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事件番号:平成18年(ワ)第2623号
事件名:損害賠償請求事件
裁判年月日:H19.10.26
裁判所名:京都地方裁判所
部:第2民事部
結果:一部認容,一部棄却
登載年月日:
判示事項の要旨:被告京都市が,位置指定図の記載及び現場の状況から,原
告ら所有地が位置指定道路に接面していると判断すべきであ
ったのに,同土地と位置指定道路との間には被告京都市の管
理する土地があると判断して,ブロックを設置し,原告らの
土地開発計画を妨害したことについて,国家賠償責任が肯定
された事例
主文
1被告は,原告に対し,311万5128円及びこれに対する平成15年11
月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,936万8911円及びこれに対する平成15年10
月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,原告が,被告は原告外1名所有地と位置指定道路との間に被告の管
理する土地が存在するとの事実と異なる説明をした上,被告が管理すると称す
る土地上にブロック塀を設置し,原告外1名の土地分譲計画を妨げようとした
ため,原告は後記第4の3記載の損害を被ったとして,被告に対し,不法行為
に基づき,損害金合計936万8911円及及びこれに対する不法行為の日で
ある平成15年10月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めた事案である。
2基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。以下,特
に断らない限り,月日は平成15年のものである)。
()原告は,5月14日,国(近畿財務局京都事務所が担当)から,京都市左1
京区町町15の土地(817.59平方メートル)を代金1億2352ab
万円で購入した。同土地の物件調書には,接面道路の状況として「北東側,
舗装私道幅員約6.0(法第42条第1項第5号道路」との記載がm)
あった。
()原告は,6月12日,上記京都市左京区町町15の土地から同所町2abb
16の土地を分筆し(以下,分筆後の同所町15の土地を「町15の土bb
地」といい,所在を京都市左京区町とするその余の土地についても同様にa
表記することとする。また,町15の土地と町16の土地を合わせて呼bb
称するときは「本件土地」という,町16の土地を,株式会社甲設計,。)b
(以下「甲設計」という)に譲渡した(日付につき,甲25。。)
()6月12日時点における本件土地と周辺土地の位置関係は,別紙1図面の3
とおりであり,本件土地の北東側には,本件土地に接して,被告所有の町c
42の土地及び町22の土地(以下,町42の土地と町22の土地のccc
うち本件土地と町6の土地に挟まれた東西に延びた土地部分とを,合わせc
て「本件北東土地」という)が存在し,本件北東土地は,その全体が道路。
として使用されており,本件北東土地の北側部分は,京都市乙市営住宅の敷
地となっている。
,,,()原告及び甲設計は被告から建築確認を得て原告が町15の土地上に4b
甲設計が町16の土地上に,それぞれ建物を建築して,これらの土地建物b
を分譲しようとしたが,被告は,8月17日までに,原告に対し,本件土地
と本件土地の北東側の位置指定道路(以下「本件位置指定道路」という)。
との間には被告が管理する土地が存在する旨指摘した。
()これに対し,原告は,9月5日ころ,被告に対し,建築基準法42条1項5
本文にいう「幅員」には側溝を含むと考えられており,建築基準法施行令1
44条の4第1項5号は,位置指定道路の基準として「道及びこれに接する
敷地内の排水に必要な側溝,街渠その他の施設を設けたものであること」を
要求していることから,側溝部分が本件位置指定道路と独立した別個のもの
と考えることは困難であり,道路位置指定の申請図面に,側溝についても明
示されており,側溝部分を除いた部分の幅員の数字も記載されているなら,
側溝部分を含めて位置指定されていると解すべきであるとして,本件土地が
本件位置指定道路に接している旨記載したA弁護士作成の「見解書」と題す
る書面を交付した(甲27。)
()しかし,被告は,上記「見解書」の提出後もその見解を変更せず,10月6
28日ころ,原告に対し,本件土地と本件位置指定道路の間に,被告が管理
する土地があること,同土地を保全するために囲障設置工事を行うことを通
