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平成14年(ワ)第23687号 不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日 平成14年12月16日
判         決
       原      告    X
       訴訟代理人弁護士    真 木 吉 夫 
      被      告    株式会社エヌ・ティ・ティ・テレカ
       訴訟代理人弁護士    本 間   崇
       補佐人弁理士      蟹 田 昌 之
主         文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
  被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成14年11月12日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,テレホンカードを製造販売する被告の行為
は,原告が有していた実用新案権の技術的範囲に属する製品を製造販売する行為で
あり,不当利得行為に当たるとして,不当利得金の返還を求めた事案である。
 1 争いのない事実
(1) 原告の有していた実用新案権
原告は,以下のとおりの実用新案権(以下,「本件実用新案権」といい,
その考案を「本件考案」という。)の持分3分の1を有していた。なお,本件考案
は,実願昭59-134611号(以下「本件原出願」といい,原出願に係る考案
を「原考案」という。)から,分割出願(以下「本件出願」という。)されたもの
である。
ア 考案の名称       テレホンカード
イ 出願日         昭和59年9月5日
ウ出願公告日    平成8年2月21日
エ 登録日      平成12年3月17日
オ 登録番号       第2150603号
カ 実用新案登録請求の範囲 本件考案に係る明細書(以下「本件明細書」
という。別紙「実用新案公報」参照)の「実用新案登録請求の範囲」の記載のとお
りである。
 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,
このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指
示部を設けてなり,該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にく
ぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカ
ード本体に配置されており,且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話
機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴と
するテレホンカード。
(2) 本件考案の構成要件
 本件考案を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおい
て,
B このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部
からなる指示部を設けてなり,
C 該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでい
ると共に
D カード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本
体に配置されており,
E 且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際,
目の不自由な者の指がふれる位置に配置されている
F ことを特徴とするテレホンカード。 
(3) 被告の行為
  被告は,業として,別紙被告物件目録記載のテレホンカード(以下「被告
物件」という。)を製造,販売している。
 2 争点及び当事者の主張
  (1) 被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足するか。
(原告の主張)
 被告物件における「半月状の切り込み」は,本件考案の構成要件Cにおけ
る「該指示部」に当たる。したがって,被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足
する。
 本件考案の本質的部分は,本件明細書の「考案が解決しようとする問題
点」及び「作用」「考案の効果」欄記載のとおり,目の不自由な者に対する配慮か
ら,テレホンカードに指示部を設け,目の不自由な者が手,指などで触れることに
より差し込む方向を知ることを可能とした点にある。
 被告物件における「半月状の切り込み」は,本件考案の上記本質的部分を
いずれも備えているから,本件考案の構成要件Cにおける「該指示部」に当たる。
指示部が「カードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向へのくぼみ」
形状であるか,「カードの平面からみて中心方向への切り込み」形状であるかは,
本質的部分に影響がないから,被告物件は本件考案の技術的範囲に含まれる。
 なお,被告は,本件考案の解釈に関し,本件原出願の出願経緯を主張する
が,本件考案(分割出願)は,本件原出願とは全く別個独立の新たな出願によるも
のであり,本件原出願に生じた手続上の効果をそのまま継承するものではないか
ら,本件原出願の出願経緯は,本件考案とは関係がない。
(被告の反論)
    被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足せず,本件考案の技術的範囲に
属さない。
   ア 本件考案における「指示部」の解釈
     本件考案の実用新案登録請求の範囲によれば,「指示部」とは,カード
本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための「押形部」からなる。この
