弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人山下吉美三郎、同東垣内清の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主
張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、原判決は、刑訴法四
一一条一号、三号により破棄を免れない。その理由は、以下のとおりである。
 一 原判決の是認した第一審判決の認定した事実は、「被告人はA組系B組若頭
であるが、かねて親交のあるCが出入りしていた寝屋川市a町b番c号所在のdビ
ル内d株式会社(代表取締役E)の取引先が倒産した際、右Cの紹介で整理につい
て極道が介入してきたときの折衝役として昭和五五年二月頃より同社に出入りして
いたものであるが、右Cが娘の結婚費用等に窮したため、たまたま右Cが同社に土
地の登記名義を貸していたこと等を種に右Eから金員をゆすり取ろうとしているこ
とを打ち明けられ、ここに被告人は、右Cと共謀のうえ右Eより金員を喝取しよう
と企て、同年一〇月二六日頃、被告人は右Cに依頼され、同人及びFとともに前記
d株式会社事務所に赴き、同所において、右Eに対し、被告人より『おれがこの話
に入つてきたのになるような話をせんかい。お前はこれまでCを使うだけ使つてお
いて金を払わんと言うのか。Cはわしのところにいつも来ていてお前がどういうこ
とをやつているかも聞いているんや。おれの顔を立てて話をせんかい。わしに大き
な声を出さすな。』等と語気鋭く申し向けて金員の交付方を要求し、右要求に応じ
なければ右Eの身体及び同社の業務等に対しいかなる危害を加えるかもしれない気
勢を示して脅迫し、同人をその旨畏怖させ、よつて同人から右Cに対し、同月三一
日頃、右事務室において現金四〇〇万円、同年一一月一〇日頃、大阪府守口市ef
)g丁目h番地所在のG信用金庫H支店においてIを介し現金三〇〇万円、同月一
三日頃、右事務室において現金一〇〇万円の合計現金八〇〇万円を交付させ、もつ
て右金員を喝取したものである。」というものである。
 二 原判決は、被害者である第一審及び原審の証人Eの証言(以下「E証言」と
いう。)の信用性を全面的に肯定するとともに、E証言並びに第一審判決認定事実
に沿うF及び共犯者Cの検察官に対する各供述調書謄本、被告人の司法警察員及び
検察官に対する各供述調書を総合すれば、第一審判決の認定事実は十分にこれを認
めることができると判示し、有罪の第一審判決を是認している。しかしながら、所
論は、第一審判決認定事実に沿う被害を受けた旨のE証言は虚偽であると主張する
ので、以下E証言の信用性について検討する。
 三 第一審及び原審におけるE証言の要旨は、「昭和五五年一〇月中旬、Cがd
株式会社社長室で私に対し、『金が要るから、一応配当もらえないか。一五〇〇万
円ほど出せ。出さんかつたらi町の兄ちやん(被告人のことを指す。)にいうて話
をつけるぞ。暴力団来たらおまえとこの店もガタガタになるぞ。印鑑証明は一五〇
〇万円出したら持つてくる。』と言つてきた。当時、私は、J住宅やK工務店に対
する債権確保のため、担保権者としてCの名義を借り、抵当権等の登記をしており、
その登記の抹消のためCの印鑑証明が必要だつたので、そのことを口実に金を要求
していると思つたが、同人に金を出す理由は全くなかつたので断つたところ、同月
二〇日ごろ、Cがまた一人でやつてきて、『考えといてくれたか。利用するだけ利
用して、このままやつたらただで済まさんで。円満に解決したほうがええのと違う
か。あんたとこの店もガタガタになつたり、危害を加えられたりしたら困るんやで。
』と言つてきた。なお、この間、Cは、被告人のもとに電話をかけ、『今来てます
んや。話になりまへんわ。明日相談に行きます。』などと連絡していた。次いで、
同月二六日ころ、C、被告人及びFがd株式会社事務所にやつてきて、被告人が『
j町の土地の配当のことでCに一五〇〇万円払うたつてくれ。』と切り出し、Fが
席をはずした後、更に、『Cを利用したから配当出したらないかん。それだけしと
つたらええの違うか。お前の会社ガタガタになるで。おれに大きい声を出させるな。
』などと大きな声で怒鳴られた。
 j町の物件に関しては、Cになんらの権利もなく、支払わなければならない金員
は全くなかつたが、その場の雰囲気から、私の体をどこかに連れ去るのではないか
と恐怖し、家族のことも考えて話に乗ることにした。そこで、同月三一日にd株式
