弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 公職選挙法二〇五条一項にいう選挙の規定に違反するとは、主として選挙の管理
の任にあたる機関の選挙の管理執行手続に関する規定違背を指すものであつて、選
挙人、候補者等の選挙の取締りないし罰則規定違反の行為のごときは、これにあた
るものではない。それは、かかる違法行為については、法はその違反者を処罰する
ことによつてその規定事項の遵守を期待しているのであつて、その違法行為のため
に選挙を無効とし再選挙を行なうことを趣旨とするものではないと解されるからで
ある。もつとも、かような違法行為でも、そのために選挙地域内の選挙人全般がそ
の自由な判断による投票を妨げられたような特段の事態を生じた場合には、選挙の
自由公正は失われたものとして、あるいは選挙を無効としなければならないことも
考えられないではない(最高裁判所昭和三〇年(オ)第四四五号、同三〇年八月九
日第三小法廷判決、民集九巻九号一一八一頁参照)。
 本件についてみるに、公職選挙法一七二条の二および大阪市選挙公報条例に基き
発行された選挙公報に掲載された候補者Dの経歴に虚偽の部分が存したとしても、
それが同候補者の提出した掲載文そのままを掲載したものである以上、選挙の管理
執行手続に関する規定に違反するところのないことは、原判示のとおりであり、そ
のような選挙公報の配布によつて、選挙区内の選挙人全般の自由な判断による投票
が阻害されたとは到底考えられない。されば、右公報掲載の候補者経歴の虚偽が軽
微であるか否か、ことにその虚偽事項の公表が右候補者の故意、悪意に基くか否か
を判断するまでもなく、それが選挙の無効原因に値しないことは明らかといわなけ
ればならない。論旨は、前記D候補が選挙罰則に触れること、あるいは同人の原審
における証言が偽証罪にあたるものとして、原判決を非難するが、前者が選挙を無
効ならしめないことは、前叙のとおりであり、後者も民訴法四二〇条所定の要件を
具えないかぎり、上告理由となるものではない。
 諭旨は、選挙公報に掲載された前記D候補の所属職員組合の支部の通称につき、
原判決の認定を不合理と論じ、また虚偽の経歴の右公報掲載を同候補の悪意による
ものでないとした原判決の認定を、証拠に基かないものというが、それら認定が、
原判決挙示の各証拠および弁論の全趣旨によるものであることにかんがみれば、こ
れに所論の違法があるものとは認めがたい。のみならず、それら認定のいかんが本
件選挙の効力の判断に影響するものでないことは、前叙したところから明らかであ
る。
 論旨は、このほか原審におけるD候補の証人調書および第四回口頭弁論調書に記
載を脱漏した違法があるものと る。仮に調書記載外に所論のような事実が存した
としても、論旨が証人調書について脱漏と指摘する点は、前記証人の証言の趣旨に
なんら影響する事項ではなく、また第四回口頭弁論期日における上告人の前記証人
の証言に虚偽ある旨の陳述は、単なる意見の表示であつて右期日の調書に記載を要
すべき事項にあたらない。右期日における甲第一〇号証の提出は、右期日の調書並
びに書証目録に明らかに記載が存し、これを脱漏というは、上告人の誤解にすぎな
い。
 論旨はいずれも採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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