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平成28年6月15日判決言渡
平成28年(行コ)第59号検査済証交付処分取消請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成27年(行ウ)第432号)
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2本件を東京地方裁判所に差し戻す。
第2事案の概要等
1本件は,控訴人らが,指定確認検査機関である被控訴人に対し,控訴人らの
居住地の近隣に建築された建築物には,建築基準関係規定に適合しない点など
があるにもかかわらず,被控訴人が検査済証を交付する処分をしたことは違法
であると主張して,同処分の取消しを求める事案である。
原判決が,控訴人らには,同処分の取消しを求める訴えの利益がないとして
訴えを却下したところ,控訴人らがこれを不服とし,本件控訴をした。
2関係法令の定め,前提事実及び主な争点と当事者の主張は,次の3のとおり
当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄
の「第2事案の概要」の1から3までに記載のとおりであるから,これを引
用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
(1)原判決5頁10行目末尾に改行して次のとおり加える。
「エ是正措置命令
建築基準法9条1項は,特定行政庁は,建築基準法令の規定又は同法
の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物について,当該建築
物の建築主,当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含
む。)若しくは現場管理者(以下「建築主等」ということがある。)又
は当該建築物の所有者,管理者若しくは占有者に対し,当該建築物の除
却,移転,改築,増築,修繕,模様替,使用禁止,使用制限その他,上
記規定等に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずる
ことができるとし,同条7項は,緊急の必要がある場合においては,措
置通知,聴聞という前提手続を要せずして,仮に使用禁止,使用制限の
命令をすることができると規定している。
建築基準法7条の2第7項は,特定行政庁は,指定確認検査機関が完
了検査を行い,同機関による完了検査報告書の提出を受けた場合におい
て,当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しないと認める
ときは,遅滞なく,9条1項又は7項の規定による命令その他必要な措
置を講ずるものとすると規定している。
(2)原判決5頁11行目の「エ」を「オ」と,22行目の「オ」を「カ」と
それぞれ改める。
(3)原判決7頁24行目の「原告A」から26行目の「原告Bは,」までを
次のとおり改める。
「控訴人Aは,本件敷地の西側道路を隔てた土地上に居住する者であり,控
訴人C,控訴人D及び控訴人Bは,」
(4)原判決11頁10行目の「そのため,取消判決がされれば,」から15
行目までを次のとおり改める。
「このことは完了検査の申請を期限内にしなかった場合及び検査済証の交
付を受けずに当該建築物を使用した場合には,刑罰が科されること(建築
基準法99条1項3号,同項2号)からも明らかである。
そうすると,取消判決がされれば,当然に当該建築物は使用できなくな
るのであり,使用がされている限り,訴えの利益は失われることはない。
上記のとおり,検査済証交付処分の効果につき,法定建築物の一律使用
禁止を解除するものであって,使用の開始から使用の終了まで,訴えの利
益が消滅することはないと解釈することは,建築確認の取消しを求める訴
えの利益について判断した最高裁判所の裁判例(最高裁判所昭和58年
(行ツ)第35号同59年10月26日第二小法廷・民集38巻10号11
69頁)が,建築確認処分の効果につき,法定建築物の一律建築工事禁止
を解除するものであって,工事の開始から工事の終了まで,その法的効果
が存続しており,この間に,訴えの利益を認めている解釈とも適合してい
る。
したがって,本件処分の取消しを求める本件訴えについては,本件建築
物の使用が開始されても訴えの利益が失われない。」
3当審における控訴人らの主張
(1)原判決は,検査済証交付処分が取り消された場合における,不利益の増
大を免れる可能性についての周辺住民の利益は,法律上保護された利益とは
いえない反射的利益にとどまると判断しているが,この判断は,当該建築物
の使用の有無にかかわらず,周辺住民には検査済証交付処分の取消しを求め
る適格がないとするものであり,原告適格を否定しているのと等しく誤った
判断である。
(2)原判決は,建築基準法が検査済証交付処分を受けないままで,当該建築
物を仮に使用することを認めていることからすると,建築基準法は,検査済
証交付処分を介在させることによって,周辺住民の個別具体的な保護をしよ
うとしているとまで解することはできないとしている。しかし,仮の使用制
度は,検査済証交付処分が遅れた場合に建築主が受ける不利益が大きくなら
ないよう救済する制度に過ぎず,同制度の存在をもって,検査済証交付処分
が周辺住民の権利利益を個別具体的に保護していないと解釈するのは誤って
