弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月及び罰金三千円に処する。
     右罰金を完納することが出来ないときは、金三百円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
     前控訴審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検事の控訴趣意は、札幌地方検察庁小樽支部検事眞鍋薫作成名義の控訴趣意書に
記載したとおりである。
 第一点に対する判断。
 <要旨>原判決が、本件公訴事実中帳簿不記入の点を無罪とする理由は所論のとお
りである。ところが、麻薬取締法第十四条第一項の規定によると、施用の場
合において帳簿に記入すべき事項は、施用した麻薬の品名、数量、施用の年月日に
限られていて、何人に対し、何の目的で施用したかは記入することを必要としない
のであるから、たとい麻薬取扱者が麻薬を不正に施用したため罪となる場合であつ
ても、これを帳簿に記入することによつて、自己の罪跡を表白することにはならな
い。従つて、かかる場合においても、右所定の事項を帳簿に記入させることは、敢
て通常人に期待し得ないことではない。かかる場合にまで期待可能性の理論を拡張
して、被告人の責任性を阻却するものと為す原判決は、法令の解釈適用を誤つたも
のというの外なく、その誤が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は
理由があり、原判決は破棄しなければならない。
 よつて、その余の論点に対する判断を省き、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八
十条に則り原判決を破棄し同法第四百条但し書に従い、被告事件について更に判決
する。
 (罪となるべき事実)
 第一、 原判示罪となるべき事実
 第二、 麻薬取締法第十四条所定の帳簿に、右第一の施用した麻薬の品名、数
量、年月日を記入しなかつたとの事実
 (証拠の標目)
 原判決拳示の証拠の標目に同じ。
 (法令の適用)
 被告人の判示第一の所為は麻薬取締法第五十七条第一項第三十八条第一項に、第
二の所為は同法第五十九条第一項第一号第十四条第項(両者通じ、罰金刑について
は罰金等臨時措置法第二条第一項)に該当するので、刑法第五十七条第二項第五十
九条第二項により各懲役及び罰金を併科することとし、両者は刑法第四十五条前段
の併合罪であるから、懲役刑については同法第四十七条本文第十条により重い右第
一の罪につき定められた刑に法定の加重を為し、罰金刑については同法第四十八条
第二項を適用して、その合算額以下において処断することとし、その刑期及び金額
の範囲内で、被告人を懲役四月及び罰金三千円に処し、右罰金を完納することが出
来ないときは、同法第十八条により金三百円を一日に換算した期間被告人を労役場
に留置するものとし、刑事訴訟法第百八十一条第一項により前控訴審の訴訟費用は
全部被告人の負担とするものとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤田和夫 判事 西田賢次郎 判事 長友文士)

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