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平成30年7月19日判決言渡
平成29年(行コ)第283号所得税更正処分取消等請求控訴事件(原審・東京
地方裁判所平成24年(行ウ)第185号)
主文
1原判決を次のとおり変更する。
2本件訴えのうち,A税務署長が控訴人らに対し平成22年4月21日付
けでしたBの平成19年分の所得税の各更正処分(ただし,いずれも平成
22年9月8日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)のうち
各控訴人が納付すべき税額に係る部分の各取消しを求める部分を却下する。
3A税務署長が控訴人Cに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成
19年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,
株式等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円及び申告納税額50
48万5600円を超える部分並びにA税務署長が同控訴人に対して同日
付けでした過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成22年
9月8日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
4A税務署長が控訴人Dに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成
19年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,
株式等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円及び申告納税額50
48万5600円を超える部分並びにA税務署長が同控訴人に対して同日
付けでした過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成22年
9月8日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
5A税務署長が控訴人Eに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成
19年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,
株式等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円及び申告納税額50
48万5600円を超える部分並びにA税務署長が同控訴人に対して同日
付けでした過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成22年
9月8日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
6A税務署長が控訴人Fに対し平成22年4月21日付けでしたBの平
成19年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219
円,株式等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円及び申告納税額
5048万5600円を超える部分並びにA税務署長が同控訴人に対して
同日付けでした過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成2
2年9月8日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消
す。
7訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを10分し,その1を控訴人ら
の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2A税務署長が控訴人Cに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成19
年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,株式等
に係る譲渡所得等の金額1812万5000円,申告納税額5048万560
0円及び同控訴人が納付すべき税額1190万4100円を超える部分並びに
A税務署長が同控訴人に対して同日付けでした過少申告加算税の賦課決定処分
(ただし,いずれも平成22年9月8日付けの異議決定により一部取り消され
た後のもの)を取り消す。
3A税務署長が控訴人Dに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成19
年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,株式等
に係る譲渡所得等の金額1812万5000円,申告納税額5048万560
0円及び同控訴人が納付すべき税額238万0800円を超える部分並びにA
税務署長が同控訴人に対して同日付けでした過少申告加算税の賦課決定処分
(ただし,いずれも平成22年9月8日付けの異議決定により一部取り消され
た後のもの)を取り消す。
