弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告Aに対し,金74万8196円及び内金33万7646円に対する平
成16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,金
82万7533円及び内金37万4886円に対する平成16年1月27日から支払
済みまで年5分の割合による金員を,原告Cに対し,金80万5052円及び内金3
6万3712円に対する平成16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による
金員を,原告Dに対し,金73万4418円及び内金33万1714円に対する平成
16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Eに対し,金7
3万5334円及び内金33万2135円に対する平成16年1月27日から支払済
みまで年5分の割合による金員を,原告Fに対し,金63万8308円及び内金28
万7290円に対する平成16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金
員を,原告Gに対し,金66万2474円及び内金29万8195円に対する平成1
6年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告Aに対し,金74万8812円及び内金33万8259円に対する平成
16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,金82
万8227円及び内金37万5563円に対する平成16年1月27日から支払済みま
で年5分の割合による金員を,原告Cに対し,金80万5714円及び内金36万43
71円に対する平成16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原
告Dに対し,金73万5022円及び内金33万2315円に対する平成16年1月2
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Eに対し,金73万5845円
及び内金33万2646円に対する平成16年1月27日から支払済みまで年5分の割
合による金員を,原告Fに対し,金63万8970円及び内金28万7952円に対す
る平成16年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Gに対し,
金66万3002円及び内金29万8723円に対する平成16年1月27日から支払
済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第2事案の概要
本件は,被告経営の知的障害者更生施設に支援員として雇用されている原告らが,
被告のなした特殊業務手当及び調整手当の廃止による賃金減額が合理的理由のない不
利益変更で無効であるとして,被告に対し,賃金の減額分を未払賃金として請求して
いる事案である。
1争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実
(1)ア被告は,平成3年6月に設立され,平成4年4月に開設された,肩書住所地
において,知的障害者更生施設α(以下「α」という)を運営する社会福祉。
法人である。平成15年12月当時の職員の構成は,施設長,副施設長,事務
長,事務員,支援次長,支援課長,支援係長,支援員,看護師,栄養士兼管理
人,嘱託の医師等からなり,嘱託の医師や業務委託社員を除く職員数は25名
であり(甲2,そのうち,施設長以下係長までの役職者を除く職員(臨時採)
用者を含む)は合計16名であった。。
また,平成15年12月当時のαの入所者50名,通所者11名,グループ
ホーム利用者4名であり,平成16年11月現在における,入所者は50名,
通所者は18名,在宅が1名であった(証人H。)
イ原告らは,いずれも被告に雇用され,αで支援員として勤務する者である。
また,原告らは,中小企業等の労働者で組織する全国一般労働組合福岡地方本
部筑後支部(以下「本件組合」という)に所属する組合員である。なお,被。
告に雇用されている職員のうち,組合員は原告らのみであり,被告には本件組
合のほかに労働組合はない。
(2)被告における給与体系は,就業規則により別途給与規程によるものとされて
いるが本件に至るまでのその変遷等に関する経過は以下のとおりである乙,,(
11,31,32,43,45。)
ア開設当初(平成4年)の給与体系
(),,,ア給与は国家公務員に準じるものとされ栄養士には医療職俸給表二が
