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裁判例


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       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告らに対し、それぞれ別紙請求金目録記載の各金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 別紙原告目録番号1ないし87記載の原告らは、帯広市水道部勤務の職員
で、地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)が適用される一般職に
属する地方公務員(以下「企業職員」という。)であり、同目録番号88ないし4
88記載の原告らは、帯広市又は帯広市教育委員会勤務の職員で、地方公務員法
(以下「地公法」という。)五七条、地公労法附則四項により、地公労法及び地方
公営企業法(以下「地公企法」という。)三七条から三九条までの規定が準用され
る単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員(以下「単労」という。)で
あり、いずれも全日本自治団体労働組合帯広市職員労働組合(以下「市職労」とい
う。)に所属する者である。
(二) 被告は、地方自治法(以下「地自法」という。)一条の二第二項による普
通地方公共団体であつて、原告らの使用者である。
2 協定の成立と仲裁裁定
(一) 市職労は、昭和五〇年一二月一五日、被告代表者である帯広市長(以下
「市長」という。)との間において、同年の年末手当を組合員一人当たり給与月額
の三・〇五か月プラス一七、五〇〇円とし、同月中に支給することを内容とする協
定(以下「本件協定」という。)を締結し、右内容を書面に作成して両当事者が署
名押印した。
(二) 市長は、同月一八日、帯広市職員給与条例二八条により一二月支給の期末
手当として規定されている職員一人当たり給与月額の二・七か月分(この分につい
ては、原告らを含む組合員に対し、同月一〇日支給済み)と本件協定との差額であ
る給与月額の〇・三五か月プラス一七、五〇〇円分(以下「本件差額分」とい
う。)を同条例三三条、同条例施行規則二〇条により調整手当として支給するた
め、帯広市議会(以下「市議会」という。)に対し、補正予算案を提出した。
(三) しかし、右補正予算案の付議を受けた市議会予算特別委員会は、同月二三
日、審議の結果原案を職員一人当たり給与月額の〇・〇七五か月プラス二、五〇〇
円分減額する修正案を議決し、右同日、市議会本会議も右減額修正案を承認議決し
た。
(四) その結果、市長は、原告らを含む組合員に対し、調整手当として一人当た
り給与月額の〇・二七五か月プラス一五、〇〇〇円分を支給したのみで、市議会に
よつて減額された給与月額の〇・〇七五か月プラス二、五〇〇円分(以下「本件減
額分」という。なお、これに相当する原告ら各自の金額並びにこの各金額を原告ら
がそれぞれ適用を受ける被告の一般会計及び特別会計(以下「各会計」という。)
別に合計した金額は、別紙請求金目録記載のとおりである。)を支給しない。
(五) そのため、市職労は、同月二四日、昭和五一年一月八日及び同月一六日の
三回にわたり、市長との間で、本件協定の完全履行を要求して団体交渉を行つた
が、双方の主張が平行線に終つたため、同月二二日、原告らについて北海道地方労
働委員会(以下「地労委」という。)に対し、あつせん申請をしたところ、地労委
は、同年二月一一日、あつせんを打ち切り、その際労使双方に対して本件協定を尊
重し自主交渉で解決すべき旨の勧告書を交付した。
(六) そこで市職労は、同月二六日、同年三月二六日及び四月二日の三回にわた
り、市長との間で、右勧告の趣旨を尊重して市議会に対し本件減額分を支給するた
めの補正予算案を再提出するよう要求して団体交渉を行つたが、市長がこれを拒否
したため、同月三日原告らに対する本件協定の完全履行を求め、地労委に対し、仲
裁申請をしたところ、地労委争議仲裁委員会は、同年五月七日、原告らについて別
紙仲裁裁定目録記載の各仲裁裁定(以下「本件各裁定」という。)をなし、右各裁
定書は、同月一〇日ころ、被告に交付された。
(七) 市長は、同年六月一七日、市議会に対し、本件各裁定の承認を求める議案
及び本件各裁定が命じた本件減額分の支給に必要な補正予算案を提出したが、その
付議を受けた市議会議案等審査特別委員会において、同月二三日、これらがいずれ
も否決され、市議会本会議においても、同月二六日、右同様の議決がなされたた
め、原告らに対し、本件減額分を支給しない。
3 本件協定に基づく未払賃金請求
 本件協定は、地公労法の適用(準用を含む。以下同じ。)を受ける原告らにとつ
ては、労働協約としての規範的効力を有するから、使用者である被告は、右協定の
内容につき法律上の拘束を受けるというべきである。したがつて、原告らは、被告
に対し、本件協定に基づき、それぞれ本件減額分に相当する未払賃金請求権を有す
るので、その支払を求める。
4 本件各裁定に基づく未払賃金請求
 仮に本件協定に基づく未払賃金請求権がないとしても、本件各裁定は、労働協約
より一層強く当事者を拘束する効力を有するものであるから、原告らは、被告に対
し、本件各裁定に基づき、それぞれ本件減額分に相当する未払賃金請求権を有す
る。よつて、原告らは、被告に対し、右未払賃金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の各事実は認める。
2 同2の各事実は認める。ただし、原告らに対する調整手当支給の根拠規定は、
企業職員については帯広市企業職員の給与の種類及び基準に関する条例一七条及び
同条例施行規定六六条による。また、単労については帯広市単純な労務に従事する
職員の給与の種類及び基準等に関する条例二条によつて準用される帯広市企業職員
の給与の種類及び基準に関する条例一七条及び帯広市単純な労務に従事する職員の
給与の種類及び基準等に関する条例施行規則二条によつて準用される帯広市職員給
与条例施行規則二〇条である。
3 同3及び4は、争う。
三 被告の主張
1 本件協定の効力について
 本件協定は、次の各理由により被告に対して効力がないから、本件協定に基づ
き、それぞれ本件減額分相当の未払賃金請求権を有する旨の原告らの主張は理由が
ない。すなわち、
(一) 市職労の昭和五〇年四月当時の構成員をみると、組合員総数一、一七八名
のうち、非現業の一般職に属する地方公務員(以下「一般職員」という。)六八九
名、単労三九七名、企業職員九〇名、その他二名であつて、一般職員が過半数を占
めていたうえ、組合の主要役員も大多数が一般職員で占められていた。したがつ
て、市職労は、地公労法にいう労働組合でなく、地公法五二条にいう職員団体であ