4A税務署長が控訴人Eに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成19
年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,株式等
に係る譲渡所得等の金額1812万5000円,申告納税額5048万560
0円及び同控訴人が納付すべき税額238万0800円を超える部分並びにA
税務署長が同控訴人に対して同日付けでした過少申告加算税の賦課決定処分
(ただし,いずれも平成22年9月8日付けの異議決定により一部取り消され
た後のもの)を取り消す。
5A税務署長が控訴人Fに対し平成22年4月21日付けでしたBの平成1
9年分の所得税の更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,株式
等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円,申告納税額5048万56
00円及び同控訴人が納付すべき税額238万0800円を超える部分並びに
A税務署長が同控訴人に対して同日付けでした過少申告加算税の賦課決定処分
(ただし,いずれも平成22年9月8日付けの異議決定により一部取り消され
た後のもの)を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,G株式会社(以下「G」という。)の代表取締役であった被相続人
Bが,自身の有していた同社の株式のうち72万5000株(以下「本件株式」
という。)を,平成19年8月1日,有限会社H(以下「H」という。)に対し
て譲渡したこと(以下「本件株式譲渡」という。)につき,同年12月26日
に死亡したBの相続人であり相続によりBの平成19年分の所得税の納付義務
を承継した控訴人らが,本件株式譲渡に係る譲渡所得の収入金額を譲渡対価と
同じ1株当たり75円(原判決別紙1の配当還元方式により算定した価額に相
当する金額)として,Bの上記所得税の申告をしたところ,A税務署長が,本
件株式譲渡の譲渡対価はその時における本件株式の価額である1株当たり29
90円(原判決別紙1の類似業種比準方式により算定した価額)の2分の1に
満たないから,本件株式譲渡は所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たると
して,各控訴人に対し,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたた
め,控訴人らが,被控訴人を相手に,上記更正処分のうち修正申告又は先行す
る更正処分の金額を超える部分及び上記賦課決定処分(いずれも異議決定によ
る一部取消し後のもの。以下同じ。)の各取消しを求める事案である(なお,
上記異議決定では,類似業種比準方式により算定された価額は1株当たり25
05円であるとされている。)。
原判決は,本件訴えのうち,A税務署長が控訴人らに対してしたBの平成1
9年分の所得税の各更正処分のうち各控訴人らが納付すべき税額に係る部分の
各取消しを求める部分を却下し,その余の請求をいずれも棄却した。そこで,
控訴人らがこれを不服として控訴した。
2関係法令等の定め,前提事実,被控訴人が主張する本件各更正処分等の根拠,
争点及びこれに関する当事者の主張の要旨は,原判決「事実及び理由」欄の「第
2事案の概要」の1から5まで(原判決4頁1行目から19頁12行目まで)
に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,原判決と同じく,本件各更正処分のうち各控訴人が納付すべき
税額に係る部分の各取消しを求める訴え部分は不適法であるから却下すべきで
あると判断するが,原判決と異なり,本件各更正処分のうち総所得金額3億0
418万7219円,株式等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円及
び申告納税額5048万5600円を超える部分並びに本件各賦課決定処分は
違法であるから取り消すべきであると判断する。その理由は,次のとおりであ
る。
2争点⑴(本件株式譲渡が所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるか)に
ついて
⑴本件株式の所得税基本通達及び評価通達に定める方法による評価等につい

ア所得税基本通達及び評価通達に定める評価方法の合理性について
(ア)所得税法33条1項が規定する譲渡所得に対する課税は,資産の値
上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資
産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課
税する趣旨のものであるところ(最高裁昭和41年(行ツ)第102号
同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁,
最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・
民集29巻5号641頁参照),同法59条1項2号は,この譲渡所得
課税の趣旨の下,譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額(所
得税法施行令169条)による法人に対する資産の譲渡があった場合に
は,その譲渡した者の譲渡所得等の金額の計算については,その譲渡が
あった時に,その時における価額に相当する金額により,当該資産の譲
