弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は、被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人古屋倍雄の上告理由について
 一 原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 Dは、Eと同棲していた某女をめぐってEと対立していたところ、昭和五四
年一〇月一〇日、甲府市内の道路上において、同人から逃れるため、同女を普通乗
用自動車に乗せて発進しようとしていたが、同人は、運転席側のロックされたドア
のノブをつかんで開けようとしたり、ドアを蹴るなどしながら、同車の発進を阻止
しようとした。このため、Dは、同車を徐々に発進走行させたが、Eがなおもノブ
をつかみ、ウインドガラスをたたきながら「降りてこい。」などと言って横歩きで
並進してついてきたので、同人を振り切って逃げるため、同人を路上に転倒させ負
傷させることのあることを認識しながらあえてこれを認容し、同車を時速一五キロ
メートルから二〇キロメートル程度に急加速したところ、同人は路上に転倒して、
頭蓋冠線状骨折等の傷害を負い、三日後に死亡した。
 2 Dは、本件加害車両につき、自己を記名被保険者として、被上告人との間で、
自家用自動車保険契約を締結していたところ、右保険契約に適用される自家用自動
車保険普通保険約款第一章賠償責任条項には、被保険者が損害賠償請求権者に対し
て負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との
間で判決が確定したときは、損害賠償請求権者は、保険会社が被保険者に対してて
ん補責任を負う限度において、直接保険会社に対して所定の損害賠償額の支払を請
求できる旨の条項(六条。以下「本件被害者請求条項」という。)及び保険会社は、
保険契約者、記名被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意によって生じた損害
をてん補しない旨の条項(七条一項一号。以下「本件免責条項」という。)がある。
 3 亡Eの相続人である上告人らは、Dを被告として本件交通事故による損害賠
償を求める訴えを提起したところ、東京高等裁判所は、昭和五七年一〇月二七日、
上告人らそれぞれにつき各二七二万四六一三円及びこれに対する昭和五五年五月一
五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を命ずる判決を言い渡し、右
判決は確定した。
 二 原審は、右事実関係の下において、本件被害者請求条項に基づき、被上告人
に対し、右確定判決によって認容された損害賠償額と同額の金員の支払を求める上
告人らの請求に関し、(一) 本件免責条項にいう「故意」にはいわゆる未必の故意
も含まれ、かつ、(二) 本件免責条項は、傷害の故意により被害者を死亡させた場
合にも適用されると判断して、上告人らの請求を認容した一審判決を取り消し、上
告人らの請求を棄却した。
 三 しかしながら、原審の右(二)の判断は肯認することができない。その理由は
次のとおりである。
  傷害の故意に基づく行為により予期しなかった死の結果を生じた場合には、加
害者は、右行為と被害者の死亡との間に相当因果関係が認められる限り、その死亡
に伴う全損害につき損害賠償責任を負担することになるが、このことから直ちに、
傷害の故意に基づく行為により予期しなかった死の結果を生じた場合に、本件免責
条項により免責の効果が発生するものと解するのは相当でない。けだし、ここで問
題となるのは、加害者の負担すべき損害賠償責任の範囲ではなく、本件免責条項に
よって保険者が例外的に保険金の支払を免れる範囲がどのようなものとして合意さ
れているのかという保険契約当事者の意思解釈の問題であるからである。そして、
本件免責条項にいう「故意によって生じた損害」の解釈に当たっては、右条項が保
険者の免責という例外的な場合を定めたものであることを考慮に入れつつ、予期し
なかった死亡損害の賠償責任の負担という結果についても保険契約者、記名被保険
者等(原因行為者)の「故意」を理由とする免責を及ぼすのが一般保険契約当事者
の通常の意思であるといえるか、また、そのように解するのでなければ、本件免責
条項が設けられた趣旨を没却することになるかという見地から、当事者の合理的意
思を定めるべきものである。
 以上の見地に立って考えると、傷害と死亡とでは、通常、その被害の重大性にお
いて質的な違いがあり、損害賠償責任の範囲に大きな差異があるから、傷害の故意
しかなかったのに予期しなかった死の結果を生じた場合についてまで保険契約者、
記名被保険者等が自ら招致した保険事故として免責の効果が及ぶことはない、とす
るのが一般保険契約当事者の通常の意思に沿うものというべきである。また、この
ように解しても、一般に損害保険契約において本件免責条項のような免責約款が定
められる趣旨、すなわち、故意によって保険事故を招致した場合に被保険者に保険
金請求権を認めるのは保険契約当事者間の信義則あるいは公序良俗に反するもので
ある、という趣旨を没却することになるとはいえない。これを要するに、本件免責
条項は、傷害の故意に基づく行為により被害者を死亡させたことによる損害賠償責
任を被保険者が負担した場合については適用されないものと解するのが相当である。
 そうすると、原判決には、本件免責条項の趣旨についての解釈を誤った結果、上
告人らの請求を排斥した違法があることに帰するから、右の違法をいう論旨は理由
があり、原判決は破棄を免れない。そして、前示事実関係によれば、上告人らの請
求は認容すべきものであって、これと同旨に出た第一審判決は正当であり、被上告
人の控訴は棄却すべきものである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄

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