(。「」,「」。)看護婦当時現在の呼称は看護師であり以下看護師と称する
には医療職俸給表三,調理員・介助員等には行政職俸給表二が,施設長,
事務長,その他の職員には行政職俸給表一が,それぞれ適用された。
(イ)特殊業務手当として,指導員(後の支援員)につき本俸の100分の1
2,看護師につき本俸の100分の8が,月単位に支給された。
(ウ)調整手当として,常勤職員に対し,本俸,特殊業務手当,扶養手当及び
管理職手当の合計額の100分の4が,月単位に支給された。
(エ)管理職手当として,施設長に対し,本俸の100分の10が,月単位に
支給された。
イ平成10年度の給与規程改定
(ア)特殊業務手当についてはそのままであったが,調整手当は,本俸,特殊
業務手当,扶養手当及び管理職手当の合計額の100分の2とされた。
(イ)管理職手当は,本俸の100分の15とされた。
ウ平成12年度の給与規程改定
(ア)指導員の俸給表がそれまでの「行政職俸給表一」から新設の「福祉俸給
表」に変更された。
(イ)特殊業務手当が,指導員及び看護師についていずれも本俸の100分の
8とされた。
(ウ)調整手当及び管理職手当については変更されなかった。
エ被告は,平成14年2月19日,平成14年度の給与規程改定を発表し,こ
れに対し,本件組合は,被告に対し,団体交渉を申し入れた。被告は,同年3
月7日,朝礼において,職員に対し,平成14年度の給与規程を4月分から一
部改定する旨発表し,変更分の書類を回覧するので押印するよう指示した。原
告らが押印しなかったところ,被告は,同月20日,朝礼で,さらに押印を求
,,。,,,,めたが原告らは押印を拒否したそして本件組合は同日被告に対し
再度団体交渉を申し入れたが,被告は,本件組合に対し,同月27日,団体交
。,。渉を拒否する旨回答した本件組合はその後も団体交渉を重ねて申し入れた
オ被告は,本件組合との団体交渉を実施することなく,次のとおり,給与規程
を改定し,平成14年4月1日から実施した。
(ア)昇給をこれまでの55歳までから50歳までとする。ただし,職務の特
殊性等により昇給させる必要があると認めた場合はこの限りでない。
(イ)管理職手当の範囲を拡大し,施設長に対して月額7万円,副施設長に対
して月額3万円の管理職手当を支給する。
(),,ウ役職手当を新設し事務長及び次長に対しそれぞれ月額1万5000円
課長に対し月額1万円,係長に対し月額7000円を支給する。
(エ)それまでの国家公務員に準じた俸給表使用を廃止し,本俸を年齢給及び
職能給とする。
(オ)特殊業務手当は,支援員及び看護師に対し,本俸(年齢給及び職能給)
の100分の8とする。
(カ)調整手当は,本俸(年齢給及び職能給)に管理職手当,役職手当,扶養
手当及び特殊業務手当を加算した合計額の100分の2とする。
(3)ア被告は,本件組合に対し,平成15年2月25日,別紙1のとおり給与規程
の一部改定を行いたい旨通知した。これに対し,本件組合は,同月28日,給
与規程改定について団体交渉を申し入れたが,被告は「大幅な賃金改正とは,
考えていない。昨年の賃金改定並びに今回の給与規定改定は,本件組合員に対
して行ったものではなく,職員全体に対して行ったものなので団体交渉の必要
性はない。本件組合との協議は行わない」旨回答し,これに応じなかった。。
本件組合は,被告に対し,同年3月12日,団体交渉拒否への抗議及び団体
交渉の開催を申し入れたが,被告は,その後も,これに応じなかった。
,,(「」イ被告は平成15年4月給与規程を別紙1のとおり改定以下本件改定
という。乙15)して,実施した。
(4)本件組合の所属する全国一般労働組合福岡地方本部は,福岡県地方労働委員会
に対し,平成15年4月11日,不当労働行為救済の申立てをした。その後,数
回の調査を経て,同年7月29日,上記地方本部と被告との間で,①本件組合員
の労働条件の変更については,交渉事項を明確にし,誠実に交渉し,労使合意の
上実施すること,②本件改定について団体交渉を行うこと,③被告は,平成14
年度の給与規程改定について,その経緯も含め,団体交渉において誠実に説明す
ること等を内容とする和解協定が成立した(甲15。)
(5)その後,被告は,団体交渉を受け入れ,本件組合は,平成15年7月31日,
被告と団体交渉を行ったが,その後も進展なく,同年11月10日の4度目の団
体交渉で,本件改定等を巡る団体交渉は打ち切られた。
2争点
(1)本件改定が有効か否か。
(2)無効な場合の未払賃金の額
3当事者の主張
(1)争点(1(本件改定が有効か否か)について)
(被告の主張)
ア被告は,社会福祉法人に対する国の政策変更によって,自由競争にさらされて
おり,経営・財政難及び今後の経営の見通しからすると,本件改定はやむを得な
い合理的なもので適法である。