会社社長室でCに四〇〇万円を、一一月一〇日ごろ、G信用金庫H支店のガレージ
でCの弟であるIに三〇〇万円を、同月一三日ころ、社長室でCに一〇〇万円を渡
した。しかしながら、印鑑証明については、Cは第一回目に四〇〇万円受け取つた
ときには、『今日はちょつと持つて来へんかつたわ、すぐ持つて来るわ。』と言い
ながら、結局、一五〇〇万円の交付を受けない限り印鑑証明を渡さないと言い、私
もそれ以上支払えないので、八〇〇万円渡しただけで終わつた。なお、一回目の四
〇〇万円のときには、Cから受取証をもらつている。」というものである。
 四 前記j町所在物件をめぐる権利関係については、記録によれば、
 (1) 不動産業を営むFは、昭和五四年三月ころ、倒産したL株式会社(代表
者M)がその整理のため売りに出しているMら所有の土地・建物を買い取ろうとし
たが、暴力団が占拠するなどしていたためこれを思いとどまつていたところ、旧知
の不動産業者であるCが転売先があるとの情報を持ち込んだこともあり、ここに両
名は、転売による利ざや稼ぎを目的に、同年三月中旬、共同でMら所有名義の守口
市j町k丁目所在の土地六筆合計一六八三・四四平方メートル及び建物三棟を二億
一〇〇〇万円で買い受けることにし、あわせて、Mらが借地権を有していた守口市
j町所在のNら所有土地をも買い受けることにしたこと(Mら所有土地・建物及び
Nら所有土地をあわせ、以下「j町物件」という。)
 (2) しかしながら、先に転売先を見つけておいて購入資金を調達しようとし
た両名の計画が思うように進まなかつたため、Cの知人であるd株式会社代表取締
役Eに依頼して、右資金を工面することにし、両名は、Eから、同年四月、五月の
二回にわたつて、各一億円ずつ、合計二億円を、返済期日を同年七月末日、それま
での利息を四一〇〇万円とする約定で借り受け、Fにおいて、同人が代表取締役と
なつているO工務店振出の右元利金に相当する約束手形三通を差し入れたこと
 (3) C及びFは、所定の売買代金支払期日までに二億一〇〇〇万円を支払つ
て前記Mら所有物件を買い取り、C名義に所有権移転登記を済ませるとともに、転
売に努力し、同年七月に右物件の一部を代金約七五〇〇万円で売却し、右代金のう
ち約五二〇〇万円を前記Nら所有土地の購入残代金に充てたが、早期に大部分を転
売するという思惑を果たすことができず、Eに対して二一〇〇万円の金利の支払い
はしたものの、その余の元利金の返済はできなかつたこと、なお、両名は、Eから
の借入金を除き、物件買受代金及び登記等の費用として少なくとも合計約五二〇〇
万円を出捐していること
 (4) 右のような経過の後、C、F及びEは協議の結果、昭和五五年一月、j
町物件につきd株式会社に所有権移転登記手続をし、d株式会社がG信用金庫から
三億円の借入れをしたうえ、同金庫のため抵当権設定登記をし、そのころ、前記融
資の際にFが差し入れていたO工務店振出の約束手形三通は、EからFに返済され、
また、Cは、Eから、同年二月及び三月にj町物件に関し合計二〇〇〇万円を受け
取つたが、右金員は出資金返還の内金として支払われていること
 (5) Cは、昭和五五年一月以降もj町物件の販売等に奔走し、同年一〇月六
日ころ、d株式会社からPらに右物件の一部が売却された際にも、Fとともに、右
売却に関与していること
 (6) 被告人は、Cの依頼により、j町物件を占拠していた暴力団を立ち退か
せたが、同物件の買受け並びにC、F及びE間の同物件をめぐる交渉等については
関係していないことが窺われる。
 ところで、原判決は、j町物件の権利関係について、C及びFは、同物件の転売
が思うにまかせなかつたため、Eに対する借金を土地転売の金員で返済することを
断念し、やむなく売れ残つた土地を代物弁済に供したものであるから、d株式会社
名義に移転登記されたj町物件はd株式会社の所有に帰し、C、Fにおいて、それ
が共同資産に属するものであるとか、転売等それを共同運営する権利を有するもの
であるなどと主張しうる筋合のものではなく、また、右物件がd株式会社に移転登
記された後に、Cらがその販売に関与したことは仲介の域を出ないものである旨判
断している。
 しかしながら、前記(3)記載のとおり、C及びFは、j町物件の購入等に関連
して少なくとも合計約五二〇〇万円を出捐しているが、原判断のように代物弁済と
いうことであれば、物件の価額及び出資した金額との関係で相応の清算措置が講じ
られて然るべきであるのに、これに見合う措置がなされていない。また、前記(5)