渡があったものとみなす旨を定めている。そして,ここにいう「その時
における価額」とは,当該譲渡の時における当該資産の客観的交換価値,
すなわち不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立す
ると認められる価額(時価)を意味するものと解される。
そして,所得税基本通達59-6は,所得税法59条1項の適用に当
たって,譲渡所得の基因となる資産が本件株式のように評価通達におけ
る取引相場のない株式に相当する株式であって売買実例のある株式等に
該当しないもの(所得税基本通達23~35共-9の⑷ニの株式)であ
る場合の「その時における価額」とは,原則として,同通達59-6の
⑴から⑷までによることを条件に,評価通達の178から189-7ま
での例により算定した価額とする旨を定めており,これらの通達はいず
れも公開されている。
所得税基本通達59-6がこのような取扱いを定めている趣旨は,取
引相場のない株式は通常売買実例等に乏しいことなどから,その客観的
交換価値を的確に把握することが容易ではないため,その評価方法につ
いての国税当局の内部的な取扱いを相続税等の課税対象となる財産の評
価について定めた評価通達の例に原則として統一することで,回帰的か
つ大量に発生する課税事務の迅速な処理に資するとともに,公開された
画一的な評価によることで,納税者間の公平を期し,また納税者の申告・
納税の便宜を図るという点にあると解される。
このような上記通達の趣旨に鑑みれば,取引相場のない株式について,
所得税基本通達59-6が定める条件の下に適用される評価通達に定め
られた評価方法が,取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金
額の計算において当該株式のその譲渡の時における客観的交換価値を算
定する方法として一般的な合理性を有するものであれば,その評価方法
によってはその客観的交換価値を適正に算定することができない特別な
事情がある場合でない限り,その評価方法によって算定された価額は,
当該譲渡に係る取引相場のない株式についての所得税法59条1項にい
う「その時における価額」として適正なものであると認めるのが相当で
ある。
(イ)そこで,まず評価通達に定められた取引相場のない株式の評価方法
の合理性について検討すると,評価通達178から189-7までは,
取引相場のない株式の評価について,評価会社の規模に応じて場合分け
し,大会社については,類似業種比準方式を原則的評価方法とすること
を定める(同179,180)一方,「同族株主以外の株主等が取得し
た株式」については,例外的に配当還元方式によることを定める(同1
88,188-2)。
類似業種比準方式は,評価会社と事業の種類が類似する上場会社の株
価に比準して株式の価額を求めるものであり,具体的には,株価構成要
素のうち基本的かつ直接的なもので計数化が可能な1株当たりの配当金
額,年利益金額及び純資産価額の3要素につき,評価会社のそれらと,
当該会社と事業内容が類似する業種目に属する上場会社のそれらの平均
値とを比較の上,上場会社の株価の平均値に比準して評価会社の1株当
たりの価額を算定するというものである(乙9,15)。この方式を大
会社の取引相場のない株式の原則的評価方法とした趣旨は,大会社が上
場株式や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社
であって,その株式が通常取引されるとすれば上場株式や気配相場等の
ある株式の取引価格に準じた価額が付されることが想定されることから,
現実に流通市場において価格形成が行われている株式の価額に比準して
評価することが合理的であることによるものと解される。
他方で,配当還元方式は,株式の価額をその株式に係る年配当金額を
還元率10%で除して計算した元本に相当する配当還元価額によって評
価するものである。この方式を「同族株主以外の株主等が取得した株式」
の評価方法とした趣旨は,事業経営への影響の少ない同族株主の一部や
従業員株主等の少数株主においては,会社支配力が小さく,単に配当を
期待するにとどまるという実情があることから,評価手続の簡便性をも
考慮して,この評価方法を相当としたものと解される。
そして,評価通達188は,原判決別紙1のとおり,株主の会社支配
力を測る基準として,株主及びその同族関係者の有する議決権の合計数
がその会社の議決権総数に占める割合に着目し,これを基として配当還
元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲を
具体的に定めている。すなわち,評価通達188は,取引相場のない株
式の評価について配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が
取得した株式」に該当するかどうかを判定するに当たり,同族株主の有
無によって評価会社を2つに区分した上で(会社区分),同族株主のい
る会社である場合には同⑴又は⑵の株式に該当するかどうかにより,同
族株主のいない会社である場合には同⑶又は⑷の株式に該当するかどう
かによって,それぞれ判定することとしている(株主区分の判定)。評
価通達188の規定がこのような構造となっているのは,同族株主の有
無や,株式の取得者の取得後の議決権割合等により,会社支配力の有無
が異なり,当該株式の取得目的及び通常取引される場合の価額が異なり
