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平成22年1月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10136号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月16日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士藤本昇
同薬丸誠一
同北田明
同鶴亀史泰
被告共同カイテック株式会社
訴訟代理人弁護士高橋隆二
訴訟代理人弁理士元井成幸
主文
1特許庁が無効2008−800211号事件について平成21年4
月21日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「植栽設備」とする特許第3979659号(平成9
年8月29日に出願された特願平9−250023号を原出願として,平成1
8年10月20日に分割出願〔特願2006−286318号〕され,平成1
9年7月6日に設定登録された特許。以下「本件特許」という。)の特許権者であ
る。
原告は,平成20年10月20日,本件特許(請求項の数4)の請求項1ない
し4に係る発明について,特許無効審判(無効2008−800211号事件)
を請求し,被告は,同年12月16日,願書に添付した特許請求の範囲及び明細
書について訂正請求(以下「本件訂正」という。甲14の2)をした。
特許庁は,平成21年4月21日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り
立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成21年5
月7日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件特許の願書に添付した,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2
の記載は,次のとおりである(甲14の3。以下,本件訂正後の請求項1に係
る発明を「特許発明1」といい,請求項2に係る発明を「特許発明2」とい
う。なお,別紙「本件訂正明細書図面」参照)。
「【請求項1】
底部と側面を有すると共に,該底部近傍に開口部を有する凹型のセルを有
するマットフレーム内に植物育成材を設けてなる植栽マットを敷設面に複数
敷き詰め,
該敷き詰めた植栽マット群の外周に框を配設し,
該框の被覆部を該框の側壁上端から該植栽マット群側へ突出して設け,
該植栽マット群と該框の側壁間の隙間及び該植栽マット群の外周縁の上端
部より該植栽マット群側の領域を該框の該被覆部で被覆することを特徴とす
る植栽設備。」
【請求項2】
前記框を前記敷設面に固定して配設し,
前記框で前記敷き詰めた植栽マット群の位置ずれを防止することを特徴と
する請求項1記載の植栽設備。」
3審決の理由
(1)審決の理由を要約すると,以下のとおりである(別紙審決書写し参
照)。
ア本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書の規定に適合し,か
つ,同条5項において準用する同法126条3項及び4項の規定に適合す
る。
イ特許発明1は,特開平10−84774号公報(以下「引用例」とい
う。なお,別紙「引用例図面」参照)に記載された発明(以下「甲2−1
発明」という。)と対比すると,①複数の「植栽マット」が「敷き詰め」
られた関係で配置されているため,「植物育成材入りプランタ」がそのよ
うな特定の位置関係を伴わずに「載置」されている甲2−1発明とは実質
的に異なり,容易かつ短時間内に敷設等を行い得るとの新たな作用効果を
有する点でも異なる,また,②被覆部で被覆する領域についても,植栽容
器群と框の側壁間の隙間のみを被覆する甲2−1発明とは実質的に異な
り,「植栽マット群の外周縁の上端部より該植栽マット群側の領域」をも
被覆するため,框による植栽マット群の美感を高めるという新たな作用効
果を有する点でも異なる,③よって,特許発明1は,甲2−1発明と実質
的に同一であるとはいえない。
ウ特許発明1は,甲3の主引用例に甲4ないし9記載の周知事項を適用す
ることにより,又は,甲3,6,10ないし12記載の周知事項と,甲4
ないし9記載の周知事項とを組み合わせることにより,当業者が容易に発
明をすることができたものであるとはいえない。
エ本件出願の明細書等の記載は,原出願の願書に最初に添付した明細書,
特許請求の範囲,図面に記載した事項の範囲内のものであって,分割出願
の要件を満たすので,その遡及効が認められ,その遡及効がないことを前
提として特許発明1が特許法29条2項に違反するとする原告の主張は理
由がない。
(2)上記判断に際し,審決が認定した甲2−1発明(引用発明)の内容並び
に特許発明1と甲2−1発明との一致点及び相違点は,以下のとおりであ
る。
(甲2−1発明の内容)
「底部と側面を有すると共に,該底部近傍に開口部を有する凹型構造内に
用土を入れてなる用土入りプランタ3を載置部4に複数載置し,
該載置したプランタ3群の外周に仕切部5を配設し,
該仕切部5の突出部5aを該仕切部5の側壁上端から該プランタ3群側へ
