弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由一、二について
 地方自治法一四二条は、普通地方公共団体の長は当該普通地方公共団体に対し請
負をする者等及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、
取締役若しくは監査役等たることができない旨を規定し、右規定は、同法一六六条
二項により、市町村の助役に準用されている。そして、これと同旨の規定は普通地
方公共団体の議会の議員及び行政委員会の委員等についても設けられているが(同
法九二条の二、一八〇条の五第六項、地方税法四二五条二項等)、その趣旨は、こ
れらの者を当該地方公共団体と一定の経済的利害関係のある私企業から隔離し、そ
の職務執行の公正を確保しようとするにあるものと解される。右兼業禁止規定に違
反した場合の効果としては、右規定に該当するかどうかの認定を他の機関又は選任
権者に委ね、該当するものと認定されたときには、当然その職を失うものとされる
のが原則であるが(地方自治法一二七条一項、一四三条一項、一八〇条の五第七項。
なお、公職選挙法一〇四条)、助役については、その選任権者である当該市町村の
長は、助役が右規定に該当すると認めるときは、これを解職しなければならないも
のとされている(地方自治法一六六条三項)。このような法律の規定の仕方からす
ると、法は、兼業禁止規定に違反した場合には、関係私企業における取締役、監査
役等の選任行為の効力を失わせることによってではなく、当該議員、長、委員、助
役等の地位を失わせることによって、職務執行の公正確保という前記立法目的を達
成しようとしていることが明らかである。そうとすれば、本件についても、神戸市
の助役であるDが本件総会決議によって被上告人の取締役に選任され、これに就任
したことが仮に前記兼業禁止規定に触れるとしても、本件総会決議の効力には何ら
の影響を及ぼすものではないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当と
して是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自
の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同一、三について
 株式会社の監査役は会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねる
ことができないものとされているが(商法二七六条)、監査役に選任される者が兼
任の禁止される従前の地位を辞任することは、株主総会の監査役選任決議の効力発
生要件ではないと解するのが相当である。けだし、商法二七六条は監査役の欠格事
由を定めたものではないと解すべきであるのみならず、監査役選任の効力は、株主
総会における選任決議のみで生ずるものではなく、被選任者が就任を承諾すること
によって発生するものというべきであって、会社又は子会社の取締役又は支配人そ
の他の使用人の地位にある者を監査役に選任する場合においても、その選任の効力
が発生する時点までに取締役等の地位を辞任していれば、右兼任禁止規定に触れる
ことにはならないからである。そして、監査役に選任された者が就任を承諾したと
きは、監査役との兼任が禁止される従前の地位を辞任したものと解すべきであるが、
仮に監査役就任を承諾した者が事実上従前の地位を辞さなかったとしても、そのこ
とは、監査役の任務懈怠による責任(商法二七七条、二八〇条一項、二六六条ノ三
第一項)の原因となりうるのは格別、総会の選任決議の効力に影響を及ぼすもので
はないというべきである。そうすると、E弁護士を監査役に選任する旨の本件総会
決議は、会社の顧問弁護士が商法二七六条によって兼任の禁止される地位に当たる
と否とにかかわりなく、有効であるというべきであるから、本件総会決議を有効と
した原審の判断は結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、
採用することができない。
 同四について
 記録を調べても、原判決に所論の違法があるとは認められない。論旨は、独自の
見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    貞   家   克   己

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