知するとともに,11月7日,本件土地と接する本件北東土地上に二段積み
ブロック(以下「本件ブロック」という)を設置した。このため,本件土。
地から本件北東土地への通行ができない状態となった。
()原告及び甲設計は,被告が本件ブロックを設置する実力行使に出たことに7
より,本件土地の分譲計画が遂行できなくなったため,12月9日,国に対
し,本件土地と本件位置指定道路との接道状況に関する説明や,その根拠と
,,,,なる資料の提供を求めたが国は同月15日ころ原告及び甲設計に対し
本件土地の一部について,位置指定道路を接面道路として建築基準法6条の
2第1項の規定による確認が下りていることを根拠として,本件土地が本件
位置指定道路に接面している旨回答した(甲35)が,他に根拠は示さず,
資料の提供もしなかった。
()原告は,上記()の国からの回答を受けて,被告との間で,本件土地と本87
件位置指定道路の接道状況につき協議したが,被告は,その際も,本件北東
土地と本件土地との境界線は本件北東土地の南側側溝の南端であるが,本件
北東土地内にある本件位置指定道路の幅員の始点は本件北東土地の北側側溝
の道路側内面であり,終点は始点から5.5mの位置にあるので,本件北東
土地の幅員が実際には5.9mあることからすると,本件土地と本件位置指
定道路の間には被告が管理する土地が存在するとの見解を維持した。
()このため,原告及び甲設計は,被告の見解に従わざるを得ないと判断し,9
原告,甲設計及び被告は,本件北東土地の道路幅員が6mになるように,原
告及び甲設計がそれぞれ被告に対し本件土地の一部を寄付し,原告が土地分
筆費用及び本件北東土地の南側側溝の移動費用等を負担することにより,本
件位置指定道路の幅員を実際の道路幅員に合致させ,本件土地が本件位置指
定道路に接道できるようにすることで合意し,原告及び甲設計は上記寄付を
し,原告は上記費用を負担した。
()原告は,平成16年8月20日,国に対し,本件土地と本件位置指定道10
路の接道状況に関する国の説明義務違反を理由に,損害賠償請求訴訟を大阪
地方裁判所に提起し(同裁判所平成16年(ワ)第9537号損害賠償請求事
件以下「前訴」という,平成17年2月16日には,被告に対し,訴,。)
訟告知をしたところ,被告は,同年3月24日,原告に補助参加した。
()大阪地方裁判所は,平成17年11月10日,本件土地は本件位置指定11
道路に接面しているとして,原告の請求を棄却する旨の判決をし,同判決は
確定した。
第3争点
1被告の過失の有無
2因果関係の有無
3損害の発生の有無及びその額
第4当事者の主張
1被告の過失の有無(争点1)について
(原告の主張)
()本件北東土地について,道路位置指定を申請したのは被告と考えられ,か1
つ,同土地について道路位置指定処分を行った(以下「本件道路位置指定」
という)のも被告であるから,被告が本件道路位置指定に関する情報をす。
べて保管していること,位置指定道路の範囲は,土地の外形から必ずしも明
らかではないこと,道路位置指定に関する情報は,土地の価格に決定的な影
響を与えること,被告は,地方公共団体として,市民から職務執行の正確さ
及び公正さに対して大きな信頼を受けていること,地方自治法10条2項に
よれば,住民は,法律の定めるところにより,その属する地方公共団体の役
務の提供を等しく受ける権利を有する旨定められていることから,道路位置
指定処分をなす被告には,位置指定道路の場所及び範囲に関する情報を管理
する義務並びに位置指定道路の場所及び範囲について市民からの問い合わせ
に正確に回答・報告する義務がある。そして,その回答・報告義務の前提と
,,。して被告には位置指定道路の場所及び範囲について調査する義務がある
()被告は,上記()記載のとおり,位置指定道路に関する調査報告義務があ21
り,本件位置指定道路の位置指定図(甲66(以下「本件位置指定図」と)
いう)には「幅員5.5M」という記載がある一方で,本件北東土地の幅。
員は5.9mであるから,本件位置指定道路の範囲を調査し,その正確な範
囲を原告に報告すべき義務があった。そして,実際には,本件土地と位置指
定道路の間には位置指定を受けていない土地など存在せず,本件土地は本件
,,,位置指定道路に接面していたにもかかわらず被告は必要な調査を行わず
以下のとおり誤った判断をして,上記第2の2()記載のとおり,10月26
8日ころ,原告らに対し,本件土地と本件位置指定道路の間には位置指定を
受けていない土地が存在する旨報告し,11月7日には,本件土地と本件北
東土地の境界線上に本件ブロックを設置して,本件土地から本件北東土地へ