突出して設け,
該プランタ3群と該仕切部5の側壁間の隙間を該仕切部5の該突出部5a
で被覆することを特徴とする緑化構造。」(審決書11頁18行∼24行)
(一致点)
「底部と側面を有すると共に,該底部近傍に開口部を有する凹型構造内に
植物育成材を設けてなる植物育成材入り植栽容器を載置部に複数載置し,
該載置した植栽容器群の外周に框を配設し,
該框の被覆部を該框の側壁上端から該植栽容器群側へ突出して設け,
該植栽容器群と該框の側壁間の隙間を該框の該被覆部で被覆することを特
徴とする植栽設備。」(審決書12頁10行∼15行)
(相違点)
「ア植栽容器が,特許発明1は,『凹型のセルを有するマットフレーム内
に植物育成材を設けてなる植栽マット』であり,複数のそれらが,載置
部としての『敷設面』に『敷き詰め』られているのに対し,甲2−1発
明は,『凹型構造内に植物育成材を設けてなる植物育成材入りプラン
タ』であり,複数のそれらが載置部に『載置』されている点。
イ『被覆部で被覆する』領域について,特許発明1は,植栽容器群と框
の側壁間の隙間に加えて,『植栽マット群の外周縁の上端部より該植栽
マット群側の領域』をも被覆するのに対し,甲2−1発明では,そのよ
うな被覆領域を有さない点。」(審決書12頁17行∼25行)
第3当事者の主張
1審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)甲2−1発明の認定の誤り(取消事由1),(
2)相違点の認定の誤り(取消事由2及び3)がある。
(1)取消事由1(甲2−1発明の認定の誤り)
アプランタ3の「載置」に係る認定の誤り
甲2−1発明における複数の「プランタ3」は,「敷き詰め」られるもので
ある。しかるに,審決が,単に「載置」されるものであると認定した点には,
誤りがある。
(ア)引用例には,従来は,「建物の屋上,バルコニー等を緑化する場合,・・
・単に,植物が植えられたプランタ等を適当に配置したりしている場合が多
い。」(甲2の1,段落【0002】【背景の技術】),「植物が植えられ
たプランタ等を適当に配置しているだけであり,しかもプランタ自体が見える
ので,雑然としたイメージとなり易く,花壇のような景観の美しいものとする
のは困難であった。」(段落【0003】【発明が解決しようとする課題】)
のに対し,「本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,建物の屋上,バルコ
ニー等を容易に緑化するとともに,景観の美しいものとすることができるバル
コニー等の緑化構造を提供することを目的としている。」(段落【000
4】)と記載されている。また,引用例の図面には,プランタ3が複数敷き詰
められた状態が記載されている(別紙「引用例図面」の【図1】,【図2】,
【図4】,【図5】参照)。
(イ)なお,本件訂正後の明細書(甲14の4。以下「本件訂正明細書」という
。)には,「本敷設方法では,・・・植栽マット1を敷き詰める際に,隣接す
る植栽マット1の相互間に所要経路の給水管配設用空間部22を形成するよう
に敷き詰める。」(段落【0058】)と記載されているから,特許発明1及
び2における「敷き詰め」の用語の解釈としては,必ずしも空隙を生ずること
なく敷設面に敷く態様のみではなく,空隙を生じて敷設面に敷く態様をも含む
(別紙「本件訂正明細書図面」の【図19】参照)。
イ突出部5aの被覆領域に係る認定の誤り
以下のとおり,甲2−1発明の「仕切部5」の「突出部5a」は,「プラ
ンタ3」に対する「仕切部5」の配置態様によっては,「プランタ群3の外周縁
の上端部より該プランタ群3側の領域」をも被覆する。しかるに,審決が,その
ような被覆領域を有しないと認定した点には,誤りがある。
引用例の【図1】(別紙「引用例図面」の【図1】)においても,仕切部5
とプランタ3との間には若干の隙間が空いており,仕切部5をプランタ3により
近づけて設置すれば,突出部5aは,おのずと,プランタ3群の外周縁の上端部
よりプランタ3群側の領域を被覆することになるから,そのような被覆態様も含
まれるものといえる。
以下のとおり,被覆対象物の外周縁の上端部より被覆対象物側の領域を被覆す
るという技術は周知である。たとえば,甲2−1発明の「突出部5a」に相当す
る部材を示した文献として,実願平2−63005号(実開平4−21242
号)のマイクロフィルム(甲4,第2図)の「上板121」,特開平8−890
88号公報(甲7,【図2】)の「鉤部12a」,実開昭59−130593号
公報(甲8,第2図)の「笠木部5」及び実開昭63−167843号公報(甲
9,第3図)の「張出し状被覆部3」が存在する。これらの文献では,被覆対象
物の外周縁の上端部より被覆対象物側の領域をも被覆している。
そうすると,被覆部に係る前記周知技術を参酌するならば,引用例には,
甲2−1発明の「突出部5a」が,プランタ3群の外周縁の上端部よりプランタ
3群側の領域を被覆することを示していると認定するのが自然である。
(2)取消事由2(相違点の認定の誤り)
ア相違点アの認定の誤り
審決は,「植栽容器が,特許発明1は,『凹型のセルを有するマットフ
レーム内に植物育成材を設けてなる植栽マット』であり,複数のそれら
が,載置部としての『敷設面』に『敷き詰め』られているのに対し,甲2
