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裁判例


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平成11年(ワ)第21974号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成13年6月1日
    判   決
原      告     新日本製鐵株式会社  
訴訟代理人弁護士     久保田   穣
同     増 井 和 夫
被      告     日本鋼管株式会社
訴訟代理人弁護士     近 藤 惠 嗣
同復代理人弁護士     柳   誠一郎
    補佐人弁理士   細 江 利 昭
    主   文
    1 原告の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は原告の負担とする。
    事実及び理由
第1 請求
 被告は,原告に対し,金28億円及びこれに対する平成11年10月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
第2 事案の概要等
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告は製鉄,鉄鋼及び鉄鋼製品の製造並びに販売等を業とする会社であ
り,被告も製鉄,製鋼及び鉄鋼製品の製造並びに販売等を業とする会社である。
(2) 原告の有する特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲第1項
の発明を「本件発明」という。また,別添特許公報(甲2)を,「本件特許公報」
といい,本件特許に係る明細書を,「本件明細書」という。)を,トヨタ自動車株
式会社と共有している。
ア 発明の名称  カチオン電着塗装用のメッキ鋼材
イ 出願日 昭和55年3月24日
ウ 出願番号   昭55-36244
エ 出願公告日  昭和58年3月26日
オ 出願公告番号 昭58-15554
カ 登録日    昭和61年1月31日
キ 登録番号 特許第1299498号
ク 特許請求の範囲第1項
 「亜鉛40重量%以下からなるFe-Zn系連続被覆表面層,下層に耐
食性金属層からなるカチオン電着塗装用のメッキ鋼材」
(3) 構成要件の分説
本件発明は,次のように分説される。
A 亜鉛40重量%以下からなるFe-Zn系連続被覆表面層
B 下層に耐食性金属層からなる
C カチオン電着塗装用のメッキ鋼材
(4) 被告の行為
被告は,パームジンクアロイタイプB(PZB)という商品名の製品(以
下「被告製品」という。)を製造販売している。
(5) 被告製品の構成
 被告製品は,Fe-Zn電気メッキ層を上層に,合金化溶融亜鉛メッキ層
(GA層)を下層に有する合金化溶融亜鉛メッキ鋼板である。被告製品の表面には
溶融亜鉛メッキ鋼板であることに由来する凹部(未調圧部)と平坦部(調圧部)が
存在し,両者の割合は,ほぼ1:1である。平坦部はFe-Zn電気メッキ層で覆
われており,その亜鉛重量%は平均すれば40重量%以下である。
 被告製品の下層は,構成要件Bを充足する(その余の構成要件については
当事者間で争いがある。)。
2事案の概要
 本件は,本件特許権を共有している原告が,被告に対し,被告製品の製造販
売は,本件特許権を侵害するものであると主張して,28億円(28億7980万
円の内金)の損害賠償を求める事案である。
3 本件の争点
(1) 被告製品の構成
(2)ア 被告製品は本件発明の構成要件Aを充足するか。
 イ 被告製品は本件発明の構成要件Cを充足するか。
(3) 被告製品のA層とB1層というメッキ層を持つ鋼板が生産された時点で本
件発明の構成要件を充足する鋼板が生産され,それにB2層をメッキすることによ
り上記鋼板を使用しているといえるか。
  (4) 被告製品は亜鉛40重量%以下であるB2層が全面積中約20%存在する
ことにより本件発明の構成要件を充足するか。
(5) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
【被告の主張】
 被告製品の構成は,別紙被告物件目録記載のとおりである。
【原告の主張】
 被告製品の構成は,別紙被告物件目録記載のようなものではない。
(1) 被告製品の平坦部について
 被告製品は,表面近くの鉄含有量が少ないとはいえるが,別紙被告物件目
録記載のようにB1層とB2層に分かれていない。
(2) 被告製品の凹部の表面状態について
 被告製品の凹部でもかなり電気メッキされており,GA層の柱状結晶の表
面を覆い又はその廻りを巻いた電気メッキ層がある。
(3) 別紙被告物件目録記載の被告製品表面の平均Fe重量%について
    被告製品の表面がどこか明確でないし,仮に表面に凹部を含むとすると,
凹部は含めるべきではない。
2 争点(2)アについて