「押形部」は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいることを
特徴としており,本件明細書の【実施例】中の説明「【0008】図面におい
て,・・・2はカード本体1の一部に設けられた差込み方向の指示部であり,この
指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,これを指示部2とした。こ
の指示部は,図1に示す如くカード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん
で形成されている。」(4欄1行~6行)及び図1から明らかなように,底面を有
する「厚さ方向にくぼんでいるくぼみ」を意味する。したがって,本件考案の「指
示部」には,切り込みは含まれない。
     また,本件出願前の本件原出願は,その出願当初明細書に,指示部とし
て「切欠部」,「穴部」,「押形部」の3つの構成が図面とともに記載されていた
が,その後,このうち「切欠部」及び「穴部」の構成については,図面を含めすべ
ての記載が本件原出願の出願人により削除され,出願公告に至り,その後,本件考
案の分割出願がされた。
     このような経緯からすれば,「切欠部」及び「穴部」の構成が,本件原
出願の公告後に分割出願した本件考案の「指示部」に含まれる余地はないし,その
旨の原告の主張は,包袋禁反言の法理からも許されないというべきである。
   イ 被告物件との対比
     被告物件には,「切り込み」があるが,「切り込み」は,本件原出願に
当初記載され,その後削除された「切欠部」に相当するものであり,「押形部」と
は相違する。
     したがって,被告物件の「切り込み」は,本件考案の「指示部」に当た
らない。
  (2) 不当利得の額はいくらか。
  (原告の主張)
    被告は,被告物件を,本件実用新案権の出願公告日である平成8年2月2
1日から存続期間満了日である平成11年9月5日までの約3年半の間,年間2億
枚以上の割合で製造,販売しており,その売上高は年間平均約1900億円を超え
る。
    本件実用新案権の実施料相当額は,売上高の5パーセントが相当である。
原告の本件実用新案権の持分は3分の1であるので,被告の上記期間における不当
利得額のうち,原告が請求し得る金額は約117億円となる。
    原告は,このうち,内金として金1億円の支払を求める。
  (被告の反論)
    争う。
第3 当裁判所の判断
 1 被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足するか。
  (1) 「該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでい
る」の意義
 本件考案の【実用新案登録請求の範囲】の構成要件Cに係る部分は,「該
指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共に」と
記載されている。
 本件考案は,本件原出願が公告された後に,本件原出願を親出願として,
分割出願されたものである。そこで,本件考案の「指示部」の意義を解釈するに際
し,本件原出願及び本件出願の経緯を検討する。
ア 本件原出願及び本件出願の経緯
  証拠(乙1ないし21)及び弁論の全趣旨によれば,本件原出願及び本
件出願の経緯について,以下の事実が認められる。
(ア) 本件原出願の経緯
 a 原考案は,昭和59年9月5日,実用新案登録出願された。
   原考案の出願当初明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄には,
「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカー
ド本体の一部に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するため
に切欠部,穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなる
テレホンカード。」と記載され,「考案の詳細な説明」欄の[実施例]において,
指示部の構成として,切欠部を形成する例(カードを平面方向からみて中心方向に
くぼんでいる形状)が第1図に,穴部を形成する例(カード本体を貫通している形
状)が第2図に,押形部を形成する例(テレホンカードを側面からみて上下面から
厚み方向に凹凸状にくぼんでいる形状)が第3図に,それぞれ示されていた。
 b 上記出願に対して,平成2年8月8日付けで,以下のとおりの拒絶
理由通知が発せられた。すなわち,「この出願の考案は,その出願前国内において
頒布された下記の刊行物に記載された考案に基いて,その出願前にその考案の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者が,きわめて容易に考案をすることが
できたものと認められるから,実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録
を受けることができない。」とされ,引用例として,「実願昭56-48368号
(実開昭57-161131号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影し
たマイクロフィルム」が示された。
   この引用例の「実用新案登録請求の範囲」欄には,「表面に磁気記
録欄を有するカードの特定された一部に切取線により区分されて切離可能とした切
除部を形成してなる磁気カード」と記載され,「考案の詳細な説明」欄には,「磁
気カード1は,矩形状をなし,・・・上記磁気カード1の特定された一部には切除
部3が切離可能に設けられている。」と記載され,実施例において,切除部をカー
ドの下端一隅に三角形状に設けた例が第1図及び第2図に,下端一隅に四角形状に
設けた例が第3図に,さらに磁気カードの下方部において一側方に片寄った位置に
円形状に形成した例が第4図に,それぞれ示されている。