−1発明は,『凹型構造内に植物育成材を設けてなる植物育成材入りプラ
ンタ』であり,複数のそれらが載置部に『載置』されている点。」を相違
点(相違点ア)として認定した(審決書12頁17行∼21行)。
しかし,審決の相違点アに係る認定は,次のとおり,誤りである。
(ア)まず,植栽マット(植物育成材入りプランタ)の位置関係について
は,前記主張のとおり,甲2−1発明も,複数の「プランタ」が「敷き
詰め」られるものであるから,その点で特許発明1との相違はない。
(イ)また,「凹型のセルを有するマットフレーム内に植物育成材を設け
てなる植栽マット」と「凹型構造内に植物育成材を設けてなる植物育成
材入りプランタ」とが相違するとの点に関しては,審決は,「特許発明
1の『セルを有するマットフレーム』について,訂正明細書等の記載を
参酌すると,発明のいずれの実施形態においても,一つの『マットフレ
ーム』が互いに連設する複数の『セル』を有するものであることから,
特許発明1の『植栽マット』と,甲2−1発明の『植物育成材入りプラ
ンタ』は,一つの『植栽マット』及び『植物育成材入りプランタ』の有
する凹型構造の数も,各凹型構造同士の構造的な関係においても異なる
ものである。」(審決書12頁下から7行目∼12頁下から2行)と認
定した。
しかし,特許発明1の「植栽マット」について,「マットフレーム」
に「セル」が複数設けられるものに限られるものではない。
すなわち,本件訂正後の請求項1には,「セル」を複数とする旨の記
載はない。また,本件訂正明細書には,「尚,植栽マットは,底部近傍
に開口部を有する凹型のセルが設けられ,該セルを互いにリブで連設し
てなるマットフレームと,該セル内に敷設されたフィルターと,該セル
内で該フィルター上に形設された植物育成材からなるものとしてもよ
い。・・・」(甲14の4,段落【0008】)と記載され,複数のセ
ルが連設される形態は,あくまでも選択的であるとされている。
したがって,特許発明1の「凹型のセルを有するマットフレーム内に
植物育成材を設けてなる植栽マット」と,甲2−1発明の「凹型構造内
に植物育成材を設けてなる植物育成材入りプランタ」との間に相違はな
い。
(ウ)なお,審決は,相違点アに関連して,「容易且つ短時間に敷設等を
行うことができる。」との点を特有の効果として認定する。しかし,こ
のような効果は,引用例に,「また,載置部4に,植物2が植えられた
プランタ3を載置するだけで,バルコニーや屋上に容易に植栽が施さ
れ,また,プランタ3を取り替えるだけで,容易に植替が可能とな
る。」(甲2の1,段落【0009】,なお段落【0031】,【00
33】も同旨)と記載されているとおり,甲2−1発明も奏する効果で
あり,特許発明1に特有の効果ではない。
イ相違点イの認定の誤り
審決は,「『被覆部で被覆する』領域について,特許発明1は,植栽容
器群と框の側壁間の隙間に加えて,『植栽マット群の外周縁の上端部より
該植栽マット群側の領域』をも被覆するのに対し,甲2−1発明では,そ
のような被覆領域を有さない点。」を相違点(相違点イ)として認定した
(審決書12頁22行∼25行)。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。
(ア)取消事由1で主張したとおり,甲2−1発明も,「突出部5a」が
「プランタ群3の外周縁の上端部より該プランタ群3側の領域」をも被
覆するので,この点で特許発明1との相違はない。
(イ)審決は,相違点イに関連して,「框による植栽マット群の美観を高
める」との点を特有の効果として認定する。しかし,このような効果
は,引用例に「・・・プランタ3自体は仕切部5によって隠され,・・
・美しい景観となる。」(甲2の1,段落【0008】。また,段落
【0031】,【0033】も同旨)と記載されているとおり,甲2−
1発明も奏する効果であり,特許発明1に特有の効果ではない。
(3)取消事由3(特許発明2に係る相違点認定の誤り)
審決は,「特許発明2は框を敷設面に固定して配設し,框で敷き詰めた植
栽マット群の位置ずれを防止するものである点で,甲2−1発明と相違す
る。」(審決書13頁下から4行∼下から2行)と認定する。
しかし,審決の認定は誤りである。甲2−1発明においても,「仕切部
5」は固定され,そのため,「プランタ群3」の位置ずれを防止することが
できる。すなわち,引用例の「仕切部5」は,「下面側には段部5bが形成
されており,この段部5bには,前記床面1に敷設された床材10の縁部が
挿入されて,該床材10の縁部の見切りが行われるとともに,段部5bを床
材10に当接させることで,仕切部5が床面1上に,倒れることなく安定的
に設けられている。」(甲2の1,【図1】,段落【0024】)のであ
り,「仕切部5」は,床材10によって移動が規制され,結果的に床面1に
固定された態様となる。また,そのために,「仕切部5」は,「プランタ群
3」の位置ずれを防止する。
したがって,特許発明2が甲2−1発明と相違するとした審決の認定には
誤りがある。
2被告の反論
(1)取消事由1(甲2−1発明の認定の誤り)に対し
アプランタ3の「載置」に係る認定の誤りに対し
原告は,甲2−1発明における複数の「プランタ3」は,「敷き詰め」ら
れるものであるといえるから,単に「載置」されるものであるとした審決の認定