る。そうすると、職員団体は、地方公共団体の当局と勤務条件に関して団体協約を
締結する権利を有せず、協定を締結する権利しか有していない(地公法五五条二
項)から、市職労が市長との間で締結した本件協定は、地公法上の協定にすぎず、
地公労法上の労働協約としての効力はないものといわざるを得ない。もつとも、原
告らは、本件協定は地公労法の適用を受ける原告らにとつては、労働協約としての
効力を有する旨主張する。しかし、原告ら企業職員及び単労は、地公労法上独自に
労働組合を組織し(同法五条、同法附則四項)、地方公共団体の当局と勤務条件に
ついて交渉し、労働協約を締結する権利がある(同法七条)のにこの方途をとら
ず、地公法上の職員団体である市職労に加入してその団結力による恩恵を享受する
方途を選択したものである以上、本件協定が地公法上の協定であり、地公労法上の
労働協約たりえないという本件協定の法的限界を当然に甘受せざるを得ないのであ
る。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
(二) 仮に右主張が理由がないとしても、本件協定が締結された昭和五〇年一二
月一五日現在において、被告の各会計の既定予算中給与を規定する科目(以下「給
与科目」という。)の金額の執行状況は別表(一)記載のとおりであつて、右表に
よると、右時点で、一般会計、簡易水道事業会計を除くその他の各会計については
給与科目に不用額(年度末推計)を生じていたが、この不用額も、市長と市職労と
の間で昭和五〇年九月二五日締結された協定の内容である給与改定実施のための財
源に充用されてしまつていたから、結局、被告が原告らに対し、右時点で本件差額
分(これに相当する原告ら各自の金額を被告各会計別に合計した金額は、別表
(二)記載のとおりである。)を支給することは、予算上実施不可能であつた。し
たがつて、本件協定は、本件差額分に関して地公労法一〇条一項にいう予算上不可
能な資金の支出を内容とするものであり、その実施のための補正予算案が市議会に
よつて本件減額分だけ減額修正のうえ可決されたということは、議会における議決
の性質上、取りも直さず本件協定中本件減額分についても市議会によつて不承認と
されたことにほかならないから、本件協定中本件減額分については、同条三項によ
り、その効力を発生するに由ないものといわなければならない。
2 本件各裁定の効力について
 本件各裁定は、次の各理由により被告に対して効力がないから、本件各裁定に基
づき、それぞれ本件減額分相当の未払賃金請求権を有する旨の原告らの主張も理由
がない。すなわち、
(一) 市職労は、前記のとおり、地公法上の職員団体であり、地公労法にいう労
働組合ではないから、地労委に対して仲裁申請をすることができず(地公法五八条
一項)、地労委としては、右申請を不適法として却下すべきであつたのに本件各裁
定をなしたものである。しかも、その内容自体、前記のとおり、労働協約としては
無効な本件協定の実施を内容とするものである。したがつて、本件各裁定は、いず
れの面からしても法律上当然無効である。
(二) 仮に右主張が理由がないとしても、本件各裁定が被告に交付された昭和五
一年五月一〇日現在において、被告の各会計の既定予算中の給与科目の金額の執行
状況は別表(三)記載のとおりであつて(右表のうちで病院事業会計及び水道事業
会計の各欄は、いずれも「〇」となつているが、その理由は、被告の各会計におい
て、本件で問題となつている未払賃金を昭和五一年度予算で支払うことは、過年度
に属する費用を現年度の予算で支払ういわゆる過年度支出となり、この場合、病院
事業会計及び水道事業会計を除くその他の各会計においては、現年度予算中の該当
科目から支出できるとされている(昭和三八・一二・一九自治庁行発第九三号)の
に対し、病院事業会計及び水道事業会計においては、経営成績を明確にする意味か
ら、別途「期間外費用」として科目を設けて予算に計上し、そこから支出しなけれ
ばならないとされている(昭和二七・九・二九自治庁次長通達自乙発第二四五号、
なお、昭和五一年一一月に右通達が改正された後は「特別損失」として予算に計上
すべきものとされている。)ところ、本件各裁定交付時の段階ではそれが右各会計
の予算中に計上されていなかつたからである。ちなみに、本件各裁定交付時におけ
る右各会計の昭和五一年度予算中給与科目の金額の執行状況は、右表該当各欄の括
弧内の数額のとおりである。)、右表によると、右時点で右各会計の既定予算中に
は、本件各裁定が命じる本件減額分を原告らに支給するための経費が全くなかつた
から、結局本件各裁定を実施することは予算上不可能であつた。したがつて、本件
各裁定は、地公労法一六条一項ただし書にいう予算上不可能な資金の支出を内容と
するものであり、しかも、市議会によつて不承認とされているから、右ただし書に
よつて準用される同法一〇条により、その効力が発生する余地はないものといわざ
るをえない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1については、(一)のうち、昭和五〇年四月当時の市職労の構成
員の割合が概ね被告主張のとおりであつたことは認めるが、その余の主張は争う。
(二)のうち、本件差額分に相当する原告ら各自の金額を被告の各会計別に合計し
た金額が別表(二)記載のとおりであることは認めるが、本件協定が本件差額分に
関して地公労法一〇条一項にいう予算上不可能な資金の支出を内容とするものであ
り、本件協定中本件減額分についてその効力がない旨の主張は争う。
2 同2については、(一)の主張及び(二)のうち、本件各裁定が地公労法一六
条一項ただし書にいう予算上不可能な資金の支出を内容とするものであり、その効
力がない旨の主張は争う。
五 原告らの反論
1 市職労の法的地位と本件協定及び本件各裁定との関係
(一) 市職労は、その労働関係について地公法の適用を受ける一般職員と地公労
法の適用を受ける原告らとで組織されている団体であるが、いうまでもなく団結権
の主体は労働者であり、労働団体は労働者の団結権行使の具現体であるから、団結
権の法的保護の対象となるのも労働者が第一次的であり、労働団体は第二次的とな
るのである。したがつて、原告らの団結権の法的保護は、その加入する労働団体の
いかんを問わず、あくまでも原告らが適用を受ける法律、すなわち、地公労法の規
定するところによることとなる。ところで、昭和四〇年のILO八七号条約の批准
に伴う一連の国内法改正によつて「職員でなければ職員の労働組合の組合員又は役
員となることはできない。」と定める地公労法五条三項のいわゆる逆締め付け規定
が削除された結果、同法の適用を受ける労働者は、その構成員の範囲を制限される
ことなく(ただし、使用者の利益代表者は除く。同法五条二項、労働組合法二条一
号参照)、自由に労働組合を結成し、これに加入することが可能となつた。そし
