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裁判例


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○ 主文
一 原判決中、第一審被告東京地力裁判所の敗訴部分を取消す。
二 第一審原告A、同B、同C及び同Dの第一審被告東京地方裁判所に対する請求
をいずれも棄却する。
三 第一審原告E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L、同M及び同N並
びに第一審被告最高裁判所の本件各控訴をいずれも棄却する。
四 訴訟費用中、第一審原告A、同B、同C及び同Dと第一審被告東京地方裁判所
との間に生じた部分は、第一、二審とも右の第一審原告らの負担とし、その余の第
一審原告ら並びに第一審被告最高裁判所の本件各控訴によつて生じた部分は、これ
ら第一審原告ら並びに第一審被告最高裁判所の各負担とする。
○ 事実
第一 当事者双方の申立
(昭和五一年(行コ)第七六号事件)
一 控訴の趣旨
1 原判決中、第一審被告東京地方裁判所及び同最高裁判所敗訴の部分を取消す。
2 第一審原告A、同B、同C及び同Dの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも右の第一審原告らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、第一審被告東京地方裁判所及び同最高裁判所の負担とする。
(昭和五一年(行コ)第七七号事件)
一 控訴の趣旨
1 原判決中、第一審原告E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L、同M
及び同N敗訴の部分をいずれも取消す。
2 第一審被告最高裁判所事務総長が昭和三四年一月二六日付をもつてした第一審
原告E及び同Fに対する戒告の懲戒処分、第一審被告東京高等裁判所が同日付をも
つてした第一審原告Gに対する二か月間俸給月額の一〇分の一づつ減給の懲戒処分
(但し、判定により修正されたもの。)、第一審被告東京地方裁判所が同日付をも
つてした第一審原告K、同L及び同Mに対する戒告の懲戒処分、第一審被告最高裁
判所が昭和四二年九月一三日付をもつてした第一審原告Hに対する三か月間俸給月
額一〇分の一づつ減給の懲戒処分(但し、判定により修正されたもの。)、第一審
原告I、同J及び同Nに対する戒告の懲戒処分(但し、
判定により修正されたもの。)を、いずれも取消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文第三、四項と同旨
第二 当事者双方の主張並びに証拠関係
次に附加するほかは、原判決の事実摘示と同一 (但し、原判決一五枚目表二行目
から九行目までの全文を削除し、同一〇行目冒頭に「三」とあるのを「二」と改め
る。)であるから、これを引用する。
一 第一審原告らの主張
第一審原告H、同I、同J、同K及び同Mの非違行為とされているもののうち、車
庫附近における運転手に対する就労妨害行為(原判決の別紙「理由」中、各論第
一、一、(一)、同二、(一)、同三、(一)、同九、(一)及び同一一、
(一))が存在しなかつたことは、すでに述べたとおりであるから、以下におい
て、本件職場大会の実施及びこれにまつわる第一審原告A、同B、同C及び同Dを
のぞく第一審原告ら及び訴外O(以下「訴外O」又は「訴外人」という。)の行動
が第一審被告らの主張する非違行為に該当しない所以並びに懲戒権濫用についての
従来の主張を更に補足敷衍する。
1 出勤猶予時間内における組合活動の適法性
(一) 本件職場大会が出勤猶予時間(当時における出勤猶予時間は、東京高裁に
おいては勤務開始時刻の午前八時三〇分から午前九時三〇分まで、東京簡裁を含む
東京地裁においては同様午前九時二〇分までと、それぞれ定められていた。)内に
行われたもので、当時全司法に所属する職員が出勤猶予時間内に組合活動を行うこ
とを当局が容認していたことは、すでに述べたとおり(原判決九枚目裏四行目から
一〇枚目裏四行目まで)であるが、これを詳述すれば、昭和二九年一二月三日及び
四日の両日にわたり全司法の在京及び大阪の各支部が官公労第四次闘争として午前
八時四、五〇分までに及ぶ集団登庁を実施し、昭和三二年三月二七日に全司法広島
支部が賃上要求のため午前八時五〇分から午前九時すぎにかけて一斉登庁を実施し
たにかかわらず、当局は、これに参加した職員に対して何らの懲戒処分を加えなか
つたし、午後の勤務開始時刻の午後一時すぎに及ぶ組合活動についても、昭和三二
年三月一四日に全司法が賃上要求のため午後一時一五分に及ぶ中央総決起大会を実
施し、昭和三三年九月一五日に全司法在京支部が勤評反対のため午後一時二〇分に
及ぶ職場大会を実施したのに、当局は、その参加職員に対して懲戒処分を加えなか
つたのである。以上のように、本件職場大会が行われた当時においては、職員が出
勤猶予時間内に組合活動を行うことはもとより、午後の勤務時間にくい込む組合活
動を行うことも、すべて当局によつて容認され、かかる組合活動に参加した職員に
対し、それを理由に懲戒処分をしないという労働慣行がすでに確立されていたので
ある。従つて、出勤猶予時間内における本件職場大会に関係した第一審原告らの行
為は、何らの違法性もないし、仮に本件職場大会が出勤猶予時間を若干超過したと
しても、それを理由に懲戒処分を課することは、懲戒権の濫用として許されるもの
ではない。
(二) また職員が、出勤猶予時間内に出勤した場合、直ちにその職務に従事すべ
き義務を負うものであるとしても、本件職場大会当日右大会に参加した第一審原告
らは、いずれもその勤務する裁判所の庁舎内に立入らず、従つて、いまだ出勤して
いなかつたのであるから、そもそも、その職務に従事すべき義務が発生していなか
つたのであつて、本件職場大会の当日第一審被告らが主張するように職場復帰命令
等が発せられ、右の第一審原告らがこれに従わなかつたとしても、これらの第一審
原告らに職務命令違反があつたとすることはできないのである。
2 国家公務員法九八条五項の規定(昭和四〇年法律六九号による改正前の規定、
以下同じ。)の合憲性
国公法九八条五項の規定が憲法二八条に違反するものとして無効であること、仮に
そうでないとしても国公法の右規定は限定的に解釈すべきものであり、かく解釈し
た場合本件職場大会の開催が右の規定によつて禁止される争議行為に該当しないこ
とは、すでに述べたとおり(原判決一一枚目裏四行目から一三枚目表五行目まで)
であるが、その理由を更に詳述すれば、
(一) 国公法九八条五項の規定を全面的に合憲とする所説がその根拠として掲げ
るところは、要するに、(1)公務員の労働基本権は、おのづから勤労者をも含め
た国民全体の共同利益の見地からする制約を免れない、(2)非現業国家公務員に
ついては、その地位の特殊性と職務の公共性に鑑みるとき、その労働基本権に対し
必要やむを得ない限度の制限を加えることは十分合理的な理由がある、(3)公務
員の勤務条件の決定の面を見ても、私企業の場合と異るものがあり、その決定は、
民主国家のルールに従つてなされるべきものであつて、争議行為の圧力による強制
を容認する余地は全くない、(4)私企業においては、争議行為に市場の抑制力が
働くのに、公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がない、
(5)公務員の生存権保障の趣旨から、その労働基本権の制約に見合う周到な代償
措置の制度が設けられている、以上の五点に尽きるのである(最高裁大法廷昭和四
八年四月二五日判決、刑集二七巻四号五四七頁)が、私企業に雇用された労働者が
争議行為を行つた場合においても国民全体の共同利益が侵害されることは避けられ
ないのであつて、公務員の争議行為のみを特別視することは許されないのみなら
ず、公務員の争議行為は、かえつて国民の大多数たる私企業の労働者にも共同の利
益をもたらすのであつて、この観点からすれば、(1)の国民全体の共同利益論が
その理由とならないことは明らかであるし、(2)の公務員の地位又は職務の特殊
性又は公共性も、公務員は全体の奉仕者ではあるが、労働の対価として賃金を得て
いる点においては、私企業の労働者と何ら異る点はなく、公務員にも昭和二一年三
月から昭和二二年七月までの間争議権が附与されていたことをも考え合わせれば、
その理由とならないことは明らかである。(3)の公務員の勤務条件の決定の特殊
性については、公務員の勤務条件が法律によつて定められるものではあるが、公務
員が、その勤務条件の決定権を持つ点において私企業の経営者と同視されるべき国
会又は内閣に対して争議行為を行うことは憲法二八条が当然に予定しているところ
であつて、これをもつて何ら異とするには足りないし、また、かかる公務員の争議
行為が法令改正の要求を伴う結果、これを政治ストとして違法視する反論があり得
るとしても、右の争議行為の対象となるのは、国会等が帯有する公務員に対する使
用者、経営者としての側面であつて、国民の代表者としての側面をその対象とする
ものではないのであるから、私企業の労働者が行う争議行為との間に何ら本質的な
差異はないし、(4)の市場の抑制機能の有無についても、公務員といえども世論
を無視して争議行為をすることができないのは当然であるし、また、その結果とし
ての賃金カツトもあり得るのであつて、公務員の争議行為にもおのづからなる限度
があるから、この点においても私企業の労働者の場合と異るところはない。(5)
の代償措置についても、人事院制度はあるが、その勧告には何らの強制力がなく、
また勧告自体が代償的機能を果していないことは、すでに公知の事実である。
以上のとおりであつて、国公法九八条五項の規定を合憲とする所説が全くその根拠
を欠くものであることは明らかであり、このことは、前記最高裁判決後において
も、国公法の右規定と同旨の地公法三七条一項、公共企業体等労働関係法一七条一
項の各規定につき、これを正面から違憲、無効と断ずる下級裁判所の裁判例が続出
していることによつても裏づけられるのである。
(二) 警職法の一部を改正する法律案の内容及び右の改正法が国会において可決
成立すれば、組合員の経済的社会的地位の向上を図ること等を目的として組織され
た全司法の活動自体が不能となることは、すでに述べたところ(原判決九〇枚目裏
九行目から一二行目まで及び九一枚目裏二行目から九二枚目裏四行目までによつて
明らかであり、全司法に所属する第一審原告Aらをのぞく第一審原告らが本件職場
大会に参加したのは、右の法律案に反対することによつて裁判所職員臨時措置法に
よつて準用される国公法一〇八条の二、三項所定の職員の団結権及び同法一〇八条
の五、一項所定の団体交渉権を擁護しようとしたにほかならないのであつて、その
目的自体も正当であつて、これを政治的行為と評価することは許されないものであ
るし、その手段、程度及び結果のいずれの面を見ても、それが社会的に容認され得
る合理的範囲を出るものではなかつたことは、すでに述べたとおりであるから、仮
に前記の限定解釈論をとつたとしても、本件職場大会の開催が国公法九八条五項の
規定が禁止する争議行為に該るとすることはできないのである。
3 懲戒権の濫用
(一) 原判決は、裁判所及び裁判所職員の地位の特殊性を強調し、職員は、その
行動が本来政治的性格を有する機関である国会、内閣に勤務する職員に比し著しく
制限されるものとし、第一審原告Aらをのぞくその余の第一審原告らの本件職場大
会の実施及び同大会への参加並びにそのための説得、勧誘行為は、たんに国公法九
八条五項の規定に違反するだけではなく、法の厳正な遵守、適用により国民の権利
を擁護し、社会秩序の維持を使命とする裁判所に対する国民の期待に反し、その政
治的中立性につき誤解や疑惑を与えかねない性質を帯びるものであつて、右第一審
原告らの関与した各行為の違法性及び責任は軽いものではない(原判決五七枚目表
一〇行目から五九枚目裏二行目まで)とであつて、本件懲戒処分或いは判定も右と
同趣旨に出るものと推認されるのであるが、国会及び内閣に勤務する職員に適する
の用又は準用される国公法及び人事院規制は、裁判所職員に対しても、裁判所職員
臨時措置法及び裁判所職員に関する臨時措置規則(昭和二七年最高裁規則一号)に
よつて等しく準用されているのであつて、裁判所職員を国会等に勤務する職員を区
別して扱うべき実定法上の根拠は存在しないのであるから、裁判所職員であること
のみを理由に右の第一審原告ら及び訴外Oを区別して扱うことは、憲法一四条の規
定に違反して許されない。
(二) 以上に述べたところ及びすでに述べた「警察官職務執行法改正反対運動の
経緯と趣旨」(原判決九二枚目裏末行から九四枚目表末行までを考え合わせれば、
右の第一審原告ら及び訴外Oに対して懲戒処分をもつてのぞむことは酷に失するの
であつて、本件懲戒処分は、いずれも懲戒権の濫用として許されない。
二 第一審被告らの主張
1 出勤猶予時間内における組合活動の違法性
(一) 出勤猶予時間が本件の当時午前八時四五分までであつたこと及びその法律
的な性質については、すでに述べたとおりである(原判決一六枚目表二行目から同
裏二行目まで)から、右制度の設けられた趣旨からいつて、職員が出勤猶予時間内
に組合活動を行うことが適法として容認されることなどあり得ない。
(二) 第一審原告らは、本件職場大会に参加した職員は、いまだ出勤していなか
つたから、当局の発した職場復帰命令に従う義務がなかつた旨主張するのである
が、本件懲戒処分は、第一審原告Aらをのぞく第一審原告らが右職場大会に参加し
て他の裁判所職員や訴訟関係人の入庁を妨害した行為を対象としたものであり、ま
た当局が出勤時刻経過後に庁舎玄関附近にいる職員に対し、その職務につくよう命
令できることは当然であるから、この点に関する右第一審原告らの主張は、いずれ
も理由がない。
2 国公法九八条五項の規定の合憲性
国公法九八条五項の規定及びこれと同旨の地方公務員法三七条一項並びに公共企業
体等労働関係法一七条一項の各規定が憲法二八条の規定に違反しないことは、前記
最高裁大法廷昭和四八年四月二五日判決以後の最高裁判例によつて確定し、すでに
限定的解釈論を採用する余地がないことも明らかであるから、第一審原告らのこの
主張が理由がないことも明らかである。
3 懲戒権の濫用の主張について
(一) 懲戒権の行使は、それが社会観念上著しく妥当を欠き、それが懲戒権者に
附与された、懲戒処分をすべきかどうか、懲戒処分をするについていかなる種類、
程度の懲戒を課すべきかについての裁量権の目的を逸脱したと認められない限り、
懲戒権者に附与された裁量権の範囲内にあるものとして違法とはならないというべ
きである(最高裁第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決、民集三一巻七号一一〇
一頁)が、これを本件について見るに、本件職場大会は、警職法改正反対という政
治的意見表明のために開催された違法性の強い団体行動であり、しかも、第一審原
告Aらをのぞく第一審原告ら及び訴外Oは、裁判所職員として自ら法を守ることに
厳正でなければならず、裁判所の政治的中立性に留意しなければならない立場にあ
つたにかかわらず、上司の警告を無視し、あえて本件職場大会を計画、実施し、自
らも参加したものであつて、その行為の責任は重大であり、殊に、右の各行為が公
務員の争議行為が違法であることにつき疑のなかつた時期に行われたことを考慮す
れば、本件懲戒処分が第一審被告らに附与された裁量権の範囲内にあることは明ら
かであつて、社会観念上も妥当なものである。
(二) 本件職場大会は、全司法本部中央執行委員会の指令(乙第一〇号証)によ
つて実施されたものであるが、訴外Oは、前記のように昭和三三年一一月五日当時
全司法本部中央執行副委員長兼財政部長であつただけではなく、右のように組織上
第一審原告Aらをのぞく、その余の第一審原告ら以上に他の組合員に対し影響力を
及ぼし得る地位にありながら、他の組合員を説得して本件職場大会に参加させたも
のであるから、右の第一審原告ら以上に重い処分がなされたのは当然であり、訴外
Oの死亡により審査手続が終了したとされなければ、第一審被告東京地方裁判所が
同人に対してした処分が軽減されたとはいえないし、また審査手続において第一審
原告Aらをのぞく第一審原告ら及びその他の請求者のうちに原処分を修正軽減され
た例があるからといつて、訴外Oに対する本件懲戒処分が裁量権の濫用になるもの
でもないことは明らかである。
(三) よつて、第一審原告らのこの主張は、すべて理由がない。
4 第一審被告最高裁判所がした訴外Oの審査請求に対する判定の適法性
職員の不利益処分に対する審査手続は、行政手続の一環をなすものであるから、当
然に民事訴訟法が準用されることにはならないし、仮に民事訴訟に準じて審査手続
を施行するとしても、被処分者死亡後は、当該処分の当否の判定に関連して審査手
続をそのまま続行する実益が存在し、しかも特に審査手続の承継を希望する相続人
が存在する場合に限つて審査手続を続行すれば足りるものと解すべきところ、訴外
Oは、本件懲戒処分後昭和三五年七月三〇日まで引続き組合専従者の地位にあり、
無給休職者としての身分扱を受けていたのであるから、審査手続における本件懲戒
処分の取消等によつて俸給請求権を回復する余地がなかつたことは明らかであるば
かりでなく、訴外Oの死亡に際しては、その旨が代理人から最高裁公平委員会に届
出られたのみで、何人からも訴外Oに関する審査手続を承継する旨の申出がなされ
ていないのである。かかる経緯に徴すれば、第一審被告最高裁判所が訴外Oに関す
る審査手続につき「請求者Oに係る審査手続は、昭和三七年八月二四日同請求者の
死亡によつて終了した。」旨判定したことは適法であつて、そこには何ら違法の廉
はない。
三 証拠関係(省略)
○ 理由
第一 第一審原告Aらの判定取消請求について
一 第一審被告東京地方裁判所が、裁判所職員であつた訴外Oに対して昭和三四年
一月二六日付をもつてした停職二か月の懲戒処分につき、訴外人は、第一審被告最
高裁判所に対し、その審査を請求したが、右審査手続継続中の昭和三七年八月二四
日に死亡したこと、第一審原告Aらは、訴外人の相続人であること及び第一審被告
最高裁判所が右の懲戒処分の取消を求める権利は、訴外人の国家公務員としての地
位に基づく一身専属的な権利であるから、前記審査手続は、訴外人の死亡によつて
終了したとして、昭和四二年九月一三日付をもつてその旨の判定をしたこと、以上
の事実は当事者間に争いがなく、右判定書の正本が昭和四二年一二月四日に第一審
原告Aらに送達されたことは、弁論の全趣旨によつて明らかである。
二 そこで右判定の適否について検討するに、裁判所職員臨時措置法によつて準用
される国公法及び裁判所職員に関する臨時措置規則(昭和二七年最高裁規則一号)
によつて準用される人事院規則一三-一には、もともと本件のように請求者が審査
手続の継続中に死亡した場合における請求者の地位の承継を認める規定は存在せ
ず、そのまま現在に及んでいるのであつて、この限りにおいて見れば、法律は、右
のような場合相続人による請求者の地位の承継を認めない趣旨であると解すべき余
地もないではないのであるが、懲戒処分を受けた公務員がその取消訴訟の係属中に
死亡した場合には、その取消判決によつて回復されるべき当該公務員の俸給請求権
等が存在する限りにおいて、この俸給請求権等を相続する者が右訴訟を承継する
(最高裁第三小法廷昭和四九年一二月一〇日判決、民集二八巻一〇号一八六八頁)
のであるし、懲戒処分の審査請求が審査庁に対する不服の申立によつて違法又は不
当な原処分の排除、是正を求める制度として、懲戒処分の取消訴訟とともに公務員
に保障されているものであることを考えれば、公務員が審査手続の継続中に死亡し
た場合を右訴訟における場合と別個に扱わなければならない理由はないし、またそ
のように解すべき合理的な根拠もないのであるから、相続によつて原処分の排除、
是正を求める利益を承継した者は、当然に審査手続における請求者の地位を承継す
るものと解するのが相当であり、右請求者の地位の承継は、相続に由来するもので
ある以上、相続人からその旨を審査庁に申出たかどうかにかかわらないものと解す
るのが相当である。従つて、審査庁としては、審査手続の継続中に請求者が死亡
し、しかもその相続人が存在する場合においては、原処分が取消されたとしても、
その結果請求者に回復されるべき俸給請求権等が存在しないことが明白であるなど
の特段の事情が存在しない限り、類似の制度に関する行政不服審査法玉七条の規定
を類推適用して、請求者の地位がその相続人によつて承継されたものとして扱うの
が相当であつて、相続人から承継の申出がなかつたからといつて、その一事により
審査手続が当然終了したものとすることは許されないというべきである。
三 そして、以上に述べたところに従い、前記特段の事情の有無について検討して
見ると、本件懲戒処分が昭和三四年一月二六日頃訴外人に告知されてその効力を生
じたことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、訴外人が右の昭和三四年一月二
六日頃から昭和三五年七月三〇日まで職員組合の専従者として、無給休職者として
の身分上の扱いを受けていたものであることは、第一審原告Aらの明らかに争わな
いところであつて、この事実によれば、たとえ審査の結果本件懲戒処分が取消され
たとしても、その結果回復されるべき訴外人の本件懲戒処分による停職期間中の俸
給請求権等が存在しなかつたことは明白であるが、本件懲戒処分が訴外人の復職し
た昭和三五年七月三一日からその死亡した昭和三七年八月二四日までの復職時の俸
給額決定その他を通じ俸給請求権等の財産上の権利に全く影響がなかつた等の、特
段の事情の存在を肯認すべき資料は、本件の全証拠を検討して見ても、これを見出
すことはできない。
四 そうして見ると、第一審被告最高裁判所がした本件の判定は違法として取消を
免れないものであつて、第一審原告Aらの右の第一審被告に対する本訴請求は正当
として認容すべきものであり、これと趣旨を同じくする原判決は相当であるから、
右第一審被告の本件控訴は、これを棄却することとする。
第二 第一審原告E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L、同M及び同N
並びに第一審原告Aらの本件各懲戒処分の取消請求について
当裁判所も第一審原告Aらをのぞく第一審原告らに対する本件の各懲戒処分には違
法の点はなく、その取消を求める右の第一審原告らの本訴各請求は、いずれも失当
として棄却すべきものであり、第一審原告Aらの訴外Oにかかる本件の懲戒処分の
取消を求める本訴請求も右と同様失当として棄却すべきものと判断するのである
が、その理由は、次に附加、訂正するほかは、原判決の理由説示中、第一審原告ら
及び訴外O関係部分(但し、原判決二一枚目裏一行目から六一枚目表一〇行目ま
で)と同一(原判決二五枚目表七行目に「表通門」とあるのを「表通用門」と、同
五四枚目表八行目に「訴外Oを除くその余の被処分者」とあるのを「訴外O及び第
一審原告(第一審原告Aらを除く)」と、それぞれ改める。)であるから、これを
引用する。
当審で新たに取調べた証拠のうちこの認定に副わない部分は採用しない。
(原判決の訂正)
一 昭和三三年一一月五日の本件職場大会等の状況
(1) 車庫附近における状況
原判決二六枚目裏一行目の「大筋において」を削除し、同四行目冒頭の「らが」の
次に「全司法組合員らを排除して自動車運転手を就業させるべく」を、同五行目の
「控室に上り、」の次に「その場において右課長らに対し執拗に話合を迫り、第一
審原告Hは、運転手全員が控室から降りて車庫前広場に集つた際、同所において約
三分間にわたり」をそれぞれ挿入し、同七行目から八行目にかけての「原告Lおよ
び原告M」を削除し、同一〇行目の次行以下に左を加える。
「なお、第一審原告Mが当日早朝車庫附近にきていたことは前記のとおりである
が、その際同第一審原告が積極的に就業妨害行為をしたこと及び右のように車庫附
近にいあわせて、前記の第一審原告の就業妨害行為を助勢し又はその他の運転手の
就業に影響を及ぼすような行動をとつたことについては、これを確認できる証拠が
ない。」
(2) 本館正面玄関前における状況
原判決二七枚目裏六行目の「状況」の次に「及び職場復帰命令、解散命令が発出、
伝達された状況」を挿入し、同行の「大筋において」を削除し、同裏七行目の 
「第四」 の次に「(但し、その四行目(原判決一〇五枚目表四行目)以下の部分
をのぞく。)」を挿入し、同行の括弧内に「但し」とあるのを「なお」と改め、同
二八枚目裏三行目の「参加して」の次に「正面玄関前の階段附近に横に二列又は三
列位に並び時にはスクラムを組んだため、裁判所職員又は訴訟関係人が正面玄関か
ら裁判所庁舎内に立入ることが著るしく困難な状態となつて」を挿入し、右二八枚
目裏三行目の次行以下に左を加える。
「右の事実によれば、右認定の第一審原告G、同H、同I、同K、同M及び同Nの
行為によつて裁判所職員又は訴訟関係人の入庁が妨害されたことは明らかである
し、また、右の職場復帰命令及び解散命令が発せられたにかかわらず、右の第一審
原告らがこれに従わなかつたことは、前記認定の事実に照らしてこれを認めるに充
分である。なお、右の第一審原告らは、これらの職務命令が発出されたこと自体を
不知をもつて争い、前記甲第四九号証、第一審原告I本人の原審並びに当審におけ
る各供述、第一審原告H、同M本人の当審における各供述中には、この主張に副う
部分も存在するのであるが、前記甲第三九号証、第四四号証、原審における第一審
原告H、同N本人、原審並びに当審における第一審原告K本人の各尋問結果によれ
ば、第一審原告H、同N、同Kは、これらの職務命令が前記認定のように本館正面
玄関前にいた職員に伝達された際にこれを了知したことが認められるのであつて、
この事実と前記認定の職務命令伝達の手段、方法並びに前記乙第一六号証によつて
認定し得る事実を総合すれば、本件職場大会に参加していた前記の第一審原告らの
すべてが右の職務命令の伝達と同時にその内容を了知したものと認めるのが相当で
あつて、この認定に反する前掲の各証拠は、いずれも採用することができない。」
(3) 本館裏玄関附近における状況
原判決二九枚目表三行目の「骨子において」を削除し、同七行目の「勧誘していた
こと」の次に「及びその際訴外Oは、右説得、勧誘に当つていた全司法の組合員に
対して『一人も中に入れるな。出ていつた者も入れるな。』など申向けて、登庁中
の裁判所職員が庁舎内に立入ることを極力妨害するよう指導、督励したこと』を挿
入する。
(4) 原判決三一枚目表六行目の「原告Lおよび原告M」を削る。
(5) 当時の勤務開始時刻及び出勤猶予時間
原判決三五枚目裏八行目の「これによつて最高裁規則による」から同末行の「する
ものではなく、また、」までを「出勤猶予時間は、前記認定のとおり最高裁判所規
則によつて定められた午前の勤務開始時刻到来後、所定の時間内に出勤して出勤簿
に押印した職員については、これを遅刻者としないという事実上の取扱にすぎない
のであるから、出勤猶予時間の設定自体が、前記認定の職員の勤務時間を変更して
右時間内における職員の勤務を免除する趣旨に出たものでないことは当然である。
従つて、職員は、出勤猶予時間内においてもその職務に従事すべき義務を負担して
いることに変りがないのであつて、職員のこの義務負担の関係は、その性質上、職
員が出勤猶予時間内に現実に出勤したかどうかによつて異るところはないのであ
る。そして、それだからこそ、」と改め、同三六枚目表一〇行目から末行にかけて
の「この時間内に出勤した職員は直ちにその職務に従事する義務があるのであ
り、」を削り、右末行に「その者」とあるのを「職員」と改める。
二 第一審原告らの行為と国公法の適用
原判決三七枚目裏一行目から四五枚目裏末行目までの第一審原告ら及び訴外O関係
の説示部分の全部を次のとおり改める。
1 第一審原告Eが前記認定のとおり東京簡易裁判所玄関附近において本件職場大
会に参加をするよう説得、勧誘した行為は、裁判所の活動能率を低下させる怠業的
行為として裁判所職員臨時措置法によつて準用される国公法(以下、単に「国公
法」という。)九八条五項前段の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該
当する。
2 第一審原告Fが前記認定のとおり、表通用門附近において本件職場大会に参加
するよう説得、勧誘した行為は、右同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段
の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。
3 第一審原告Gが前記認定のとおり、
(一) 本件職場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行
為は、前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、
(二) その際発せられた職務命令に従わなかつた行為は、同条一項の規定に、
それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。
4 第一審原告Hが前記認定のとおり、
(一) 車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び本件職
場大会に参加して指導的な行動をとり、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害
した行為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、
(二) 本件職場大会の際発せられた職務命令に従わなかつた行為は同条一項の規
定に、
それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。
5 第一審原告Iが前記認定のとおり、
(一) 車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び本件職