【原告の主張】
(1) 「表面層」について
「表面層」とは,下層の耐食性金属層以外の上層すべてを指す。
(2) 「亜鉛40重量%以下からなる」について
構成要件Aにいう「亜鉛40重量%以下からなる」とは平均が40重量%
以下であれば足り,あらゆる箇所において分布が一様でなければならないというこ
とはない。
(3) 「連続被覆」について
 「連続被覆」とは全面的に被覆していることを意味し,被覆に穴があって
下層の亜鉛リッチな層が露出していてもよい。
(4) 本件発明の作用効果
本件発明は,カチオン電着塗装ができ,耐食性も塗装性も改善されるとい
う作用効果を有する。
(5) 本件発明と被告製品との比較
 被告製品の電気メッキ層(被告がB1層とB2層として主張する層)が表
面層であり,それは鉄と亜鉛の合金から成り,かつ平均して亜鉛の割合が40重量
%以下である。そして,被告製品は,カチオン電着塗装ができ,耐食性も塗装性も
改善されるという本件特許の作用効果を奏しており,このことは現に被告製品がカ
チオン電着塗装のために自動車メーカーによって購入され,使用されていることか
ら明らかであるし,また,GA層に比して通電ブツの発生を桁違いに抑制してい
る。したがって,被告製品は構成要件Aを充足する。
【被告の主張】
(1) 「表面層」について
 「表面層」とは,下層の耐食性金属層以外の上層であって,かつ,表面に
露出している層を指し,いかなる意味においても表面に現れていない層を意味する
ものではない。
(2) 「亜鉛40重量%以下」について
本件特許公報の第1図は,本件発明の作用効果を説明する説明図である
が,亜鉛量が40重量%である点を境にして通電ブツの発生個数が急激に変化して
いる。本件発明は,このことに注目して「亜鉛40重量%以下」を構成要件とした
ものである。仮に平均値において亜鉛40重量%以下であれば良いとするならば,
被膜を平面的に見た場合,亜鉛20重量%の部分が半分,亜鉛60重量%の部分が
半分であるようなメッキ鋼材も平均すれば亜鉛40重量%となり,本件発明の技術
的範囲に含まれることとなる。しかしながら,このようなメッキ鋼材では,その表
面の半分が亜鉛重量%が60%である表面層で覆われていることになり,その部分
では多数の通電ブツが発生するので,残りの半分の部分において通電ブツの発生を
冷延鋼板並みに抑えたとしても全体を平均すると通電ブツの発生は冷延鋼板並みに
はならず,後述の作用効果を奏するとはいえない。
本件特許公報の第3図及びその説明に記載されているように,亜鉛重量%
が40重量%以下となると,リン酸塩の結晶がホスホフィリットを主体とする緻密
な粒状結晶となるとされているが,亜鉛重量%濃度が40%を越える領域が部分的
にも存在すると,電気化学的活性度が相対的に高い高亜鉛濃度部が優先溶解してホ
ペイトが形成されるので,後述のホスホフィリット主体の粒状結晶が形成されると
いう作用効果を奏しない。
 したがって,本件発明における「亜鉛40重量%以下」は,表面層を平面
的に見た場合,どの部分においても亜鉛が40重量%以下であることを意味する。
(3) 「連続被覆」について
本件発明の作用効果は,後述のとおりカチオン電着塗装における通電ブツ
の発生及びその下地処理としてのリン酸塩処理適性に関して,Fe-Zn系メッキ
表面における亜鉛の量が40重量%の点において臨界的効果を有することにある。
そうすると,「連続被覆」といえるためには,このような作用効果を奏する程度に
連続していることを要し,それは,被覆が表面を切れ目なく完全に覆っている状態
を指すと解される。鋼材の表面を網目状の被覆で覆ったとしても,網目の穴の部分
は下層が露出することになるから,その部分において通電ブツの発生を防ぐことは
できず,本件発明の目的は達成できない。
(4) 本件発明の作用効果
 本件発明は,亜鉛40重量%という数値に臨界的意義を見出し,本件特許
公報の第1図記載の過酷な条件の下でも通電ブツの発生を冷延鋼板並みに抑制する
とともに,カチオン電着塗装の前処理であるリン酸塩処理を行った際に,粒状結晶
(ホスホフィリット)が形成されるという作用効果を有する。
(5) 本件発明と被告製品との比較
 被告製品において構成要件Aに対応する被膜は表面層であるB2層である
ところ,鋼板を平面的に見た場合,B2層の存在する平坦部は全体の50%程度又
はそれ以下であり,凹部にはFe-Zn系被膜は形成されていないのであるから,
被告製品には「連続被覆」表面層が存在しない。また,B2層において亜鉛重量%
が40%以下である部分はごくわずかであり,鋼板表面全体の20%程度である
し,原告が主張するように平均でみてもB2層の平均亜鉛重量%は41%であるか
ら,「亜鉛40重量%以下」を充足していない。
被告製品は,亜鉛露出部分の存在により,本件特許公報の第1図の条件で
は通電ブツが多数発生するし,第3図のとおりメッキ鋼板に対してカチオン電着塗
