弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(ワ)第23114号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成13年6月19日
              判       決  
原      告  東成建設株式会社
訴訟代理人弁護士    齋藤 宏
同           彌冨悠子
補佐人弁理士    清水敬一
被      告    株式会社ライナックス
訴訟代理人弁護士     熊倉禎男
同           吉田和彦
同           渡辺 光
補佐人弁理士    倉 澤 伊知郎
              主       文  
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
  被告は,原告に対し,金4000万円及びこれに対する平成12年11月9
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1争いのない事実等
(1) Xは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲請求項1
の発明を「本件発明1」,同請求項2の発明を「本件発明2」という。また,本件
特許に係る明細書(甲1)を,「本件明細書」という。)を有している(甲1,弁
論の全趣旨)。
 特許番号    特許第1640200号
 登録日     平成4年2月18日
 出願日     昭和60年5月27日
 発明の名称   可撓性床体の修理方法及び切削装置
 特許請求の範囲請求項1
「固い基礎床体上に固着された可撓性層を切削し,該可撓性層の表面部を
除去する切削過程,上記基礎床体上に残された下部可撓性層の切削面に接着剤を塗
布する塗布過程,及び接着剤が塗布された上記切削面に新しい可撓性層を付着する
接着過程,からなる可撓性床体の修理方法。」
 特許請求の範囲請求項2
「固い基礎材料上に固着された可撓性層を切削する装置で,回転駆動源に
連結されかつ回転可能に支持されたシャフトと,該シャフト上に固定された複数の
円形板と,各円形板間に配置されたスペーサと,各円形板の外周部に固着されたチ
ップとを有し,該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらし
て配置されたことを特徴とする可撓性床体の切削装置。」
(2)ア 本件発明1は,次のとおり分説される(弁論の全趣旨。なお,以下,下
記(ア)の過程を「切削過程」,下記(イ)の過程を「接着剤塗布過程」,下記(ウ)の
過程を「接着過程」という)。
(ア)固い基礎床体上に固着された可撓性層を切削し,該可撓性層の表面
部を除去する切削過程,
(イ)上記基礎床体上に残された下部可撓性層の切削面に接着剤を塗布す
る塗布過程,及び
(ウ)接着剤が塗布された上記切削面に新しい可撓性層を付着する接着過
程,
(エ)からなる可撓性床体の修理方法。
イ本件発明2は,次のとおり分説される(弁論の全趣旨)
(ア)固い基礎材料上に固着された可撓性層を切削する装置で,
(イ)回転駆動源に連結されかつ回転可能に支持されたシャフトと,該シ
ャフト上に固定された複数の円形板と,各円形板間に配置されたスペーサと,各円
形板の外周部に固着されたチップとを有し,
(ウ)該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらし
て配置された
(エ)ことを特徴とする可撓性床体の切削装置。
(3)Xは,原告に対し,平成4年3月16日,本件特許権の独占的通常実施権
の許諾をした(甲2)。
(4)被告は,商品名が「ウレタン表層切削機ライナックスUー650」という
切削装置(以下「被告製品」という。)を製造販売している(甲4の1ないし4,
弁論の全趣旨)。
2 本件は,本件特許権の独占的通常実施権者である原告が,被告に対し,被告
製品は,本件発明1の実施にのみ使用するもので,かつ,本件発明2の技術的範囲
に属するから,被告による被告製品の製造販売は,本件特許権の侵害であると主張
して,不法行為又は不当利得に基づき,この侵害によって原告が被った損害の賠償
