弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     本件を広島地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人伊藤仁、同鈴木惣三郎の上告趣意第一点は、憲法三一条違反をいうけれど
も、その実質は単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由に当らないし、
同第二点は、憲法三七条二項違反をいうけれども、同条項が裁判所は被告人側の申
請にかかる証人のすべてを悉く尋問しなければならないという趣旨を含むものでな
いことは、当裁判所屡次の判例(昭和二二年(れ)第二三〇号、同二三年七月二九
日大法廷判決、刑集二巻九号一〇四五頁等)の趣旨とするところであるから、違憲
の主張としての論旨は理由がなく、同第三、第四点は、単なる訴訟法違反、事実誤
認の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 弁護人霜山精一の上告趣意は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、適
法な上告理由に当らない。
 弁護人磯崎良誉の上告趣意第一、第二点は、単なる訴訟法違反の主張であり、同
第三点は、判例違反をいうが、原判決は単に控訴趣意書を引用しているのみで、所
論引用の判例と相反する法律判断をとくに示しているものとは認められないから、
判例違反の主張としての前提を欠き、同第四点は、量刑不当の主張であつて、以上
すべて適法な上告理由に当らない。
 弁護人伊達秋雄の上告趣意は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、適
法な上告理由に当らない(なお、同弁護人の昭和三九年六月二六日附上告趣意補充
書は、本件上告趣意書差出最終日以後の提出にかかるものであるから、判断を加え
ない。)。
 しかしながら、職権をもつて調査するに、原判決の是認する第一審判決が認定、
判示した被告人の犯罪事実のうち、第一の(二)は、被告人は昭和三三年九月四日
午前一〇時頃広島県佐伯郡a町大字bc番地のdのa町役場においてAに対し、か
ねて同人が同役場に寄託していた金四〇万円を返還し、即時同所において同人から、
当時a農業委員会農地部委員であつた被告人の職務に関し、右Aが関与していた農
地法五条の許可申請案件の審議決定につき便宜の取扱を受けたことの謝礼とする趣
旨のもとに供与されるものであることを知りながら、右金四〇万円中の金一〇万円
の供与を受けて賄賂を収受したというものであり、原判決は、右事実にかかる事実
誤認ないし理由不備を理由とする控訴趣意を以下の趣旨により排斥しているもので
ある。すなわち、右贈賄事実にかかるAの捜査段階並びに第一、第二審における各
供述にはかなり重要な点につき変転の跡が認められるけれども、右各供述中、昭和
三四年三月七日の司法警察員に対するもの以降は、犯罪の日時、場所等の点につい
ても特定、固定しているし、本件金四〇万円を新聞包みのままで被告人に寄託し、
新聞包みのままで返還を受けたとする右A供述は、被告人から右金四〇万円の再寄
託を受けた前記農業委員会職員B並びにa町役場収入役Cの各供述中、右金員を裸
金ないし紙包みのまま中封筒に入れて保管しそのままの状態で被告人を介しAに返
還したとする部分と抵触しているけれども、右B、Cの各供述は、いずれも確実な
ものでないから、措信し難く、従つて、「被告人から新聞紙に包んである四〇万円
の返還を受け、その新聞紙に一〇万円を包んで被告人に提供した」とするAの供述
を排斥し去ることはできないとし、さらに、右A供述を補強するものとして、Aか
ら被告人に対する贈賄事実等に関し聞知したという、Aの従兄Dの検察官に対する
昭和三四年三月一七日附供述調書(謄本)を援用するほか、なお、所論はAの金銭
出納の状況等から本件の無罪を主張するが、右所論に基づき記録並びに証拠を検討
してみても、右認定を左右しうる程の反証を発見し得ないとしているのである。
 そこで、右説示、ひいて第一審判決の本件公訴犯罪事実に対する有罪認定の当否
につき検討するに、同判決挙示の各証拠中、被告人、A間の本件金一〇万円授受の
事実自体の認定に資すべきものとしては、原判決も説示するとおり、Aの捜査官に
対する各供述、法廷証言のほかには、前示Dの検察官に対する昭和三四年三月一七
日附供述調書(謄本)が存するのみである。しかし、右Dの供述内容は、原判決が
詳細に引用しているところを含めて、要旨、次のとおりのものである。すなわち、
「昭和三四年二月二六日頃の朝一〇時頃Aが突然私方に訪ねてきたが、そのときの
同人の顔色は真青で落着かね態度であつたので、これは何か心配事があつて相談に
来たのだなと直感した、Aは実はわしが買つた田を人に売つてそれを宅地に切換え
るため農業委員会に許可願を出したが、仲々許可して貰えなかつたので委員会のE
会長に金を出して許可して貰つたが、そのことを誰かが警察に話したらしく警察に
呼ばれて調べられ、今日も警察に来るようにと言われているんだが、どうしたもの
だろうかと話したので、Eさんに何ぼう金を渡したのかと尋ねると、Aは三万円渡
したと申すので、更にそれだけかと申すと、同人ははつきりしたことは申さなかつ
たが、その態度からみて三万円のほかにもまだ金をやつているなという感じを受け
た、私はあつたことは全部正直に話した方がよいといつてやつた、その晩又私方に
やつてきたときも、『Eさんにお礼をしたことを警察に話すことによつて、後でE
さんより非道い目に遭わされるようなことはあるまいか』と相談したので、『あつ
たことは正直に話せば、警察も裁判所もそれを酌んで寛大な処分をしてくれるだろ
うから、正直に言つた方がよい』と勧めたところ、同人は幾分安心したような様子
で帰つて行つた、その後、AからEさんに三万円(前後の記載部分との関係からみ