て、右の労働組合は、地公労法の適用を受ける労働者にとつては、同法五条にいう
労働組合であり、同法が規定する団結権の法的保護を受け、ただ、その所属構成員
のうちに地公労法の適用を受けえない者を含む場合には、その者についてだけ地公
労法の適用が排除されるにすぎないのである。したがつて、本件における市職労
も、少なくとも地公労法の適用を受ける原告らに関する限り、同法五条にいう労働
組合にほかならず、同法七条によつて労働協約締結権が、また、同法一五条によつ
て仲裁申請の資格が認められるから、市職労が市長との間で締結した本件協定、市
職労の仲裁申請に対する本件各裁定は、原告らにとつて、それぞれ労働協約、仲裁
裁定と認められるべきものである。
(二) また、仮に市職労が被告主張のように地公法上の職員団体であるとして
も、右の結論に差異は生じない。すなわち、前述のとおり、ILO八七号条約の批
准に伴う一連の国内法改正によつて、地公労法五条三項が削除されたほか同法附則
四項が改正されたことによつて、同法の適用を受ける単労は、労働組合を結成する
ことも、地公法上の職員団体を結成しあるいはこれに加入することも、いずれも可
能となつたのであるが、これら団結権制限の解除は、同条約二条が「労働者及び使
用者は、事前の認可を受けることなしに、自ら選択する団体を設立し、及びその団
体の規約に従うことのみを条件としてこれに加入する権利をいかなる差別もなしに
有する。」として労働者の自由に労働団体を選択する権利を規定していることに適
合すべく行われたもので、改正法案(地公法及び地公労法)の下では、一つの地方
公共団体の一般行政職員の組織する職員団体と企業職員、単労の組織する労働組合
とが、交渉能力をもつ一つの連合体に結合することも、地方公共団体の単位をこえ
た単一の組織に結合することもでき、労働者には労働団体を自由に選択する権利及
びその交渉代表として自由に団体を選択する権利とが保障されているのである。そ
うすると、原告らが加入している市職労が仮に地公法上の職員団体であるとして
も、地公労法の適用を受ける原告らを代表する限りにおいて労働協約を締結するこ
とも、また、仲裁申請することもできるから、本件協定、本件各裁定は、原告らに
とつてそれぞれ労働協約、仲裁裁定としての効力を有するものというべきである。
2 本件協定及び本件各裁定の実施可能性
(一) 地公労法一〇条は、予算上資金上不可能な資金の支出を内容とする労働協
約と議会の予算審議権(地自法九六条一項二号)との調整を図るため規定されたも
のであり、同法一六条一項ただし書によつて、予算上資金上不可能な資金の支出を
内容とする仲裁裁定についても準用されているが、地公労法は、憲法二八条の労働
基本権保障の規定を受けて、地公労法の適用を受ける職員の給与その他の労働条件
を労使間の団体交渉を通じ労働協約によつて決定することとし(同法七条)、労使
間において自主的に紛争を解決できない場合には、地公労法の適用を受ける職員に
争議行為を全面的に禁止していることの代償措置として設けられた仲裁制度に基づ
く仲裁裁定が最終的決定として労使双方を拘束するとしている(同法一六条一項本
文)から、地公労法一〇条の解釈適用に当たつては、労働協約、仲裁裁定を最大限
に尊重しなければならない。したがつて、労働協約の実施可能性ないし効力につい
ては、次のように解釈すべきである(なお、次に述べることは、すべて仲裁裁定に
ついても妥当する。)。すなわち、
(1) 給与の支給を内容とする労働協約が締結された場合において、その支給に
必要な資金が、(イ)歳出予算の職員の給与として定められている範囲に余裕があ
ることによつて賄えるとき、(ロ)歳出予算の経費の流用によつて賄えるとき、
(ハ)地公企法二四条三項により増加収入分を使用することによつて賄えるとき、
(ニ)予備費を支出することによつて賄えるとき、(ホ)以上(イ)ないし(ニ)
の方法を併用することによつて賄えるときなど、経理上の操作により既定予算の枠
内で支出可能なときには(なお、地方公共団体の歳出は、すべて予算として作成さ
れているから、既定予算の枠内で支出可能であれば、実際上、資金上も支出可能で
あるといえる。)、当該協約は予算上実施可能なものとして、直ちにその効力を生
じ、地方公共団体は、当該協約の定めるところに従い給与を支払う義務を負担する
と解すべきであるから、議会が当該協約についてかかわりをもつ余地は全くない。
議会が労働協約についてかかわりをもつのは、当該協約が右(イ)ないし(ホ)の
経理上の操作によつても既定予算の枠内では不可能な資金の支出を内容とする場合
のみであつて、しかも、そのかかわりの程度は、予算上資金上の手当を認めるか否
か、認めるとして必要な資金の全部か一部かということに限定され、当該協定の内
容自体を変更したり否定したりすることは議会といえどもなしえないのである。し
たがつて、労働協約の内容のうち、既定予算の枠内で資金の支出が一部可能、一部
不可能な場合には、当該協約は支出可能な部分についてとりあえず効力を生じる
が、支出不可能な部分についても、後日予算上資金の支出が可能となつたとき(議
会によつて追加予算が議決された場合、既定予算中給与に流用できる経費に不用額
を生じた場合等)にその効力を生じるのであり、その実施のための追加予算案が議
会によつて減額修正議決ないし否決されたからといつて、直ちに右部分が変更され
たり無効となつたりするわけではない。
(2) 次に、既定予算の枠内で労働協約実施のための資金の支出が可能か否かに
ついては、特に訴訟をもつて争われている場合には、事後的客観的に判断すべきで
あつて、協約締結当時の地方公共団体の長の主観や政治的配慮に基づいて判断され
るべきではない。また、地方公共団体の長には、既定予算の枠内で労働協約実施の
ための資金を支出することが可能となるよう、許容されるあらゆる予算執行上の操
作をなすべき義務があり、その操作もしないで議会に対して追加予算案を提出する
というような裁量は認められない(地公労法八条ないし一〇条の規定の対比からも
窺い知ることができるように、地公労法は、地方公共団体の長に対して労働協約を
履行するために必要な措置をとることを義務づけており、労働協約を遵守しない方
向でその権限を行使する裁量権を認めていない)。したがつて、事後的客観的にみ
ると、地方公共団体の長が許容されるあらゆる予算執行上の操作をすれば既定予算
の枠内で労働協約実施のための資金を支出することが可能であつたにもかかわら
ず、その操作をしないで議会に対し追加予算案を提出し、これが議会によつて減額
修正議決ないし否決されたとしても、もともと客観的には当該協約について議会が
かかわりをもつ必要は全くなかつたのであるから、議会の右議決は何の効力もない
というべく、それ以前既に効力を生じていた当該協約の効力に影響を及ぼすもので
はない。
(二) 本件において右の考え方に従えば、本件協定(本件差額分)ないし本件各
裁定は次のとおり予算上実施可能であつたから、その効力が生じていた。したがつ