又は不当利得の返還を求める事案である。
第3 争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点
(1)被告製品が,本件発明1の実施のみに使用する製品かどうか
(2)本件特許請求の範囲請求項1が明らかに無効かどうか
(3)  被告製品が,本件発明2の構成要件(ウ)を充足するかどうか
(4)損害又は損失の発生及び額
2 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)について
(原告の主張)
 被告製品は,本件発明1の実施にのみ使用するものである。
 競技用走路等として使用される全天候型運動施設において,ベース層と上塗り層
とを密着し一体化させることは,改修工事の大前提である。したがって,可撓性床
体を修理する場合,ベース層と上塗り層を密着し一体化させるために,本件発明1
の「接着剤塗布過程」及び「接着過程」が必要である。
 東洋スポーツ施設株式会社(以下,「東洋スポーツ施設」という。)が,
千葉県船橋市の船橋市運動公園陸上競技場2種公認施設改修工事(その2)におい
て,全天候型弾性舗装材の改修工事を行った際,接着効果のあるポリウレタンを,
下地プライマーとして薄く均一に塗布し,その上に,上塗りウレタン樹脂を塗り重
ねたが,この下地プライマーは,「接着剤」に当たり,この工事には,本件発明1
の「接着剤塗布過程」及び「接着過程」が存する。被告が後記のとおり主張する方
法においても,上記の東洋スポーツ施設株式会社による工事と同様に,薄い液体状
のポリウレタン樹脂等の接着剤が用られている。
 仮に,これらの方法において,このような接着剤が使用されていないとし
ても,これらの方法は,複数のポリウレタンを塗り重ねて,基層,ベース層,上塗
り層を密着させるものであるところ,ウレタン樹脂は,接着性のあるイソシアネー
ト基を含み,接着する性質を持つから,下層のポリウレタンを「接着剤」として
「塗布」する「接着剤塗布過程」,その上に,ポリウレタン系樹脂を塗り重ねて形
成される「新しい可撓性層」を「接着」する「接着過程」を含むものである。
 本件発明1において,「接着剤」は,接着現象を生起するすべての物質を指し,
「可撓性層」と「接着剤」が同種のものであってはならない理由はない。
 また,可撓性層が,いわゆる「貼り物」,すなわち固体であることは本件発明1
の要件ではない。本件明細書の発明の詳細な説明における「ゴム等の可撓性層」の
記載は,ポリウレタン系樹脂を塗り重ねて固体化した可撓性層を含む。本件明細書
の発明の詳細な説明における「張り替える」との表現は,塗り物が固体化した物を
張り替えることを含む。さらに,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説
明の「固着」との表現は,「塗り物」が固まってつくことも含む。本件明細書に,
可撓性層が「貼り物」に限られるとの記載はない。
 そもそも,本件発明1は,ポリウレタン系樹脂を塗り重ねて可撓性層を形成する
施工法を念頭において発案されたものである。
(被告の主張)
 被告製品は,固い基礎床体の上にあるポリウレタン等の弾性層(可撓性層)の表
面を研磨又は切削した後,ポリウレタンを塗り重ねて施行する方法に用いられてい
るが,この方法は,大阪市営長居陸上競技場の改修工事,大阪府堺市の金岡公園陸
上競技場改修工事などにおいて,遅くとも昭和59年から現在に至るまで採用され
ている。
 以下のとおり,この方法は,本件発明1の「接着剤塗布過程」及び「接着
過程」を充足しない。
ア 本件発明1は,特許請求の範囲請求項1の文言上も,発明の詳細な説明
の記載上も,明確に,「接着剤」と「可撓性層」,「接着剤を塗布する塗布過程」
と「可撓性層を付着する接着過程」を別のものとしているから,同種のものを塗り
重ねることがこれらの要件を満たすと解することはできない。しかるに,上記の方
法は,同種のポリウレタンを塗り重ねているものである。
イ 「接着剤」とは,2つのものを貼り合わせるものであり,少なくとも,
「下部可塑性層」と「新しい可塑性層」を直接接触させた場合よりも接着作用が強
くなるものでなければならない。しかしながら,上記の方法では,最下層のウレタ