は,誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,次のとおり,理由がない。
すなわち,甲2−1発明において載置される複数の用土入りプランタ3
は,以下の理由により,隣接するプランタ3との間に空隙があり,それら
は特許発明1の敷き詰められる状態ではないといえる。
まず,引用例の【図1】,【図2】,【図4】及び【図5】(別紙「引用
例図面」の【図1】,【図2】,【図4】及び【図5】参照)において,プ
ランタ3は,隙間の空いた状態で載置されており,敷き詰められた配置は
示されていない。
「載置」との文言は,敷き詰めることを意味しない。また,引用例にお
いても,「敷き詰める」との文言は,「載置」の文言とは区別されて,空
隙なく敷設するという意味で,床材ユニットピースの敷設について使用さ
れている(段落【0029】の4行目,段落【0030】の8行目)。
イ突出部5aの被覆領域に係る認定の誤りに対し
原告は,甲2−1発明においては,仕切部5の突出部5aがプランタ群
3の外周縁の上端部より該プランタ群3側の領域をも被覆することが開示
されていると主張する。
しかし,原告の主張は,次のとおり,理由がない。
まず,引用例には,図面も含めて,原告主張のような記載はない。引用
例の【図1】には,原告が自認するとおり,「突出部5a」がプランタ3
の外周縁の上端部までしか突出していない状態が【図1】に記載されてい
る。原告の主張は,【図1】に係る自認部分と矛盾し,失当である。
また,引用例には,「一方,プランタに植えられた植物は仕切部から上
方に突出しているので,観賞することができ」(段落【0033】【発明
の効果】)と記載されており,甲2−1発明の突出部5aは,植物が上方
に突出することを妨害することのないように,植物が植えられたプランタ
3の領域の外に配置されることを示しているから,上端部から植物が植え
られている領域へはみだして被覆することは開示されていない。
なお,原告は,甲2−1発明において,仕切部5をプランタ3により近
づけて設置すれば,突出部5aは,おのずとプランタ3の外周縁の上端部
よりプランタ3側の領域を被覆することになると主張する。しかし,甲2
−1発明に開示されていない事項を前提に仮説的な議論をするものであっ
て,失当である。
(2)取消事由2(相違点の認定の誤り)に対し
ア相違点アの認定の誤りに対し
原告は,甲2−1発明における複数の「プランタ3」は,「敷き詰め」ら
れるものであるといえるから,単に「載置」されるものであるとした審決の認定
は,誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,理由がない。
(ア)甲2−1発明
前記(1)アのとおり,甲2−1発明において載置される複数の用土入り
プランタ3は,以下の理由により,隣接するプランタ3との間に空隙が
あり,それらは特許発明1の敷き詰められる状態ではないといえる。
(イ)本件訂正明細書(甲1)
①特許発明の請求項においては,「敷き詰める」と記載されている
が,「敷き詰める」の用語の通常の意味は,「①強いて押さえつけ
る。②一面に敷く。」と説明されているから(広辞苑第4版),「植
栽マットを敷設面に複数敷き詰める」ことは,複数の植栽マットを空
隙を生ずることなく敷設面に敷くことを意味すると理解される。
②本件訂正明細書(甲1)には,「敷き詰め」に係る記載がある。
すなわち,「本敷設方法は,敷設面20に貯水槽トレー28を敷設
した後,植栽マット1を貯水槽トレー28内に敷き詰める際に,植栽
マット1の隣接相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成す
るように敷き詰め,・・・」(段落【0092】),「図33の如
く,給水管配設用空間部22を形成したときに曲がり部22aを有す
る場合,所定の大きさである1種類の貯水槽トレー28を敷き詰めた
後,その貯水槽トレー28内に給水管配設用空間部22を形成し得る
3種類の大きさのA,B,Cのマットフレーム2を組み合わせて敷設
することにより,潅水装置配設用空間22以外の空隙を生ずることな
く,マットを敷き詰めることができる(段落【0094】),「敷き
詰め」に係る文言が記載されている(段落【0075】,【008
2】,【0086】,【0099】,【0104】)。
これらの記載によれば,「敷き詰め」とは,複数の植栽マットを空
隙を生ずることなく敷設面に敷くことを意味しているものと理解され
る。
③原告は,本件訂正明細書に「隣接する植栽マット1の相互間に所要
経路の給水管配設用空間部22を形成するように敷き詰める。」(甲
14の4,段落【0058】)との記載をもって特許発明1の「敷き
詰める」とは空隙を生じて敷設面に敷く態様をも含むものと解される
旨主張する。
しかし,当該記載は,植栽マット1の配置方法を説明したものであ
ることは,「植栽マット1を敷き詰める際に」との記載(上記段落
【0058】)であり,【図20】(別紙「本件訂正明細書図面」の
【図20】参照)に示される給水管配設用空間部22間に配置される9
枚の植栽マット1を隣接配置する方法として空隙なく植栽マット1を
敷き詰める態様を述べたものであって,原告が主張するような意味に