,,,すなわち平成14年度まで社会福祉法人については措置費制度が採用され
入所希望者は,入所に当たり,福祉事務所を通して入所申請手続を行い,利用者
負担金も福祉事務所に支払われることとなっており,各施設について一定の入所
者の確保が図られていた。そして,収入の98パーセントは措置費で占められて
いたが,措置費は,事務費収入(人件費及び管理費)と事業費収入に分かれ,そ
れぞれについて一人当たりの単価も決まっていて,事務費支出(人件費及び管理
費)は事業費収入から支出することは認められていなかったし,措置費には民間
施設給与改善費という名目で,常勤施設職員の勤務年数に応じ,加算率が加わっ
ていた。このような措置費制度の下では,社会福祉法人は,入所者の募集から収
入まで全て,国・自治体に依存しており,経営も安定していた。ところが,平成
15年度から支援費制度が導入され,利用者が希望する社会福祉法人と直接契約
,。,,し利用者負担金を直接社会福祉法人に支払うことになったそのため今後は
入所者等の利用者が施設のサービスに不満を抱けば,いつでも退所できるし,退
所後も次の入所者が常に補充されるようなことはあり得ず,待機者がいなければ
定員割れを起こす可能性もある。また,利用者負担金の徴収にも困難が生じるよ
うになっており,入金時期が遅くなったことから,その点の資金面での手当ての
必要も生じている。支援費の単価自体も減額傾向にある。
被告ら社会福祉法人は,このような支援費制度の下では,自ら採算を考えて経
営をしなければならず,また,競争原理も導入され,競争が激化する様相を見せ
ている。
被告としては,かかる制度の変更に対応すべく,企業努力を重ね,本来の入所
処遇だけでなく,通所,グループホーム,在宅福祉(デイサービス)等,多方面
の事業に乗り出す必要があるし,職員においても,入所者及びその保護者にとっ
て魅力ある施設にするよう努力する必要がある。
被告は,このような観点から,通所施設等の建設を新たに行うことにし,その
ために7791万円もの費用を必要とする。
イ本件改定に先立って従来の俸給表を廃止し,職能給及び年齢給にしたことは,
大幅な不利益変更となるものではなく,労働者の貢献度に応じた適正な変更であ
るし,このようにすることで,利用者に対するサービスの向上,職員の資質の向
上につながり,将来の安定的経営を可能にすることができるもので,極めて合理
的な変更である。
ウ本件改定は,平成15年8月8日付けの人事院勧告の趣旨にも沿ったものであ
る。すなわち,同勧告においては,調整手当の廃止を含めた見直しが勧告され,
特殊勤務手当についても廃止が勧告されており,措置費時代のこれらの手当を廃
止し,給与として統一した形態にするように勧告されているものと考えられる。
被告においても,事務職員と支援員(現実に看護を担当する職員)との区別を
して,支援員にだけ手当を支給する合理的意味はなくなっている。
エ被告代表者は,平成15年3月20日,本件改定に意見を述べる労働者の代表
を決めるように伝え,その後,労働者間で,看護師1名を代表者として選任し,
,。同人が労働者代表として書面に署名押印して同意する旨を表明したものである
したがって,本件改定は,正規の手続を経て決定されたもので手続上も問題はな
い。
(原告の主張)
ア原告らは,本件改定により,平均で月額2万4400円余り,平成15年4月
から翌年3月までの年収で約40万円余り,率にして10パーセント余りにもな
。,る大幅な減収となった原告らはいずれも給与収入のみで生活する労働者であり
家計への痛手は深刻かつ甚大である。
イこれに対し,被告は,本件改定に先立ち,たびたび給与規程を改定し続けてお
り,いずれも原告ら労働者にとって収入減となる改悪であったのに,重ねて行わ
れた本件改定は,無計画かつ不合理としかいい得ない。
ウ措置費制度から支援費制度の移行によって被告の収入が大きく減少したとか経
営が悪化したなどの事情はなく,かえって,平成14年度には,退職者の補充を
外部委託や臨時職員でまかなうことで人件費が減少し,通所部の定員枠拡大やシ
ョートステイの取扱い増加等によって,全体として増収となっている。
また,被告は,本件改定後,大規模な改築工事を行い,パン工場及び通所作業
棟を建設するなどし,平成17年1月から常勤管理職である人事労務部長を採用
するなどしており,財政難,経営難の状態にあるとは考えられない。上記建築資
金の借入は,単なる運転資金ではなく,積極的な設備投資に向けられたもので,
これをもって財政状態が悪化したなどとはいえない。
さらに,被告が理由とする人事院勧告は,特殊勤務手当について,手当毎の実
態等を精査して特殊性が薄れているものなどについて廃止を含めた見直しを行う
ことを提示しているところ,被告は,原告ら支援員の業務について実態を精査し