ン層は,上層のウレタン層と同種であるから,既存のウレタン層に上層のウレタン
層を直接接触させた場合と,接着作用は同等である。しかも,最下層のウレタン層
が既存のウレタン層に接着するのは,主として物理的なアンカー効果によるから,
最下層のウレタン層と既存のウレタン層との接着力は,化学結合が生じる最下層の
ウレタン層と上層のウレタン層との接着力よりも弱い。したがって,最下層のウレ
タン層は「接着剤」には当たらない。
ウ 本件発明1にいう「可撓性層」とは,固体であるいわゆる「貼り物」を
指している。このことは,本件特許の特許請求の範囲の文言中に「固い基礎床体上
に」「可撓性層」が「固着」されたという用語が用いられていること,本件明細書
の発明の詳細な説明に,「ゴム等の可撓性層」,「可撓性層を張り替える」,「固
着された可撓性層」などの記載があること,本件明細書に,「塗り物」を含むこと
を開示ないし示唆する記載がないことから明らかである。そして,本件発明1にい
う「可撓性層」が「貼り物」であるがゆえに,接着剤を塗布する必要があることに
なる。
 上記ウレタンは,いわゆる「塗り物」であって,塗り重ねるのに接着剤を塗布す
る必要がないから,本件発明1の「可撓性層」に当たらない。
エ液体であるポリウレタンを塗布することは,「可撓性層」の「付着」に
当たらない。
 このように,被告製品は,可撓性床体の修理を,本件発明1によらない方
法で行う場合にも用いられるから,本件発明1の実施にのみ使用するものではな
い。
(2)争点(2)について
 (被告の主張)
ア 本件発明1は,本件特許出願前に頒布された刊行物(乙6)に記載され
た技術と同一又はこの技術から容易に発明をすることができたものであるから,本
件特許請求の範囲請求項1は,明らかに無効である。
 この技術は,可撓性床体の修理方法であって,既設舗装材(タータン)の摩耗等
により痛んだ表面部を削り取って下部を残す工程は,本件発明1の「切削過程」
に,残った既設舗装材上に,接着剤であるTCプライマーを塗布する工程は,本件
発明1の「接着剤塗布過程」に,平坦化のための新舗装材下塗を付着させる工程,
又は,さらにその上のTCプライマーの上に新舗装材上塗を付着させる工程は,本
件発明1の「接着過程」にそれぞれ相当する。
 この技術は,サンダ(紙又は布ヤスリ)で切削するものであるが,本件発明1に
おいて,切削刃による切削は要件となっていないから,このような切削も本件発明
1の「切削過程」に含まれる。また,本件発明1には,「表層部分の摩耗部分,退
色部分,剥離部分を正確な深さで均一にかつ容易に除去する切削装置による改修方
法」などという限定はないうえ,上記技術においても,表層部分の摩耗部分,退色
部分,剥離部分を正確な深さで均一にかつ容易に除去することができる。 
イ仮に,複数のウレタン層を塗布することが「接着剤の塗布過程」に当た
るとすると,本件発明1は,本件特許出願前に頒布された刊行物(乙14の2又は
3)に記載された技術から容易に発明をすることができたものであるから,本件特
許請求の範囲請求項1は,明らかに無効である。
(原告の主張)
被告の主張する刊行物記載の技術(乙6)は,表層部分の摩耗部分,退色
部分,剥離部分を,サンダ(紙又は布ヤスリ)で磨くもので,切削刃によって切削
するものではないから,接着剤を塗布し新しい可撓性層を付着させるのに十分な深
さまで研磨すること,良好の既設舗装材質を露出させるために均一に研磨すること
は,容易に行えない。したがって,この技術から,表層部分の摩耗部分,退色部
分,剥離部分を正確な深さで均一にかつ容易に除去する切削装置による改修方法で
ある本件発明1が容易に想到できるとはいえない。
(3)争点(3)について
(原告の主張)
ア 被告製品は,別紙第1図Aのとおり,車輪の進行軸に対し,シャフトが
一定角度傾斜させて取り付けられているから,チップは,隣接する円形板のチップ
に対し,切削機の進行方向において,一定角度間隔ずらして配置されている。した
がって,被告製品は,本件発明2の構成要件(ウ)を充足する。本件特許に係る図面
の第7図は,実施例の1つを記載したものにすぎない。
イ被告製品は,別紙図面第2図のとおり,各円形板32の嵌合孔に支持ロ
ッド50を挿入することで,一連の円形板32が一体に固定されるが,別紙図面第