おいて説明したものではない。
(ウ)以上のとおり,審決が認定した特許発明1と甲2−1発明との相違
点アに誤りはなく,相違点は実質的な相違であるとする点においても誤
りはない。
イ相違点イの認定の誤りに対し
原告主張の取消事由2の相違点イの認定の誤りは,取消事由1のイ(突
出部5aの被覆領域に係る認定の誤り)と実質的に相違点はないとの主張
であるから,前記主張のとおり,原告の主張は,理由がない。
(3)取消事由3(特許発明2に係る相違点認定の誤り)に対し
審決の特許発明2と甲2−1発明との対比に関してした認定に誤りはな
く,原告の主張は失当である。原告は,甲2−1発明においては仕切部5が
固定されていると主張するが,甲2−1発明にはそのような記載は一切な
く,原告主張の事実をうかがわせるような記載もない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下に述べるとおり,審決のした相違点の認定には誤りがあり,
取消事由2及び3に係る原告の主張は理由があると判断する。
1取消事由2(相違点アの認定の誤り)について
(1)審決は,相違点アとして,「植栽容器が,特許発明1は,『凹型のセルを
有するマットフレーム内に植物育成材を設けてなる植栽マット』であり,複
数のそれらが,載置部としての『敷設面』に『敷き詰め』られているのに対
し,甲2−1発明は,『凹型構造内に植物育成材を設けてなる植物育成材入
りプランタ』であり,複数のそれらが載置部に『載置』されている点。」
(審決書12頁17行∼21行)と認定し,実質的に相違する理由として,
次の2点を挙げる。すなわち,
ア「特許発明1の『セルを有するマットフレーム』について,訂正明細書
等の記載を参酌すると,発明のいずれの実施形態においても,一つの『マ
ットフレーム』が互いに連設する複数の『セル』を有するものであること
から,特許発明1の『植栽マット』と,甲2−1発明の『植物育成材入り
プランタ』は,一つの『植栽マット』及び『植物育成材入りプランタ』の
有する凹型構造の数も,各凹型構造同士の構造的な関係においても異なる
ものである。」(審決書12頁30行∼35行),
イ「更に,特許発明1の複数の『植栽マット』は『敷き詰め』られた関係
で載置されているのに対し,甲2−1発明の『植物育成材入りプランタ』
は,各プランタが当該特定の位置関係を伴わずに単に『載置』されている
点でも異なる。」(審決書12頁末行∼13頁3行)
しかし,審決の認定は,次のとおり誤りである。
(2)凹型構造の数及び構造的な関係において相違するとした点について
まず,特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1においては,「セル」
を複数のものに限るとの記載はない。
また,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」にも,「セル」を複数のも
のに限るとする記載はない。かえって,本件訂正明細書(甲14の4)の段
落【0008】【課題を解決するための手段】には,「尚,植栽マットは,
底部近傍に開口部を有する凹型のセルが設けられ,該セルを互いにリブで連
設してなるマットフレームと,該セル内に敷設されたフィルターと,該セル
内で該フィルター上に形設された植物育成材からなるものとしてもよい。」
と記載があり,同記載によれば,「セル」を連接する形態は,あくまでも選
択的な事項であると理解するのが自然である。
そうすると,特許発明1において一つの「マットフレーム」が互いに連設
する複数の「セル」を有するものに限られることを前提にして,特許発明1
の「植栽マット」と,甲2−1発明の「植物育成材入りプランタ」とは,一
つの「植栽マット」及び「植物育成材入りプランタ」の有する凹型構造の数
及び各凹型構造同士の構造的な関係において,相違するとした審決の認定
は,誤りである。
(3)特許発明1の「敷き詰め」と甲2−1発明の「載置」が相違するとした
点について
ア特許発明1
(ア)本件訂正明細書の記載
本件訂正明細書(甲14の4)には,「敷き詰め」について,以下の
記載がある。
「【0057】さらに,上記保水層21上に給水管を配設する実施形態
について説明する。図19(a)は保水層上に植栽マットを敷設して給水
管を配設する場合の平面図,同図(b)は上記実施形態のE−E線断面図
である。【0058】本敷設方法では,敷設面20に平面状の保水層2
1を形成した後,植栽マット1を敷き詰める際に,隣接する植栽マット
1の相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成するように敷き
詰める。・・・」
「【0092】本敷設方法は,敷設面20に貯水槽トレー28を敷設し
た後,植栽マット1を貯水槽トレー28内に敷き詰める際に,植栽マッ
ト1の隣接相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成するよう
に敷き詰め,該空間部22に貯水槽トレー28の側面上端部28a又は
切り欠き凹部32(図示せず)で保持して給水管24を配設し,該空間
部22の給水管24の上方から,マットフレーム2のリブ5と略同一平
面を形成するカバー部材25を設けるものである。・・・」
「【0094】図33の如く,給水管配設用空間部22を形成したとき