て、原告らは、被告に対し、本件減額分に相当する未払賃金請求権を有する。すな
わち、
(1) 本件協定が締結された昭和五〇年一二月一五日現在における被告の各会計
の既定予算中給与を経費とする項の不用額(被告の各会計において、予算中の経費
を「項」の内の「目」、「節」間で流用することについては法的制約がないから
(地自法二二〇条二項、地公企法施行令一八条二項)、予算上給与に資金の支出が
可能か否かは、給与を経費とする「項」の金額について判断される必要があること
による。ただし、病院事業及び水道事業の各会計においては、議会の議決を経ない
限り職員給与費と他の経費との間で相互に流用することができないことになつてい
るため(地公企法施行令一八条三項、予算様式一〇条)、予算上給与に資金の支出
が可能か否かは、それぞれ給与を規定する「目」、「節」の金額について判断され
る必要がある。したがつて、以下右各会計については、それぞれ「目」、「節」の
不用額とする。なお、この時点での不用額を、被告が主張するように支出済額と将
来の支出見込額との合計額を予算現額から控除した差額と考えるのは、将来の支出
見込額が不確実な推測値にすぎないから、適当とは言い難く、前述のとおり、予算
上資金の支出が可能か否かは事後的客観的に判断すべきであるから、年度末の決算
時における不用額をもつてそのままこの時点での不用額と解すべきである。)及び
予備費の未充用額並びにその合計額は、別表(四)記載のとおりであるから、被告
の各会計は、右時点において、予算上給与に右各合計額を支出することが可能であ
つた。したがつて、右各合計額と別表(二)記載の各金額(本件差額分に相当する
原告ら各自の金額を被告の各会計別に合計した金額)とを対比すると、一般会計を
除くその他の各会計の適用を受ける原告らに対しては、右時点において、補正予算
案を提出するまでもなく、別表(四)記載の各合計額をもつて本件協定中の本件差
額分を支給することが可能であつた。また、一般会計の適用を受ける原告らに対し
ては、右時点において、別表(四)記載の合計額の範囲で本件協定中の本件差額分
を支給することが可能であり、右範囲を超える部分についても、市議会が本件協定
実施のための補正予算を議決した昭和五〇年一二月二三日の時点において、右補正
予算(このうち、原告ら支給分を被告の各会計別に合計した金額は別表(五)記載
のとおりである。)をもつて支給することが可能であつた。
(2) 仮に年度の中途である本件協定締結時において、既定予算中の給与を経費
とする「項」の不用額が把握できないとしても、別表(四)記載の不用額は、昭和
五一年三月末の決算時において確実に把握しえたものである。そうすると、原告ら
に対しては、本件協定が締結された時点において、別表(四)記載の予備費の未充
用額の範囲で本件協定中の本件差額分を支給することが可能であり、右範囲を超過
する部分については、昭和五〇年一二月二三日の時点において、別表(五)記載の
補正予算の金額の範囲で支給することが可能であり、それでもなお支給不可能な部
分についても、おそくとも昭和五一年三月末の時点において、別表(四)記載の給
与を経費とする「項」の不用額をもつて支給可能であつた。
(3) 仮に右(1)、(2)いずれの主張も理由がないとしても、本件各裁定書
が被告に交付された昭和五一年五月一〇日現在における被告の各会計の既定予算中
の給与を経費とする「項」の不用額(前述した見解のとおり、年度末決算時の不用
額による。)及び予備費の未充用額は、それぞれ別表(六)記載のとおりである。
したがつて右各金額と別紙請求金目録記載の被告の各会計別合計金額とを対比する
と、右時点において、右給与を経費とする「項」の不用額によつても、また、右予
備費の未充用額によつても、本件各裁定の実施が可能であつた。
(4) また、仮に右主張が理由がないとしても、おそくとも昭和五二年三月末の
決算時において、右給与を経費とする「項」の不用額をもつて本件各裁定を実施す
ることが可能であつた。
六 原告らの反論に対する認否
1 原告らの反論1の主張は争う。
2 同2については、(一)の主張は争う。(二)のうち、別表(四)ないし
(六)記載の各金額と、被告の各会計において、予算中の経費を「項」の内の
「目」、「節」間で流用することに法的制約がないこと、ただし、病院事業会計及
び水道事業会計において、職員給与費の流用について原告ら主張の制約があること
は認めるが、その余の主張は争う。
七 被告の再反論
1 原告ら主張のように、被告の各会計において、予算を各「目」の間又は各
「節」の間で流用することは、法令上禁止又は制約されていないから、予算執行者
だけの意思で行うことができる建前となつているが、これを無制限に行うことは予
算本来の姿を混乱させ、みだりに予算の目的を変更する結果となるから、支出目的
によつては流用を行うべきではなく、例えば需用費を人件費、交際費、食糧費に流
用したりするように予算の目的に著しい変更を加えるような流用は、厳にこれを避
けるべきである。このことは、議会の予算議決の対象科目は「款」、「項」までで
あるが、この予算議決を経るため「目」、「節」の金額まで明らかにした予算説明
書が議会に提示されており、議会はその「目」、「節」の金額の積上げによるとこ
ろの「款」、「項」の金額について最終的判断をしているのであるから、「目」、
「節」について予算の目的に著しい変更を加えるような流用を行うことは、基本的
に議会の予算議決を無視することになるということからも肯けるのである。したが
つて、各自治体では、予算中の給与に他の経費を流用することはしておらず、流用
の必要が生じたときは、予算の修正措置を講じることとしており、この流用制限は
全国の自治体の会計実務上、いわば不文法として確立しているものである。
2 予備費は、予算に計上されておらず予見できないものであつたが支出不可避の
場合、あるいは予算に計上された経費ではあるがなお不足する場合などで、性質上
軽微な費途に関するものに対して支出することを目的としている。したがつて、
(一)流動的な執行を許すのが適当でない費途、(二)法令上支出してはならない
費途、(三)法令上は支出できる費途であつても議会の否決した費途等に対しては
予備費を充用することはできない。そうすると、原告ら主張のように、地公企法の
財務規定上、職員給与費は流動的な執行を許すのが適当でないとして流用禁止費目
とされ、職員給与費と他の経費とを相互に流用する場合は議会の議決を要するとさ
れていること等を考慮すれば、給与への予備費の充用はできないと考えるべきであ
つて、このような観点から各自治体でも給与に予備費を充用することはせず、充用
の必要が生じたときは予算の修正措置を講じることとしており、この取り扱いは全
国の自治体の会計実務上いわば不文法として確立しているものである。
3 仮に右1、2の流用ないし充用を認めるとすると、予算の執行状況いかんによ