ていないし,実際,支援員の業務は,障害者福祉制度の多様化,専門化及び入所
利用者の高齢化による障害の重度化に伴い,特殊性が顕著になっている。
エしかも,被告は,これまで改定を強行しておきながら,本件組合からの再三の
団体交渉申入れを拒否し続け,地方労働委員会での協定によって誠実に交渉した
上での実施が約束されたにもかかわらず,重ねて誠実に協議に応じる姿勢を示す
ことなく,従前の主張を繰り返し,かつ十分な資料などの開示もしないままに,
本件改定の実施を強行した。
オこのように,本件改定による特殊業務手当及び調整手当の廃止は,支援員の大
半を占める原告ら7名の本件組合員を狙い打ちにするに等しい不利益扱いであ
り,不当労働行為とも評しうるものである。
,,,,したがって本件改定は内容の不合理性減収による原告らの被害の甚大さ
改定手続の不透明,強行性からすると,賃金規程改定の合理性及び相当性を欠く
違法なもので,無効である。
(2)争点(2(未払賃金の額)について)
(原告の主張)
別紙2賃金カット計算書(1)及び賃金カット計算書(2)のとおり
(被告の主張)
別紙3賃金カット計算書のとおり
第3当裁判所の判断
1争点(1(本件改定が有効か否か)について)
(1)賃金,退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関し実質的な不利益
を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を
労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基
づいた合理的な内容のものである場合において,同意していない労働者に対して
。,,,もその効力を生ずるものと解されるそしてこの合理性の有無は具体的には
就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の
内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他
の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業
員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判
断すべきものである。以下,この観点から,本件改定の有効性如何を検討するこ
ととする。
()(),,,,2前記第2の12のとおり本件改定前被告においては特殊業務手当が
本俸(年齢給及び職能給)の8パーセント,調整手当が,本俸(年齢給及び職能
給)に管理職手当,役職手当,扶養手当及び特殊業務手当を加算した合計額の2
パーセントとされていたところ,原告らに関する特殊業務手当及び調整手当の廃
,,,止に伴う減収は後記2説示のとおりそれぞれの本俸の10パーセント余りの
平成15年4月から12月までで合計約28万円ないし約37万円,平成16年
1月から12月までで合計約35万円ないし約45万円にもなり,原告らにとっ
て不利益は大きいものである。
(3)ア証拠(乙2ないし4,10,33ないし35,43,証人H)によれば,以
下の各事実が認められる。
(ア)αを含む知的障害者更生施設については,平成15年3月までは知的障
害者福祉法(なお,平成10年9月改正による平成11年4月施行前は精
神薄弱者福祉法)に基づく措置費制度が採用されていた。
措置費制度における,これら施設への入所及びその手続は,保護者が福
祉事務所に対して措置申請を行い,福祉事務所は,本人や家庭の調査をし
て,知的障害者更生相談所(平成11年4月より以前は精神薄弱者更生相
談所)に医学的,心理学的,職能的判定を依頼し,その判定をもとに,施
設への入所依頼を行い,施設長からの受諾通知を受け,措置決定がなされ
るというものであり,本人や保護者等の利用者は,入所する施設について
選択権がなかった。
そして,これら施設における入所者の福祉を図るための運営費,すなわ
ち入所者処遇費,職員処遇費及び施設自体の維持管理費は,措置費と呼ば
れ,同法による福祉の措置として施設への入所を実施した措置権者が施設
へ委託費として支払うこととされ,保護者及び本人が負担すべき費用につ
いては,都道府県知事又は市町村長が徴収権者とされ,本人又はその扶養
義務者から負担能力に応じて徴収することとされていた。
これら措置費のうち事務費は,施設を運営するために必要な人件費,管
理費及び民間施設に対する民間施設給与等改善費の3つからなっており,
職員の給与は,基本的には国家公務員に準じて支給されるように算入され
ていた。
(イ)ところが,平成15年4月施行の改正知的障害者福祉法に基づき,従前
の措置費制度が廃止され,いわゆる支援費制度が導入された。
