弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原決定を次のように変更する。
抗告人が昭和四四年七月一二日相手方に対し発布した退去強制令書に基づく執行
は、その送還の部分にかぎり、神戸地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二六号退去強
制命令取消等請求事件の判決が確定するまで、これを停止する。
本件執行停止申立てのその余の部分を棄却する。
申立て及び抗告に関する費用は、これを二分し、その一を抗告人の負担とし、その
余を相手方の負担とする。
       理   由
本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙に記載したとおりである。
(当裁判所の判断)
一、本件記録によれば、相手方は朝鮮全羅南道光山郡<以下略>に本籍を有する外
国人(国籍朝鮮)で、昭和一七年二月一日熊本県八代市において出生し、昭和二七
年平和条約の発効後は、同年法律第一二六号の第二条第六項に基づいて本邦に在留
したところ、原決定摘示のとおりの経緯によつて相手方に対して本件退去強制令書
が発布され、その執行のため相手方が神戸入国管理事務所収容場に収容されるに至
つたことが疎明される。
二、ところで、相手方の提起した右退去強制処分取消請求事件の判決確定前に右退
去強制令書に基づく送還が執行された場合、これによつて相手方に回復困難な損害
を生ずるおそれがあり、これを避けるべき緊急の必要があることは、右の処分の性
質、相手方の従来の生活経歴、送還先が朝鮮であることなどの点からして容易に推
認されるところである。
 抗告人は、法務大臣が相手方の異議の申出につき裁決をするに当つて特別在留許
可を与えるか否かはその自由裁量に属するところ、右の許可を与えなかつたことに
つき裁量権の濫用ないし逸脱はなく、しかも相手方が出入国管理令第二四条第四号
リに該当することは明白であるから、本件は行政事件訴訟法第二五条第三項の「本
案について理由がないとみえるとき」に該当すると主張するが、自由裁量行為とい
えどもそこにはおのずから一定の基準があるべく、その範囲を著しく逸脱するもの
であるときは該処分は違法性をおびるものというべきであるから、右の許可を与え
なかつたことの適否ひいては退去強制処分の適否について、いまだ本案の審理を遂
げていない現段階において、その理由のないことが疑いの余地がない程明白である
と断定することはできず、しかも、右の送還部分の執行停止によつて公共の福祉に
重大な影響を及ぼすおそれがあると認むべき資料はない。したがつて、この点に関
する抗告人の主張はにわかに採用し難い。
三、そこで次に、本件退去強制令書に基づく収容部分の執行停止について考えてみ
るに、右の収容によつて相手方がこれによる精神上肉体上の苦痛を被ることは推知
されるけれども、これはその執行に伴う当然の結果であつて、執行停止の要件たる
「回復困難な損害」には該当しないと解せられる。
 相手方は、本件の収容は一家からその支柱たる相手方を奪いとることによつて家
族の生活を根底から破壊し、家族全員を奈落の底に突き落すものであるというが、
記録によれば、相手方は独身者であつて、扶養すべき妻子はなく、母は現に生活保
護法の適用をうけているが、母の住居の別棟に相手方の兄が妻子とともに居住する
ほか姉妹らも近所に世帯をもつていることが疎明されるので、相手方の収容により
これらの者の生活が破壊されるなどとは考えられない。
 なお、本件退去強制処分については現に本案訴訟においてその適否が争われてお
り、審理の結果によつては右の処分が違法でないことの判断がなされる余地がない
ではない。しかるに、いま直ちに収容部分の執行をも停止するときは、相手方は外
国人であり、しかも前記管理令第二四条第四号リに該当する者であることが明かで
あるにもかかわらず、同令の定める何らの規制をもうけることなくわが国に在留す
る結果になるのであつて、かかる事態は出入国管理行政の建前を著しく紊るものと
いうべく、ひいては公共の福祉に重大な影響を及ぼすことにもなる。そして、記録
を検討しても、右の如き影響を無視してまでも本件収容部分の執行を停止すべき緊
急の必要性があるとは思われない。相手方は、前記法律第一二六号第二条第六項に
基づいて本邦に在留する者に対しては出入国管理令は全面的に適用がないと主張す
るが、かかる解釈は当裁判所の採らないところである。
四、右の次第で、相手方の申し立てた本件退去強制処分の執行の停止は、送還の部
分にかぎり停止するのを相当と認め、その余は失当として棄却すべきである。
 よつて、本件申立てを全部認容した原決定は右の限度で変更することとし、民事
訴訟法九六条九二条を適用して、主文のように決定する。
(裁判官 小石寿夫 宮崎福二 館忠彦)