装の下地処理としてリン酸塩処理を施すと,ホスホフィリットを主体とする緻密な
粒状結晶は形成されないので,上記作用効果をいずれも奏していない。
【原告の反論】
本件特許公報の第1図の条件で通電ブツが発生しないこと及び第3図記載の
リン酸塩処理後の結晶形態がホスホフィリットであることは本件発明の作用効果を
表すための条件であるとはいえない。
3 争点(2)イについて
【原告の主張】
本件発明の構成要件Cの「カチオン電着塗装用のメッキ鋼材」という文言
は,効果の記載であって,用途を限定したものではないから,本件発明は,その用
途がカチオン電着塗装用に限定されている用途発明ではない。被告製品はカチオン
電着塗装に使用できるから,構成要件Cを充足する。
【被告の主張】
本件発明は,その用途が「カチオン電着塗装用に」限定されている用途発明
であるところ,被告製品は本件明細書に記載された塗装条件でカチオン電着塗装を
行っても通電ブツの発生が冷延鋼板並みに抑えられるという性質を有しておらず,
そのような性質を利用することはあり得ないから,構成要件Cを充足しない。
 また,被告製品は,「カチオン電着塗装用」という用途と結びつくような構
成を何も備えていないから,構成要件Cを充足しない。
4 争点(3)について
【原告の主張】
 被告製品の構成が,別紙被告物件目録記載のとおりであるとしても,被告製
品の製造過程においてA層の上にB1層のメッキをしたことにより,鋼板の上にA
層+B1層というメッキ層を持つ鋼板を生産し,その上に更にB2層のメッキをし
たとき,その物を使用することになる。
 前記B1層のメッキは鉄と亜鉛の合金で,鉄分が平均67重量%であり,B
1層はメッキ液に通して形成されることから「連続層」である。したがって,鋼板
の上にA層+B1層というメッキ層を持つ鋼板は構成要件Aを充足する。
【被告の反論】
 本件発明は,上記のとおりカチオン電着塗装用のメッキ鋼材にかかるもので
あり,いわゆる用途発明であるところ,A層の上にB1層をメッキした鋼板はカチ
オン電着塗装に用いられることを意図して製造されたものではないから,本件発明
の構成要件Cにいう「カチオン電着塗装用」鋼板ではないし,被告はこれにカチオ
ン電着塗装を施しているわけではないから,このような製品の使用は本件発明に係
る物品の使用には当たらない。
5 争点(4)について
【原告の主張】
 上記1,2に関する被告の主張によると,B2層の鉄含有量が60重量%以
上の部分の面積が銅板表面全体の約20%であるというのであるから,その部分に
ついては構成要件Aを充足する。
【被告の主張】
 本件発明の対象はメッキ鋼材であって,メッキでもなければメッキ用組成物
ではないので,20%の部分は「メッキ鋼材」という構成要件を充足しない。そし
て,本件発明の目的は過酷な塗装条件の下でも通電ブツの発生を冷延鋼板並に抑え
ることであるが,たとえ20%の範囲で通電ブツの発生を阻止できたとしても,全
面積の80%の範囲で通電ブツが発生するような鋼板は,全体として前記目的を達
成できないことは明らかである。
6 争点(5)について
【原告の主張】
被告は被告製品を現代自動車株式会社,双龍自動車株式会社及びいすゞ自動
車株式会社に対して次のとおり販売した。
現代自動車(平成7年7月~平成11年6月)40700トン
双龍自動車(平成4年1月~平成11年6月)23500トン
いすゞ自動車(平成9年1月~平成11年6月) 1000トン
合計                    65200トン
被告製品の販売価格は,販売期間を通じて現代自動車及び双龍自動車に対し
ては1トン当たり8万円,いすゞ自動車に対しては1トン当たり10万円であり,
売上額から製造販売の直接経費を控除した額が特許権侵害行為によって発生した利
益額に相当するので,被告の得た利益額は28億7980万円である。
原告は,このうち28億円を請求する。
【被告の主張】
原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 被告製品の平坦部について
証拠(甲16,21,23,35,37,乙5,6,16)によると,被
告製品の表面に近い方は,遠い方に比べてややZn強度が強いこと,中心部の組成
は70±3wt%であるのに対しFe表層から0.1ミクロンの深さの部分では6
0±3wt%Feと鉄濃度がやや低い傾向を示すこと,同様に表面から深さ0.1
0ないし0.15ミクロンの箇所とそれよりも深い箇所とではFe-Zn組成の変
化がみられること,被告製品の製造方法として電気密度90ないし120A/d
㎡,60A/d㎡の2段階メッキを行うこと,電気メッキにおいて電気密度を変え
ることによりメッキ組成が変化し組成の異なるメッキ層が形成されること,以上の
事実が認められる。
 以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると,被告製品の平坦部におけるFe