の通行ができない状態にした。
ア本件位置指定図には「指定道路南側境界線上にはコンクリート製杭を,
持って明示してある」旨の記載があり,実際に,本件北東土地と町15b
の土地との境界にコンクリート製杭が存在した(以下,同コンクリート製
杭を「本件コンクリート杭」という。そうすると,本件コンクリート杭。)
は,位置指定道路の南側の境界線を示すものと考えるのが自然であり,こ
れと異なる判断をするのであれば,本件位置指定図に記載されたコンクリ
ート杭が別に存在することや,本件コンクリート杭の設置された時期,設
置者などを調査して,本件コンクリート杭が本件位置指定図に示されたコ
ンクリート製杭でないことを積極的に調査すべきであったのに,被告は,
このような調査を怠り,本件コンクリート杭が本件道路位置指定がなされ
た昭和27年1月21日当時に設置されたものでないとした。
イ工事には誤差がつきものであるから,観念上の幅員が完全に工事によっ
て再現されることはあり得ない。そうすると,道路の幅員を外形的に明示
する存在こそが重要となるところ,本件北東土地の北側及び南側には側溝
があるから,両方の側溝をもって,道路の幅員を明示したものと考えるの
が自然であり,これと異なる判断をするのであれば,南北それぞれの側溝
の,設置時期やその後の位置変更の有無等を調査して,南側側溝が本件位
置指定道路の幅員を示すものでないことを積極的に調査すべきであったの
に,被告はこのような調査を怠り,観念上の幅員を採用した。
ウ本件位置指定図には,側溝の内側から道路中心部まで2.25mという
記載がある一方で「幅員5.5M」という記載もあり,矛盾する点があ,
ったのに,被告は,漫然と観念上の幅員を採用した。
エ建築基準法施行令144条の4第1項5号によれば「幅員」には側溝,
が含まれるところ,被告は,これを考慮せずに漫然と,観念上の幅員を本
件北東土地の北側側溝の内側から当てはめた。
(被告の主張)
()原告の主張事実は否認し,法的評価は争う。1
()一般に,道路位置指定に関する情報は,当該位置指定処分を行った特定行2
政庁が保有しており,本件道路位置指定処分がなされた昭和27年1月21
日当時は,京都府知事が特定行政庁であった。昭和31年ころ,道路位置指
定処分の権限は,京都市長に委譲されたが,特定行政庁は,申請受付時に図
面の提出を受け,道路位置指定処分を行った上で,道路位置指定図を備え,
情報提供を行うのであるから,被告が提供する情報は,道路位置指定図に記
載されているものに限られ,被告には,それ以上に調査する義務はない。
()被告は,以下の判断過程を経て,本件位置指定図の記載に従い,本件北東3
土地の北側側溝の内側を始点として,そこから5.5mの位置を本件位置指
定道路の南側境界と考え,本件北東土地の幅員が実際には5.9mあったこ
,,とから本件位置指定道路が本件土地に接道していないと判断したのであり
この判断は合理的であって,被告には,何ら説明義務違反はない。
ア本件位置指定図には「指定道路南側境界線上にはコンクリート製杭を,
持って明示してある」との記載があるが,被告が境界を示す杭を設置する
のであれば,境界を示す矢印が被告の所有地内に本件土地に向いた形で設
置するはずであるのに,本件コンクリート杭は境界を示す矢印が本件土地
内に本件北東土地に向いた形で設置されていた。また,本件コンクリート
杭は,その劣化の程度からして,本件道路位置指定がなされた昭和27年
1月21日当時に設置されたものとは認め難かった。このため,被告は,
本件コンクリート杭は本件位置指定図にいうコンクリート製杭には該当し
ないと判断した。
イ本件北東土地の北側側溝は,材質及び幅員が位置指定道路に接続してい
る南北の在来道路の側溝と同様であるので,本件道路位置指定がなされた
。,昭和27年1月21日当時の原形を残していることが確実であった他方
本件北東土地の南側側溝は,在来道路の側溝に比べて幅が若干広く,比較
c的整ったものであり,その劣化の程度は,北側側溝及びこれに接続する
町22の土地の南北の道路の側溝と比較して明らかに少なかったため,昭
和27年1月21日当時に設置されたものとは認め難かった。このため,
被告は,本件位置指定道路の範囲を決定するに当たって,本件北東土地の
南側側溝を基準とすることはできないと判断した。
ウ本件位置指定図には,側溝内側から道路中心部まで2.25Mという記
,「.」,,載がある一方で幅員55Mという記載もあるがこれについては
本件位置指定図の側溝の詳細図は,側溝を造成するに当たっての設計図で
あり,位置指定に関する情報とは異なって,誤った記載がなされることも