,,,,この支援費制度は知的障害者更生施設同授産施設同デイサービス
同短期入所及び同地域生活援助(いわゆるグループホーム)等に適用があ
り,18歳以上の知的障害者は,知的障害者更生施設に入所するに当たっ
て,まず,市町村に,施設訓練等支援費の申請をし,市町村から支援費の
支給の決定を得た上で(知的障害者福祉法第15条の12,知的障害者)
更生施設に対して入所の申込みを行い,当該施設から施設支援を受けたと
きには,当該施設支援に要した費用について,当該知的障害者又は当該施
設に対し,市町村から支援費が支給されることとされている(同法15条
の11。また,市町村の定める利用者負担額については,当該知的障害)
者又は扶養義務者が,直接当該施設に支払うこととされている。
(ウ)このように,支援費制度の下では,利用者である知的障害者又はその扶
養義務者は,知的障害者更生施設に関して,自由に選択できるようになっ
たことから,施設ないしこれを運営する社会福祉法人等においては,一定
の競争にさらされうる事態となったし,利用者から直接支払われるべき負
担額について,支払遅延ないし回収不能の危険を負うことともなった。
イ証拠(乙27の1ないし7,29の1ないし3,30,36,37,38の
1ないし4,39,40,証人H)によれば,被告は,支援費制度の導入に応
じた対策として,多角的な福祉サービスを行うため,αの施設の拡張工事を計
画し,通所作業棟,パン工場,レストラン,グループホーム棟等を建設するこ
ととしたこと,そして,平成15年8月から平成16年1月にかけて,建設業
者に対し,改造工事及び追加工事費用として合計3916万円余りを支払い,
平成15年12月には,銀行から長期運転資金として1000万円を借り入れ
たこと,また,被告は,平成16年5月,設計事務所に対し,通所作業棟,パ
ン工場,レストラン,グループホーム棟等の建設工事について,報酬100万
円で設計・工事監理業務を委託し,平成17年2月,建設業者との間で,通所
作業所及びパン工房の新築工事について代金7770万円(工事価格7400
万円,消費税370万円)で請負契約を締結したこと,他に,被告は,社会福
祉・医療事業団から,平成3年11月,平成23年11月を償還期限として借
り受けた7000万円についても,平成15年以降,年間に約360万ないし
約500万円の返済を要することが認められる。
ウこのように,知的障害者更生施設等に対する措置費制度から支援費制度への
移行に伴い,競争原理の下で,被告の経営環境が厳しくなるであろうことや,
被告がかかる環境の変化に対して積極的に設備投資を行うなどして事業運営上
の対応をしていることが窺われるが,被告の具体的な財務状態は証拠上明らか
ではないし,被告の経営状態や財務状態が悪化しているとか,悪化の傾向にあ
るとかいった事情も証拠上窺えない。ちなみに,被告においては,平成13年
度に5911万円余りの平成14年度に6372万円余りの繰越金がある甲,(
20。)
(4)また,被告は,本件改定による特殊業務手当及び調整手当の廃止により人件費
を削減したことになるが,他方で,前記第2の1(2)オのとおり,平成14年
4月に,副施設長に対する管理職手当並びに事務長,次長,課長及び係長に対す
る役職手当を創設し,平成16年4月には主任職(3人)を設けてこれに対して
も役職手当を支給することとした(乙43,証人H。そして,管理職手当及び)
役職手当の合計として,平成14年及び平成15年には,月額合計14万700
0円,年額合計176万4000円の支出を,平成16年には月額合計16万2
000円,年額合計194万4000円の支出をしたこととなる。これら手当は
期末・勤勉手当の額の算定に当たっても考慮されること(乙15,45)から,
管理職手当及び役職手当に関する被告の支出額は更に多いものとなる。しかし,
これら管理職手当の拡大及び役職手当の導入の必要性については,その趣旨が必
ずしも明確ではない。
(5)被告は,特殊業務手当についてこれを支給する合理的根拠がなくなった旨主張
するが,特殊業務手当が導入された当時の経緯は必ずしも明らかでないものの,
同手当が,前示のとおり,入所者たる知的障害者の処遇に直接携わる者に対して
のみ支給されていることからすると,同手当は,知的障害者の処遇に直接かかわ
,。,る業務の特殊性困難性等に着目して支給されていたものと推察されるそして
,,,これら知的障害者の直接処遇業務について近年特に仕事が容易になったとか
その特殊性が失われたとかいった事情は,証拠上窺えない。むしろ,証拠(原告
A本人)によれば,入所者の高齢化等によって,転倒等の事故の危険性も高まる
など,入所者の処遇業務がより困難となっている側面があることが認められる。
この点に関し,Hの陳述書(乙43)では,マイカーの普及による自動車通勤の