3図のとおり,各円形板32の嵌合孔51は,支持ロッド50よりもかなり大きい
ので,各円形板32のチップ33は,結果的に,隣接する円形板32のチップ33
に対して,一定角度ずれて配置される。
(被告の主張)
ア 被告製品が別紙第1図Aの構成を有することは否認する。被告製品は,
別紙第1図Bのような構成を有するから,被告製品の各円形板のチップは,いかな
る意味においても,隣接する円形板のチップに対し一定角度間隔ずらして配置され
ていない。
イ 仮に,被告製品が,原告の上記主張のような構成を有しているとして
も,「一定角度間隔ずらして配置」するのは,チップ間の衝突による損傷を防止す
るためであって,「一定角度」とは,本件特許に係る図面第7図のl(小文字のエ
ル)に対応する角度であるところ,別紙第1図Aの角度θは,これに対応するもの
ではなく,チップ間の衝突が生じ得る状態になっているから,被告製品は本件発明
2の構成要件(ウ)を充たさない。
ウ 被告製品の支持ロッド50と円形板32の嵌合孔との間に生じる間隙に
相当する間隙は,本件発明2にも当然にありうるが,このような間隙によって結果
的に発生するずれが,本件発明2でいう「一定角度間隔」のずれであるとの説明
は,本件明細書に一切無い。本件発明2の「一定角度間隔」のずれは,チップ間の
衝突による損傷を防止し,可撓性材料の表面部を正確な寸法で平坦面に切削し,か
つ虎刈りを防止するためのものであり,支持ロッドと円形板の嵌合孔との間の間隙
により,不可避的,結果的に発生するようなものではない。
 また,このような間隙によって発生するずれは,偶発的,流動的に生じるもので
あって,「一定」角度ずれるわけではない。
(4) 争点(4)について
  (原告の主張)
被告が製造販売した被告製品の販売額は8000万円を下らず,その利益
率は,販売額の50パーセントを下らない。
 したがって,原告の被った損害又は損失は,4000万円を下らない。
(被告の主張)
 損害又は損失の発生及び額については争う。
第4当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1)ア証拠(乙1ないし3)によると,東洋スポーツ施設が,昭和59年1月
に竣工した大阪市営長居陸上競技場の改修工事において,全天候型弾性舗装材改修
工法を施工したこと,この工事に関する工事設計書において,「舗装工」の欄に接
着剤塗布に関する記載が無いこと,この工事の特記仕様書において,この工事の施
工方法について,以下のように記載されていること,以上の事実が認められる。
 (ア)既設ウレタン舗装表面をサンディングし,研磨面を損傷しないよう
に水又は中性洗剤等で清浄する。
(イ)既設ウレタン舗装の研磨面が清浄化されていることを確認し,その
上に,ウレタン材の主剤及び硬化剤が規定比において均一混合された全天候型ウレ
タン樹脂舗装材を塗布する。水張り試験により不陸箇所の点検とその修正を行う。
下塗り表面は水洗い等により清浄状態を維持する。
 (ウ)ウレタン材の主剤及び硬化剤が規定比において均一混合された全天
候型ウレタン樹脂舗装材(上塗り材)をトッピング剤が有効に埋設されるよう均一
に塗布する。
 (エ)上塗り材流し込み塗布後,直ちに所定のトッピング材を散布する。
トッピング材散布はトッピングの沈下により有効に埋設接着されるようにトッピン
グ工を行う。
 イ証拠(乙1,4)によると,東洋スポーツ施設が,平成11年3月に竣
工した大阪府堺市の金岡公園陸上競技場改修工事において,全天候型弾性舗装材改
修工法を施工したこと,この工事にかかる特記仕様書において,この工事の施工方
法について,以下のように記載されていること,以上の事実が認められる。
 (ア)既設全天候舗装表面の粉塵をスイーパー等により除去した後,所定
量をサンディングする。
 (イ)研磨面の清掃後不陸チェックを行い,状況によりウレタン材を塗布
し,不陸修正を行う。
 (ウ)ウレタン舗装材を,所定の厚さになるように,2,3層に分けて舗
装する。
 (エ) 表面仕上は、スプレーにてエンボス状に仕上げる。
ウ 証拠(乙5)によると,日本運動施設建設業協会発行の「全天候舗装施
工指針(案)」には,表層にポリウレタン系の材料を用いる舗装施工において,基