あり得た。したがって,被告は,2.25Mの記載は誤った記載であると
判断した。
エ被告においては,平成15年当時は,位置指定道路の所有者が,自らの
土地を提供して,道路として認定された範囲よりも広い道路を建設する事
例があり,その場合には,指定幅のみが位置指定道路の範囲となることか
ら,位置指定道路の観念上の幅員と実際の幅員が異なっていた場合には,
観念上の幅員を採用する運用がなされていた。また,建築基準法施行令1
44条の4第1項5号によれば「幅員」には側溝が含まれるとされてい,
るが,同施行令は,本件道路位置指定がなされた昭和27年1月21日当
時は制定されておらず,現実には,建物の敷地となっていない箇所につい
ては側溝を設置していない例も多数あった。このため,被告は「幅員」,
に側溝が含まれるという判断を採用しなかった。
オ道路位置指定の申請書には,指定を受けようとする道路の敷地となる土
地の所有者及びその土地又はその土地にある建築物若しくは工作物に関し
て権利を有する者の承諾書を添付することとされている。したがって,被
告は,申請者及び関係権利者の同意を得ないで,勝手に,道路位置指定図
に記載された事項を超えて位置指定道路の範囲を決めることは許されなか
った。
()被告が本件ブロックを設置したのは,以下のとおり,正当な理由に基づく4
ものである。
ア原告及び甲設計は,被告と位置指定道路の範囲について交渉中であった
にもかかわらず,10月14日,一方的に,本件土地上に建築工事を開始
した。
イこのため,被告は,このまま上記建築工事を放置すれば,原告及び甲設
計により,本件北東土地のうち位置指定を受けていない道路部分が勝手に
使用されることになるので,これを保全するために,原告及び甲設計に対
し,本件土地と本件北東の土地の境界線上に何らかの囲障工事を実施する
旨を通知した。
ウしかし,原告及び甲設計は,本件土地における建築工事を中止せず,1
0月28日には,棟上げが完成した状態になったことから,被告は,上記
の位置指定を受けていない道路部分を保全するために,やむを得ず,本件
ブロックを設置した。
2因果関係の有無(争点2)について
(原告の主張)
原告は,本件土地を分譲する計画で,国から同土地を購入したが,同土地を
区画分筆して建売住宅を販売するには,建物建築に関する建築確認を取得する
必要があり,そのためには,同土地が建築基準法上の道路に接していなければ
ならない。しかし,被告は,上記第2の2()記載のとおり,本件土地と位置6
指定道路との間には,道路指定を受けていない土地があるという判断を示し,
本件土地の北東側に本件ブロックを設置したため,原告及び甲設計は,本件土
地上に建物を建築することができなくなった。このため,原告は,本件土地へ
の投下資本を回収するために,やむなく,上記第2の2()及び()記載のとお89
り,被告と調整を計り,本件土地の一部を寄付したり,費用を負担して側溝工
事を行ったりし,上記第2の2()記載のとおり,国に対する前訴の提起及び10
その準備のために鑑定を実施したのであるから,被告の上記1記載の不法行為
と後記3記載の損害の発生との間には因果関係がある。
(被告の主張)
()原告の主張事実は否認する。1
()原告及び甲設計が,上記第2の2()記載のとおり,本件土地の一部を被29
告に寄付し,費用を負担して側溝を移設したのは,原告及び甲設計が,被告
及び国双方の見解を踏まえて,被告の説明内容に納得し,被告と協議すると
いう判断に達したからであり,原告の自由意思に基づくものであって,被告
が強制したからではない。また,本件土地の西側は,川端通りに接している
ため,原告及び甲設計は,川端通りと接する箇所から位置指定道路を築造す
れば,建物敷地として使用できる面積は小さくなるにしても,本件土地にお
いて事業を行うことは可能である。したがって,因果関係はない。
()原告が,上記第2の2()記載のとおり,国に対し前訴を提起した点につ310
いても,上記()と同様に因果関係はない。2
3損害の発生の有無及びその額(争点3)について
(原告の主張)
原告は,被告の上記1記載の不法行為により,次のとおり,合計936万8
911円の損害を被った。
()上記第2の2()記載の原告及び甲設計と被告との間の合意を実行したこ19
とによる損害合計244万9171円
原告が甲設計に対する町16の土地の売主であることから,以下の費用b
や本件土地に係る土地の減価は,すべて原告が負担した。
ア被告に本件土地の一部を寄付するための分筆費用25万0000円
イ本件北東土地の南北の側溝を移動するための費用165万0000円