-Zn電気メッキ層には組成の異なるB1層とB2層が存在するものと認められ,
それらの厚さは,証拠(乙5)によると,GA層の上に形成されたB1層が0.3
ないし0.5ミクロン,その上に形成されたB2層が0.1ないし0.2ミクロン
であると認められる。
(2) 被告製品の凹部の表面状態について
証拠(甲23,35,乙5)と弁論の全趣旨によると,被告製品の凹部に
はGA層が露出している部分と電気メッキ層で覆われている部分が存在すること,
凹部の表面に柱状結晶及び粒状の析出物がみられ,柱状結晶はその角部が丸みを帯
びているところ,その角部は電気メッキ層で覆われていること,粒状結晶も電気メ
ッキ層であること,凹部には,GA層が露出している部分がかなり存すること,以
上の事実が認められる。
したがって,以上のように凹部にはGA層が露出している部分と電気メッ
キ層で覆われている部分が混在しているものと認められる。
2 争点(2)ア及び(3)について
(1) 本件発明における「表面層」について
ア本件特許請求の範囲の記載によると,表面層は,まず耐食性金属層の上
に存する層であるということができる。
イそして,本件明細書中の【発明の詳細な説明】には,
     「本件発明はリン酸亜鉛・鉄系リン酸塩処理およびカチオン電着塗装の
下地として好適な塗装を含めた総合的防錆性のすぐれた耐食鋼材(中略)をねらい
とするものである。」,
    「近年特に,自動車業界を中心にカチオン電着によるプライマー塗装が
広く行なわれるようになったが,従来の亜鉛メッキ鋼材ないしは亜鉛を主体とする
合金メッキ鋼材にカチオン電着塗装を施すと次のような不利益が生ずることが明ら
かとなった。即ち,カチオン電着塗装後の塗面に径0.3~2㎜程度の凸起物ある
いはピンホールが発生し(以下通電ブツと称する。),この欠陥は局部的な発錆の
起点となるとともに,この上に上塗塗装を施しても解消されない外観上の欠陥とし
て残る。
    本発明者らの研究によれば,上記欠陥部の塗膜内部には気泡が認めら
れ,これは通電中発生し,とじこめられたH2ガスであると考えられる。電着過程
中被塗物表面ではカチオン塗料粒子が電析すると同時に,媒体である水の電気分解
によりH2ガスが併行して発生する。既に電析した塗膜を破壊してH2ガスが発生す
ることが塗膜欠陥の原因であると考えられる。本発明者らは,種々の金属および合
金のカチオン電着特性を試験した結果,通電中に発生する塗膜欠陥現象は,特に亜
鉛および亜鉛を主体とする亜鉛合金に特異的に認められることを発見した。」,
 「第1図は冷延鋼板上に種々の組成のFe-Znメッキを施し,塗膜欠
陥を故意に発生し易い条件で通電ブツ発生試験を行なった結果である(中略)Fe
-Znメッキ面の亜鉛含量が40重量%を越えると塗膜欠陥(通電ブツ)が多発
し,亜鉛含量が40重量%以下では通電ブツ数は冷延鋼板と同レベルであり,実害
のない程度であることがわかる。」,
 「第3図はFe-Znメッキの組成とリン酸亜鉛鉄系処理の結晶の大き
さおよび被覆状態との関係を示したものである。Zn含量が40重量%以下ではリ
ン酸塩の結晶はホスホフイリットZn2Fe(PO4)2・4H2Oを主体とする緻
密な粒状結晶となるが,Zn含量が更に大になるにつれて結晶はホペイトZn3
(PO4)2・4H2Oを主体とする針状結晶に変化し粗大化する。即ち,真にリン
酸亜鉛系被膜が形成するにはZn含量40重量%以下が好適であるといえる。第2
図に示した耐ブリスター性がZn含量40重量%未満で最良である理由の一つがこ
のリン酸塩被膜の結晶の形態に帰せられると考えられる。」,
  「亜鉛40重量%以下のFe-Znメッキ鋼板はカチオン電着塗装した
場合,塗装を含めた総合的な防錆作用がすぐれており,この作用は本発明の範囲の
亜鉛の存在によるものである。」,
 「メッキ面の表面は亜鉛40重量%以下のFe-Zn系メッキの連続被
覆を有すれば実質的に十分であるが,リン酸塩処理を施す場合には処理中メッキ面
表面が若干溶解し,更にカチオン電着塗装の際にも僅かに表面が溶解すること,ま
た現実的には表面を完全に被覆する程度に表面層を形成させるためにはある有限の
厚さが必要となろう。」との記載がある。
ウまた,「チームプレイ型防錆皮膜」と題する論文(乙12)には,
 「Feリッチ上層(80~90%Fe-Znめっき層)はリン酸塩処理
で溶けてなくなり,フォスフォフィライトに変換して析出し,塗膜/めっき層の界
面の密着性を確保する。」,
  「Feリッチ上層にはもう1つの働きがある。そのためには,リン酸塩
処理で完全に消失させないで,一皮残しておく必要がある。それは,Feリッチ上
層がないと,電着塗装において,月面のクレーターのような,あるいはすり鉢のよ
うな形態をした塗膜欠陥が発生することがあるからである。」,
 「このクレータリング現象はZn系表面のみに特異的に発生するものであ
る。特に下層の10%Fe-Zn組成において最も激しく発生する。カチオン塗料