(別紙)
       抗告申立の趣旨
第一次的申立
 原決定を取り消す。
 本件執行停止申立はこれを棄却する。
 手続費用は第一、二審を通じて相手方の負担とする。
との決定を求める。
第二次的申立
 原決定を次のとおり変更する。
 抗告人が昭和四四年七月一二日相手方に対してなした退去強制令書に基づく執行
はその送還の部分に限り、神戸地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二六号退去強制命
令取消等請求事件の判決が確定するまでこれを停止する。
 本件執行停止申立のその余の部分はこれを棄却する。
 手続費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を抗告人の負担とし、その
余を相手方の負担とする。
との決定を求める。
       抗告申立の理由
一、原決定は、本件の本案について「しかるところ、本件の法務大臣が異議の申出
に際して令第五〇条第一項第三号に基づく在留の特別許可を与えなかつたことにつ
いては、その結果の重大性に鑑み、従来の同種事案についての慣行ないし取扱例等
に照らして著しく不当でないかどうかを慎重に判断すべきであつて、直ちに右裁決
が裁量権の限界を超えていないと断定すべき資料のない本件においては、若し右裁
決が裁量権の範囲を逸脱したものと認められる場合は該裁決に従つた被申立人の本
件令書発布処分は当然違法として取消を免れない関係にある以上、その余の点につ
いて判断するまでもなく、本件令書による執行は本案判決に至るまで停止すべきも
のと思料する。」と説示される。
 しかし、既に抗告人が原審において述べたごとく、法務大臣の在留特別許可は自
由裁量行為であり、その許可は本来有する権利の制限を解除するものではなく、新
たに権利を付与する恩恵的措置であり、その裁量権の範囲は、その許否が国内外の
文化、経済、政治上等の諸事情を考慮してなされる関係上、きわめて広いもので、
無制限といつても過言ではない。
 さらに原決定も説示するとおり、原審においては裁量権の濫用ないし逸脱を疎明
するに足りる資料は何ら顕出されていないのであるから、裁量権の濫用ないし逸脱
の疑いありとはいえず、相手方が令第二四条第四号リに該当することは明白である
ので、本案について一応理由があるとはいえず、本件は「本案について理由がない
とみえるとき」に該当する。
二、さらに原決定は収容部分の執行停止につき「収容が申立人の人身の自由に対す
る重大な侵害であることは論ずるまでもないばかりでなく、前段認定の申立人の生
活環境等に照らし申立人に対し回復困難な損害を与えるものであることが推認され
るから、収容のみ継続すべき特段の事由の認められない本件においては、前示のと
おり送還の執行を停止すべきであるとの判断に立つ以上、送還の前提として予定さ
れている収容のみ執行を継続することは到底許容し難い。」と説示される。
 しかし、送還部分の執行が違法であるかどうかさえ未確定の状態にある時、送還
部分のみの停止事由をもつて収容部分についても停止するには、それ自体が執行停
止の要件を充すものであることの具体的理由が必要である。
 相手方が収容されても家族の生活に支障はなく、収容が相手方の人身の自由にと
つて極めて重大な侵害に当るという抽象的理由だけでは、原審において述べたとお
り、その執行に伴う当然の結果であり、例外的な執行を停止すべき緊急の必要性あ
りとはいえない。
 さらに、本件収容は送還の時までの一時的な収容であり、これにより相手方に損
害を生ずるとしても、右損害は回復困難なものとは解し難い。かえつて、相手方は
昭和四〇年八月三日和歌山簡易裁判所において暴行罪で罰金一五、〇〇〇円に、同
四三年二月五日木更津簡易裁判所において暴力行為等処罰に関する法律違反で罰金
二五、〇〇〇円に、同四二年九月三〇日大阪簡易裁判所において窃盗罪で懲役一年
二月に各処せられたものであつて、これが執行停止によつて我国における治安、公
衆の生活福祉に影響を及ぼすおそれなしとは断じ得ない。
 また、収容部分の執行も停止されれば、出入国管理令上ありえない形態の外国人
の在留を認めることとなり、これは全ての人の出入国の公正な管理を目的とする管
理令の本質に反し、出入国管理行政の現行建前(国益)を破壊し、さらに相手方の
前歴に照せば、逃亡のおそれもあり、収容部分の執行も停止すれば、本案において
本件退去強制処分の適法性が確定されても、その執行が不可能となる危険性もあ
る。
 以上の諸事情を総合すれば、公共の福祉に対する影響を犠牲にしてまでも右収容
部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるとは認められない。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