弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人尾山宏、同彦坂敏尚、同南山富吉及び上告人A1、同A2、同A3の
代理人門井節夫、同佐藤義雄、同後藤徹の上告理由第一章について
 地方公務員法三七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、当裁
判所の判例とするところであり(昭和四四年(あ)第一二七五号同五一年五月二一
日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁)、右と同旨の原審の判断は、正当とし
て是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができ
ない。
 同第二章について
 原審の適法に確定した事実関係の下において、本件各争議行為に参加した上告人
らの行為が地方公務員法三七条一項に違反するとした原審の判断は、正当として是
認することができ、原判決に所論の違法はない。本件各争議行為の当時、地方公務
員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を喪失していたものとい
うことができないことは、原判示のとおりであるから、右代償措置が本来の機能を
喪失していたことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用
することができない。
 同第三章について
 地方公務員につき、地方公務員法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分
を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量
に任されており、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会
観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認め
られる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないも
のと解すべきである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第
三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。原審の適法に確定した事実関係
の下において、上告人らに対する本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くも
のとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を超え、これを濫用したものとはいえない
とした原審の判断は、正当として是認することができる(なお、所論の五・一三統
一行動は年次有給休暇に名を借りた同盟罷業にほかならないから、被上告人が本件
各懲戒処分をするに当たり、右統一行動への参加を理由とする訓告の事実をしんし
ゃくしたことをもって、懲戒権者の裁量権の範囲を超え、これを濫用したものとす
ることはできない。)。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができな
い。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官橋元四郎平の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり
判決する。
 裁判官橋元四郎平の補足意見は、次のとおりである。
 私も、地方公務員法三七条一項の規定が地方公務員の争議行為を一律全面的に禁
止したことをもって憲法二八条に違反するものではないとする法廷意見の結論には
賛成する。ただし、その理由については、法廷意見は最高裁昭和四四年(あ)第一
二七五号同五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁(D教組事件
判決)を援用する以外に特段の判示をしていないので、以下に私の意見を補足的に
述べておくこととする。
 最高裁昭和四一年(あ)第四〇一号同四四年四月二日大法廷判決・刑集二三巻五
号三〇五頁(E教組事件判決)は、いわゆる合理的限定解釈論を採用した上で、地
方公務員法三七条一項が憲法二八条に違反するものでないと判断したのであるが、
右判決は、地方公務員法三七条一項に違反してされた争議行為に対して同法六一条
四号所定の刑事罰をもって臨むことが許されるか否かという刑事責任との関係でそ
のような判示をしたもので、同法三七条一項違反を理由とする懲戒処分又は民事上
の責任追及との関係でそのような判示をしたものではない。むしろ、右判決は、「
地方公務員のする争議行為については、それが違法な行為である場合に、公務員と
しての義務違反を理由として、当該職員を懲戒処分の対象者とし、またはその職員
に民事上の責任を負わせることは、もとよりありうべきところである」と判示して
おり、懲戒処分又は民事上の責任追及との関係においては、いわゆる合理的限定解
釈論を採用する余地がないことを示唆しているものと解されるのである。
 本件においては、いうまでもなく、懲戒処分との関係において地方公務員に対す
る争議行為禁止規定の合憲性の有無が争われているのであるが、法廷意見の引用す
るD教組事件判決は、刑事責任との関係において地方公務員等に対する争議行為の
全面禁止が憲法に違反するものではないと判断したものである。私としては、E教
組事件判決を変更したD教組事件判決の判示の理由付けについては、なお、疑問と
すべき点がないわけではないと考えている。しかし、このことは懲戒処分との関係
において争議行為の全面禁止を憲法に違反するものではないとすることに対する疑
問に直ちにつながるものではなく、所論のD教組事件判決を批判する論旨によって
は、懲戒処分との関係において争議行為の全面禁止の合憲性を肯定した原審の判断
を違法とするには至らないものと考える。したがって、結局、論旨は理由がないこ
とになる。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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