
権を有する駐日米国軍人を利用しようとして、これに情を明かして協力を依頼し、
その承諾を得てこれと共謀の上、その軍人に買受資金を渡して同軍人をして被告人
のために右外国製免税物品を購入させたという意味に解されることは、原判決挙示
の関係証拠に照らして疑を容れないところであるから、一見、既に被告人の共犯者
たる右軍人が前掲米軍物品販売所において、その代金を支払い、物品の引渡を受け
た以上、被告人自身が自ら代金を支払つて物品の引渡を受けたと同様被告人の買受
行為は、この時において終了したものであり、従つて、該買受行為による前示関税
法違反罪も、この時において既遂に達したもののように解されるかの観がないでも
ないが、しかし、本件においては、被告人の共犯者たる立場にある右駐日米国軍人
が前示のような免税特権の所有者である関係上、同軍人が前示米軍物品販売所にお
いて右免税物品を買い受けた行為は、内心的には、原判示のように、被告人の共犯
者たる立場において被告人のために買い受けたものであつたとしても、右買受に関
する外形的行為は、形式的には、一応適法行為であつて、その買受けた免税物品も
同軍人がそのままこれを所持している限りにおいては、関税及び物品税等の納税義
務が発生しない筋合であるから、同軍人が右買受にかかる物品を被告人に引渡さな
い以前に検挙され、該物品を押収されたような場合には、前示関税法違反罪は、未
遂に終つたものと認めるのが相当であるといわなければならない。しかして、記録
に徴するときは、所論にかかる四つの事実においては、いずれも、米国軍人が被告
人の依頼により被告人のために米軍物品販売所において外国製免税物品を買い受け
たが、未だこれを被告人に交付する以前において検挙され、該物品を押収されてし
まつた事実の認め得られることは、所論指摘のとおりであるから、右四つの事実に
ついては、被告人の関税法違反行為は、未遂に終つたものとして、前掲関税法等の
臨時特例に関する法律第一二条第一項、第四項、関税法第一一〇条第二項後段に該
当するので、同項の規定に従い、同条第一項の例によつて処断すべきものであつ
て、従つて、原判決は、この点について法令の適用を誤つたものといわなければな
らない。しかしながら、右四つの場合が、いずれも未遂であつて、関税法第一一〇
条第二項後段に該当するとしても、前示のように、同項の規定によつて、同条第一
項所定の既遂の場合と同一罰条項によつて処断すべきものである上に、右四つの場
合において、これを既遂とみるか未遂とみるかは、ひつきょう同一の具体的事実に
対する法律的価値判断の問題であつて、そのいずれによつても、具体的な事実関係
とその犯情とには、別段の相違を来すものとは考えられないのであるから、前示法
令適用の誤は、結局判決に影響を及ぼさないものというべく、従つて、原判決に
は、この点につき所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤が
あるものということはできない。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 鈴木良一)

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