て、一三万円の誤記と認められないことはない。)渡していると聞いて随分多額の
金をやつていることを知つて驚いたような次第であるが、私としてはAが嘘を云う
ような男ではないから、同人が私に話したEさんに合計一三万円の金をやつている
ということについては真実であると思つている」というものである。従つて、本件
金一〇万円の授受の事実に関する前示A供述をどの程度補強しうるものか、甚だ疑
問であるのみならず、原審第四回、昭和三六年一〇月二三日の公判期日におけるD
の証言中、この点に関する部分も甚だあいまいであつて、前示捜査段階における供
述の信用性を減殺こそすれ、増強するものとは到底認められない。してみれば、本
件事実の成否は、結局、前示A供述の信用性如何のみにかかつているものといわざ
るを得ないこととなるのである。ところで、原判決は、上記のとおり、本件金四〇
万円の保管並びに受渡しの状況に関するA供述とB等の供述の喰違いの点につき、
右Bの供述が種々変転していて措信し難いとし、これにさしたる意義を認めていな
いのであるが、原判決の指摘する同人の各供述内容の変遷自体をみてみても、同人
が本件金四〇万円を被告人から受け取つたとき、すでに中封筒に入つていたか、そ
れとも新聞紙包みのままであつたかの点はとにかく、同人が右現金の保管をC収入
役にさらに依頼する際には、右現金が(紙包みのうえでか、裸金のままであつたか
は別として)中封筒に入れられた状態にあつたことについては、同人の昭和三四年
三月三日の司法警察員に対する供述以来一貫しているところである(なお、関係者
の供述が、本件金四〇万円が一〇万円毎に帯封がされ、かつ、検査印の押されたも
のであつたとする点において一致していることからみて、保管者側においてとくに
枚数を数える手続をとらなかつたとの供述、さらには、誰が中封筒に入れたかはと
にかく、封筒入りのままAに返還したとの被告人最終陳述は措信するに足るもので
ある。)。のみならず、Aが本件日時、場所における贈賄の事実を最初に自白した
のが昭和三四年三月一日の司法警察員の取調に対してであつたことにかんがみると、
原判決が本件金四〇万円の保管並びに受渡し状況に関する供述内容を引用している
Bの右昭和三四年三月三日及び同月一四日の司法警察員に対する各供述調書の信用
性は、他の証拠と比較して相当高いものと認めるのが相当であるというべきである
(なお、この点に関しては、本件被告人は、昭和三四年三月一日逮捕され、同月三
日勾留状の執行を受け、同年四月二七日保釈釈放されるまで、勾留を継続せられて
いた事実をも斟酌すべきものと思料される。)。そこで、これらの点からすれば、
本件金四〇万円を被告人から新聞包みのまま返還を受け、そのうち金一〇万円を新
聞紙に包んで被告人に提供したとする前示A供述の信用性にはかなり疑いを容れる
余地があるものとしなければならないのである。さらに、第一審第一一回、昭和三
五年五月一九日の公判期日において取り調べられたAの昭和三四年三月七日附司法
警察員に対する供述調書には、Aが被告人から返還を受けた本件金四〇万円の使途
につき、「その一〇万円を即時被告人に贈り、その残金の三〇万円のうち一五万円
を農業協同組合に預金し、残りは差し当り必要があつたので手許に残して置き、(
昭和三三年)九月五日に頼母子講に二万円、同月一〇日に同じく一万円、同月五日
に大工のFに四万円、同月六日に同じく五千円、以上合計七万五千円を支出し、残
り七万五千円は家屋建築の雑費、住宅費等に支出した」旨の供述記載があり、この
点に関する、Aのその余の供述調書ないし第一、二審の各証言中、とくにこれと牴
触する部分は見受けられないのであるが、他方、原審第五回、昭和三六年一二月一
五日の公判期日において取り調べられたD提出にかかる同人の昭和三三年度家計簿
(原審昭和三六年押第三八号の一八)の記載中には、Dが昭和三三年八月二四日A
に対し六万円を貸与し、同年九月四日同人からその返済を受けたとの記載があり、
この点に関する、A(原審第三回、昭和三六年八月一八日の公判期日におけるもの)、
D(原審第四回、昭和三六年一〇月二三日の公判期日におけるもの)の各証言等に
徴しても、右記載の真実性を疑う余地があるものとは認められない。してみれば、
本件金四〇万円の使途に関する前示A供述、とくにそのうち一〇万円を被告人に贈
賄したとする部分の信用性についても、相当疑わしいものがあり、慎重な審理、判
断を経べきものであつたといわなければならない。しかるに、原審は、第五回、昭
和三六年一二月一五日の公判期日において弁護人側からAの当時における金銭収支
状況を明らかにするためとしてなされた新たな証拠(主として、Aの保管する領収
書綴等と認められる。)調請求を却下したのみならず、前示引用のとおり、この点
に関する控訴趣旨を、特段の理由を掲げることなく、排斥し去つているのである。
 以上説示のとおり、原判決、ひいてその是認する第一審判決には、証拠評価の誤
り、あるいは、理由不備ないし審理不尽の違法を冒し、その結果、重大な事実(原
判決の是認する第一審判決が、被告人の本件一〇万円収賄の犯罪事実を、全認定犯
罪事実中最も犯情の重いものと認め、刑法四五条前段、四七条、一〇条により、右
事実に対する刑に法定加重した刑期範囲内で被告人を処断しているものであること
は、その判文上明白である。)の誤認を来たしたものと疑うに足りる顕著な事由が
存するものと認めるので、原判決及びその是認する第一審判決を確定させることは
著しく正義に反するものというべきである。
 よつて、刑訴法四一一条一号三号、四一三条に則り原判決及び第一審判決を破棄
し、本件を第一審裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 米田之雄公判出席
  昭和四〇年九月一三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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