弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の上告趣意について
 論旨の(一)は原判決が証拠として挙示した所論告発書中の記載を捉えて右告発
が所論指摘の憲法の各条規に違反するものなりとし原判決が右告発書を採証したこ
とを非難するに帰する。しかし第一審公判において検察官は所論告発書の取調請求
をしたところ被告人及び弁護人は右証拠調の請求については別に意見はないと述べ
たので証拠調が実施されたのである。そして右の証拠調実施後裁判官から意見があ
るか否を問われたところ被告人及び弁護人は「いずれもない」と述べたのである。
右の如く被告人及び弁護人が証拠調の請求及び証拠調実施後裁判官から意見を問わ
れた際に別に意見はないと述べた場合には刑訴三二六条にいわゆる「被告人が証拠
とすることに同意した」ものと認められるのであるから右告発書が作成されたとき
の情況を考慮し相当と認めるときはこれを証拠とすることができるのである。本件
告発書は西茨城地方事務所長作成にかかるものであり公吏たる地方事務所長が職務
上犯罪があると思料して告発したものであるから原審は右告発書の作成されたとき
の情況を考慮し相当と認めてこれを採証したものであることは明らかである。従つ
て原判決がこれを他の挙示の証拠と綜合して判示事実を認定したのは正当であり、
論旨は適法な上告理由とならない。
 論旨の(二)は原判決が証拠として挙示した証人A、B、Cの証言の証明力を争
うに過ぎないものであるから適法の上告理由とならない。
 論旨(三)及び(四)も原判決の憲法違反を主張するものでないから適法な上告
理由とならない。
 弁護人中川真太郎の上告趣意第一点について
 論旨は供出の割当に対する異議申立を云々するが昭和二三年一二月一八日農林省
令一一五号(食糧管理法施行規則の一部を改正する等の省令)の附則二項には「改
正前の食糧管理法施行規則第一条第一項の米麦等で昭和二十三年産のものについて
は改正前の食糧管理法施行規則第一条、第二条、第三条第一項……の規定はこの省
令施行後もなおその効力を有する」と規定しており本件は昭和二三年度産米の供出
であるから右規定により改正前の食糧管理法施行規則一条、三条一項が適用され食
糧確保臨時措置法(昭和二三年七月二〇日法律一八二号)の適用はないのである。
従つて本件については同法第六条に規定するが如き割当に対する異議申立権は認め
られていないのである。論旨が異議申立を云々するのは本件について異議申立権が
あることを前提とするものであるから論旨はその前提において既に誤りがある。又
論旨は憲法三六条違反を主張するが同法にいわゆる「残虐な刑罰」とは人道上残酷
と認められる刑罰を意味し裁判所が法律において許された刑を言渡した場合を指す
ものでないことは夙に当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三二三号、同二三年六
月三〇日大法廷判決)とするところであるから論旨はその理由がない。
 同第二点について
 しかし所論高等裁判所の判例は本件に適切なものではないから原判決が右判例と
相反する判断をしたものということはできない。また憲法二五条一項の法意は国家
は国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負
担しこれを国政上の任務とすべきであるとの趣旨であつてこの規定により直接に個
々の国民は国家に対して具体的現実的にかかる権利を有するものでないことは当裁
判所の判例(昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日大法廷判決)とするとこ
ろであるから原判決が被告人を有罪としたことをもつて右憲法の規定に反するもの
ということはできない。従つて論旨はその理由がない。
 なお本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴四〇八条、一八一条により主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二六年九月二八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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