弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
         原判決中上告人らに関する部分を破棄し,同部分に関する第1
審判決を取り消す。
       上記取消部分につき,本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人和久田修,同國廣正,同五味祐子,同寒竹里江の上告受理申立て理由
第1について
 1 本件の甲事件は,中小企業等協同組合法に基づき設立された信用協同組合で
あるK信用組合(以下「訴外信組」という。)の組合員である上告人A1が,訴外
信組はL商事株式会社及びそのグループ会社に対してした融資によって損害を被っ
たが,それは訴外信組の当時の理事で融資を担当した本店長であったB1及び当時
の代表理事であったKの忠実義務違反によるものであるとして,B1及びKの相続
人であるB2(選定当事者)に対し,同法42条において準用する商法267条に
基づき,訴外信組へ損害の賠償をするよう求める訴訟である。また,本件の乙事件
は,訴外信組の組合員である上告人A2及び同A3が,中小企業等協同組合法42
条において準用する商法268条2項に基づき,上告人A1と同じ請求をするため
に甲事件の訴訟に参加したものである。
 記録によれば,訴外信組は,甲事件及び乙事件が第1審に係属中の平成12年1
2月16日,金融再生委員会から,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律
(以下「金融再生法」という。)8条1項に基づき金融整理管財人による業務及び
財産の管理を命じられ,L及びMが金融整理管財人に選任された。
 2 原審は,次のとおり判断して,上告人A1の本件訴え並びに上告人A2及び
同A3の本件各参加申出をいずれも不適法として却下した第1審判決を是認し,上
告人らの控訴をいずれも棄却した。
 金融再生法は,金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分があった
ときは,被管理金融機関を代表し,業務の執行並びに財産の管理及び処分を行う権
利は金融整理管財人に専属する旨を定めるとともに,金融整理管財人は,被管理金
融機関の取締役,理事等又はこれらの者であった者の職務上の義務違反に基づく民
事上の責任を履行させるため,訴えの提起その他の必要な措置をとらなければなら
ない旨を定めている(同法11条1項,18条1項)。このような規定に照らせば
,信用協同組合が金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けた
後は,理事の責任を追及する権限は金融整理管財人に専属し,組合員は,組合員代
表訴訟を提起し,又は同訴訟に参加する資格を失う。このことは,金融整理管財人
による業務及び財産の管理を命ずる処分の時期が,組合員代表訴訟の提起又は参加
の申出の後であった場合においても同じであると解するのが相当である。そうする
と,上告人A1の本件訴え並びに上告人A2及び同A3の本件各参加申出は,事後
的に金融整理管財人が選任されたことによりいずれも不適法なものとなったという
べきであり,却下すべきものである。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
金融整理管財人は,あくまでも被管理金融機関を代表し,業務の執行並びに財産の
管理及び処分を行うのであり(金融再生法11条1項),被管理金融機関がその財
産等に対する管理処分権を失い,金融整理管財人が被管理金融機関に代わりこれを
取得するものではない。この点において,金融整理管財人は,会社更生手続等にお
ける管財人等とは,法的地位を異にするものである。会社更生手続においては,更
生手続開始の決定があると,会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分をする権
利は,管財人に専属し(会社更生法53条),会社の財産関係の訴えについては,
管財人を原告又は被告とし(同法96条1項),既に係属中の訴訟の手続は,中断
し(同法68条),管財人と相手方との間で受継が行われる(同法69条1項)。
民事再生手続においては,管理命令が発せられると,再生債務者の業務の遂行並び
に財産の管理及び処分をする権利は,管財人に専属し(民事再生法66条),再生
債務者の財産関係の訴えについては,管財人を原告又は被告とし(同法67条1項)
,既に係属中の訴訟の手続は,中断し(同条2項),管財人と相手方との間におい
て受継が行われる(同条3項)。また,破産手続においては,破産財団の管理及び
処分をする権利は,破産管財人に専属し(破産法7条),破産財団に関する訴えに
ついては,破産管財人を原告又は被告とし(同法162条),既に係属中の訴訟は
,中断し(民訴法125条1項),破産管財人と相手方との間において受継が行わ
れる(破産法69条1項)。一方,金融再生法には,金融整理管財人の被管理金融
機関に代わっての財産等管理処分権並びに訴訟手続における当事者適格,中断及び
受継に関する規定がないのである。これは,金融整理管財人が被管理金融機関を代
表する地位にあるからである。
 金融再生法18条1項は,「金融整理管財人は,被管理金融機関の取締役若しく
は監査役又はこれらの者であった者の職務上の義務違反に基づく民事上の責任を履
行させるため,訴えの提起その他の必要な措置をとらなければならない。」と規定
しているが,これは,金融整理管財人は被管理金融機関を代表する立場でこれらの
措置をとらなければならないという趣旨であって,訴えの提起についても,金融整
理管財人は,当事者としてではなく,被管理金融機関の代表者として訴訟を追行す
ることになるのである。訴えの当事者は,あくまでも被管理金融機関である。
 したがって,【要旨】信用協同組合の組合員は,当該信用協同組合に対し金融整
理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分がされても,中小企業等協同組合
法42条において準用する商法267条に基づき,「当該信用協同組合のため」組
合員代表訴訟を提起することができる。そして,組合員代表訴訟が既に係属中に,
上記の処分がされても,当該訴えを提起した組合員は,訴訟を追行する資格又は権
限を失うものではない。また,中小企業等協同組合法42条において準用する商法
268条2項に基づく組合員又は信用協同組合の組合員代表訴訟に参加する資格も
,上記の処分により影響を受けるものではないと解すべきである。金融整理管財人
としては,必要に応じて,組合員代表訴訟の推移を見守り,又は被管理信用協同組
合を代表して同訴訟に参加することができるものというべきである。
 4 以上によれば,論旨は理由があり,これと異なる原審の前記判断には,判決
に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中上告人らに関する部分
は破棄を免れない。そして,同部分に関する第1審判決を取り消した上で,同取消
部分につき本件を第1審に差し戻すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 島田仁郎)

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