いる。むしろ,仮の使用制度に関しては,規定上,特定行政庁又は建築主事
等が「安全上,防火上及び避難上支障がない」と認めることを要件としてい
ることから(建築基準法7条の6第1項1号2号),周辺住民の権利利益に
対し配慮しており,個別具体的に保護しているものといえる。
(3)原判決は,検査済証交付処分が取り消された場合には,建築基準法9条
1項に基づき,特定行政庁が是正措置命令をすることがあり得るが,その判
断及び選択は特定行政庁に委ねられていることから,検査済証交付処分が取
り消されたからといって,直ちに是正措置命令がされることにはならないと
判断している。しかし,本件完了検査は,指定確認検査機関によってされて
いることから,是正措置命令は,同法7条の2第7項に基づいてされるとこ
ろ,この場合には,建築主事による完了検査がされた場合にされる是正措置
命令と異なり,特定行政庁が当該建築物が建築基準関係規定に適合してない
と認めるときは,同法9条1項又は7項の命令その他の措置を講ずる義務が
生じる(法7条の2第7項は,「講ずるものとする」と定めており,同法9
条1項の規定の表現「命ずることができる」とは異なっている。)。すなわ
ち,指定確認検査機関が完了検査を行った場合には,完了検査報告書を作成
して特定行政庁に提出しなければならないとして,特定行政庁において公正
中立性に疑問のある民間企業である指定確認検査機関によってされた本件完
了検査を再確認できるようにし,その結果,違法性があれば独自に是正命令
を講じることを義務付けているのである。したがって,検査済証交付処分が
取り消されれば,特定行政庁は,当該建築物が建築基準関係規定に適合しな
いと認めざるを得ないため,当該建築物の使用開始の前後を問わず,当該建
築物の使用禁止等の違反是正措置を講ずる義務が発生するのであって,原判
決の上記判断は誤っている。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人らの本件処分の取消しを求める訴えは,訴えの利益がな
いから,不適法として却下するのが相当であると判断する。その理由は,次の
2のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を付加するほかは,原判
決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1に記載のとおりであ
るから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
(1)原判決21頁3行目から22頁9行目までを次のとおり改める。
「(1)行政処分の取消訴訟の目的は,処分の法的効果により個人の権利利
益が侵害されている場合に,判決によりその法的効果を遡及的に消滅さ
せ,個人の権利利益を回復させることにあると解されることから(最高
裁昭和46年(行ツ)第46号同47年12月12日第三小法廷・民集第
26巻10号1850頁,最高裁昭和51年(行ツ)第24号同57年4
月8日第一小法廷・民集36巻第4号594頁),訴えの利益の有無
は,当該個人の権利利益を侵害する処分の法的効果が存続しており,こ
れが取り消されることによって処分によって侵害された当該個人の権利
利益が回復される場合に限り,訴えの利益を肯定することができる。
そうすると,訴えの利益の存否は,当該処分が取消判決によって除去
すべき法的効果を有しているか否か,処分を取り消すことによって回復
される法的利益があるのかという観点から検討する必要がある。
(2)これを検査済証交付処分についてみると,建築主事等(建築基準法
7条1項)又は指定確認検査機関(同法7条の2第1項)は,建築主か
ら届出に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているか
どうかを検査(完了検査)し,適合していると認めたときは,建築主に
対し検査済証を交付しなければならないものとされているから(同法7
条5項,7条の2第5項),検査済証交付処分は当該建築物及びその敷
地が建築基準関係規定に適合しているかどうか確認することを目的とし
た処分であるということができ,同処分の法的効果に関しては,法定建
築物の新築の場合についていえば,建築主は,同法7条の6第1項1号
2号に当たる場合を除き,検査済証の交付を受けた後でなければ当該新
築に係る建築物を使用し,又は使用させてはならないものとされ(同条
1項柱書),この規定に違反した者には罰則が適用されることとされて
いる(同法99条1項)。
そうすると,検査済証交付処分は,建築等の工事が完了した建築物及
びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを公権的に判断する
行為であって,法定建築物の新築の場合にあっては,それを受けなけれ
ば,原則として当該建築物の使用を開始することができないという法的
効果が付与されているものということができ,それを受けることによっ
て,上記制限が解除され,当該建築物の使用を開始することが許容され
ることになる。
しかしながら,検査済証交付処分の目的は,上記説示のとおり,建築
等の工事が完了した建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合して
いるかどうかを確認することにあることを考慮すると,同法は,その目