得ることから,同族株主の有無によって大きく会社を2つに区分した上
で,各会社区分について株主の会社支配権を測る基準となる議決権割合
を定め,これに基づき配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主
等が取得した株式」に該当するか否かの判定を行うこととしたものと解
される。
以上の諸点に鑑みれば,評価通達178から188-2までに定める
これらの評価方法は,取引相場のない株式につき株式取引の実情等を踏
まえたものとして一般的な合理性を有するものと認められる。
(ウ)次に,所得税基本通達59-6が上記の評価通達に定められた取引
相場のない株式の評価方法を適用する際の条件として規定した内容の合
理性について検討すると,そもそもそのような条件を設けたのは,評価
通達が本来的には相続税や贈与税の課税価格の計算の基礎となる財産の
評価に関する基本的な取扱いを定めたものであって,譲渡所得の収入金
額の計算とは適用場面が異なるところ,譲渡所得に対する課税は,資産
の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,そ
の資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算し
て課税するという趣旨を踏まえ,評価通達を譲渡所得の収入金額の計算
の趣旨に則して用いることを可能にするためであると解され,このよう
な考え自体は,合理性を有するものと認められる。
イ所得税基本通達59-6の⑴の条件下における評価通達188の議決権
割合の判定方法(争点①)について
(ア)本件では,所得税基本通達59-6の定める⑴から⑷までの条件の
うち,⑴が妥当する範囲とその合理性の有無が問題となる。
すなわち,所得税基本通達59-6の⑴は,評価通達に定められた取
引相場のない株式の評価方法を適用する際の条件として,「財産評価基
本通達188の⑴に定める「同族株主」に該当するかどうかは,株式を
譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定
すること。」と定めている。これは,評価通達188の⑴は,「同族株
主」につき,課税時期における評価会社の株主のうち,株主の1人及び
その同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の3
0%以上等である場合におけるその株主及びその同族関係者としている
ところ,その文理解釈だけでは,30%以上等である場合が,株式譲渡
前の議決権について述べているのか,譲渡後の議決権について述べてい
るのかは必ずしも明らかではないため,譲渡所得に対する課税が,資産
の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,そ
の資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算し
て課税するという趣旨から,30%以上等という基準は,株式を譲渡し
た個人の当該譲渡直前の議決権割合により判定すべきことを定めたとい
うことができ,このこと自体の合理性は認めることができる。
ところが,被控訴人は,更に進んで,譲渡所得に対する課税の上記の
趣旨から,評価通達188の⑵から⑷までに係る株主区分の判定につい
ても,譲渡人の株式譲渡直前の議決権割合により判定する旨を主張して
いる。評価通達188の⑵及び⑷には,「株式取得後」と,同⑵から⑷
までには「取得した株式」との文言があり,その文理からすると,株式
譲渡後の譲受人の議決権割合を述べていることが明らかであるから,被
控訴人主張のように理解するためには,同⑵及び⑷の「株式取得後」と
の文言を「株式譲渡前」と,同⑵から⑷までの「取得した株式」との文
言を「譲渡した株式」と,それぞれ読み替えることを要し,所得税基本
通達59-6の⑴は,そのような読み替えを定めたものと理解すること
が必要となる(所得税基本通達59-6が同基本通達の改正により定め
られた直後の平成13年当時,上記主張に沿う解説が示されている(乙
103の10頁の「株主の態様による算定方式」の表参照)が,その後,
上記のような読み替えを明確に示した解説等は,見当たらない。)。原
判決も,この主張に沿う判断をしているものと解される(原判決22頁
7行目から23頁14行目まで)。
(イ)しかし,租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり,
みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解されるところ,
所得税基本通達及び評価通達は租税法規そのものではないものの,課税
庁による租税法規の解釈適用の統一に極めて重要な役割を果たしており,
一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針
となっていることからすれば,課税に関する納税者の信頼及び予見可能
性を確保する見地から,上記各通達の意味内容についてもその文理に忠
実に解釈するのが相当であり,通達の文言を殊更に読み替えて異なる内
容のものとして適用することは許されないというべきである。本件にお
いては,本件株式が評価通達188の⑶の株式に該当するかどうかが争
われているところ,上記のとおり,所得税基本通達59-6の⑴が,評
価通達188の⑴に定める「同族株主」に該当するかどうかについて株
