弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役13年に処する。
未決勾留日数中450日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,指定暴力団A会傘下の組員であったものであるが,同B組若頭Cを上記A会に敵対するものとして殺害す
べく,また,その際,同人の身辺を警護する組員らによる反撃が予想されることから,これらの者をもその場で射殺し
ようと企て,同A会傘下の組員のD,同E,同F,同G,同H及び同Iらと共謀の上
第1 平成9年8月28日午後3時30分ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号Jホテル4階所在の不特定若しくは多
数の者に供される場所であるティーラウンジ「K」店内において,F,G,H及びIの4名が,折から同店南西側テー
ブルで上記B組総本部長ら幹部2名と共に喫茶歓談中であった上記C(当時61歳)に対し,それぞれ所携の回転弾倉
式けん銃各1丁を使用して銃弾合計約9発を発射し,うち4発を同人の顔面及び胸部に命中させるとともに,その際,
同店内で同人の警護に当たる組員を認めたと感じた上記Hが,とっさにこれを射殺すべく,所携のけん銃をその方向に
向けて銃弾1発を発射し,上記テーブルに隣接するテーブルで知人と歓談中であったL(当時69歳)の頭部にこれを
命中させ,よって,上記銃撃により,同日午後4時32分ころ,同市f区g町h丁目i番所在のM病院において,上記
Cを心臓・肺臓射創により失血死させ,さらに,同年9月3日午前5時40分ころ,同市j区k町l丁目m番n号所在
のN病院において,上記Lを頭部射創による脳挫滅により死亡させ,もって,上記両名を殺害するとともに,法定の除
外事由なく,不特定若しくは多数の者に供される場所において,けん銃を発射した
第2 法定の除外事由がないのに,同年8月28日,上記ティーラウンジ「K」店内において,上記のとおり,回転弾
倉式けん銃4丁をこれらに適合し,かつ,けん銃に使用することができる実包10発と共に携帯して所持した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
省略
(事実認定の補足説明)
 1 弁護人は,被告人はDの指示に従って前記Cの行動を監視していたにすぎないなどして殺人の共謀の存在を争
い,被告人には実行犯のうちF及びIについての犯人隠避罪が成立するにとどまると主張し,被告人も,Dから上記C
を殺害すると聞いたことはなかったなどと弁解しているので,当裁判所がこれらを排斥して判示各事実を認めた理由に
ついて補足説明する。
 2 関係各証拠(なお,O及びI関係で刑訴法321条1項2号書面として採用した各検察官調書の相反供述部分に
は十分な信用性が認められる。)によれば,以下の前提的事実を認めることができる。
  (1) 平成8年7月,A会会長PがQ傘下の組員に襲撃されるという事件が起こり,本件の被害者であるR組組長C
が,抗争を回避するため上記Qとの間でいわゆる手打ちを行ったが,A会内部においては,Cのこの措置に対する不満
が高まり,さらに,CがP襲撃事件の黒幕であるなどとするうわさも流れるなどして,Cに対する敵がい心が強まって
いた。
  (2) A会最高幹部の一人であった同会若頭補佐Dは,平成9年7月ころ,Cを殺害しようと企て,東京においてそ
の動向をうかがったが,その所在を把握できずに終わった。次に,Dは,同年8月下旬,F,G,H及びI(以下,こ
の4人を単に「実行犯」ということがある。)らを大阪市内の潜伏先に呼び集め,けん銃を用意してCの殺害を指示し
た上,本件犯行の前日に大阪市内のホテルでCを襲撃しようとしたが,同ホテルにはPも来ることが分かったことか
ら,襲撃を中止した。その後,Dは,計画を変更して,Cが神戸市内のB組総本部(以下「総本部」という。)に行く
のを待ち伏せして襲撃することとし,実行犯にその旨を指示した。
  (3) 実行犯及びEは,本件犯行当日,Cを襲撃するため総本部近くの路上で同人を待ち構えていたが,Cが判示ホ
テルに移動したため,同所に向かった上,判示のとおり,C及び同所にいたL(以下「L医師」という。)を殺害し
た。
 3 さらに,関係各証拠によれば,被告人の本件への関与を推認させる事情として,以下の各事実を認めることがで
きる。
  (1) 被告人は,本件当時,A会直参若中兼同組S組長として活動していたものであるが,かねてDらからA会内部
におけるCに関するうわさを聞くなどしていたのに加え,Dから大阪におけるCの行動確認をするよう指示を受けたこ
とから,自己の配下であるTらやA会傘下の組員を使って,Cの自宅や事務所近辺で同人の自動車の通行の有無などを
監視させるなどしており,その際,Tらに対し,「Dが,Cをいわしてしまうと言っている。どう思う。」などと話し
て,DらがCの殺害計画を練っていることを打ち明けていた。