ウ被告に本件土地の一部を寄付したことによる本件土地の減価
合計23万4171円
(計算式)
(購入価格)÷(総面積)=(1㎡当たりの価格)123,520,000817.59151,078
×(<原告が寄付した土地の面積>+<甲設計が寄付した土151,0780.840.71
地の面積>)=(寄付による減価合計)234,171
エ本件土地に関する鑑定評価手数料31万5000円
()上記第2の2()記載の国に対する前訴提起のための費用210
合計106万9740円
ア印紙代8万6000円
イ郵券代3740円
ウ弁護士費用(着手金)98万0000円
()慰謝料500万0000円3
原告は,被告の一貫しない対応,誤った判断,強硬な対応に翻弄され,精
神的苦痛を受けた。これに対する慰謝料額は500万円が相当である。
()本訴提起の弁護士費用85万0000円4
()上記()ないし()の損害の総合計936万8911円514
(被告の認否)
否認する。
第5当裁判所の判断
1認定事実
第2の2の事実に,証拠(甲1,30,36,37,42ないし48,55
ないし64,66,81ないし85,88,89,92ないし96,乙1,3
ないし5)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
()本件位置指定図について1
昭和27年1月21日,本件道路位置指定処分がなされ,同処分の内容を
示すものとして,本件位置指定図が作成された。本件位置指定図は,本件北
東土地の北側に所在する京都市乙市営住宅の工事設計図の青焼きの複写を基
に,その上に,別紙2のとおり記載され,朱色の線をもって指定道路の巾の
境界線が示されたほか,以下の事項を手書きで加筆する形で作成された。
ア地目道路指定申請地は畑地
イ土地所有者京都市長B
ウ道路延長23m
エ道路幅員5.50m
オ道路境界線の表示方法側溝による
()建築基準法施行令等について2
ア建築基準法施行令144条の4第1項5号は,位置指定処分の対象とす
る基準として「道及びこれに接する敷地内の排水に必要な側溝,街渠そ,
の他の施設を設けたものであること」と規定している。
イ昭和27年当時,建築基準法施行令144条の4第1項5号は,制定さ
れていなかったが,側溝は道路の幅員に含まれるとした行政実例(昭和2
7年住指発第1280号)があった。
()平成15年当時の本件北東の土地の現況について3
ア本件北東土地の現況は道路であり,その北側部分には,同土地上に,同
土地と町6の土地との境界線に沿って側溝が存在し,本件北東土地の南c
側部分には,同土地上に,同土地と本件土地との境界線に沿って側溝が存
在した。南北両側の側溝部分を含め,本件北東土地の幅員は5.9mであ
った。
イ本件土地と本件北東の土地との境界線付近には,町21の土地と町cc
22の土地との南北の境界線と,町22の土地と町15の土地の境界cb
線とが交わる地点に,本件コンクリート杭が存在したが,ほかには,位置
指定道路の南側境界線を示すコンクリート製杭は存在しなかった。
()当事者等の交渉経緯等について4
ア原告は,8月13日,当時,開発許可及び位置指定道路を所管していた
被告都市計画局都市景観部開発指導課(以下「開発指導課」という)に。
対し,本件土地が本件位置指定道路に接道するとした開発行為の申請書を
提出した。
イ開発指導課は,本件位置指定図に記載されている道路幅員を5.5mと
する記載と,上記アの開発申請に記載された道路幅員5.9mとが異なっ
ていたことから,本件位置指定道路を管理していた被告都市計画局住宅室
住宅管理課(以下「住宅管理課」という)に対し,接道に関する照会を。
行った。
ウ住宅管理課は,開発指導課から本件位置指定図の写しを入手した上で,
本件北東土地を実測し,現状の道路幅員が5.9mであることを確認する
とともに,本件北東土地の北側及び南側の側溝の状況や,コンクリート製
杭の有無を調査した。その結果,当時存在した南側側溝が本件道路位置指
定処分がなされた当時から移設された形跡は見い出せず,町21の土地c
と町22の土地との南北の境界線と,町22の土地と町15の土地ccb
の境界線とが交わる地点に,本件コンクリート杭が存在したが,道路境界
明示以外に本件コンクリート杭の設置が必要となるような事情も見い出せ
なかったし,ほかには,本件位置指定道路の南側境界線を示すコンクリー
ト製杭も見い出せなかった。
エしかし,住宅管理課は,上記ウの調査の結果によっても,①本件位置指
定図の道路幅員5.5mとの記載と,実際の幅員5.9mとが異なってお
