弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 論旨第一点について。
 論旨第一点中憲法一三条、一四条の違反をいう部分は、結局、被上告人が昭和二
三年度産米の供出個人割当通知について上告人を差別的に取り扱つたことは右規定
の精神に照らし違法な権限行使と認むべきものであるというに帰する。また憲法二
九条の違反をいう部分は、右割当通知が違法であることを前提として、違法な処分
により個人の財産に不利益を課することが同条に違反するというに帰する。
 しかし、本件供出個人割当通知が行われた当時における法令(食糧管理法三条、
同法施行規則一条、三条、昭和二三年農林省令一一五号附則二項)によれば、供出
割当の方法については、「市町村長が、知事の指示に従い、食糧調整委員会の議決
を経て、供出割当数量を定め、遅滞なくこれを生産者に通知する」との趣旨の定め
があるにとどまり、その方法として、いわゆる事前割当の方法(生産開始前に予め
部落内の生産者相互の協議を経て割当額を決定通知する方法)によるべきかどうか、
また割当通知の時期を何時とすべきか等については、何等具体的な定めがなかつた
ことは明らかである。従つて、これらの点についてどのような措置をとるかは、一
応、行政庁の裁量に任されていたものと解さざるを得ない。もつとも、かような場
合においても、行政庁は、何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱いこれに
不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味においては、行政庁の裁量権
には一定の限界があるものと解すべきである。しかし、原審の認定するところによ
れば、同じ部落内の上告人以外の生産者に対しては、事前割当の方法により昭和二
三年五月一〇日頃に個人割当の通知が行われたに対し、上告人は、従来から供出に
非協力であり、これにつき他の部落民と協議することは不可能と思われる状況にあ
つたため、上告人に対しては、別に、食糧調整委員会の議決を経て、産米作付反別
その他地力等につき所要の調査を遂げ、とくに上告人が本来の農家でないことをも
考慮してその負担を軽減し、同年十二月二四日に供出割当数量を通知したというの
である。かような事情の下では、上告人が事前割当の手続に参加し協議に与る機会
を失つたとしてもやむを得ないところであり、また上告人については個別的に生産
の状況を調査するため上記の程度において割当通知が遅延したとしても、強いてこ
れをとがめ得ない事情にあつたものといわねばならない。しかも、供出割当の制度
は、結局において、生産の実情に応じて供出義務を負担させることにあるものと解
すべきであるが、原審の認定するところによれば、同年度における上告人の実際の
収穫量は、右の割当数量を供出するに十分余裕のある状況にあつたというのである
から、前記の措置により上告人が特別に不利益を被つたものとは認められない。以
上のような事情を綜合して考えれば、被上告人が供出割当について上告人を前記の
程度において区別して取り扱つたとしても、これをもつていわれのない差別取扱に
よる違法処分というには当らず、また右措置が上告人に対する人格蔑視に基く違法
処分であるということもできないものといわねばならない。それ故、憲法一三条、
一四条の精神を援用して本件供出割当通知を違法処分と解すベきものとする論旨は
採用するに足りず、右割当通知が違法であることを前提とする憲法二九条違反の論
旨は、前提を欠くものとして採用し得ない。
 論旨第一点中その余の論旨は、昭和二三年五月一〇日頃同じ部落の生産者中上告
人を除くその他の生産者に事前割当の方法により供出個人割当の通知をした行為が、
上告人に対する関係では同人に供出義務がないことを確定する効力をもつ行政処分
であることを前提としてこれを取り消すことが違法である旨を主張するものと解さ
れる。
 しかし、上告人以外の生産者に対する供出個人割当の通知は、右通知を受けた生
産者に対し供出義務を生ぜしめるにとどまり、当時通知を受けなかつた上告人に対
する関係で、同人に供出義務がないことを確定する効力を有するものでないことは
明らかであるから、この点に関する論旨は、採るに足りない。
 論旨第二点について。
 論旨は、証人として尋問すべき者を職権により当事者として尋問したという違法
は、責問権の放棄により治ゆされるものではない旨を主張するものである。
 しかし、職権による証人尋問の許される行政事件訴訟においては(行政事件訴訟
特例法九条)、右の違法は、ひつきょう証拠調の方式に関する違法にほかならない
から、被尋問者がこれを拒まず、当事者が異議を述べなかつた以上、この違法は責
問権の放棄により治ゆされたものと解するのが相当である。この点に関する原審の
判断は正当であつて、論旨は理由がない。
 以上のほかの論旨は、すべて、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例
に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該
当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認めら
れない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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