式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権の数により判定する旨を定め
る一方で,同⑵から⑷までについて何ら触れていないことからすれば,
同⑶の「同族株主のいない会社」に当たるかどうかの判定(会社区分の
判定)については,それが同⑴の「同族株主のいる会社」の対概念とし
て定められていることに照らし,所得税基本通達59-6の⑴により株
式譲渡直前の議決権の数により行われるものと解されるとしても,「課
税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数
が,その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の
取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)について
は,その文言どおり,株式の取得者の取得後の議決権割合により判定さ
れるものと解するのが相当である。
(ウ)被控訴人は,譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその
資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者
の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税するとい
う趣旨から,評価通達188の⑵から⑷までについて,譲渡人の株式譲
渡直前の議決権割合により判定する旨を主張している。しかし,そのよ
うな解釈をするためには,上記のような「読み替え」が必要となるが,
所得税基本通達59-6の⑴の文言は,評価通達188の⑴の「同族株
主」について述べているのであるから,評価通達188の⑵から⑷まで
の「同族株主」以外の部分までが上記のように読み替えられて適用され
る旨を読み取ることは,一般の納税者にとっては困難である。
しかも,被控訴人の主張する譲渡所得に対する課税の趣旨から,上記
「読み替え」を導き出すこと自体,所得税基本通達59-6の⑴があっ
ても無理があるといわなければならない。すなわち,所得税法59条1
項にいう「その時における価額」は,譲渡の時における資産の客観的交
換価値で,不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立す
ると認められる価額(時価)を意味するのであり,譲渡人が会社支配権
を有する多数の株式を保有する場合には,当該株式は議決権行使に係る
経営的支配関係を前提とした経済的価値を有するものと評価され得る一
方,当該株式が分割して譲渡され,譲受人が支配権を有しない少数の株
式を保有するにとどまる場合には,当該株式は配当への期待に基づく経
済的価値を有するにすぎないものとして評価されることとなるから,そ
の間の自由な取引において成立すると認められる価額は,譲渡人が譲渡
前に有していた支配関係によって決定されるのか,譲渡後に譲受人が取
得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定
することはできず,双方の会社支配の程度によって結論を異にする事柄
であるというべきである。被控訴人の主張する譲渡所得課税の趣旨(所
有者に帰属していた増加益を清算して課税する。)といっても,上記の
ように成立した価額を基準に,所有者の有していた増加益を判断して課
税することになるのであるから,上記譲渡所得課税の趣旨に反するとい
うことまではできない。そのため,議決権割合の判定基準時を文理解釈
で決定できない評価通達188の⑴について,上記譲渡所得課税の趣旨
に基づく条件(所得税基本通達59-6⑴)を定めてその解釈を明確化
することには,一定の合理性が認められるものの,株式取得後の議決権
割合で判定する旨を定めていることが文理上明らかな評価通達188の
⑵から⑷までについてまで,明文の定めもなく,上記譲渡所得課税の趣
旨によって読み替えることは,所得税基本通達59-6の⑴があっても
無理があるといわなければならない(なお,株式が分割して取引の対象
となるという特性を有するものであることに鑑みると,会社支配権を有
する多数の株式を保有する譲渡人が経営への影響力を廃する形で株式を
分割して譲渡すること自体に問題があるということはできず,そのよう
な分割譲渡について殊更に租税回避の意図を見出してこれを実質的に否
認するような解釈を採ることは,私的自治の観点からも疑問があるもの
といわざるを得ない。)。
そうすると,評価通達188の⑵から⑷までについては,上記の自由
な取引において成立すると認められる価額について,譲渡人と譲受人の
双方の会社支配の程度を考慮して規定された合理的な内容を有するもの
として,これを読み替える明文の規定がない場合には,「同族株主のい
ない会社」の部分を除き,そのまま譲渡所得課税にも適用するのが相当
である(所得税法基本通達59-6は,このことを定めたものとして合
理性を有する。)。仮に,所得税基本通達59-6の⑴の適用範囲につ
いて,評価通達188の⑵から⑷までについてまで被控訴人が主張する
ような解釈をとろうとするのであれば,上記に説示したような通達の重
要性及び機能に照らし,その旨を通達上明確にしておくべきであって,
通達の改正等を経ることなく解釈によりその実質的内容を変更すること
は,通達の定めを信頼して取引等について判断をした納税者に不測の不
利益を与えるものであり,相当でないというべきである。