り,②本件北東土地の周辺に本件コンクリート杭が存在していたが,同杭
は本件北東土地上ではなく,本件土地内に設置されており,境界を示す矢
印が本件北東土地の方に向いた形で表示されていたことから,本件コンク
リート杭は被告が設置したとは考えられないとし,③本件北東土地の北側
,,,側溝はこれと町6の土地の南東角で接続している南北方向の側溝とc
幅員,形状,劣化の具合ともに同一のものであり,京都市乙市営住宅の入
居状況と併せて考えると,当初から設置されたものであると判断するのが
妥当であり,④位置指定図に表示された道路幅員が実際の幅員と異なる場
合には,位置指定図に表示された幅員を採用するのが相当であるとして,
本件位置指定道路は本件土地に接道していないと判断し,開発指導課に対
し,その旨伝えた。
,,,オ開発指導課は上記エの住宅管理課の判断を踏まえ8月17日までに
原告に対し,本件土地と本件位置指定道路の間に,道路指定を受けていな
い土地がある旨の判断を伝え,開発行為の中止を求めた。
カこのため,原告の取締役で甲設計の代表取締役でもあるCが8月18日
に,原告の販売代理店である株式会社丙住宅販売のD及び丁登記測量事務
所のEが,同月20日,同月21日及び同月26日に,それぞれ住宅管理
課に赴き,住宅管理課職員との間で,本件土地が本件位置指定道路に接し
ているか否かについて協議を重ねたが,住宅管理課は,本件土地が本件位
置指定道路に接道していないという判断を変更しなかった。
キ原告は,9月5日,被告に対し,上記第2の2()記載のとおり,A弁5
護士作成の「見解書」を示して,本件土地が本件位置指定道路に接してい
る旨を通知したところ,これに対し,住宅管理課は,本件位置指定道路が
本件土地に接道していないという従前の判断に変更がない旨を返答した。
クこれに対し,甲設計は,既に町16の土地のうち2区画を売却しておb
り,既に2棟の建物の建築工事を開始していたことから,原告及び甲設計
は,本件土地上の建築工事を中止すれば多大な損失を被ることになるとし
て,住宅管理課の指導に従うことなく,建物建築工事を続行した。
ケ住宅管理課は,10月14日,原告及び甲設計が本件土地で建物建築工
事を続行していることを確認し,このまま原告及び甲設計による建物建築
工事の続行を許せば,原告及び甲設計に,本件土地と本件位置指定道路の
間に存在する,道路指定を受けていない土地を勝手に使用されてしまうこ
とになると考え,この道路指定を受けていない土地を保全する必要がある
と判断して,10月28日ころ,Cに対し,本件土地と本件北東土地との
境界上に囲障工事を実施する旨を通知したが,原告及び甲設計は,建物建
築工事を中止しなかったので,被告は,11月7日,本件ブロックを設置
した。
,,コ被告が本件ブロックの設置という実力行使に出たため11月11日に
Dと,原告及び甲設計から依頼を受けた戊建設協同組合理事長のFが,同
月12日には,Fが,同月20日には,D,C及びF外1名が,12月1
日及び同月5日には,F外1名が,住宅管理課に赴き,本件ブロックの設
,,置及び本件位置指定道路の範囲について住宅管理課職員と協議をしたが
住宅管理課は,本件土地が本件位置指定道路に接道していないという従来
からの判断を変更しなかった。
サ原告及び甲設計は,これらの協議を経ても,住宅管理課が判断を変更せ
ず,他方,本件土地の売主である国は,本件位置指定道路への接続につい
て明確な根拠を示さなかったため,本件土地を区画分筆して建売住宅を販
売するには,建物建築に関する建築確認を取得する必要があり,そのため
には,本件土地が建築基準法上の道路である本件位置指定道路に接してい
る必要があるところ,このままでは,原告及び甲設計の土地分譲計画が頓
挫し,本件土地の購入資金を回収できなくなるなど,多額の損失を被って
しまうことを恐れた。このため,原告及び甲設計は,被告の判断に従わざ
るを得ないと考え,平成16年1月20日ころ,被告との間で,本件北東
土地の現状の道路幅員が6mになるようにするために,原告及び甲設計が
それぞれ本件土地の一部を被告に寄付するとともに,そのための本件土地
の分筆費用や本件北東土地の南側側溝の移動費用などを原告が負担するこ
ととして,本件位置指定道路の幅員を実際の幅員に併せて変更し,本件土
地が本件位置指定道路に接道できるようにすることで合意した。
シ原告は,上記合意を履行するために,平成16年7月までに,本件土地
の一部を分筆するための調査測量及び登記手続についての土地家屋調査士
に対する報酬等25万円,本件北東土地の南側側溝移転のための工事代金
165万円を支払い,町16の土地の売主であることから,甲設計とのb
