弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,平成2年9月,昭和62年に6836万5000円で買い受
けた川崎市a区所在の本件土地を1億3000万円で売却した。被上告人は,従前
,大学教授として得た収入等について税理士に委任することなく所得税の申告をし
ていたが,本件土地の売却に伴う譲渡所得を得た平成2年分の所得税については,
申告を税理士に委任することとし,平成3年2月ころ,知人から甲税理士(以下「
甲税理士」という。)を紹介された。
 (2) 甲税理士は,平成3年2月末ころ,被上告人から本件土地の譲渡所得に係
る所得税について相談を受け,裏付け資料等を示されることなく事情を聴取しなが
らメモを作成し,これを被上告人に示して,税額約2600万円が経費を控除して
2310万円となるところ,全部で1800万円で済ませることができ,800万
円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をした。同メモには本件土地
の買手の紹介料等が経費として記載されていたが,被上告人が上記紹介料を出費し
た事実はなく,出費した旨を甲税理士に告げたこともなかった。
 (3) 被上告人は,上記の相談をした当日直ちに甲税理士に依頼することなく,
知人から同税理士が税理士資格を有していることについて確認を得た上,数日後に
,同税理士に対し平成2年分の所得税の申告を委任し,平成3年3月6日,同税理
士に対し税務代理の報酬5万円のほか1800万円を交付した。
 (4) 甲税理士は,昭和42年に税務署を退職後,税理士を開業していたが,長
年にわたり,受任した納税者の不動産の譲渡所得に係る課税資料を税務署員をして
廃棄させた上その譲渡所得を申告しないという方法による脱税行為を実行し,納税
者から受領した納税資金を領得していた。甲税理士は,平成3年3月上旬ころまで
に,被上告人について脱税行為の協力者であった乙が勤務していた荻窪税務署管内
に転居した旨の虚偽の転居通知をして,その譲渡所得に係る課税資料を同税務署に
送付させ,同人にこれを廃棄させた。そして,甲税理士は,同月15日,被上告人
の平成2年分の所得税について,総合課税の所得金額を999万3048円,納付
すべき税額を7100円とする確定申告書を提出し,本件土地の譲渡所得について
は,申告も納税もせずに,被上告人から受領した1800万円を領得した。被上告
人は,後日,妻を通じて,甲税理士に対し申告手続の履行について確認し,申告が
終了したとの返答を得たが,申告書の控えの交付を受けることはなかった。
 (5) その後,甲税理士の上記の脱税行為が発覚し,被上告人は,平成9年12
月12日,上告人に対し,平成2年分の所得税について,総合課税の所得金額を1
036万5148円,分離課税の所得金額を4882万2934円,納付すべき税
額を2529万3600円とする修正申告書を提出した。これを受け,上告人は,
同月19日,被上告人に対し,税額を1万1000円とする過少申告加算税賦課決
定及び税額を880万9500円とする重加算税賦課決定をした。
 2 本件は,被上告人が,上記過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定(
以下,併せて「本件各賦課決定」という。)が違法であるとして,その取消しを求
めている事案である。
 第2 上告代理人都築弘ほかの上告受理申立て理由のうち国税通則法70条5項
の解釈適用の誤りをいう点について
 1 原審は,前記事実関係の下において,被上告人が平成2年分の所得税につい
て偽りその他不正の行為により税額を免れたと認めることはできないから,国税通
則法70条5項は適用されず,本件各賦課決定は同条4項所定の除斥期間経過後に
されたものとして違法であると判断した。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 【要旨1】国税通則法70条5項の文理及び立法趣旨にかんがみれば,同項は,
納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず,納税者から申告の委任
を受けた者が偽りその他不正の行為を行い,これにより納税者が税額の全部又は一
部を免れた場合にも適用されるものというべきである。前記事実関係によれば,被
上告人は,平成2年分の所得税について,申告を委任した甲税理士の前記の脱税行
為によりその税額の一部を免れたものということができる。そうすると,被上告人
の同年分の所得税に係る重加算税賦課決定等については同項が適用されることにな
るから,本件各賦課決定はその除斥期間内にされたものというべきである。これと
異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論
旨は理由がある。
 第3 上告代理人都築弘ほかの上告受理申立て理由のうち国税通則法68条1項
の解釈適用の誤りをいう点について
 1 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり認定判断した。
 (1) 被上告人は,甲税理士が違法な手段により税額を減少させるのではないか
との疑いを抱いたと推認されるが,① 税理士は,国が資格を付与し,租税に関す
る法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり,職
務違反行為等について懲戒処分が科される我が国の税理士制度の下では,納税者は