層の上に,接着剤であるプライマーを用いずに,ウレタン材を塗布してベース層を
施工し,さらに,その上に,接着剤であるプライマーを用いずに,ウレタン材を塗
布して上塗り層を施工する舗装施工方法があることが記載されていることが認めら
れる。 
 エ 以上の事実によると,可撓性床体の修理方法において,既設舗装面の表
面を切削した後,接着剤(プライマー)を塗布することなく,ウレタン材を塗り重
ねる施工方法があることが認められ,証拠(乙1)によると,この切削に被告製品
を用いることができるものと認められる。
(2) 原告は,東洋スポーツ施設が,千葉県船橋市の船橋市運動公園陸上競技場
2種公認施設改修工事(その2)の全天候型弾性舗装材の改修工事において,接着
効果のあるポリウレタンを,下地プライマーとして薄く均一に塗布し,その上に,
上塗りウレタン樹脂を塗り重ねたと主張する。
 証拠(甲10,12,乙1)によると,東洋スポーツ施設が,千葉県船橋市の船
橋市運動公園陸上競技場2種公認施設改修工事(その2)における全天候型弾性舗
装材の改修工事を施工したこと,船橋市が作成したこの工事の単価表において,ウ
レタンオーバーレイ工の欄に,接着剤である「下地プライマー」の記載があるこ
と,この工事の特記仕様書には,「タックコート工」の表題の下に「研磨後の表面
強化とウレタン中間層との密着及び一体化のため,プライマーを均一に散布す
る。」との記載があること,以上の事実が認められる。
 しかしながら,証拠(乙16)によると,東洋スポーツ施設が作成した単価表に
おいては,ウレタンオーバーレイ工の欄に「下地プライマー」の記載はないことが
認められ,また,証拠(甲12,乙16)によると,この工事を撮影した写真に
は,トップコートをローラーエンボス層に塗布する際にプライマーを散布している
写真があることが認められるが,既設舗装面と新しいウレタン材との間にプライマ
ーが用いられたことを示す写真があるとは認められない。
 以上によると,この工事において,既設舗装面と新しいウレタン材との間にプラ
イマーが用いられたとまでは認められないが,仮に,この工事において,既設舗装
面と新しいウレタン材との間にプライマーが用いられたとしても,そのことから直
ちに,上記(1)の方法においてプライマーが用いられたことになるものではない。
 また,証拠(甲15,乙1,16)によると,東洋スポーツ施設が,横浜市の三
ツ沢公園陸上競技場トラック外改修工事について,全天候型弾性舗装材改修工法を
施工したこと,横浜市が作成したこの工事の設計図において,「タックコート工」
として,「ベース層と上塗り層を密着,一体化させる為に専用プライマーを均一に
塗布する。」との記載があることが認められるが,仮に,この工事において,ベー
ス層と上塗り層との間にプライマーが用いられたとしても,そのことから直ちに,
上記(1)の方法においてプライマーが用いられたことになるものではない。
(3) 原告は,ウレタン樹脂は接着効果を有しているから,上記(1)の方法にお
ける下塗りのウレタン材が「接着剤」に当たり,下塗りウレタン材によって,上塗
りウレタン材と既設ウレタン舗装が接着していると主張する。
 しかしながら,本件特許請求の範囲請求項1において,「接着剤を塗布する」過
程と「新しい可撓性層を付着する」過程は,文言上明確に区別されていること,本
件明細書(甲1)には,実施例としては,切削面にエポキシ樹脂等の接着剤を塗布
して接着剤層を形成した後に,新しい可塑性層を固着する実施例のみが記載されて
いること,発明の効果として「安価な接着剤の使用により修理コストを最小限度に
低下することができる」との記載があることからすると,本件発明1においては,
「新しい可撓性層を付着する」過程の前に,それとは別個の「接着剤を塗布する」
過程がなければならず,上記(1)の各方法のように既設ウレタン舗装の上に同一の物
質を塗り重ねた場合には,そのような2つの過程が存するとはいえないから,本件
発明1の構成要件を充足するということはできず,原告の上記主張は採用できな
い。
(4)したがって,被告製品は,本件発明1の実施のみに使用される製品である
とは認められない。
2 争点(3)について
(1) 原告は,被告製品は,別紙第1図Aのとおり,シャフトが車輪軸の進行軸