のミセルが電気泳動してカソードのめっき層表面に電着するとき,同時にH2ガス
が発生し電着膜の電流経路を埋めると,10μm程度のガス相に300V程度の電
圧がかかることになり,スパーク放電が起こる。この放電エネルギーによって周囲
の塗膜が硬化反応を起こし,クレーターになるのである。カチオン塗料が電着する
とき界面のpHは12を超えており,両性金属であるZnはH2を発生しつつ溶解
する。このときZn中のFeは,H+
還元反応の過電圧の小さい金属なので,反応サ
イトとなり,H2発生速度を倍増させる。Feリッチ上層が存在すると,H2ガスは
ほとんど発生せず,したがってクレーターは防止できるのである。」との記載があ
る。
エ 以上述べたところに「表面層」という文言を総合すると,本件発明にお
ける表面層は,GA層の上に存在し,その上部は表面に露出している層であり,リ
ン酸塩処理及びカチオン電着塗装に際して溶解し,リン酸塩被膜形成,カチオン電
着塗装被膜形成に関与し,塗装後の総合的な防錆作用に寄与する層を指すと解され
る。
(2) 本件発明における「亜鉛40重量%以下」の意味について
弁論の全趣旨によると,Fe-Zn合金電気メッキは,メッキ層を所定割
合の鉄イオンと亜鉛イオンを含む水性媒体で満たし,鋼板を通して,メッキ層中に
ある電極の作用で,プラスのイオンを鋼板に沈着させ,鋼板上に合金結晶を形成す
るという方法で行われるため,多少のばらつきがあるものの,ほぼ均一な組成の皮
膜を形成することができるものと認められる。そうすると,本件発明における「亜
鉛40重量%以下」を「電気メッキ層の平均の値」と解したときには,その値は,
上記のほぼ均一な組成と一致するものと考えられるから,このように解するのが相
当である。
(3) 本件発明における「連続被覆」の意味について
証拠(甲36)と弁論の全趣旨によると,電気メッキ被覆において孔が存
在することは避けられないものと認められるから,「連続被覆」とは皮膜で表面を
切れ目なく完全に覆うことであるとは認められない。
 しかし,上記(1)認定の本件明細書の記載によると,本件発明における表面
層の目的は,リン酸塩処理及びカチオン電着塗装の下地として好適な総合的防錆性
のすぐれた耐食鋼材を提供することである。そして,上記(1)認定の事実に証拠(乙
30)と弁論の全趣旨を総合すると,Fe-Zn合金電気メッキ被覆に孔が存在す
ることによって,下層の亜鉛の影響を受け,亜鉛の影響を受けることによって,通
電ブツが発生したり,リン酸塩被膜の結晶がホペイトを主体とする針状結晶になっ
たりして,本件発明における上記目的を達成することができないことがあり得るも
のと認められる。
 また,前記(1)認定の本件明細書の記載からすると,本件発明は,通電ブツ
の発生防止及びリン酸塩処理におけるホスホフイリットを主体とする緻密な粒状結
晶形成について,「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果を見い出し,それを作用効
果とする発明であるということができる。そして,このことは,原告が,本件特許
の特許異議答弁書(乙10)において,「本件発明がかかる構成を採ったのは,第
1図,第2図,第3図に示した知見に基づくものであり,カチオン電着塗装におい
て,Fe-Zn系メッキ表面におけるZnの量が40重量%の点において臨界的意
義を見出したことによるものである。すなわち,Zn40重量%以下において通電
ブツの発生が急激に低下してカチオン電着塗装に対する適性が格段に向上し,又,
下地処理としてのリン酸塩処理適性にも極めて優れていることを見出したものであ
る。」と述べていることからも明らかである。
 そうすると,本件発明にいう「連続被覆」とは,本件発明における上記目
的を達成できる程度に皮膜を連続して被覆することを意味し,上記目的は「亜鉛4
0重量%以下」の臨界的効果によって達成されなければならないと解される。
(4) 本件発明と被告製品との対比
上記認定を前提に本件発明と被告製品全体の構成を対比して検討する。
ア 被告製品の表面層について
 被告製品におけるB1層及びB2層はいずれもGA層の上に存在し,B
2層の上部は表面に露出している。
また,「2層合金化溶融亜鉛めっき(AS-E)の開発と製品特性」と
題する論文(乙13)には,上層を2.5g/㎡(甲37によると,1g/㎡が
0.14ミクロンに当たるので,0.35ミクロン,g/㎡のミクロンへの換算に
ついては,以下同じように甲37の記載による。)以上被覆させるとち密な粒状結
晶のフォスフォフィライト主体の皮膜が得られると記載されていること,「我が国
における自動車用防錆鋼板の動向」と題する論文(甲25)によると,クレーター
発生を抑制するためにFe-richなFe-Zn合金層を配することが有効であ
り,通常,溶融Zn-Fe合金30~60g/㎡に対しては,3g/㎡(0.42
ミクロン)程度の上層被覆が行われていること及び上層皮膜が2.5g/㎡(0.