 c 本件原出願の出願人は,平成2年11月13日,「意見書に代える
手続補正書」を提出し,その中で明細書を全文訂正し,図面中,第1図,第2図を
削除し,第3図とあるのを第1図と訂正した。その結果,訂正後の実用新案登録請
求の範囲の記載は,「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカー
ドにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込
む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカ
ード。」とされ,また,「考案の詳細な説明」欄において,第1図,第2図に関す
る記載が削除された。
 d 本件原出願は,平成3年4月2日付けで,拒絶査定を受けた。な
お,この拒絶査定謄本の備考欄で,「方向の指示のための表示を行う事は磁気カー
ドの分野では従来周知の技術である(特開昭55-43669号公報参照)」と指
摘された。
 e これに対して,本件原出願の出願人は,平成3年5月23日付け審
判請求書を提出し,拒絶査定の取消を求めた。本件原出願の出願人は,その理由と
して,「本願考案は,・・・特に,『カードの差し込む方向を指示するために押形
部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード』を必須の要件としてお
ります。これに対し,上述の拒絶理由通知書において引用された実開昭57-16
1131号および拒絶査定謄本において引用された上述の特開昭55-43669
号公報のいずれにも本願考案の上述の必須要件,とりわけ,押形部について開示し
ておりません。・・・又,本願考案の指示部は押形部から成っております。これは
上述の引用例の切除部や矢印と違って,目の悪い人でも差込方向を容易に感知でき
るという利点を有します。」と述べた。
 f 本件原出願については,平成5年6月24日,実用新案登録出願公
告がされた。
g なお,これに対しては,実用新案登録異議申立がされたが,本件原
出願の出願人は,平成6年5月24日付けで,手続補正書及び実用新案登録異議答
弁書を提出し,特許庁は,同年11月21日,上記異議申立てにつき,「本件登録
異議の申立ては,理由がないものとする。」との決定をした。
  また,特許庁は,同日,原考案につき,拒絶査定を取り消し,実用
新案登録をすべきものとする審決をした。
h 原考案は,上述のとおりの手続を経て,平成7年4月20日,実用
新案登録された。
(イ) 本件出願の経緯
 a 本件原出願を親出願として,平成6年5月24日,本件考案に係る
分割出願(本件出願)がされた(実願平6-5675号)。
       平成8年2月21日,本件考案に係る出願公告がされた(実公平8
-5827号)。その「実用新案登録請求の範囲」は,前記争いのない事実1(1)カ
記載のとおりである。
 b 上記出願公告後,実用新案登録異議申立がされ,平成9年12月2
5日,同申立について「異議理由あり」とする異議決定がされ,同日,本件出願に
対する拒絶査定がされた。次いで,この拒絶査定に対する不服の審判が請求され
(審判平10-2419号),平成11年10月14日付けで,本件出願に対する
拒絶理由通知がされた。同通知の中で,拒絶理由の1つとして,本件考案の実用新
案登録請求の範囲の「該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向に
くぼんでいる」が,いかなる構成を意味するのか不明瞭であり,実用新案法第5条
第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないことが指摘された。
 c 本件考案の出願人である原告他2名は,平成11年10月28日,
上記拒絶理由通知に対する手続補正書及び意見書を提出した。
       上記意見書には,「『カード本体の外周縁からカード本体の内方向
にくぼんでいる』の文言中の『内方向』の意は,図1に示すような平面図における
カード本体の内方向,つまり平面的なカードの中心方向を意味する場合と,テレホ
ンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合とが考
えられます。このため,上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合を明瞭
にするために手続補正書で図2及び図3を補充し,平面的なカードの中心方向を意
味する場合を明瞭にするために図4乃至図6を補充致しました。」との記載があ
る。
   また,手続補正書において,図面につき図3ないし図6を追加し,
指示部として「穴」(図3),「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図
4),「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で
成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加
し,考案の詳細な説明につき,段落【0007】の【問題点を解決するための手
段】欄,段落【0008】の【作用】欄,段落【0014】の【考案の効果】欄に
各記載の「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正をした。な
お,「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)の例
は,平成11年12月6日付手続補正書で削除された。
 d 上記各手続補正に対して,特許庁は,平成12年1月26日付け
で,補正の却下の決定をし,その理由として,本件考案における「押形部」は「材
料に押し型によって圧力を加えて成形した形状部」を意味し,「カード本体の外周
縁からカード本体の内方向にくぼんでいる指示部」の形状に穴形状及び切欠形状を
含むものとする補正は,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものであるから
許されない旨を指摘した。
 e 特許庁は,同日,拒絶査定に対する不服の審判事件について「原査
定を取り消す。本願の考案は,実用新案登録すべきものとする。」との審決をし
た。
   イ 「該指示部」の意義についての判断
(ア) 結論
 上記認定した本件原出願及び本件出願の経緯に照らすと,本件考案の
構成要件Cにおける「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」だ
「該指示部」の意義は,「テレホンカードを側面からみて上下面から厚み方向(表
裏方向)に凹凸状にくぼんだ形状を有する指示部」に限定され,「カードを平面方
向からみて中心方向にくぼんだ形状を形成した切欠部」や「カード本体に貫通して
形成した穴部」を含まないものと解する。
(イ) 理由
a 本件考案は,本件原出願に係る当初明細書及び図面が補正され,出
願公告がされた後に,本件原出願から分割出願されたものである。このように本件
原出願に係る当初明細書又は図面が分割出願前に補正され,出願公告されている場
合には,分割出願に係る考案は,本件原出願に係る当初明細書又は図面及び補正後
の公告明細書又は図面の双方に記載されている考案であることを要するものという
べきである。したがって,分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」を確定する
場合においても,原出願の過程を考慮して解釈すべきことは当然である。特に,原
出願に係る当初明細書及び図面から,出願人が,補正によって,意識的に,一部を
削除した場合には,分割出願に当たって,既に削除した事項に含まれる考案を拡張
することは許されないので,分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」の確定に
当たっても,右の趣旨に沿った解釈をすべきことになる。
b 原考案の当初明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄には,
「切欠部,穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載さ
れ,「考案の詳細な説明」欄には,実施例として,切欠部のある例が第1図に,穴
部のある例が第2図に,押形部のある例が第3図に,それぞれ示されていた。とこ
ろが,本件原出願の出願人は,引用例を指摘した拒絶理由通知を受け,拒絶理由を
回避するために,明細書の全文を訂正し,「実用新案請求の請求の範囲」欄から,
「切欠部」「穴部」の記載を削除して,「押形部」の記載のみを残し,「考案の詳
細な説明」欄から第1図,第2図及びそれらに関する一切の記載を削除し,第3図
に関する記載のみを残した。そして,本件原出願は,上記補正がされたことによ
り,上記実用新案登録請求の範囲の記載のとおり,実用新案登録出願公告がされ
た。
       上記出願経過によれば,「切欠部,穴部からなる表裏並びに差込方
向の指示部」は,原考案の出願公告前に補正により削除されたものであり,前記判
示のとおり,出願公告後の本件出願に当たって,一旦削除した事項を拡張すること
は許されない以上,本件考案に係る「実用新案登録請求の範囲」も,上記の趣旨に
沿って,上記削除した事項を除外して解釈すべきことになる。そうすると,本件考
案の構成要件Cにおける「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」
だ「該指示部」には,「切欠部」及び「穴部」を含む余地はない。
c なお,前記認定のとおり,原告を含む本件出願の出願人は,平成1
1年10月28日付けの手続補正書において,図面の図3~図6を追加して,指示
部として「穴」(図3),「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図4),
「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で成る複
数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加し,「押
形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正をしたところ,当該手続
補正は,平成12年1月26日付の補正の却下の決定により,「実質上実用新案登
録請求の範囲を拡張するものである。」として却下されているが,この却下決定の
趣旨も,前記解釈と合致するものといえる。
  (2) 被告物件との対比
    被告物件は,表裏ともに一様に平坦で,その一短辺には,その中央から一
側に偏った位置に,1つあるいは2つの半月状の「切り込み」を備えているテレホ
ンカードであるところ(争いがない),この「切り込み」は,カード本体から辺の
一部が切り離されたことにより,カードを平面的にみて中心方向にくぼみが形成さ
れる形状を有している(甲4,弁論の全趣旨)。
    他方,前記のとおり,本件考案の構成要件Cにおける「該指示部」は,
「テレホンカードを側面から見て上下面から厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくぼ
んだ形状を有する指示部」を指し,カードを平面的にみて中心方向にくぼみが形成
される被告物件の「切り込み」に相当する切欠部を設けるものを含まない。
    したがって,被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足しない。  
 2 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理
由がない。よって主文のとおり判決する。
        東京地方裁判所民事第29部
            裁判長裁判官   飯 村 敏 明
               裁判官   今 井 弘 晃
  
               裁判官   大 寄 麻 代
(別紙)
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