弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人栗本稔の上告趣意について。
 憲法第三七条第二項は「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充
分に与えられ、又公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」
と規定している。右規定の公費で自己のために、証人を求める権利を有するという
意義は、刑事被告人は、裁判所に対して証人の喚問を請求するには、何等財産上の
出捐を必要としない、証人訊問に要する費用、すなわち、証人の旅費、日当等は、
すべて国家がこれを支給するのであつて、訴訟進行の過程において、被告人にこれ
を支弁せしむることはしない。被告人の無資産などの事情のために、充分に証人の
喚問を請求するの自由が妨げられてはならないという趣旨であつて、もつぱら、刑
事被告人をして、訴訟上の防禦権を遺憾なく行使せしめんとする法意にもとずくも
のである。しかしながら、それは、要するに、被告人をして、訴訟の当事者たる地
位にある限度において、その防禦権を充分に行使せしめんとするのであつて、その
被告人が、判決において有罪の言渡を受けた場合にも、なおかつ、その被告人に訴
訟費用の負担を命じてはならないという趣意の規定ではない。すなわち、論旨のい
うように、訴訟に要する費用は、すべてこれを公費として国家において負担するこ
ととし、有罪の宣告を受けた刑事被告人にも訴訟費用を負担せしめてはならないと
いう趣意の規定ではないのである。裁判確定の上で、その訴訟に要した費用を何人
に負担せしめるかという問題は、右憲法の規定の関知しないところであつて、これ
は、法律をもつて、適当に規定し得る事柄である。刑事訴訟法は、訴訟費用は刑の
言渡を受けた被告人をして負担せしめることを原則とし、また、刑事訴訟費用法は、
証人の喚問に要する費用をもつて公訴に関する訴訟費用とする旨を規定しているの
であるが、これらの規定は、何ら右憲法の条項に違反するところはないのである。
 であるから、本件第二審判決が、右刑事訴訟法等の規定に従つて、証人の喚問に
要した費用を含む本件訴訟費用を被告人の負担としたのは正当であり、原判決がこ
れを以て憲法違反の措置にあらずと判断したのもまた、正当である。論旨は理由が
ない。
 よつて、刑事訴訟法第四四六条に従い、主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員の一致した意見である。
 裁判官庄野理一は、退官につき合議に関与しない。
検察官 十蔵寺宗雄関与。
  昭和二三年一二月二七日
     最高裁判所大法廷
            裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判長裁判官三淵忠彦は、差し支えにつき署名捺印することができない。
            裁判官    塚   崎   直   義

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