弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について
 個人の居住の用に供される不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、当該不
動産の取得のために代金の全部又は一部の借入れをした場合における借入金の利子
のうち、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものは、所得税法三八条
一項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれるが、当該不動産の使用開始の日
の後のものはこれに含まれないと解するのが相当である(最高裁昭和六一年(行ツ)
第一一五号平成四年七月一四日第三小法廷判決参照)。
 これを本件についてみるのに、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりで
ある。(1) 上告人は、昭和四九年一二月一六日、Dから、自己の居住の用に供す
るために、第一審判決添付別紙二記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)
を、代金一〇三五万円で買い受けて取得し、その後、昭和五〇年一月三一日これを
自己の居住の用に供した、(2) 上告人は、本件不動産を取得するために、昭和四
九年一二月九日、Eから七六七万七〇〇〇円を借り入れ(借入利率は、六〇〇万円
の部分が年三・六パーセント、残りの一六七万七〇〇〇円の部分が年七・二パーセ
ントである。)、右借入金を前記取得代金の支払に充てたところ、借入れ後本件不
動産を自己の居住の用に供した日までの期間に対応する利子の額は、四万九七八六
円であった、(3) 上告人は、昭和五四年五月二一日、本件不動産をFに代金一一
〇〇万円で譲渡した。
 右の事実関係によれば、上告人は、資金七六七万七〇〇〇円を借り入れることに
より、自己の居住の用に供するため本件不動産を買い受けて取得し、昭和五〇年一
月三一日これを自己の居住の用に供したというのであるから、右借入金に対する借
入れ後同日までの期間に対応する利子の額である四万九七八六円は、上告人の昭和
五四年分に係る本件不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、右にいう「資産
の取得に要した金額」に該当するが、昭和五〇年二月一日以降のものはこれに該当
しないというべきであり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することが
できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に
基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
味村治の意見、裁判官橋元四郎平の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
 裁判官味村治の意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見と同じく、本件上告を棄却すべきものと考えるが、個人がその居
住の用に供するため不動産を取得するに際して、代金の全部又は一部の支払のため
借入れをした場合、借入金の利子のうち、所得税法三八条一項にいう「資産の取得
に要した金額」に含まれて譲渡所得の金額の計算上控除されるものは、当該不動産
が使用可能となった日以前の期間に対応するものと解すべきであって、当該不動産
の使用開始の日以前の期間に対応するものではないと考えるものであり、この点に
おいて多数意見と見解を異にするので、その理由を述べておきたい。
 一 右の借入金の利子の全部又は一部が譲渡所得の計算上控除されるか否かは、
利子の全部又はある一部を支払うことが不動産を取得するために必要か否かにかか
る。このことは、所得税法三三条三項及び三八条一項の規定の文理並びに譲渡所得
に対する課税の趣旨が資産の値上りによりその所有者に帰属する増加益を所得とし
て課税することにあること(最高裁昭和四一年(行ツ)第一〇二号同四七年一一月
二六日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号二〇八三頁参照)から明らかである。
 二 右の借入金の利子は、借入金の利用の対価であるから、利子の支払の必要性
は、借入金の利用の必要性に帰する。右の借入れの当初の目的は、不動産を取得す
るための資金を得ることにあるが、借入金は借入れの時から弁済の時まで借主によ
って利用されるから、その利用の必要性は、弁済の時まで継続する。そして、借主
は、借入金の弁済の期限を約定するについては、通常、自己の収入、家族構成、生
活状況、借入金の利率等を考慮し、弁済により生活の維持に支障が生ずることのな
いよう配慮することが示しているように、右の借入れは生活を維持しつつ、不動産
を取得するために行われるもので、借入金の利用は、不動産の取得と生活の維持と
のために必要であると考えられる。しかし、借主が不動産を取得した後は、その取
得の必要性は消滅するから、借入金の利用、したがってまた、利子の支払は、不動
産の取得のためではなく、その代金の支出によっても生活の維持に支障が生じない
ように行われるものとなり、借入金の利子は、むしろ、生活費にすぎないものとな
るというべきである。
 三 個人の不動産取得の目的がその居住のためであるときは、その不動産がその
個人の住居として使用できる状態にならなければ、不動産取得の目的は達成されな
いから、不動産が右の状態になる日(以下「使用可能日」という。)までは、不動