35ミクロン)ではクレーター発生がほぼ冷延鋼板並みであるのに対し,1.5g
/㎡(0.21ミクロン)ではそれが劣ると記載されていること,証拠(甲27)
によると,原告が行った実験によると,GA基板上に0.1ミクロンのFe54
(Zn46)%のFe-Zn合金層を電気メッキしたものでは塗装性(塗装ブツ発
生の頻度)が劣位であったこと,証拠(甲37,39)によると,原告の実験によ
ると,B1層に相当する部分の厚さを変えることにより,リン酸塩被覆の結晶構
造,通電ブツの発生個数が変化すること,以上の事実が認められる。
 これらの事実によると,被告製品の平坦部においてリン酸塩被膜形成及
びカチオン電着塗装形成に関係しているのはB1層及びB2層であるということが
できるから,被告製品の平坦部における表面層はB1層及びB2層である。また,
被告製品の凹部においては,そこに析出したメッキ層がGA層の上に存在し,メッ
キ層の上部は表面に露出しており,そのメッキ層は,リン酸塩被膜形成及びカチオ
ン電着塗装形成に関係しているものと認められるから,そのメッキ層も,被告製品
の表面層に当たるものというべきである。
 これに対し,上記認定のとおり表面層はGA層の上に存在する層である
から,凹部のGA層が露出している部分は,表面層であるとは認められない。
イ 被告製品の表面層は「亜鉛40重量%以下」といえるか
上記のとおり被告製品の表面層は,平坦部におけるB1層とB2層及び
凹部における電気メッキ層であるところ,前記争いのない事実のとおりB1層とB
2層の亜鉛濃度の平均は40重量%以下である。そして,弁論の全趣旨によると,
被告製品において,凹部の電気メッキ層は,平坦部と同様に電気メッキされるもの
と認められるから,B1層とB2層の亜鉛濃度の平均が40重量%以下である以
上,凹部の電気メッキ層の亜鉛濃度の平均も40重量%以下であると認められる。
 上記認定のとおり本件発明の「亜鉛40重量%以下」は電気メッキ層の
平均の値であるから,被告製品の表面層は「亜鉛40重量%以下」を充足すると解
される。
ウ 被告製品の表面層は連続被覆表面層といえるか
(ア) 上記のとおり,被告製品の表面層が連続被覆か否かの判断に当たっ
ては,表面層が全体として本件発明の連続被覆の目的を達成しているか否かを検討
する必要がある。
(イ)被告製品の表面層は全体としてカチオン電着塗装による塗膜欠陥
(通電ブツ)を解消する効果を奏するか
① 証拠(乙17,20)によると,被告が本件特許公報の第1図記載
の実験条件と同一の実験条件であるとして行った実験(以下「被告実験」とい
う。)では,被告製品における通電ブツの発生数は454又は623であり,冷延
鋼板並みではなかったことが認められる。これに対して,証拠(甲41)による
と,原告が本件特許公報の第1図記載の実験条件と同一の実験条件であるとして行
った実験(以下「原告実験」という。)では,被告製品の通電ブツの発生数は18
であり,冷延鋼板並みであったことが認められる。そこで,両実験結果を対比して
検討する。
 まず,証拠(乙33)と弁論の全趣旨によると,被告実験が定速度
で昇圧しているのに対し,原告実験では,230V,280Vの2段階で昇圧して
いることが認められる。そして,原告は,2段階で昇圧することは,一般に知られ
ていると主張し,証拠(甲44,47)を提出するが,これらの証拠に照らして
も,2段階で昇圧することが一般的に行われている方法であるとは認められない。
また,上記第1図において特に昇圧条件が記載されていないことからすると,定速
度で昇圧しているものと考えるのが自然である。そうすると,原告実験は,上記第
1図とは条件が異なり,被告実験は,上記第1図の条件に適合しているということ
ができる。他に,被告実験が上記第1図の条件に適合していないことを認めるに足
りる証拠はない。
 また,証拠(甲41,45)と弁論の全趣旨によると,原告実験で
は,電流密度と硫酸亜鉛濃度を同時に変化させて,鉄と亜鉛の割合が異なる複数の
試料を作成し,それに基づいて,鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数が臨
界的な変化を生じることを確認したうえ,それと同じ条件で,被告製品において通
電ブツを発生させる実験を行ったことが認められる。しかし,証拠(甲45,乙3
4)によると,試料作成に当たって,メッキ浴の硫酸亜鉛濃度を高くすると,試料
の亜鉛の割合が高まること,硫酸亜鉛濃度が同じでも,電流密度を低くすると,試
料の亜鉛の割合が高まること,そのため,硫酸亜鉛濃度と電流密度の組合せは異な
るが,結果的には,鉄と亜鉛の割合が同じ試料を作成することができること,鉄と
亜鉛の割合が同じでも,硫酸亜鉛濃度と電流密度の組合せが異なると,その表面の
状態が異なり,その結果,通電ブツの発生数が異なることがあり得ること,以上の
事実が認められるのであるから,原告実験のように,試料作成において,電流密度
と硫酸亜鉛濃度を同時に変化させて試料を作成した場合には,それらの試料を比較
する実験をしたとしても,試料における鉄と亜鉛の割合と通電ブツの発生数との関
係を正確に認識することができないものといわなければならず,本件明細書及び本
件特許公報の第5図に,電気メッキにおいて,電流密度を一定にして硫酸亜鉛濃度
を変化させることが記載されていることとも適合しない。この点,原告実験に使用
された試料を作成した原告社員の陳述書(甲45)には,試料を精度よく効率的に
作成するために,特定のメッキ浴において予備材を作成し,そのメッキ浴において
作成することが可能なメッキ組成の範囲と電流密度との関係を求めたうえで,それ