間で,上記報酬等,代金,後記スの土地の減価及び後記セの鑑定費用全部
を原告が負担する旨の合意をした。
スまた,原告及び甲設計は,平成16年3月4日,被告に対し,上記土地
を寄付した。国からの購入代金に,上記寄付をした土地の本件土地全体に
対する面積割合を乗じると,上記寄付をした土地の価格は23万4171
円となる。
セそして,被告の主張によれば,原告は国から本件位置指定道路に接道し
ていないにもかかわらず,接道しているものとして本件土地を買い受けた
ことになるから,原告は,国を相手方として,本件土地と本件位置指定道
路の接道状況に関する国の説明義務違反を理由に,損害賠償請求訴訟を提
起することとし,平成16年7月27日,接道していない場合の町15b
の土地の価格について鑑定料31万5000円を支払って不動産鑑定を得
た上,同年8月20日,これを基に,大阪地方裁判所に対し,国を相手方
として,前訴を提起し,そのための印紙代8万6000円,郵券代374
0円,弁護士費用(着手金)98万円を負担した。
2被告の過失の有無(争点1)について
()上記1の認定事実によれば,本件は国家賠償法1条1項が適用されるべき1
事案であるところ,原告は,民法709条に基づく請求をするが,国家賠償
法1条1項の要件事実についても主張されているから,以下,同法1条1項
によって判断する。
前訴において,被告は,原告から,訴訟告知を受け,原告に補助参加した
,,,が大阪地方裁判所は本件土地は本件位置指定道路に接面しているとして
原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は確定したから,原告と
被告の間には,本件土地は本件位置指定道路に接面している旨の前訴の判断
につき,民事訴訟法46条本文の参加的効力が生じるところ,本件位置指定
図には「道路境界線の表示方法側溝による」と記載されており,同記載,
に照らすと,本件位置指定道路と指定外土地との境界は側溝によって現場で
表示されているとみるほかなく,当時側溝は道の幅員に含まれるとした行政
実例が存在したことをも勘案すると,本件北東土地に係る位置指定道路の両
側には側溝があり,二つの側溝で画された範囲をもって位置指定道路とした
とみるのが相当であり,平成15年当時存在した南側側溝が本件道路位置指
定処分がなされた当時から移設された形跡は見い出せなかったほか,本件位
置指定図には「指定道路南側境界線上にはコンクリート製杭を以て明示し,
てある」との記載があり,町21の土地と町22の土地との南北の境界cc
線と,町22の土地と町15の土地の境界線とが交わる地点には,本件cb
コンクリート杭が存在したが,道路境界明示以外に本件コンクリート杭の設
置が必要となるような事情も見い出せなかったし,ほかには,本件位置指定
道路の南側境界線を示すコンクリート製杭も見い出せなかったのであるか
ら,被告は,上記の本件位置指定図の記載及び現場の状況から,本件土地は
本件位置指定道路に接面していると判断すべきであったのであり,本件土地
と本件位置指定道路との間には被告の管理する土地があると判断し,同土地
を保全するため,原告及び甲設計に対し,建築工事の中止を求め,本件ブロ
ックを設置して,原告及び甲設計の土地開発計画を妨害した被告の担当者の
行為には,過失があり,その行為は,公権力の行使に当る公務員がその職務
を行うについて,行われたというべきである。
()これに対し,被告は,被告が提供する情報は道路位置指定図に記載されて2
いるものに限られ,それ以上調査する義務を負わないし,本件位置指定図に
道路幅員が5.5mと記載されており,被告の判断は合理的であると主張す
る。しかし,本件位置指定図の記載を前提としても,上記()説示のとおり1
被告の判断には過失があると認められるし,道路の幅員には計測地点によっ
てある程度の誤差が生じ得るものであり,位置指定処分をするに際してその
範囲を幅員によって決定し,それを超えた部分には位置指定処分が及ばない
とすることは,道路位置指定の趣旨を没却することになりかねないから,被
告の判断は合理性を欠くといわざるを得ない。
また,被告は,本件ブロックの設置は,本件北東の土地のうち,位置指定
,,道路とされていない部分を保全するためやむを得ず行われたものであって
不法行為を構成するものではないと主張する。しかし,原告及び甲設計の財
産上の利益を具体的・現実的に侵害する可能性を生じさせてまで,位置指定
道路とされていないと被告が主張する部分を保全する必要性・緊急性があっ