  (2) 被告人は,本件犯行前日にも,配下の者らと共に前記大阪市内のホテルに向かったほか,本件犯行当日,A会
傘下の組織から運転手として出してもらったOが運転する自動車に乗り,配下の者らと共に,U高速Vインター付近や
総本部付近でCの自動車の動静を監視していたところ,Cを乗せた自動車3台が総本部を出たのを認めたことから,そ
の旨をFらに電話で連絡した上,判示のホテルに向かった。被告人は,同ホテル付近で自動車を止めさせ,D及びEと
話をした後車内に戻り,同ホテルから出てくる者を待つようOに指示した。また,Fにおいても,他の実行犯に対し,
被告人の自動車が走行しているのを指して「仲間の車や。」などと発言したことがあった。
  (3) 本件犯行の直後,実行犯のうちF及びIが被告人の乗る自動車に乗り込んできた際,被告人は,両名に「ご苦
労さん。」などと声を掛けて同所から自動車を発車させたが,両名がラジオから本件犯行を報道するニュースが流れる
のを聞いて被害者を襲撃した際の手応え等に言及したのに対し,「この車に乗ったことは忘れろ。」などと言って,口
止めした。
 4 検討
   以上の事実関係を前提に,本件についての被告人の関与の有無程度を検討すると,①被告人のA会における地位
や首謀者Dとの関係が上記のとおりであったことに加え,②被告人は,本件以前からDを中心とするA会組員がけん銃
等を用いてCを殺害しようと計画していることを知りながら,Cの行動を監視するなどしていたこと,③犯行前日か
ら,DらのC襲撃の計画に沿うかのように,被告人自身も移動しながらCの動向を監視し,それを実行犯に連絡してい
たほか,Oに対しても,実行犯がホテルから出てくるのを待つよう指示するなどしていたこと,さらに,④本件犯行の
直後には,実行犯2名の素性などを確認することもなく直ちにねぎらいの言葉を掛けた上,両名を犯行現場から逃走さ
せるとともに,自己が逃走を援助したことについて口止めしていること,⑤犯行当日,被告人ら以外にCの動向を
監視していた者がいたとはうかがわれないことを総合考慮すると,被告人が本件犯行当時Dらとの間でけん銃を用いて
Cらを殺害する旨互いに意思を相通じていたものと推認することができる。
   そして,Cの動向を監視するとともに,本件犯行後には人目の多いホテル内の犯行現場から早急に実行犯を逃走
させることが,B組の最高幹部を射殺するという本件犯行計画の目的を達成する上で必要不可欠であったといえること
に照らすと,被告人の上記3の各行為は本件において不可欠かつ重要なものであったと評価することができるから,共
同正犯としての罪責を負うべきこともまた明らかである。
   これに対し,弁護人は,被告人はDから具体的な襲撃計画を事前に知らされておらず,犯行当日も同人の指示に
従っていただけであると主張するが,既に指摘したように,被告人が,本件以前からDらがCを襲撃しようとして
いることを知りながらこれに協力していたこと,また,犯行当日も,D及びEだけでなく,実行犯であるFにもCの動
向を連絡した上,犯行現場付近で待機していたことに照らすと,被告人は犯行当日に実行犯らがCを殺害しようとして
いることを十分認識していたと認められるから,所論は採用できない。また,被告人は,DからCを殺害すると聞いた
ことなどなく,犯行当日もPの護衛に行くものと思っていたなどと弁解するが,被告人からDがC殺害をねらっている
と聞かされたとする信用性十分なT供述に反するばかりか,本件犯行当日の行動を見ても,終始Cの行動を監視するば
かりで,Pの所在に関心を有していた様子が何ら見受けられないこと,Cの行動を監視する意図,目的について供述す
るところもあいまいであることなどの事情に照らし,到底信用することができない。
   したがって,弁護人の主張は採用できない。
(確定判決)
 被告人は,平成10年9月18日W地方裁判所で詐欺罪により懲役1年6月,3年間執行猶予に処せられ,その裁判
は同年10月3日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(乙29)によって認める。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為のうち各殺人の点は,いずれも行為時においては刑法60条,平成16年法律第156号に
よる改正前の刑法199条に,裁判時においては刑法60条,その改正後の刑法199条に該当するが,これは犯罪後
の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条によりいずれも軽い行為時法の刑によることと
し(その有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法
12条1項によることになるので,上記同様に刑法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。),けん銃の発射
の点は,包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)31条,3条の13(その有期懲