場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、いずれも
前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、
(二) 本件職場大会の際発せられた職務命令に従わなかつた行為は同条一項の規
定に、
それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。
6 第一審原告Jが前記認定のとおり、
車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び表通用門附近及
び東京簡易裁判所玄関附近において本件職場大会に参加するよう説得、勧誘した行
為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に違反し、
同法八二条一、三号の各規定に該当する。
7 第一審原告Kが前記認定のとおり、
(一) 車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び本件職
場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、いずれも
前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、
(二) 本件職場大会の際発せられた職務命令に従わなかつた行為は、同条一項の
規定に、
それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。
8 第一審原告Lが前記認定のとおり、本館裏玄関附近において本件職場大会に参
加するよう説得、勧誘した行為は、前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前
段の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。
(なお、第一審原告Lについては、原処分においては、車庫附近における就業妨害
行為もその処分事由の一つとなつていたことが、同第一審原告の主張自体によつて
明らかであるが、右の車庫附近における就業妨害行為は、同第一審原告にかかる審
査請求の判定において処分事由から削除され(原判決の別紙「理由」の各論第一の
一〇(原判決一一一枚目裏一一行目以下)参照)、第一審被告東京地方裁判所も、
本訴において、これを第一審原告Lの処分事由として主張していない(原判決一五
枚目裏六行目から七行目にかけての括弧内の記述参照)ことは明らかである。)
9 第一審原告M及び同Nが、いずれも前記認定のとおり、
(一) 本件職場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行
為は、前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、
(二) その際発せられた職務命令に従わなかつた行為は、同条一項の規定に、
それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。
10 訴外Oが前記認定のとおり、本館裏玄関附近及び表通用門附近において本件
職場大会に参加するよう説得、勧誘した行為は、いずれも前同様の怠業的行為とし
て国公法九八条五項前段の規定に、またその際職員らの入庁を妨害するよう指導、
督励した行為は、前同様の怠業的行為をあおつたものとして同条五項後段の規定
に、それぞれ違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。

三 本件職場大会参加の違法性
原判決五一枚目裏五行目の「他方」以下五四枚目表三行目の「行動に出ること
は、」迄の全文を「そうであるとすれば、国家公務員が憲法擁護義務を履行するに
ついて、国家公務員たる資格に基づく適法な規律に違反してよいということにはな
らないのであつて、従つて第一審原告ら被処分者が憲法擁護義務の履行と称して警
職法改正に反対の意見表明を行うとしても、右の規律である国家公務員法上の義務
に違反する方法によつてこれを行うことは、」と訂正する。
四 第一審原告Aらをのぞく第一審原告ら及び訴外Oに対する本件各懲戒処分の正
当性
原判決五八枚目表九行目の「また、」以下五九枚目表七行目の「いわざるをえな
い。」迄の全文を削除し、同六〇枚目表五行目の「そして、」の次に「第一審原告
Aらをのぞく第一審原告らについて見ると、」を、同六〇枚目裏三行目の「解しが
たい。」の次に「なお、第一審原告Lについては、原処分において処分事由の一つ
とされていた同第一審原告の車庫附近における怠業的行為が審査請求の判定におい
て処分事由から除外され、また第一審原告Mについては、原処分及び審査請求の判
定において処分事由とされていた車庫附近における怠業的行為の存在が認定し得な
いものであることは前記のとおりであるが、右の第一審原告らのその余の非違行為
の態様に鑑みれば、右のような事情があつたからといつて、そのことによつて直ち
に以上において述べた結論が左右されるものとすることはできない。」を挿入し、
右三行目の次に行を改め左を附加する。
「次に訴外Oについて見ると、以上において判示した事実関係によれば、第一審原
告Aをのぞく第一審原告らが、いずれも全司法の在京支部又はその分会の役職者に
すぎなかつたのに対し、訴外Oは、組合専従者として全司法本部中央執行副委員長
兼財政部長の役職にあつたものであり、右の第一審原告らを含む全司法組合員によ
る本件職場大会の開催並びにこれに附随する前記認定の一連の行動が警職法の一部
を改正する法律案の可決成立に反対する警職法改正反対国民会議による第四次統一
行動の一環として行なわれたものであつたにしても、その現実の実施を策定し指令
したのは全司法本部であつて、訴外Oがこの決定に組合三役として参画しているこ
とは疑う余地がないのであつて、すでにこの点において訴外Oの責任は、前記の第
一審原告らの責任と異るものというべきであるのみならず、前記認定の訴外Oの非
違行為の態様及び原審証人Pの証言によつて成立を認める乙第三二号証等の記録上
認め得る本件職場大会当日における訴外人の言動を総合して考えれば、訴外人が当
日の現場の最高責任者又はこれに準ずる者として組合員に対する指揮に当つていた
ものと推認するにかたくないのであつて、この点においても、訴外Oの責任は、前
記の第一審原告らと同等又はこれに準ずるものとして評価することはできないので
ある。そして、以上に述べた訴外Oの責任と前示各行為の違法性を考えると、訴外
人に対する本件懲戒処分の選択は、第一審被告東京地方裁判所の裁量権の範囲を逸
脱したものとは認められないのであつて、他に右認定を覆えして第一審原告Aらの
懲戒権濫用の主張を認めるに足る証拠はない。」
(当審における第一審原告らの補足的主張に対する判断)
一 出勤猶予時間内における組合活動の適法性
1 第一審原告らは、本件職場大会が実施された昭和三三年当時においては、全司
法に所属する職員が出勤猶予時間内に組合活動を行うことはもとより、午後の勤務
時間にくい込む組合活動を行うこともすべて当局によつて容認され、当時、これら
の組合活動をしたことを理由に懲戒処分を加えないという労働慣行が確立していた
と主張するので、この点について検討するに、成立に争いのない甲第六四ないし第
六七号証と弁論の全趣旨を総合すれば、全司法の在京支部に所属する職員が昭和二
九年一二月四日に、同大阪支部に所属する職員が同月三日及び四日の両日にわた
り、いずれも定時出勤と称して午前八時四、五〇分頃までに及ぶ集団登庁を実施
し、全司法広島支部に所属する職員が昭和三二年三月二七日に午前八時五〇分から
の一斉登庁を実施し、また全司法の在京支部に所属する職員が昭和三二年三月一四
日午後〇時一五分から午後一時一五分にかけて全司法の中央総決起大会を実施し、
右の在京支部に所属する職員が昭和三三年九月一五日午後〇時一五分から午後一時
二〇分にかけて職場大会を実施したが、これらの組合活動に参加した職員に対して
は懲戒処分がなされなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。しか
しながら、一般職たる裁判所職員の勤務時間が最高裁判所規則によつて午前八時三
〇分から午後五時までと定められていたことは前記認定のとおりであり、職員は、
その勤務時間内(但し、右最高裁判所規則所定の三〇分の休憩時間をのぞく。)に
おいては、与えられた職務に専念すべき義務を負う(国公法一〇一条参照)のであ
つて、この義務は、前記のように出勤猶予時間の設定によつて免除されるべき性質
のものではないのであるから、たとえ前記認定のように勤務時間内における組合活
動に参加した職員に対して懲戒処分が加えられた例がなかつたからといつて、その
一事によつて勤務時間内における組合活動が容認されたといえないことは当然であ
るし、また、職員の勤務時間につき、すでに前記のように最高裁判所規則の定めが
ある以上、これと抵触する労働慣行が成立する余地がないことも明らかである。従
つて、第一審原告らのこの主張は理由がない。
2 次に第一審原告らは、第一審原告G、同H、同I、同K、同M及び同Nらは本
件職場大会当日いまだ出勤していなかつたから、その際に発せられた職務命令に従
う義務がなかつたと主張するのであるが、すべて職員は、最高裁判所規則の定める
午前の勤務開始時刻の到来によつて、当然にその職務に従事すべき義務を負担する
にいたるものであつて、この義務負担の関係が職員が出勤したかどうかにかかわら
ないものであることは前判示のとおりであるのみならず、本件職場大会は、前記認
定のとおり、本館正面玄関前において、他の職員又は訴訟関係人らの入庁を妨害す
る形態をもつて勤務開始時刻の午前八時三〇分以後にわたつて続行されたものであ
り、本館正面玄関及びその附近が本館庁舎内部とほぼ同視できる位置関係にあるこ
とは、当裁判所に顕著な事実であるし、前記認定のように、右の第一審原告らが各
局の事前の警告を無視して本件職場大会に参加するにいたつた経緯に鑑みれば、右
の第一審原告らは、当日の勤務開始時刻までには、右のような位置関係にある本館
正面玄関前に到着し、勤務開始時刻の到来とともに、直ちに、その職務に従事し得
る態勢にありながら、ことさらにその職務に従事しなかつたものであることは明ら
かである。従つて、当局が本館正面玄関前における妨害を排除するため、右の第一
審原告らに対し解散を命じ、更に、所定の職務に従事するよう職場復帰命令を発出
したのは、極めて当然の措置というべきであつて、右の第一審原告らがこれらの職
務命令に従う義務がなかつたということはできない。従つて、第一審原告らのこの
主張も亦理由がない。
二 国公法九八条五項の規定の合憲性
国公法九八条五項の規定が憲法二八条の規定に違反しないこと及び第一審原告らの
主張する限定的解釈論が採用し得ないものであることは、すでに述べたとおりであ
る(原判決四六枚目表一行目から四八枚目表六行目までなお、同所に掲げた裁判例
のほか、国公法九八条五項と同旨の規定である地方公務員法三七条一項、公共企業
体等労働関係法一七条一項の各規定に関する最高裁大法廷昭和五一年五月二一日判
決、刑集三〇巻五号一一七八頁及び同五二年五月四日判決、刑集三一巻三号一八二
頁参照)。従つて、第一審原告らのこの主張も理由がない。
三 懲戒権の濫用
第一審原告らは、第一審原告Aらをのぞく第一審原告ら及び訴外Oが裁判所職員で
あつたことの故に、ことさらに重い懲戒処分がなされた趣旨を主張するのである
が、本件全証拠を検討して見ても右の事実を肯認し得る資料は存在しないのである
から、右事実の存在を前提とする第一審原告らの主張は理由がないし、第一審原告
Aらをのぞく第一審原告ら及び訴外Oに対する本件各懲戒処分が裁量権の濫用に当
らないことは、すでに述べたとおりであつて、第一審原告らの懲戒権の濫用に関す
るその余の主張も亦採用の限りではない。
(結論)
以上のとおりであるから、第一審原告Aらの第一審被告東京地方裁判所に対する本
訴各請求を認容した原判決は不当であるから、これを取消して右の各請求を棄却
し、その余の第一審原告らの本訴各請求につき趣旨を同じくする原判決は相当であ
るから、右の第一審原告らの本件各控訴は、いずれもこれを棄却することとする。
第三 よつて、民訴法九五条、九六条及び八九条の各規定を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 田中永司 原島克己 岩井康倶)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 被告東京地方裁判所が昭和三四年一月二六日付で訴外Oに対して行なつた停職
二か月の懲戒処分および被告最高裁判所が昭和四二年九月一三日付で同訴外人の審
査請求について行なつた判定はいずれも取り消す。
二 原告A、原告B、原告C、および原告Dを除くその余の原告らの各請求はいず
れも棄却する。
三 訴訟費用は、原告Eおよび原告Fと被告最高裁判所事務総長との間において
は、全部同原告らの負担とし、原告G、原告Qおよび原告Rと被告東京高等裁判所
との間においては、全部同原告らの負担とし、原告K、原告Lおよび原告Mと被告
東京地方裁判所との間においては、同原告らに生じた費用の全部および同被告に生
じた費用の四分の三を同原告らの負担、その余を同被告の負担とし、原告S、原告
H、原告I、原告Jおよび原告Nと被告最高裁判所との間においては、同原告らに
生じた費用の全部および同被告に生じた費用の六分の五を同原告らの負担、その余
を同被告の負担とし、原告A、原告B、原告Cおよび原告Dと被告東京地方裁判所
および被告最高裁判所との間においては、全部同被告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
「被告最高裁判所事務総長(以下、被告事務総長と略称する。)が昭和三四年一月
二六日付で原告Eおよび原告Fに対してそれぞれ行なつた戒告の懲戒処分はいずれ
も取り消す。被告東京高等裁判所(以下、被告東京高裁と略称する。)が同日付で
原告Gに対して行なつた二か月間俸給月額の一〇分の一ずつ減給の懲戒処分(但
し、判定により修正されたもの。)ならびに同被告が同日付で原告Qおよび原告R
に対してそれぞれ行なつた一か月間俸給月額の一〇分の一減給の懲戒処分(但し、
判定により修正されたもの。)はいずれも取り消す。被告東京地方裁判所(以下、
被告東京地裁と略称する。)が同日付で原告K、原告Kおよび原告Mに対してそれ
ぞれ行なつた戒告の懲戒処分はいずれも取り消す。被告最高裁判所(以下、被告最
高裁と略称する。)が昭和四二年九月一三日付で原告Hに対して行なつた三か月間
俸給月額の一〇分の一ずつ減給の懲戒処分(但し、判定により修正したもの。)な
らびに同被告が同日付で原告S、原告I、原告Jおよび原告Nに対してそれぞれ行
なつた戒告の懲戒処分(但し、判定により修正したもの。)はいずれも取り消す。
被告東京地裁が昭和三四年一月二六日付で訴外Oに対して行なつた停職二か月の懲
戒処分および被告最高裁が昭和四二年九月一三日付で同訴外人の審査請求について
行なつた同請求手続終了の判定はいずれも取り消す。訴訟費用は被告らの負担とす
る。」との判決。
二 被告ら
1 本案前の裁判
「原告A、原告B、原告Cおよび原告Dの各請求はいずれも却下する。」との判
決。
2 本案についての裁判
「原告らの各請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」 との
判決。
第二 当事者の主張
一 原告らの請求の原因
1 原告Aらを除くその余の原告ら一三名および訴外O(以下、これらの一四名を
合わせて被処分者らという。)は、いずれも昭和三三年一一月五日以前から裁判所
職員であるとともに、裁判所職員らで組織される労働組合(職員団体)である全国
司法部職員労働組合(以下、全司法と略称する。)の組合員であつた。そして、被
処分者らの昭和三三年一一月五日当時の所属裁判所、官職および全司法における役
職は、別表(一)記載のとおりである。
なお、被処分者らのうち訴外Oは、昭和三七年八月二四日に死亡した。
2 ところで、被告事務総長、被告東京高裁および被告東京地裁は、いずれも昭和
三四年一月二六日付をもつて、被処分者らに対しそれぞれ別表(二)記載のとおり
の懲戒処分を行ない、また、被告最高裁は、右各懲戒処分に対する被処分者らから
の審査請求につき、いずれも昭和四三年九月一三日付をもつて、それぞれ同別表記
載のとおりの判定を行なつた。そして、右各懲戒処分の理由は、別紙「事実および
争点」(被告最高裁の判定に引用され、その判定書に添付された公平委員会の調書
中の 「事実および争点」の記載部分)のうち甲の部分に記載されたとおりであ
り、また、右各判定の理由は、別紙「理由」(右と同じ公平委員会の調書中の「理
由」の記載部分)に記載されたとおりである。
3 (一)しかしながら、被告事務総長、
被告東京高裁および被告東京地裁の行なつた右各懲戒処分ならびに被告最高裁の行
なつた右各判定(但し、訴外Oの審査請求についての判定を除く。同判定について
は、後記の4において主張する。)は、いずれも次に述べるとおりの理由で、違法
というべきである。
(1) まず、右各懲戒処分の理由に対する原告らの主張は、別紙「事実および争
点」のうち乙の部分に記載のとおりである。
なお、訴外Oに対する懲戒処分の理由とされている事実(別紙「事実および争点」
の甲のBの第一に記載の事実)については、同訴外人が、昭和三三年一一月五日当
時、東京地裁職員であつて、全司法本部中央執行副委員長兼財政部長の地位にあ
り、組合専従者であつたこと、同訴外人が右同日に実施の全司法の団体行動にその
組合員の一員として参加したこと、同訴外人が、右団体行動の際、東京高裁および
東京地裁の本館裏玄関付近(以下、本館裏玄関付近と略称する。)ならびに同地裁
第一新館および第二新館中間の表通用門付近(通称アーチ下、以下、表通用門付近
と略称する。)にいたことは認めるが、その余の点は争う。
(2) また、右各判定の理由に対する原告らの主張は、別紙「判定の理由に対す
る認否」に記載のとおりである。
(二) なお、右各懲戒処分および右各判定の理由とされている事実関係について
の原告らの補足主張は、次のとおりである。
(1) 昭和三三年一一月五日当時の東京高裁および東京地裁(東京簡裁等を含
む。)の各職員の出勤猶予時間は、午前九時三〇分であつた。すなわち、その当時
の右各裁判所職員の法規上の勤務開始時間は、午前八時三〇分であつたが、当時の
交通事情等を考慮して、職員が午前九時三〇分までに出勤して出勤簿に押印すれば
遅刻にならないように猶予されており、これは、管理職員についても、一般職員に
ついても、同様であつた。そして、右各裁判所における訴訟書類等の受付も、午前
九時三〇分までは、宿直員が行なうことになつており、訴訟関係人も、裁判所は午
前九時三〇分以後でないと通常の執務はしないと考えていた。
(2) 全司法が昭和三三年一一月五日に実施した東京高裁および東京地裁の本館
正面玄関前(以下、本館正面玄関前と略称する。)における職場大会(以下、本件
職場大会という。)は、当初から勤務時間内への食込みによる執務の妨害や職員お
よび訴訟関係人の入庁阻止を目的としたものではなかつた。すなわち、本件職場大
会を主催した全司法の東京高裁および東京地裁両支部は、当時の全司法の力量を考
慮するとともに、当局に対し懲戒処分の口実を与えるのを防止するため、実施場所
は本館正面玄関前の一か所だけに集中し、かつ、実施時間も午前八時過ぎごろから
出勤猶予時間内である午前九時二〇分ごろまでに限定し、さらに、入庁しようとす
る職員および訴訟関係人を実力で阻止するようなことはしないという基本方針を事
前に申し合わせていた。そして、実際にも、本件職場大会は、部分的には課長ら管
理職員との間でいざこざが生じたものの、全体的には右基本方針に従い整然と行な
われ、ほぼ出勤猶予時間内に終了して、当日の裁判所の執務への影響はほとんどな
かつたし、また、実力による職員および訴訟関係人の入庁阻止の事態は全く生じな
かつた。
(3) 昭和三三年当時は出勤猶予時間内の職場大会やいわゆる集団登庁が頻繁に
行なわれており、裁判所当局もこれを容認してきた。そして、本件職場大会につい
ても、当局は、事前にその実施を十分に承知していたのにかかわらず、これを禁止
することをせず、禁止の警告もしなかつた。しかるに、当局は、本件職場大会実施
当日の午前八時三〇分ごろ、突然に従来の慣例を破つて、解散命令を発し、さら
に、午前八時五〇分ごろ、職場復帰命令を発して、大会を混乱させたものである。
(4) 全司法は、東京高裁および東京高裁勤務の自動車運転手に対し、その就業
阻止ないし本件職場大会参加の方針を決めたことはない。ただ、東京高裁および東
京地裁の両支部は、自動車運転手が、本件職場大会実施の前夜から、裁判所構内に
宿泊させられ、監禁状態になつているとの情報を得たため、当日早朝、右両支部の
役員が、車庫に立ち寄り、居合わせた自動車運転手に対し当日の全司法の行動の意
義等についてオルグをしただけにすぎない。もし、同所に課長ら管理職員が来なけ
れば、何らの混乱も生ぜず、平穏にオルグが終つたと思われる。
(三) さらに、別紙「事実および争点」の乙のBの部分に記載された原告らの積
極的主張のうち、全司法の実施した本件職場大会は正当な団体行動であり、これに
組合員の一員として参加した被処分者らの各行為には違法性がないという主張につ
き、原告らは、次のとおり付加して主張する。
(1) 裁判所職員臨時措置法によつて裁判所職員に準用される国家公務員法(昭
和四〇年法律筆六九号による改正前のもの、以下、国家公務員法と略称する。)第
九八条第五項の規定は、憲法第二八条に違反し、無効である。すなわち、国家公務
員も、勤労者であつて、憲法第二八条により団結権および団体行動権を保障されて
いる。しかるに、国家公務員法第九八条第五項は、すべての国家公務員のすべての
争議行為を一律に禁止するものであるから、憲法第二八条に違反し、無効というべ
きである。
(2) 仮に国家公務員法第九八条第五項の争議行為禁止の規定が憲法第二八条に
違反しないとしても、国家公務員法の右規定は、憲法第二八条の精神に照らし、こ
れを限定的に解釈すべきであつて、それは、公共性の強い職務に従事する国家公務
員の国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある争議
行為であつて、争議行為禁止以外の手段による制限ではそのおそれを回避すること
のできないもののみを禁止しており、その余の争議行為は禁止していないと解すべ
きである。ところで、本件職場大会は、憲法の保障する各種の基本的人権を侵害す
るおそれの大きい警察官職務執行法(以下、警職法と略称する。)の改正案の突然
の提出という憲法秩序侵害の緊急事態の発生に際し、これに抗議し、その成立を阻
止する必要があつて行なわれた争議行為であり、その実施の時間も午前八時三〇分
ごろから午前九時三〇分ごろまでの出勤猶予時間内に限られており、しかも、事前
にその実施を予告して行なつたものであつて、事実上、当日の裁判事務については
もとより、その他の事務についても重大な支障はなく、かつ、直ちに平常の業務に
復帰しうる状態で整然と行なわれたものであつて、社会的にも容認されうる合理的
範囲内のものであつた。したがつて、本件職場大会の開催は、国家公務員法第九八
条第五項の禁止する争議行為には該当しないものというべきである。
(3) 憲法第二一条は言論その他の表現の自由を保障しており、この言論その他
の表現の自由の中には政治的意見の表明の自由も当然に含まれるものと解すべきと
ころ、全司法の実施した本件職場大会は警職法の改正反対という政治的意見の表明
のためになされたものであり、そして、裁判所職員等の国家公務員といえども、個
人として、または、労働組合の構成員として、その政治的意見を表明することを禁
止または制限される理由は全くないから、本件職場大会に参加した被処分者らの各
行為は、憲法第二一条の保障する表現の自由の範囲内に含まれるものであつて、違
法とされる理由はない。
4 訴外Oは、前記のとおり、被告東京地裁から停職二か月の懲戒処分を受けたの
で、被告最高裁に対し右懲戒処分の取消しを求める審査請求をしたが、その手続の
係属中である昭和三七年八月二四日に死亡したところ、被告最高裁は、右懲戒処分
の取消しを求める権利は訴外Oの国家公務員としての地位に基づく一身専属的な権
利であるから、右審査請求手続は同訴外人の死亡によつて終了したとして、前記の
とおり、昭和四二年九月一三日付でその旨の判定をした。しかしながら、訴外Oの
受けた右懲戒処分が違法であつて取り消されたとすれば、同訴外人は、その停職期
間中の俸給等の支払いを請求することができたのはもちろん、右処分が存在するが
ために同訴外人がその処分の時から死亡するまでの間に受けた昇給、昇格、各種手
当、退職金等における不利益の是正を請求することができたのであるが、同訴外人
の有したこれらの権利は、一身専属的な権利ではなくして、相続の対象となりうる
財産上の権利であつたというべきである。そして、原告Aらは、訴外Oの妻子であ
つて(原告Aは妻であり、その余は子である。)、その相続人であるから、同訴外
人の有した右権利を相続によつて承継したものである。そうすると、被告最高裁の
行なつた右判定は違法というべきである。
ところで、原告Aらは、訴外Oから承継した右権利を主張するためには、その前提
として、右懲戒処分および右判定の取消しを受ける必要があるから、これらの取消
しを求める法律上の利益ないし適格を有するものといわなければならない。
5 よつて、原告らは、その求めた裁判に記載のとおり、被告らに対して、前記各
懲戒処分ないし各判定の取消しを請求する。
二 原告Aらの請求に対する被告東京地裁および被告最高裁の本案前の主張
公務員が自己の受けた懲戒処分の違法を主張してその処分の取消しを請求する権利
は、一身専属的な権利であつて、相続の対象とはなりえないものと解すべきであ
る。したがつて、原告Aらの被告東京地裁および被告最高裁に対する本訴各請求
は、
いずれも原告適格を欠く者からなされた不適法な請求として却下されるべきであ
る。
三 被告らの本案についての主張
1 請求原因1および2記載の各事実は認める。
2 (一)請求原因3の(一)記載の主張のうち、原告らの主張する各懲戒処分お
よび各判定が違法であるという主張は争う。被告らは、被処分者らにつき、国家公
務員法第八二条所定の懲戒事由、すなわち、別紙「事実および争点」のうち甲およ
び丙に記載の事実ならびに別紙「理由」に記載の事実(但し、右両事実の間に一致
しない部分のあるとぎは、別紙「理由」に記載の事実による。)が認められたの
で、右のとおりの各懲戒処分および各判定を行なつたものである。したがつて、右
各懲戒処分および各判定はいずれも適法であつて、取り消されるべき理由はない。
(二) 請求原因3の(二)記載の各事実については、次のとおり認否する。
(1) 同(1)記載の事実のうち、昭和三三年一一月五日当時の裁判所職員の法
規上の勤務開始時間が午前八時三〇分であつたことは認めるが、その余の事実は争
う。当時の東京高裁および東京地裁の各職員の出勤猶予時間は、午前八時四五分で
あつた。そして、出勤猶予時間は、住宅事情や交通事情を考慮して、通勤に長時間
を要する一部の職員のために便宜的な措置として認められているものにすぎず、裁
判所が出勤猶予時間まで執務態勢をとらないことを定めたものではない。裁判所
は、国民に示した勤務開始時間である午前八時三〇分以後はいつでも国民のために
執務しうる態勢をとつていなければならないのである。
(2) 同(2)ないし(4)記載の各事実は争う。
(三) 請求原因3の(三)記載の各主張はいずれも争う。
なお、本件職場大会が警職法改正法案の国会における審議を阻止することを目的と
するものであつた点は、これに参加した被処分者らの各行為の違法性を判断するに
当たり、重要な事実として考慮すべきである。すなわち、憲法は三権分立の制度を
とつているのであるから、その三権の一翼を担う裁判所の職員またはその団体が右
のような政治的目的を有する本件職場大会に参加することは、三権分立の制度に反
するとともに、国民の間に裁判所の政治的中立性について疑念を生ぜしめるおそれ
がある。したがつて、被処分者らが本件職場大会に参加したことは、単に国家公務
員法に違反するのみならず、
特段の違法性を帯びるというべきである。
3 請求原因4記載の事実のうち、訴外Oが被告東京地裁から停職二か月の懲戒処
分を受けたこと、被告最高裁が同訴外人からの審査請求につき原告Aら主張のとお
りの判定をしたこと、同訴外人が昭和三七年八月二四日に死亡し、原告Aらがその
相続人であることは認めるが、その余の主張は争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
第一 本案前の主張についての判断
訴外Oは、被告東京地裁から昭和三四年一月二六日付で停職二か月の懲戒処分を受
けたこと、そこで、同訴外人は、右懲戒処分は違法であるとして、被告最高裁に対
しその処分の取消しを求める審査請求をしたが、その手続の係属中である昭和三七
年八月二四日に死亡したこと、ところで、被告最高裁は、右懲戒処分の取消しを求
める権利は訴外Oの国家公務員としての地位に基づく一身専属的な権利であるか
ら、右審査請求の手続は同訴外人の死亡によつて終了したとして、昭和四二年九月
一三日付でその旨の判定をしたこと、他方、原告Aらが訴外Oの相続人であること
は、いずれも原告Aらと被告東京地裁および被告最高裁との間で争いがない。
ところで、原告Aらは、被告東京地裁に対し訴外Oの受けた右懲戒処分の取消し
を、また、被告最高裁に対し右判定の取消しをそれぞれ請求する本件訴を提起した
ところ、右各被告は、訴外Oの受けた右懲戒処分の取消しを請求する権利は一身専
属的な権利であつて相続の対象となりえないものであるから、原告Aらの右各請求
は原告適格を欠く者からなされた不適法な請求であると主張している。
そこで判断するに、訴外Oは、その死亡により、もはや将来にわたつて右懲戒処分
を受けなかつた裁判所職員としての地位を回復するに由ないことになつたことは明
らかであるが、同訴外人が右懲戒処分を受けなかつたとすれば当然に有するはずで
