弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人近藤亮太の上告趣意について。
 本件控訴趣意書において弁護人が第一審判決の事実誤認の事由として挙げている
点を検討してみると、(イ)本件水飴の売主がA農業会であることは、第一審判決
が証拠として採用した検察庁における永井光直の供述調書によつて明かである。上
告論旨は、第一審が右の永井の供述を証拠として採用した理由の説明が無いことを
非難しているけれども、証拠の取捨は事実審裁判所の自由心証に委ねられていると
ころであつて、何故にある証拠を措信したかの理由を説明する必要はないのである
から、右のような非難は不当である。
(ロ)本件水飴が未検査品であるということも、第一審判決が証拠として引用して
いる被告人の第一審公判廷における供述によつて認定できる。
 以上の次第であるから(イ)及び(ロ)の主張に関しては、原判決が第一審判決
を維持したのは正当である。
(ハ)昭和二二年九月一五日物価庁告示第六四一号によれば、未検査澱粉飴の販売
業者販売価格の統制額は、六貫八〇〇匁入り一罐につき三九一円五〇銭であること
控訴趣意書所論の通りであるが、本件は中味売りであるから、これから一二円五〇
銭を引き、更らにこれに物品税七六五円を加算した一一四四円が基準額である。従
つて被告人が買受けた三四〇貫の統制価額総額は、五七、二〇〇円であり、買受価
額三〇万円は、起訴状の通り二四二、八〇〇円の超過となる。然るに第一審判決は、
超過額を二二一、三〇〇円二〇銭と判示したのであるから、これは誤算である。し
かし被告人が統制額を超えた代金で水飴を買受けたという事実には相違はないので
あるから、原判決は、第一審判決挙示の「各証拠に依れば原判決認定の物価統制令
違反の事実を認め得る」と判示したものと思われる。のみならず控訴趣意書主張に
従えば統制額超過金額は判示超過額よりも多くなつて被告人のために不利益となる
し、又第一審判決が科した罰金一五万円は右のいずれの計算に従つても物価統制令
第三三条但書の範囲内であるし、その他前記のように比較的少額の誤算が判決の主
文に影響を及ぼすものとも認められないから、原判決が第一審判決を維持したこと
を以て、違法ということはできない。
 次ぎに量刑不当の主張については、量刑は事実審裁判所の自由裁量に委ねられて
いることであるから、原判決が第一審判決の量刑を相当と認めて、これを維持した
からとてこれを違法というべき何等の理由もない。
 論旨は、原判決の理由説明が簡単であることから推して、原裁判所は実際は記録
の調査検討を怠つているのではないかと疑いひいてこれを基本的人権蔑視の態度と
なし、憲法違反の謗りを免れないものであると主張しているが、原判決の如何なる
点が如何なる理由により、憲法の如何なる条項に違反するかを示さずして、漫然憲
法違反の語を用いているに過ぎないから、これを以て刑訴第四〇五条にいわゆる憲
法違反の主張をするものと認めることはできない。以上の理由により刑訴第四〇八
条に従い主文の通り判決する。この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
  昭和二五年七月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官穂積重遠は差支えに付署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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