つて原告らの間にも本件協定の利益を享受できる職員とできない職員が発生し、さ
らには一般職員と原告ら企業職員及び単労との間にも給与について不公平を生ずる
ことになる。このようなことは、一般職員と企業職員及び単労とは同一地方公共団
体の同じ職場に混在して勤務し、住民の税金から給与の支払を受けるものであるか
ら、給与、勤務時間その他の勤務条件は同一水準によるべきものとする法律(地公
労法附則四項、地公企法三八条三項)に違反し、行政の画一的執行という現実面か
らみても許されるべきことではない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因一及び二の各事実(原告らに対する調整手当支給の根拠規定の点は除
く。)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告らは、被告に対し、本件協定の労働協約としての効力に基づき未払賃金請
求権を有する旨主張するので、まずこの点につき判断する。
1 市職労の昭和五〇年四月当時における組織構成が概ね被告主張のとおりであつ
たこと、すなわち、構成員総数が一、一七八名であつて、そのうち一般職員六八九
名、単労三九七名、企業職員九〇名、その他二名であり、一般職員が過半数を占め
ていたうえ、主要役員も大多数が一般職員で占められていたことは当事者間に争い
がない。そして、右の事実と本件の原告らの内訳は単労が四〇一名、企業職員が八
七名であることを併せ考えれば、本件協定締結当時から本件各裁定書の交付当時に
かけての市職労(以下「市職労」という場合には、この当時における市職労を指
す。)の組織構成も昭和五〇年四月当時とほぼ同様の状況にあつたことを推認する
ことができる。
2 右認定事実によれば、市職労は、一般職員と単労及び企業職員(以下「単労
等」という。)が組織した単一組織の労働団体(以下「混合組合」という。)であ
り、このような団体の法的性格、その労働協約締結権の有無については、議論の存
するところであるが、この点に関する当裁判所の見解は次に述べるとおりであり、
当裁判所は、市職労は地公法上の職員団体であつて、労働協約締結権を有しないと
解するものである。
(一) 地方公務員である一般職員は、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、
実質的には右住民に対して労務を提供する義務を負う特殊な地位を有し、かつ、そ
の労務の内容も公務の遂行という公共的性質を有するものであることから、その労
働関係については、地公法が適用され(同法四条一項)、民間労働者のように労働
組合法(以下「労組法」という。)、労働関係調整法(以下「労調法」という。)
の適用がない(地公法五八条一項)。その結果、一般職員の給与、勤務時間その他
の勤務条件は、最終的には地方公共団体の議会の制定する条例によつて定めること
とされ(地公法二四条六項)、一般職員が右の勤務条件の維持改善を図ることを目
的として組織する団体の法的性格も、労組法上の労働組合ではなく、職員団体とい
う特殊な団体とされ(地公法五二条)、右職員団体は、一般職員の勤務条件につい
て地方公共団体の当局と交渉し、書面による協定を結ぶことができるが、右交渉権
には規範的効力を有する団体協約を締結する権利を含まないものとされている(地
公法五五条)。そして、その代償として、一般職員には勤務条件に関する措置要求
権が認められている(地公法四六条ないし四八条)。このように、一般職員には、
労働組合を組織し、団体交渉とその結果である労働協約によつて労働条件を決定す
る方式が採用されていないのである。
 他方、単労等は、一般職員と同じ一般職に属する地方公務員(地公法三条)であ
るけれども、民間の類似職種の労働者と職務内容が実質的に共通しているので、公
務員として欠くことのできない規制は別として、できる限り民間労働者と同じよう
な取扱いをする趣旨から、その労働関係については、地公法の特例を定める地公労
法のほか、労組法、労調法が適用されている(地公労法四条)。その結果、単労等
は、争議行為は禁止されているものの(地公労法一一条)、労組法上の労働組合を
組織することができ(地公労法五条一項)、右労働組合は、単労等の労働条件に関
して団体交渉を行い、労働協約を締結することができるとされている(地公労法七
条)。そして、争議行為禁止の代償措置として、仲裁の制度が設けられているので
ある(地公労法一五条)。ただ、単労については、特に小規模な地方公共団体にお
いては、一般職員とともに勤務し、一般職員が組織する職員団体に加入している例
が多いという実情に鑑み、企業職員とは異なつて、地公労法附則四項により地公企
法三九条一項が準用される結果、地公法五二条から五六条までの規定が適用され、
地公法上の職員団体を組織することも認められている(この場合、単労は、一般職
員と同じ地公法上の職員として取り扱われることになる。)。
 右に見たとおり、我国の現行法制度の下においては、一般職員と単労等は、とも
に一般職に属する地方公務員ではあるが、その職務と責任の特殊性に応じて、それ
ぞれの労働関係を規律する法を異にし、一般職員の組織する職員団体と単労等の組
織する労働組合とは、その法的性格及び権能に重大な差異が設けられているのであ
る。したがつて、地方公務員の組織する労働団体が職員団体であるか労働組合であ
るかは、その労働関係を規律していく上で極めて重要であつて、これが明確にされ
なければ法の適用に混乱を来す虞れがあるといわなければならない。そこで、その
法的性格が必ずしも判然としない混合組合については、その労働関係への法の適用
を考えるに当たつて、まず右団体が職員団体であるか労働組合であるかを検討する
ことが必要不可欠となつてくる。
 ところで、労組法上、労働組合とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の
維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体をい
い(同法二条)、労働者が主体となつていることが労働組合であるための要件とさ
れ、また、地公法上、職員団体とは、一般職員がその勤務条件の維持改善を図るこ
とを目的として組織する団体をいい(同法五二条一項)、一般職員の利益を図るた
めの団体である以上、やはり一般職員が主体となつていることが職員団体であるた
めの要件と解される。そうすると、混合組合の法的性格はその実態に即してこれを
決するのが相当であるというべきであるから、労組法上の労働者である単労等が当
該混合組合の主体となつている場合には、労働組合であり、地公法上の職員である
一般職員が当該混合組合の主体となつている場合には、職員団体であると解すべき
である。これを市職労についてみると、前記1に認定のとおり、市職労において一
般職員が質量ともに主体をなしていたことは明らかであるから、市職労の法的性格