あつた停職期間中の俸給の支払請求権その他の財産上の権利をその処分が存在して
いるがために同訴外人の生前に主張することができなかつたという法律状態は同訴
外人の死亡後も依然存続しており、その状態の排除、是正のためには右懲戒処分を
取り消す必要があるのであるから、右懲戒処分の取消しを請求する法律上の利益な
いし適格は、同訴外人の死亡によつても、失われるものではない。そして、右懲戒
処分の取消しによつて回復される訴外Oの停職期間中の俸給の支払請求権その他の
財産上の権利は、一身専属的な権利ではなくして相続の対象となりうる性質のもの
であるから、同訴外人の死亡後は、その相続人である原告Aらが右懲戒処分の取消
しを請求する法律上の利益ないし適格を承継するものと解すべきである(最高裁第
三小法廷昭和四九年一二月一〇日判決、民集二八巻一〇号一八六八頁参照。)。な
お、右のとおり原告Aらが右懲戒処分の取消しを請求する法律上の利益ないし適格
を承継するものと解すべきであるとすれば、原告Aらは、訴訟手続によつてのみな
らず、審査請求手続の続行によつてもその取消しを請求することができるものとい
わなければならないから、原告Aらは、その前提として、前記のとおり、訴外Oか
らなされた審査請求の手続が同訴外人の死亡によつて終了したという被告最高裁の
判定の取消しを請求する法律上の利益ないし適格をも有するものと解すべきであ
る。そうすると、原告Aらの前記各請求が原告適格を欠く者からなされた不適法な
請求であるという被告東京地裁および被告最高裁の本案前の主張は、いずれも理由
がないというべきである。
第二 本案についての判断
一 被処分者らに対する懲戒処分および判定の存在等
請求原因1および2記載の各事実は、当事者間に争いがない。
二 懲戒処分が行なわれるまでの事実関係等
1 当事者間に争いのない事実関係
次の各事実は、当事者間に争いがない。
(一) 全司法は、別紙「理由」 の総論第一の二に記載のとおりの目的および組
織を有する労働組合(職員団体)であり、そして、被処分者らは、昭和三三年一一
月五日当時、その組合員であつて、別表(一)記載のとおりの役職に就いていた。
なお、訴外Oは、当時、全司法本部の組合専従者であつた。
(二) 内閣から第三〇回臨時国会に提出された警職法の一部を改正する法律案の
成立に反対する警職法改正反対国民会議による第四次統一行動が昭和三三年一一月
五日に行なわれたが、全司法は、右第四次統一行動の一環として、右同日午前中に
東京高裁および東京地裁の本館正面玄関前において右改正法案の成立の阻止を目的
とする組合員の職場大会を開催することを決定し、これを組合員に指令した。そし
て、この指令に基づき、本件職場大会が、右日時に右場所において実施された。
(三) これに先立ち、最高裁判所事務総局人事局長は、昭和三三年一一月四日、
全国の高裁長官、地裁所長、家裁所長その他に対して、「警職法反対を理由とする
職場大会に対する取扱について」という依命通達を発し、これに基づきいずれも右
同日、東京高裁長官は、同高裁各職員に対し、「職場大会等について」という通知
を発し、また、東京地裁所長は、同地裁本庁、八王子支部、管内各簡裁および各検
察審査会の各職員に対し、「警職法反対を理由とする職場大会に対する取扱につい
て」という通達を発した。そして、これらの通達および通知の内容は、別紙「理
由」の総論第一の四に記載のとおりであつた。
(四) 昭和三三年一一月五日は、警職法の改正に反対するゼネストにより東京都
内の国電等の運行が停止するおそれがあり、そのため前夜から裁判所の構内に宿泊
していた東京高裁および東京地裁の自動車運転手約六名が、同月五日午前六時三〇
分ごろ、東京高裁および東京地裁の車庫(以下、車庫と略称する。)二階の控室に
待機していた。原告H、原告I、原告J、原告K、原告Lおよび原告Mらは、その
ころ、車庫またはその付近に来ており、東京地裁のT総務課長、U経理課長、東京
第一検察審査会のV総務課長らも、そのころ、同所に来ていた。原告Hおよび原告
Kは、右課長らに話合いを求めたが、右課長らは、話し合う前にまず運転手を車庫
前の広場に降ろすことを求め、運転手は、全員が控室から降りて、車庫前の広場に
集まつた。その後、原告Hは、同所で約三分間、運転手に対し全司法が警職法の改
正に反対する趣旨を述べたが、運転手は、全員が同日午前六時五五分ごろに就業し
て、同所から各目的地に出発した。
(五) 本件職場大会は、前記のとおり、昭和三三年一一月五日午前本館正面玄関
前で実施され、同大会において、原告Hの演説、W中央執行委員長の挨拶、原告H
の音頭によるスローガンの復唱(前後二回)、X東京地本執行委員による決議文の
朗読、全農林職員組合員であるYの挨拶、東京家裁における職場大会の状況報告、
労働歌の合唱、Z中央執行委員の発声による万才三唱等が行なわれた。そして、同
大会には、原告Hのほか、原告G、原告S、原告Q、原告I、原告K、原告M、原
告Nらが、多数の全司法組合員とともに参加し、正面玄関前の階段付近に二列また
は三列位に横に並び、時にはスクラムを組んだ。
このような状況のため、正面玄関前から裁判所庁舎内に入ることは困難であつた
が、積極的な阻止行為はなく、強いて入ろうとすれば不可能ではなかつた。しか
し、原告Gまたは原告Qが、入庁しようとする東京高裁民事訟廷事務主任に対し、
「今日は一寸勘弁してくれ。」、「今日はだれも入れないのだから入らないでく
れ。」などと述べた。
(六) 原告R、原告L、訴外Oら一〇名位の全司法組合員は、昭和三三年一一月
五日午前七時五分ごろから午前九時二〇分ごろまでの間本館裏玄関付近において、
女子職員P1を含む登庁中の裁判所職員および訴訟関係人に対し、本件職場大会に
参加するよう説得し勧誘した。しかし、右組合員がスクラムを組むなどの方法で物
理的に裁判所職員および訴訟関係人の入庁を阻止したことはなく、ただ口頭で本件
職場大会に参加するよう説得、勧誘したにすぎない。
(七) 原告F、原告J、訴外Oら数名の全司法組合員は、同日午前七時過ぎごろ
から表通用門付近において、登庁中の裁判所職員に対し、「組合員としてぜひ協力
してもらいたい。」などと話しかけて本件職場大会に参加するよう説得し勧誘し
た。その結果、登庁中の職員の中には、右通用門を避けわざわざ遠廻りして他の入
口から入庁した者や、組合員の誘導により本件職場大会が行なわれる正面玄関前の
方へ廻つた者もあつた。
(八) 原告E、原告Jは、他の全司法組合員とともに、同日午前七時五〇分ごろ
から東京簡裁玄関付近において、登庁中の裁判所職員に対し、本件職場大会に参加
するよう説得し勧誘した。
(九) さらに、四、五名の全司法組合員は、同日午前七時五〇分ごろ東京地裁第
二新館裏の柔道場付近の道路上において、登庁中の裁判所職員らに対し、本件職場
大会に参加するよう説得し勧誘した。
2 昭和三三年一一月五日の本件職場大会等の状況
(一) 車庫付近における状況
当事者間に争いのない前記1の(四)の事実と、成立に争いのない甲第三二号証、
同第三八号証、同第四〇号証、同第四二ないし第四六号証、乙第三ないし第七号
証、証人Pの証言により真正に成立したものと認められる乙第二八ないし第三一号
証、証人Tの証言により真正に成立したものと認められる乙第三三号証、右各証
人、証人P2、同P3、同P4、同P5、同P6の各証言および原告H、同I、同
J、同K、同L、同M、同Q各本人尋問の結果とを総合すると、昭和三三年一一月
五日早朝車庫付近において行なわれた全司法組合員の行動の状況は、大筋におい
て、別紙「理由」の総論第一の五ないし七記載のとおりであつたこと、同日東京地
裁のT総務課長、U経理課長、東京第一検察審査会のV総務課長らが車庫に来たこ
ろ、原告Hおよび原告Kは、車庫二階の控室に上り、運転手に対し警職法反対の趣
旨、本件職場大会の意義等を説明するなどして、その就業を妨害し、また、その
際、原告I、原告J、原告Lおよび原告Mらは、控室の階段に座り込むなどして、
同じく運転手の就業を妨害していたことを認めることができる。
(二) 本館正面玄関前における状況
当事者間に争いのない前記1の(五)の事実と、前掲甲第三八号証、同第四〇号
証、同第四二ないし第四六号証、乙第三ないし第七号証、同第二八ないし第三一号
証、同第三三号証、成立に争いのない甲第二二号証、同第二九、第三〇号証、同第
三四ないし第三六号証、同第三九号証、同第四一号証、同第四九、第五〇号証、同
第五二号証、乙第一、第二号証、同第一五ないし第一七号証、証人P7の証言によ
り真正に成立したものと認められる乙第一八号証、同第二〇ないし第二六号証、証
人Pの証言により真正に成立したものと認められる乙第三四、第三五号証、右各証
人、証人T、同P2、同P8、同P3、同P9、同P10、同P4、同P5、同P
6の各証言および原告G、同S、同Q、同H、同I、同K、同M、同N各本人尋問
の結果とを総合すると、昭和三三年一一月五日朝本館正面玄関前で実施された本件
職場大会の状況は、大筋において、別紙「理由」の総論第三および第四に記載のと
おりであつたこと(但し、P11は、たまたま自動車で通りかかつて右大会で挨拶
をしたものであり、原告Qは、挨拶というよりは、右大会の司会をしたものであ
る。)、本件職場大会は、当事者間に争いのない前記1の(三)の東京高裁長官お
よび東京地裁所長が事前に発した警告を無視し、かつ、裁判所当局の許可を得ない
で実施されたものであること、原告Hは、その演説において、「平和と民主主義と
基本的人権を守るためには、警職法の改悪にはあくまでも反対しなければなら
ぬ。」、「われわれが団結すれば、こういうこともできるのだ。
」、「所長や職制だけではどうにもならないのだ。仕事はわれわれがやるのだ。わ
れわれの裁判所だ。」などと述べ、また、その他の挨拶、スローガンの復唱、決議
文の朗読等の中には、警職法の改正法案に強く反対するとともに、これを国会に提
出した当時の岸内閣や、さらには裁判所当局をも激しく非難、攻撃する趣旨の表現
のあつたことを認めることができ、そして、本件職場大会の会場には、被処分者ら
のうち少なくとも原告G、原告S、原告Q、原告H、原告I、原告K、原告Mおよ
び原告Nが出席し参加していたことを認めることができる。
(三) 本館裏玄関付近における状況
当事者間に争いのない前記1の(六)の事実と、前掲甲第四五号証、乙第一ないし
第三号証、同第六、第七号証、同第二〇ないし第二三号証、同第二五、第二六号
証、同第二八ないし第三一号証、同第三三号証、成立に争いのない甲第三三号証、
同第三七号証、同第五一号証、証人P7の証言により真正に成立したものと認めら
れる乙第二七号証、同証人、証人P、同P8、同P9、同P10の各証言および原
告R、同L各本人尋問の結果とを総合すると、昭和三三年一一月五日朝の本館裏玄
関付近における状況は、骨子において、別紙「理由」の総論第二に記載のとおりで
あつたことを認めることができ、そして、同所においては、少なくとも原告R、原
告Lおよび訴外Oが積極的に登庁中の裁判所職員らに対し本件職場大会に参加する
よう説得、勧誘していたことを認めることができる。
(四) 表通用門付近および東京簡裁玄関付近の状況
昭和三三年一一月五日朝の表通用門付近および東京簡裁玄関付近における状況が別
紙「理由」の総論第五および第六に記載のとおりであつたことは、前記1の(七)
および(八)のとおり当事者間に争いがなく、そして、右事実によれば、表通用門
付近においては、少なくとも原告F、原告Jおよび訴外Oが、また、東京簡裁玄関
付近においては、少なくとも原告Eおよび原告Jが、それぞれ積極的に登庁中の裁
判所職員に対し本件職場大会に参加するよう説得、勧誘していたことを認めること
ができる。
(五) なお、原告らは、本件職場大会は当初から勤務時間内への食込みによる執
務の妨害や職員および訴訟関係人の入庁阻止を目的としたものではなかつたと主張
している。しかしながら、当事者間に争いのない前記1の(二)および(三)の事
実、前記2の(一)ないし(三)に掲記の各証拠ならびに成立に争いのない乙第八
ないし第一一号証に、前記2の(一)ないし(四)に認定の各事実を総合すると、
全司法中央執行委員会は、警職法改正反対国民会議による第四次統一行動を成功さ
せるため、全司法も総評規模の統一実力行使に組織をあげて参加することを決定
し、昭和三三年一〇月三〇日、右決定を実行するための指令第三号を発したこと、
全司法の東京高裁および東京地裁の両支部は、その後右指令に基づき、勤務時間内
に食い込む職場大会を同年一一月五日午前八時三〇分ごろから本館正面玄関前で実
施することを計画、決定したこと、右計画によれば、右職場大会を勤務時間内に食
い込んで実施することは当初から予定していたものであり、しかも、同大会は裁判
所当局の禁止の警告、命令や職制の制止があつても実力をもつて開催することと
し、同大会開催中は登庁中の裁判所職員および訴訟関係人に対し裁判所庁舎内に入
らないよう極力説得するというものであつたこと、そこで、被処分者らを含む全司
法の幹部役員は、右計画、決定に従い、ビラの配布その他の職場内活動を通じて、
終始積極的に右両支部の組合員に対し右職場大会に参加するよう説得し勧誘したこ
と、そして、その結果、前記2の(一)ないし(四)に認定の本件職場大会および
それに付随する各行動が概略右計画、決定のとおりに実施されたことを認めること
ができるから、原告らの右主張は採用することができない。
また、原告らは、全司法は自動車運転手の就業阻止等を決めたことはないと主張し
ているが、全司法が当初の計画において右のようなことを決めていたか否かはとも
かく、前記2の(一)に認定の事実に照らして考察すれば、原告H、原告K、原告
I、原告J、原告Lおよび原告Mを含む全司法の組合員らが、少なくともその態様
および結果において、自動車運転手の就業の妨害となるべき行動に出たことは否定
することができないから、原告らの右主張も採用することができない。
3 当時の勤務開始時間および出勤簿整理時間
(一) 昭和三三年一一月五日当時の裁判所職員の勤務時間については、一般職た
る裁判所職員の勤務時間に関する規則(昭和二四年最高裁規則第一号、昭和三五年
最高裁規則第一二号による改正前のもの)が、「1一般職たる裁判所職員(以下職
員という。)の勤務時間は、午前八時三〇分から午後五時までとし、その間に三〇
分の休憩時間を置く。但し、土曜日は、午後零時三〇分以降を勤務を要しない時間
とし、休憩時間を置かない。2日曜日は、勤務を要しない日とする。3前二項の規
定によることを適当としない職員の勤務時間の割り振りは、その職員の属する裁判
所が定める。」と規定しており、したがつて、当時の裁判所職員の勤務開始時間
は、午前八時三〇分であつたことが明らかである。なお、右規則による裁判所職員
の勤務時間に関する規定は、政府職員の勤務時間に関する総理府令(昭和二四年総
理庁令第一号として公布されたが、その後総理府設置法付則により総理府令とな
る。)の規定と骨子において一致している。
(二) ところで、前掲甲第三三号証、同第三六、第三七号証、同第三九号証、同
第四一、第四二号証、同第四六号証、同第四九号証、同第五一、第五二号証、乙第
一ないし第七号証、証人P7、同P、同T、同P3、同P8、同P9、同P10、
同P6、同P5、同P12の各証言および原告Aらを除くその余の原告ら各本人尋
問の結果と弁論の全趣旨とを総合すると、最高裁規則による昭和三三年一一月五日
当時の裁判所職員の勤務開始時間は前記のとおり午前八時三〇分であつたが、当時
東京高裁および東京地裁(東京簡裁等を含む。)等においては、その当時の住宅事
情ないし交通事情や多数の職員が勤務開始時間直前に一度に出勤して同時に出勤簿
に押印することは事実上困難であることなどを考慮して、勤務時間管理員による出
勤簿の引上げを一定の時間遅らせ、その時間内に出勤して出勤簿に押印した者は勤
務開始時間までに出勤したものとして取り扱うことが事実上行なわれており、出勤
簿整理時間とか出勤猶予時間と呼ばれていたことを認めることができる。そして、
このような取扱いは、その後の交通事情等の変化に伴い漸次改訂され、次第に遅く
まで認められるようになり、今日まで継続されていることは、当裁判所に顕著な事
実である。しかし、このような取扱いは、右に述べたとおり事実上のものであつ
て、法規上格別の根拠を有するものではない(なお、昭和三七年総理府令第六九号
による政府職員の勤務時間に関する総理府令の改正令には、「2通勤のため利用す
る交通機関が著しく混雑する地域に所在する官庁に勤務する政府職員の勤務時間
は、主務大臣が内閣総理大臣の承認を得て別に定めることができる。」という規定
が設けられ、この規定に基づき一部の行政官庁の職員につき例外的な勤務時間が定
められているが、これは、勤務時間自体の変更であつて、右のような事実上の取扱
いではない。)。
(三) 但し、本件においては、昭和三三年一一月五日当時における東京高裁およ
び東京地裁(東京簡裁等を含む。)の出勤簿整理時間または出勤猶予時間が何時ま
でであつたかについて当事者間に争いがあり、本件の証拠を検案しても、午前八時
四五分とするもの(乙第三、第四号証、同第七号証、証人P、同T、同P8の各証
言)、午前八時五〇分とするもの(甲第三九号証、乙第六号証、証人P3の証
言)、午前九時とするもの(甲第四一、第四二号証、同第四六号証、乙第一、第二
号証、同第五号証、証人P7、同P9、同P6の各証言、原告M、同N各本人尋問
の結果)、午前九時一〇分とするもの(甲第三六号証)、午前九時一五分とするも
の(甲第三三号証、同第五二号証、原告E、同F各本人尋問の結果、なお、東京高
裁事務局についてのみ右時間とする原告Q本人尋問の結果)、午前九時二〇分とす
るもの(証人P12、同P5の各証言、原告I、同J、同K、同L各本人尋問の結
果、なお、東京地裁についてのみ右時間とする原告S本人尋問の結果、東京高裁に
ついてのみ右時間とする原告R本人尋問の結果)、午前九時二五分とするもの(原
告H本人尋問の結果)、午前九時三〇分とするもの(甲第三七号証、同第四九号
証、同第五一号証、証人P10の証言、東京高裁についてのみ右時間とする原告
G、同S各本人尋問の結果、同公判部についてのみ右時間とする原告Q木人尋問の
結果)などがあつて、帰一するところがなく、しかも、右各証拠の中には、その記
述内容ないし供述内容自体がかなり曖昧なものも多い。思うに、このように証拠上
出勤簿整理時間または出勤猶予時間についての記述ないし供述が必ずしも明確でな
い理由は、前記のとおり、これらの時間が勤務開始時間のように法規上明定されて
いるものではなく事実上の取扱いに任されているにすぎないため、正規の文書に記
録されていないこと、その時間が交通事情等の変化に伴い次第に遅くまで、認めら
れるようになつてきていること、本件の日時と右各証拠の記述日時ないし供述日時
との間に相当の時間的隔たりがあるため、右記述ないし供述当時における記述者な
いし供述者の記憶が曖昧になつていたことなどによるものであろう。しかし、出勤
簿整理時間ないし出勤猶予時間の認められる趣旨と、右各証拠の中では記述内容な
いし供述内容が比較的明確であると認められる証拠が多いこと、その証拠の記述者
ないし供述者に勤務時間ないし出勤簿の管理責任者が多いこと、昭和三三年当時は
現在よりも出勤簿整理時間が早かつたことなどを合わせ考えると、昭和三三年当時
の出勤簿整理時間ないし出勤猶予時間は遅くとも午前九時ごろまでであつたと認め
るのが相当であろう。
(四) しかしながら、昭和三三年一一月五日当時における東京高裁および東京地
裁の出勤簿整理時間または出勤猶予時間が何時までであつたにせよ、これによつて
最高裁規則による裁判所職員の勤務開始時間自体が変更されたり、それまでの時間
が休憩時間等の勤務を要しない時間となつたりするものではなく、また、職員に対
しその勤務の報酬として支給される俸給も最高裁規則による勤務時間を基準として
計算されるのである(裁判所職員臨時措置法によつて裁判所職員に準用される一般
職の職員の給与に関する法律第四条、第五条第一項を参照。)。出勤簿整理時間ま
たは出勤猶予時間は、単に、職員がその時間内に出勤して出勤簿に押印すれば、そ
の者を勤務開始時間までに出勤したものとして取り扱い遅刻とはしないという消極
的な効果が付与されているにすぎない。したがつて、職員は出勤簿整理時間または
出勤猶予時間を他の目的のために自由に利用しうるものではなく、この時間内に出
勤した職員は直ちにその職務に従事する義務があるのであり、裁判所当局もその者
に対しその職務に従事することを命じうるのである。そして、出勤簿への押印は単
に職員が定時に出勤したことを証明するための手段にすぎない(昭和二七年最高裁
規則第一号によつて準用される人事院細則九-五-一第四条参照。)のであるか
ら、仮にすでに裁判所に出勤した職員が出勤簿への押印を遅らせているとしても、
その職員は右義務を免れるものではない。そうすると、裁判所職員が当局の許可な
く勤務時間内に職場大会を開催しこれに参加することは、仮にそれが出勤簿整理時
間または出勤猶予時間内であつても、国家公務員法第九八条第五項等に違反するこ
とになるといわなければならない。
(五) なお、右の点に関連し、原告らは、昭和三三年当時出勤猶予時間内の職場
大会やいわゆる集団登庁が頻繁に行なわれており、裁判所当局もこれを容認してき
た旨主張するが、本件の全証拠によつても、その当時裁判所当局が出勤簿整理時間
または出勤猶予時間内の職場大会等を正当なものとして明示または黙示に容認して
いた事実は認めることができない。
三 被処分者らの行為と国家公務員法の適用
右二で認定、判示したところによつて認められる被処分者らの昭和三三年一一月五
日当日の各行為を、国家公務員法の規定に照らして考えると、被処分者らの各行為
は、次のとおり、同法第八二条所定の懲戒事由に該当するものと解することができ
る。
1 原告Eは、昭和三三年一一月五日午前七時五〇分ごろから午前九時二〇分ごろ
までの間東京簡裁玄関付近において、他の全司法組合員とともに、登庁中の裁判所
職員に対し、勤務時間内に食い込む本件職場大会に参加するよう説得、勧誘し、も
つて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をしたものであつて、国家公務員法
第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当する。
2 原告Fは、昭和三三年一一月五日午前七時過ぎごろから午前九時二〇分ごろま
での間表通用門付近において、他の全司法組合員とともに、登庁中の裁判所職員に
対し、勤務時間内に食い込む本件職場大会に参加するよう説得、勧誘し、もつて裁
判所の活動能率を低下させる怠業的行為をしたものであつて、国家公務員法第九八
条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当する。
3 原告Gは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの
間本館正面玄関前において、勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、
積極的にこれに参加するとともに、右玄関前階段付近に他の多数の全司法組合員ら
と横に並んで立ち塞がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、もつて裁
判所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(二) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右(二)は同法同
条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該当する。
4 原告Sは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの
間本館正面玄関前において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、積
極的にこれに参加するとともに、右玄関前階段付近に他の多数の全司法組合員らと
横に並んで立ち塞がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、もつて裁判
所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(二) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右(二)は同法同
条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該当する。
5 原告Qは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの
間本館正面玄関前において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、こ
れを司会するとともに、右玄関前階段付近に他の多数の全司法組合員らと横に並ん
で立ち塞がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、もつて裁判所の活動
能率を低下させる怠業的行為をし、
(二) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右(二)は同法同
条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該当する。
6 原告Rは、昭和三三年一一月五日午前七時五分ごろから午前九時二〇分ごろま
での間本館裏玄関付近において、他の全司法組合員とともに、登庁中の裁判所職員
および訴訟関係人に対し、勤務時間内に食い込む本件職場大会に参加するよう説
得、勧誘し、もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をしたものであつ
て、国家公務員法第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当
する。
7 原告Hは、(一) 昭和三三年一一月五日午前六時三〇分ごろ車庫付近におい
て、他の全司法組合員とともに、裁判所の自動車運転手に警職法反対の趣旨等を説
明し、車庫控室の階段へ座り込むなどの方法により、右運転手の就業を妨害し、
(二) 同日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの間本館正面玄関前
において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、これに積極的に参加
するとともに、演説を行ない、スローガン復唱の音頭をとり、さらに、右玄関前階
段付近に他の多数の全司法組合員らと横に並んで立ち塞がり、裁判所職員および訴
訟関係人の入庁を妨害し、
もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(三) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)および(二)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右
(三)は同法同条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該
当する。
8 原告Iは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前六時三〇分ごろ車庫付近において、他の全司法
組合員とともに、控室の階段への座り込み、説得等により、裁判所の自動車運転手
の就業を妨害し、
(二) 同日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの間本館正面玄関前
において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、これに積極的に参加
するとともに、右玄関前階段付近に他の多数の全司法組合員らと横に並んで立ち塞
がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、
もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(三) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)および(二)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右
(三)は同法同条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該
当する。
9 原告Jは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前六時三〇分ごろ車庫付近において、他の全司法
組合員とともに、控室の階段への座り込み、説得等により、裁判所の自動車運転手
の就業を妨害し、
(二) 同日午前七時過ぎごろから午前九時二〇分ごろまでの間表通用門付近およ
び東京簡裁玄関付近において、他の全司法組合員とともに、登庁中の裁判所職員に
対し、勤務時間内に食い込む本件職場大会に参加するよう説得、勧誘し、
もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をしたものであつて、国家公務員
法第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当する。
10 原告Kは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前六時三〇分ごろ車庫付近において、他の全司法
組合員とともに、説得、控室の階段への座り込み等により、裁判所の自動車運転手
の就業を妨害し、
(二) 同日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの間本館正面玄関前
において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、これに積極的に参加
