弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成19年(ワ)第599号家屋明渡等請求事件
主文
1被告は、原告に対し、建物(広島市南区a町b番c−d号所在A住宅
B号、床面積63・05㎡)を明け渡せ。
2被告は、原告に対し、平成19年4月1日から上記明渡済みまで
1か月7万1400円の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4この判決は仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求める裁判
1請求の趣旨
主文同旨及び仮執行の宣言
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1請求原因
(1)原告は、被告に対し、平成7年5月1日、上記建物(本件建物)について、
当初家賃1か月3万3100円、支払時期毎月末日限り、入居可能日平成7
年5月8日という約定で、広島市市営住宅条例(昭和27年広島市条例第4
0号、第一条例)に規定する入居許可を行い、同月8日本件建物を被告に引
き渡した(本件契約。)
(2)その後上記家賃は1か月2万8200円と変更された。
(3)第一条例(平成4年広島市条例第26号による改正後のもの)22条には
市長は次のいずれかに該当する場合には入居者に対し使用許可を取り消し又
は市営住宅の明渡しを請求することができると定められている。
ア市長が住宅の管理上必要があると認めたとき(1項6号)
イこの条例又はこれに基づく市長の指示命令に違反したとき(1項7号)
(4)さらに、平成9年6月1日に施行された新たな広島市市営住宅等条例(平
成9年広島市条例第35号、第二条例)40条には市長は次のいずれかに該
当する場合には入居者に市営住宅の明渡しを請求することができると定めら
れている。
ア市長が市営住宅の管理上必要があると認めたとき(1項6号)
イこの条例又はこれに基づく市長の指示若しくは命令に違反したとき(1
項7号)
そして、第二条例22条は「入居者及び同居者は、周辺の環境を乱し、又
は他に迷惑を及ぼす行為をしてはならない」と規定し、同25条は「入居者
は、当該市営住宅への入居の際に同居した親族以外の者を同居させようとす
るときは、市長が定めるところにより、その承認を得なければならない」と
規定する。
(5)第二条例は平成16年6月28日に改正施行され、改正された条例(第三
条例)40条当該項には次の定めがある。
ア入居者又は同居者が暴力団員であることが判明したとき(1項6号)
イ市長が市営住宅の管理上必要があると認めたとき(1項7号)
ウ入居者又は同居者がこの条例又はこれに基づく市長の指示若しくは命令
に違反したとき(1項8号)
(6)本件契約における信頼関係の破壊ないし第三条例所定の不許可事由の存在
ア被告は、指定暴力団C会D組の構成員である(第三条例40条1項6号
及び7号該当。)
イ被告は、平成16年12月中旬及び平成18年9月下旬に、いずれも本
件建物内において、第三者に対して暴行を加えるなどして、それぞれ傷害
及び脅迫罪並びに傷害及び逮捕監禁罪の容疑で逮捕されて罰金刑を受け、
これらのことは広く報道された(第三条例22条、40条1項7号及び8
号該当。)
ウ本件建物については暴力団構成員特有の暴力事件の現場として利用され、
暴力団構成員等の出入りによって一般の入居者に不安・恐怖感を与えてい
る(第三条例22条、40条1項7号及び8号該当。)
エ本件建物には被告の他同居者が存在した(第三条例25条、40条1項
8号該当。)
(7)原告は、被告に対し、平成19年2月27日、第三条例40条1項6号な
いし8号(第三条例22条及び25条違反)同年3月末日をもって本件建物
の使用許可を取り消す旨の意思表示をした。
(8)第三条例によれば、遅延損害金は近傍同種の住宅家賃の2倍に相当する金
額以下と規定されており、近傍同種の住宅家賃は1か月7万1400円であ
る。
よって、原告は、被告に対し、本件建物の使用許可の取消しに基づいて、本
件建物の明渡し及び平成19年4月1日から上記明渡し済みまで1か月7万1
400円の割合による規定損害金の支払を求める。
2請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)について
認める。ただし、被告が本件建物に入居したのは、当時E再開発対象地の
店舗兼住宅に居住していた被告に対し、原告から本件建物を提供した上同事
業推進のために立退きに協力してほしいという要請があったからである。
(2)同(2)について
認める。
(3)同(3)について
認める。
(4)同(4)について
認める。ただし、第二条例以降はそれ以前に成立した本件契約には適用さ
れない。
(5)同(5)について
認める。
(6)同(6)について
ア同アについて
認める。
イ同イについて
原告主張の事件のうち、傷害及び脅迫罪の1件については認める。その
余の事実は否認する。他の傷害及び逮捕監禁罪の1件は傷害及び脅迫にと
どまる。
ウ同ウについて
否認する。
エ同エについて
時期が不明である。否認する。もともと同居者の存在は本件契約に影響
しない。
(7)同(7)について
認める。ただし、以下のとおりこの意思表示は無効である。
ア条例の規定の無効
各条例の「市長が市営住宅の管理上必要があると認めたとき」という規
定並びに第二条例22条及び25条はいずれも恣意的な運用を可能にする
し、同条(第三条例も同条)は消費者契約法10条にも違反するから無効
である。
イ第三条例40条1項6号の無効
a同号は憲法14条に違反する。
。b上記のような入居に至る経緯に照らせば、本件に適用する余地はない
(8)同(8)について
否認する。
3抗弁(解約権の消滅)
原告は、被告に対し、平成19年4月2日付けで、家賃の請求をした。
よって、原告は被告に対して本件契約関係の継続を確認したというべきで