ぞれのメッキ浴において作成することが可能かつ適当な組成の試料を作成したとの
記載がある。原告が,電流密度と硫酸亜鉛濃度を同時に変化させて,鉄と亜鉛の割
合が異なる複数の試料を作成した理由がこのようなものであるとしても,上記認定
のとおり,電流密度と硫酸亜鉛濃度との組合せいかんによって通電ブツの発生数が
異なることがあり得ることからすると,原告実験における試料の比較実験から,試
料における鉄と亜鉛の割合と通電ブツの発生数との関係を正確に認識することはで
きない。また,証拠(乙34)と弁論の全趣旨によると,現在存する原告実験で用
いられた試料に基づいて,通電ブツの個数を数えた場合には,その数は,原告の実
験結果とは異なり,試料9(鉄濃度60.4パーセント)と試料10(鉄濃度5
1.9パーセント)では,通電ブツの違いはほとんど認識することができないこと
が認められる。この点について,原告は,実験時に存した通電ブツが写真撮影時に
は消滅したと主張し,それに沿う証拠(甲42の1,2,甲43)を提出するが,
これらの証拠はいずれも陳述書であって,上記消滅の事実を裏付ける客観的な証拠
ではないうえ,弁論の全趣旨によると,通電ブツが消滅するという事実はこれまで
およそ知られておらず,そのようなことを記載した文献も存しなかったと認められ
るから,原告の上記主張を採用することはできない。そうすると,原告実験におい
て用いられた条件下で,真に鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数に臨界的
な変化が生じていたかどうかについては,不明であるというほかない。これに対し
て,証拠(乙33)によると,被告実験では,電流密度を一定にして,硫酸亜鉛濃
度のみを変化させて試料を作成し,それに基づいて,鉄60パーセントの近傍で通
電ブツの発生数が臨界的な変化を生じることを確認したうえ,それと同じ条件で,
被告製品において通電ブツを発生させる実験を行ったことが認められる。また,被
告実験において,通電ブツの数え方その他の点について,問題があったことを認め
るに足りる証拠はない。
以上述べたところからすると,被告実験は,上記第1図の条件に適
合し,鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数に臨界的な変化が生じる条件下
でされたものであるので,その実験結果を採用することができるが,原告実験は,
上記第1図の条件に適合していないうえ,真に鉄60パーセントの近傍で通電ブツ
の発生数に臨界的な変化が生じる条件下でされたか不明であるので,その実験結果
を直ちに採用することはできない。
② 上記①で述べたところによると,被告製品は,上記第1図の条件で
実験した場合には,通電ブツの発生数が454又は623であり,冷延鋼板並みで
はなかったことが認められる。前記(1)認定の本件明細書における通電ブツの問題点
の記載や本件明細書には上記第1図の実験について「通電ブツ数は冷延鋼板と同レ
ベルであり,実害のない程度であることがわかる。」と記載されていることからす
ると,被告実験における通電ブツの発生数は,実害を生じるおそれがあるものと認
められるから,上記第1図の条件下では,被告製品の表面層が,通電ブツの発生の
防止について,その目的を達しているとは認められない。そして,上記イ認定のと
おり,被告製品の表面層は,「亜鉛40重量%以下」を充足するにもかかわらず,
上記のとおり,通電ブツの発生の防止について,その目的を達していない原因は,
前記1(2)認定のとおり,凹部にGA層が露出している部分がかなり存することによ
るものと推認される。
  証拠(甲40,乙14,22,23)と弁論の全趣旨によると,電
着塗装の条件を調節することにより通電ブツの発生を抑制することが可能であるこ
と,自動車メーカーの中には,電着塗装の条件を調節することにより,単層亜鉛メ
ッキ鋼板にカチオン電着塗装を行っているところもあること,被告製品も,電着塗
装の条件を調節することによって通電ブツを発生しないものとすることが可能であ
ること,以上の事実が認められる。しかし,このように電着塗装の条件を調節する
ことによって通電ブツを発生しないようにしたというだけでは,本件発明におけ
る,通電ブツの発生防止に関する「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果を利用して
いるかどうかは不明である。
  そして,他に,被告製品が,皮膜を連続して被覆することにより,
本件発明における通電ブツの発生の防止という目的を「亜鉛40重量%以下」の臨
界的効果によって達成していることを認めるに足りる証拠はない。
③ なお,原告は被告製品は通電ブツの抑制についてGA層より桁違い
に改善されているとの主張をしているが,そうであるからといって,直ちに,被告
製品が,本件発明における通電ブツの発生の防止という目的を「亜鉛40重量%以
下」の臨界的効果によって達成しているとは認められないことは明らかである。
(ウ) 被告製品の表面層は全体として下地処理としてのリン酸塩処理適性
にすぐれているという効果を奏するか
① 前記(1)認定の事実によると,本件発明においては,鋼板をリン酸塩
処理した場合,リン酸塩の結晶はホスホフイリットを主体とする緻密な粒状結晶と
なることが認められる。
② しかしながら,証拠(甲37,乙18,24,29)によると,被
告製品においては,その表面に形成されるリン酸塩被覆は,ホペイトを主体とする
もので,P比率(リン酸塩被覆の結晶状態を示す指標,結晶がすべてホペイトで構