するとともに、右玄関前階段付近に他の多数の全司法組合員らと横に並んで立ち塞
がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、
もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(三) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)および(二)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右
(三)は同法同条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該
当する。
11 原告Lは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前六時三〇分ごろ車庫付近において、他の全司法
組合員とともに、控室の階段への座り込み、説得等により、裁判所の自動車運転手
の就業を妨害し、
(二) 同日午前七時五分ごろから午前九時二〇分ごろまでの間本館裏玄関付近に
おいて、他の全司法組合員とともに、登庁中の裁判所職員に対し、勤務時間内に食
い込む本件職場大会に参加するよう説得、勧誘し、
もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をしたものであつて、国家公務員
法第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当する。
12 原告Mは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前六時三〇分ごろ車庫付近において、他の全司法
組合員とともに、控室の階段への座り込み、説得等により、裁判所の自動車運転手
の就業を妨害し、(二) 同日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの
間本館正面玄関前において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、こ
れに積極的に参加するとともに、右玄関前階段付近に池の多数の全司法組合員らと
横に並んで立ち塞がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、
もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(三) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)および(二)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右
(三)は同法同条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該
当する。
13 原告Nは、
(一) 昭和三三年一一月五日午前八時二〇分ごろから午前九時三〇分ごろまでの
間本館正面玄関前において勤務時間内に食い込む本件職場大会が開催された際、こ
れに積極的に参加するとともに、右玄関前階段付近に他の多数の全司法組合員らと
横に並んで立ち塞がり、裁判所職員および訴訟関係人の入庁を妨害し、もつて裁判
所の活動能率を低下させる怠業的行為をし、
(二) 同日午前八時三〇分ごろ東京高裁長官および東京地裁所長連名の解散命令
が発せられ、さらに同日午前八時五〇分ごろ右同様に連名の職場復帰命令が発せら
れたのにかかわらず、これらの上司の職務上の命令に従わなかつた
ものであつて、右(一)は国家公務員法第九八条第五項前段に、右(二)は同法同
条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一号ないし第三号に該当する。
14 訴外Oは、全司法本部中央執行副委員長兼財政部長で組合専従者の地位にあ
つた者であるが、昭和三三年一一月五日午前七時過ぎごろから午前九時二〇分ごろ
までの間本館裏玄関付近および表通用門付近において、他の全司法組合員ととも
に、登庁中の裁判所職員に対し、勤務時間内に食い込む本件職場大会に参加するよ
う説得、勧誘し、もつて裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為の遂行をあおつ
たものであつて、国家公務員法第九八条第五項後段に違反し、同法第八二条第一、
第三号に該当する。
四 国家公務員法第九八条第五項の合憲性等
1 原告らは、国家公務員も勤労者であつて憲法第二八条により団結権および団体
行動権を保障されているものと解しなければならないところ、国家公務員法第九八
条第五項は、すべての国家公務員のすべての争議行為を一律に禁止するものである
から、憲法の右規定に違反するものであつて、無効であると主張している。
そこで考えるに、国家公務員も勤労者であるから、憲法第二八条の保障は原則的に
は国家公務員に対しても及ぶものと解すべきであるが、しかし、国家公務員につい
ては、その従事する職務に公共性がある一方、法律により、その主要な勤務条件が
定められ、身分も保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのである
から、国家公務員法第九八条第五項がこのような国家公務員について争議行為およ
びそのあおり行為等を禁止しても、それは、勤労者をも含めた国民全体の共同の利
益の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法の右規定に違反する
ものではないと解するのが相当である(最高裁大法廷昭和四八年四月二五日判決、
刑集二七巻四号五四七頁参照。)。したがつて、原告らの右主張は採用することが
できない。
2 また、原告らは、仮に国家公務員法第九八条第五項の争議行為禁止の規定が憲
法第二八条に違反するものではないとしても、国家公務員法の右規定は、憲法第二
八条の精神に照らし、これを限定的に解釈すべきであつて、それは、日常時におけ
る労使の経済的取引の手段としての争議行為のみを禁止し、または、公共性の強い
職務に従事する国家公務員の国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な障害をも
たらすおそれのある争議行為であつて、争議行為禁止以外の手段による制限ではそ
のおそれを回避することのできないもののみを禁止していると解すべきであるか
ら、本件職場大会の開催のように、憲法秩序侵害の緊急事態に対し抗議する必要が
あり、かつ、公務の執行には事実上重大な支障がなく、直ちに平常の業務に復帰し
うる状態で行なわれた争議行為は、国家公務員法の右規定の禁止する争議行為には
該当しないものと解すべきであると主張している。
しかしながら、国家公務員法第九八条第五項の立法趣旨に照らして考えるに、同規
定は、国家公務員の争議行為を区別したうえ、原告らの主張するような特定の争議
行為のみを禁止し、その余の争議行為は禁止していないと解するのは相当でない
(前記最高裁判決参照。)。のみならず、警職法の改正に反対する本件職場大会の
開催のような政治的要求の貫徹または政治的意見の表明等のために行なわれる団体
行動は、それが私企業の労働者の団体行動であると、公務員を含むその他の勤労者
の団体行動であるとを問わず、憲法第二八条の保障する勤労者の団体行動権の範囲
には本来含まれないものと解すべきである(前記最高裁判決のほか、最高裁大法廷
昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁、同昭和四四年四月二日判
決、刑集二三巻五号六八五頁参照。)。したがつて、原告らの右主張は、理由がな
く、採用することができない。
五 本件職場大会参加の違法性
1 原告らは、憲法第二一条は言論その他の表現の自由を保障しており、この言論
その他の表現の自由の中には政治的意見の表明の自由も当然に含まれるものと解す
べきところ、全司法の実施した本件職場大会は警職法改正反対という政治的意見の
表明のためになされたものであり、そして、裁判所職員等の国家公務員といえど
も、個人として、または、労働組合の構成員として、その政治的意見の表明を禁止
または制限される理由は全くないから、本件職場大会に参加した被処分者らの各行
為は、憲法の右規定の保障する表現の自由の範囲内に含まれるものであつて、違法
とされる理由はないと主張している。
そこで、右主張について考察するに、憲法第二一条が言論その他の表現の自由を保
障しており、この言論その他の表現の自由の中には政治的意見の表明の自由も含ま
れることは、原告らの主張するとおりであるし、裁判所職員等の国家公務員も、国
民の一人として、憲法の右規定により言論その他の表現の自由を保障されているこ
とはいうまでもない。しかしながら、憲法第二一条の保障する表現の自由といえど
も、全く無制的な自由が許されるものではなく、公共の福祉に反する場合には合理
的な制限を加えることができるものと解するのが相当であるところ、前記のとお
り、国家公務員は合憲の法律である国家公務員法第九八条第五項によつて争議行為
を禁止されているのであり、しかも、政治的要求の貫徹または政治的意見の表明等
を目的とする団体行動は、私企業の労働者であると、公務員を含むその他の勤労者
であるとを問わず、憲法第二八条の保障する勤労者の団体行動権の範囲には含まれ
ないのであるから、国家公務員である被処分者らが、国家公務員法第九八条第五項
によつて、勤務時間内に食い込む本件職場大会に参加し、それによつて警職法の改
正反対という政治的意見を表明することを禁止され、違法とされても、それは、公
共の利益のために勤務する国家公務員についての合理的な制限にすぎないと解すべ
きであつて、憲法第二一条に違反するものではないというべきである(前記最高裁
昭和四八年四月二五日判決参照。)。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
2 また、原告らは、警職法改正法案に反対する本件職場大会はその法律案の提出
による憲法秩序への重大かつ緊急な侵害に対する抗議行動として行なわれたもので
あり、憲法第一二条前段に基づく行動であるところ、とくに公務員については、憲
法第九九条により、憲法を尊重し擁護する義務が課せられているのであるから、国
家公務員である被処分者らが右のような本件職場大会に参加することは、公務員の
憲法擁護義務の履行行為というべきであつて、何ら違法とされるべき性質のもので
はないと主張している。
そこで、判断するに、憲法第一二条前段が、「この憲法が国民に保障する自由及び
権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定し
ており、憲法第九九条が、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他
の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定していることは明ら
かであるし、また、警職法改正法案は昭和三三年一〇月八日内閣から当時開会中の
第三〇回臨時国会に提出されたものであるところ、その改正法案については、国会
提出の当初から、国民の間に論議が沸騰し、とくに多数の労働組合、婦人団体、学
者、文化人等がその反対運動に立ち上り、警職法改正反対国民会議が結成されるに
至つたこと、そして、その後紆余曲折の末、右改正法案が廃案となるに至つたこと
は、公知の事実であり、本件職場大会も、右国民会議による第四次統一行動の一環
として、全司法の指令に基づいて実施されたものであることは、前記のとおり当事
者間に争いがない。
しかしながら、国家公務員であり裁判所職員である被処分者らが右のような本件職
場大会に参加することは、憲法第九九条に基づく公務員の憲法擁護義務の履行行為
であるという主張には、大いに問題がある。すなわち、憲法は国の最高法規である
(憲法第九八条第一項)から、公務員であると否とを問わず、国民であればだれで
もこれを尊重し擁護する義務を負うのが当然であるにもかかわらず、憲法第九九条
が、とくに「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」(以
下、公務員等という。)について、憲法を尊重し擁護する義務を負うことを規定し
ているのは、これらの公務員等はいずれも公権力の担当者であつて国政の運用や国
民の生活に重大な影響を及ぼす地位にあることに鑑み、もし公務員等が各自の公権
力の行使に当たり憲法を無視する場合には、その弊害の及ぶところが広範かつ深刻
であつて、憲法自体の運命をも左右しかねないため、ことさら明示に右のような義
務を負うことを強調する必要があると解した結果というべきであろう。他方、憲法
は、国家の統治機構として、国会、内閣および裁判所による三権分立の制度を採用
し(憲法第四一条、第六五条、第七六条)、それらの三機関の独立と相互の抑制均
衡とによつて、公権力の濫用を防止し、国民の自由と権利を確保しようとしている
のであり、しかも、その相互の抑制均衡の方法については明確かつ詳細な規定を設
けでいるのである。そこで、以上のことを考慮すれば、憲法第九九条は、公務員等
が各自の職務権限を行使するに当たつては憲法を尊重し擁護する義務を負うことを
規定しているが、反面、憲法の規定する抑制均衡の方法による場合を除き、各自の
職務とは直接関係のない、とくに三権分立の制度上自己の職務とは全く独立した職
務を担当している他の機関所属の公務員等の職務権限の行使についてまで、憲法を
尊重し擁護すべきことを側面から要求し干渉する義務を負うことを規定したもので
はないと解するのが相当である。のみならず、公務員等は、憲法およびそれに基づ
く法令によつて定められた各自の職務権限を行使する方法によらずしては、憲法第
九九条(第一二条前段を含む。)を根拠としても、三権分立の制度上自己の職務と
は独立した職務を担当している他の機関所属の公務員等の職務権限の行使について
まで側面から干渉したり容喙したりすることは許されないものと解すべきである。
けだし、もし憲法第九九条のみに基づいてこのようなことが許されるものとすれ
ば、もはやそこには明確な基準も歯止めもないのであるから、憲法擁護義務の履行
という名のもとに、例えば、国務大臣や国会議員が法令の改廃その他の憲法上認め
られた方法によらないで、直接裁判所の裁判権の行使に影響を与えるような言動に
出たり、あるいは逆に、裁判官が裁判以外の方法によつて直接内閣の行政権の行使
や国会の立法権の行使を非難攻撃したりすることすら可能になるのであつて、それ
では、三権ないしそれに属する公務員等相互間の抗争、衝突は止めどがなくなり、
ひいては、三権分立に基づく憲法秩序は崩壊し、国民の自由と権利の保障も危殆に
瀕する事態をも招きかねないといわざるをえないのであるが、憲法がそのような不
当かつ危険なことを容認しているとは到底解することができないからである。そし
て、以上のことは、国務大臣、国会議員、裁判官等の固有の職務権限を有する公務
員等にかぎつて妥当すると解すべき理由は全くないから、被処分者らのような補助
的な職務権限しか有しない公務員等についても同様に妥当するものといわなければ
ならない。
そうすると、被処分者らが、国家公務員ないし裁判所職員としての資格を離れた個
人としての資格で、または、その組織する労働組合である全司法の組合員ないし役
員としての資格で、かつ、憲法および国家公務員法等に基づく国家公務員ないし裁
判所職員としての義務に違反しない方法および範囲で、警職法改正反対の意見を表
明するのはともかく(しかし、このような資格、方法等による意見の表明は、憲法
第二一条に基づく表現の自伯の問題であつて、憲法第九九条に基づく公務員等の憲
法擁護義務の履行の問題とは関係がない。)、国家公務員ないし裁判所職員として
の資格で、しかも、国家公務員法等に基づく国家公務員ないし裁判所職員としての
義務に違反する方法によつて、本来内閣ないし国会の固有の職務権限に属する警職
法改正法案の提出やその可決に反対する行動に出ることは、憲法第九九条を根拠と
しても、許されないものといわなければならない。したがつて、被処分者らの本件
職場大会への参加は公務員としての憲法擁護義務の履行行為であつて違法性がない
という原告らの主張は、採用することができない。
六 訴外Oを除くその余の被処分者らに対する懲戒処分および判定の正当性
1 国家公務員法第八二条は、職員(一般職に属する国家公務員)が同条各号所定
の懲戒事由に該当する場合においては、これに対する懲戒処分として、免職、停
職、減給または戒告の処分をすることができると規定しているところ、訴外Oを除
くその余の被処分者ら(この章にかぎり、以下、単に被処分者らという。)につい
てそれぞれ右懲戒事由に該当する各行為の存在を肯認することができることは、前
記二および三に判示のとおりであるし、また、被処分者らに対してなされた懲戒処
分ないし判定によつて修正された後の処分がいずれも右法定の処分に該当するもの
であつたことは、当事者間に争いのない前示一の事実に照らして明らかであるか
ら、次の2ないし4で検討する原告らの主張の理由がないかぎり、被処分者らに対
してなされた懲戒処分ないし判定は、いずれも国家公務員法の右規定に基づく正当
なものであつたといわなければならない。
2 ところで、原告らは、全司法の実施した本件職場大会は憲法第二八条に基づく
正当な団体行動であり、被処分者らは全司法の組合員の一員としてこれに参加した
ものにすぎないところ、被告らは、被処分者らのこのような団体行動の一部をとら
え、しかも、被処分者らが全司法の幹部としての役職にあることに着目して、前記
のような懲戒処分および判定を行なつたものであるから、これらの懲戒処分および
判定は、差別的な抑圧であり、憲法第二八条および国家公務員法第九八条第三項に
違反すると主張している。
しかしながら、本件職場大会の実施が憲法第二八条に基づく正当な団体行動である
といえないことは、前記四〇判示から明らかであるし、また、被処分者らに対する
懲戒処分および判定が被処分者らに国家公務員法第八二条所定の懲戒事由に該当す
る行為のあつたことを理由として行なわれたものであり、かつ、それらの行為の存
在の認められることも、前記一ないし三に判示のとおりである。そして、被処分者
らが全司法の幹部の役職にあつたことだけで懲戒処分を受けたかのごとくにいう、
甲第三九号証、同第四一ないし第四三号証、同第四六号証、原告E、同F、同G、
同J、同M、同N各本人尋問の結果の各一部は、前記二で認定の事実に照らして採
用することができない。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
3 さらに、原告らは、被告らが被処分者らに対して行なつた懲戒処分および判定
は、被告らが懲戒権を濫用してなした極めて恣意的なものであるから、違法であ
り、取り消されるべきであると主張している。
よつて考えるに、国家公務員法に基づく懲戒制度に国家公務員の組織(本件の場合
は、裁判所職員の組織すなわち司法行政組織)上の秩序の維持を目的とするもので
あるから、国家公務員たる職員に懲戒事由に該当する行為があると認められる場合
においては、懲戒権者たる任命権者は、その職員の職務の性格、行為の動機、目
的、態様、その他諸般の事情を総合考慮し、その行為の違法性および責任の程度を
慎重に勘案したうえ、その職員を懲戒処分に処するか否かを判断し、そして、懲戒
処分に処するのを相当と認めるときには、前記の懲戒制度の目的に照らし公正、妥
当と認められる処分を選択すべきであるが、その職員を懲戒処分に処すべきか否か
の判断およびその処分の選択については任命権者に合理的な範囲内の裁量権が与え
られていると解すべきことは、懲戒制度の目的や国家公務員法第八二条等の規定の
表現に照らして明らかである。したがつて、職員に懲戒事由に該当する行為がある
と認められる場合において、その懲戒処分につき任命権者が右の合理的な範囲内の
判断、選択をしたときは、もはや懲戒権の濫用の問題は生じないものというべきで
ある。
ところで、本件についてみるに、まず、被処分者らに国家公務員法第八二条所定の
懲戒事由に該当する各行為があつたと認められることは、前記二および三において
判示したとおりである。
そこでさらに、被処分者らの本件各行為の情状についてみるに、公務員であると否
とを問わずすべて国民は憲法およびそれに基づく法令を守るべき義務があるのであ
るが、裁判所は、司法権の担当者であつて、法の厳正な遵守と適用とにより国民の
権利を擁護し社会の秩序を維持することを使命とするものであり、国民からもその
ことを強く期待されているのであるから、とくに右のような使命を担う裁判所に勤
務する職員はまず自ら法を守ることに厳正でなければならないことはいうまでもな
い。そして、このことは、ひとり裁判官にかぎらず、裁判官以外の裁判所職員につ
いても同様であつて、例外を認めるべき理由はない。しかるに、被処分者らは、昭
和三三年一一月五日当時、裁判所速記官、裁判所書記官補、裁判所事務官または雇
としてそれぞれ裁判所に勤務していた者であるにもかかわらず、しかも、事前に上
司である東京高裁長官または東京地裁所長から、勤務時間内に食い込む本件職場大
会に参加するため、職場を離脱することは国家公務員法第九八条第五項に違反する
ものであることなどを警告されていながら、あえてこの警告を無視して、本件職場
大会に参加したり、あるいは、それに付随する前示各行為に出たりしたものであ
り、さらに、原告Hほか七名の被処分者らは、本件職場大会の途中で東京高裁長官
および東京地裁所長の解散命令および職場復帰命令を受けたにもかかわらず、これ
にも従わなかつたものであるから、その違法性および責任は軽いものであつたとは
いえない。また、裁判所は、本来政治的な性格の機関である国会や内閣とは異な
り、政治的中立性を生命とする機関であるから、裁判所に勤務する者は、裁判官は
もとより、その他の職員であつても、裁判所の政治的中立性の保持についてはとく
に留意し、その中立性につき国民の誤解や疑惑を受けるような言動は厳に慎しまな
ければならない。そして、この国民の中にはあらゆる政治的見解に立つ国民が含ま
れるのであり、しかも、裁判所は国民をその政治的見解のいかんにより差別するこ
とは許されないのである。しかるに、本件職場大会の開催は前記のとおり、内閣か
ら国会に提出された警職法改正法案の成立に反対するという明らかに政治的目的を
もつた争議行為であつたのみならず、その開催の時間は東京高裁および東京地裁の
勤務時間内であり、その開催の場所は裁判所庁舎本館の正面玄関前であり、しか
も、原告Hほか七名の被処分者らを含む多数の裁判所職員が参加し、かつ、登庁中
の裁判所職員および訴訟関係人の入庁をも妨害するような形式で行なわれたのであ
る。そうすると、本件職場大会の実施は、単に国家公務員法第九八条第五項に違反
するにとどまらず、国民に対して裁判所の政治的中立性につき誤解や疑惑を与えか
ねない性質を帯びるものであつたといわざるをえない。さらに、被処分者らは、本
件職場大会の実施および同大会への参加の説得、勧誘行為によつて、本館正面玄関
前および同裏玄関付近において登庁中の多数の職員および訴訟関係人の入庁を事実
上妨害し阻止したものであるが、このような場所におけるこのような行動は、仮に
それが裁判所の勤務時間外であつても許されない行動であるというべきである。な
お、前記の認定から明らかなとおり、被処分者らは、いずれも全司法の幹部役員で
あつて、単に本件職場大会等に参加したというにとどまらず、同大会の計画、実施
等について非常に積極的な役割を演じているのである。
以上の事実に基づいて考察すれば、仮に本件職場大会の実施が原告らの主張するよ
うに当日の裁判所の執務に大きい影響を与えるものではなかつたとしても、被処分
者らの前示各行為の違法性および責任は、前記の懲戒制度の目的に照らし、決して
軽いものであつたとはいえないから、被告らが被処分者らを懲戒処分に処すべきで
あるとした判断は相当であつて、その判断には懲戒権者としての被告らに与えられ
た裁量権の範囲を逸脱するとか、その裁量権を濫用した違法があるとは認められな
い。
そして、被告最高裁の判定の結果一部の処分が修正軽減された後における被処分者
らに対する懲戒処分の内容は、国家公務員法第八二条所定の四種類の処分のうちで
は最も軽い戒告の処分またはそれに次いで軽い減給の処分(それも最も重い原告H
に対する処分が三か月間俸給月額の一〇分の一ずつ減給の処分である。)であるか
ら、被処分者らの前示各行為の違法性および責任に照らして考えると、被告らによ
る右各処分の選択もやむをえないものであつたというべきであつて、その選択につ
いて裁量権の逸脱または裁量権の濫用があつたとは解しがたい。
したがつて、右各処分は被告らが懲戒権を濫用してなしたものであるという原告ら
の主張は理由がない。
4 なお、原告らは、東京高裁および東京地裁等の職員の中には、被処分者らとと
もに本件職場大会に参加した者が多数いたのにかかわらず、何らの懲戒処分をも受
けていないことや、昭和三三年一一月五日には、東京家裁その他の裁判所の職員お
よび農林省その他の行政官庁の職員等も、本件職場大会と同様に警職法の改正に反
対する職場大会を実施し、それに多数の職員が参加していたのにかかわらず、被処
分者らのように懲戒処分に処せられた者がいないことを挙げて、被処分者らに対す
る懲戒処分は差別的な取扱いであり、懲戒権の濫用であると主張している。
しかしながら、仮に右主張のような事実が認められるとしても、被処分者ら以外の
者に対する処分が行なわれなかつたこと自体の当否を問題にする余地があるのは格
別、前示のような事情のもとに行なわれた被処分者らに対する懲戒処分が不当なも
のとなるいわれはない。したがつて、原告らの右主張も理由がないというべきであ
る。
七 訴外Oに対する懲戒処分および判定の当否
1 訴外Oは、被告東京地裁から停職二か月の懲戒処分を受けたので、被告最高裁
に対しその処分の取消しを求める審査請求をしたが、その手続の係属中である昭和
三七年八月二四日に死亡したところ、被告最高裁は、右懲戒処分の取消しを求める
権利は訴外Oの国家公務員としての地位に基づく一身専属的な権利であるから、右
審査請求の手続は同訴外人の死亡によつて終了したとして、昭和四二年九月一三日
付でその旨の判定をしたことは、原告Aらと被告最高裁との間で争いがない。
しかしながら、右懲戒処分の取消しを請求する法律上の利益ないし適格(すなわ
ち、右懲戒処分の取消しを求める権利)は、訴外Oの有した停職期間中の俸給の支
払請求権その他の財産上の権利を相続する原告Aらが承継したものと解すべきこと
は、本案前の主張についての前記判断において説示したとおりであるから、これと
異なる見解に立つて右審査請求の手続は訴外Oの死亡によつて終了したという被告
最高裁の右判定は、法令の解釈適用を誤つたものというべきであつて、取消しを免
れない。
なお、訴外Oの死亡後に改正施行された国家公務員法第九〇条第三項は、職員の懲
戒処分等に関する審査請求等の手続については、手続の死亡承継等について定めた
行政不服審査法第二七条の規定を適用しない旨規定しているが、しかし、これは、
職員の懲戒処分等に関する審査請求等の手続の死亡承継等を否定する趣旨ではな
く、単にそれらの問題についての規定を人事院規則等に委ねた趣旨にすぎないもの
と解すべきであるし、また、人事院規則等には、訴外Oの死亡の前後を問わず、右
の問題についての規定を欠いているけれども、これは不注意による規定の不備にす
ぎないものと解すべきである。したがつて、これらのことは右に述べた結論を左右
するに足りるものではない。
2 そこでさらに、訴外Oに対する懲戒処分の当否について考えるに、前記の一な
いし五において判断したところからすれば、訴外Oも国家公務員法第八二条第一、
第三号所定の事由に基づく懲戒責任を免れることはできないものというべきである
し、また、前記の六において訴外Oを除くその余の被処分者らに対する懲戒処分等
の当否について述べたところから考察すると、被告東京地裁が訴外Oに対して行な
つた停職二か月の懲戒処分も懲戒権者である被告東京地裁に与えられた裁量権の範
囲内を逸脱するものではないというべきであるかのように見える。
しかしながら、翻つて被告最高裁の行なつた判定後の段階における訴外Oに対する
懲戒処分の内容とその余の被処分者らに対する懲戒処分の内容とを対比してみる
に、当事者間に争いのない請求原因の記載の事実から判断すれば、当初から法定の
懲戒処分のうちでは最も軽い戒告の処分を受けた原告Eほか四名については格別、
それより重い減給以上の処分を受けた原告Hほか七名については、いずれもそれら
の被処分者からの審査請求に基づく被告最高裁の判定の結果、当初に受けた懲戒処
分をその種類または程度においてより軽い処分に修正されており、しかも、結局停
職の処分に処せられた者は一人もいないのに対し、訴外Oだけは、その後も前記の
とおりかなり重い停職二か月の懲戒処分を受けたままになつていることが明らかで
ある。他方、前記の二および三で認定した事実関係等に基づき、訴外Oの懲戒事由
とその余の被処分者らの懲戒事由とを対比してみると、訴外Oの行為の違法性ない
し責任が、その余の被処分者らの各行為の違法性ないし責任と比較して、その処分
内容に右に述べたような大きい差違をつけなければならない程重大であつたとは認
められず、ただ同訴外人が当時組合専従者であつたために、国家公務員法第九八条
第五項の適用法条の点で差違が生じているにすぎない。そうすると、もし、被告最
高裁が、訴外Oのなした審査請求につき、前記のような形式的判定によつて審理を
打ち切ることなく、十分に審理を尽したうえ実体的判定をしていたとすれば、訴外
Oについても、原告Hほか七名についてと同様、当初に受けた懲戒処分をより軽い
処分に修正された蓋然性が非常に大きいものと判断せざるをえない。しかるに、被
告最高裁が、法令の解釈適用を誤り、訴外Oのなした審査請求の手続は同訴外人の
死亡によつて終了した旨の形式的判定をして審理を打ち切つたことは、前記1にお
いて判断したとおりである。
そこで、以上を総合して考察すると、被告東京地裁が訴外Oに対して行なつた停職
