弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人A1興業株式会社及び同A2に関する部分を破棄し、
右各部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
     上告人A3の上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人A3の負担とする。
         理    由
 上告代理人坂東宏、同村林昌二の上告理由第一について
 原審は、(1) 本件建物は、上告人A1興業株式会社が昭和四〇年一月二五日建
築完成した鉄筋コンクリート造地下一階地上五階塔屋付の店舗付共同住宅のマンシ
ヨンで、地階の床面は公道とほぼ同じ高さにあり、地階には店舗、本件車庫、事務
室、ホール、一階ないし五階には住宅、屋上にはペントハウスがあつて、右上告会
社は、本件車庫について所有権保存登記手続を経由し、被上告人らは第一審判決添
付別紙(三)記載のとおり住宅を区分所有している、(2) 本件車庫には、建築当初、
第一審判決添付の別紙(二)図面(以下「別紙図面」という。)中、ヘ点とト点を結
んだ部分に自動車の出入口としてスチール製シヤツターが設けられ、また、ハ点と
ワ点及びカ点とヨ点を結んだ各部分に人の出入口としてスチール製の片開きの防火
扉が設けられ、事務室ないし階段室を経て階上の住宅部分に通じており、他の部分
はコンクリートブロツク又は鉄筋コンクリート壁で仕切られ、外部と完全に遮断さ
れていて、四台ないし六台の自動車を収容することができたが、常時これを利用す
るのは右上告会社だけであつた、(3) そこで、右上告会社は、昭和四一年六月、
別紙図面中のハ点とニ点を結んだ部分のコンクリートブロツク壁を取り除き、同所
にスチール製シヤツターを設置し、別紙図面中のほぼA部分に相当する部分を店舗
用に区画改造してこれをDに賃貸し、その後、別紙図面中のイ点とロ点を結んだ部
分のコンクリートブロツク壁を取り除き、昭和四二年頃、別紙図面中のC部分を床
が板張りの部屋に改造し、更に、昭和四八年八月頃、別紙図面中、B部分及びC部
分をそれぞれ店舗用に改造し、B部分をEに、C部分を上告人A2にそれぞれ貸し
ている、(4) 本件車庫には、本件建物全体の用に供するため、天井に配線や数個
の排水管が取り付けられ、床下にし尿浄化槽及び受水槽が設置され、床面に右浄化
槽及び受水槽を監視、清掃するためのマンホール三個があり、また、排水ポンプの
故障に備えるための予備の手動ポンプが設けられており、専門業者が、右浄化槽及
び受水槽の清掃のために年一、二回、右浄化槽の点検及び消毒薬投入のために月一
回の各割合で本件車庫に立ち入る必要があるうえ、排水ポンプ等の故障が生じたと
きは随時本件車庫に立ち入り大掛りな修理をすることが必要で、そのためにはかな
り広い空場所を存置しなければならないところ、浄化槽の上は空地もしくは空場所
としておくことが建築確認の際要求されていること、マンシヨン居住者にとつて車
庫は必須のものである、との事実を確定して、右事実関係のもとにおいては、本件
車庫は、区分所有者の駐車場の需要に応じるために設置されたものであり、かつ、
いわば機械室をかねたような構造になつているから、本件建物の区分所有者全員に
よつて共同に利用されるように造られているとして、これを区分所有権の目的とす
ることができず、建物の区分所有等に関する法律にいう共用部分たるべき部分にあ
たるものと認め、前記上告会社の区分所有権を否定し、被上告人らの本訴請求を認
容した。
 しかしながら、一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独
立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分であるが、
そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような
共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつ
ても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分を
もつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供する
ことができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の
排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつ
て共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合
には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権
の目的となりうるものと解するのが相当である(最高裁昭和五三年(オ)第一三七
三号同五六年六月一八日第一小法廷判決参照)。
 これを本件についてみると、原審が認定した前記事実によれば、本件車庫は、構
造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することが
できる外形を有する建物部分であるが、他の区分所有者らの共用に供される設備と
して、前記のように、天井には配管類が取り付けられ、床下にはし尿浄化槽と受水
槽があり、床面には床下に通ずるマンホールが設けられ、本件車庫内に手動ポンプ
が設置されていて、右浄化槽等の点検、清掃、故障修理のため随時専門業者が本件
車庫内に立ち入つて作業をすることが予定されているというにすぎず、右共用設備
の利用、管理によつて本件車庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずるかど
うかの点についてはなんら明確にされていないし、マンシヨン内の車庫は車庫であ
るとの理由によつて区分所有者らの共用部分であると認める論拠に乏しいから、原
審の認定した事実のみでは、本件車庫が建物の区分所有等に関する法律にいう建物
の専有部分として区分所有権の目的となることを否定することはできないものとい
わなければならない。そうすると、原審が、右の点を斟酌することなく本件車庫を
共用部分であると判断したのは、建物の区分所有等に関する法律の解釈適用を誤つ
た違法があるといわざるをえず、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかで
あるから、論旨は理由がある。したがつて、原判決中、上告人A1興業株式会社及
び同A2に関する部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、これを原審に
差し戻すのが相当である。
 同第二について
 所論は、原審において主張しなかつた事項について原判決の違法をいうものであ
つて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    栗   本   一   夫
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶

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