的を達成するために,検査済証の交付を受けなければ,建築主におい
て,当該建築物の使用を開始することができないと定めて,完了検査の
実効性を確保したものとみることができるにすぎず,検査済証交付処分
が,一旦開始された使用につき,当該建築物の建築主や所有者,管理
者,占有者等その使用をする者において当該建築物を継続的に使用する
ことの許否についての法的効果まで当然に有するとまではいえない。
他方で,建築物が建築基準関係規定に違反する場合,特定行政庁は,
建築基準法9条1項又は7条の2第7項に基づき,建築主等のほか建築
物の所有者,管理者又は占有者に対し,建築基準法令の規定等に違反し
た建築物について,建築物の除却,修繕,その他使用禁止や使用制限を
含め,違反を是正するために必要な措置をとることを命じること(是正
措置命令)ができ,緊急の必要がある場合においては,仮に,使用禁止
又は使用制限の命令をすることができる(同法9条7項)。そうする
と,建築基準法は,建築物の使用が開始された後においては,たとえそ
の使用の開始がそもそも違法であったとしても,その使用を禁止し,又
は制限するためには是正措置命令を発することにより実効的な是正をす
ることを予定しているものと解するのが相当である。
ところで,是正措置命令については,同法9条各項の定めから明らか
なとおり,その要否及び内容に関して裁量が認められている上,建築基
準法令の規定といっても,その内容は様々であり,その違反について是
正措置を命ずるべきであるか否か,命ずるとしていかなる是正措置を命
ずるべきかは,違反の態様,程度によって一義的には定まらないと考え
られることから,その判断及び選択は特定行政庁に委ねられていると解
される。
そうすると,検査済証交付処分が判決により取り消されたからといっ
て,直ちに,上記の是正措置命令がされることにはならず,仮に当該判
決を契機としてこれらの命令がされる可能性があったとしても,それ
は,判決の法的効力に基づくものとはいえない。したがって,是正措置
命令がされ得ることをもって検査済証交付処分を取り消す判決を求める
ための法律上の利益に当たると解することはできない。」
(2)原判決22頁15行目から23頁9行目までを次のとおり改める。
「この点,控訴人らは,建築物が使用されなければ,当該建築物の周辺住
民は,単に当該建築物が存在するにすぎない場合と比較して,災害時の避
難の困難さや当該建築物からの火災による延焼のリスクの点で,控訴人ら
が主張する不利益の増大を免れる可能性がある旨を主張する。
検査済証交付処分が判決により取り消されれば,建築主は当該建築物を
使用し,又は使用させることができなくなるが(建築基準法7条の6第1
項),この使用制限の規定の趣旨は,前記(1)に説示したとおりであり,
現実に使用している者に対し,当然に使用禁止の法的効果を発生させるも
のとまではいえず,使用ができなくなるという法的効果を受けるのは,直
接には建築主であり,それにより当該建築物の周辺住民が受ける影響は,
間接的なものにすぎない。結局,違法建築物による危険を抜本的に解決す
るためには除却命令その他の是正措置命令を待たなければならないし,使
用開始後の当該建築物の使用による不利益の増大については使用禁止又は
使用制限命令による是正が予定されていると考えられることに加え,前記
説示のとおり,検査済証交付処分が是正措置命令の法的障がいにならない
ことを併せ考慮すると,建築物の使用が開始された後に検査済証交付処分
の取消しによって上記のような不利益の増大を免れる可能性についての周
辺住民の利益は,法律上保護された利益とはいえないというべきであ
る。」
2当審における控訴人らの主張に対する判断
(1)控訴人らは,前記第2の3(1)及び(2)のとおり主張する。
しかしながら,控訴人らにおいて,検査済証交付処分を取り消す判決を求
めるための法律上の利益があるとはいえないことは,前記1(1)(2)のとおり
原判決を訂正して説示したとおりである。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2)控訴人らは,前記第2の3(3)のとおり主張する。
控訴人らは,建築基準法7条の2第7項の文言と同法9条1項の規定の表
現の違いから,かかる主張をしているものと解される。確かに,建築基準法
7条の2第7項は,「必要な措置を講ずるものとする。」と定めており,原
則又は方針を示すものということはできるが,義務付けではない上,講ずる
対象は9条1項又は7項の規定による命令その他必要な措置であって,9条
1項又は7項の是正措置命令を発することまでの拘束が生ずるわけではな
い。是正措置命令については,完了検査を建築主事等が行う場合でも指定確
認検査機関によって行われた場合でも,同法9条1項又は7項に基づき行わ
れ,その場合においては,特定行政庁の判断及び選択に委ねられていること
は前記1(1)のとおり原判決を訂正して説示したとおりである。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
3以上によれば,本件訴えは不適法であるから,これを却下すべきところ,こ
れと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第17民事部
裁判長裁判官川神裕
裁判官伊藤繁
裁判官澤井真一

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