は、地公法上の職員団体であるといわなければならない(証人aの証言によると、
現に市職労は、本件協定締結当時、地公法五三条に基づき職員団体としての登録を
受けていたことが窺われる。)。してみると、市職労と被告との間の労働関係につ
いては、職員団体に関する法が適用されることは明らかである。
(二) 次に問題となるのは、右のように本来職員団体と考えるべき混合組合の労
働関係について、重畳的に地公労法等を適用することができるか、という点であ
る。原告らは、団結権の法的保護の対象は第一次的には労働者であるから、加入す
る労働団体のいかんを問わず、原告らについては地公労法の適用があり、市職労は
原告ら単労等に関する限り労働組合にほかならないと主張し、また、市職労が職員
団体であつても、原告らを代表する限りにおいて労働協約を締結することができる
と主張するが、これらの主張は、いずれも市職労と被告との間の労働関係につい
て、重畳的に地公労法を適用すべきであるとするもの、換言すれば、市職労は職員
団体であると同時に、原告ら単労等が加入している限り労働組合でもあるという二
面的性格を有する労働団体であるとするものといえる。この点について、職員団体
も労働組合も、等しくその構成員の勤務条件ないし労働条件の維持改善その他経済
的地位の向上を図ることを目的とする団体であつて、相互に矛盾するものではない
から、構成員に一般職員と単労等を含む限り右の二面的性格を認めるべきであると
する考え方もありうるところである。しかしながら、右のような理由だけから、職
員団体でもあり、労働組合でもあるという労働団体の存在を肯認するのは、あまり
にも便宜的であつて、現行法の本来予想しないところであるといわざるを得ない。
けだし、前述のとおり、地方公務員の団結権の保障に関する現行法制度は、公務員
の職務と責任の特殊性に応じて二つの労働団体を截然と区別し、それぞれの団体の
性格に適した法をもつてその労働関係を規律していこうとするものであるから、公
務員がいずれの労働団体に加入しようとも、その団体の性格を無視して各公務員の
法的地位に応じて法を区々に適用することは、現行の法体系の混乱を招き、許容さ
れていないと解される。のみならず、仮に右のような二面的性格の労働団体の存在
を認め、法を区々に適用していこうとすると、その団体の行為が労働組合としての
ものか職員団体としてのものか疑義を生ずるなど、現実の労働関係に紛議を生ぜし
める虞れなしとしないからである。したがつて、憲法の保障する団結権の保護に欠
けるというのでない限り、右のような二面的性格を有する労働団体の存在を肯定す
べきではないと解すべきところ、前述のように二つの労働団体を峻別する現行法制
度は、一般職員及び単労等が自らの法的地位を考慮して自主的に団結権を行使する
ことを認め、それぞれの地位にふさわしい労働団体を組織し、これに加入すること
を期待しているものというべきであつて、前述の現行法制度の内容に照らしてみる
と、右団結権の行使の方法いかんによつてその効果に相違が生ずるとしても、右の
ような二面的性格の団体を認めないと団結権の保護に欠けるとまで断ずることはで
きない。
 そうだとすれば、市職労のような混合組合について、労働組合としての性格を認
め、地公労法を適用することは許されないといわざるを得ないから、市職労は、労
働協約締結権を有しないというべきであり、原告らの右主張は、結局いずれも採用
できない。
 なお、右のように市職労に労働協約締結権がないとすると、原告らの保護に欠
け、妥当でないとの反論が考えられないではないが、原告ら単労等には地公労法上
独自に労働組合を組織して労働協約を締結する権利が認められているのに、この方
法によらずに一般職員が主体となつて組織する団体に加入して、その団結力の恩恵
を享受する方途を選択したものである以上、右団体が地公法上の職員団体として取
り扱われ、原告らについて労働協約締結権が認められないとしても止むを得ないも
のというべきである。
3 以上の次第であつて、市職労が地公法上の職員団体であつて労働協約締結権を
有しない以上、被告との間で締結した本件協定は、地公法上の書面協定(同法五五
条九項)にすぎず、労働協約としての規範的効力はない。したがつて、原告らの本
件協定の労働協約としての効力に基づき未払賃金請求権を有する旨の主張は失当で
ある。
三 次に、原告らは、被告に対し、本件各裁定の仲裁裁定としての効力に基づき未
払賃金請求権を有する旨主張する。
 しかし、市職労は、前記二のとおり、地公法上の職員団体として取り扱うほかな
いから、地公労法一五条に基づいて、原告ら単労等につき、労働委員会に対し、仲
裁を申請する資格はないものといわなければならない。
 もつとも、このように解すると、一般職員が主体となつて組織された混合組合に
加入した単労等は、勤務条件に関する措置要求制度の適用が除外されている(地公
企法三九条一項、地公労法附則四項)うえに、地公労法上の仲裁制度による救済も
受けられないため、結局のところ、その勤務条件に関して何らの救済も受けられな
くなり、保護に欠けるかのようである。しかし、前記二のとおり、単労等には、労
働組合を組織して労働協約を締結する権利が認められており、それによつて勤務条
件の保障が可能となるからこそ、地公法上の勤務条件の措置要求制度が適用されな
いことになつているのであるから、前述のように単労等が独自に労働組合を組織す
ることをせずに、一般職員が主体となつて組織する団体に加入して、その団結力の
恩恵を享受する方途を選択した以上、このような事態もまた止むを得ないものとい
わなければならない。したがつて、右のような結果が単労等に生ずることをもつ
て、一般職員が主体となつて組織する混合組合を単労等に関する限り労働組合とし
て取り扱い、仲裁の申請資格を認めることはできない。
 右に述べたとおり、市職労には原告ら単労等のため労働委員会に対し仲裁を申請
する資格が認められない以上、市職労の仲裁申請を容れてなされた行政処分として
の性格を有する地労委の本件各裁定は、地労委が申請資格の認定を誤り、延いては
自己の権限に属しない事項についてなした処分であつた点において重大な違法があ
るといわざるを得ず、かかる裁定の内容の履行を被告に甘受させることは著しく不
当というべきであるから、本件各裁定は当然無効と解するのが相当である。したが
つて、原告らの本件各裁定の仲裁裁定としての効力に基づき未払賃金請求権を有す
る旨の主張も失当である。
四 以上述べたとおり、本件協定及び本件各裁定は、それぞれ労働協約ないし仲裁
裁定としての効力を有しないものと解するほかないが、本件訴訟の経過に鑑み、そ
れらが原告らに関する限りそれぞれ労働協約、仲裁裁定としての効力を有すると仮
定して、本件協定中の本件差額分及び本件各裁定の予算上又は資金上の実施可能性
の点から、その効力について検討を加えることとする。
1 本件協定の内容は、被告が市職労の組合員に対し、昭和五〇年度の年末手当と