容易化及び施設の設備が完備されていることや,平成12年4月から,支援員に
対して行政職俸給表ではなく福祉職俸給表を適用することでその専門性に即した
給与が支給されていること等が述べられているが,このような事情を考慮しても
なお,特殊業務手当を直ちに全廃するだけの事情は見い出せない。
また,被告は,特殊業務手当及び調整手当の廃止は,平成15年8月の人事院
勧告に従ったものである旨主張するが,証拠(乙28)によれば,同勧告は見直
しとはいっても,特殊業務手当については,廃止を含めて,必要性の再検討を行
うべきというにすぎないし,調整手当については,異動保障の再構築として問題
となったものである。それに,現行の支援費制度の下で,社会福祉法人である被
告が,国家公務員に関する人事院勧告に依拠する必要はなく,したがって,上記
人事院勧告は被告における特殊業務手当及び調整手当廃止の根拠と直ちになるも
のではない。
(6)そして,被告において,本件改定に際して代償措置その他関連する他の労働条
。,()件の改善がとられたことを認めるに足りる証拠はないまた前記第2の12
エ(3)ア及び(4)のとおり,本件改定等に当たり,被告において,原告ら,
に対するその説明や,本件組合との団体交渉も必ずしも誠実に行われていない。
(7)以上のとおり,本件改定による,賃金を生活の資とする原告らの経済的不利益
は大きいところ,知的障害者更生施設等に対する措置費制度から支援費制度への
移行に伴い,競争原理の下で,被告の経営環境が厳しくなるであろうことや,被
告がかかる環境の変化に対して積極的に設備投資を行うことで事業運営上の対応
をしようとしていること等には頷ける面もあるが,被告の財務状態が悪化を辿っ
ているとは認め難いし,特殊業務手当及び調整手当自体を一度に全て廃止すべき
ような相応の事情は窺えない。それに,被告は,財務状態の悪化を理由に本件改
定によって平成15年度から特殊業務手当及び調整手当を廃止する一方で,平成
14年度に管理職手当の対象者を拡大するとともに役職手当を創設し,平成16
年度には,役職手当の対象者を拡大しているのであって,かかる一見矛盾した変
更について合理的な説明はされていない。さらには,本件改定に当たって従業員
に対し何らかの代償措置等の配慮・手当がされた形跡もない上,被告において,
とりわけ本件改定やその前年の平成14年度の給与規程改定に際して,原告らの
所属する本件組合との団体交渉を誠実に実行しないなど,その対応にも不適切な
面がある。
,,これら諸事情から鑑みると被告の原告らを除く職員が同意しているとしても
本件改定のうち,賃金の減収を招き,原告らに実質的不利益を生じさせる,特殊
業務手当及び調整手当の廃止については,原告ら労働者に法的に受忍させること
を許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとはいう
ことができない。
もっとも,証拠(乙9の1及び2)によれば,被告の近隣の同種施設において
特殊業務手当や調整手当を廃止している社会福祉法人が2か所存在することが認
められるが,各施設には各々の個別事情があることに照らすと,この事実をもっ
て,上記判断を左右することはできない。
したがって,本件改定のうち,特殊業務手当及び調整手当を廃止する部分につ
いては,これに個別に同意していない原告らに対して効力を及ぼすことはないと
いうべきである。
2争点(2(未払賃金の額)について)
そうであれば,原告らは,被告に対して,特殊業務手当及び調整手当につき,なお
賃金請求権を有するところ,証拠(乙44)及び弁論の全趣旨によれば,別紙3賃金
カット計算書のとおり,原告らの平成15年4月から12月までの未払賃金額は,原
告Aにつき33万7646円,同Bにつき37万4886円,同Cにつき36万37
12円,同Dにつき33万1714円,同Eにつき33万2135円,同Fにつき2
8万7290円,同Gにつき29万8195円であること,また,平成16年1月か
ら同年12月までの未払賃金額は,原告Aにつき41万0550円,同Bにつき45
万2647円,同Cにつき44万1340円,同Dにつき40万2704円,同Eに
つき40万3199円,同Fにつき35万1018円,同Gにつき36万4279円
であることが認められる。
3結論
よって,原告らの本件請求は,主文第1項記載の限度でそれぞれ理由があるから認
容し,その余の請求は失当であるからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決
する。
福岡地方裁判所久留米支部
裁判長裁判官小山邦和
裁判官佐々木信俊
裁判官増尾崇

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