役刑の長期は,上記同様,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第2の所為は,包括して刑法
60条,銃刀法31条の3第2項(有期懲役刑の長期は,上記同様,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によ
る。),1項,平成14年法律第88号(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)附則26条により同法による改
正前の銃刀法3条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の各殺人とけん銃発射とはそれぞれ1個の行為が2個の罪
名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重い前記Cに
対する殺人の罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,以上の各罪と上記確定裁判があった罪とは同
法45条後段により併合罪の関係にあるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断
することとし,なお,判示各罪もまた同法45条前段により併合罪の関係にあるから,同法47条本文,10条によ
り,重い判示第1の罪の刑に法定の加重(行為時においては上記法律第156号による改正前の刑法14条の加重の制
限に従い,裁判時においてはその制限はされないが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるか
ら,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)をした刑期の範囲内で,被告人を懲役13年に処し,同法2
1条を適用して未決勾留日数中450日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書
を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,A会幹部であった被告人が,同会組員らと共謀の上,B組内部でA会と敵対する関係にあると考えたC組長
の殺害を企て,ホテル内の喫茶店でけん銃を発射して同人を殺害するとともに,同所にたまたま居合わせたL医師をも
殺害したという殺人及びその際の銃刀法違反の各犯行からなる事案である。
 被告人らは,C組長を殺害してB組内部におけるその影響力を排除しようとして本件を敢行したものであり,その暴
力団特有の論理の反社会性及び法秩序無視の態度は明らかであって,厳しく非難されなければならない。また,けん銃
数丁及び実行犯数名を用意し,C組長の動向を執ように監視した上,ついには一般人への巻き添えのおそれが十分に存
する公共の場において,けん銃4丁を発射してC組長及びL医師を殺害した本件は,必殺をねらった計画的かつ大胆な
組織的犯行である。また,生じた結果は誠に重大である。C組長及びL医師は,何の落ち度もないのに,突如被告人ら
の凶行により無念の死を遂げたものであって,その肉体的,精神的苦痛には筆舌に尽くし難いものがあったと思われ
る。両名の遺族は深い悲しみの中にあり,巻き添えにあったL医師の遺族の悲嘆には殊に大きいものがあるが,これら
遺族に対しては何らの慰謝の措置も講じられていない。加えて,本件犯行は,公共の場であるホテル内で白昼堂々とけ
ん銃を発砲したものであり,社会に与えた衝撃や不安感にも大きなものがあったと認められる。そして,被告人は,前
記のとおり,C組長の動向を執ように監視した上,最終的には実行犯の一部を犯行現場から逃走させたものであって,
本件犯行において不可欠かつ重要な役割を果たしたといえる。
 しかも,被告人にあっては,暴力行為等処罰に関する法律違反,賭博及び詐欺罪による前科3犯を有する上,長年暴
力団組員として活動してきたもので規範意識の希薄さと反社会的な性向とがうかがわれることをも併せ考慮すると,そ
の刑責は重大といわざるを得ない。
 しかしながら,他方では,本件犯行はDが発案主導したものであり,被告人の役割は従属的なものであったと認めら
れること,けん銃の入手等には関与していないこと,本件犯行は前記確定判決の余罪であることなど,被告人のために
酌むべき事情も認められるので,以上の諸事情を総合考慮して刑を量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成18年6月19日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官  的  場  純  男
   裁判官  西  野  吾  一
   裁判官  三重野  真  人

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