して組合員一人当たり給与月額の三・〇五か月プラス一七、五〇〇円を支給すべき
ことを内容とするものであること、市長は同年一二月一八日、同年一二月支給の期
末手当として規定されている職員一人当たり給与月額の二・七か月分と本件協定と
の差額である給与月額の〇・三五か月プラス一七、五〇〇円を調整手当として支給
するため市議会に対し補正予算案を提出したこと、しかし、右補正予算案の付議を
受けた市議会予算特別委員会は、同月二三日、審議の結果原案を職員一人当たり給
与月額の〇・〇七五か月プラス二、五〇〇円分減額する修正案を議決し、右同日、
市議会本会議も右減額修正案を承認議決したこと、以上の事実は前記一のとおり当
事者間に争いがなく、本件差額分に相当する原告ら各自の金額を被告の各会計別に
合計した金額が別表(二)記載のとおりであることも当事者間に争いがない。そし
て、成立に争いのない甲第三ないし第五号証、証人bの証言、被告代表者本人尋問
の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告の各会計の予算上原告らに支給される
べき給与関係経費は、一般会計、下水道会計、競馬会計、食肉センター会計におい
てはいずれも職員給与関係費として「項」に、簡易水道事業会計においては職員給
与関係費として「目」に、病院事業会計においては給与費として「目」に、水道事
業会計においては給料、手当等、法定福利費、退職給与金として「節」にそれぞれ
計上されていること、市では例年、会計年度開始前の予算案策定の段階で、職員の
年末手当について職員数、平均給与、条例の数値等を基準に必要経費を算定し、こ
れを被告の各会計の予算に計上しているところ、昭和五〇年度予算においては、職
員数につき増員分を考慮のうえ支給時の人員を査定し、平均給与については一率五
パーセントのベースアツプを見込んだ額を査定し、一人当たりその二・七か月分を
被告の各会計に計上したが、右を超える一人当たり〇・三五か月プラス一七、五〇
〇円分(本件差額分)を当初予算に計上しなかつたこと、本件協定締結時現在、被
告の各会計における昭和五〇年度予算中の給与科目の予算執行状況が別表(一)記
載のとおりであつたこと、右時点で会計年度末に一般会計、簡易水道事業会計の給
与科目については予算の不足が見込まれたが、その他の会計の給与科目については
不用額を生じる見込みであつたこと、しかし、右不用額は、いずれも市長と市職労
との間で昭和五〇年九月二五日締結された給与改定を内容とする協定実施のための
財源に充用されてしまつていたこと、以上の各事実が認められ、右認定に反する証
拠はない。
 右事実によれば、本件協定中の本件差額分を支出するに必要な経費は、被告の各
会計の既定予算に計上されていなかつたもので、しかも、本件協定の締結時におい
て、被告の各会計の給与科目に本件差額分の支出に充てうる見込不用額がなかつた
ものである。そして、被告の各会計において、予算中の経費を各「項」の間で流用
するこちは予算の定めがない限りできず(地自法二二〇条二項、地公企法施行令一
八条二項)、また、水道事業会計及び病院事業会計においては、議会の議決を経な
い限り職員給与費と他の経費との間で相互に流用することができないこととされて
いる(地公企法施行令一八条三項、同法施行規則一二条、別表第五号予算様式一〇
条)ところ、弁論の全趣旨によれば、本件協定の実施に関し、右経費の流用を認め
る予算の定め又は議会の議決はなかつたと認められるので、簡易水道事業会計を除
く被告の各会計において予算執行者による経費の流用の余地はなく、さらに、簡易
水道事業会計において本件協定の実施のため他の経費を流用すること、被告の各会
計において予備費を本件協定の実施のため充用することのいずれについても、予算
執行者がこれを決定した旨の主張立証はなく、かえつて証人b、同cの各証言、被
告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、そのような決定をしなかつた
ことが認められる。そうすると、本件協定締結時において、同協定中の本件差額分
については、これを実施するために必要な経費が予算上不足していたものであり、
本件協定中の本件差額分は、予算上実施不可能な資金の支出を内容とするものであ
つたといわざるを得ない。
 原告らは、予算執行者において許容されるあらゆる予算執行上の操作をすれば、
必要な資金の支出が可能であつたと事後的、客観的に判断されるときは、予算上実
施可能であつたとすべきであり、本件協定締結時において本件差額分の実施は予算
上可能であつたと主張する。そしてまず、被告の各会計の給与科目(簡易水道事業
会計にあつては流用を前提として給与科目を含む「項」の勘定科目)における不用
額は、見込額によらず、年度末に実際に生じた額をもつて本件協定締結時における
不用額とみるべきであると主張するが、予算科目の不用額の存否を事後的客観的に
判断すべきものとするのは、成立時において予算上資金上不可能な支出を内容とす
る協定は、議会の開会中であれば締結後一〇日以内に議会に、閉会中であれば次の
議会にすみやかに、これを付議して承認を求めるべきものとする地公労法一〇条の
規定からみて、法の予定するところではないばかりでなく、事後の予算の執行いか
んで協定の効力が左右されるのは不当であるから、あくまで協定締結時において、
その時の見込額を基準として可能か否かを判断すべきであると解されるから、右主
張は採用の限りでない(なお、被告の各会計の右給与科目の昭和五〇年度末の不用
額が別表(四)記載のとおりであることは当事者間に争いがないが、このことのみ
をもつて、被告の不用額の見込額に誤りがあつたとすることはできない。)。次
に、原告らは、経費の流用及び予備費の充用という予算執行上の操作により本件差
額分を予算上賄うことができた旨主張する。しかしながら、経費の流用(本件では
簡易水道事業会計においてのみ可能であつたことは、前記のとおりである。)及び
予備費の充用は、一般的には予算執行者が予算の運営全般にわたる高度な経済的、
政策的見地から、その権限と責任においてなす裁量行為であり、右裁量権の行使に
ついては、議会が予算執行者の責任を追及することにより、民主的コントロールの
下に置いているのであるが、この裁量権は、労働協約の実施に関する場合であつて
も、予算執行者に留保されているものと解するのが相当である。けだし、地公労法
一〇条は、労使間の自主的団体交渉の結果である協定をできる限り尊重する立場を
とりつつ、財政民主主義の要請との調和を図る趣旨から、予算上又は資金上経費に
不足を生ずる協定についてその実施を地方公共団体の議会の意思に委ねることとし
たもので、その限りにおいて議会の予算審議権を重要視していること、予算執行者
が流用又は充用を行わないため協定が予算上実施不可能な場合には、地方公共団体
の長はこれを議会に付議する義務を負い、協定の実施の可否は議会の決するところ