に曲がり部22aを有する場合,所定の大きさである1種類の貯水槽ト
レー28を敷き詰めた後,その貯水槽トレー28内に給水管配設用空間
部22を形成し得る3種類の大きさのA,B,Cのマットフレーム2を
組み合わせて敷設することにより,潅水装置配設用空間22以外の空隙
を生ずることなく,マットを敷き詰めることができる。」
(イ)「敷き詰め」の意義
上記記載によれば,特許発明1において,「敷き詰め」の語は,隣接
する植栽マット1の相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成
し得る隙間が存在する配置を含めた意味で用いられている。
この点につき,被告は,「敷き詰め」との語は,【図19】(別紙
「本件訂正明細書図面」の【図19】参照)ではなく,【図20】(同
別紙図面の【図20】参照)に示される給水管配設用空間部22間に配
置される9枚の植栽マット1を隣接配置する方法として,空隙なく植栽
マット1を敷き詰める態様を示したものと主張する。しかし,被告の主
張は,本件訂正明細書の「潅水装置配設用空間22以外の空隙を生ずる
ことなく,マットを敷き詰めることができる」(段落【0094】)な
どの記載に反し,採用の限りでない。
イ甲2−1発明
(ア)引用例の記載
引用例(甲2の1)には,プランタ3の配置について,以下の記載が
ある。
「【0002】【背景の技術】建物の屋上,バルコニー等を緑化する場
合,例えば,レンガ,ブロック,コンクリート等で枠組みをして,この
枠組内に庭土を投入して均し,ここに植栽を施したり,あるいは,前記
屋上やバルコニーに,単に,植物が植えられたプランタ等を適当に配置
したりしている場合が多い。【0003】【発明が解決しようとする課
題】ところが,前者の場合,庭土はそれが多量になると,庭土をバルコ
ニー等にクレーン等を利用して搬入しなければならないので,かなり大
掛かりなものとなり,また,庭土を入れた場合,そこに植栽を施した
り,また,それを植替るのに手間がかかっていた。一方,後者の場合,
植物が植えられたプランタ等を適当に配置しているだけであり,しかも
プランタ自体が見えるので,雑然としたイメージとなり易く,花壇のよ
うな景観の美しいものとするのは困難であった。【0004】本発明は
上記事情に鑑みてなされたもので,建物の屋上,バルコニー等を容易に
緑化するとともに,景観の美しいものとすることができるバルコニー等
の緑化構造を提供することを目的としている。【0005】【課題を解
決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の請求項1のバ
ルコニー等の緑化構造は,例えば図1に示すように,バルコニーまたは
屋上の床面1を防水処理し,この防水処理した床面上の一部に,植物2
が植えられたプランタ3を載置し,このプランタ3が載置された載置部
4と,その他の床面1aとの境界部に,前記プランタ3より高い仕切部
5を設けたものである。」
また,引用例の【図1】ないし【図5】(別紙「引用例図面」の【図
1】∼【図5】)においても,プランタ3が整然と載置されている様子
が認められる。
(イ)「載置」の意義
上記記載によれば,甲2−1には,従来の屋上,バルコニー等の緑化
においては,植物の植えられたプランタ等を適当に配置することから,
プランタも同時に見えることによって,美しい景観にすることが困難で
あるという問題点を解決するため,プランタより高い仕切部を設ける発
明が記載されている。
ウ小括
(ア)以上のとおり,特許発明1においては,給水管配設用空間部22を
形成し得るような「隙間」が存在する状態をも含めて,植栽マットを
「敷き詰める」と記載されているのに対し,甲2−1発明においても,
雑然としたイメージを排除して花壇のような美しい景観を造り出すよう
に「載置」することが記載されている。特許発明1の「敷き詰め」と,
甲2−1発明のプランタの「載置」との間に,格別の相違は存在しな
い。
なお,審決は,特許発明1には,「容易且つ短時間に敷設等を行うこ
とができるという甲2−1発明にはない新たな作用効果を奏する」(審
決書13頁5行,6行)とするが,甲2−1発明の「載置」と特許発明
1の「敷き詰め」とにおいて,相違がない以上,特許発明1に「敷き詰
め」ることに伴う格別の作用効果は存在しない。
(イ)被告は,引用例の【図1】,【図2】,【図4】及び【図5】にお
いては,プランタ3が隙間の空いた状態で載置されており,敷き詰めら
れて配置されていないから,特許発明1の敷き詰められた状態とは異な
る旨主張する。しかし,特許発明1においても,「給水管配設用空間部
22」の隙間が存在する状態をも含めた意味で「敷き詰める」との語が
用いられているから,この点の被告の主張は採用できない。
また,被告は,引用例において,床材ユニットピースの敷設について
「敷き詰める」との語が,プランタ3に係る「載置」と区別して用いら
れているから,特許発明1の「敷き詰める」配置態様とは同一といえな
い旨主張する。
しかし,被告の主張は,他の明細書における「敷き詰める」がどのよ
うな意味で用いられたかが,特許発明1の語の解釈に,直ちに影響を与
えるものではないから,被告の主張は,その主張自体失当である。のみ
ならず,引用例の記載に照らしても,被告の主張は,理由がない。