二か月の懲戒処分は、少なくとも前記判定後の段階で結果的にみれば、同訴外人の
行為の違法性ないし責任に比して重きにすぎたというべきであり、しかも、本来前
記の審査請求に基づき修正軽減されるのが相当であつたと解すべきところ、右に述
べたような事情のためにいまだそれが実現されていないということができるから、
右処分には懲戒権者たる被告東京地裁がその裁量権の範囲を逸脱した違法または少
なくともそれと同視しうる違法があると解するのが相当である。したがつて、被告
東京地裁が訴外Oに対して行なつた右懲戒処分も取消しを免れない。
3 付言するに、右のとおり被告東京地裁が訴外Oに対して行なつた懲戒処分の取
消しを認容しうるときには、その取消しと同時に、被告最高裁が同訴外人の審査請
求について行なつた判定をも取り消すことは無用のことであつてその必要がないか
のように見える。しかしながら、今ここで右懲戒処分の取消しを認容する判決をし
ても、その取消しの効力は同判決が将来そのままで確定するまでは生じないのであ
るから、本判決において、右懲戒処分の取消しを認容するとともに、右判定の取消
しをも認容して、場合によつては(例えば、右判定取消し認容の判決が先に確定し
た場合には)、原告Aらが審査請求手続の続行を求める方法によつても右懲戒処分
の取消しまたは修正を請求しうるよう取り計らうことは、その必要があるものとい
うべきである。
第三 結論
以上の次第であつて、原告Aらの本訴各請求はいずれも理由があるからこれを認容
し、その余の原告らの本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費
用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を適用して、主文
のとおり判決する。
判定の理由に対する認否
第一 判定の理由総論第一(一般的事実)について
一 一ないし四記載の事実は認める。
二 五記載の事実のうち、昭和三三年一一月五日には、ゼネストにより国電の運行
が止る危険性があつたことは認めるが、その余の事実は知らない。
三 六記載の事実のうち、車庫階段に二、三人ずつ横に並んで座つていたこと、原
告I、原告J、原告Lらが右階段を占拠したため、自動車運転手が降段することを
一時妨げられ、組合員らと課長らとの間に多少のいざこざがあつたことは否認す
る。T、V、U各課長が車庫二階控室から自動車運転手六名位を就業せしむべく、
これを誘導して車庫西側階段を降りようとしたことは知らない。その余の事実は認
める。
原告Iらは、自動車運転手に対し、警職法改悪阻止の職場大会の意義を説明してい
たにすぎない。
四 七記載の事実は否認する。
第二 同第一(本館裏門付近における状況)について
一 一記載の事実のうち、原告R、原告L、訴外Oらが、「ここから庁舎へ入るこ
とは断る。」等と申し向けたことは否認し、その余の事実は認める。
二 二記載の事実のうち、原告R、原告L、訴外Oらが本館裏門付近において女子
職員P1に対し職場大会への参加を勧誘していたことは認めるが、その余の事実は
知らない。
三 三記載の事実のうち、原告R、原告Lらがスクラムを組むなどの方法により物
理的に入庁を阻止した事実が全くなかつたこと、同原告らがただ口頭をもつて入庁
せんとする職員その他の訴訟関係人に対し職場大会に参加するよう勧誘、説得をし
たにすぎないものであることは認める。その勧誘、説得の方法が相当執拗であり、
少なくとも心理的には入庁せんとする職員の自由意思を阻害し、その入庁を阻止し
たことは否認する。その余の事実は知らない。
第三 同第三(正面玄関付近における状況)について
一 一記載の事実のうち、職場大会の開始時刻、(二)、(三)記載の事実は否認
するが、その余の事実は認める。
職場大会は、当日午前八時四五分に開始されたものであり、また、P11の挨拶
は、全司法が頼みもしないのに、同人が宣伝カーの上から、通りすがりに、「頑張
つて下さい。」と勝手に叫んで行つたものである。原告Qは、司会をしていただけ
なので、挨拶はしていない。
二 二記載の事実は認める。
原告K、原告N、原告I、原告Mが他の組合員らとともに、時にスクラムを組んだ
のは、職場大会に対する当局の物理的妨害からみずからの防衛を余儀なくされたと
きと、労働歌を合唱したときだけである。
三 三記載の事実は認める。
四 四記載の事実のうち、午前八時四〇分ごろ東京地裁総務課職員のP13が東京
高裁民事訟廷事務室の窓の下に来て、同室内のP14に対し同室の窓から入れてく
れるよう依頼したこと、同人がこれに応じて室内の椅子を降ろしてP13を中に入
れてやつたこと(窓の高さが人間の背の高さ位であつたこと。)、これを見て職員
が次々と窓の下に来て、七、八名ないし一二、三名の者が右の窓から庁舎内に入る
に至つたことは知らない。原告K、原告N、原告I、原告Mを含む組合員らが入庁
せんとする職員を阻止したことのない事実は認める。その余の事実は否認する。
第四 同第四(職務復帰命令、
解散命令)について
一 一記載の事実は知らない。
二 二記載の事実のうち、拡声器で何かが放送されていたこと、守衛が紙を掲げて
いたことは認めるが、その内容は知らない。
第五 同第五(アーチ付近の状況)、第六(東京簡易裁判所玄関付近の状況)、第
七(柔道場付近の状況)記載の各事実は認める。
第六 判定の理由各論第一について
一 一記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Hが自動車運転手らの就業を妨害したこと、T
課長らに話合いをせまつたことは否認するが、その余の事実は認める。
3 (二)記載の事実のうち、職場大会の開始時刻および同原告が怠業的行為をな
したことは否認するが、その余の事実は認める。
4 (三)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
二 二記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Iが自動車運転手らの就業を妨害したこと、階
段を占拠したこと、自動車運転手らが降りてくるのを妨げたことは否認する。同原
告がその場にいたことは認める。
3 (二)記載の事実のうち、職場大会の開始時刻、同原告がスクラムを組んだこ
と、職員らの入庁を妨害したこと、怠業的行為をしたことは否認するが、その余の
事実は認める。
4 (三)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
三 三記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Jがその場にいたことは認めるが、その余の事
実は否認する。
3 (二)記載の事実は認める。
4 (三)記載の事実のうち、同原告が怠業的行為をしたことは否認するが、その
余の事実は認める。
四 七記載の事実のうち、原告Eが怠業的行為をしたことは否認するが、その余の
事実は認める。
五 八記載の事実のうち、原告Fが怠業的行為をしたことは否認するが、その余の
事実は認める。
六 九記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Kがその場所にいたことは認めるが、その余の
事実は否認する。
3 (二)記載の事実のうち、職場大会の開始時刻、同原告がスクラムを組んだこ
と、職員らの入庁を妨害したこと、怠業的行為をしたことは否認するが、その余の
事実は認める。
4 (三)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
七 一〇記載の事実のうち、原告Lが午前九時三〇分までその場にいたこと、そし
て、立ち塞がつたこと、怠業的行為をしたことは否認するが、その余の事実は認め
る。同原告がその場にいたのは午前九時二〇分までである。
八 一一記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Mがその場にいたことは認めるが、その余の事
実は否認する。
3 (二)記載の事実のうち、職場大会の開始時刻、同原告がスクラムを組んだこ
と、職員らの入庁を妨害したこと、怠業的行為をしたことは否認するが、その余の
事実は認める。
4 (三)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
九 一三記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、職場大会の開始時刻、原告Nがスクラムを組んだこ
と、職員らの入庁を妨害したこと、怠業的行為をしたことは否認するが、その余の
事実は認める。
3 (二)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
一〇 一四記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Gがその場にいたことは認めるが、その余の事
実は否認する。
3 (二)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
一一 一五記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Sがその場にいたことは認めるが、その余の事
実は否認する。
3 (二)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
一二 一六記載の事実について
1 冒頭記載の事実は認める。
2 (一)記載の事実のうち、原告Qが午前九時三〇分まで職場大会の司会をした
ことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 (二)記載の事実のうち、各命令に従わなかつたことは否認するが、その余の
事実は知らない。
一三 一七記載の事実のうち、原告Rが怠業的行為をしたことは否認するが、その
余の事実は認める。 以上
事実および争点
甲事実
請求者G、R、S、Qは東京高等裁判所に勤務する裁判所書記官補であるが、いず
れも昭和三四年一月二六日東京高等裁判所から裁判所職員臨時措置法により準用さ
れる国家公務員法第九八条第一項、第五項、第八二条第一号、第二号、第三号によ
り請求者Gは三ケ月間俸給の月額の十分の一ずつを減給する懲戒処分を、請求者
R、S、Qは、いずれも二ケ月間俸給の月額の十分の一ずつを減給する懲戒処分を
各受けたもの、請求者Oは東京地方裁判所兼東京簡易裁判所に勤務する裁判所書記
官補、請求者P15は東京地方裁判所兼東京簡易裁判所に勤務する裁判所事務官兼
裁判所書記官補であるが、いずれも同日東京地方裁判所から同法第九八条第五項、
第八二条第一号、第三号により請求者Oは停職二月の懲戒処分を、請求者P15は
戒告の懲戒処分を各受けたもの、請求者H、I、Xは東京地方裁判所兼東京簡易裁
判所に勤務する裁判所事務官兼裁判所書記官補、請求者J、P16は東京地方裁判
所兼東京簡易裁判所に勤務する雇、請求者M、Kは東京地方裁判所兼東京簡易裁判
所に勤務する裁判所書記官補、請求者Nは東京簡易裁判所兼東京地方裁判所に勤務
する裁判所書記官補、請求者P17は東京簡易裁判所兼東京地方裁判所に勤務する
裁判所事務官兼裁判所書記官補であるが、いずれも、同日東京地方裁判所から同法
第九八条第一項、第五項、第八二条第一号、第二号、第三号により請求者Hは停職
一月の懲戒処分を、請求者N、P17、I、Jは一ケ月間俸給の月額の十分の一を
減給する懲戒処分を、請求者M、K、X、P16は戒告の懲戒処分を各受けたも
の、請求者F、P18は東京地方裁判所に勤務する裁判所速記官であるが、同日最
高裁判所事務総長P19から同法第九八条第五項、第八二条第一号、第三号により
戒告の懲戒処分を各受けたもの、請求者Zは東京地方裁判所兼東京簡易裁判所に勤
務する裁判所書記官補であるが、昭和三四年一月二八日東京地方裁判所から停職一
月の懲戒処分を受けたものであるが、各処分説明書による処分理由はつぎのとおり
である。
A 東京高等裁判所関係(請求者G、R、S、Qら四名の分をいう。以下同じ。)
全国司法部職員労働組合(以下全司法と略称する。)本部、全司法東京地方本部
(以下地方本部と略称する。)、全司法東京高等裁判所支部(以下高裁支部と略称
する。)、全司法東京地方裁判所支部(以下地裁支部と略称する。)等の役員その
他の組合員である東京高等裁判所、東京地方裁判所等の職員六・七〇名は、総評の
いわゆる「警職法改正反対第四次統一行動」の一環として、全司法本部の指令に基
き、
一 1昭和三三年一一月五日午前八時二〇分頃から午前九時三〇分頃まで、東京高
等裁判所、東京地方裁判所合同庁舎正面玄関前において、勤務時間内に食い込む職
場大会を開催し、その間勤務時間たる午前八時三〇分から同九時三〇分頃まで約一
時間にわたり、上司の許可を受けずして職場を離脱し、
2 同日午前七時過頃から午前九時二〇分乃至三〇分頃までの間、前記合同庁舎正
面玄関、同裏玄関、東京地方裁判所木造庁舎入口等においてピケを張り、なお、正
面玄関においては午前八時二・三〇分頃からスクラムを組み、一般職員及び訴訟関
係人等が庁舎内に入ることを阻止し、もつて国家公務員法第九八条第五項にいわゆ
る怠業的行為をなし、
二 同日午前八時三〇分過頃から同五〇分頃までの間に東京高等裁判所長官、東京
地方裁判所長連名による職場大会の解散命令ならびに職員に対する職場復帰命令が
発せられたにも拘らず、その命令に従わず、職場大会を続行した。
第一 被処分者Gは、昭和二二年五月二三日東京高等裁判所に雇として採用せら
れ、同年七月二五日裁判所事務官兼裁判所書記官補に、昭和二四年七月一日裁判所
書記官補に任命せられ、同日同裁判所の裁判所書記官の職務を行う者に指名せら
れ、引き続き現在に至るまで同裁判所に勤務する者である。
被処分者は、昭和三三年九月高裁支部の支部長に再選せられ、同支部の責任者たる
地位にある者であるが、前記の如く組合員等六・七〇名と共に、前記一の1の職場
大会に参加し、勤務時間中許可なくして職場を離脱し、かつ、一の2の合同庁舎正
面玄関におけるピケに加わり、職員、訴訟関係人等の入庁を阻止し、もつて怠業的
行為をなし、二の上司の命令に従わなかつたものである。
第二 被処分者Rは、昭和二四年三月三一日東京高等裁判所に雇として採用せら
れ、昭和二八年一二月二六日裁判所事務官に、昭和二九年一一月一日裁判所書記官
補に任命せられ、昭和三〇年五月一日同裁判所の裁判所書記官の職務を行う者に指
名せられ、引き続き現在に至るまで同裁判所に勤務する者である。
被処分者は、昭和三三年九月以前より全司法本部の中央執行委員であり、同月以降
高裁支部の執行委員にもある者であるが、前記の如く組合員等六・七〇名と共に、
前記一の1の職場大会に参加し、勤務時間中許可なくして職場を離脱し、かつ、主
として一の2の合同庁舎裏玄関におけるピケを指揮督励して職員、訴訟関係人等の
入庁を阻止し、もつて怠業的行為をなし、二の上司の命令に従わなかつたものであ
る。
第三 被処分者Sは、昭和二二年一二月一〇日東京高等裁判所に雇として採用せら
れ、昭和二四年一月一四日裁判所事務官に、同年七月一日裁判所書記官補に任命せ
られ、同日同裁判所の裁判所書記官の職務を行う者に指名せられ、引き続き現在に
至るまで同裁判所に勤務する者である。
被処分者は、昭和三三年九月から高裁支部の書記長の地位にある者であるが、前記
の如く組合員等六・七〇名と共に、前記一の1の職場大会に参加し、勤務時間中許
可なくして職場を離脱し、かつ、一の2の合同庁舎正面玄関におけるピケに加わ
り、職員、訴訟関係人等の入庁を阻止し、もつて怠業的行為をなし、二の上司の命
令に従わなかつたものである。
第四 被処分者Qは、昭和二三年一〇月二一日東京高等裁判所に雇として採用せら
れ、昭和二六年四月一日裁判所事務官に、同年九月一日裁判所事務官兼裁判所書記
官補に任命せられ、昭和二七年四月一六日裁判所書記官補に専任せられ、同年五月
一日同裁判所の裁判所書記官の職務を行う者に指名せられ、引き続き現在に至るま
で同裁判所に勤務する者である。
被処分者は、昭和三三年六月地方本部副執行委員長となり、同年九月から高裁支部
の執行委員の地位にもある者であるが、前記の如く組合員等六・七〇名と共に、前
記一の1の職場大会に参加し、許可なくして職場を離脱し、かつ、一の2のピケに
加わり、職員、訴訟関係人等の入庁を阻止し、もつて怠業的行為をなし、二の上司
の命令に従わなかつたものである。
被処分者らの行為は、裁判所職員臨時措置法により準用される国家公務員法第九八
条第一項、第五項に違反し、同法第八二条第一号、第二号に該当するのみならず、
裁判所は、法を守り社会の秩序を維持することをもつてその使命とするのであるか
ら、裁判所職員たる者は、裁判所の右使命に鑑み、国民の裁判所に対する期待と信
頼を裏切らないよう、特にその行動を慎しまなければならないのであつて、被処分
者らが敢えて前記の如き行動に出たことは、同法第八二条第三号にいわゆる国民全
体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合に該当するものといわなければ
ならない。
B 東京地方裁判所関係(請求者O、H、N、P17、I、J、M、K、P15、
X、P16、Zら一二名の分をいう。以下同じ。)
東京地裁職員六・七〇名(東京簡裁、大森簡裁、東京家裁及び東京高裁職員若干を
含み、すべて全国司法部職員労働組合―以下全司法という―所属組合員)は、総評
の「警職法改正反対第四次統一行動」の一環として、予て全司法中央執行委員会の
指令に基き計画されていたところに従い、
(イ) 昭和三二年一一月五日午前八時二〇分頃より同九時三〇分頃まで、東京地
裁、高裁本館正面玄関前において、勤務時間内にくいこむいわゆる職場大会を開
き、
(同大会においては、挨拶、演説、スローガン復唱、決議文朗読、労働歌合唱、万
才三唱等が行われ、なお勤務時間の始まつた午前八時三〇分過頃、東京高裁長官、
東京地裁所長連名の解散命令が、続いて同五〇分頃職場復帰命令が再三発せられ、
マイク及び書面掲示により告知されたが、応じなかつた。)
(ロ) 同大会を効果的にするための附随的措置として
(1) 同日午前六時三〇分頃より同五五分頃まで、自動車による登庁職員の登庁
阻止の目的を以て、地裁車庫二階控室内、その出入口に通ずる階段(西側)及び階
段(東側、西側)下附近において、運転手数名に対する就業妨害行為をなし、
(同妨害行為は、監視乃至ピケツトライン―以下ピケという―及び階段占拠行為等
によつて行われた。)
(2) 同日午前七時五分頃より同九時二〇分頃乃至三〇分頃まで、いわゆる職制
を除く一般職員の登庁、その他訴訟関係人等の入庁阻止の目的を以て、前記正面玄
関前ほか出入口四ケ所(地裁・高裁の本館裏玄関前、地裁第一・第二新館中間の
表・裏各通用門、元東京簡裁玄関前)において、ピケを張り入庁阻止の行為をな
し、
(ピケの解除された時間は、正面玄関前は職場大会終了頃、その他の出入口は九時
二〇分頃、なお正面玄関前においては同大会の開かれる直前頃よりスクラムが組ま
れた。)
以て一連の組織的な団体行動をなし、その間参加者は午前八時三〇分より職場につ
かないのは勿論、運転手の就業を一時不可能にさせ、また一般職員、訴訟関係人、
司法書士等多数の入庁を不可能にさせたものであるが、
以上一連の行為は明らかに裁判所職員臨時措置法によつて準用される国家公務員法
第九八条第五項にいわゆる怠業的行為と認められ、且つ、前記の如く上司の職務上
の命令に忠実に従わなかつた点は同条第一項に違反するものと認められる。従つて
これらの行為はすべて同法第八二条第一号に該当するほか、さらに同条第二号にい
わゆる「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」に該当する。しかのみな
らず、参加者全員について同法上の「国民全体の奉仕者」の観点より考察するに、
行為の全貌が前記の如く、「法に違反する」一面をもち、また「職務上の義務に違
反し、又は職務を怠つた」一面をもつものである以上、特に裁判所の使命が法の守
護と社会秩序の維持にあり、従つてまた裁判所職員はかかる裁判所の特殊の使命に
照らし、国民の裁判所に対する期待と信頼を裏切らないよう格別の自覚に徹する必
要があることに徴するも、参加者の行為がすべて同法第八二条三号にいわゆる「国
民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に該当することも当然である。
第一 被処分者Oは、東京地裁職員であつて、当時全司法本部中央執行副委員長兼
財政部長の地位にあつた(組合専従者)ものであるが、被処分者も前記一一月五日
の事態にその一員として参加し、
(1) 地裁・高裁の本館裏玄関前のピケ現場においてピケ中の組合員に対し「誰
でもかまわんから一人も入れるな、出ていつた者も入れないようにしろ」と申向け
て指導、督励し、
(2) 地裁第一・第二新館中間の表通用門(「アーチ下」)のピケ現場において
ピケを監視し、
以て、(1)の行為により怠業的行為の遂行をあおり、他面(1)(2)の行為を
通じ、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をしたものである。
第二 被処分者Hは、東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部長の地位に
あつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一員として参加し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、課長等に話合いをせまり、さら
に一方的に、「当局は憲法を守れ、権力者の圧力排除、警職法改悪反対」の演説を
行う等右妨害行為を指導し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、同所におけるピケを監視するとともに、
同大会において演説を行い、スローガン復唱の音頭をとり、この演説等において、
警職法改正反対の趣旨のほか、「我々はやろうとすればこういうこともできるだろ
う」、「裁判所の仕事は我々がやつているのだ。だから裁判所は我々のものだ」等
の趣旨を強調し、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第三 被処分者Nは、東京簡裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部東京簡裁分
会厚生文化部長の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態に
その一員として参加し、
(1) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(2) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第四 被処分者P17は、東京簡裁職員であつて、当時全司法東京地方本部執行委
員(法規対策)の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態に
その一員として参加し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫二階控室に在室して運
転手を監視したほか、同車庫西側階段を占拠して運転手の降段を積極的に阻止し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第五 被処分者Iは、東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部事務局分会
長の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一員とし
て参加し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫西側階段を占拠して運
転手の降段を積極的に阻止し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第六 被処分者Jは東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部執行委員の地
位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一員として参加
し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫西側階段を占拠して運
転手の降段を積極的に阻止し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第七 被処分者Mは、東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部民事分会副
分会長の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態に一員とし
て参加し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫東側階段下附近で監視
し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第八 被処分者Kは東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部書記長の地位
にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一員として参加
し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、課長等に話合いをせまる等右妨
害行為を指導し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第九 被処分者P15は東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部執行委員
の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一員として
参加し、(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫西側階段下附
近で監視し、
(2) 地裁、高裁の本館裏玄関前においてピケを張り、
以て一面怠業的行為をし、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をした
ものである。
第一〇被処分者Xは東京地裁職員であつて、当時全司法東京地方本部執行委員(財
政)の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一員と
して参加し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫西側階段を占拠して運
転手の降段を積極的に阻止し、
(2) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張つたほか、同
大会において決議文を朗読し、
(3) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第一一 被処分者P16は東京地裁職員であつて、当時全司法東京地裁支部事務局
分会書記長の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその
一員として参加し、
(1) 自動車運転手の就業妨害の現場において、地裁車庫西側階段を占拠して運
転手の降段を積極的に阻止し、
(2) 地裁、高裁の本館裏玄関前においてピケを張り、
(3) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張り、
(4) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
第一二 被処分者Zは東京地裁職員であつて、当時全司法本部中央執行委員、法規
対策部長の地位にあつたものであるが、被処分者も前記一一月五日の事態にその一
員として参加し、
(1) 正面玄関前の職場大会に加わり、スクラムを組んでピケを張つたほか、大
会終了頃までピケを監視し、なお大会終了の際万才三唱の発声をし、
(2) 前記解散命令及び職場復帰命令を無視し、同大会終了まで職場につかず、
以て一面怠業的行為をし、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わず、職務上の義務
に違反し、且つ職務を怠り、他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をし
たものである。
C 最高裁判所事務総長関係(請求者F、P18ら二名の分をいう。以下同じ。)
全国司法部職員労働組合(以下全司法という。)所属組合員である東京高裁裁判
所、東京地方裁判所等の職員六、七〇名は、総評の「警職法改正反対第四次統一行
動」の一環として、全司法本部の指令に基き、昭和三三年一一月五日午前八時二〇
分頃から東京高等裁判所、東京地方裁判所合同庁舎正面玄関前において、勤務時間
内に食い込む職場大会を開催したが、右大会を効果的にするため、同日午前七時過
頃から午前九時二〇分ないし三〇分頃まで前記合同庁舎正面玄関、同裏玄関、東京
地方裁判所第一、第二新館中間の表裏各通用門、元東京簡易裁判所玄関前等におい
てピケを張り、一般職員の登庁その他訴訟関係人等の入庁を阻止し、その間午前八
時三〇分過頃から同八時五〇分頃まで再三にわたる東京高等裁判所長官、東京地方
裁判所長連名の職場大会解散命令、職場復帰命令が発せられたにも拘わらずこれに
応ぜず午前九時三〇分頃まで職場大会を続行した。
第一 被処分者Fは、東京地方裁判所に勤務する裁判所速記官であつて、全司法東
京地方裁判所支部執行委員の地位にあつたものであるが、前記一一月五日の職場大
会の開催にあたり、右大会を効果的にするため前記の如く他の組合員等と共同して
東京地方裁判所第一、第二新館中間の表通用門(「アーチ」下)においてピケを張