成されている場合には0になる。)は0ないし0.347と低いことが認められ
る。そうすると,被告製品においては,ホスホフィリットを主体とする緻密な粒状
結晶は形成されていないことになる。上記イ認定のとおり,被告製品の表面層は,
「亜鉛40重量%以下」を充足するにもかかわらず,上記のとおり,ホスホフィリ
ットを主体とする緻密な粒状結晶が形成されていない原因は,前記1(2)認定のとお
り,凹部にGA層が露出している部分がかなり存することによるものと推認され
る。
③ したがって,被告製品が,皮膜を連続して被覆することにより,本
件発明におけるリン酸塩処理適性にすぐれているという目的を達成しているとは認
められない。
(エ) よって,被告製品は連続被覆表面層を有するとはいえないから,構
成要件Aを充足しない。
(5) 被告製品は,凹部において露出するGA層の亜鉛の影響によって,連続被
覆表面層が有する上記の各目的を達成していないところ,A層+B1層というメッ
キ層が生産された時点においては,その上にB2層が形成され被告製品が完成され
た時点よりも,凹部において露出するGA層の亜鉛の影響が小さいとは認められな
い(B2層が形成されていない分だけ亜鉛の影響が大きいとも考えられる。)か
ら,被告製品のA層+B1層というメッキ層が生産された時点をとらえてもやはり
構成要件Aを充足しないということができる。
 3よって,その余の争点について判断するまでもなく原告の請求は理由がな
い。
 東京地方裁判所民事第47部
     裁判長裁判官 森     義  之
     裁判官 内  藤  裕  之
     裁判官 上  田  洋  幸 
(別紙)
       被 告 物 件 目 録
下記構成を有するFe-Zn電気メッキ層を上層に有する合金化溶融亜鉛メッキ
鋼板(商品名パームジンクアロイタイプB,以下「PZB」という。)

被告製品の構成
1 被告製品を平面的に見た場合,別紙図面の平面図に記載のように,平坦な部
分①(以下「平坦部」という。)と凹部②(以下「凹部」という。)(ハッチング
で図示)とが相互に入り組んで斑な模様をなしている構造を有している。平坦部
は,製造工程において,調質圧延によって平坦にされた部分であり,調圧部とも呼
ばれる。凹部②は,製造過程において調質圧延がかからなかった部分であり,未調
圧部とも呼ばれる。平坦部①と凹部②の面積比は,位置によってかなりのばらつき
が見られるが,概ね1:1である。1つの凹部②の大きさにはかなりのばらつきが
あり,大きいものでは100μm×100μm程度,小さいものでは,5μm×5
μm程度である。
2 被告製品の断面構造を見ると,別紙図面の断面図に記載のように,冷延鋼板
③の上に,凹凸のあるA層④が形成されている。そして,平坦部①においては,A
層④の上にB1層⑤が形成され,さらにその上にB2層⑥が形成されて,皮膜は三
層皮膜構造を有している。一方,凹部においては,A層④一層のみの皮膜構造を有
している。
3 A層④は,PZB鋼板の原板である溶融亜鉛メッキ鋼板の製造過程で成膜さ
れる部分であり,厚さが約5~10μmであり,Feが約10重量%,Alが約
0.2~0.3重量%,残部がZnの組成を有する。A層④は「GA層」とも呼ば
れる。A層④は,冷延鋼板③を0.1~0.2重量%相当のAlを含有する溶融し
たZnの浴槽中に通過させることにより,冷延鋼板③の表面に微量のAlを含有す
るZnメッキを行い,その後,加熱処理により冷延鋼板中のFeをメッキ層中に拡
散させること(合金化処理)により,微量のAlを固溶したZn-Feの合金層を
形成させることによって製造される。
   この合金化処理中に,必然的にA層④は凹凸となり,その後材質を改善する
ために行う調質圧延により,凸部は圧延されて平坦な調圧部①となり,凹部②は圧
延されずにそのまま残存して未調圧部②となる。
A層④の厚さは約5~10μmであり,防食の機能を有する。
4 B1層⑤は,厚さが約0.3~0.5μmであり,Fe含有率が66~70
(平均67)重量%Fe-Zn合金層である。B1層⑤は,電気メッキによって形
成される層である。PZB鋼板を製造する過程においては,電気メッキを2段階に
分けて行うが,B1層⑤は,その第1段階の電気メッキによって製造される層であ
る。
5 B2層⑥は,厚さが約0.1~0.2μmであり,Fe含有率が53~64
(平均59)重量%のFe-Zn合金層である。B2層⑥のFe含有率が60重量
%以上の部分の面積は鋼板表面全体の約20%である。B2層⑥は第2段階の電気
メッキによって形成される層である。
6 未調圧部②においては,A層④の上に皮膜は形成されていない。すなわち,
未調圧部②は,典型的には,添付図面の断面図においてCで示したような構造又は
Dで示したような構造をしている。Cで示した構造においては,A層④の一部であ
るζ相(合金化溶融亜鉛メッキ層(GA層)の一部)⑦が剥き出しになっており,
その間に粒状のFe-Zn合金⑧が挟まっている構造となっている。これに対し
て,Dで示した構造においては,未調圧部がほとんどζ相⑦で占められており,極
わずか,小さい粒状のFe-Zn合金⑧が点在しているのが認められる。未調圧部
②は,ここに典型例として模式的に示されたC及びDの構造の組み合わせで構成さ
れている。しかしながら,どの部分をとって見ても,A層④の一部であるζ相⑦の
表面はFe-Zn合金⑧で覆われていない。
7 被告製品表面の平均Fe重量%は約50%である。
別紙図面

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