すなわち,引用例(甲2の1)には,以下の記載がある。
「【0029】前記床材10は,前記プランタ3が載置された載置部4
以外の床面1aに,前記防水シート6上から敷設されたもので,多数の
床材ユニットピース10a・・・を前記床面1a上に敷き詰めることに
よって構成されている。・・・」,「【0030】このように,前記床
面1aに床材10を敷設すれば,床面1aに敷設された防水シート6が
床材10によって覆われて保護されるので,該防水シート6の劣化を防
止することができ,また,人の出入りや物の搬入,搬出等の際における
防水シートの損傷を防止することができる。また,前記床材10は多数
の床材ユニットピース10a…で構成されているので,これら床材ユニ
ットピース10aを所定枚数敷き詰めることによって,床面1aの平面
的な形状,大きさに対応した床材10を容易に敷設することができ
る。」
以上のように,引用例では,「床材ユニットピース10a」の配置に
関して,床面1aに敷設された防水シート6を床材10によって覆って
保護する程度にまで配置する態様を指して,「敷き詰める」と表現して
いることに照らすならば,「敷き詰める」の語は,隙間が存在しないと
いう意味で用いられ,【図1】等で示される程度の隙間が存在するプラ
ンタ3の配置とは区別していると理解できる。
そうすると,同じ「敷き詰める」との語であっても,特許発明1にお
いては,「給水管配設用空間部22」の隙間が存在する状態をも含めた
意味に用いられているのに対し,引用例においては,隙間が存在しない
との意味で用いられているのであり,引用例において区別されているこ
とことを理由として相違点を認定することは,相当でない。
2取消事由2(相違点イの認定の誤り)について
審決は,相違点イとして,「『被覆部で被覆する』領域について,特許発明
1は,植栽容器群と框の側壁間の隙間に加えて,『植栽マット群の外周縁の上
端部より該植栽マット群側の領域』をも被覆するのに対し,甲2−1発明で
は,そのような被覆領域を有さない点。」(審決書12頁22行∼25行)と
認定し,実質的に相違する理由として,同相違点によって,特許発明1は,框
による植栽マット群の美観を高めるという甲2−1発明にはない新たな作用効
果を奏する(審決書13頁11行∼19行)とした。
しかし,審決の認定は,次のとおり誤りである。
(1)引用例の「仕切部5」について
ア引用例の記載
引用例(甲2の1)には,「仕切部5」について,以下の記載がある
(注下線は,当裁判所において付した。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】バルコニーまたは屋上の床面が防水処理され,この防水処
理された床面上の一部に,植物が植えられたプランタが載置され,このプ
ランタが載置された載置部と,その他の前記床面との境界部に,前記プラ
ンタより高い仕切部が設けられていることを特徴とするバルコニー等の緑
化構造。」
「【0007】前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,かつ,該プラ
ンタに植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成されたもので,前記
境界部に沿って延在するようにして設けられる。・・・」
「【0008】請求項1のバルコニー等の緑化構造にあっては,バルコニ
ーあるいは屋上の床面1の一部に設けられた載置部4に,植物2が植えら
れたプランタ3を載置することによって,該プランタ3自体は前記仕切部
5によって隠され,一方,プランタ3に植えられた植物2は仕切部5から
上方に突出しおり,しかも,該植物2は仕切部5によって,載置部4以外
...
の床面1aから分離しているので,あたかも花壇に植えられた植物のよう
に美しい景観となる。」
「【0024】前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,かつ,該プラ
ンタ3に植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成されたもので,前
記境界部に沿って延在するようにして設けられている。また,前記仕切部
5は,図1に示すように,内部が中空に形成された樹脂製のもので,その
上部には,前記載置部4側に突出する突出部5aが,仕切部5の長手方向
に延在するようにして形成されており,この突出部5aによって,仕切部
5と,前記載置部4に該仕切部5と隣接して配置されたプランタ3との隙
間を隠すようになっている。」
「【0031】上述したように,本例のバルコニー等の緑化構造によれ
ば,バルコニーの床面の一部に設けられた載置部4に,植物2が植えられ
たプランタ3を載置することによって,図8に示すように,該プランタ3
自体は前記仕切部5によって隠され,一方,プランタ3に植えられた植物
2は仕切部5から上方に突出しているので,該植物2を観賞することがで
き,しかも,該植物2は仕切部5によって,載置部以外の床面1aから分
離しているので,あたかも花壇に植えられた植物2のように観え,美しい
景観を造りだすことができる。また,前記載置部4に,植物2が植えられ
たプランタ3を載置するだけでバルコニー容易に植栽を施すことができ,
..