となるのであるから、予算執行者に裁量権を認めても、その恣意により協定の実施
が左右されるものではないこと、他方、予算執行者が流用又は充用を行つた場合、
これが裁量権の行使によるものとすれば、前述のとおり議会による責任追及が可能
であるが、この流用又は充用につき議会の審議権が及ぶことを認めたとしても、右
地公労法一〇条の趣旨に反するとは考えられないこと、かえつて、協定が成立した
場合には予算執行者においてその経費を支出するため可能なあらゆる予算執行上の
操作をすべき法律上の義務を負うとすると、予算執行面で変更があるにも拘らず、
議会が予算執行者の責任を問うことが法的にも政治的にもできないことになり、右
規定の趣旨を没却することになりかねないこと、以上の事情を総合勘案してみる
と、労働協約の実施という他の一般行政上の必要に基づく流用又は充用とは異なる
事情による流用又は充用であつても、なお、予算執行者の右裁量権を否定すべきで
はないと考えられるからである。したがつて、仮に流用の可能な予算科目又は予備
費に未執行額があつても、予算執行者において現実に流用又は充用を決定しない限
り、協定の予算上の実施可能性に影響するものではないといわなければならない。
本件においては、協定の一方当事者でこれを遵守すべき市長が、予算執行者でもあ
る(ただし、水道事業会計は除く。)という関係にあるが、市長の予算執行者とし
ての右裁量権は、前述のような理由で裁量権を認める以上、このような関係にあつ
てもなお失われないと解するのが相当である(ちなみに、地方公営企業において
は、前記のとおり職員給与費が流用禁止科目とされ、他の経費との流用には議会の
議決を要するとされており、また、証人bの証言によれば、被告においても予備費
の性格を考え、これを職員給与費に流用しない慣行があることが認められる。)か
ら、原告らの右主張も採用できない。そうすると、本件協定締結時において本件差
額分の実施が予算上可能であつたとする原告らの主張は理由がなく、これが不可能
であつたとする前記判断を覆すに足りない。
 そして、本件協定に基づく補正予算案は、前記のとおり市議会において減額修正
されて議決されたもので、成立に争いのない乙第七、第八号証、証人a、同dの各
証言、被告代表者本人尋問の結果によれば、本件協定自体は市議会に付議されてい
ないが、右補正予算案審議の過程で本件協定の内容についての審議がなされ、本件
差額分全額の支給が不適当であるとの趣旨で右減額修正されたものと認められるか
ら、本件協定が混合組合の締結したものであるという本件の特殊性を考慮すれば、
協定自体が付議されていなくとも本件協定中の本件減額分については、市議会にお
いて不承認とされたものと解するのが相当である。そして、議会の承認は協定の効
力要件と解すべきである(議決を履行条件と解するのは、協定の効力が浮動的とな
るから妥当でない。)から、本件協定中の本件差額分は、地公労法一〇条によりそ
の効力を発生するに由ないものといわなければならない。
 なお、原告らは、本件協定中の本件減額分の効力が右議決後も存続することを前
提とし、昭和五一年三月末において本件減額分が予算上実施可能であつた旨主張す
るが、右主張の理由がないことは既に述べたところから明らかである。
2 次に、本件各裁定の予算上の実施可能性について検討すると、本件各裁定は、
被告が市職労に所属する原告らに対し、本件減額分(その金額は別紙請求金目録記
載のとおりである。)を支給すべきことを内容とするものであることは、前記一の
とおり当事者間に争いがない。また成立に争いのない甲第一五、第一六号証、証人
bの証言及び弁論の全趣旨によれば、被告の各会計の昭和五一年度予算案策定に当
たり、昭和五〇年一二月分手当としての本件減額分は考慮されていなかつたこと、
本件各裁定書の交付時において、被告の各会計における昭和五一年度予算中の給与
科目の予算執行状況が別紙(三)記載のとおりであり(ただし、病院事業会計及び
水道事業会計については括弧内の金額)、右時点で会計年度末にいずれの会計の給
与科目にも不用額を生じる見込みがなかつたことを認めることができる。そうする
と、被告主張の点、すなわち、本件各裁定が支給を命じる本件減額分を被告の各会
計の昭和五一年度予算で支出することが過年度支出となり、病院事業会計及び水道
事業会計について別途科目を予算に計上しなければその支出ができないか否かの点
は一応措くとして、仮にすべての会計についてこれを昭和五一年度予算中の給与科
目から支出するにしても、本件各裁定書の交付時において右給与科目自体にその余
裕がなかつたものといわなければならない。そして、本件差額分についてと同様、
被告の各会計の予算執行者が、本件各裁定実施のための経費(本件減額分)の支出
のため、他の経費の流用又は予備費の充用を決定した旨の主張立証はなく、かえつ
て右決定がなかつたことが証人bの証言、被告代表者本人尋問の結果及び弁論の全
趣旨により認められるから、本件各裁定は、裁定書の交付時において、予算上実施
不可能な資金の支出を内容とするものであつたというべきである。
 原告らは、本件各裁定が予算上実施可能であつたとして、本件協定中の本件差額
分に関する主張と同様の主張をするが、これが理由がないことは既に述べたところ
から明らかである。すなわち、裁定の場合であつても、その予算上の実施可能性は
裁定書の交付時における見込額で判断すべきであり、また、経費の流用又は予備費
の充用については、裁定の実施であつても、協定の実施についてと同様の理由か
ら、なお予算執行者の裁量によるものと解すべきである。
 右によれば、本件各裁定は、予算上実施不可能であつたものであるところ、本件
各裁定の承認を求める議案及び補正予算案が市議会で否決されたことは前記一のと
おりであるから、本件各裁定は、地公労法一六条一項ただし書、同法一〇条により
その効力が発生する余地はないといわざるを得ない(なお、原告らの本件各裁定の
効力が右議決後も存続することを前提とする主張は、前述のとおり議会の承認を効
力要件であると解すべきであるから、採用できない。)。
五 以上の次第であつて、いずれにしても本件協定及び本件各裁定はその効力がな
いから、これが有効であることを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点につ
いて判断するまでもなく理由がないので、いずれもこれを棄却することとし、訴訟
費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 相良朋紀 小磯武男 水谷博之)
別紙請求金目録、同仲裁裁定目録、別表(一)~(六)(省略)

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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