(エ)以上によれば,本件株式が評価通達188の⑶の株式に該当するか
どうかについて,「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の
有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の15%未満である場
合におけるその株主の取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主
区分の判定)については,その文言どおり,株式の取得者の取得後の議
決権割合により判定されるものと解するのが相当である。
なお,評価通達188の⑶について以上のように解すると,会社区分
と株主区分の各判定の基準となる時期が異なることとなり,一文で定め
られている株式の要件に関して異なる判断基準が混在することになる
が,会社区分の判定と株主区分の判定は論理的に関連するものではなく,
前者について株式譲渡直前の議決権割合によって判定するからといっ
て,後者についても当然に同じ基準によらなければならないという必然
性があるとはいえない。
以上によれば,被控訴人の前記主張は採用することができない。
ウ本件株式の評価について
前記引用に係る原判決記載の前提事実⑴ア及び⑶のとおり,Gの株式は,
評価通達における「取引相場のない株式」に当たり,かつ,同社には,本
件株式譲渡の直前において,議決権総数の30%以上の議決権を有する株
主及びその同族関係者は存在しなかったから,同社は「同族株主のいない
会社」に当たる。そして,同⑶のとおり,Hの本件株式取得後の議決権割
合は7.88%であり,Hには同族関係者がおらず,その議決権割合はG
の議決権総数の15%未満にとどまる。したがって,本件株式は,評価通
達188の⑶の株式に該当するから,所得税基本通達59-6,評価通達
188-2に従い,配当還元方式によって評価すべきこととなる。
証拠(甲6,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,Gの直前期末以前2年
間における配当金額の合計額の2分の1に相当する金額は6900万円で
あり,直前期末における発行済株式数は920万株であるから,同社の株
式に係る年配当金額(評価通達183の⑴に定める「1株当たりの配当金
額」)は7.5円となる。そして,本件株式の1株当たりの資本金等の額
は50円であると認められるから,本件株式の1株当たりの評価額は,7.
5円÷10%×50円÷50円=75円であると認められる。
そして,本件全証拠によっても,配当還元方式によっては本件株式の客
観的交換価値を適正に算定することができない特別な事情があるとは認め
られないから,配当還元方式による本件株式の1株当たりの評価額は,本
件株式譲渡の時点における本件株式の客観的交換価値として適正なもので
あると認められる。そうすると,本件株式譲渡における譲渡価格はこれと
同額であるから,本件株式譲渡は,争点②について判断するまでもなく,
所得税法59条1項2号の低額譲渡には当たらないというべきである(B
が,Hに対し強い権限を有し,また,本件株式の譲渡が相続税負担の軽減
させることを目的して行われたとしても,1株当たり75円という譲渡価
額が,前記のとおり合理性が認められる所得税基本通達59-6,評価通
達188の⑶,188-2に従って算定された価額と一致する以上,純然
たる第三者間で種々の経済性を考慮して算定された価額とは異なるという
ことはできず,ほかに同事実を認めるに足る証拠はない。)。
⑵以上のとおりであるから,本件株式譲渡は所得税法59条1項2号の低額
譲渡に当たらないにもかかわらず,これに当たるとしてされた本件各更正処
分等は違法である。
3争点⑵(本件各更正処分等により控訴人Dらがそれぞれ納付すべき税額につ
いての被控訴人の主張変更の当否)について
次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所
の判断」の2(原判決30頁7行目から33頁1行目まで)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
⑴原判決31頁13行目の「また,」から21行目末尾までを「ただし,過
少申告加算税については,納税義務違反があった当時既にBが死亡していた
ことから,控訴人らに対し本件各賦課決定処分がされている。」と改める。
⑵原判決32頁5行目,6行目,9行目の「等」を削除する。
⑶原判決32頁7行目の「及びこれに係る過少申告加算税の額」及び8行目
の「及び過少申告加算税」を削除する。
⑷原判決32頁20行目から22行目を「また,争点⑵に関する控訴人らの
主張のうち,本件各賦課決定処分の適法性に関する部分は,争点⑴に対する
判断の結果,本件各賦課決定処分は違法であるから取り消すべきこととなり,
判断の必要がない。」と改める。
4結論
よって,本件各更正処分のうち総所得金額3億0418万7219円,株式
等に係る譲渡所得等の金額1812万5000円及び申告納税額5048万5
600円を超える部分並びに本件各賦課決定処分は違法であるから取り消し,
本件各更正処分のうち各控訴人が納付すべき税額に係る部分の各取消しを求め
る訴え部分は不適法であるから却下することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第19民事部
裁判長裁判官
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