また,プランタ3を取り替えるだけで,植栽を容易に植替ることができ
る。」
また,【図1】(別紙「引用例図面」の【図1】参照)では,突出部5
aが載置部4側に突出し,この突出部5aによって,仕切部5と,前記載
置部4に該仕切部5と隣接して配置されたプランタ3との隙間を隠すよう
な図が示され,突出部5aの端部がプランタ3の外周縁の上端部まで達し
ていること,そのため,バルコニー等に立つ者からは,プランターが見え
ないような図が示されている(別紙「引用例図面」の【図4】,【図8】
参照)。
イ判断
(ア)上記の記載によれば,プランタ3より高い仕切部5は,バルコニー
などに立つ者から,プランタ3を隠すために設けられるものであり,甲
2−1発明は,仕切部5を設けることにより,植物2を花壇に植えられ
たかのように見せ,美しい景観を造り出すことができるようにした発明
である。
このような甲2−1発明の目的に照らすならば,突出部5aは,プラ
ンタ3をバルコニーなどに立つ者から隠れるような位置に配置されるこ
とは必須であるが,それをもって足りるのであって,プランタ3の外周
縁の上端部を被覆しないことまでも必須であると解することはできな
い。
このような理解は,①「建物の屋上,バルコニー等を容易に緑化する
・・・ことができる」(甲2の1【0004】)と記載され,「容易」
に作業ができることが強調されていることに照らすならば,突出部5a
をプランタ3の外周縁の上端部を被覆しないような位置のみに配置する
ことを必須のものと解することは,不自然であること,②実願平2−6
3005号(実開平4−21242号)のマイクロフィルム(甲4,第2図)
の「上板121」,特開平8−89088号公報(甲7,【図2】)の「鉤部
12a」,実開昭59−130593号公報(甲8,第2図)の「笠木部5」
及び実開昭63−167843号公報(甲9,第3図)の「張出し状被覆部
3」が示されていることに照らすならば,被覆対象物の外周縁の上端部
より被覆対象物側の領域を被覆することの方が自然であることと整合す
る。
(イ)この点に関し,被告は,引用例には,「一方,プランタに植えられ
た植物は仕切部から上方に突出しているので,観賞することができ」
(段落【0033】)と記載されているから,突出部5aは,植物が上
方に突出することを妨害することのないように,植物が植えられたプラ
ンタ3の領域の外に配置されることを示していると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,突出部
5aの高さについては,「前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,
かつ,該プランタ3に植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成さ
れたもので,」(段落【0024】)と記載によれば,高さ方向のみで
はなく,水平方向においても,突出部5aが,プランタ3における植物
が上方に突出することを妨害しない範囲内であれば,プランタ3群側に
突出してプランタ3と仕切部5の側壁との隙間を被覆することも許容され
るものと解される。上記記載部分が,突出部5aのプランタ3群側への
突出がないことを必須のものとすると理解することはできない。
(2)以上によれば,相違点イについての審決の認定は誤りである。
3取消事由3(特許発明2についての相違点認定の誤り)について
審決は,特許発明2と甲2−1発明とは,上記相違点ア及び相違点イと同様
の点で相違する外,「特許発明2は框を敷設面に固定して配設し,框で敷き詰
めた植栽マット群の位置ずれを防止するものである点」(審決書13頁下から
4行,3行。以下「相違点ウ」という。)において相違すると認定した。
しかし,審決の上記認定は,次のとおり,誤りである。
相違点ウに関して引用例(甲2の1)には,以下の記載がある。
「【0024】前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,かつ,該プランタ
3に植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成されたもので,前記境界部
に沿って延在するようにして設けられている。また,前記仕切部5は,図1に
示すように,内部が中空に形成された樹脂製のもので,その上部には,前記載
置部4側に突出する突出部5aが,仕切部5の長手方向に延在するようにして
形成されており,この突出部5aによって,仕切部5と,前記載置部4に該仕
切部5と隣接して配置されたプランタ3との隙間を隠すようになっている。さ
らに,前記仕切部5の下面側には段部5bが形成されており,この段部5bに
は,前記床面1に敷設された床材10の縁部が挿入されて,該床材10の縁部
の見切りが行われるとともに,段部5bを床材10に当接させることで,仕切
部5が床面1上に,倒れることなく安定的に設けられている。」
上記の記載によれば,甲2−1発明においても,仕切部5は床材10によっ
てその移動が規制される結果,床面1に固定されるものであると認められ,そ
のため,仕切部5がプランタ3の位置ずれを防止することができるものである
といえる。
そうすると,相違点ウに関し,特許発明2と甲2−1発明は相違するとはい
えず,両者は位置ずれが防止される点でも同一であり,その点に相違があると
した審決の認定判断は誤りである。これに反する被告の主張は採用の限りでな
い。
なお,前記(1)及び(2)で説示したとおり,相違点ア及びイが相違点であると
はいえないから,これを実質的な相違点であることを前提とした点において,
前記審決の認定判断には,誤りがある。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由2及び3は理由があるから,審決を取り
消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗
(別紙)本件訂正明細書図面
(別紙)引用例図面

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