り、一般職員の入庁を阻止し、もつて国家公務員法第九八条第五項にいわゆる怠業
的行為をなしたものである。
第二 被処分者P18は東京地方裁判所に勤務する裁判所速記官であつて、全司法
東京地方裁判所支部刑事分会書記長の地位にあつたものであるが、前記一一月五日
の職場大会の開催にあたり、右大会を効果的にするため、前記の如く他の組合員等
と共同して元東京簡易裁判所玄関前においてピケを張り、一般職員の入庁を阻止
し、もつて国家公務員法第九八条第五項にいわゆる怠業的行為をなしたものであ
る。
被処分者らの行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家公務員法第九八条
第五項に違反し、同法第八二条第一号に該当するのみならず、裁判所は法を守り社
会の秩序を維持することを使命とするものであり、従つて裁判所職員は右の裁判所
の使命に鑑み、国民の裁判所に対する期待と信頼を裏切らないよう特にその行動を
慎しまなければならないものであることに徴すれば、右被処分者らの行為は同法第
八二条第三号にいわゆる国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に該当するも
のである。
乙 処分理由に対する請求者らの主張
A 処分理由記載事実についての認否
第一 処分理由中、冒頭部分を共通にする請求者毎に左のように分説する。
(一) 東京地方裁判所関係として、
請求者Z、同H、同P17、同N、同J、同I、同K、同P15、同M、同X、同
P16、以上一一名
(二) 東京高等裁判所関係として
請求者R、同Q、同G、同S、以上四名
(三) 最高裁判所事務総長関係として
請求者P18、同F、以上二名
第二 東京地方裁判所関係
(一) 一一名に共通する冒頭部分に対する認否
1 処分理由冒頭部分に記載された処分者のいわゆる「一連の組織的な団体行動」
について。
その主語を東京地裁職員ら「六、七〇名」と限定している点及びこれを「総評の」
警職法改正反対第四次統一行動の一環としている点は否認する。
警職法反対第四次統一行動は国民各階層を網羅する警職法反対国民会議の規模で行
われた。憲法を守るための全国民的抗議運動の一環であり、本件昭和三三年一一月
五日早朝の東京地裁、高裁正面玄関前等における団体行動も、全司法所属組合員に
して右統一行動にあたつて、その場所に参集した者の全員の意思に従つて取り行わ
れたものである。
しかして、「計画されたところに従い」という点も否認する。
2 (イ)の中
「勤務時間内にくいこむいわゆる職場大会」とは、勤務時間内にくいこむべきこと
を目的とする職場大会という趣旨ならば否認する。勤務時間の始まりを午前八時三
〇分としている点は争う。「解散命令、職場復帰命令が再三発せられた」こと「マ
イク及び書面掲示により告知された」ことは不知。
3 (ロ)の中
「同大会を効果的にするための附随的措置として」というのは当らない。
同(1)の中「自動車による登庁職員の登庁阻止の目的を以て」及び「運転手数名
に対する就業妨害行為をなし(同妨害行為は、監視乃至ピケツトライン及び階段占
拠行為等によつて行われた)」とあるのは争う。けだし全司法組合員によつて行わ
れる職場大会に、等しく組合員である運転手(たまたま勤務時間の始まるよりはる
か以前に登庁していた)の参加を望むのは至極当然のことである。
同(2)の中「一般職員の登庁、その他訴訟関係人等の入庁阻止の目的を以て」及
び「ピケを張り入庁阻止の行為をなし」との点は否認する。
4 「以て一連の組織的な団体行動をなし」以下「多数の入庁を不可能にさせたも
のである」までの部分については一連の組織的な団体行動をなしたとの点は争わな
いが、その他は否認する。
(二) 各請求者に関する部分に対する認否
1 請求者Z、P17、N、J、I、K、P15、M、X、P16につき、
「ピケを張つた」との点は否認する。
請求者Zについては「ピケを監視し」とある点も否認する。
2 請求者Z、H、P17、N、J、I、K、M、X、P16につき、
「解散命令及び職場復帰命令を無視し」との点は否認する。
3 請求者P17、J、I、X、P16につき、
自動車運転手の就業「妨害」とあるのは争う。
「占拠して」及び「積極的に阻止し」とあるのは否認する。
請求者P17については運転手を「監視し」とある点も争う。
4 請求者H、K、P15、Mにつき、
自動車運転手の就業「妨害」とあるのは争う。
請求者Hについては、話合いを「せまり」「一方的に」云々「右妨害行為を指導
し」とある点も否認する。
請求者Kについては、話合いを「せまる」等「右妨害行為を指導し」とある点も否
認する。
請求者P15、Mについては、「監視し」とある点も否認する。
5 請求者Hについて
(2) 中
「ピケを監視」とある点は否認する。
「我々はやろうとすれば云々」「裁判所の仕事は云々」との括弧内の文言について
は、演説内容の全体を掲げることによつてのみ趣旨を正確に表現することができる
ものであるから、かように一部分だけ抽出して、これを演説の趣旨であるとするこ
とは失当である。
(三) その他の点は概ね認める。
第三 東京高等裁判所関係
(一) 四名に共通する冒頭部分に対する認否
1 「職員六・七〇名」と限定している点及び「総評の」とある点については、前
記東京地方裁判所関係(一)の1に記載したと同様であるから引用する。
2 一の1の中
「勤務時間内に食い込む職場大会」とある点及び勤務時間の始まりを午前八時三〇
分としている点については、前記東京地方裁判所関係(一)の2に記載したと同様
であるから引用する。
「職場を離脱し」とあるのは争う。
3 一の2中「ピケを張り」及び「一般職員及び訴訟関係人等が庁舎内に入ること
を阻止し」との点は否認する。
4 二の中「解散命令ならびに職員に対する職場復帰命令が発せられた」との点は
不知。
(二) 各請求者に関する部分に対する認否
1 請求者R、同Q、同G、同Sについて、
「組合役員等六・七〇名と共に」との点及び「職場を離脱し」との点は争う。
「職員、訴訟関係人等の入庁を阻止し」とある点は否認する。
2 請求者Rについて、
「ピケを指揮督励し」とある点は否認する。
請求者Q、G、Sについて、
「ピケに加わり」との点は否認する。
(三) その他の点は概ね認める。
第四 最高裁判所事務総長関係
(一) 二名に共通する冒頭部分に対する認否
1 「職員六・七〇名」と限定している点、及び「総評の」とある点については、
前記東京地方裁判所関係(一)の1に記載したと同様であるから引用する。
2 「勤務時間内に食い込む職場大会」とある点については、前記東京地方裁判所
関係(一)の2に記載したと同様であるから引用する。
3 「右大会を効果的にするため」というのは当らない。
4 「ピケを張り」及び「一般職員の登庁その他訴訟関係人等の入庁を阻止し」と
ある点は否認する。
5 「再三にわたる東京高等裁判所長官、東京地方裁判所長連名の職場大会解散命
令、職場復帰命令が発せられた」との点は不知。
(二) 各請求者に関する部分に対する認否
「大会を効果的にするために」というのは当らない。
「ピケを張り」「一般職員の入庁を阻止し」とある点は否認する。
(三) その他の点は概ね認める。
B 積極的主張
第一 本件処分は、請求者らの行動の実情を無視した恣意的処分であるから失当で
ある。
処分者らの昭和三六年四月一二日付準備書面(二)によれば、「請求者ら各人の処
分説明書に記載した現実の行動が各その処分に値すると認めて処分したのであつ
て、請求者らが組合の役員であること自体を処分理由とするものではない」と陳述
している。しかし現実には請求者らの行動を比較して、
次のとおり処分内容に不均衡が存するものである。
(1) 東京地方裁判所関係
Xは (イ)正面玄関にピケを張る(ロ)職場大会参加(解散命令、復帰命令を無
視して職場につかず)(ハ)職場大会において決議文朗読(ニ)就業妨害の現場で
運転手の降段阻止
Kは (イ)正面玄関にピケをはる(ロ)職場大会参加(解散命令、復帰命令を無
視して職場につかず)(ハ)就業妨害の現場で話し合をせまり、妨害行為を指導
Mは (イ)正面玄関にピケをはる(ロ)職場大会参加(解散命令、復帰命令を無
視して職場につかず)(ハ)就業妨害の現場で運転手を監視
が処分理由書記載による行動であつて、右三名は各懲戒処分として「戒告」であ
り、
Nは (イ)正面玄関にピケをはる(ロ)職場大会参加(解散命令、復帰命令を無
視して職場につかず)
が処分理由書記載による行動であるが、それに対する懲戒処分は「一ケ月間俸給の
月額の一〇分の一を減給する」というものであつて、前記X、K、Mと比較して理
由なく重すぎる。
(2) 東京高等裁判所関係
G、Sの両名は、処分理由書による行動が全く同一であるにも拘らず、Gに対する
懲戒処分は「三ケ月間俸給の月額の一〇分の一を減給する」というもの、Sに対す
る処分からすればGに対するそれは何らの理由がないのに重すぎるものとなつてい
る。
(3) 最高裁判所事務総長関係
Fは (イ)第一・第二新館のピケをはる(ロ)一般職員の入庁阻止
P18は (イ)元東簡玄関のピケをはる(ロ)一般職員の入庁阻止
が処分理由書記載による行為であつて、両名は各懲戒処分として「戒告」である
が、乙第二一号証(ト)のABCDおよび乙第二二号証によれば、P20、P2
1、P22、P23、P24らも右と全く同じ行動をしていたとされているに拘ら
ず、右P20らは何ら処分を受けていないのに対して、これと全く同じ行動しかし
ていないF、P18のみが処分をうけている。
もちろん右、P20、P21、P22、P23、P24らの行動が何ら処分に値し
ないことは明瞭である。そうだとすれば、右、F、P18に対する処分は全くその
根拠を欠いて不当不法きわまるものである。
第二 全国司法部職員労働組合の組織等
一 全国司法部職員労働組合(以下全司法と略称す)は、組合員の経済的社会的地
位の向上を図りかつ部内の民主化を期することを目的として、全国の裁判所職員ら
約一万六千名で組織する単一労働組合であり、都府県毎に支部若しくは分会を以て
構成された地区連合会(地方本部と呼称する場合もある)を持つことができるもの
である。
二 東京地方本部は関東一円及び甲府、長野、新潟に在る各支部を以て構成する地
区連合会である。
東京地方裁判所支部及び東京高等裁判所支部は何れも全司法規約に基き設置された
支部であり、東京地裁支部にあつてはその下に刑事分会、民事分会、事務局分会、
東京簡裁分会等が置かれている。
三 而して全司法組合員は、全司法規約第三三条に基き、組合の決議に服する義務
を有するものである。
第三 全司法労働組合の活動について
全司法労働組合は結成以来新憲法の勤労基本権の保障の下に、労働運動の前進をは
かつてきたものであるが、昭和二三年七月国家公務員法の改正により、不当にも、
憲法で保障された勤労基本権が大巾に剥奪され極めて劣悪な状態におかれた中で職
場における組合員の労働条件の向上のために併せて、民主主義と平和と基本的人権
の尊重を基幹とする新憲法を擁護し、真に国民の権利を守る裁判所とするために、
活動を続けてきた。
第四 警察官職務執行法改正の動向と改正法案の内容
一 昭和三三年一〇月八日、政府は、当時開会中であつた第三〇回臨時国会に対
し、かねて秘密裡に準備していた警察官職務執行法(警職法)改正法案を突然提出
し、しかも与党の力を頼み一方的に強行成立させようとした。
二 しかしながら右警職法改正法案の内容は、基本的人権尊重、平和と民主主義を
柱とする新憲法の精神および諸規定をふみにじり、戦後、日本国民がその下で漸く
人権侵害と非民主的抑圧の暗い谷間から解放をかちとることができた新憲法の基本
的秩序を再び崩壊に導く危険をはらむものであつた。
即ち、まず警職法改正案の概要を見るならば、第一に、職務質問の強化は、兇器等
の調査の名の下に、事実上相手を選ばぬ強制的身体捜索を誘発する。
次に、保護拘束の強化は、かつての行政執行法のように社会運動家や組合活動家を
はじめとし、一般市民を「保護」の名の下に強制検束する道を開くものであり、特
に少年に対するものはまさしく「保護」の名を借りた予防拘禁である。
次に避難等の措置について、改正案がその要件を緩和し、しかも範囲を拡大したこ
とは、まさに警察官による濫用の危険をはらむものであり、陳情デモ、国会集会、
組合集会等が「雑踏整理」に名を借りる警察官の恣な実力行使をうける可能性が大
きい。その他集会の自由、あるいは労働者の団結権、団体行動権、が侵害される恐
れが充分である。
更に警告、制止及び立入等については、現行法における具体的制限の下においてす
ら、警官隊による違法かつ惨忍な暴力行使や非合法な警官立入事件等が少なくな
い。にもかかわらず改正案はその要件を緩和し、かつ範囲を拡大すること甚しいも
のがあり、特に現場警察官の裁量の範囲を大幅に拡げるものである。かくの如きは
最も危険であり、まさしく警察力により、集会、言論、思想、学問、宗教等の自由
が侵害され、個人住居の平穏や個人財産が侵奪され、労働者のピケツトや職場大会
等も実力抑圧され、その他団結権乃至団体行動権が侵害される途を作るものであ
る。
なお、改正案が取上げ物件を一時保管、没収、一方的廃棄等を認めようとするの
は、令状によらずして国民の財産権を侵害するものに外ならない。これを要するに
警職法改正案は、憲法が保障する基本的人権、特に集会結社表現の自由(第二一条
一項)住居の不可侵(第三五条一項)勤労者の団体行動権(第二八条)法定手続の
保障(第三一条)に明白に違反する法案を内容とするものであつて、旧憲法下にお
ける治安警察法、警察犯処罰令、行政執行法に代るべき機能を有するものである。
かくては、旧憲法下、右の如き治安立法により、極めて強大な警察権力が国民の上
に行使され、国民の人権は極端に抑圧され、民主的自由を主張する者は、すべて弾
圧をうける中で侵略政策が強行され、やがて戦争へと突入して行つた忌むべき歴史
のわだちを再び踏むものといわなければならない。
かかる悪法が新憲法の指向する基本的秩序に真向から抵触するものであることは、
この改正法案が国会に提出されるや、いち早く、数多くの心ある国民に指摘されて
いたところでもあつた。
三 然るのみならず、政府が警職法改正法案の強行成立を図ろうとした経過を見る
ならば、既に事態の急迫を示すものがあつた。即ち、政府与党は、同年一一月七日
の国会会期の満了を控え、右法案の強行成立に狂奔し、同月四日夕刻突如極めて卑
劣かつ一方的な手段により、会期の抜打延長を図ろうとしたため、国会正常運営の
途は完全に鎖され、民主主義は既に危殆に頻したのであつた。
第五 警察官職務執行法改正反対運動の経緯と趣旨
一 昭和三三年一〇月八日政府が国会に提出した警職法改正法案が叙上の如きもの
であつたため、野党は直ちに右法案の徹回を要求し、総評、全労その他あらゆる労
働団体を始めとして学者、文化人、婦人団体その他多数の民主団体も続々と反対決
議を表明し、同月一六日には、全ての労働団体及び全日本農民組合、憲法擁護国民
連合、社会党等を中心とし、上記多数の団体の参加の下に「警職法改正反対国民会
議」が結成され、反対運動は更に統一推進された。
二 更に同月末頃までには、YMCA、YWCA、自由人権協会、青年法律家協
会、護国弁護団、日本学術会議学問思想の自由委員会、各大学教授会ないし教授
団、日本政治学会、文芸家協会、日本ペンクラブ、消費者団体、主婦連、婦団連そ
の他多数の団体が相次いで反対声明を発表し、朝日、毎日その他全国の有力新聞も
一斉に反対論評を掲げ、更に以上のような組織に所属しない民衆の間からも続々と
反対の声があがり、一般国民はこのような警察力の強化について深い危惧をいだい
た。こうした与論の圧倒的支持の下で、前例を見ない広範な全国民的規模における
反対運動が爆発的に全国に拡がるに至つた、このような国民各階層の警職法改正に
反対する自発的な運動は、上述の警職法反対国民会議によつて補強拡大されたので
ある。
三 然して警職法改正反対運動の趣旨とするところは警職法改正法案が上述のよう
に、言論集会の自由等をはじめ憲法上の基本的人権をふみにじり、憲法における民
主主義、平和主義の基本秩序を崩壊せしめるに至るものである以上、日本国民とし
て、これに絶対反対を表明するのはけだし当然のことでありかつ、そのために抗議
行動を行う権利をも有するのであつて、このことは憲法第九七条及び第一二条によ
り、国民の自由及び権利を不断の努力によつて保持すべき責任を、日本国民として
完うする所以であるというにある。日本国民の殆んどすべてが、右のように反対運
動に立上つた理由もこゝにある。
特に労働組合については、右に加え、憲法上の団結権ないし団体行動権が侵害さ
れ、労働組合のあらゆる行動は警察の干渉と弾圧をうけることとなり、労働組合の
目的とする労働条件ないし社会的、経済的地位の向上も全く阻害されるに至るた
め、特に重大なる決意をもつて反対運動に立上つたのである。
四 ここにおいて、警職法改正反対国民会議に結集した総評全労その他あらゆる労
働団体とその傘下各労働組合は、本件の一一月五日を期して、国民統一行動の日と
きめ、国民会議の規模による改正反対の統一した抗議行動を行うこととなつたが、
あたかも、上述のように同月四日、政府与党は、国会会期の抜打延長を図るという
事態に直面した。かくして一一月五日の団体行動は、右の事態に抗議する国民大多
数の意向を反映して、約四百万人の労働者が参加する空前の大統一行動となつたの
である。
五 右の反対運動の経緯と趣旨は全司法についても全く同旨であり、組合員は日を
迫つてこの認識を深めていた。
然し、全司法は、かねてからその年次方針においても決定されているところに従
い、憲法に保障された民主主義的諸権利に対する侵害から憲法を擁護し、なかんず
く労働基本権に対する侵害を排除して組合員の生活と権利を守る(このことは組合
員の社会的、経済的地位の向上を図るという全司法の目的に合致する)という趣旨
の下に、上述の警職法改正反対国民会議の統一的指令に副つて、全司法の各下部機
関に対し、一一月五日早朝職場大会の指令を発した。
本件全司法東京高裁、地裁支部組合員による職場大会は、右指令に基き、国民会議
の統一行動の一環として行われたものである。
第六 本件職場大会の正当性の主張
一 叙上のように、本件の職場大会は、警職法改正による重大かつ緊急な憲法秩序
の侵害に対する当然の抗議行動として行われたもので、憲法第一二条第一項に該当
する場合である。
二 かつ、また、右職場大会は、労働者が集団的にその意思を表現するために行つ
た団体行動であり、団結権の正当な行使として、国家公務員たる労働者にも保障さ
れる憲法第二八条の団体行動権の範囲内のものである。
三 然して、職場大会は、組合員がその職場を中心として団結し、集団意思を表明
することによつてはじめてその成果を達成することができるものである。その結
果、職場大会が若干勤務時間内に喰い込んだとしても、そのことによつて公務の執
行に実際上重大な支障がなく、直ちに平常の業務に復帰できるのであれば、かかる
職場大会は正に社会的にも容認される合理的範囲内のものというべきである。本件
の職場大会は右の如きものであつた。
四 更に、公務員については、特に憲法第九九条によつて、憲法擁護義務が課せら
れているのであつて、上述のように憲法秩序が否定されようという事態の下におい
て、公務員たる全司法組合員がこれを国民に訴えるため職場大会の方法によつたこ
とは、憲法擁護義務の履行として、いささかも間然するところがない。
五 なお、警職法改正反対運動の趣旨が、国民大多数の意向を反映したものであ
り、本件の職場大会がその当然の帰結として、あらゆる労働団体去その傘下各労働
組合によつて行われた抗議行動の一環である以上、その参加者の従事する職業の如
何によつてその行為の意味に何らの差異もあるべきはずがない。処分者は、本件の
処分理由に裁判所職員の特殊性と格別の自覚の必要性を指摘しているが、それは警
職法改正反対運動の趣旨と実情に対する認識を全く欠くものといわざるをえない。
第七 国家公務員法第九八条五項の適用排除の主張
一 国家公務員法第九八条五項の争議行為又は怠業的行為を禁止する規定は、日常
時の労使の経済的取引の手段としてかかる行為を行う場合に関するものというべき
である。しかるに、警職法改正の強行成立を図る政府与党の行為により憲法上の民
主主義的諸権利が侵害されようという場合にこれに対して特に一般国民以上に強く
憲法擁護義務を課せられている公務員の労働組合員が、憲法擁護のため行つた集団
行動について、仮りに外形上争議行為又は怠業的行為と類似するような事態が起つ
たとしても右国家公務員法の禁止する範囲外の正当な行為であつて、右禁止規定が
適用される余地はない。
二 更に、上述のように本件の職場大会は、憲法秩序と基本的権利という高度の法
益を保持するために必要かつ合理的な方法で行われたものである。ところで、国家
公務員法第九八条五項は、憲法に基く政府の正当な活動を阻害するための、現在且
明白な危険が存在する場合に、これに対応して適用さるべき規定である。
本件の様に、憲法的な秩序をまもるために、相当な行動の範囲内である場合には、
右の様な要件をみたさないので適用を排除さるべきである。
第八 不当労働行為の主張
全司法組合員が組合の指令その他決議に服する義務を有することは、規約の定めに
まつまでもなく、全国単一組織の構成員として当然のことであり、請求者等が全司
法指令に基ずく職場大会を行うことも、また極めて当然のことである。しかもその
正当なことは上述のとおりである。しかるに、本件処分はかかる団結体たる全司法
の正当な団体行動の一部をとらえて請求者らに対し、差別的な抑圧を加えるもので
あり、憲法第二八条及び国家公務員法第九八条三項に違反する。
丙 請求者らの主張に対する処分者らの答弁
A 処分者らの主張
一 本件各処分説明書、処分理由の項の冒頭にいう、「職員六、七〇名」というの
は、右説明書に記載せられている昭和三三年一一月五日における職場大会、運転手
に対する就業妨害、東京地裁、高裁本館正面玄関前、同裏玄関、地裁第一・第二新
館中間の表裏各通用門、元東京簡裁玄関前地裁車庫二階控室内、同東西階段におい
てなされた入門阻止、就業阻止に参加した者の総数である。職場大会の現場には事
実上は、数百名の人が居たと思うが、そのうち職場大会に参加していた者は六〇余
名で、その他の者は職場大会が開かれていたために入庁出来ないでいた一般職員そ
の他の者である。従つて職場大会に参加した者は六〇余名である。この他に職場大
会が開かれていた時にピケを張つていた者が十数名程度いたので全体として参加し
た者は六、七〇名となる。
二 職場大会の参加者は、スクラムを組んでピケについていた者、他人に勧誘した
者、大会において発言した者、スローガンを唱和した者、万歳に唱和した者、拍子
をもつて決議に賛成した者等客観的事実によつて認定された者である。
三 請求者P18、同Fが前記本館玄関前における職場大会の際、同所に居たこと
は主張しないが、同人らは他の入口においてピケにつき、そこから入ろうとする職
員を阻止し職場大会への出席を勧誘することにより、その開催に協力していたもの
であつて、その意味では参加者と考えられる。右F、P18の二人はピケを張つて
いた者で、P18は東京簡裁の方におり、Fはアーチの所におり、共にピケを張
り、職員に表玄閏の大会に参加するよう勧誘していたものである。従つて、入庁を
阻止されて只傍観していた一般職員とは異る。
四 本件職場大会の計画者は全司法東京地方裁判所支部、東京高等裁判所支部であ
る。
五 各地域の参加者数は、正面玄関前が六十余名、本館裏玄関前が四、五名、第
一、第二新館中間の表通用門が五、六名、地裁車庫二階控室が三名位、車庫西側階
段が七、八名、車庫東側階段が三、四名、元東京簡易裁判所玄関前が三、四名であ
る。
六 「勤務時間内にくいこむ職場大会」の始期は同日午前八時三〇分である。在京
各庁で午前九時まで事実上執務しないことを認める取扱いはない。ただし、職員が
午前九時に出勤して出勤簿に印を押したような場合は休暇の取扱いはしていない。
執務しなければならないのではあるが、出勤猶予時間はあるということになる。
七 解散命令は、集団的に裁判所の業務を妨害する行為を排除する趣旨で出された
ものであつて、その根拠は司法行政の監督権に基づくものである。
八 職場復帰命令の内容は、「直ちに職場に復帰することを命ずる」趣旨を内容と
する就業命令である。
九 解散命令も職場復帰命令も、命令者の司法行政権の範囲内にある職員に対して
為されたものである。
一〇 「監視」「ピケツトライン」「階段占拠」はそれぞれどのような行為を指す
のかという点については次のように主張する。
表玄関以外の各入口については、そこに立ちふさがり、入場者がないかどうかを監
視し、入場しようとする者には入場しないことを求め、職員に対しては表玄関の職
場大会に参加することを要求したり、又は車庫階段の上下にたむろして運転手に就
業しないよう要求し、又表玄関においては約二〇名の者がスクラムをくみ入口全部
を閉塞して出入を阻止したのである。ピケという用語は労働法上の用語として一般
用語例に従つて用いているのであつて、一般用語例の概念で解釈されるべきもので
ある。ピケが説得的であつたか実力的であつたかは別としてピケのため入庁出来な
かつたことを入庁阻止として主張しているのである。勿論入庁出来なかつたと言つ
ても、それは社会通念上人庁出来なかつたと主張しているのである。表玄関におい
ては、三列位になつてスクラムを組んでいたのであるから通常の者なら実力でも入
れなかつたであろうし、又精神的な面からも入れなかつたと考える。従つて入庁を
阻止されたと考える。
一一 昭和三三年一一月五日当日は運転手に対し、午前六時三〇分より就業するよ
う予め業務命令が出されていたのである。右命令の告知は口頭で行われた。
一二 「いわゆる職制」とは、当時入庁し得た裁判官、局長、課長、首席書記官、
訟廷事務主任等を指して、組合用語により表現したものである。
B 請求者らの主張に対する反論
一 公務員に、懲戒処分を受くべき事由が存する場合に、これに対しいかなる種類
の、いかなる程度の処分をもつて臨むべきかについては、法は処分権者の自由裁量
にこれをゆだねたものと解すべきことは疑いを容れない。従つて、特に処分が裁量
の範囲を著しく逸脱し、処分権の乱用をもつて目すべき場合の外は、処分権者が、
諸々の事情を綜合した結果として行なつた処分は、常に尊重されなければならない
のである。本件事案において、各処分者らの請求者らに対する本件各処分が右にの
べるような処分権の乱用に至るものであることを認めしめる事実は全く存在してい
ない。請求者ら相互間、或いは請求者と処分を受けなかつた者らとの間の処分の種
類、程度を比較して不均衡があるといい、あたかもそれ故に本件各処分が不当不法
であると主張するものの如くであるが、そもそも本件各処分はそれぞれ各請求者毎
に独立した処分であるから、その当、不当はその処分自体で各個に判断さるべきで
あつて、右のような請求者らの主張はそれ自体とうてい容認できるものではない。
二 処分者らが請求者らを処分するにあたり、請求者らが組合の役員であること自
体をその事由として取り上げたものでないことはすでに処分者らが主張したところ
である。しかしながら、請求者らに対する各処分説明書でも明らかであるように、
本件処分は、全司法本部の指令に基づいて、その東京高裁、東京地裁各支部が計
画、主催した違法な勤務時間内の職場大会に、請求者らが各処分説明書記載のよう
な組合役員たる地位において参加し、各記載のような行為をしたことを、その事由
とするものである。
すなわち、請求者らは組合役員として、右組合主催の職場大会を指導する立場にお
いて、これに参加、行動したものと認むべきことは明白なところであり、その行動
が他の組合員に及ぼす指導力、影響力も自ら他の一般組合員と異なり大きいもので
あつたことも容易に首肯しうるところである。
従つて、たとえ事実行為の内容においてさしたる径庭がなくとも役員たる請求者ら
の責任は一層重かるべきことは誠に看易い道理である。
処分者らは、前述のように、本件処分に当りその裁量権を行使する際、右の点をも
考量の範囲に入れ他の諸般の事情を綜合してその種類、程度を定めたものである。
○ 理由
総論
請求者らの職歴、組合歴が処分説明書記載のとおりであつて、請求者らが右記載の
とおり懲戒処分を受け、その理由が右記載のとおりであることは当事者間に争いが
ない。
第一 (一般的事実)
当委員会が真正に成立したと認める乙第五号証の一、二証人Pの証言により成立を
認め得る乙第二一、二三、二四号証、証人Tの証言により成立を認め得る乙第二六
号証、証人P4、同P8、同P3、同P2、同Tの各証言請求者K、同J、同H、
同I、同P17各本人の供述に当事者間に争いのない事実を綜合すれば次の事実を
認定することができる。
一 昭和三三年一一月五日東京地方裁判所、東京高等裁判所本館(以下本館と略称
する)正面玄関前において警職法改正反対国民会議による警職法改正反対第四次統
一行動の一環として、全国司法部職員労働組合(以下全司法と称する)の指令に基
づき職場大会が催された。
二 全司法は組合員の経済的社会的地位の向上を図り、かつ部内の民主化を期する
ことを目的として全国の裁判所職員ら約一万六千名で組織する単一労働組合であ
り、都府県毎に原則として一個の支部と、支部の下に必要に応じて設置される分会
を持ち、なお地域毎に支部若しくは分会をもつて構成される地区連合会(地方本部
と呼称する場合もある)を持つことができるものである。東京地方本部は、関東一
円及び甲府、長野、新潟にある各支部を以て構成する地区連合会である。東京地方
裁判所支部及び東京高等裁判所支部はいづれも全司法規約に基づき設置された支部
であり、東京地方裁判所支部にあつては、その下に刑事分会、民事分会、事務局分
会及び東京簡裁分会等が置かれている。
三 第一項記載の職場大会は第三〇回臨時国会に提出された警察官職務執行法(以
下警職法と称する。)の一部を改正する法律案の国会通過を阻止することを目的と
して行われたものである。
四 昭和三三年一一月四日最高裁判所事務総局人事局長より高等裁判所長官、地方
裁判所長、家庭裁判所長、最高裁判所事務総局局部課長、司法研修所長、裁判所書
記官研修所長、家庭裁判所調査官研修所長、最高裁判所図書館長宛最高裁人能第七
〇八号(人ろ―一一)依命通達「警職法反対を理由とする職場大会に対する取扱に