に対し一定角度傾斜しているから,各円形板のチップは,隣接する円形板のチップ
に対し,切削機の進行方向において,一定角度間隔ずらして配置されていると主張
する。
 被告製品が原告の上記主張のような構成を有している旨の説明書(甲9)
が存するが,被告製品は別紙第1図Bのとおりの構成を有している旨の陳述書(乙
8)が存することに照らすと,いまだ被告製品が原告の上記主張のような構成を有
することを認めることはできないが,仮に,被告製品が原告の上記主張のような構
造を有しているとしても,以下のとおり,被告製品は,本件発明2の構成要件(ウ)
を充足しない。
 証拠(甲1)によると,本件明細書には,実施例として,各チップの側面が,テ
ーパ状に形成され,チップの幅が,円形板の幅よりも大きく,外周部で交互にオー
バーラップした状態で配置される装置が記載されており,その装置について,可塑
性材料の表面部を正確な寸法で平坦面に切削できる旨及びチップ間の衝突による損
傷を防止するために,チップを一定角度間隔ずらして配置する旨が記載されている
こと,図面第7図において,円形板の円周方向においてチップを一定角度間隔l
(小文字のエル)ずらした図面が開示されていること,発明の効果として,「この
発明の前記切削装置を使用することにより,正確かつ平坦な切削面を形成すること
ができる。これは,隣接する円形板のチップが交互にオーバーラップした状態で配
置される新しい構成によって達成することができる」との記載があること,以上の
事実が認められる。
 以上の事実によると,本件発明2の「一定角度間隔ずらして配置された」とは,
オーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けるために,円周方
向において,上記チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔ずらすことを意味
するものと認められる。
  これに対して,証拠(甲5,9,乙8)と弁論の全趣旨によると,被告製
品においては,チップは,外周部で交互にオーバーラップした状態で配置されてい
ないものと認められるから,隣接するチップの衝突を避けるために,円周方向にお
いて,チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔でずらす必要はない。被告製
品が,仮に別紙図面第1図Aの構成を有しているとしても,チップが,隣接する円
形版のチップに対し,円周方向にずらして配置されていないから,上記構成要件を
充足しない。
  なお,被告製品は,別紙図面第1図Bの構成を有しているとしても,チッ
プがオーバーラップした状態で配置された場合に,チップ間の衝突を避ける程度の
一定の角度間隔,円周方向にずらして配置されているとは認められないから,上記
構成要件を充足しない。
(2)原告は,被告製品は,その円形板の嵌合孔が,支持ロッドよりも大きいこ
とから,チップが,結果的に,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずら
して配置されるとも主張する。
 しかしながら,仮に被告製品においてこのようなずれがあるとしても,上記認定
のとおり,「一定角度間隔」とは,チップがオーバーラップした状態で配置された
場合に,チップ間の衝突を避ける程度の「角度間隔」を意味するところ,被告製品
において,チップが,オーバーラップした状態で配置された場合に,上記のずれに
よって,チップ間の衝突を避ける程度の「角度間隔」ずれて配置されることを認め
るに足りる証拠はなく,また,そのずれは偶発的なものであるから,「一定」のも
のとも認められない。
  したがって,原告の上記主張は,これを採用することができない。
3 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がな
い。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官   森     義  之
裁判官岡  口  基  一
裁判官男  澤  聡  子
別紙 第1図A・B
別紙 第2図
別紙 第3図

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