記載のとおり、Cは、移転登記後も、j町物件の買手さがしに奔走し、同物件の売
却に関与しているが、この寄与分に対する報酬・仲介手数料などに関して明確な話
合いないし取決めがなく、d株式会社から仲介料等の名目でCらに金員の支払いが
なされた形跡も見当たらないうえ、前記(4)記載のとおり、Cは、Eから、j町
物件に関連して二回にわたり各一〇〇〇万円、合計二〇〇〇万円を受け取つている
ものの、この金員は出資金返還の内金として支払われていることが明らかである。
 してみると、j町物件が代物弁済によりd株式会社の所有に帰したとすることに
は疑問があり、かえつて、C、F及びEの間には、転売利益を得るためj町物件を
共同して販売するという法律関係があり、前記(3)及び(5)記載のとおり、C
はj町物件の買受代金等を一部負担し、Cの努力により同物件の一部が売却されて
いる事実に徴すれば、Cは、本件当時Eに対し、右事実関係に基づき金員の支払い
を求め得る権利を有していたものと認める余地があるから、Cにはj町物件に関し
金員の支払いを要求できるような権利をなんら有しないとするE証言の信用性にも
大きな疑いがもたれるのである。
 五 次に、記録によれば、CがEの依頼を受け、d株式会社の債権確保のため、
J株式会社及びQ所有の土地等にC名義で所有権移転請求権仮登記等を付していた
ことが明らかである。
 ところで、Eは、前記のとおり、印鑑登録証明書の交付に関し、Cは一五〇〇万
円持つてこないときには印鑑証明を渡さないと言い、自分もそれ以上支払えないの
で、八〇〇万円渡しただけで終わつた旨証言している。しかしながら、Eは、三回
にわたり、合計八〇〇万円もの金員を交付し、しかも、第一回目には受取証まで徴
しながら、Cらに対し、いつ、どの段階で印鑑登録証明書をもらえるのかを確認せ
ず、安易に金員を交付しているのは不自然、不合理といわざるを得ない。また、C
は、印鑑登録証明書を準備して残金の交付を強く求めると思われるのに、E証言で
はこの点に触れるところがなく、不自然であるうえ、Cの検察官に対する各供述調
書によつても、同人が金員の受領や残金の交付を求めた際、印鑑登録証明書を準備
したことは窺えない。以上のところからすれば、E証言のうち、被告人及びCが金
員喝取につき印鑑登録証明書の交付を口実にしたとの部分についてもその信用性に
疑いがあるといわざるを得ない。
 以上のとおり、E証言は、被害事実の核心的な部分に不自然、不合理な点がある
から、脅迫行為に関する証言の信用性についても疑いを差し挟まざるを得ない。
 六 ところで、F、C及び被告人の捜査段階における各供述は、j町物件の権利
関係や脅迫行為に関してはE証言と同旨の内容のものであるが、被告人は、公判廷
において、脅迫行為を否定し、Cも、第一審公判廷において、脅迫行為を否定する
とともに、同人は、E及びFの三者共同で、転売利益を得るため、j町物件を販売
していた旨証言し、Fも同旨の証言をしているうえ、本件は、Eの被害供述を基礎
として捜査が進められたことが記録上窺えるから、E証言の信用性に疑問が生じれ
ば、F、C及び被告人の捜査段階における各供述の信用性も疑わしいといわなけれ
ばならない。
 七 以上述べたところによると、原審がその説示するような理由で、E証言並び
にF、C及び被告人の捜査段階における各供述の信用性を認め、有罪の第一審判決
を是認した判断はこのままでは支持しがたいものである。そうすると、原判決には
いまだ審理を尽くさず、証拠の価値判断を誤り、ひいて重大な事実を誤認した疑い
があるというべきであつて、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、原判
決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決を破棄し、同法四一三条本文に
従い、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻す
こととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官荒川洋二 公判出席
  平成元年四月二一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一
            裁判官    奥   野   久   之

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