ある。
4抗弁に対する認否
事実関係は認める。過って発送されたものであり、原告から被告に対しては
同年4月3日付けの別便で本件建物の使用許可取消しに係る通知をしている。
第3証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりである。
理由
1請求原因について
(1)請求原因(1)について
当事者間に争いがない。
被告は本件建物入居の経緯について主張するところ、本件の争点とは無関係
であるから判断をしない。
(2)同(2)及び(3)について
いずれも当事者間に争いがない。
(3)同(4)及び(5)について
ア事実関係はいずれも当事者間に争いがない。
イ第三条例の適用の有無について判断する。
a市営住宅の利用関係は地方自治法244条以下の規定の適用を受けると
ころであって、同法244条の2の1項によれば、当該公の施設の設置及
びその管理に関する事項は条例で定めるべきものとされ、第一ないし第三
条例はいずれもこれを受けたものである。
したがって、本件建物の利用関係については特別法としての第一ないし
第三条例の適用があるところ、甲2によれば、第三条例の経過規定には格
別の定めがないことが認められるから、現在の利用関係に関する限り第三
条例の適用があることになる。
b第三条例40条1項6号の規定(本件排除規定)の内容は前認定のとお
りであるところ、被告は本件契約成立当時の第一条例には本件排除規定の
定めがなかった以上本件契約にはその適用がない旨主張する。
前述のとおり現在の利用関係に関する限り第三条例の適用があるから、
本件契約についてもその適用を免れない。そして、被告が暴力団員である
こと(後に認定する)は現在の事実であるから、過去の事実に基づいて第
三条例が適用されるという関係にあるわけではない。
そうすると、被告の主張は、本件契約当時の適用条例には存在しなかっ
た条項によって原告と被告との本件建物の現在の利用関係が律せられるべ
き根拠を問うものであると解される。
市営住宅の利用関係が一般の私法上の建物賃貸借契約とは異なり地方自
治法及びこれによって委任を受けた条例によって画されることは当該利用
しようとする者にとっては自明のことであるから、その者は以後の条例等
の改定による利用関係の変更をあらかじめ承諾しているものと解すべきで
ある(もっとも、当該変更が当事者にとって明らかに上記の想定を超える
ものであるような場合は別論であろう。)
そして、地方自治法244条によれば、普通地方公共団体が公の施設を
設けるのは住民の福祉を増進する目的によるものとされ、第一ないし第三
条例が上記条項等に基づくものであることは前述のとおりであるから、地
方自治体において上記目的を達成するために必要かつ合理的な範囲で当該
公営住宅の利用関係を定めることは当然の責務であって(地方自治法2条
14項参照、本件排除規定の新設もその一環である。また、本件排除規)
定については、第一条例22条1項6号、第二条例40条1項6号の「市
長が(市営)住宅の管理上必要があると認めたとき」を具体化したもので
あると評価することもできるのであって、いずれにせよ、本件排除規定が
本件契約当事者にとって想定した範囲を超えるものであると解する余地は
ない。
そうすると、この点に関する被告の上記主張は理由がない。
(4)同(6)について
ア同アについて
当事者間に争いがない。
イ同イについて
a平成16年12月中旬被告が本件建物内において第三者に対して暴行を
加えるなどして傷害及び脅迫罪の容疑で逮捕されて罰金刑を受け、このこ
とが広く報道されたことは当事者間に争いがない。
bその余の事実は甲3の①、18の①ないし⑤及び41の①ないし38によ
って認める(ただし、平成18年の事件の確定判決に係る罪名は暴行罪で
あった。)
ウ同ウについて
前項の認定のとおり、本件建物が暴力団構成員特有の暴力事件の現場とし
て利用されたことは明らかであり、その余の事実をたやすく推認することが
できる。
エ同エについて
甲40の①、⑩、⑫、⑲、⑳、33、34及び35によって認める。
(5)同(7)について
ア事実関係は当事者間に争いがない。
イ各条例の「市長が市営住宅の管理上必要があると認めたとき」及び第二条
例22条及び25条が恣意的な運用を可能にすることを理由とする被告の
主張はそれ自体失当である。
ウ第二条例25条が消費者契約法10条に違反すると判断する余地はない。
エ第三条例40条1項6号の無効をいう点のうち、暴力団員であることをも
って平等取扱いをしないとする点はそのとおりである。しかしながら、上記
地方自治法の該当条項に照らせば、市営住宅の適正な供給とその入居者ない
し周辺住民の生活の安全と平穏の確保という観点から暴力団員であることを
理由として市営住宅の供給を拒絶することは相当であって不合理な差別であ
るということはできず、甲32及び33も同趣旨に出でたものであると解さ
れる。また、このような取扱いが地方自治法244条2項又は3項に違反す
るものでないこともいうまでもない。
また、被告の主張するような入居の経緯は本件の争点とは無関係である。
(6)同(8)について
甲21によって認め、この認定に反する証拠はない。
2抗弁について
(1)事実関係は当事者間に争いがない。
(2)上記事実関係があるからといって直ちに本件契約関係を確認する旨の意思表
示であるということはできないし、甲43及び44によれば、原告から被告に
対して平成19年4月3日付けで原告主張に係る通知をしたことが認められる
ことにも照らすと、原告の被告に対する本件建物使用許可の取消しないし撤回
(あるいは解約)の意思表示が撤回されたと判断するに足りない。
3結論
そうすると、原告の本訴請求は理由があるから、主文のとおり判決をする。
広島地方裁判所民事第2部
裁判官橋本良成

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