ついて」が発せられ、これに基づき右同日東京高等裁判所長官より同庁職員各位宛
東京高裁人第四五〇号「職場大会等について」(通知)が、又右同日東京地方裁判
所長より同庁八王子支部、管内各簡易裁判所、管内各検察審査会の各職員宛東地裁
人能第二一三号「警職法反対を理由とする職場大会に対する取扱について」(通
達)が発せられた。
右最高裁判所事務総局人事局長の依命通達の内容は、「全国司法部職員労働組合に
おいて、今臨時国会に政府より提案されている警察官職務執行法の一部を改正する
法律案の国会通過を阻止することを目的として、右法案反対の一斉時間内職場大会
を開催することが予想されますが、職員が右の時間内職場大会に参加するため許可
なくして職場を離脱することは国家公務員法第九八条第五項にいう怠業にあたり懲
戒処分の対象になるばかりでなく、右の行為を企て、その遂行を共謀しそそのか
し、若しくはあおることは刑事処分の対象にもなるものでありますから、所属職員
に対し、この旨周知徹底を図り、かかる違法な事態を惹起することのないよう御配
慮願います。なお、右の職場大会に参加するため一斉に年次休暇の許可を求めるこ
とも予想されますが、これが取扱については昭和三一年二月二五日最高裁人能第七
三号「年次休暇の取扱等について」によつて下さい。おつて右のような事態か発生
したときは、すみやかに資料を添えその状況を当職あて報告して下さい」というも
のであつた。又右東京高等裁判所長官の通知の内容は、「本日付をもつて、最高裁
判所人事局長より別紙のとおり通達があつたから、右通達の趣旨にそい間違いのな
いよう職員各自厳に注意されたい」というものであり、東京地方裁判所長通達の内
容は「警職法反対を理由とする職場大会に対する取扱いについて」なる標題の下に
「今般標記について別添のとおり最高裁判所から通達があつたから職員各位は右御
承知の上その行動等について特に自重されるよう念のため通知します。」というも
のであつた。
五 昭和三三年一一月四日、翌五日は、ゼネストにより国電の運行が止る危険性も
あり、平常より早く配車して常置委員の裁判官に当日開廷の裁判官らを迎える必要
があつたので、東京高等裁判所及び地方裁判所勤務の自動車運転手に対しては、翌
五日早朝より就業するよう業務命令が出されていた。(処分者側は午前六時三〇分
より就業するよう業務命令が出されていた旨主張するが、右時刻の点については証
拠がない。)そのため運転手二一名中一五名は裁判所構内に宿泊した。
六 一一月五日午前六時三〇分頃宿泊した運転手中約六名は東京高等裁判所及び東
京地方裁判所車庫二階控室に待機していたが、その頃同車庫西側階段に請求者I、
同J、同P17、同P16、同P15外五名位の組合員が約一米位の幅の階段に
二、三人ずつ横に並んで坐つていた。
その頃、T、V、Uの三課長が車庫二階控室から前記六名位の運転手を就業せしむ
べく、これを誘導して西側階段を降りようとしたところ、右階段には前記のとおり
請求者I等が階段を占拠していた為運転手が降段することが一時妨げられ、組合員
らと各課長らとの間に多少のいざこざがあつた。
請求者H、同Kらが右課長らに対し話合いを求めたが、課長らは、話合う前に先ず
運転手を車庫前広場に降ろすことを求めた結果運転手全員は階段を降りて車庫前広
場に集つた。其処で右Hが警職法改正反対の趣旨を述べ約三分位の後には運転手六
名は就業し、六時五五分頃には全車無事に出発した。
七 右のとおり、請求者らを含む組合員らが運転手らの就業を妨害したのは一時の
ことであり、結果においては、業務の遂行に支障を来したものとは断じ得ないので
あるが、既に認定したとおり前記課長らが運転手らの就業を助勢しなかつたなら
ば、恐らく運転手らの行う業務には相当の支障を来したであろうことは前記認定の
諸般の状況に照して容易に看取し得るところである。
第二 (本館裏門附近における状況)
一 当委員会において真正に成立したと認める乙第一五、一六、一八号証、証人P
7の証言により成立を認め得る乙第一一号証、前記乙第二四、二六号証に証人P、
同P8、同P25(後記措信しない部分を除く)の各証言を綜合すれば次の事実を
認めることができる。
一 昭和三三年一一月五日午前七時五日頃から九時二〇分頃迄の間に請求者R、同
P16、同O(死亡)、同P15ことL外組合員六、七名は、本館裏門附近におい
て、登庁職員又は訴訟関係人らに対し「表玄関へ廻つて下さい」「表玄関の方へ行
つて貰いたい」「ここから庁舎へ入ることは断る」「貴方も組合員として是非協力
してくれ」等と申向け職場大会に参加するよう説得勧誘した。
二 右R、P16、O、P15ことL、外六、七名の組合員は本館裏門附近におい
て女子職員P1に対し、前記のように職場大会参加を勧誘していたところ、P、P
8、Vらがその場に馳けつけ、Vが「一人位入れてもよいではないか」と言つたの
に対し、P16が「一人入れれば、次から次へと入れなければならないから駄目
だ」と反馭したことからVとP16とが口論を始め危く殴り合いになりそうな状況
であつた。その際P16は興奮して「どうせ馘首を覚悟しているのだ」等と口外
し、又Oはその直後附近の組合員に対し「一人も中に入れるな。出て行つた者も入
れるな」という趣旨のことを述べた。
三 同日午前八時半頃高等裁判所事務局会計課経理係長P26が会計課P27技官
ともに本館裏門附近から庁舎内に入ろうとしたところその附近にいた組合員から
「表玄関に廻つてくれ」と言われ「長官通達もあるから君達と押問答してもしよう
がないから入れてくれ」と言い争つたが、右組合員らから「自分達はここから入れ
ないよう委員長から云われているから入れるわけにはいかない。正面にまわつてく
れ」と言われて入庁を阻止された。そこでP26は止むなく高等裁判所事務局長室
に居合せた同事務局人事課長P28に対し、電話を以つて「今裏玄関におりますが
中へ入れなくて困つています。どうしたらいいでしようか」と窮状を訴えた結果、
同人が直ちに本館裏門附近に出向きP26に対し「入れ、入れ」と手招きした結果
辛うじてP26は庁舎内に入ることができた。又組合役員は訴訟関係人に対して
「九時半迄は職員が入れないからあなた達が入つても仕事になりませんよ」と言つ
ていた。
証人P9、同P29、同P4、同P25の各証言中右認定に反する部分はこれを措
信し難い。
なお以上の事実を綜合すれば請求者等を含む組合員らがスクラムを組む等の方法に
より物理的に入庁を阻止した事実は全く認められず、彼らはただ、口頭を以て入庁
せんとする職員その他の訴訟関係人に対し職場大会に参加するよう勧誘説得したに
過ぎぬものと認めるのが相当であるが、右認定のとおりP26をしてわざわざ事務
局長室に電話をかけて救援を求めるのやむなきに至らしめた事実、P16とVが口
論をするに至つた事実等に徴すればその勧誘、説得の方法は相当執ようであり少く
とも心理的には入庁せんとする職員の自由意思を阻害し、その入庁を阻止したもの
と認めざるを得ない。
第三 (正面玄関附近における状況)
当委員会において真正に成立したと認める乙第一三、一四、一七、一九号証に前掲
乙第一一、一五、一六、二一号証に証人P14、同Pの各証言を綜合すれば次の事
実を認めることができる。
一 昭和三三年一一月五日午前八時二〇分頃から同九時三〇分頃迄の間本館正面玄
関前において大要左の如き順序で職場大会が行われた。
(一) Hの演説
(二) P11の挨拶
(三) Qの挨拶
(四) Wの挨拶
(五) スローガンの復唱(Hの音頭)
(六) Xの決議文朗読
(七) Y(全農林職員組合)の挨拶
(八) スローガンの復唱(Hの音頭)
(九) 東京家庭裁判所の職場大会の状況報告
(一〇) 労働歌合唱
(一一) 万才三唱(Z発声)
二 右職場大会の行われている間請求者Z、同K、同P16、同X、同P17、同
N、同I、同Mらは他の組合員ら数名と共に玄関前階段二列又は三列位に横に並ん
で時にスクラムを組んでいた。
三 正面玄関から庁舎内に入ることは右のような状況であつた為困難であつたが強
いて入ろうとすれば入ることも不可能ではなかつた。高等裁判所民事訟廷事務主任
はジグザグにS字型にその列の間をくぐつて庁舎内に入つた事実もあつた。しかし
その際請求者G又は同Qが「今日は一寸勘弁してくれ」「今日は誰も入れないのだ
から入らないでくれ」という趣旨のことを述べた。入るときに肉体的妨害は全然受
けなかつた。
四 午前八時四〇分頃地方裁判所総務課勤務のP13が高等裁判所民事訟廷事務室
の窓の下に来て室内のP14に対し室内に窓から入れて呉れるよう依頼したのでP
14は室内の椅子を降ろして同人を中に入れてやつた。(窓の高さは、人間の背の
高さ位あつた)これを見て職員が次々と窓の下に来て七、八名乃至一二、三名の者
が右窓から庁舎内に入るに至つた。
なお、以上の事実を綜合すれば、請求者らを含む組合員らが入庁せんとする職員を
積極的に阻止したことは必ずしも認められないが、右認定の如く表玄関においては
職場大会が行われており数名の組合員が横に並んでスクラムを組んでいる状況の下
においては、入庁せんとする職員も心理的圧迫を受けて表玄関から庁舎内に入るこ
とは事実上不可能であつたことは容易に推察できるのみならず現に右認定のとおり
わざわざ表玄関を避けて高等裁判所民事訟廷事務室の窓から庁舎内に入つた職員も
あるところから観て、職員及び訴訟関係人の入庁は事実上阻止されたものと認める
のが相当である。
証人P22は組合員がスクラムを組んだのは当局が警備員らをして職場大会を妨害
し、混乱させようとしたので、それに対抗する為であつて入庁する者を阻止するた
めではなかつたと証言しているが、必ずしも措信し難く又仮りに組合員らの意図が
右のとおりであつたとしても事実上入庁が阻止されたことは否定し難いところであ
る。
第四 (職場復帰命令、解散命令)
当委員会において真正に成立したと認める乙第二七、二八号証、前掲乙第一一、二
一、二三、二六号証に証人P8、同P3、同P30の各証言を綜合すれば次の事実
を認めることができる。
一 昭和三三年一一月五日午前八時三〇分頃東京高等裁判所長官、東京地方裁判所
長の連名を以て解散命令が発せられた。その内容は「玄関その他の出入口において
裁判所職員その他訴訟関係人の出入を阻止する行為を直ちに中止解散せられたい」
というものであつた。
又午前八時五〇分東京高等裁判所長官、東京地方裁判所長の連名を以て職場復帰命
令が発せられた。その内容は「直ちに職場に復帰することを命ずる」というもので
あつた。
二 右両者共本庁舎玄関前に向つて繰返し拡声器を以て放送され、又右命令を白紙
に大書したものを竹桿のようなものの先端に附け守衛がこれを高く掲げて玄関前に
立ち現われた。又T総務課長らが玄関前において数回これを読み上げた。
右の各命令が請求者ら全員に周知徹底したか否かについて争があるのでこの点につ
いて判断する。
証人P31、同P32、同P30の各証言及び請求者G本人の供述によれば表玄関
においても放送の内容はよく聞きとれなかつた者もあるように見受けられるし、又
証人P8の証言によれば守衛の掲げた命令を記載した表示も、組合員らがこれをプ
ラカード等で遮蔽した為或いは角度の如何によつてはこれを十分に認識出来なかつ
た者もあると推察されるけれども、一方前掲乙第二一号証、第二三号証の記載によ
れば、請求者Zが「復帰命令なんて出せない」との趣旨を述べたり組合員らが前記
のとおりプラカードを以て右の表示を外部から見えないように遮蔽した為、右の表
示を持つ守衛やP3主任らと組合員との間に多少の紛争のあつた事実を認めること
ができるから表玄関に居た請求者らは、右の命令のあつたこと及びその内容につい
て十分これを了知したものと認定するのが相当である。
尤も表玄関以外の場所に迄右命令の内容が十分に伝達されたことについては、これ
を認めるに足る証拠はなく却つて証人P、同P33、同P29の各証言によれば表
玄関以外の場所には右の命令は十分に伝達されなかつたと認めるのが相当である。
従つて当時、表玄関以外の場所に居た請求者らについては右命令違反の責任はな
い。
第五 (アーチ附近の状況)
前掲乙第二一、二三、二四号証に証人P8、同P33、同P2、同P30の各証言
に請求者J、同F各本人の供述を綜合すれば昭和三三年一一月五日午前七時過頃か
ら第一新館、第二新館中間の表出入口(いわゆる「アーチ」)附近において請求者
O(死亡)、同J、同Fを含む組合員数名が登庁職員に対し「組合員として是非協
力して貰いたい」旨を申向けて職場大会に参加するよう説得勧誘した。その結果右
表出入口を避けてわざわざ遠廻りして他の出入口から入庁した者(P34事務官)
があり、又組合員(P33)の誘導により職場大会の行われる正面玄関の方面に赴
いた職員(P35)もあつた。
との事実を認めることができる。
第六 (東京簡易裁判所玄関附近の状況)
前掲乙第二一、二三、二四号証に証人P8、同P36、同P2の各証言に請求者P
18本人の供述を綜合すれば昭和三三年一一月五日午前七時五〇分頃からP18を
含む組合員ら二、三名が東京簡易裁判所玄関附近において職員らに対し、職場大会
に参加するよう説得、勧誘していた事実を認めることができる。
第七 (柔道場附近の状況)
前掲乙第二一、二四号証に証人P33の証言を綜合すれば昭和三三年一一月五日午
前七時五〇分頃P37他三、四名の組合員が第二新館裏柔道場附近の道路上におい
て職員らに対し、職場大会に参加するよう説得、勧誘していた事実を認めることが
出来る。
各論
第一 次に請求者ら各人の行つた行為に関する事実の認定は次のとおりである。
一 Hについて
証人Pの証言により成立を認め得る乙第二二号証、前掲乙第二一、二三、二六号証
に、証人P、同P8、同P3の各証言及び請求者H本人の供述を綜合すれば次の事
実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は全司法東京地裁支部長の地位にあつた者
であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃全司法組合員らが東京高等裁判
所および東京地方裁判所車庫附近において、自動車運転手らの就業を妨害した際、
自らもこれに参加しT東京地裁総務課長、U同経理課長らに話合をせまり、又運転
手らが階段を降りて車庫前広場に集つた際、運転手らに対し、警職法改正反対の趣
旨を述べ以て運転手らの就業を妨害し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間、本館
正面玄関前において職場大会が開かれた際、右大会に参加し、他の組合員らと共に
立並んで職員、訴訟関係者らに対して大会参加を説得勧誘し、更に警職法改正反対
の演説を
行い、又スローガン復唱の音頭をとり、
以て怠業的行為を為し、
(三) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、又次いで午前八時五〇分頃右同様の
連名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず以て職務命
令に従わなかつた。
二 Iについて
前掲乙第二一、二二、二三、二六号証に証人P、同P2の各証言並請求者I本人の
供述を綜合すれば、次の事実を認めることができる。
同請求者は昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部事務局分会長の地位
にあつた者であるが、
(一) 前記認定のとおり同日午前六時三〇分頃全司法組合員らが東京高等裁判所
および東京地方裁判所車庫附近において、自動車運転手らの就業を妨害した際、自
らもこれに参加し他の組合員らと共に右車庫西側階段を占拠して、運転手らが車庫
控室から降りて来るのを妨げ、以て運転手らの就業を妨害した。
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間、本館
正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に他の組
合員らと共に横に並んで、時にスクラムを組み、職員、その他訴訟関係人らの入庁
を妨害し、
以て怠業的行為を為し、(三) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京
高等裁判所長官、東京地方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前
八時五〇分頃右同様の連名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命
令に従わず以て職務命令に従わなかつた。
三 Jについて
前掲乙第二一、二二、二三号証に証人P3、同P2、同Tの各証言に請求者J本人
の供述を綜合すれば次の事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部執行委員の地位に
あつた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃、全司法組合員らが、東京高等
裁判所および東京地方裁判所車庫附近において自動車運転手らの就業を妨害した
際、自らもこれに参加し他の組合員らと共に右車庫西側階段を占拠して、運転手ら
が車庫控室から降りて来ることを妨げ、以て運転手らの就業を妨害し、
(二) 同日午前七時過頃から九時二〇分頃迄の間第一新館、第二新館中間の表出
入口(いわゆる「アーチ」)附近において、他の組合員らと共に登庁職員に対し、
「組合員として是非協力して貰い度い」旨を申向けて職場大会に参加するよう説
得、勧誘し、
(三) 同日午前七時五〇分頃から九時二〇分頃迄の間三回位東京簡易裁判所玄関
附近に赴き同所において、他の組合員らと共に、登庁職員に対し、職場大会に参加
するよう説得勧誘し、
以て怠業的行為を為した。
なお、乙第二一号証、乙第二二号証には、同請求者が「正面玄関のピケを実行、ス
クラムを組んだりして職員らの入庁を阻止した」旨記載されており、Pの証言中に
もこれに添うような供述もあるが、一方同請求者本人は、正面玄関には、四、五回
連絡に行つたのみであつて、同所においてスクラムを組んでピケを実行し、職員の
入庁を阻止したことはない旨述べており、又乙第二三号証中にも、正面玄関におい
てピケを張つたと認められる者のうちには、同請求者の名は記載されていない点を
も綜合すれば、右乙第二二号証の記載には必ずしも信を措き難い。
四 Xについて
前掲乙第二一、二二号証に証人Pの証言を綜合すれば、次の事実を認めることがで
きる。
請求者Xは昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地方本部執行委員の地位にあ
つた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃、全司法組合員らが、東京高等
裁判所および東京地方裁判所車庫附近において、自動車運転手らの就業を妨害した
際、自らもこれに参加し他の組合員らと共に右車庫西側階段を占拠して、運転手ら
が車庫控室から降りて来ることを妨げ、以て運転手らの就業を妨害し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃までの間、本
館正面玄関前において職場大会が開かれた際、右大会において決議文を朗読し、又
右玄関前階段に他の組合員らと共に横に並んで、時にスクラムを組み、職員その他
訴訟関係人らの入庁を妨害し、
以て怠業的行為を為し、
(三) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃、右同様の
連名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず、以て職務
命令に従わなかつた。
五 P16について
前掲乙第二一、二二、二三号証に証人Pの証言を綜合すれば、次の事実を認めるこ
とができる。
請求者P16は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部事務局分会書
記長の地位にあつた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃、全司法組合員らが、東京高等
裁判所および東京地方裁判所車庫附近において、自動車運転手らの就業を妨害した
際、自らもこれに参加し、他の組合員と共に右車庫西側階段を占拠して、運転手ら
が車庫控室から降りて来るのを妨げ、以て運転手らの就業を妨害し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前七時五分頃から九時二〇分頃迄の間本館裏門
附近において、他の組合員らと共に、登庁職員又は訴訟関係人らに対し、職場大会
に参加するよう説得、勧誘し、その場に居合せたV第一検察審査会総務課長に対
し、「どうせ馘首を覚悟しているんだ。俺はどうなつてもかまわぬから徹底的にや
ろうじやないか」等と口外し、
(三) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間本館正
面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に他の組合
員らと共に横に並んで時にスクラムを組み、職員その他訴訟関係人の入庁を妨害
し、
以て怠業的行為を為し、
(四) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃右同様の連
名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず以て職務命令
に従わなかつた。
六 Zについて
前掲乙第二一、二二、二三号証に、証人Pの証言および請求者Z本人の供述を綜合
すれば、次の事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法本部中央執行委員の地位にあつ
た者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間、本館
正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に他の組
合員らと共に横に並んで、時にスクラムを組み、職員その他訴訟関係人の入庁を妨
害し、
以て怠業的行為を為し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃東京高等裁判所長官、東京地方
裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃右同様の連名
を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わなかつた。又、右
職場復帰命令が発せられたときは、「復帰命令なんて出せない」とどなり、P人事
課長が「この復帰命令の趣旨は、勤務時間に入つているから、職員は職場に行つて
勤務につけということだ」と応酬すると、「それは、復帰ではない、教えてやろう
か、それは就業というのだ」と申述べ、以て職務命令に従わなかつた。
七 P18ことEについて
前掲乙第二一、二二、二三号証に請求者E本人の供述を綜合すれば次の事実を認め
ることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部刑事分会書記長の
地位にあつた者であるが、同日午前七時五〇分頃から九時二〇分頃迄の間、元東京
簡易裁判所玄関附近において他の組合員らと共に登庁職員に対し、職場大会に参加
するよう説得、勧誘し、以て怠業的行為を為した。
八 Fについて
前掲乙第二一、二二号証に請求者F本人の供述を綜合すれば次の事実を認めること
ができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部執行委員の地位に
あつた者であるが、同日午前七時過頃から九時二〇分頃までの間、第一新館、第二
新館中間の表出入口(いわゆる「アーチ」)附近において、他の組合員らと共に登
庁職員に対し職場大会に参加するよう説得勧誘し、以て怠業的行為を為した。
九 Kについて
前掲乙第二一、二二、二三号証に証人Pの証言および請求者K本人の供述を綜合す
れば、次の事実を認めることができる。
同請求者は昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部書記長の地位にあつ
た者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃、全司法組合員らが、東京高等
裁判所および東京地方裁判所車庫附近において自動車運転手らの就業を妨害した
際、自らもこれに参加し車庫控室において請求者Hらと共に、東京地裁T総務課
長、同U経理課長らに対し話合をせまり、オルグを「やめろ」「やらせろ」という
ことで押問答をし、又西側階段下において運転手らの降りて来るのを監視し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間、本館
正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に他の組
合員らと共に横に並んで時にスクラムを組み、職員その他訴訟関係人らの入庁を妨
害し、
以て怠業的行為を為し、
(三) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃東京高等裁判所長官、東京地方
裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、午前八時五〇分頃、右同様の連名を以
て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず以て職務命令に従わ
なかつた。
一〇 P15ことLについて
前掲乙第二一、二二、二三号証に証人Pの証言および請求者L本人の供述を綜合す
れば、次の事実を認めることができる。同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は
全司法東京地裁支部執行委員の地位にあつた者であるが、前記認定のとおり、同日
午前七時五分頃から九時三〇分頃迄の間、本館裏門附近において小門の辺に立ち塞
がつて他の組合員らと共に登庁職員又は訴訟関係人に対し、職場大会に参加するよ
う説得、勧誘し、以て怠業的行為を為した。
一一 Mについて
前掲乙第二一、二二号証に証人Pの証言および請求者M本人の供述を綜合すれば、
次の事実を認めることができる。
同請求者は昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地裁支部民事分会副分会長の
地位にあつた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃、全司法組合員らが、東京高等
裁判所および東京地方裁判所車庫附近において、自動車運転手らの就業を妨害した
際、自らもこれに参加し、他の組合員らと共に車庫東側階段下において運転手らの
降りて来るのを監視し、以て運転手らの就業を妨害し、(尤も、同請求者本人は階
段下に立つていただけであつて、監視していたものではないと供述しているが、組
合の役員たる者が漫然と階段下に立つていたということはそれ自体不合理な供述で
あつて、少くとも、降段して来る運転手に対し、これを職場大会に勧誘する等、何
等かの働きかけをする為にその行動を監視していたものと認めざるを得ない。)
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間、本館
正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に他の組
合員らと共に横に並んで、時にスクラムを組み職員その他訴訟関係人らの入庁を妨
害し、
以て怠業的行為を為し、
(三) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃右同様の連
名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず、以て職務命
令に従わなかつた。
一二 P17について
前掲乙第二一、二二、二三号証に証人Pの証言および請求者P17本人の供述を綜
合すれば、次の事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は全司法東京地方本部執行委員の地位にあ
つた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前六時三〇分頃、全司法組合員が東京高等裁判
所および東京地方裁判所車庫附近において、自動車運転手らの就業を妨害した際、
自らもこれに参加し、右車庫控室において、運転手らに対し、職場大会に参加する
よう勧誘し、又迎えに行くことを中止するよう説得し、又他の組合員らと共に車庫
西側階段を占拠して運転手らが車庫控室から降りて来るのを妨げ、以て運転手らの
就業を妨害し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃迄の間、本館
正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に他の組
合員らと共に横に並んで、時にスクラムを組み、職員その他訴訟関係人の入庁を妨
害し、
以て怠業的行為を為し、
(三) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃、右と同様
の連名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らずこれらの命令に従わず以て職務命
令に従わなかつた。
一三 Nについて
前掲乙第二一、二二、二三号証に証人Pの証言および請求者N本人の供述を綜合す
れば、次の事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は全司法東京地裁支部東京簡裁分会の執行
委員の地位にあつた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃までの間、本
館正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に、他