産の取得は完了せず、契約等により、代金の全部又は一部を当該不動産の使用可能
日前に支払わなければならない場合には、代金の支払後も、使用可能日までは、不
動産の取得は完了しないというべきである。したがって、この場合において、代金
の支払のため借入れをするときは、使用可能日までの間借入金を利用し、その間の
利子を支払うことは、不動産の取得のため必要であるというべきであるから、借入
金の利子のうち、使用可能日以前の期間に対応するものは、不動産の取得に要した
金額に含まれる。
 四 しかし、個人が居住用に取得する不動産の代金の支払のため借入れをした場
合、使用可能日後における借入金の利用は、上述したところにより、不動産の取得
のためでなく、生活の維持のために行われるものというべきであるから、借入金の
利子のうち、使用可能日後の期間に対応するものは、不動産の取得のため必要な金
額ということはできない。多数意見は、使用開始の日以前の期間に対応するものは、
不動産の取得に要した金額に含まれるとするが、使用可能日後は、当該不動産を使
用するか否かは、これを取得した個人の意思にかかるから、賛成することができな
い。
 五 以上の理由により、私は、右の借入金の利子のうち、当該不動産の使用可能
日以前の期間に対応するものは、所得税法三八条一項の「資産の取得に要した金額」
に含まれ、その余の利子はこれに含まれないと解すべきであると考える。本件にお
いて、原判決は、借入金の利子のうち、使用開始前の期間に対応するものは、右の
「資産の取得に要した金額」に含まれるとしており、原判決には、同項の解釈に誤
りがあるが、本件課税処分の控除額は、使用開始の日以前の期間に対応する利子と
されていて、私の意見による控除額より少ないことはないので、結局、原判決は相
当であり、本件上告は棄却されるべきである。
 裁判官橋元四郎平の反対意見は、次のとおりである。
 一 私は、多数意見と異なり、個人の居住の用に供する不動産の取得に充てるた
めの借入金の利子は、当該不動産の取得のためにその借入れ及び利子の支払が実質
的に欠かせないものと認められる限り、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対
応するものだけでなく、右使用開始の日の後の期間に対応するものも、所得税法三
八条一項にいう「資産の取得に要した金額」に当たると解するのが相当であると考
える。
 二 譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する
増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、
これを清算して課税する趣旨のものであるが、譲渡所得の金額の算定について、所
得税法の規定が、総収入金額から控除し得る費目を当該資産の客観的価額を構成す
べき取得代金の額のみに限定せず、その他の取得費用等をも控除し得ることとして
いるものと解されることからすると、資産の取得のために実質的に欠かせないもの
として投下された資本あるいはコストは、すべて、右にいう「資産の取得に要した
金額」に含まれるものと考えるのが相当である。
 そうすると、借入金の利子についても、当該不動産の取得のために右の借入れ及
び利子の支払が実質的に欠かせないものである場合には、それを、当該不動産の使
用開始の日以前の期間に対応するものだけでなく、右使用開始の日の後の期間に対
応するものも含めて、右の「資産の取得に要した金額」に当たるものと解すること
に支障はないものというべきである。借入金の利子は、当該不動産の取得のための
資金の借入れに対する対価としての性質を有するものであり、この性質は、当該不
動産の居住使用の開始の日の前後を通じて何ら変ずるものではないのである。多数
意見も、個人の居住の用に供する不動産の取得のための借入金の利子のうち、少な
くとも当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものは、右の「資産の取得
に要した金額」に当たるとするのであるから、その理論的根拠はともかく、結論と
して、右借入金の利子が右の「資産の取得に要した金額」に当たることを本質的に
否定しているとは解されない。
 三 なお、譲渡所得の金額の計算上、借入金の利子が「資産の取得に要した金額」
に当たるか否かに関しては、(1) 借入金の利子は「資産の取得に要した金額」に
含まれないとする見解、(2) 含まれるとする見解、(3) 取得資産の使用開始日
(又は使用可能日)までの分は含まれるが右の日の後の分は含まれないとする見解、
が存するが、法令上明確な定めがない以上、右のいずれの見解を採っても不明瞭な
いし疑問の点が残ることは避け難いところである。この点は、本来、立法により明
確にして解決すべき事柄であろう。
 四 以上の次第で、上告人の本件不動産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、
右支払利子の金額のうち本件不動産の使用開始の日以前の期間に対応する金額のみ
を控除したにとどまる被上告人の本件課税処分は、違法となるものというべきであ
る。しかるに、これを適法なものとした原判決及び第一審判決は、所得税法三八条
一項の規定の解釈を誤ったものであり、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすこ
とが明らかであるから、この点をいう論旨には理由があり、原判決を破棄し、第一
審判決を取り消した上、上告人の請求を認容すべきものである。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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