,一般に,税理士に対し税務申告手続の煩わしさから解放されるとともに,法律に
違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように節税することを期待して
委任するのであり,これを超えて脱税をも意図して委任するわけではないこと,②
 甲税理士が税務署勤務の経験を有し,税務当局から不正行為の疑いを抱かれるこ
ともなく長年業務に従事してきた税理士であることからすると,被上告人が,上記
の疑いを取り除くことなく,同税理士に申告を委任したからといって,脱税を意図
し,その意図に基づいて行動したと認めることはできない。
 (2) したがって,本件は,国税通則法68条1項に規定する課税標準等の計算
の基礎となるべき事実を隠ぺいし,又は仮装し,これに基づき納税申告書を提出し
た場合には当たらない。
 2 しかしながら,原審の上記認定判断は是認することができない。その理由は
,次のとおりである。
 【要旨2】前記事実関係によれば,甲税理士は,本件土地の譲渡所得に関し,被
上告人に対し,本件土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら
,800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが,被上告
人は,上記紹介料を実際に出費していなかったし,出費した旨を同税理士に告げた
こともなかったにもかかわらず,上記の説明を受けた上で,同税理士に対し,平成
2年分の所得税の申告を委任し,税務代理の報酬5万円のほか,1800万円を交
付したというのである。そうであるとすれば,被上告人は,甲税理士が架空経費の
計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知してい
たとみることができるから,特段の事情のない限り,被上告人は同税理士が本件土
地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし,又は仮装することを
容認していたと推認するのが相当である。原審が掲げる上記1の(1)の①及び②の
事情だけによって,上記特段の事情があるということはできない。そうすると,被
上告人が脱税を意図し,その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審
の認定には,経験則に違反する違法があるというべきである。
 そして,本件において,被上告人と甲税理士との間に本件土地の譲渡所得につき
事実を隠ぺいし,又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるので
あれば,本件は,国税通則法68条1項所定の重加算税の賦課の要件を充足するも
のというべきであるところ,記録によれば,甲税理士においても,同税理士が本件
土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし,又は仮装することについて,被上告人がこ
れを容認しているとの認識を有していたことがうかがわれる。そうすると,原審の
上記の経験則違反の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由が
ある。
 第4 結論
 以上によれば,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人と甲税理士との間に
前記の意思の連絡があったと認められるかどうかなどについて,更に審理を尽くさ
せるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官滝井繁
男の補足意見がある。
 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件の事案の特殊性にかんがみ,次の
とおり補足して意見を述べておきたい。
 本件は,納税者から申告手続の委任を受けた税理士が税務署員をして譲渡所得に
係る課税資料を廃棄させた上,納税者から受領していた納税資金を領得して,譲渡
所得についての申告をしなかったという特殊な事案であり,納税者と税理士との間
にどの範囲の事実の隠ぺい・仮装について意思の連絡があったかは,差戻し審にお
いて審理し,確定される必要がある。
 重加算税は,高率の加算税を課すことによって,隠ぺい・仮装による納税義務違
反行為を防止し,徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の一種の制裁措置で
ある。納税者から申告手続の委任を受けた税理士等の第三者が隠ぺい・仮装行為を
した場合において,納税者は,自らその行為をしていないというだけの理由でこの
制裁を免れるわけではない。しかし,事実の隠ぺい・仮装についてその一部に意思
の連絡があるからといって,必ずしも過少申告となった税額全体について納税者に
対して重加算税を賦課することができるわけではないとする考え方が十分あり得る
のであり,重加算税を賦課することができる範囲は,重加算税制度の趣旨,目的等
から見て,慎重な検討を要する問題である。差戻し審においては,前記の事実を確
定した上で,上記の問題について十分検討すべきである。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷
 玄 裁判官 津野 修)

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