の組合員らと共に横に並んで、時にスクラムを組み、職員その他訴訟関係人の入庁
を妨害し、以て怠業的行為を為し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て、解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃、右と同
様の連名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず、以て
職務命令に従わなかつた。
一四 Gについて
前掲乙第一一号証に証人P7の証言および請求者G本人の供述を綜合すれば、次の
事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京高裁支部長の地位にあつた
者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃までの間、本
館正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に、他
の組合員らと共に横に並んで、立塞がり、職員その他訴訟関係人の入庁を妨害し、
以て怠業的行為を為し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃右同様の連
名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず、以て職務命
令に従わなかつた。
一五 Sについて
前掲乙第一一号証に証人P7の証言および請求者S本人の供述を綜合すれば、次の
事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京高裁支部書記長の地位にあ
つた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃までの間、本
館正面玄関前において職場大会が開かれた際、これに参加し、右玄関前階段に、他
の組合員らと共に横に並んで、立塞がり、
職員その他訴訟関係人の入庁を妨害し、以て怠業的行為を為し、(二) 前記認定
のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地方裁判所長の連名
を以て解散命令が発せられ、次いで、午前八時五〇分頃右同様の連名を似て職場復
帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず、以て職務命令に従わなかつ
た。
一六 Qについて
前掲乙第一一号証に証人P7の証言および請求者Q本人の供述を綜合すれば、次の
事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は、全司法東京地方本部副執行委員長の地
位にあつた者であるが、
(一) 前記認定のとおり、同日午前八時二〇分頃から九時三〇分頃までの間、本
館正面玄関前において職場大会が開かれた際、これを司会して、警職法反対の演説
を行い、又右玄関前階段に、他の組合員らと共に横に並んで、立塞がり、職員その
他訴訟関係人の入庁を妨害し、以て怠業的行為を為し、
(二) 前記認定のとおり、同日午前八時三〇分頃、東京高等裁判所長官、東京地
方裁判所長の連名を以て解散命令が発せられ、次いで午前八時五〇分頃右同様の連
名を以て職場復帰命令が発せられたに拘らず、これらの命令に従わず、以て職務命
令に従わなかつた。
一七 Rについて
前掲乙第一一号証に証人P7の証言および請求者R本人の供述を綜合すれば、次の
事実を認めることができる。
同請求者は、昭和三三年一一月五日当時は全司法中央執行委員の地位にあつた者で
あるが、
前記認定のとおり、同日午前七時五分頃から九時二〇分頃までの間、本館裏門附近
において、他の組合員らと共に登庁職員、又は訴訟関係人らに対し、職場大会に参
加するよう説得、勧誘し、以て怠業的行為を為した。
なお、乙第一一号証には、同請求者は、本館正面玄関前で行なわれた職場大会に参
加し、これを督励した旨の記載があるが、請求者R本人尋問の結果によれば、同人
は右職場大会には参加せず、職場大会が始まる前と、既に終つた後に、正面玄関に
行つたのみであることが認められるので、右乙号証の記載は措信し難い。
以上の認定に反する証拠は措信し難い。
第二 以上認定の事実によると、
一 請求者Hの前記(一)、(二)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用され
る国家公務員法第九八条第五項前段に、(三)の行為は同法第九八条第一項にそれ
ぞれ違反し、
同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
二 請求者Iの前記(一)、(二)の行為は、裁判所職員臨時措置法により準用さ
れる国家公務員法第九八条第五項前段に、(三)の行為は同法第九八条第一項にそ
れぞれ違反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
三 請求者Jの前記(一)、(二)、(三)の行為は、裁判所職員臨時措置法によ
り準用される国家公務員法第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三
号に該当する。
四 請求者Xの前記(一)、(二)の行為は、裁判所職員臨時措置法により準用さ
れる国家公務員法第九八条第五項前段に、(三)の行為は同法第九八条第一項にそ
れぞれ違反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
五 請求者P16の前記(一)、(二)、(三)の行為は、裁判所職員臨時措置法
により準用される国家公務員法第九八条第五項前段に、(四)の行為は同法第九八
条第一項にそれぞれ違反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
六 請求者Zの前記(一)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家公
務員法第九八条第五項前段に、(二)の行為は同法第九八条第一項にそれぞれ違反
し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
七 請求者P18ことEの前記行為は、裁判所職員臨時措置法によつて準用される
国家公務員法第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当す
る。
八 請求者Fの前記行為は、裁判所職員臨時措置法により準用される国家公務員法
第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当する。
九 請求者Kの前記(一)、(二)の行為は、裁判所職員臨時措置法により準用さ
れる国家公務員法第九八条第五項前段に、(三)の行為は同法第九八条第一項にそ
れぞれ違反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一〇 請求者P15ことLの前記行為は、裁判所職員臨時措置法により準用される
国家公務員法第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当す
る。
一一 請求者Mの前記(一)、(二)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用さ
れる国家公務員法第九八条第五項前段に、(三)の行為は同法第九八条第一項にそ
れぞれ違反し、、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一二 請求者P17の前記(一)、(二)の行為は裁判所職員臨時措置法により準
用される国家公務員法第九八条第五項前段に、(三)の行為は、同法第九八条第一
項にそれぞれ違反し同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一三 請求者Nの前記(一)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家
公務員法第九八条第五項前段に、(二)の行為は同法第九八条第一項にそれぞれ違
反し同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一四 請求者Gの前記(一)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家
公務員法第九八条第五項前段に、(二)の行為は同法第九八条第一項にそれぞれ違
反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一五 請求者Sの前記(一)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家
公務員法第九八条第五項前段に、(二)の行為は同法第九八条第一項にそれてれ違
反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一六 請求者Qの前記(一)の行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家
公務員法第九八条第五項前段に、(二)の行為は同法第九八条第一項にそれぞれ違
反し、同法第八二条第一乃至第三号に該当する。
一七 請求者Rの前記行為は裁判所職員臨時措置法により準用される国家公務員法
第九八条第五項前段に違反し、同法第八二条第一、第三号に該当する。
請求者らの積極的主張に対する判断
一 請求者らは、「本件職場大会は、警職法改正による重大かつ緊急な憲法秩序の
侵害に対する抗議行動として行われたもので、憲法第一二条第一項に該当する場合
である。特に公務員については、憲法第九九条によつて、憲法擁護義務が課せられ
ているものであつて、上述のように憲法秩序が否定されようという事態の下におい
て、公務員たる全司法組合員がこれを国民に訴えるため職場大会の方法によつたこ
とは、憲法擁護義務の履行として当然のことであつて何等違法性はない」と主張す
る。
国民が憲法によつて保障された自由及び権利を、不断の努力によつて保持すべき義
務を有することは、憲法第一二条前段の規定するところであり、又公務員たるもの
は、憲法を尊重し擁護する義務を負うことも亦憲法第九九条の明らかに規定すると
ころである。又警職法改正については、右改正法案が国会に提出された昭和三三年
一〇月八日当時から、国民の間に多くの論議が為され、労働団体、学者、文化人、
婦人団体等が反対運動に立上り、「警職法改正反対国民会議」が結成されるに至つ
たことは、公知の事実である。
全司法が、労働組合として、警職法改正反対の意思を統一的に表明することは、そ
れ自体として必ずしも違法とは謂い得ないことは明らかであるが、しかし、一方全
司法組合員は公務員として、公務員法の定める義務を忠実に履行すべきこと亦言う
迄もないところである。従つて意思表明の方法は飽迄も、公務員法の規定によつて
認められた範囲、方法によつて行うべきものであり、これを逸脱する場合は、違法
な行為としてその責任を負わなければならぬことも亦当然の事理である。憲法第九
九条が公務員の憲法擁護義務を規定しているのも、それは現行法秩序の枠内で憲法
を擁護すべき義務を課したものであつて、現行法秩序の枠を越える手段方法を以て
憲法擁護の目的を遂行すること迄許容する趣旨のものではない。
従つて、仮令請求者らが主観的には憲法擁護の目的を以て前記認定のような行為に
及んだものにせよ、それはただ情状として考慮さるべき問題であつて、右の行為の
違法性をことごとく排除すべきものとは到底考えられない。
二 請求者らは更に、「本件職場大会は、労働者が集団的にその意思を表現するた
めに行つた団体行動であり、団結権の正当な行使として国家公務員たる労働者にも
保障される憲法第二八条の団体行動権の範囲内のものである。しかして職場大会
は、組合員がその職場を中心として団結し、集団意思を表明することによつてはじ
めてその成果を達成することができるものである。その結果職場大会が若干勤務時
間内に喰い込んだとしても、そのことによつて公務の執行に実際上重大な支障がな
く、直ちに平常の業務に復帰できるのであれば、かかる職場大会は正に社会的にも
容認される合法的範囲内のものというべきである。本件の職場大会も右の如きもの
であつた」と主張する。
憲法第二八条は、一般に勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をす
る権利を保障しており、裁判所の職員も勤労者として、これらの権利を憲法によつ
て保障されていることも疑いのないところである。しかしながら、この勤労者の団
結権、団体行動権も、もとより公共の福祉による制限を受くべきことはやむを得な
いところであつて、公務員たる勤労者については、国家公務員法による制限を受
け、その制限された範囲内に於てのみ権利の行使が許されるべきものであることは
明らかである。
従つて、前記認定のような請求者らの行動も、国家公務員法による評価を受け、こ
れに違反する場合にはその責任を追及されてもやむを得ないところと言わなければ
ならない。而して国家公務員は同法第一〇一条により職務に専念すべき義務のある
ことを考慮すると、本件勤務時間内の職場大会が所論のごとく正当なものであつた
とは、到底認めることができない。
三 請求者らは、「国家公務員法第九八条第五項の争議行為又は怠業行為を禁止す
る規定は、日常時の経済的取引の手段としてかかる行為を行う場合に関するものと
いうべきである。従つて一般国民以上に強く憲法擁護義務を課せられている公務員
の労働組合員が、憲法擁護のため行つた集団行動については、仮りに外形上争議行
為又は怠業的行為と類似するような事態が起つたとしても、右は国家公務員法の禁
止する範囲外の正当な行為であつて、右禁止規定が適用される余地はない」と主張
する。
しかし乍ら、国家公務員法第九八条第五項にいう争議行為又は怠業的行為を請求者
ら主張の如く制限的に解すべき根拠はない。即ち法第九八条第五項で争議行為又は
怠業的行為を禁止する趣旨は、元来、公務員は、国民全体のために公共の利益の増
進をはかるべく、いわゆる全体の奉仕者たる責務があり、この責務に背反する行為
は、国民との間の信託関係に背くことになるのであつて、公務員が自己の分担する
国の業務を全力をあげて遂行することなく、却つて、業務の正常な運営を阻害する
一切の争議行為、又は、怠業的行為をなすことを禁止したもので、その行為が、正
常な業務運営を阻害するものである限り、経済的闘争を目的とするか、あるいは、
いわゆる政治的目的のために行なわれるかを区別するいわれはないというべきであ
つて、公務員が憲法擁護のため行なつた集団行為であつても、その例外と解するこ
とはできない。公務員の憲法擁護義務は現行法秩序の枠を超えない手段方法でその
目的を遂行すべきものであることは前記一に記載したとおりである。従つて本件が
国家公務員法第九八条第五項の禁止する範囲外の正当な行為であるとする主張は理
由がない。
四 請求者らは「本件の職場大会は、憲法秩序と基本的権利という高度の法益を保
持するために必要かつ合理的な方法で行われたものである。ところで国家公務員法
第九八条第五項は憲法に基く政府の正当な活動を阻害するための、現在且明白な危
険が存在する場合に、これに対応して適用さるべき規定である。本件の様に、憲法
的な秩序をまもるために、相当な行動の範囲内である場合には、右の様な要件をみ
たさないので適用を排除さるべきである。」と主張する。
しかし乍ら、請求者らの行為が仮令憲法秩序の擁護を目的として行われたものであ
るとしても、行為の違法性を阻却するものでないことは既に述べたとおりであり、
勤務時間内に喰込む職場大会が、社会的に認容される合法的範囲内のものでないこ
とも前記二記載のとおりである。また、本件職場大会が、勤務時間内に喰込んで行
なわれたことは、前記認定のとおりである。とすれば、請求者らが「本件職場大会
は必要かつ合理的な方法で行なわれたものである」というのは既にその前提におい
て誤りのある独自の見解に基づく、根拠のない主張であるのみならず、本件職場大
会が、勤務時間内に喰込んで継続して行なわれ職員その他訴訟関係人の入庁が阻止
された事実に鑑みれば、本件は、正に、当該裁判所の業務の正常な運営を阻害され
る「現在且つ明白な危険が存在する場合」に該当するものというべく、いずれの点
よりするも請求者らの主張は理由がない。
五 請求者らは「本件処分が団結体たる全司法の正当な団体行為の一部をとらえて
請求人らに対し差別的な抑圧を加えるものであり、憲法第二八条及び国家公務員法
第九八条第三項に違反する。」と主張する。
しかし乍ら、右国家公務員法の規定は「団体における正当な行為をしたことのため
に」不利益な取扱いをすることを禁じた規定であつて、本件請求者らの行為が国家
公務員法に違反する違法な行為である場合には、その適用の余地のないことは明白
であるから、その余の点については判断を俟つ迄もなく、右請求者らの主張は採用
し難い。
六 請求者らは「警職法改正反対運動の趣旨が、国民大多数の意向を反映したもの
であり、本件職場大会がその当然の帰結として、あらゆる労働団体とその傘下各労
働組合によつて行なわれた抗議行動の一環である以上、その参加者の従事する職業
の如何によつて、その行為の意味に何らの差異もあるはずがない。処分者は、本件
の処分理由に裁判所職員の特殊性と格別の自覚の必要性を指摘しているが、それは
警職法改正反対運動の趣旨と実情に対する認識を全く欠くものといわざるをえな
い。」と主張する。
本件職場大会が、警職法改正反対の趣旨による、抗議行動の一環として行なわれた
ものであり、その参加者の従事する職業の如何によつて、その行為の意味に何らの
差異がないというが、本件職場大会においては、前記認定のとおり、勤務時間に喰
い込み、解散命令及び職場復帰命令を無視して同大会終了まで職場につかなかつた
違法があつたものであるから、処分者が、これら違法な行為を、国家公務員法第九
八条第一項第五項に違反すると同時に「他面国民全体の奉仕者たるにふさわしくな
い非行をしたもの。」と評価したことはやむを得ないことと言わなければならな
い。東京高等裁判所関係及び最高裁判所事務総長関係の処分理由書に「裁判所は法
を守り、社会の秩序を維持することを使命とするものであり、従つて裁判所職員
は、右の裁判所の使命に鑑み、国民の裁判所に対する期待と信頼を裏切らないよ
う、特にその行動を慎しまなければならないものであることに徴すれば、右被処分
者らの行為は、同法第八二条第三号にいわゆる国民全体の奉仕者たるにふさわしく
ない非行に該当する。」との趣旨が記載してあるのは、請求者らの怠業的行為、職
務命令違反等の行為が、同時に国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に該当
するものであると言わんがための文言であつて、裁判所職員が、警職法改正反対運
動に参加したこと自体を、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に該当する
ものと言つたのでないことは、処分理由書の記載自体に徴し明らかであり、このこ
とは、東京地方裁判所関係の処分理由書の記載を見れば一層明瞭なことである。処
分者が、裁判所の職員に対し、特に他の公務員より遵法の精神を昂揚し裁判所の使
命を自覚して行動するよう強調することは、業務を管理するものの立場から考え当
然のことと言うべきである。しかし、社会秩序維持の基本は法を守ることであり、
法を守ることは、独り裁判所職員だけに要求されることでなく、一般公務員は等し
く法を守らなければならない責務があるものである。このことは、国民との信託関
係において当然要求される事柄であつて、裁判所職員だけが特に法を守らなければ
ならない立場にあるものと言うことはできない。されば、裁判所職員が、公務員と
して国家公務員法の適用を受けるについて、特に他の公務員と異つた処遇を受ける
いわれはない。殊に懲戒処分を受けるについて、他の公務員より重く処分されると
か、他の公務員なれば処分されないようなことでも、裁判所職員であるがために処
分を受けるというようなことは、到底考えられないことで、請求者らが、そのよう
な処分を受けたと主張するなれば、それは杞憂に過ぎない。当公平委員会としで
は、処分者の意図は、前記のとおり、請求者らの怠業的行為、職務命令違反等の違
法な行為が、同時に、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に該当するもの
として請求者らを処分したものと解せざるを得ない。従つて請求者らの主張は理由
がないものである。
本件懲戒処分の当否、軽重について
一 公務員に対し懲戒処分をするについては、国家公務員法第七四条に定めるとお
り、あらゆる事情を考慮し公正に行なわれなければならないことは言うまでもな
い。懲戒処分の種類、程度によつては、当該公務員の将来を大きく左右する事態の
生ずることもあり、また他の公務員に影響するところも重大であるから、慎重に行
なわなければならないことは人事行政を行なう上において当然のことと言うべきで
ある。
二 請求者らはいずれも組合役員であるがために本件懲戒処分を受けたもので、本
件懲戒処分は不公平なものであると主張するが、証拠によると、必ずしも請求者ら
の主張するような、組合役員であるが故に懲戒処分を受けたというのではなく、組
合役員であるがため、本件職場大会の前後を通じ、他の職員に重大な影響を与える
ような立場にあり、その行動も、また、他の一般組合員より積極的であつたものと
見られたことが首肯できる。処分者がこれら請求者らの個々の行為をとらえて懲戒
の対象としたことは処分者の裁量に委せられるべきものであつて、このことは国家
公務員法第七四条の趣旨と相容れないものと言うことはできない。また、請求者ら
が組合役員としての責任を問われているものでないことは本件処分理由書の記載自
体により明らかであり、請求者らが組合役員であるがため不公平な懲戒処分を受け
たという主張は理由がない。
三 (一)請求者らは
イ 請求者らの行動は、本件職場大会に参加したが処分を受けなかつた者の行動と
比較して何ら差異はなかつたのに請求者らだけが処分を受けた。
ロ 処分を受けた者らの間でも同じ行為をしたのに処分に軽重がある。
ハ 他官庁においては本件職場大会と時を同じくして、同じことをやつていても処
分を受けなかつた。
として本件懲戒処分の不公平を主張するが、(二) イ 請求者らが組合役員であ
るので他の職員に重大な影響を与えるような立場にありその行為が他の者より一層
目立つて見られたものと認められることは前記二記載のとおりである。しかし、他
の者が同じ事をして処分されなかつたのだから、請求者らだけが処分されるのは不
公平だといつて不法な行為をした者が免責を主張することが許されないことは自明
の理であつて、処分者の裁量権の範囲に属することである。もつとも処分の軽重に
ついての情状として考慮すべきかどうかは別個の問題と言うべきである。
ロ 請求者らの間において処分の軽重につき不公平があるとの点については、元来
本件処分が組合役員としての責任を問うものでなく、請求者らの各個の行為をした
ことを処分理由としていることは、処分者ら代理人の釈明するとおりで、処分理由
書記載自体に徴して明らかである。従つて請求者らの処分の軽重は請求者らの個々
の行為の態様によつて決定されるべきことは当然の理であり、当公平委員会も、請
求者らに対する処分が公平であつたかどうかについて、先ず請求者らの個々の行為
の実体を掴むことに努力したところである。
ハ 本件職場大会と時を同じくして、東京家裁、全国の地裁、農林省等において
も、同様職場大会が勤務時間に喰い込んで行なわれたが、これらについては懲戒処
分が行なわれなかつたことについては処分者ら代理人の明らかに争わなかつた事実
である。しかし、他官庁で懲戒処分が行なわれなかつたからといつて、本件請求者
らの行為が正当化されるいわれはなく、前記イ記載のとおり、処分者の裁量権の範
囲に属することである。もつとも処分の軽重についての情状として考慮すべきかど
うかは別個の問題と言うべきである。
四 本件事案で最も問題となつた出勤時間については請求者ら主張のとおり、正規
の出勤時間に遅れても、出勤猶予時間までに出勤した者には出勤簿に認印を押させ
正規の出勤時間までに出勤したものとして取り扱うことが行なわれていたことは、
証人P8、同P3の各証言により充分これを認めることができる。しかし、このこ
とによつて、昭和二四年一月一〇日最高裁判所規則第一号に定められた午前八時三
〇分から午後五時までの勤務時間が変更されたものではなく、出勤猶予時間を過ぎ
てから出勤した者は正規の出勤時間である午前八時三〇分から現実に出勤した時ま
での遅参として取り扱われることは当然である。また、出勤猶予時間が、大体午前
八時四五分まで認められていたことは、後記「情状について」の(二)記載のとお
りである。本件職場大会の終了時間は前記認定のとおりであり、すでに出勤猶予時
間経過後であつて、職場大会参加者が勤務時間を守らなかつた時間は前段説明のと
おり、正規の出勤時間である午前八時三〇分から職場大会が終了して入庁した時ま
でということになるが、いずれにせよ、本件職場大会か出勤猶予時間を過ぎてから
終了したもので職場大会参加者が勤務時間を守らなかつたことは明らかであるから
その責任を追及されてもやむを得ないところと言わなければならない。当日、職場
大会参加者が出勤簿に押印したことは、当日の異常な状態により出勤簿の管理が完
全に行なわれなかつたためのものであることが証拠によつて認められる。なお従来
職場大会が勤務時間に喰い込んでも当局から何ら注意を受けたことがなく黙認され
ていたという点については、これを肯認するに足る証拠はない。
情状について
本件処分の情状については、次の事実を認定することができる。
(一) 警職法一部改正の法律案については、右法案が国会に提出された当時、労
働団体、学者、文化人等、相当多数の国民が右改正に反対の態度を示していたこと
は、公知の事実であり、全司法の組合員も、その大部分の者が右改正に反対の意思
を有していたことは、証人P9、同P29、同P38、同P22、同P33、同P
30、同P36、同P39の各証言によつて認めることができる。従つて、本件職
場大会も、請求者らを含む、組合幹部の少数の者が、組合員を煽動し、誘引してこ
れを開催せしむるに至つたものとは必ずしも認め難く、寧ろ組合員の多数の者の意
思の盛り上りに従つて開催されたものと認めるのが相当である。
(二) 本件職場大会が、勤務時間内に喰込んだものであることは前記認定のとお
りであるが、右喰込んだ時間は、せいぜい四五分前後であつて、必ずしもさ程長い
時間とは言い得ない。
即ち、規定による出勤時間が午前八時三〇分であること及びいわゆる出勤猶予時間
なるものが慣習的に認められていることは既に認定したとおりである。
しかし右猶予時間が何時何分迄認められているかについての各証人の供述はまちま
ちであつて必ずしも明白でないが、証人P8、同T、同P、同P7の各証言を綜合
すれば、猶予時間は大体において八時四五分頃迄認められていたものと認定するこ
とができる。従つて、既に認定したとおり、本件職場大会は、午前九時三〇分頃迄
開催されていたのであるから、請求者らが現実の勤務時間中勤務に就かなかつた時
間は、午前八時四五分頃から午前九時三〇分頃迄の約四五分位であつたということ
ができる。
(三) もとより多数の職員が仮令四五分程度の間にしろ、勤務に就かなかつたと
いうことは、抽象的には、裁判所の活動能率を低下させるものであることは言を俟
たぬところではあるが、現実に、裁判所の職務の遂行に支障を来した事実は何等立
証がなく、却つて、証人P9、同P29、同P40、同P22、同P31、同P8
の各証言によれば、本件職場大会の行われた当日も、職務は平常のとおり行われ、
特段の変化もなかつたことを認めることができる。
(四) 請求者H、同Gの両名はそれぞれ全司法東京地裁支部長、同高裁支部長の
地位にある者であり、――又請求者Z、同Rの二名は全司法中央執行委員の地位に
在る者であつたことは、既に認定したとおりである。東京地裁支部長、同高裁支部
長及び中央執行委員の地位は、全司法組織においても特に重要な地位にあるもので
あることは言う迄もないところであり、右請求者らがかかる地位にあること自体が
本件処分理由として採り上げられたものでないことは、処分者らの主張によつて明
らかであるが、かかる地位に在つて本件違法な職場大会に参加した者はその者の行
動が他の組合員に及ぼす指導力から観て他の組合員に大きな影響力を与えた本のと
認めるのが相当であるから、これ等の点を考慮するときは、特に重い責任を負わさ
れてもやむを得ないところである。又請求者Qは本件違法な職場大会を司会したと
いう点において、これ亦重い責任を課せられてもやむを得ない。
結論
以上認定の事実を参酌すれば、本件懲戒処分中請求者Hに対する処分は、俸給月額
一〇分の一ずつ三ケ月の減給に、同I、同J、同P17、同N、同Sに対する処分
はいずれも戒告に、同Z、同Gに対する処分はいずれも俸給月額一〇分の一ずつ二
ケ月の減給に、同Q、同Rに対する処分はいずれも俸給月額一〇分の一ずつ一ケ月
の減給に、それぞれ変更し、その余の請求者らに対する処分はこれを承認するのを
相当と思料する。
請求者Oの死亡について
請求者Oが昭和三七年八月二四日死亡した事実は、福島県河沼郡会津坂下町長P4
1作成に係る同請求者の戸籍謄本の記載により、これを認めることができる。請求
者ら代理人は請求者Oが死亡したことを当公平委員会に届出たことは、前記六の
(四〇)に記載したとおりであるが、更に進んで本件公平審査請求手続を承継する
旨の申立、手続が誰からもとられなかつたことは、本事案の審理の経過に徴し明ら
かである。
請求者Oに関する本事案の対象は、請求者Oが公務員としての地位に基づく権利で
一身専属的なものであるから本事案は請求者の死亡により終了したものとするほか
なく、従つて請求者Oの関係については当公平委員会の意見を付さないこととす
る。

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