たとは言い難く,被告の国家賠償責任を否定する理由にはならない。
したがって,被告の主張は理由がない。
3因果関係の有無(争点2)並びに損害の発生の有無及びその額(争点3)に
ついて
()第2の2の事実及び上記1の認定事実によれば,原告は,上記2説示の過1
失行為により,本件土地が本件位置指定道路に接道していれば本来負担する
必要のない本件土地の一部を分筆するための調査測量及び登記手続について
の土地家屋調査士に対する報酬等25万円,本件北東土地の南側側溝移転の
ための工事代金165万円を支払い,土地を寄付して,その価格23万41
71円の損害を被ったほか,国を相手方として,本件土地と本件位置指定道
路の接道状況に関する国の説明義務違反を理由に,本件土地が本件位置指定
道路に接道していれば本来提起する必要がない前訴を提起し,印紙代8万6
000円,郵券代3740円,弁護士費用(着手金)98万円を負担し,前
訴を提起するために,接道していない場合の町15の土地の価格についてb
不動産鑑定を行い,鑑定料31万5000円を支払ったと認められ,これら
の支出及び寄付は上記過失行為と相当因果関係がある原告の損害というべき
である。
()これに対し,被告は,原告及び甲設計が本件土地の一部を被告に寄付し,2
費用を負担して側溝を移設したのは,原告及び甲設計が被告及び国双方の見
解を踏まえて被告の説明内容に納得し,被告と協議するという判断に達した
からであり,原告の自由意思に基づくものであって,被告が強制したからで
はないと主張するが,被告は,地方公共団体であって,道路位置指定処分の
権限を有しており,原告及び甲設計は,そのような立場にある被告が本件ブ
ロックを設置するとの実力行使に出たため,被告の判断に従って寄付や移設
等をしたものであって,最終的には原告の自由意思によるものではあるとし
ても,なお,これらの損害は,上記過失行為と相当因果関係があるというべ
きである。また,被告は,本件土地の西側は,川端通りに接しているため,
原告及び甲設計は,川端通りと接する箇所から位置指定道路を築造すれば,
建物敷地として使用できる面積は小さくなるにしても,本件土地において事
業を行うことは可能であるとも主張するが,原告及び甲設計が理由もないの
に被告に計画を縮小することを強いられる理由はないから,同主張も理由が
ない。
()このほかに,原告は,慰謝料の支払を求めるが,上記財産上の損害が賠償3
されることにより原告のすべての損害が填補されるというべきであるから,
原告の同支払請求は理由がない。
()以上によれば,原告の損害額は合計351万8911円となるが,本件位4
置指定図の記載及び現場の状況からすれば,本件土地は本件位置指定道路に
接面していると判断することが可能であったのであり,そのように判断する
については,ほかに格別の専門知識等を要しないから,上記損害の発生には
原告及び甲設計の過失もあったというべきであり,上記の本件位置指定図及
び現場の状況に照らし,過失相殺としてその2割を減ずるのが相当であるか
ら,原告は,281万5128円(円未満切り捨て)の限度で賠償を求める
ことができる。
()そして,本訴の審理経過,本訴請求の内容,認容額,その他本件証拠から5
認められる一切の事情を斟酌すると,本訴提起と相当因果関係がある弁護士
費用の額は,30万円とするのが相当である。
()また,原告は,Cに対し本件土地と本件北東土地との境界上に囲障工事を6
実施する旨を通知した10月28日をもって不法行為が成立すると主張する
が,同時点では原告及び甲設計の土地開発等の財産上の利益が侵害される危
険性が具体化・現実化したとはいえず,被告が本件ブロックを設置した11
月7日に国家賠償法1条1項の違法行為があったというべきである。
4結語
以上の次第で,原告の本件請求は,被告に対し,損害合計311万5128
円及びこれに対する違法行為の日である平成15年11月7日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある
から認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につ
き民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそ
れぞれ適用して,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山下寛
裁判官上田卓哉
裁判官森里紀之
(別紙の添付は省略)

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